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(1)

引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界 : フラ ンスにおける「契約の対抗」理論の一断面

著者 荻野 奈緒

雑誌名 同志社法學

巻 65

号 2

ページ 473‑589

発行年 2013‑07‑31

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000014582

(2)

(   )引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界同志社法学 六五巻二号一九三

― ― フ ラ ン ス に お け る ﹁ 契 約 の 対 抗 ﹂ 理 論 の 一 断 面 ― ―

荻    野    奈   

Ⅰ  1  2 Ⅱ  1  2  3 Ⅲ  1  2 

四七三

(3)

(   )同志社法学 六五巻二号一九四引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界

 3  4  5 Ⅳ  1  2  3  4  5 Ⅴ  1  2  3 Ⅵ  1  2  3  四七四

(4)

(   )引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界同志社法学 六五巻二号一九五

Ⅰ  は じ め に

 1 問題意識 我が国において、労働者を引き抜いた第三者の不法行為責任の成否は、いわゆる債権侵害ないし契約侵害の問題の一環として論じられてきた 1

。すなわち、従来の通説によれば、引抜き事例は、﹁債権の目的たる給付の侵害の場合﹂のうち﹁給付を侵害するが債権は消滅しない場合﹂に含まれる。そして、同類型においては、第三者の行為の違法性が特に問題とされなければならず、不法行為の成立は限定的にしか認められない。具体的には、第三者の不法行為責任は、債務者を教唆するか少なくとも債務者との通謀がある場合で、かつ、詐欺・強迫に類する手段に訴えた場合や不正競争として排斥される場合にのみ成立することになる 2

。他方、近時の有力説によれば、引抜き事例は一つの紛争類型を構成する 3

。いかなる場合に第三者の不法行為責任が成立するのかについては、必ずしも見解の一致をみているわけではないが、単なる引抜きの場合と労働者が競業避止義務を負っていた場合とに分けたうえで、前者の場合に第三者が不法行為責任を負うのは害意等の特別の事情があるときに限られるのに対し、後者の場合には悪意の第三者は原則として不法行為責任を負うと解するべきだとの主張や 4

、引き抜いた側の職業選択の自由・営業の自由と、引き抜かれた側の営業利益とを衡量すべきだとの主張 5

がなされている。もっとも、このような契約侵害論からのアプローチに対しては、具体的な結論を導くものではないとの指摘もなされている 6

。 裁判例に目を向けると、﹁ある企業が競争企業の従業員に自社への転職を勧誘する場合、単なる転職の勧誘を超えて社会的相当性を逸脱した方法で従業員を引き抜いた場合には、その企業は、雇用契約上の債権を侵害したものとして、右引抜行為によって競争企業が受けた損害を賠償する責任がある 7

﹂等として、債権侵害ないし契約侵害の問題であるこ

四七五

(5)

(   )同志社法学 六五巻二号一九六引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界

とを明示するものがある一方で

)8

、このことには言及しないまま、第三者の不法行為責任の成否について判断するものも多い 9

。 以上の状況に鑑みると、労働者を引き抜いた第三者の不法行為責任の成否に関しては、どのような場合に第三者の不法行為責任の成立を認めるべきかについて議論を深めるべきことはもちろん、そもそもこれを債権侵害ないし契約侵害の問題として扱うことの当否や意義についても、なお検討すべき課題が残されているように思われる。そして、労働市場の流動化が進み、労働者の引抜きをめぐる紛争が一層増加するであろう今日において、これらの問題について検討を加えることには少なくない意義があるものと思われる。

 2 検討の対象と順序⑴ 検討の対象 本稿では、以上のような問題意識に基づき、引抜き事例における契約侵害論の意義と限界について考察するために、フランスにおける契約侵害論の特徴を明らかにし、その射程を探ることによって、我が国における議論への示唆を得ることを試みたい。 フランスにおける議論を検討の対象とする理由は、次のとおりである。すなわち、まず、フランスにおける契約侵害論については、従来の研究が比較的手薄であったこと ₁₀

。また、引抜き事例は、フランスにおいて、契約不履行に関与した第三者の不法行為責任の成否が最も早い時期から問題となった紛争類型であり、判例および議論が蓄積されていること。さらに、我が国における近時の有力説にしたがい、契約の保護という観点を強調するのであれば、﹁契約の対抗(opposabilité du contrat)﹂理論 ₁₁

に基づいて、つまり、契約が第三者に一定の効果を及ぼし得ると考えることによって、 四七六

(6)

(   )引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界同志社法学 六五巻二号一九七 第三者の不法行為責任の成立を基礎づけようとするフランス法から得られる示唆は少なくないと考えられることである。⑵ 検討の順序 フランスにおける契約侵害論は、周知のとおり、﹁契約の対抗﹂理論を基礎とするものである。したがって、フランスにおける契約侵害論の特徴を明らかにし、その射程を探るためには、まず、﹁契約の対抗﹂理論の生成過程においてどのような議論が展開されたのかを紹介し、検討を加えることが有用であろう。﹁契約の対抗﹂理論は一九三〇年代に生成した理論であるが、フランスの判例および学説は、それ以前から、契約侵害の問題を認識していた。すなわち、判例は、遅くとも一九世紀の後半には、事情を知って契約不履行に関与した第三者の責任を認めていたし、そのような判例の理論化を試みた最初の学位論文が現れたのは、一九一〇年のことであった ₁₂

