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ドイツにおける公共近距離旅客輸送の助成とその成 果

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ドイツにおける公共近距離旅客輸送の助成とその成

著者 青木 真美

雑誌名 同志社商学

巻 57

号 5

ページ 94‑107

発行年 2006‑03‑10

権利 同志社大学商学会

ドウシシャ ダイガク ショウガッカイ

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000007333

(2)

ドイツにおける公共近距離旅客輸送の 助成とその成果

青 木 真 美

はじめに

近距離旅客輸送の現状 運営費補助と運輸連合制度 地域交通助成法によるインフラ整備 運輸連合制度とインフラ整備

おわりに

交通分野における規制緩和によって,バスや鉄道の非採算路線の撤退が手続き的に容 易になり,わが国でも

1995

年以降いくつかの鉄道路線やバス路線の廃止が行われた。

生活交通の維持という視点から,バスの路線維持のために沿線自治体が協力して運行経 費を負担する事例や,第三セクターの鉄道会社を設立して

JR

や私鉄の廃止路線を引き 受ける事例も出てきている。

日本以外の先進諸国においては,公共交通機関については運賃収入だけでは経費をま かなえない状況にあり,従来からわが国からみれば手厚い助成がなされてきた。近年は 規制緩和を積極的に進め新規参入事業者が増加し,近距離旅客輸送については行政がサ ービス内容を設計・立案し,実際の運行は効率的な事業者に従来よりも少ない補助金で 委託するという制度が主流となっている。

国や地方政府による助成策には,大別して運営費補助(ソフトに対するもの)とイン フラや車両に対する補助(ハードに対するもの)がある。ドイツでは

1960

年代から運 営費補助とインフラ補助を積極的に行ってきており,他の

EU

諸国やアメリカに比べて 都市部での自動車利用抑制と中心市街地空洞化抑制の効果があったといわれている。

本論では,ドイツにおける公共近距離旅客輸送の現状をまず概観し,それへの助成策 である,運営面の助成と運営調整策(運輸連合制度)とインフラ面の助成(地域交通助 成法)の

2

本柱について背景と経緯を解説し,ドイツにおける公共近距離旅客輸送を支 える行政のシステム全体像を明らかにしようとするものである。

4(310

(3)

近距離旅客輸送の現状

ドイツにおいては,鉄道やバスで行われる近距離旅客輸送を公共近距離旅客輸送(Öf-

fentlich Personen Nahverker : ÖPNV)といい,

「不特定多数の人が利用可能な,路線輸送 を行っている交通機関による公共旅客輸送で,主に都市内,都市近郊及び地域の交通需 要を満たすためのも

1

の。」と定義されている。またドイツ鉄道のように長距離輸送と混 在している場合には,「一つの交通機関の一回の乗車距離がおおむね

50 km

または乗車 時間が

1

時間を越えないも

2

の」とされている。

具体的な交通機関としてはわが国の旧国電に相当するドイツ鉄道の

S

バー

3

ン,ドイ ツ鉄道の近郊輸送,各都市の交通局等の地下鉄,LRT,路面電車,バスがあり,ごく一 部では登山電車やケーブルカー,フェリーが用いられている。

路線の規模は,ドイツ鉄道全体で

3

2,800

キロ(うち

S

バーンは

1,900

キロ),地 下鉄と

LRT

978

キロ,路面電車が

2,146

キロ,バスが公営で

37

2,800

キロ,私営 で

49

5,400

キロであ

4

る。

日本の

JR

2

39

キロ,私鉄が

6,541

キロ,地下鉄が

665

キロ,モノレール,新交 通システム

208

5

ロであるのに比べると,ドイツのほうが路面を利用した軌道交通の規 模が大きいことが分かる。

東西ドイツの統合以降の輸送量の動向をみると,第

1

図と第

1

表のようにほとんど全 体の輸送動向と並行しており,自動車と比較した場合のシェアについてはほぼ一定で推 移しているといえる。

────────────

地方分権化法第2条,Reiner Friese Taschenbuch der Eisenbahngesetze 11. Auflage Hestraverlag 1996.

同上。

長距離列車とは別の軌道を持つ電車輸送,SStadt(都市),Schnell(高速)の意味。

Bundesministerium für Verkehr, Bau- und Wohnungswesen Verkehr in Zahlen 2001/2002,pp. 52−53, pp. 86

−87 数値はドイツ鉄道が1998年,その他は2000年のもの。

運輸政策研究機構「数字で見る鉄道」2004, pp. 73−74.

