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ランドマーク商品研究の論点 : 「誓約」と「商品 の社会性」の視点から

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ランドマーク商品研究の論点 : 「誓約」と「商品 の社会性」の視点から

著者 吉田 裕之

雑誌名 同志社商学

巻 63

号 5

ページ 625‑641

発行年 2012‑03‑15

権利 同志社大学商学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000012865

(2)

ランドマーク商品研究の論点

──「誓約」と「商品の社会性」の視点から──

吉 田 裕 之

はじめにかえて

Ⅰ マーケティングと製品差別化

Ⅱ 製品差別化の領域とその実現

Ⅲ 「誓約」と「商品の社会性」

おわりにかえて

はじめにかえて

著作

4

1

冊を数える。これらランドマーク商品研究の業績で展開された論点を集約すれ ば以下のようなものになろう。すなわち,

1

に,ランドマーク商品の定義問題 第

2

に,研究対象商品の選定(基準)問題 第

3

に,ライフスタイル(生活様式)の検討問題 第

4

に,ランドマーク商品研究の意味

である。

1

の論点については,まず,「生活スタイルの変化」と商品の関係を明示した際に

「ランドマーク商品」という商品の存在が認識される,という石川の問題提起をもって 嚆矢とな

2

す。この問題提起により,ランドマーク商品の定義問題が議論の的とな

3

る。こ れを受け,森田は,ランドマーク商品の定義問題自体にではなく,特定商品の「ランド マーク化」のプロセスに焦点を当てることで,この定義問題に迫ったのであ

4

る。すなわ ち,「商品の記号化(商品記号の誕生と言語記号の誕生)」プロセスを経て「代替盲の完 成」を成し遂げた商品だけが「商品の制度化」を顕在化させ,特定商品の「ランドマー ク化」が完了するとしたのである。

さらに,石川は,ランドマーク商品とライフスタイルとの関係についても問題提起す

────────────

1 石川健次郎編著『ランドマーク商品研究①』同文舘,2004年。同編著『ランドマーク商品研究②』同 文舘,2006年。同編著『ランドマーク商品の研究③』同文舘,2008年。同編著『ランドマーク商品研 究④』同文舘,2011年。

2 石川健次郎「なぜ,商品を買うのだろうか」(同書①,第1章所収)

2004年までに議論されたランドマーク商品の概念を概観するには,鍛冶博之「ランドマーク商品の概 念について」(同書①,第8章所収)を参照のこと。

4 森田雅憲「商品の制度化とランドマーク商品」(同書②,第1章所収)

625)261

(3)

5

る。しかしながら,ライフスタイル自体の議論,あるいは「ライフスタイルの変容」に 関する詳細な議論よりもむしろ,いわばランドマーク商品出現の「前提」として,「ラ イフスタイルの変容」の存在を提示するという認識に終始した議論展開におよんだた め,上述第

2,第 3

の論点を生む背景をなした。このような状況を踏まえ,瀬岡は,こ の定義問題に決着をつけるべく,社会構成主義的アプローチを知見として,彼の洞察力 をもって,以下のようにランドマーク商品の定義を導出す

6

る。

私たち人間との継続的・日常的関わりを通じて,より多くの人々の生活空間に 徐々に,あるいは急速に普及していくことによって,私たちのライフスタイル(す なわち,ものの考え方や態度,感じ方,表現の仕方や行動の仕方,対人関係のもち 方やコミュニケーション)を短期的にであれ,長期的にであれ,相対的に大きく変 容していく契機を内包すると考えられるモノ,あるいはより多くの人々がその日常 的利用を通じて,すでに自らのライフスタイルを徐々に変容しつつあると感じてい るモノ

上述したように,「ライフスタイル」あるいは「ライフスタイルの変容」についての 問題提起に起因する第

2

の論点は,数多の商品が存在する中で,何が具体的にランドマ ーク商品なのか,という議論を生み,ひいては,「日本生まれのランドマーク商

7

品」と いう選定基準の妥当性にたいする批判をもたらす背景となった。このような批判は言う までもなく,ライフスタイル自体の議論の稀薄性が背景にあり,したがって,「ライフ スタイルの変容」の意味内容についても,「変容の容易な社会と困難な社会」が存在す るという視点から,第

3

の論点をめぐる議論の必要性を強く意識させたのである。

この第

3

の論点に関して,「コミュニティ」との関連から議論を展開するのが,川満 と瀬岡である。「ライフスタイルの変容が困難な社会」として,川満はパキスタン社会 を,瀬岡は米国におけるアーミッシュ社会を例にあげ

8

る。彼らの議論展開の行き着くと ころは,ランドマーク商品の出現に関して,ライフスタイルの変容を前提とする,とい う視点をもって議論すれば,そのような変容が容易な(あるいは,容易であった)日本 社会のみにランドマーク商品という商品が認められる,と言うことになる。要するに,

日本社会ではランドマーク商品として認識された同一商品が,他の社会ではランドマー ク商品として認識されない場合がある,という議論への展開をみるにいたる。したがっ て,この帰結は,ランドマーク商品出現は日本社会に現れた固有の現象を物語るもの,

────────────

5 石川健次郎「ランドマーク商品と『生活の前提』」(同書③,第1章所収)

6 瀬岡 誠「ランドマーク商品と企業者史」(同書④,第7章所収,156ページ。)

