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bekommen 受動をめぐる諸問題 大薗正彦 1996 東京外国語大学大学院ドイツ語学文学研究会編 DER KEIM Nr. 20 P

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bekommen 受動をめぐる諸問題

大薗正彦 1996

東京外国語大学大学院ドイツ語学文学研究会編『DER KEIM』Nr. 20 P61-76

(2)

bekommen 受動をめぐる諸問題

大薗正彦 1. はじめに

本稿の目的は,現代ドイツ語のいわゆるbekommen 受動 (bekommen-Passiv) の問題 に 関 す る 考 察 を 述 べ る こ と で あ る1)bekommen 受 動 は , 一 般 に , 「 助 動 詞

bekommen/kriegen/erhalten+本動詞の過去分詞」という構造に基づき,能動文におけ る3格目的語を主語にする受動表現であるとされる (例えば Eisenberg 1994: 144 を 参照)。

(1) Er bekommt/kriegt/erhält das Buch geschenkt.

本 稿 で取 り上 げ る問 題は , とり わけ bekommen 受動の認定をめぐる問題,及び bekommen 受動の成立条件をめぐる問題の二つである。また,個々の考察を通して,同 時にbekommen 受動の意味機能も明らかにしていきたい。 2. bekommen 受動の認定をめぐって 2.1. 「bekommen+過去分詞」という形式について 「bekommen/kriegen/erhalten+過去分詞」という形式は bekommen 受動だけのもの ではない。Reis (1985) によれば,次の文は bekommen 受動の読みを含めて三通りの読 みが可能である。

(2) Wir bekommen/kriegen/erhalten die Gläser gewaschen. a) 私たちはグラスを洗ってある状態で受け取る。 b) 私たちはグラスを (首尾よく) 洗ってある状態にする。 c) 私たちはグラスを洗ってもらう。(=bekommen 受動) b)の読みは一般に口語的であるとされ,bekommen と kriegen においてのみ可能である。 c) の読みが他の二つの読みと決定的に違う点は,主語と,過去分詞の表す動作の間の意 味関係である。c) の主語は,a),b) の場合と異なり,当該の過去分詞が能動文で本動詞 として用いられた場合の3格目的語に対応している。なお,当該の構造に常にこれら三 通りの読みが可能なわけではない。a )~ c) タイプの構文間の形態的・統語的ふるまい の相違についてはReis (1985) に詳しい。また Wegener (1985b) は,werden 受動と対 比させる形で,上の c) のタイプが「受動態」であることを根拠付けている。

(3)

2.2. 能動文との対応について

次に,bekommen 受動の主語は必ず能動文の3格に対応するものであるのかという点 について見ておきたい。Reis (1976) には,4格あるいは前置詞格目的語を取る動詞 schimpfen による bekommen 受動の例が挙げられている。

(3) Hans bekam/kriegte geschimpft. (Reis 1976: 71) (Vgl.*Sie hat ihm geschimpft.)

しかしながら,4格目的語に対応する主語を持つbekommen 受動の例は,筆者の調べた 限りでは他に見出すことができなかった。次の例が示すように,bekommen 受動では上 例を除き4格目的語を主語にすることはできない。

(4) *Sie bekommt von ihm zu einer Tasse Tee eingeladen. (← jn. zu einer Tasse Tee einladen)

(5) Ich habe einen Schnupfen angehängt/*angesteckt bekommen.

(← jm. eine Krankheit anhängen/jn. mit einer Krankheit anstecken) Reis (1976) にはさらにもう一つ,前置詞格目的語を取る動詞 herantragen による bekommen 受動の例が挙げられている。

(6) Ich bekomme/kriege manchmal Bitten an mich herangetragen, die sind einfach unverschämt. (Reis 1976: 71)

(Vgl.*Man trägt mir Bitten heran.(mir は3格目的語))

これについてWegener (1985a: 224) は,この事例は「前置詞句 ‘an mich’ が『痕跡』 (Spur) として残された場合にのみ,前置詞句の主語化が可能であることを示しているが, 実際には適用範囲は極めて限られている」と述べている。次の例はWegener による。 (7)a) Otto richtet eine Bitte an Anna.

b) ?Anna bekommt (von Otto) eine Bitte an sie gerichtet. c) *Anna bekommt (von Otto) eine Bitte gerichtet.