1 ドイツの旅客輸送動向(1991−200)

ドイツにおける公共近距離旅客輸送の助成とその成果(青木) 311)9

(4)

旅客輸送全体に対する乗用車の機関分担率はわが国で

74.2

6

%,ドイツでは

83.3

7

%(輸 送人員で見た場合)であり,また輸送量はわが国は交通機関全体で

847.5

億人とドイツ

598.05

億人を大きく上回っている。

運営費補助と運輸連合制度

日本を除いた

OECD

加盟諸国では,近距離のバスや鉄道,路面電車について,その 都市機能維持の役割を評価し,自動車一辺倒の街にしないために政策的に運賃を押さ え,事業者に対して営業費用の

50% 以上もの助成金が国や地方の一般財源から支出さ

れてい

8

る。

ドイツでも例外ではなく,基本的には公営企業についてはその所有者(市町村が主)

が欠損を補頡し,私営企業についてはあらかじめ運賃水準とサービス水準について当該 地域の市町村が設定し,運賃収入が不足する分について州や市町村が補頡するという契 約を結んで輸送サービスを実施することになっている。

交通サービスの提供が私企業に全面的に委ねられ採算性の範囲内での実施が基本とな っているわが国に対して,こうした先進諸国における公共交通への助成の背景には,地 域のモビリティの確保に行政が一定の責任を負うという考え方がある。私企業の活動に 委ねたまま放っておけば,ほとんどの鉄道やバスが倒産することになり,移動手段は自 家用車だけになってしまうため,過度の渋滞による都市機能の麻痺や大気汚染,交通事 故の多発などが予測される。そうした事態を回避するために,公共交通の維持に対し て,利用の対価である運賃に加えて税金を投入して都市及び地域の交通機能を支えてい るのであ

9

る。

────────────

運輸政策研究機構 同上,p. 10.

Bundesministerium für Verkehr, Bau- und Wohnungswesen 同上 p. 211より算出。

鉄道建設・運輸施設整備支援機構「主要鉄道先進国の鉄道整備とその助成制度 平成16年度」平成17 3月,p. 208−209.

公共近距離旅客輸送の事業者に対する助成としては,欠損補頡のほかに漓租税の軽減(自動車税な ど),滷学生割引などの社会的運賃割引に対する補頡も行われている。

1 ドイツの旅客輸送動向(1991〜2000)

(単位:百万人)

1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 旅 客 輸 送 全 体 56,216 57,042 57,912 58,247 59,533 59,680 60,055 60,422 61,134 59,805 公共近距離旅客輸送 9,156 9,183 9,276 9,303 9,566 9,599 9,618 9,474 9,531 9,634 うち 鉄 道 近 距 離 1,381 1,421 1,441 1,457 1,772 1,846 1,849 1,791 1,817 1,857 路面電車・バス 7,775 7,762 7,835 7,846 7,794 7,753 7,769 7,683 7,714 7,777 出典:第1図,第1表ともBundesministerium für Verkehr, Bau- und Wohnungswesen Verkehr in Zahlen 2001/

2002 ,pp. 210−211

同志社商学 第57巻 第5号(26年3月)

6(312

(5)

また,ドイツには

1960

年代から運輸連合(Verkehrsverbund)とよばれる大都市圏に おける交通事業者の協力体制が構築されており,公共近距離旅客輸送の維持と発展に大 きな役割を果たしてきた。

日本同様ドイツは第二次世界大戦後急速な経済発展を遂げた。大都市圏への人口集中 を解消するため郊外への個人一戸建て住宅取得の促進政策や道路整備により,1950年 代後半には大都市周辺部での人口増加及び通勤への自家用車の利用が増加し,朝夕の交 通渋滞が深刻な問題となった。

バスと路面電車が主であった都市圏の公共近距離旅客輸送は道路渋滞の影響をうけ,

定時運行が困難となり,信頼性が低下したうえ,乗客減による財政状態の悪化が問題と なっ

10

た。

こうした状況に対して,当時の西ドイツ連邦政府は,1961年にいったんは規制緩和 により企業活動を活性化させることによって解決を図ろうとしたが(いわゆる交通小改

11

革),別途「地方自治体の交通事情改善専門委員会」(Die Sachverständigenkommission der

Bundesregierung zur Verbesserung der Verkehrsverhältnisse in den Gemeinde)を 1961

8

月に設置し,方策を検討した。1965年

6

月に連邦議会に提出された同委員会の答申に 対する政府の意見書では,道路拡張や駐車場整備によりこの問題を解決するには莫大な 費用が必要であり,公共交通機関を整備して乗客をそちらに吸収し,道路交通への負担 を軽減させたほうが合理的であるという答申に対して,後述する鉱油税を財源とした公 共交通の施設整備への助成を連邦と州が行うことを提言してい

12

た。

こうしたハード面への整備助成策に対して,ハンブルクなどの大都市からは,施設や 車両の整備のみでは乗客増は達成できない,利便性の向上のための運賃面や運行面での 交通事業者の協力が必要であるという主張がなされた。