7 石川健次郎,同書④,あとがき,182ページ。

8 川満直樹「ランドマーク商品の海外展開」(同書④,第6章所収),瀬岡 誠,同論文。

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ということになる。

すなわち,この議論は,筆者からすれば,それぞれの社会における行動規範や価値観 の多様性を基盤としたライフスタイルの多様性にくわえ,そのような多様性に富むライ フスタイルをもつ諸々の社会の相互依存性や相互関連性自体の議論を経ずに,「日本生 まれのランドマーク商品」を選定した『ランドマーク商品④』にたいする批判につなが る。さらに言えば,ランドマーク商品研究においては,「日本生まれ」とか「海外生ま れ」とか,そのような区分自体が争点となるのではなく,「海外生まれの商品」であっ たとしても,なぜそのような商品が日本社会ではランドマーク商品として認識されるの か,が議論されなければならないことに帰着する。

ここに,ランドマーク商品研究にたいする瀬岡の以下の記

9

述の重要性を指摘すること ができる。

ランドマーク商品の研究とは「単!!!!!!!!」ではなく,「商品と人とのか かわり」に焦点を当てながら,両者の相互作用の分析を通じて,私たちのライフス タイルの変化,ひいては社会や文化の変化を,その負性も含めて歴史的社会的に考 えてみようという,すぐれて学際的かつ「人!!!!!!!」なのである。

ながながと,「はじめにかえて」の項をかりて,批判的記述をしてきたのは,第

4

の 論点を導くためである。上述した瀬岡の記述を背景として,マーケティング学徒の立場 から,ランドマーク商品研究の意味を探ろうとするのが本論の主題である。

周知のごとく,ランドマーク商品研究においては,多彩な研究分野を背景にもつ研究 者によって,議論がなされてきた経緯をもつ。したがって,各人の研究分野を基盤とす るランドマーク商品研究にたいする見解や研究視座,あるいは分析アプローチに相違が みられることは事実であ

10

る。筆者の本論における問題意識は,マーケティングの根幹を なす製品差別化の視点から,ランドマーク商品研究の意味を明確にすることにつきるの であ

11

る。

────────────

9 瀬岡 誠,同論文,173ページ。

10 したがって,ランドマーク商品自体の分析手法も,研究者の属人的分析手法に偏ることも多々あったこ とは事実である。この弊害を解決した論文として,上村雅洋「複写機」(同書③,第2章所収)の功績 は大である。

11 筆者のこのような問題意識に多大な影響を与えたのは,瀬岡論文(同書④,第7章所収)であることは 言うまでもない。

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(5)

Ⅰ マーケティングと製品差別化

1.マーケティングとは何か?

マーケティングの定義については

AMA

のものが取り上げられることが多い。しか し,ここでの議論は,そのような定義ではなく,言わば企業行動の一つであるマーケテ ィングの研究視座を問うものである。

荒川は,資本主義経済・市場経済固有の問題である「市場問題」の解決

12

策を,P. ド ラッカーは,イノベーションとともにマーケティングを,顧客満足の獲得

13

策として,ま た,T. レビットは,顧客獲得と顧客維持

14

策を,それぞれマーケティングの研究視座と してあげていると言ってよい。そして,P. コトラーは,マーケティングを社会のニー ズを企業行動に結びつける媒介であるとし,あわせて,ソーシャル・マーケティングを 人々の行動を変える試

15

みであると言う。

さらに,コトラー等はソーシャル・マーケティングに関連して,「社会変革キャンペ ーン(Social Campaigns)」の意味を「ある集団(変革推進者=the change agent)が,他 の集団(変革受容者=the target adopters)に,あるアイデア・態度・習慣・行動を受け 入れさせ,変更させ,あるいは放棄させようとして計画的に実施する組織的な努力のこ

16

と」であるとしている。この指摘はランドマーク商品研究に重要な示唆を与えてくれて いる。けだし,後述するように,ランドマーク商品出現の要因として,筆者は,企業利 益を志向するコマーシャル・マーケティングと社会的問題の解決をはじめとする社会利 益を志向するソーシャル・マーケティングの双方の成果が深く関与しているのではない か,と考えているからである。

ともあれ,いずれの視座をもってしても,また,歴史的展開をみても,マーケティン グという企業行動の顧客にたいする手段として認識されるものが製品差別化であること に疑問の余地はないであろう。

2.製品差別化領域の拡がりの影響

例えば,家電製品にたいする

Innovation(技術革新)の影響をどのように理解すれば

────────────

12 荒川祐吉『現代配給論』千倉書房,1960年,および,『マーケティング・サイエンスの系譜』千倉書 房,1973年。

13 P.ドラッカー(野田一夫監修・現代経営研究会訳)『現代の経営 上・下』ダイヤモンド社,1965年。

14 T. レビット「マーケティングの指針」『ダイヤモンド・ハーバード・レビュー』20016月号,36−47 ページ。

15 P.コトラー「マーケティング・マインドの追求」『ダイヤモンド・ハーバード・レビュー』20042 号,39−49ページ。

16 Kotler. P. and Roberto. E. L.,Social Marketing,The Free Press, 1989, p.6.(井関利明監訳『ソーシャル・マ ーケティング−社会変革のための戦略−』ダイヤモンド社,1995年,6−7ページ。)

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よいだろうか。

Innovation

によって,端緒的には製品自体の耐久性は強化されるが,一方で,購買頻

度の減少にともなう買い替え需要の減少が当然推測される。したがって,計画的陳腐化 政策が導入される結果,モデル・チェンジの頻度とその質的内容が企業のマーケティン グ行動のカギとなる。また,製品自体の形態や機能については,製品の高付加価値化,