つまり,4格や前置詞句を取る動詞によるbekommen 受動は極めて稀であると言ってよ い。そこで以下の考察では,能動文において3格が実現され得る動詞をその対象とする ことにする。以下に見ていく通り,目的語としての3格ばかりでなく,いわゆる「所有 の3格」や「利害の3格」からもbekommen 受動の形成が可能である。「関心の3格」 からのbekommen 受動は不可能とされている2)。なお,非人称のbekommen 受動はな い (Eisenberg 1994: 144)。

(4)

2.3. 使用域について

bekommen 受動の使用域に関して,Duden 文法 (1995: 178) は,bekommen 受動は 「主に (日常的な) 話し言葉において用いられるが,次第に書き言葉にも広がってきて いる」として「動作受動のバリエーション」と見なしている。一方,Eisenberg (1994: 144) には,「言語批判によって未だに,文体的に有標であるとか,話し言葉に限られている というような扱いを受けようとも,この受動態が体系的に定着していることは疑いない」 という記述が見られ,bekommen 受動の位置づけに関して見解が一致していないことが 窺える3)。筆者の行ったインフォーマント調査でも,容認度においてインフォーマント間 に大きな揺れが見られる場合があった。なお,一般に bekommen,erhalten よりも kriegen が用いられた場合の方が容認度が高い。ただし本稿では,文体的に最も中立的 であるという理由から,以下bekommen を中心に取り扱う4) 3. bekommen 受動の成立条件をめぐって 3.1. 先行研究の概観 3.1.1. 統語的制約について bekommen 受動の形成を制約する要因は,まず統語的環境に求めることができる。そ の一つは,再帰3格からはbekommen 受動を形成できないというものである (Leirbukt 1987: 100)。

(8) Du hast dir dann die Mütze aufgesetzt. ≠ Du hast dann die Mütze aufgesetzt bekommen. (Leirbukt 1987: 100)

次に,自動詞構文における「利害の3格」からはbekommen 受動が形成できないという 指摘がある (Wegener 1985a: 99, 212f.; Leirbukt 1987: 112)5)。次の例は Wegener

(1985a: 99) による。

(9)a) Mir ist das Glas zerbrochen.

b) *Ich bekam von dem Glas zerbrochen. (10)a) Er hat mir das Glas zerbrochen.

b) Ich bekam von ihm das Glas zerbrochen.

すぐに気づく通り,この指摘は能動文における1格をvon 前置詞句にするという変形を 前提としている。(9a) の1格が少なくとも「動作主」でないことは明らかであるが,(10b) のようにこの文成分が4格でコード化された場合には,容認される文となる。もっとも Wegener (1985a: 99) によれば,(9a) では3格指示対象の「責任性」が含意され得ると いう点で,(10a) との間に意味的な相違が存在するということである。

(5)

他に,bekommen 受動成立の条件として4格目的語の存在を指摘するものがある (Duden 1995: 178 など)。しかし実際には,4格目的語を伴わない自動詞構文からも bekommen 受動の形成が可能な場合があり (3.2.1. を参照),すでに Leirbukt (1987: 101f.) によって批判されている。 3.1.2. 意味的制約について bekommen 受動の成立には,さらに意味的な要因を考慮する必要がある。bekommen 受動の意味的制約について比較的詳細に論じているものとして,Wegener (1985a: 203ff.) がある。ここでは Wegener の指摘した四つの要因を,そこに挙げられている例 文とともに順に見ていくことにする。

1) 深層主語の動作主性 (Agentivität des Tiefensubjekts)

Wegener によれば,次例が非文となるのは,能動文における主語に「動作主性」が存在 しないためである。

(11) *Er bekam geähnelt/begegnet.

(12) *Er bekam von mir meine Karriere verdankt.

これはしかしながら,次のように「原因格」を主語とするような文からbekommen 受動 の形成が可能であるという点を包括し得ていない。

(13) während wir [...] von der Sonne [...] Energie zugestrahlt bekommen [...] (Leirbukt 1987: 104)

2) 結果性 (Resultativität)

「結果性」の低い動詞からはbekommen 受動を形成することができないというものであ る。

(14) *Er bekam nachgeeifert.

(15) *Ich bekam mein Glück gegönnt/mißgönnt.