代表的なものが,ハンブルクの

HHA

社(Hamburger Hochbahn AG,ハンブルク高架 鉄道株式会社)の均一運賃制度である。HHA社はハンブルク市が株式の

98% を保有す

る公営交通企業で,同市の地下鉄,路面電車,バスを運行している。HHA社は都市圏 の拡張に伴い,1950〜60年の

10

年間でバスの営業キロが

102

キロから

365

キロとほぼ

3.5

倍に拡大したが,輸送人員は

5% 減となった。同社の交通実態調査によれば,乗客

の多くがバスと鉄道の乗換によって追加的な運賃を支払わなくてはならないことから,

合理的な経路ではなく迂回したり,ある区間を徒歩ですませていることが判明した。ま たバスと地下鉄やドイツ連邦鉄道の鉄道路線の競争により,HHA社のバス路線は地下

────────────

0 運輸調査局「欧米主要国における都市交通の現状と鉄道の役割」1968 1 杉山雅洋「西ドイツ交通政策研究」成文堂,1985年,p. 114.

Bundesministerium für Verkehr Schriftreihe des BMV Band 29, Die Verkehrspolitik in BRD 1949−1964, Ein Bericht des BMV Hörman Verlag, 1965.

ドイツにおける公共近距離旅客輸送の助成とその成果(青木) 313)9

(6)

鉄との連絡が重視した路線になっており,ドイツ連邦鉄道の利用者にとっては不便なも のになっているという点も明らかになっ

13

た。

そのため,HHA社は

1960

5

月より自社のバスと地下鉄,路面電車をゾーン制の均 一運賃に変更,同一ゾーン内ならば乗換の有無にかかわらず一定運賃とした。さらに,

同年

11

月ハンブルクの他の公共交通事業者に向けて覚書を示し,都市圏の公共交通機 関の協力についての提言を行った。

当時ハンブルクには

HHA

社のほか,ドイツ連邦鉄道(鉄道,バス),3社の近郊鉄 道会社,ドイツ郵政庁(バス),2社の公営バス会社,1社のフェリー会社があり,競争 状態となっていた。この覚書は行政と各企業の関心を呼び,協力体制について話し合い の場がもたれたが,協議は難航し,実際にゾーン制の均一共通運賃制度が開始されたの は

1967

1

1

日であった。

運輸連合は,このような一定の地域内の公共交通について,共通運賃の設定や運行協 力を行うための組織として設立されたものであ

14

る。ドイツ連邦鉄道とドイツ郵政庁は連 邦政府の管轄下にあり,それ以外の事業者は州の管轄下にあったため,協力体制の構築 には行政の壁を取り除く必要があった。そのため,ハンブルクでは各事業者が出資する 組合という形式をとっている。ハンブルク以降に設立されたミュンヘン,フランクフル ト,シュツットガルト,ライン・ルールなどの運輸連合は,出資による子会社という形 式をとっている。

運輸連合の主な役割としては,共通運賃制度・運賃率の決定,交通計画の作成,各交 通事業者の調整,収入配分,行政からの助成金の配分,広報業務がある。交通事業者が 直接運行サービスを生産する製造部門とすれば,運輸連合は販売部門といえる役割を持 つ。

2

図はドイツの運輸連合で実施されているゾーン制の共通運賃制度のモデルであ る。市の中心部から直径

15〜20

キロの地域を中心ゾーン(ゾーン蠢)とし,その外側 で市の中心部から直径

30〜40

キロの地域をゾーン蠡とする。このゾーンの内部であれ ば,同一運賃で乗換は自由である。ただし往復や周回は認められず,目的地に向かう経 路である必要がある。普通乗車券の場合には,切符の購入時あるいは乗車時からの利用 制限時間が設けられている。

たとえばゾーン蠡内にある

A

からバスに乗って鉄道に乗換え,市の中心部に向かっ たとすると,乗客はゾーン蠢プラス蠡という運賃を支払う。ゾーンの境界上にある

B

────────────

Hamburuger Verkehrsverbund 20 Jahre HVV 1987.