すなわち,部品・材料の高度化によって製品の軽薄短小化傾向に拍車がかかり,これを 基盤として,製品の多機能化とシステム化が進展する。すなわち,Innovationは,製品 差別化の多様性とともに,市場の創造に計り知れない力を秘めているということにな る。

この結果,ますます多種多様な製品が輩出されてくるとともに,その代替製品が市場 に溢れるだけではなく,同業他社のみならず,異業種企業の参入が容易になることによ る競争激化をもたらし,市場環境が一変する。このような市場環境の変化は家電製品だ けにとどまらない。Innovationによる製品の多様性・代替性の進展が,あらゆる製品に 顕在化していることは周知の事実である。

このような状況は,消費者の製品選択行動にも影響を及ぼす。溢れる製品の中から比 較選択するには,消費者の購買時の選択基準・評価基準となりうる製品(消費者にとっ ての標準商品)の存在が必要となるからである。したがって,企業においては,そのよ うな選択基準や評価基準になりうる「標準製品」を輩出できるか否かということが,い わゆる市場占拠率の獲得以上に重要な課題となる。そのような消費者にとっての選択基 準・評価基準となる「標準製品」の地位獲得に見合う製品差別化を実現せねばならない からである。

さらに,以下にあげる要素が,製品差別化の領域を拡大させる。すなわち,

1

に,生産様式の変化 第

2

に,ブランド価値の多様性 第

3

に,サプライ・チェーンの進展

4

に,企業の社会的責任・社会的貢献の浸透 である。

1

の要素は,インテグラル型からモジュラー型生産様

17

式の移行である。このモジュ ラー型生産様式を製品差別化の関係から理解すれば,製品の全体設計とモジュール間の

────────────

17 インテグラル型およびモジュラー型生産様式に関する詳細な分析は,

藤本隆宏『生産システム進化論』有斐閣,1997年。

藤本隆宏『能力構築競争』中公新書,2003

国領二郎『オープン・アーキテクチャー戦略』ダイヤモンド社,1999年。

安室憲一『中国企業の競争力』日本経済新聞社,2003年。

等を参照のこと。

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(7)

接合(インタフェイス)の開発・生産に焦点があてられるため,開発期間の相対的短縮 化をもたらす。すなわち,モデル・チェンジの頻度を上昇させる反面,モジュールや製 品機能が同質化する傾向が顕著なため,製品差別化が困難となる側面をもつ。さらに は,従来の「釣鐘型プロダクト・ライフ・サイクル」として普及曲線をもつ製品よりむ しろ,「急速浸透型プロダクト・ライフ・サイクル」の普及曲線をもつ製

18

品の排出を見 るにいたる。

2

の要素は,ブランド価

19

値にまつわる問題である。ブランド自体は製品差別化の有 力な手段であるが,「ブランドがつくりだす価値」と言ってもその意味内容は

2

つある ように思われる。1つは,Brand-Identityであり,他の

1

つは

Brand-Value

である。消費 者にたいして,前者はいわば,お金に換算できない価値を醸成する一方,後者は,お金 に換算可能な価値を醸成すると考えてよい。したがって,Brand-Identityを志向すれば 製品開発力を高める必要があり,Brand-Valueを高めるには販売力強化を志向しなけれ ばならない。しかも,留意すべき点は,Brand-Identityも

Brand-Value

も「二分法」と してとらえるべきものではないということである。Brand-Identityという価値をつくり あげた企業は,

Brand-Value

という価値をつくることも必要になってくるし,

Brand-Value

という価値をつくりあげた企業にとっては,Brand-Identityという価値をつくりあげな ければならなくなってくるからである。

さらに,市場のグローバル化にともない,ブランド価値の相対的地位が多層階層をな すという点を忘れてはならない。企業が自社製品のブランド価値をどの階層レベルで構 築するか,という議論である。すなわち,グローバル・ブランド,リジョナル・ブラン ド,ナショナル・ブランド,ローカル・ブランドのいずれのレベルで,自社製品のブラ ンド価値を構築するかである。言うにおよばず,相対的にではあるが,グローバル・ブ ランドを志向すればするほど,製品差別化は困難になり,ローカル・ブランドを志向す ればそれほどに,製品差別化たいしては意識せずにすむ。

3

の要素は,サプライ・チェーンの起点をどのように考えるかの問題である。ここ で,製造業に起点をおけば,サプライ・チェーンはロディステクス(部!!調!!!!!!)と生産システム(アッセンブリー・システム)との融合システムとして理解する場 合が多い。しかしながら,小売業を起点とすれば,サプライ・チェーンの理解は,ロデ ィスティクス(商!!調!!!!!!)と品揃え形成システムとの融合システムという意味 をなす。小売業者においては,いかに品揃え(商品の種類・量・品質・価格の組合せ)

を完成するかが課題となるからである。

────────────

18 その嚆矢的な論文として,山田昌孝・古川竜二「新製品普及パターンの分類」(『マーケティング・サイ エンス』1995年,Vol.4 No 1・2, 16−36ページ。)をあげることができる。

19 石井淳蔵『ブランド−価値の創造−』岩波新書,1999年。特に第4章。

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(8)

したがって,生産者や製造業者における生産物(製品)それ自体は「完成品」である が,そのような「完成品」自体は,小売業者にとっては自社の品揃えを構成する「1個 の部品」に過ぎな

20

いという考えが成立する。すなわち,個々の製品レベルにおける製品 差別化を志向する製造業者と,そのような製品の品揃えによって店舗差別化を志向する 小売業者とでは,サプライ・チェーン自体の概念は相違するのである。