ただしWegener (1985a) は,この「結果性」という概念を,動詞の表す出来事によって 目的語の指示対象が被る影響度といった意味合いで用いている (Hentschel/Weydt 1995:175f. も参照)。bekommen 受動は必ずしも状態変化などの「結果」を含意する動 詞でなくとも形成可能である。

(6)

ところで,この「結果性」という意味論的基準はそもそも「行為」や「過程」を前提と するものであるため,上例 (11)-(13) のような例も,結局のところこの「結果性」とい う基準で包括的に取り扱うことが可能である。この点に加え,bekommen 受動が再帰3 格を含む表現から形成できないことも考慮して,本稿では以下,上の二つの基準を「他 動的影響度」という基準のうちにまとめて取り扱うことにしたい。 ここで問題となるのは,同じ本動詞が用いられた次のような例である。 (17)a) Er bekommt von seinem Vater die Unterstützung entzogen.

b)??Er bekommt von ihr ihre Hand entzogen. 3) 有生性 (Belebtheit)

能動文における3格が「有生」という意味特徴を持つものでなければbekommen 受動を 形成できないというものである。

(18) *Diese Prüfung bekam mich schon mit 6 Jahren unterzogen. (19) *Die Kälte bekam das Tier ausgesetzt.

ただしWegener 自身も次のような例外を認めている。 (20) Das Haus bekommt einen Balkon angebaut. (21) Das Auto bekommt einen neuen Motor eingebaut. 4) 完了性 (Perfektivität)

これはbekommen 受動の意味機能に関わるものでもある。Wegener によると,ある商 品をまだ受け取っていないという苦情に対して,すでに発送済みであることを伝える場 合,次のa),b) 文を用いることはできるが,bekommen 受動の c) 文は不適当だという ことである。

(22)a) Wir haben Ihnen die Ware gestern geschickt. b) Die Ware wurde Ihnen gestern geschickt.

c) *Sie haben die Ware gestern geschickt bekommen.

つまり,Wegener のいう「完了性」とは,「受容」に関する問題である。Wegener (1985a: 209) は,bekommen 受動の方が「受容性が高い」(‘rezipienter’) という表現を用いてい る。ただし,次のように「離脱」を表す動詞によるbekommen 受動が可能であるため, この特徴がbekommen 受動一般に言えるものではないことが分かる。

(23) Er bekommt den Verband abgemacht. 3.2. 成立条件の明確化

(7)

3.1.では bekommen 受動の制約をめぐる先行研究の論点とその問題点を概観した。以下 では,bekommen 受動の意味的な拡がりを捉えることにより,そこで問題となった三つ の基準--すなわち,(1)「受容」という基準,(2)「他動的影響度」という基準,(3)「有 生性」という基準--をより包括的な視点から明確化することを試みたい。議論を明瞭 にするため,次の 3.2.1. から 3.2.3. までは,「人」を主語とする bekommen 受動に考 察の対象を限定する。特に断らない限り,以下事例として挙げるbekommen 受動文には, それらの容認度にかかわらず,いずれも容認される能動文が対応している6) 3.2.1. bekommen 受動の意味的拡がり 本節では,インフォーマントテストで容認された事例を基に,bekommen 受動のタイ プを見ていく。まず,典型的なbekommen 受動のタイプとして,本動詞が広義の「授与 動詞」であるものが認められる (タイプ1)。次の例では,受容される物 (受容物) の抽 象度が変化するとともに,「受容」の抽象度も変化していくのが見て取れよう。

(24) Er bekommt vom Zahnarzt einen Stiftzahn eingesetzt.

(25) Das Kind bekommt von der Mutter frische Wäsche angezogen. (26) Ich bekomme etwas Geld geliehen.

(27) Er bekommt von seinem Freund die Rechte eingeräumt. (28) Die Kinder bekommen Ordnungsliebe beigebracht.

上例のように,主語による対象物の「受容」が明確な場合は,問題なくbekommen 受動 が可能である7)。次の対立を参照。

(29)a) Sie bekommt von ihm die Ware (an)geliefert. b) *Sie bekommt von ihm die Ware abgeliefert.

次のように受容物が「伝達内容」となると,「所有権の変化」は認められなくなる。「伝 達動詞」によるbekommen 受動である (タイプ2)。

(30) Die Kinder bekommen von der Mutter ein Märchen erzählt. (31) Ich bekam von ihr erklärt, warum sie nicht kommen könnte.

上例の主語は,それでもなお「伝達内容」の「受容者」であることに注意しておきたい。 次の対立を参照。

(32)a) Er bekommt von ihr die Wahrheit gesagt. b) ?Er bekommt von ihr die Wahrheit verschwiegen.