4 ドイツの場合には,異なった会社間でも通しの乗車券となっているのが特徴である。パリやロンドンで も同様の組織があるが,パリでは基本的には定期券については通し運賃となっているが,地下鉄とバス を普通乗車券で乗り継ぐ場合には新たな乗車券が必要である。またロンドンでも地下鉄とバスについて は共通乗車券であるが,旧イギリス国鉄の路線については別の乗車券が必要である。

同志社商学 第57巻 第5号(26年3月)

8(314

(7)

駅から鉄道に乗り市の中心部に向かった場合にはゾーン蠢の運賃である。またゾーン蠢 内の

C

から地下鉄に乗って鉄道に乗換て中心部にいく場合にもゾーン蠢の運賃とな る。ゾーン蠡の外側にある

D

の場合には,ゾーン蠢プラス蠡の運賃に加えて鉄道の区 間運賃が適用される。ゾーン蠡の外側でさらにバスに乗り換える場合には,新たに運賃 を支払う必要はなく,その運賃で乗車可能である。定期運賃の場合にはもっと細かくゾ ーンを区切り,通過ゾーン数で運賃が決まるようになっている。

このような共通運賃制度は,事業者別のコスト計算に基づく総括原価主義による認可 運賃からは乖離したものであり,輸送機関がバスであっても鉄道であっても,移動の距 離のみに応じたものとなっている。当然距離に対して賃率の高い初乗り運賃の割合が減 少し,交通事業者にとっては減収となる。

前述のように,ドイツではすでに

1960

年代でも公共交通機関の経営状況の悪化が深 刻となっており,連邦政府も改善策として投資助成を導入しているが,運営費用につい ても連邦鉄道については連邦政府,それ以外の公営企業については所有者の市町村が赤 字補頡という形で,負担をしていた。

運輸連合による共通運賃制度の導入や,運輸連合そのものにかかる費用については,

連邦政府と州政府,市町村と交通事業者との協力体制についての話し合いの中で検討さ れ,共通運賃導入による減収分と運輸連合の運営費用については,連邦政府や州政府が 負担することとなった。

こうした共通運賃のほか,オフピーク時のみ利用できる特別割引定期,家族

4

人で使 えるファミリーパス,イベントやスポーツ・レジャー施設の入場券とのセット乗車券な どの企画切符も多数販売されている。

運輸連合による収入と乗客の推移をみると,運輸収入(社会的割引に対する補頡を含 む)で営業支出をカバーしている割合をコスト補頡率というが,その割合は

1970

年代 から一貫して上昇傾向にある。例えば,1973年に発足したミュンヘン運輸連合では,

73

年の補頡率が

44.2%,1980

年が

61.1%,1984

年で

58.3% となってい

15

る。その他の運輸

2 ゾーン運賃制度モデル

ドイツにおける公共近距離旅客輸送の助成とその成果(青木) 315)9

(8)

連合でも

50% 前後の値となっている。この値は,ドイツ全体の公共交通企業 163

社が 加盟する公共交通連盟(VÖV, Verband öffendlicher Verkehrsbetriebe)の平均

70% より

は少ない。

乗客の推移を見ると,第

3

図のようになり,1975年を

100

とした場合に,1990年ま では運輸連合のある都市では乗客増加が見られるのに対して,公共近距離旅客輸送全体 は低下傾向にあることが明らかであり,運輸連合のコスト補頡率には若干問題がある が,乗客増をはかり道路交通の軽減化を図る,という目的はある程度実現できていると いえよう。

東西ドイツが統合され,ドイツ連邦鉄道が

1994

年に株式会社化されドイツ鉄道株式 会社(DBAG)となると,それまでの交通事業者の枠組みが大幅に変更された。連邦政 府の指示と助成を前提として行われてきた鉄道の近距離旅客輸送について,連邦政府は 責任を州に移管し,これまで直接ドイツ連邦鉄道に行っていた助成金額を,増額した上 で各州政府に配分することとなっ

16

た。

公共近距離旅客輸送全体のサービス水準について州及び市町村が計画することとな り,鉄道についてはドイツ鉄道以外の事業者に委託することも可能となった。このた め,ドイツ鉄道はローカル地域では鉄道部門とバス部門を持つ地域交通会社(DB

Bahn-Bus)を発足させ,新規参入事業者との競争に備えた。実際には,ドイツ鉄道が撤

退しようとする区間や以前廃止した区間について,わが国でいう第三セクター鉄道のよ うな新規事業者が担当するという事例のみで,ドイツ鉄道の既存路線に参入した近距離 鉄道事業者はみられな

17

い。

────────────

MVV Geschäftsbericht MVV 1973, 1980, 1984.

6 ドイツ連邦鉄道に関する権限は,憲法(基本法)で連邦にあると規定されていたので,このためには憲 法改正が必要であった。その際に,連邦参議院(州からの代表で構成される)より助成金の増額が要求 され,ドイツ連邦鉄道改革において最後まで争われた問題となった。

7 また,スウェーデンやイギリスで行われているような競争入札形式も実施されておらず,「価格問合せ」

による随意契約となっている。

3 輸送人員の動向(1975−2000年)

注)1991年以降は旧東ドイツの地域の輸送量を加えているためそれ以前とは比較できな い。また,運輸連合はハンブルク,ミュンヘン,フランクフルトであるが,フランク フルトは1994年以降地域を拡大したので増加はその影響である。

出典:Bundesministerium für Verkehr, Bau- und Wohnungswesen Verkehr in Zahlen 2000/

2001 pp. 90−91, p. 210−211.