4

の要素は,企業利益の志向と企業の社会的責任・社会的貢献による社会的利益の 志向との関係が,製品差別化だけでなく企業の差異化を実現するという問題である。従 来,マーケティングにおいては,企業利益と社会的利益との関係は「トレード・オフ」

とみなされてきた経緯をもつ。しかしながら,M. ポーター等による「共創価値」の議

21

論や

C. K.

プラハラッド等のよる「the Base of Pyramid(BOP)」の議

22

論は,ソーシャル

・ビジネスや

BOP

ビジネスという名称のもとに,社会問題の解決という社会利益の追 求がビジネス・チャンスを生み,企業利益をもたらすことを意味す

23

るもの,として理解 されるのである。

以上

4

つの要素は,すべての製品の差別化たいして一様に影響を与える要素では無論 ない。しかしながら,現実にはもはや,製品差別化は製品自体の枠を超えて,あらゆる 企業活動の成果を取り込む形で実現されなければならない状況にいたっているのであ る。製品差別化の領域が拡大傾向にあるということに間違いはないと言える。ここに,

製品差別化の領域とその実現について検討する意味がある。

Ⅱ 製品差別化の領域とその実現

1.製品差別化の領域

実のところ,製品差別化についての議論は,製品差別化の概念自体よりむしろ,競争 にたいする認識や形態との関連から議論がなされてきた経緯をもつ。

────────────

20 三菱自動車の電気自動車のヤマダ電機での販売の事例を思い出してほしい。(日本経済新聞,201012 22日付。)

21 Porter. M. and Kramer. M. R., Strategy and Society : Link Between Competitive Advantage and Corporate Social Responsibility HBR,December, 2006.(村井裕訳「競争優位のCSR戦略」『ダイヤモンド・ハーバ ード・ビジネス・レビュー』2008年,1月号,36−52ページ。)および, Creating Shared Value HBR,

January-Febrary, 2011.(DHBR編集部訳「共創価値の戦略」『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レ

ビュー』2011年,6月号,8−31ページ。)

22 Brugman. J. and Prahalad. C. K., Cocreating Business’s New Social Compact HBR, February, 2007.(鈴木 靖男訳「BOP市場を開発する企業とNGOの競争モデル」『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レ ビュー』2008年,1月号,64-78ページ。)および,Rangan. C. K. Chu. M. and Petkoski. D. P., Segmenta- tion the Base of Pyramid HBR, July, 2011.(DHBR編集部訳「貧困層セグメンテーション」『ダイヤモン ド・ハーバード・ビジネス・レビュー』2011年,10月号,66−76ページ。)等。

23 例えば,ファーストリテーリングによるバングラディッシュ共和国での衣料品の生産や住友化学よるア フリカでの蚊帳事業(商品名:オリセットネット)等,ソーシャル・ビジネスやBOPビジネスの事例 は多々存在する。(日経MJ, 201211日付。)

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(9)

例えば,W.オルダーソンは,差別的優位性の要素として,

①市場細分化を通しての差別化

②訴求の選択による差別化

③交変系のよる差別化

④製品改良による差別化

⑤工程改良による差別化

⑥製品革新による差別化 をあ

24

げ,製品差別化を,他の売手と異なった製品を供給する売手は,実際には,この限 られた意味での独占的地位を占め

25

るための手段であるとする。しかも,上述した製品差 別化領域の拡がりとの関連に則して言えば,生産様式の変化は工程改良と製品改良およ び製品革新による差別化に,ブランド価値と企業の社会的責任・貢献は訴求の選択や市 場細分化を通しての差別化に,サプライ・チェーンの進展については交変系による差別 化につながるものと解釈できる。

また,石原は,価格競争と非価格競争という競争形態の議論のなかで,製品差別化を とりあげてい

26

る。つまり,経営戦略論やマーケティング論では,競合企業との差別化・

差異化を非価格競争として重要視してきたのにたいし,正統派経済学や独占禁止政策論 では,非価格競争を極小化し,価格競争の重要性を強調してきたとの認識から,議論展 開をする。

価格切り下げをその代表的形態とする価格競争と,製品差別化をその代表形態とする 非価格競争との二分法における議論では,価格競争が極めて狭義に定義されており,し たがって,その残余概念としての非価格競争は,その広範な領域をカバーする形態とし て理解されるにもかかわらず,静態的理解しかなされてこなかったため,非価格競争が 製品差別化と同一視されるという,いわば矮小化された競争観によって評価されてきた と指摘する。このような競争観の前提にあるのは,需要は所与であり,したがって,製 品差別化は「無駄な欲望操作」との認識であるため,価格競争においては,これ以外の ものはすべて与件であるがために,価格切り下げのみが想定されるとするのである。

競争であるかぎり,すべての企業努力は,自己の提供物と価格との関係が,買い手に とってヨリ有利に提供される方向へと向かわせる動因を背景として成立するため,上述 したような単純な二分法で区別できるものではない。したがって,このような二分法 が,競争における長期的・動態的視点の排除をうながし,製品の改善と価格の低下との

────────────

24 Alderson. W.,Dynamic Marketing Behavior,Irwin. 1965, p.185.(田村正紀他共訳『動態的マーケティング 行動』千倉書房,1981年,222ページ。

25 Alderson. W.,Marketing Behavior and Executive Actin,Irwin, 1957, p.105.(石原武政他共訳『マーケティン グ行動と経営者行為』千倉書房,1984年,119ページ。)

26 石原武政「競争形態と競争効果」『ビジネス・レビュー』Vol.41, No 2, 1993年,1−13ページ。

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(10)