(8)

上のタイプ1,2では,いずれも「主語のもとに対象物が至る」という状況が表されて いる8)。この状況は次のように図式化することができよう (左の円は bekommen 受動の 主語でコード化される項を示す)。 (図1)○ <物> 対象物の到達点が,方向を表す語句 (方向規定) によって具体的に表示されることがあ る。

(33) Ich bekomme die Sache (an meinen Urlaubsort) nachgesandt. (34) Ich bekomme von ihm ihren Namen (ins Ohr) geflüstert.

広義の「授与」,「伝達」を表す本動詞が用いられたこれらの例では,いずれも方向規 定が削除可能である。ところが,単なる「他動的移動」が表されるだけの本動詞が用い られた場合,方向規定が義務的となる (タイプ3)。

(35) Sie bekommt von ihm den Mantel um die Schültern gelegt. (36) Sie bekommt von ihm Farbe auf den Rock geschmiert.

すぐに気づく通り,これらの例では,移動物の到達点がいずれも主語にとって非常に密 接な領域に属している。このことがこのタイプのbekommen 受動の形成に重要であると いうことを,明確な対立の認められる次の例で確認しておこう (ただし b-文は能動文も 不可)。

(37)a) Er bekommt ein Messer in die Brust gestochen.

b) *Er bekommt ein Messer in die Brust seines Freundes gestochen.

方向規定の表すものは,主語の「身体部位」,「衣服」,「所有物」など,人にとって 重要な関わりを持つものである。重要な関わりとは,言い換えれば,人と対象物の間の 物理的あるいは心理的な密接さのことである。その密接さの度合いのことを,本稿では 「密接性」と呼ぶことにしたい9)。また,そのような密接性を持った具体的・抽象的対象 物を含む物理的・心理的領域のことを「密接領域」と呼ぶことにすると,このタイプで 表されている状況は,「主語の密接領域に対象物が至る」ということになる。これは図 式的には次のように表すことができ,このタイプが基本的にタイプ1,2のバリエーシ ョンであることが見て取れる (点線による円は密接領域を示す)。 (図2) ○ <物>

(9)

bekommen 受動にはさらに,本動詞が他動的「行為・出来事」を表すものがある (タイ プ4)。「行為・出来事」の対象は4格目的語である場合が多いが,前置詞格目的語の場 合もある。

(38) Er bekommt den Arm gebrochen. (39) Er bekommt den Verband abgemacht. (40) Er bekommt auf den Kopf geschlagen.

ここでは,具体的には何も主語の方向へ移動していないが,「行為・出来事」の対象で ある4格・前置詞格目的語が,主語の密接領域に属している。次の対立を参照 (ただし b-文は能動文も不可)。

(41)a) Er bekommt den Arm gebrochen.

b) *Er bekommt den Arm seiner Tochter gebrochen.

すなわち,このタイプによって表されている状況は,「主語の密接領域に行為・出来事 が及ぶ」というものであり,図式的には,ここでもこれまでのタイプとの関連性が保た れているのが分かる。 (図3) ○ <行為・出来事> bekommen 受動のバリエーションとして,目的語を持たないものがある (タイプ5)10) これには,(42) (43) のように特定の目的語が想定可能なものと,(44) のように目的語の 想定が困難なものがある。

(42) Ich habe von ihm immer wieder eingegossen bekommen. (43) Wir haben vom Hausherrn geöffnet bekommen.

(44) Er bekam widersprochen/beigepflichtet/gratuliert/applaudiert. (Wegener 1985b: 134) 目的語が想定可能な場合は,これまでのタイプとの関連性が容易に見て取れる。問題は (44) のようなタイプであるが,このタイプでは,主語が,本動詞に特定可能な動作内容 の受容者であるということが Leirbukt (1987: 113ff.) によって指摘されている。 Leirbukt によれば,上例 (44) において主語によって受容される内容は,それぞれ Widerspruch, Zustimmung, Gratulation, Applaus である。これはおそらく,図1の示 す図式に依拠する形で,bekommen 受動の用法が拡張されたものであろう。

(10)

3.2.2. 他動的影響度 前節では,bekommen 受動が可能な事例を基に,この受動態のバリエーションを見て きた。以下では,容認されない事例も含めて,bekommen 受動の成立条件について考え ていく。まず言えることは,他動的影響度の認められない動詞からは一様にbekommen 受動の形成が不可能であるということである。具体的には次のような動詞である。 状態的な意味内容を持つ他動詞及び自動詞。次の例はWegener (1985a: 208) による。

(45) *Ich bekam mein Glück gegönnt/mißgönnt. (46) *Er bekam vertraut/mißtraut.