同志社商学 第57巻 第5号(26年3月)

0(316

(9)

こうした行政的な枠組みの変化によって,これまで一定の人口規模の大都市圏でのみ 導入されていた運輸連合のシステムを,中小都市圏やローカル圏でも導入する動きが出 てきた。これは,公営企業が主で民間の事業者が小規模であるこれらの地域にも,大規 模な民間事業者が参入する可能性があり,交通事業者全体の調整を図る必要が生まれた ことと,州や市町村の交通政策の立案権限と予算が拡充されたことにより,長期的・広 域的な計画主体が必要となったことによる。

2005

11

月現在で運輸連合はドイツ全体の

16

州で

50

余りに上

18

り,ほとんどの地域 が運輸連合に編入されていることになる。

地域交通助成法によるインフラ整備

1964

8

月に連邦議会に提出された「地方自治体の交通事情改善専門委員会」の答 申では,道路拡張や駐車場整備により都市交通の渋滞問題を解決するには莫大な費用が 必要であり,公共交通機関を整備して乗客をそちらに吸収し,道路交通への負担を軽減 させたほうが合理的であるとされ,さらに州や市町村が管轄する地域交通について,連 邦政府と州,市町村の協力が必要だとしている。

連邦政府はそれを受け,鉱油税(Mineraölsteu

19

er)を財源とした公共交通の施設整備

への助成を行うこととした。1966年

12

月の租税改正法(Steueränderungsgesetz)では,

────────────

http : //de.wikipedia.org/wiki/Verkehrsverbund, 2006110日。

1939年に制定された鉱油税法により課税された石油製品に対する物品税。当初は一般財源に組み入れ られたが,1955年の交通財政法(Verkehrsfinanzgesetz)により,一部を道路建設財源とし,1960年か らは,一般財源に55%,道路財源に45% となった。

2 鉱油税額の推移(1964−2003)

税収総額 ガソリン 税収総額 ガソリン 単位1) 百万マルク ペニヒ ペニヒ 単位1) 百万マルク ペニヒ ペニヒ

1964 32 30 1991.1

47,266 60 50

1967 9,423 35 33 1991.7 71 50

1972 14,227 38 37 1992 55,166 82 55

1973 16,598 41 39 1994 63,847 98 62

1974 16,052 44 42 1998 66,694 104 68

1981 21,351 49 44 2000 73,930 110 74

1982 22,835 51 45 2001 79,602 115 80

1985 24,521 50 45 2002 82,516 121 86

1989 32,965 57 45 2003 84,472 127 92

注)税率改訂があった年のみ記載。1991年は1月と72回改定 1)1マルク=100ペニヒ

出典:Bundesministerium der Finanzen Finanzbericht 1996 Fachblick Finanz & Wirtschaft Politik Datensammelung zur Steuerpolitik 2004.

ドイツにおける公共近距離旅客輸送の助成とその成果(青木) 317)1

(10)

それまでガソリン

1

リットル当たり

0.32

ドイツマルク(以下

DM)だった鉱油税を 0.03 DM

引き上げ,その増税分を全額地域交通における施設改善のための財源とした。

1967

5

月には,この財源の

40% を州が管轄する公共近距離旅客輸送の軌道やバス

ターミナルに対する助成財源とし,残りの

60% を市町村の道路網整備に配分すること

となった。また連邦政府は助成対象公示価格の

50% までを助成し,残りについては

州,市町村及び事業者が負担することとした。

1971

3

月には「地域交通助成法」(市町村の交通事情改善のための連邦財政助成

20

法)が制定され,鉱油税財源を用いて助成対象工事価格の

60% を限度として連邦政府

が助成することとした。同法では公共近距離旅客輸送について

45%,道路に 55% と割

合を変更し,さらにドイツ連邦鉄道についても公共近距離旅客輸送の範囲内の施設整備 については同法を適用し,連邦と州で助成を行うこととした。

その後,第

3

表のように,公共近距離旅客輸送への配分割合の増加など制度の細部に おける変更が重ねられてきたが,現在の制度は以下のようである。

────────────

0 正式名称:Gesetz über Finanzhilfen des Bundes zur Verbesserung der Verkehrsverhältnisse der Gemeinde von 18. März 1971,略称:Gemeindeverkehrsfinanzierungsgesetz, GVFG.