関係を看過することにつながるとする。すなわ

27

ち,

現実には,非価格的競争努力は同じ製品の費用関数の改善だけではなく,新た な,ヨリ高次の製品をも衝動づける。競争的努力は与えられた製品の生産関数を無 限に小さくする方向で展開されているのではない。その過程で,ヨリ高次の,した がって,ヨリ高費用の製品が開発され,今度はその製品の費用削減が図られる。

また,M.ポーターは,参入障壁の視点から製品差別化に言及する。すなわ

28

ち,

製品差別化というのは,過去からの宣伝,顧客サービス,製品の差違,または単 に業界第一先行企業だということが原因で,既存の企業のブランド認知が高く,顧 客の忠実度をかち得ていることをいう。差別化が存在すると,新規参入者は既存の 顧客忠実度に負けないために膨大な宣伝費を投入しなければならないから,参入障 壁になるのである。このために,ふつうはスタート時での赤字はまちがいなく,ま た,この努力は長い期間続けなければならない。ブランド名を確立させるための投 資は,参入に失敗したら元も子もなくなるのだから,特にリスクが大きい。

このような議論が示唆するところは,なぜ,モデル・チェンジによって導入された

(製品差別化を実現した)新製品は,既存製品よりも高価格になるのか,という問いに たいする答えにある。ある大手家電メーカーのエンジニアは,新製品導入における最大 の危惧は「故障や不具合」(の発生によるブランドへの信頼性=参入障壁の喪失・崩壊)

であると言う。であるからこそ,新製品に使用される部品には最大の注意を払う。故障 や不具合を回避するために,必要以上の品質・性能を担保する上質の部品=高価格の部 品を使用するが,導入後,なんら故障や不具合が認められない場合,ある一定の期間が 過ぎれば,当該部品をヨリ安価なモノに交換することで,劇的に新製品の価格引下げを 実現するのだと言う。しかも,家電製品の場合には,家電量販店の価格設定と相まっ て,既存製品にたいしては一層の低価格販売が実施されるため,結果的に当該製品全体 の価格引下げをさらに実現することとなるのである。

このように,彼らの議論の意図するところは相違するが,製品差別化においては,そ の概念自体の議論よりもむしろ,その領域自体が問題となる。我々にとって,一般化し

────────────

27 石原武政,同論文,4ページ。

28 M. ポーター著,土岐 坤他共訳『競争の戦略』ダイヤモンド社,1982年,24ページ。なお,Porter.

M., The Five Competitive Forces that Shape Strategy HBR, January-Feburary, 1979. およびChapter 3 in Strategic Management,ed. by Hamermesh. R. G., Harvard Business Review, 1983. pp.35−49.もあわせて参照 されたい。

ランドマーク商品研究の論点(吉田) 633)269

(11)

感謝 活動 ユニセフ

ユニセフ・

グッズ

寄付行為 市民

寄付行為者

対象者・層

感謝

・感謝をグッズで形にした

・寄付行為の継続性を担保

ている

4 P’s

とマーケティング・ミックスの概念図を思い出してほしい。マーケティン

グ・ミックスは

4 P’s

の標的顧客層に対する最適組合せ,と言われるが,換言すれば,

製品差別化の領域あるいは要素を明示しているとも言えるのである。いずれにせよ,製 品差別化の領域をどのようにとらえ,実現するかという問題が依然として残る。

2.製品差別化の実現

製品差別化の実現について,どのように議論すればよいのであろうか。ここでは,非 営利組織のマーケティング活動から得られる知見が役立つ。

看見すれば,非営利組織がかかえる問題点は以下のように集約できよう。すなわち,

非営利組織における組織的活動の継続性において,必要となる資金の多くは寄付金にあ るが故に,継続的な寄付金獲得が課題となる。しかしながら,そのような組織的活動自 体と寄付行為(者)とには,原則として互恵性はなく,また,そのような組織活動の対 象者(層)と寄付行為者とは直接的な接点もない。言うなれば,反復的あるいは継続的 な寄付行為は限定的とならざるを得ない。このような問題の解決に

1

つの解を示すのが ユニセフの活動である。ユニセフは第

1

図が示すように,広く市民に「ユニセフ・グッ ズ」を提供することで,寄付行為者としての感謝の意を表し,市民は寄付行為者として

「ユニセフ・グッズ」を得ることで,「ユニセフ・グッズ」の購買と言う意識もほとんど なく,寄付行為の継続を担保できるのである。

ユニセフの活動から得られた知見は,本来,感謝という無形性なものを「ユニセフ・

グッズ」に有形化したことにある。ここに,製品差別化実現の方向性や在り様を理解す ることができる。このような方向性やその在り様の議論を展開するのが,T. レビット

1図 ユニセフの活動

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270(634

(12)

であ

29

る。彼は,製品における無形性は,顧客にたいする「誓約」であり,その有形化の 失敗は「信頼性の喪失」であるとす

30

る。

無形財であるサービス自体であっても,当該サービスの内容を有形化することによっ て,また,有形財である製品にあっても,その無形性を「誓約」として有形化すること で,製品差別化を実現できるとしたのである。したがって,レビットの議論から得られ る知見は,無形財と有形財という二分法ではなく,いかなる財であっても,その無形性 を見出し,いかに「誓約」として有形化するか,が製品差別化の実現につながることに なる,と言ってよい。

ここで,電気自動車の製品差別化を「無形性の有形化」を視点に考えてみよう。言う までもなく,電気自動車は,単なる移動(輸送)手段のみではなく,エネルギー問題や 環境問題の解決という社会利益(=無形性)を有形化したものであると言える。しか も,電気自動車は,家庭用太陽光発電システムを構成する

