別紙1
論 文 審 査 の 要 旨
報告番号 ○甲 ・乙 第 2893 号 氏 名 武川 佳世
論文審査担当者
主査 教授 宮﨑 隆 副査 教授 山本 松男
副査 教授 弘中 祥司
(論文審査の要旨)
学位申請論文「Predicting patient-reported outcomes of dental implant treatments」
について,上記の主査,副査 2 名が個別に審査を行った.
イ ン プ ラ ン ト の 治 療 効 果 に 影 響 を 及 ぼ す 因 子 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し て イ ン プ ラ ン ト治療前後の口腔関連 QoL(OHRQoL)および健康関連 QoL(HRQoL)を調査した.その結果,イ ンプラント治療により口腔関連 QoL のみでなく健康関連 QoL を改善されることが示された.さ らにこれらの改善度が術前の状態から予測できる可能性が示唆された.
本論文の審査にあたり,副査の山本委員および弘中委員 から多くの質問があり,その一部と それらに対する回答を以下に示す.
山本 委員の質問 とそれに対 する回答:
1.OHIP や SF-36 を用いることで,より治療効果や満足度を評価しやすい領域は何か.
OHIP は保存領域よりも補綴治療や,矯 正治療,外科治療などを行う際の患者立脚型評価と して多くに用いられており,報告も多い.これは審美,機能等の回復に対して QoL 評価がしや すいためと考えられる.SF-36 は,健康について共通の特定の疾患に特化したものではなく,
あらゆる人に共通した概念のもとに構成されており,慢性疾患のある患者や,身体的に健康な 患者の QoL を測定することが可能である.さらに,疾病の異なる患者間や年齢間,男女間での 比較も可能であり,また国民標準値が公表されているため,その値に基づいた比較も可能であ る.
2. OHIP や SF-36 は患者立脚型評価,つまり患者の主観的な評価に基づいたものだが,他の 測定可能な客観的方法との関連を調査している研究はあるのか.
過去の研究では,OHIP-DEDENT との関連述べた研究が発表されている.これは全部床義歯の 患者に対して OHIP-DEDENT,咀嚼能力そして OHIP を調査した結果,OHIP の改善度と咀嚼能力 は 関 連 が な い こ と を 示 し て い る ( Komagamine et al. 2012). ま た , 部 分 床 義 歯 か ら IA-RPD へと移行した症例について調査した結果,口腔関連 QoL は改善するが咀嚼能力や健康関連 QoL に 関 し て は 変 化 が 少 な く , 口 腔 関 連 QoL と 咀 嚼 能 力 は 関 連 性 が 小 さ い と 報 告 さ れ て い る
(Jensen et al. 2016).
弘中 委員の質問 とそれに対 する回答 :
1. 1か月後のフォローで比較しているが,長期的に経過観察するとどのような結果が期待さ れるか.
長期的フォローにより,OHIP の数値が変化する可能性はあるものの,その変化量は過去の 論文から考察すると,小さいと考えられる.下顎のインプラント治療における長期的な経過観 察を行った Yunus らは治療前(T0),治療終了後 2-3 か月後(T1),1 年後(T2)に口腔関連 QoL を調査した結果,T0-T1 では QoL の改善度が大きく有意差を認めたが,T1-T2 においてはわず かな改善傾向はあるが有意差は認められなかったと報告している(Yunus et al. 2016).この ことから QoL の変化は補綴装置装着後,比較的 短期間で大きいことが示唆されており,本研究 における1ヶ月後の調査は探索的なものであるが妥当であったと考える.しかし,治療前の特 徴と治療効果との関連性を調査するためには,短期間による探索的研究だけではなく,長い追 跡 期 間 で 研 究 を 実 施 す べ き と 考 え ら れ る た め , 今 後 も 調 査 を 継 続 し 長 期 的 な 変 化 を 検 討 し た い.
2.長期的展望でデータを解析することは素晴らしいと思う.一方で, インプラントに対して は,国民の認識だけではなく技術も変化していると思うが,8年間データの前半と後半で何か 変化が見られるか.
術前後のスコアだけを見ると固定性補綴装置を装着した患者の場合,前半と後半では大きな 差はない.しかし,前半の患者では,術前に義歯を装着している患者が多く,また術者も前半 と後半で異なっているためそこでのバイアスは存在する可能性が考えられる.また,可撤性補 綴装置を装着した患者に関して,前半では即時加重を行っていない症例が多く,後半では即時 加重を行っている症例が多い.この結果,研究期間前半の患者では,術後の改善度が後半より も少し小さい傾向があるものの,可撤性補綴装置を装着した被験者数が 19 人しかいないため,
今後は症例数を増やしさらなる検討を行いたい.
両副査は,上記を含めた質問に対する回答が,いずれも満足のいくものであることを確認した.
主査 宮﨑委員 の質問とそ れに対する 回答:
1. 今回の研究結果を臨床でどのように活用していくのか.
患者の意思決定や治療計画の立案の際に参照することで,術前の状態から患者にとって最適 な治療方法を提案することが出来る.すなわち患者個人に対してオーダーメイドの治療を提供 することを可能とする重要な情報を得ることができる.
主査の宮﨑委員は,両副査の質問に対する回答の妥当性を確認するとともに,本論文の主張 をさらに確認するために上記の質問をしたところ,明確かつ適切な回答が得られた.
以上の審査結果から,本論文を博士(歯学)の学位授与に値するものと判断した.