3 地域交通助成法の制度の変遷 変更時期及び

関連法規

道路とÖPNVの配分

1966 租税改正法

鉱油税の値上げによる制度 の導入

助成の上限 50%

ガソリン 1 l当り

3ペニヒ 道路60:40 ÖPNV1)

1971 地域交通助成法

制度の法制化

助成の上限 60% 道路55:45 ÖPNV 1973

租税改正法 財源の拡大 ガソリン 1 l当り

6ペニヒ

道路50:50 ÖPNV 道路の10%2)

1975

予算構造法 財源の縮小 ガソリン 1 l当り 5.4ペニヒ

45:55(1977/78のみ)

50:50(1979〜) 15%2)

1987

地域交通助成法改正 バス車両にも助成適用 配分総額上限を26億マル クに

50:50 30%2)

1990 統合条約

旧東ドイツとの統合により 特例3)

配分総額上限 32.8億マルク 1992

租税改正法

助成対象の拡大 財源配分方法の改正4)

配分上限に15億マルク加 算(1992)

30億マルク加算(1993/94)

配分原則の撤廃 連邦プログラムの新設

(財源の20%)

1993 鉄道再編法

配分上限加算の追加

助成の上限 75%5) 30億マルク(1995/96)

1)公共近距離旅客輸送

2)市町村の道路整備財源から公共近距離旅客輸送に州の判断で流用が可能な割合

3)もともと東ドイツとの国境地域では助成対象額の75% まで助成していたが,旧東ドイツ6州につ いては上限を90% とした。

4)各州の登録車両台数による配分の前に,旧西ドイツと旧東ドイツに二分する 5)州プログラムのみ,連邦プログラムは60%

出典:Bundesminisuterium für Verkehr GVFG Bericht 1995

同志社商学 第57巻 第5号(26年3月)

2(318

(11)

同法に配分される鉱油税の財源は,1997年以降は上限を

32.8

億マルクとされ,その

うち

0.25% が調査研究のために留保され,残りの 80% が州プログラム(各州独自の計

21

画),20% が連邦プログラム(人口集中地域及びその周辺における

1

1

億マルクを越 える鉄道計画)に配分される。さらに,州プログラム,連邦プログラムとも旧西ドイツ

10

州に

75.8%,旧東ドイツ 6

州に

24.2% が配分され,各州へは登録車両台数に一定の

係数をかけた比率に従って配分される。

各州は,毎年州の公共近距離旅客輸送についての整備計画を作成し,それに基づいて 配分された連邦の財源を整備主体(郡,市町村,市町村の組合)に配分す

22

る。

1967

年以降の地域交通助成法による財源は,2003年までの累計で総額

1,080

6,890

────────────

1 助成の対象となるのは,以下の通りである。

1)地域内の主要道路及び地域間交通路に接続する道路,2)未開発地域における地域間道路,3)バス 専用レーン,4)鉄道の廃止に関連する道路,5)パークアンドライド用の駐車施設等の乗換施設,6)

貨物輸送センターのための公共交通用地,7)地下鉄,LRT,路面電車の軌道,8)ドイツ鉄道以外の鉄 道の軌道,9)バスターミナル,10)公共近距離旅客輸送のスピードアップのための運行管理施設,11)

鉄道及び連邦水路との交差施設,12)路線バス車両 2 この各州の計画については,連邦政府の承認が必要である。

4 地域交通助成法に基づく助成金額の推移 (単位:百万マルク)

道路 ÖPNV 合計1) 道路 ÖPNV 合計1)

1967 342.4 252.8 595.6 1986 1,249.90 1,358.60 2,614.40

1968 443.6 342.3 786.5 1987 1,377.90 1,457.20 2,890.50

1969 539 403.1 943 1988 1,212.10 1,471.50 2,690.50

1970 500.4 486.5 988.4 1989 1,215.40 1,408.60 2,631.20

1971 538.7 631.2 1,172.20 1990 1,211.20 1,408.10 2,625.90

1972 863.7 886.7 1,753.70 1991 2,362.40 2,131.90 4,502.30

1973 1,080.90 875.6 1,959.70 1992 3,460.80 3,307.00 6,775.80

1974 1,109.80 1,014.90 2,130.50 1993 2,153.40 3,949.80 6,114.20

1975 990.3 1,087.40 2,083.80 1994 2,053.50 4,073.50 6,097.10

1976 1,143.30 998.8 2,148.80 1995 2,015.20 4,032.20 6,054.50

1977 953.3 1,116.80 2,077.20 1996 2,152.20 3,851.80 6,011.80

1978 1,030.80 1,155.80 2,191.80 1997 1,650.50 1,876.20 3,535.00 1979 1,138.00 1,267.90 2,413.30 1998 1,622.90 1,618.10 3,247.10 1980 1,092.90 1,272.60 2,372.60 1999 1,572.10 1,593.20 3,172.70 1981 1,087.50 1,296.40 2,390.10 2000 1,658.90 1,516.90 3,181.70 1982 1,086.20 1,448.60 2,540.90 2001 1,629.00 1,510.70 3,148.50 1983 1,088.10 1,355.80 2,450.30 2002 1,657.80 1,622.20 3,288.50 1984 1,141.10 1,360.00 2,507.40 2003 1,686.10 1,655.60 3,349.40 1985 1,222.60 1,403.30 2,632.00 総計2) 49,244.60 58,589.00 108,068.90 1)調査研究分は記載していないため合計は道路とÖPNVを合計したものより多い