能動文において3格が起点あるいは到達点となるような,「移動」を表す自動詞。これ らの動詞は,能動文における主語の「方向的移動」を表しているに過ぎず,やはり他動 的影響度は認められない。次の例はLeirbukt (1987: 113) による。

(47) *Sie hat bis vor das Tor nachgegangen gekriegt. (48) *Herr Maier hat ausgewichen bekommen. 3.2.3. 密接性

本節では,本動詞に他動的影響度が認められるにもかかわらずbekommen 受動が容認さ れない場合を,密接性という基準を用いて考えてみたい。問題となるのは,主語によっ て表される項と,タイプ3の方向規定及びタイプ4の4格・前置詞格目的語によってそ れぞれ表される項 (次の例の下線部) の間の関係である。

(49) Er bekommt den Mantel um die Schultern gelegt. (タイプ3) (50) Er bekommt den Arm gebrochen. (タイプ4)

つまり,上の図2,3における密接領域の幅について考えてみるということである。こ こでは,当該の二項間の関係に基づいて,密接性という概念に差し当たって次のような 段階を設定することにする。 (51) 密接性の段階 a) 部分全体関係 b) 所有関係 c) 物理的近接関係 まず,人と非常に密接な関係にあるものとして,身体部位,身につけている衣服など, 広い意味で人と部分全体関係にあるものが挙げられる。次の段階として,所有関係にあ るものが挙げられるであろう。ドイツ語ではさらに,偶然居合わせている乗り物や通路 などとの関連で3格が実現され得るので,このような物理的近接関係を密接性という軸

(11)

のもう一方の極に位置づけることにする。所有関係は,現時点では中間的な段階を代表 させる便宜的なものであると考えておく。 それではまず,上のa) ~c) の典型的事例について bekommen 受動の容認性を見てい きたい。重要となる論点を先取りすると,bekommen 受動の成立には,能動文における 3格の実現とは異なり,密接性にかかわらず高い影響度が必要とされるということ,及 び3格の実現よりも高い密接性が必要とされるということの二点である。 a) 部分全体関係 予想される通り,この段階では,高い影響度が認められるならば一様にbekommen 受動 が可能である。 <タイプ3>

(52) Sie bekommt von ihm den Mantel um die Schultern gelegt. (53) Sie bekommt von ihm Farbe auf den Rock geschmiert. <タイプ4>

(54) Das Kind bekommt von der Mutter die Hände gewaschen. (55) Er bekommt vom Arzt den Verband abgemacht.

(56) Sie bekommt von ihm den Rock mit Farbe beschmiert.

なお,行為の影響度が低い場合,その行為の対象は一般に前置詞句でコード化されるが, bekommen 受動は不可能であることが多い。

(57) *Sie bekommt von ihm in die Augen gesehen. (58)??Sie bekommt von ihm übers Haar gestreichelt. (59)??Sie bekommt von ihm auf die Schulter geklopft.

(60) Sie bekommt von ihm ordentlich auf den Fuß getreten.

行為の影響度が高まるにつれて,容認度が高くなっているのが分かる。(60) は ordentlich のような副詞があった方がより自然な表現になるという。

b) 所有関係 <タイプ3>

(61) Er bekommt Farbe aufs Fahrrad geschmiert.

(62) Wir bekommen vom Gärtner Blumen in den Garten gepflanzt. <タイプ4>

(12)

(65)a) Er bekommt von ihr jeden Wunsch von den Augen abgelesen.

b)??Er bekommt von ihr seine schmutzigen Gedanken von der Stirn abgelesen. タイプ4では,このb) の段階から容認度が落ちてくることが見て取れる。ここで,容 認度において境界辺りに位置する事例では,被害的な意味内容を持つものより,利益的 な意味内容を持つものの方が容認度が高いということに注意しておきたい (例文 (65))。 c) 物理的近接関係

<タイプ3>

(66) Er bekommt die Bestechungsgelder auf den Tisch gelegt.