1

つの要素としても認識され ている。東日本大震災を経験した我々とって周知のように,このようなシステムの拡が りは,住宅という枠組のなかで,電気自動車の蓄電機能が他の家電製品(=補完製品)

とのシステム化を可能にするが故に,災害時の電力供給機能を提供する(という「誓 約」を有形化したもの),といった点でも着目されているからである。まさに,無形性 の有形化によって製品差別化を「誓約」として実現し,実現された製品にたいしてさら なる無形性を見出し,その有形化によって新たな「誓約」を有する製品差別化の実現が なされる,という「無形性の有形化の連鎖」が見てとれるのである。

3.製品差別化とランドマーク商品の出現

「まえがきにかえて」において述べたように,筆者の問題意識は,ランドマーク商品 研究を製品差別化の視点から言及することにある。そしてまた,上述したように,ラン ドマーク商品出現の要因として,筆者は,企業利益を志向するコマーシャル・マーケテ ィングと社会問題の解決をはじめとする社会利益を志向するソーシャル・マーケティン グの双方の成果が深く関与しているのではないか,と考えている。上述した電気自動車 の出現は,コマーシャル・マーケティングとソーシャル・マーケティング双方の成果 を,製品差別化(=電気自動車にみられる無形性の有形化によるもの)に具現化したも のであると言える。

しかし,以上の記述をもってしても,本論の目的であるランドマーク商品研究の意味

────────────

29 Levitt. T., Marketing Intangibles Product and Product Intangibles HBR,May-June, 1981, pp.94−102.(DHBR 編集部訳「無形性のマーケティング」『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー』2001年,11 月号,86−97ページ。)なお,レビットの「無形性の有形化」のランドマーク商品への示唆については,

吉田裕之「エレベータ」(『ランドマーク商品③』第5章所収)を参照のこと。

30 Lvitt,Ibid.,p 96.

ランドマーク商品研究の論点(吉田) 635)271

(13)

を明確にしたとは言えない。問題は依然として残っている。このことは,「ライフスタ イルの変容が容易な社会と困難な社会が存在する」という現実にたいして,マーケティ ング研究によって蓄積された知見をもって,どのように記述説明できるか,を問われて いるから他ならない。

この問題解決への示唆こそ,

P.

コトラー等による「社会変革キャンペーン(Social Cam-

paigns)」の考え方にある。繰返しをおそれず述べれば,以下の引

31

用である。

ある集団(変革推進者=the change agent)が,他の集団(変革受容者=the target

adopters)に,あるアイデア・態度・習慣・行動を受け入れさせ,変更させ,ある

いは放棄させようとして計画的に実施する組織的な努力のこと

ここでコトラーが想定しているのは,例えば,開発途上国での,予防接種や経口補水 療法の普及,家族計画,識字率の向上等々であり,変革推進者の最終目標として,変革 受容者の行動を変えることにある。しかし,筆者が考えるところ,上述の引用が示唆し ていることは,社会変革キャンペーンにおいてだけではなく,我々が日常的に使う製品 であっても,適用が可能な考え方ではないか,という問題意識にある。このことは,換 言すれば,変革推進者が企業であった場合,自社製品をもって変革受容者の行動を変え るには,対象となる変革受容者の集団や社会をどのように認識するのか,という問題意 識である。

住友化学の「オリセットネット」の事

32

例を見てみよう。オリセットネットは,長期

(5年以上)にわたって,防虫剤の残効能力を維持する「蚊帳」である。繊維に練りこ まれた防虫剤が,洗濯等によって繊維の表面の薬剤成分が洗い流されても,繊維の中か ら薬剤成分が染み出す特徴をもつ。マラリアを媒介する蚊から,アフリカの人々を守

33

る だけではなく,同社はその製造技術をアフリカの企業に無償提供し,例えば,タンザニ アにおける現地生産を実施することによって,

2010

8

月現在で,年間生産能力約

2,900

万張り,約

7,000

名にのぼる雇用を創出したことで知られている。

「蚊帳」自体が,日本におけるランドマーク商品であるか否かの議論はさておき,ア フリカ社会における「蚊帳」の普及という社会利益の追求をもって,アフリカ社会の 人々のライフスタイルが変容する可能性を,我々は容易に想像できよう。この事例から 得られる知見は,変革推進者である住友化学という企業が,オリセットネットという製

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31 引用16に同じ。

32 http : //www.sumitomo−chem.co.jp/csr/africa/olysetnet.html. http : //www.sumitomo−chem.co.jp/csr/africa/pro- duction.html.(最終アクセス,201215日)

33 同社では,201110月,ケニアのスーパー・マーケットで,発売を開始した。(日経MJ 20121 1日付。)

同志社商学 第63巻 第5号(2012年3月)

272(636

(14)

住友化学

(変革推進者)

アフリカ社会の人々

(変革受容者)

オリセットネットの供給・雇用の機会

(製品差別化による社会利益の追求)

住友化学への賛意・共調

(ライフスタイルの変容)

ランドマーク商品出現?