2)1980年から83年にかけて道路からÖPNVへ合計89.2百万マルクの転移があり総計にはそれ を加除してある

出典:Bundesminisuterium für Verkehr GVFG Bericht 1995 GVFG Bericht, 2003

ドイツにおける公共近距離旅客輸送の助成とその成果(青木) 319)1

(12)

万マルク(約

8

6500

億円)となる。うち自治体の 道 路 に は

492

2,466

万 マ ル ク

(約

4

6,700

億円),公共近距離旅客輸送には

585

8,900

万マルク(約

3

9,400

億 円)となる。

これらを標準的な助成割合

60% を用いて推計すると,投資総額は道路で約 820

億マ ルク,公共近距離旅客輸送で約

980

億マルクとなる。

また,鉱油税収全体と比べると,地域交通助成法による財源は

6〜9% を占めている。

運輸連合制度とインフラ整備

運輸連合と地域交通助成法によるインフラの整備を組み合わせた事例として,シュツ ットガルト運輸連合における

S

バーン整備が上げられる。

シュツットガルト市はバーデンビュルテンベルク州の州都であり,周辺を山で囲まれ た長さ

6

キロ,幅

1

キロの谷あいに位置する

23

街で,新規の交通路建設には大きな困難が 伴った。道路混雑の緩和のためには既存の鉄道路線を改良し,活用していくことが不可 欠であった。

1965

年の連邦政府の意見書を受けて,バーデンビュルテンベルク州とドイツ連邦鉄 道は,在来線に並行した

S

バーン路線の整備計画を検討し,1968年には

4

段階にわた って

S

バーンの整備を進めるという大枠を定めた

S

バーン大綱計画(S-Bahn Rah-

menabkommen)を決定している。この計画では,

1)シュツットガルト市中心部の地下部分の新設

2)シュツットガルト中央駅から北へ向かう 6

路線の整備

3)シュツットガルト中央駅から南へ向かう 1

路線と空港線の整備

4)南への路線の延伸

について,段階的に計画決定することになってい

24

た。

1970

年には,シュツットガルト市中心部の地下化が決定され,1975年には

S−1

の北

区間と

S−2〜S−6

までの整備が決定された。これらの区間は主要部分が

1978

年に開

通,周辺区間が

1980/81

年に開通している。また

1978

年には,S−1の南区間のベープ リンゲンと空港への延伸が決定され,ベープリンゲンまでは

1985

年に,空港線は

1993

年に開通している。また,ベープリンゲンから南への延伸については

1985

年に計画決 定され,1992年に開通している。

これらの整備の費用については,ドイツ連邦鉄道の負担分

1.06

億マルク(約

85

────────────

3 ドイツ在住の日本人作家多和田葉子氏は,「シュツットガルトの都心に出かけるときはすり鉢の底に向 かって落ちていくような感じを持つ」と述べている。日経新聞,2006115

Deutschbundesbahn Bundesbahn Direktion Stuttgart Die Bilanz, 25 Jahre Planung und Bau der S-Bahn Stuttgart ,1993, pp. 18−19.

同志社商学 第57巻 第5号(26年3月)

4(320

(13)

円)を除いた

13.4

億マルク(約

1,100

億円)について,連邦政府が地域交通助成法に基

づき

60% を負担し,州,シュツットガルト市,市の周辺 4

郡は残りの

40% について負

担することを

1975

年の段階で決定している。

バーデンビュルテンベルク州とシュツットガルト市は

S

バーンの整備が進む中,運 輸連合制度の導入を検討していた。しかしドイツ連邦鉄道はバスとの競合などを懸念し て運輸連合制度の導入には消極的であった。

バーデンビュルテンベルク州は

S

バーンの整備が完了した時点での近距離交通の全 体 像 を 示 す「 シ ュ ツ ッ ト ガ ル ト 都 市 圏 の 近 距 離 交 通 統 合 構 想 (Integriertes

Nahverkehrskonzept Großraum Stuttgart,INVK)を 1977

年に発表し,バス路線のフィーダ ー

25

化を提言している。これによってドイツ連邦鉄道も運輸連合制度の導入に合意し,

1978

────────────

5 シュツットガルト市およびその周辺の181のバス路線を検討し,42路線についてSバーンや路面電車 の軌道交通との並行路線になると判定された。そのうち補完的な役割を果たしているバス路線をのぞい 34路線を改編するべきだとしている。Deutschbundesbahn Bundesbahn Die Bundesbahn September 1978, pp. 673−76.