(67)a) Die Mutter bekommt von den Kindern warmes Wasser in die Badewanne hineingegossen.

b) ?Die Mutter bekommt von den Kindern verschmutztes Wasser in die Badewanne hineingegossen. bekommen 受動は可能であるが,被害的な意味内容を持つ (67b) ではやや容認度が落ち ている。ところで,これらの例では,主語の表す人が移動物の到達点の近辺にいると解 釈されるのがふつうであるが,一定のコンテクストが与えられるならば,その人の所在 にかかわらず,当該の到達点は,例えば「申し合わせておいた例の机」,「母親がお湯 を入れたいと思っている例の浴槽」であることも可能である。ただしその場合でも,「彼」 と「机」,「母親」と「浴槽」の間になお密接性が保たれていることに注意しておきた い。 <タイプ4>

(68) ?Der Briefträger bekommt von ihm das Päckchen an der Haustür abgenommen.

(69) ?Er bekommt von ihr die Tür eingebrochen. (70)??Er bekommt von ihr ihre Hand entzogen.

bekommen 受動の容認度は一様に低い。本動詞の影響度が低い場合は,これまでと同様, 容認されない文となる。

(71) *Ich habe ins Zelt geregnet bekommen.

(13)

なお,ここからさらに進んで,密接性が極めて希薄な場合になると,もはや能動文にお ける3格の実現自体が不可能になる (小川 1993)。その場合,bekommen 受動も同じく 不可能である (上例 (37b) (41b) を参照)。 以上から,bekommen 受動の形成に関して密接性が重要な要因であることが分かる。 ここで密接性という概念について考えてみたい。上では,a) とc) の間のb) の段階を, 差し当たって所有関係で代表させたが,実際には所有関係に準じるような関係も考えら れる。

(73) Sie bekommt von ihm Salz in den Kaffee geschüttet.

つまり,ある対象に一定の影響が及んだ際,それにより人が重要な影響を被るような密 接性が人と対象の間に存在しているかどうかが重要だということである。次の例に見ら れるような対立が示唆的である。

(74)a) Er bekam vom Verlag die Urheberrechte abgekauft. b) ?Er bekam von seinem Freund das Fahrrad abgekauft. (75)a) Er bekam von seinem Vater die Unterstützung entzogen.

b)??Er bekam von ihr ihre Hand entzogen.

行為が,主語にとってより重要な関わりを持つ対象へ向けられた場合の方が,より自然 な表現になるという傾向が見て取れよう。なお,ドイツ語ではこの行為の対象を,親族 や,その他の社会的関係にある人に拡張するのは難しいようである。

(76) Er bekam seine Tochter entführt. (77) ?Er bekam seine Frau getötet.

(78)??Er bekam seine Tochter vor dem Ertrinken gerettet. (79)??Ich bekam von ihm die Kunden abgefangen.

十分に考えられる通り,人がある対象と重要な関わりを持つというのは,多分に主観的 なものである。

(80) ?Sie bekommt von ihm das Plakat abgerissen.

この文は,一見非常に不自然な表現と感じられるが,問題の「ポスター」が,「彼女」 にとって大変お気に入りのものであったり,神経に障るものであるというような一定の コンテクストが与えられると,それ程不自然な表現とは見なされなくなる。このように 考えてくると,密接性について一応 (51) のような一般的な段階を認めることができる

(14)

が,その幅は,究極的には人がある対象をどの程度重要な関わりを持つものとして受け 取っているかという,極めて主観的な要因によっているということが分かる。 3.2.4. 「物」主語の bekommen 受動 続いて,これまで考察の対象からはずしていた「物」主語の bekommen 受動の考察に 移る。本動詞に高い影響度が認められない場合は,ここでもbekommen 受動は不可能で ある。

(81) *Die Kälte bekam das Tier ausgesetzt. (Wegener 1985a: 209)

bekommen 受動が可能なのは,当該の「物」にある対象が付加されるという状況が表現 される場合である11)

(82) Die neue Auflage dieses Romans bekam einen Satz hinzugefügt. (83) Der Wein bekam etwas Zucker beigemischt.

「物」主語のbekommen 受動について,Wegener (1985a: 209) は,当該の主語が実際 に何かを「受け取る」(bekommen) 場合の方が,bekommen 受動が形成し易いと述べて いる。次の例はWegener による。

(84)a) Das Auto bekommt einen neuen Motor eingebaut. b) ?Das Auto bekommt den Motor ausgebaut.