品をもって製品差別化を実現し,変革受容者であるアフリカ社会におけるライフスタイ ルの変容をもたらした(あるいは,もたらす可能性を示した)ということである。まさ に,アフリカ社会にとってのランドマーク商品出現であると言えよう。

この事例から,容易に理解できることは,変革推進者は住友化学であり,変革受容者 はアフリカ社会(ケニア社会やタンザニア社会)に暮らす人々である,ということであ る。そして,両者を媒介するものが製!!!!!!!!!!!,ということになる。両者 の関係を図式化すれば,第

2

図のようになる。

「オリセットネット」の事例から得られた知見と,変革推進者と変革受容者というコ トラーの指摘をもって,「ある集団(=変革受容者)のライフスタイルの変容」を,ど のように理解すればよいのであろうか。換言すれば,マーケティング研究の蓄積から,

「ある集団(=変革受容者)のライフスタイルの変容」について,記述説明することが 次章の目的である。

Ⅲ 「誓約」と「商品の社会性」

1.「ブランド・コミュニティ」におけるライフスタイル・行動・価値観

製品差別化による顧客関係性の視点から,特定のブランドに結びついたライフスタイ ル・行動・価値観を共有する熱心なユーザーによって組織されている「ブランド・コミ ュニティ」の再検討を提示したのが,S. フォルニエ

34

等である。彼らは,コミュニティ

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34 Fournie. S. and Lee. L., Getting Brand Communities Right HBR, April, 2009.(DHBR編集部訳「ブラン ド・コミュニティ7つの神話と現実」『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー』2010年,10 月号,116−131ページ。)

2図 変革推進者(住友化学)と変革受容者(アフリカ社会の人々)との関係

ランドマーク商品研究の論点(吉田) 637)273

(15)

への帰属形態として,

①プール型(pools)

②ウェブ型(webs)

③ハブ型(hubs)

3

つの基本

35

形があるとしている。プール型は,共通の活動や目標,価値観によって結 びついているが,メンバー間での交流は緩やかであり,ウェブ型では,メンバー間での 個人的な関係を基に,自分と同じニーズ,あるいはそれを補完するニーズの持ち主と

1

1

の強固な関係を築いており,また,ハブ型は,コミュニティの中心的なメンバーと 強く結びついてはいるが,メンバー間での交流は少ない,といった特徴をもつ。

したがって,帰属形態は様々であると言えるが,あるブランド・コミュニティのメン バーは,その「内側」から自己のコミュニティ(のライフスタイル,行動,価値観)を 自ら認識すると同時に,他のブランド・コミュニティにたいしては,「外側」から,当 該ブランド・コミュニティ(のライフスタイル,行動,価値観)を識別・確認するとい うことになる。これが意味することは,ブランド・コミュニティがもつ独自の行動規範

・行動様式の共有の程度が,ブ!!!!!!!!,メンバー個人の価値観に多大な影響を 与えると同時に,そのライフスタイルや行動を規定している,ということになろう。こ のようなブランド・コミュニティは,IT機器内における仮想コミュニティ空間(いわ ゆる,ソーシャル・ネットワークやソーシャル・メディアを含めて)は言うにおよば ず,ディズニーランド(ディズニーストア)や,スターバックスやマクドナルドの店舗 空間にいたるまで,ブランド・コミュニティがもつライフスタイル,行動,価値観の共 有の程度の差はあっても,広範に認識することができる。

ブランド・コミュニティは,製品差別化の実現手段であるブランド(や製品それ自 体)の使用を中核とした,企業のコマーシャル・マーケティングの成果物と言える。し かしながら,ブランド・コミュニティの規模,地域といったコミュニティのメンバー=

集団の範囲があまりにも限定されているからとの理由から,そのようなブランド(製 品)のすべてをランドマーク商品と呼ぶことはしない。しかしながら,ブランド・コミ ュニティのメンバーにたいして,彼ら自身のライフスタイル,行動,価値観の共有の程 度に差はあっても,当該ブランド(製品)は,その利用(しかも,熱狂的な使用)をも って,確かに,メンバー自身のライフスタイルの変容をもたらしたに違いない商品であ る。コミュニティの規模の大小や地域といった範囲の広狭は相対的なものに過ぎず,こ の点だけを理由にランドマーク商品ではない,とは言えないのである。

「ライフスタイルの変容がランドマーク商品出現の『前提』である」という石川の問 題提起にしたがえば,ブランド・コミュニティにおける当該ブランド(製品)は,まぎ

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35 DHBR編集部訳,同論文,121ページ。

同志社商学 第63巻 第5号(2012年3月)

274(638

(16)

れもなく,ランドマーク商品として認識されるはずである。そのように理解してよいの であろうか。否,筆者は,幾ばくかの違和感を覚える。

2.「誓約」と「商品の社会性」

これまで,本論で言及してきた諸論点にくわえ,新たに,ブランド・コミュニティか ら得られた知見を基に,「商品の社会性」について言及することは可能であろうか。こ こで言う「商品の社会性」とは,企業が変革推進者として企業利益を志向するコマーシ ャル・マーケティングと社会利益を志向するソーシャル・マーケティングの双方の成果 に依拠することで,変革受容者である社会(あるいは,ある集団)におけるライフスタ イルの変容をもたらすような製品をランドマーク商品として出現させること,を意味す る。この「商品の社会性」の考えの基盤となっているものが,ある社会やある集団にと っての,製品差別化(=無形性の有形化による「誓約」の実現)の態様である,ことは 言うまでもない。

上述した,ブランド・コミュニティにおける当該ブランド(製品)との,決定的な相 違は,この「商品の社会性」にある。繰返し述べるが,ブランド・コミュニティは,企 業利益を志向するコマーシャル・マーケティングの成果物であり,社会利益を志向する ものではない。もちろん,ブランド・コミュニティにおける当該ブランド(や製品)の なかには,社会問題の解決や社会利益の追求に寄与するものもあるに違いないし,その ようなコミュニティ自身が社会的貢献をなす場合も想定できうる。が,しかし,自動車 はランドマーク商品であるが,ポルシェ自体は,我々が意味するランドマーク商品では ない,と言えよう。

ここで,議論の必要があるのは,「社会問題」や「社会利益」意味内容であり,変革 推進者と変革受容者との関係であろう。一般的に言って,「社会」は,集計単位をどの ように認識するかによって,当該「社会」たいする認識の在り様は異なってくる。この ことは,とりもなおさず,「社会」というものを,集計単位を基礎に言及した場合には,

家族・学校・企業は言うにおよばず,あらゆる集団や組織が「ある社会」として該当す るし,また,地域やコミュニティや国家をも,社会を構成する集計単位の

1

つであると 認識できることを意味する。

したがって,「社会問題」と一言で表現しても,1つの集計単位である,あ!!!!