4 シュツットガルトのSバーン整備計画

)内の数字は(計画決定年/開通年)開通はすべてシュバーブシュトラッセ駅を起点としてみたもの。

出典:脚注24と同じ

ドイツにおける公共近距離旅客輸送の助成とその成果(青木) 321)1

(14)

年より共通運賃制度(ただしこの時点では,周辺

4

郡のバス企業はまだ含まれていな い)を開始した。

S

バーン整備の効果もあり,シュツットガルト運輸連合の輸送人員数は

1978

年から

89

年の間に約

10% 増加し,運輸連合の中でもミュンヘンについで 2

番目の増加率を示 してい

26

る。

運営面での助成と協力システム(運輸連合制度),施設面での投資助成の

2

つによっ てドイツの都市はどのような特徴をもつようになったであろうか。

世界の

46

の主要都市における都市交通の調査によれば,通勤輸送における公共交通 の占める割合は,アメリカで

10.6%,オーストラリアで 15.4%,アジアの先進地域の都

市で

59.6%,その他のアジアの都市で 35.7% であるのに対して,ヨーロッパは 38.8%

である。ドイツのフランクフルトは

42.1%,ミュンヘンは 46.0%,ハンブルクは 38.1%

であり,ヨーロッパの中でも高い比率を示してい

27

る。

そのほかにも,大気汚染や交通事故死の割合についても,ヨーロッパ地域はアジアの 先進地域に次いで良好な結果を示している。一方,公共交通の運賃水準は

1

人キロ当た りを比較すると全地域の中では一番高く,公共交通のコストもオーストラリアに次いで 高いものとなってい

28

る。

財政上の問題をみると,ドイツ連邦政府の財政支出と交通関係支出の関係は,財政支

出の約

10% が交通関係支出となっている。さらに交通関係支出の内訳では,ドイツ連

邦鉄道への助成が実額でも比率でも経年的に増大してきており,ドイツ連邦鉄道の改革 直前の

1993

年では,助成は交通関係支出の

51.8%(政府支出の 4.9%)に上っている。

一方地域交通助成法への支出は

1967

年当初は交通関係支出の

6.5% であったが,2000

年では

8.2% となってい

29

る。

蠡章で述べたように,ドイツ連邦鉄道の株式会社化に伴い,それまで一括して国がド

イツ連邦鉄道に助成を行ってきた公共近距離輸送については,国から州に権限が移行さ れると同時に国からの交付金が各州に分配されることとなっ

30

た。その額は,本格的な施 行となった

1997

年が

61.4

億ユーロ(120億マルク,約

1

兆円)で交通関係支出の

28.0

────────────

Bundesministerium für Verkehr, Bau- und Wohnungswesen Verkehr in Zahlen 1990 ,p. 186.

J.R. Kenworthy, F.B. Laube An International Sourcebook of Automobile Dependence in Cities 1960−1990 University Press of Colorado 1999, p. 610.

8 同上,pp. 605−614.

Bundesministerium für Verkehr, Bau- und Wohnungswesen Verkehr in Zahlen 2000/2001 ,pp. 122−123.

0 地方分権化法(Regionalisierungsgesetz, 27. Dezember 1993)に基づく措置である。

同志社商学 第57巻 第5号(26年3月)

6(322

(15)

%,2000年が

67.7

億ユーロ(132億マルク,約

1.1

兆円)で交通関係支出の

33.8% に

上っている。

政治的な面では,2005年

9

18

日の総選挙で

2

大政党のキリスト教民主同盟・社会 同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)がいずれも過半数を得られず約

40

年ぶりに 大連立を組むという事態になった。公的資金を投じて交通網を維持してきたドイツが,

新自由主義的な政策を掲げるキリスト教民主社会同盟が政権に参画したことで,その後 に発表された政策において財政赤字対策の一環として,公共近距離旅客輸送に対する国 から地方への交付金について

2009

年に

30

億ユーロまで削減するとされてい

31

る。高負 担,高水準のサービスで環境やエネルギー効率の面にも配慮して公共交通を助成してき たドイツにおいて今後どのような議論が出てくるのが,注目されるところである。

────────────

http : //www.janjan.jp/world/0601/0601057387/1.php 2006110日。

ドイツにおける公共近距離旅客輸送の助成とその成果(青木) 323)1

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