ここで,上で考察したbekommen 受動の意味用法の拡張の方向に沿って,「物」主語の bekommen 受動の容認性を見てみよう。まず,密接領域の拡がり (上の図1から図2へ の拡張) に関してであるが,対象物の移動が問題となる場合,その到達点は「物」と「不 可分」の関係にある部分に限られる。(87) との対立を参照。

(85)a) Der Tisch bekommt Farbe auf die Platte geschmiert. b) *Der Tisch bekommt Farbe auf die Tischdecke geschmiert. (86)a) Der Schrank bekommt einen Zettel auf die Schublade geklebt.

b) *Der Schrank bekommt einen Zettel auf den Teller geklebt. (87)a) Peter bekommt Farbe aufs Haar geschmiert.

b) Peter bekommt Farbe aufs Fahrrad geschmiert.

また,「対象物」から「行為・出来事」へ,という受容物に関する拡がり (図3への拡 張) も「物」主語の場合は難しい。(90) との対立を参照。

(88)a) ?Der Tisch bekommt ein Bein abgebrochen. b) *Der Tisch bekommt die Tischdecke zerrissen.

(15)

(89)a) ?Der Schrank bekommt die Rückwand abgerissen. b) *Der Schrank bekommt den Teller zerbrochen. (90)a) Peter bekommt den Arm gebrochen.

b) Peter bekommt die Bücher zerrissen.

つまり,「物」主語のbekommen 受動は,図式レベルで考えた場合,上の図1の段階に とどまり,図2,3への拡張は難しいということである。この制約の背後にある原理は 容易に理解できよう。すなわち,「有情」の存在である「人」に対し,「無情」の存在 である「物」は,その周囲に及んだ影響を自ら主体的に感じ取ることはないという認識 がその背後で働いていると考えられる (池上 1993 を参照)。密接性を持つということ, そしてその密接性を持ったものへの影響を感じ取るということ,それらはいずれも極め て人間的な営みである。つまり,図2,3へのbekommen 受動の拡張は,「人」の「有 情者」としての側面が取り上げられたものだということである。 ところで,「人」主語のbekommen 受動において,容認性が微妙な例では,利益的な意 味内容の文の方が容認度が高くなるということをすでに何度か指摘した。「物」主語の 場合に類似の現象は見られないのであろうか。もちろん,「利害」が話題にできるのは, 基本的には「有情」の存在である「人」についてのみであるから,それが「物」に拡張 された場合はどのようになるのかというのが問題である。上例 (84b) は通常不自然な文 と見なされるが,実は一定のコンテクストが与えられるならば容認度が高くなる。エン ジンがない状態が通常の状態であるようなコンテクストである。例えば,幼稚園の遊び 場に子どもたちが遊ぶための自動車を置くような場合を考えるとよい。つまり,行為に よってもたらされる結果状態の「正常性」が容認度を高める要因となっているわけであ る。「正常性」というのは,もちろん人間の文化生活の在り様と密接に関わっているも のである。次の例が示唆的である。

(91)a) ?Das Auto hat den Motor herausgenommen bekommen. b) Das Auto hat den Frontspoiler abgenommen bekommen.

「エンジン」は通常自動車には必ずついているものであるが,「フロントスポイラー」 の自動車への装備は通常禁止されている。ここでは,その相違が両者の容認度の違いと なって現れているわけである。 容認度を高める方向に働くさらにもう一つの要因がある。擬人化である。ふつう「物」 の3格が立てないような場合でも,擬人化された際には「物」が3格に立つことができ るが (Ozono 1995: 40),同様のことは bekommen 受動の主語についても言える。

(16)