(あるいは,あ!!!!)には問題として認識されていても,他の集計単位である,他!!!!(あるいは,他!!!!)では,何ら解決すべき問題とは認識されない場合もありう る,と言える。したがって,「社会利益」もまた,同様に,あ!!!!では社会利益と認 識されても,他!!!!ではそのようには認識されない場合もありうるのである。

また,変革推進者の集団としての企業自身が,当初から「社会問題の解決」や「社会

ランドマーク商品研究の論点(吉田) 639)275

(17)

利益の追求」を意図して,製品を市場に導入してきたわけではない場合が多々ある。そ して,今日のように,社会的責任・社会的貢献の重要性の「うねり」とも言うべきもの に鑑み,当初から,企業行動の一環として「社会問題の解決」と「社会利益の追求」を 意図に,製品の市場導入を図るということもある。このような企業側の意図を前提とし ても,ある社会(あるいは,ある集団)のメンバーである人々が,当初から,自分たち を変革受容者であると認識する場合などは,在りえるものではないのである。このこと は,とりもなおさず,一方に変革推進者である企業が存在していれば,必然的に変革受 容者としてのある社会(あるいは,ある集団)が他方に存在するという構図を前提にす べきではない,ということになる。このように理解すると,「商品の社会性」とは,企 業が,ある社会(あるいは,ある集団)にたいして実施する能動的な活動を意味するこ とになる。

したがって,企業の製品差別化の実現(=無形性の有形化による「誓約」の提示)へ の態様が,ある社会(あるいは,ある集団)の人々に,企業利益としてだけではなくむ しろ,社会利益の向上として認識され容認されるには,企業の意図するところであるか 否かにかかわらず,また,好むと好まざるとにもかかわらず,企業が変革推進者の役割 をになうことができるかどうか,に依存する。そのためには,そのようなある社会(あ るいは,ある集団)のメンバーである人々が,「誓約」の意味内容(=製品差別化の態 様)をどのように理解するか,にも大きく依存する。製品差別化の領域の拡大は,「誓 約」のもつ意味内容の多様性と複雑性をもまた意味しているのである。

本来,ある商品を購入し,使用するという行為自体は,あくまでも個人的な満足を得 るためのものである。そのような個人的な行為として認識されるものにおいて,社会問 題の解決,あるいは社会利益のへの貢献につながる「誓約」を導出するのが,変革推進 者としての企業の役割である。ひとえに,「商品の社会性」は,製品のもつ「誓約」の およぶ範囲とその認識=製品差別化の領域とその実現,に依拠していると言えるのであ る。

このように「社会問題」や「社会利益」の意味内容視点から,ランドマーク商品出現 の態様に関する議論を深めていく際に,キー・ワードとなるのは「コミュニティ」であ るに違いはない。したがって,変革受容者の集団をどのように理解するかは,1つの集 計単位として「コミュニティ」をどのように認識するのか,にかかっている。しかしな がら,そのような「コミュニティ」についての分析・研究には,歴史的社会的な議論,

あるいは文化的な議論を展開する必要がある。しかし,筆者には,現在のところ,「コ ミュニティ」に関するそのような知見はなく,浅学を恥じている。したがって,本論で は,マーケティングの知見からのみ,ランドマーク商品研究の論点を明らかにしてきた に過ぎない。

同志社商学 第63巻 第5号(2012年3月)

276(640

(18)

おわりにかえて

「三種の神器」とか「3 C」という言葉がある。また,「大衆」「分衆」「個衆」という 言葉も,かつて,しばしば耳目の焦点となったものである。ランドマーク商品研究にお いては,このような言葉が,なぜ,日本という社会に生まれたのかを検証する必要があ るだろう。ランドマーク商品研究においては,まず,日本という社会における「コミュ ニティ」の意味内容を議論する必要性を強く求められる。なぜなら,現在のところ,こ こで指摘できることは,これらの言葉はすべて,ライフスタイルと商品との関係を示す 際に使用されたものである,と言えるからである。

ライフスタイルは,ある集団(それが社会であろうと,また「コミュニティ」であろ うと)がもつ価値観に裏打ちされた行動規範や生活規範が,行動様式や生活様式に顕在 化したもの,として理解できる。とするならば,「商品の社会性」は,ある集団とある 集団が個々に有するライフスタイルの相互関係性を,製品差別化の実現にかかる「誓 約」を媒介として,問いなおす視座であるとも言える。このことは,とりもなおさず,

我々は,これまで当然のごとく使用し,認識してきた「市場」にたいする固定観念から 解放されなければならないのかも知れない。そのためには,「商品の社会性」を視点と したランドマーク商品研究のさらなる展開にとって,Segmentationから

Community

へ の認識の変換が必要であると言えるのである。

ランドマーク商品研究の論点(吉田) 641)277

参照

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