4. おわりに 以上,bekommen 受動をめぐる諸問題について考察したが,成立条件については,先 行研究の問題点を踏まえた上でその明確化を試みた。そこで重要なことは,「対象物」 の受容から「行為・出来事」の受容へ,というbekommen 受動の意味的な拡がりを捉え るという点であった。 ところで,本稿では主に能動文との関連でbekommen 受動を見てきたが,これまでの考 察を踏まえると,bekommen 受動の意味用法は,特に図式レベルで考えた場合,本動詞 としてのbekommen の用法と密接に関連しているということが十分に窺える。本稿の始 めに触れた「bekommen+過去分詞」構造の多義という現象も,これと無関係ではない であろう。この点については稿を改めて考察してみたい。 注 1) 本稿は,平成七年度東京外国語大学修士論文「現代ドイツ語における「主語化」」 に基づいているが,部分的に修正を加えてある。 2) Eroms (1978: 384) 及び Wegener (1985b: 138) が,「関心の3格」からも bekommen 受動の形成が可能であるという見解を述べているが,これはすでに Leirbukt (1987: 101) や Hentschel/Weydt (1995: 174) によって批判されている。 3) bekommen 受動の実際の使用例を収集・分類したものとして Eroms (1978) がある。 その中には新聞などでの使用例も含まれている。また Hentschel/Weydt (1995: 177ff.) にはマンハイマー・コーパスを用いた調査の簡潔な結果報告がある。 4) bekommen/kriegen/erhalten 間の機能的な相違については Eroms (1978: 359ff.), Hentschel/Weydt (1995: 170ff.) を参照。 5) ただし,分類の基準が明確でないという問題が残る。Wegener (1985a) が移動動 詞 (weglaufen など) に共起する3格をここに含めて考えているのに対し,Leirbukt (1987) はそうではない。 6) 考察の対象とした事例は,Duden (1988): Stilwörterbuch などから収集した3格を 含む例文をbekommen 受動に書き換え,インフォーマントに容認度を判断してもら ったものが中心である。複数のインフォーマントに容認された文は原則として容認さ れる文と見なしたが,最終的な容認性の判断については,Andreas Hendrich (慶応義 塾大学) 及び Frank Mielke (東京外国語大学) の両氏の意見を参考にした。両氏には コンテクストについての吟味を含め,大変お世話になった。深くお礼申し上げる。 7) 授与動詞として最も代表的であると思われる geben は,bekommen 受動が不可能 である。ただしgeben には,本動詞としての bekommen を用いた,個別的語彙によ る表現ペアが存在している (Eroms 1978: 385)。

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a) Ich gebe dir das Buch.

b) Du bekommst das Buch von mir.

8) bekommen 受動の主語は「動作主性」を有しておらず,受動的な「受容者」であ ると考えられる。例えば,bekommen 受動は命令文で用いることができない。それ に対し,次の b)文のような願望表現は可能である。

a) *Bekomm von ihm das Buch geschickt!

b) Sie hofft, daß sie von ihm das Buch geschickt bekommt.

9) 天野 (1991) の「意味的密接性」,小川 (1991) の「言語的に有意味な距離」,角 田 (1991) の「所有傾斜」など,すでに同様の概念が,複数の言語における特定の言 語現象の説明に有意義であることが指摘されている。 10) Hentschel/Weydt (1995: 177) によると,マンハイマー・コーパスにはこのタイプ のbekommen 受動の例は見出せない。 11) Eroms (1978: 385) に「物」主語の bekommen 受動の実例が挙げられている。 参考文献 天野みどり (1991):「経験的間接関与表現――構文間の意味的密接性の違い」仁田義雄 (編)『日本語のヴォイスと他動性』くろしお出版,191-210.

Duden (1995): Grammatik der deutschen Gegenwartssprache. 5., völlig neu bearb. u. erw. Aufl. Mannheim: Dudenverlag.

Eisenberg, Peter (1994): Grundriß der deutschen Grammatik. 3., überarb. Aufl. Stuttgart: Metzler.

Eroms, Hans-Werner (1978): Zur Konversion der Dativphrasen. In: Sprach- wissenschaft 3, 357-405.

Hentschel, Elke/Harald Weydt (1995): Das leidige bekommen-Passiv. In: Heidrun Popp (Hg.): Deutsch als Fremdsprache. An den Quellen eines Faches. München: Iudicium, 165-183.

池上嘉彦 (1993):「<有情の被動者としての人間> の文法」『Sophia Linguistica』33, 1-19. Leirbukt, Oddleif (1987): Bildungs- und Restriktionsregeln des bekommen-Passivs.

In: C.R.L.G. (Hg.): Das Passiv im Deutschen. Tübingen: Niemeyer, 99-116. 小川暁夫 (1991):「3格の実現について」『ドイツ文学』87, 119-130.

Ozono, Masahiko (1995): Reine Kasus und präpositionale Kasus. Eine Überlegung zu deren Kodierungsbedingungen. In: Der Keim 19, 33-47.

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Reis, Marga (1985): Mona Lisa kriegt zuviel - Vom sogenannten ‚Rezipienten- passiv‘ im Deutschen. In: Linguistische Berichte 96, 140-155.

角田太作 (1991):『世界の言語と日本語』くろしお出版.

Wegener, Heide (1985a): Der Dativ im heutigen Deutsch. Tübingen: Narr.

Wegener, Heide (1985b): „Er bekommt widersprochen“ - Argumente für die Existenz eines Dativpassivs im Deutschen. In: Linguistische Berichte 96, 127-139.

参照

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