。このことからも推察されるとおり、﹁契約の対抗﹂理論は、当時の判例による解決から一般原則を導き出すことによって編み出された学説上の理論である。そうであるとすれば、﹁契約の対抗﹂理論の内容の検討に入る前に、その前史を紹介しておかねばなるまい。具体的には、引抜き事例に焦点を当てて、初期の主だった判例・裁判例を概観するとともに、当時の判例の到達点を立法化したものとされる一九三二年二月五日の法律を紹介することからはじめたい(Ⅱ)。そのうえで、﹁契約の対抗﹂理論の生成に寄与した学説の議論を追うことにしよう(Ⅲ)。 一九三〇年代に生成した﹁契約の対抗﹂理論は、その後、同理論が適用される場面の類型化と、理論的基礎の探求という二つの方向で展開した。契約侵害論との関係では、この時期に、契約不履行に関与した第三者の責任の基礎に関する議論が深化し、そのような第三者の責任が﹁契約の対抗﹂理論によって正当化されると考えられるに至ったことが注

四七七

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(   )同志社法学 六五巻二号一九八引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界

目される。そこで、次に、﹁契約の対抗﹂理論の展開期に、契約不履行に関与した第三者の責任の基礎についてどのような見解が主張されたのかを概観することにしたい(Ⅳ)。そして、﹁契約の対抗﹂理論を基礎とする契約侵害論の特徴を明らかにし、その射程を見極めたうえで、引抜き事例に関する最近の判例を分析することで、そのような契約侵害論が今日なお機能していることを確認する(Ⅴ)。 最後に、以上の検討をふまえて、フランスにおける議論が我が国の契約侵害論に対してどのような示唆を与え得るのかについて、引抜き事例に即し、若干の考察を試みることにする(Ⅵ)。 なお、フランスでは、近時、﹁契約の対抗﹂理論に対して批判的検討を加えるウィントゲンの学位論文が現れた ₁₃

。ウィントゲンの見解は、﹁契約の対抗﹂という概念はそれだけは規範的意義を有し得ないとして、﹁契約の対抗﹂理論の法原則としての価値を否定し、同理論によって契約不履行に関与した第三者の責任を認めることはできないとする点で、それまでのフランスにおける議論の趨勢とは異なるものである。もっとも、その後、これに続く見解はほとんどみあたらず ₁₄

、契約法の改正に向けて策定された諸草案の規定をみても ₁₅

、﹁契約の対抗﹂理論の法原則としての地位に揺るぎはないようである。したがって、本稿では、ウィントゲンの見解はひとまず検討の対象から除外することとした。

Ⅱ  ﹁ 契 約 の 対 抗 ﹂ 理 論 が 生 成 す る 以 前 の 状 況

 1 引抜き事例に関する初期の判例・裁判例 引抜き事例に関する初期の判例・裁判例の状況については、一般的には、当初こそ第三者の責任を否定する裁判例が散見されたものの、破毀院審理部一八九八年一一月二八日判決 ₁₆

を契機として、既存の雇用契約を認識しつつ労働者を引 四七八

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(   )引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界同志社法学 六五巻二号一九九 き抜いた第三者の責任が肯定されるようになったという描写がなされている ₁₇

。しかしながら、仔細にみれば、右記判決以前に第三者の責任を肯定する裁判例が存在しないわけではないし、それ以降に第三者の責任を否定する裁判例が存在しないわけでもない。そうであるとすれば、そもそも判例が変遷したといえるのかどうか、また、仮に判例の展開がみられるとしても、それがどのようなものであったのかについて、検討を加えておく必要があるだろう。 そこで、以下では、一九世紀後半以降一九三二年二月五日の法律が成立するまでの間に出された主な判例・裁判例を、第三者の責任を否定したものと肯定したものとに分けて紹介したうえで ₁₈

、どのような場合に第三者の責任が肯定されているのかについて、各判例・裁判例の判示内容を分析するとともに、問題となっている事案の特徴をふまえた検討を試みることにしたい ₁₉

。 なお、以下では、さしあたり、単純な引抜きに関する事案を扱うこととした ₂₀

。また、事案によっては、原告が、被告による労働者の引抜行為の違法性のみならず、混同(confusion )招来や営業誹謗(dénigrement )といった不正競争行為の存在をも主張している場合があるが ₂₁

、その点に関する判示等は、特に必要のない限り、割愛した。

⑴ 第三者の責任を否定した裁判例 労働者を引き抜いた第三者の責任を否定した裁判例は、前記破毀院審理部一八九八年一一月二八日判決よりも以前の時期に多くみられるが、それ以降は存在しないというわけではない。以下では、第三者の責任を否定した裁判例を、年代順にみていくことにしよう。

四七九

(9)

(   )同志社法学 六五巻二号二〇〇引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界

︻1︼ ル・アーブル商事裁判所一八六八年一一月一四日判決 ₂₂

⒜ 事案および判旨は、次のとおりである。 ﹁ル・アーブル新聞(Journal du Havre)﹂を発行するXは、新聞﹁ル・アーブル(Le Havre)﹂を新たに刊行したYに対し、YがXの被用者複数名を引き抜いたことが攪乱(désorganisation)にあたる等と主張して、損害賠償を請求した。 ル・アーブル商事裁判所は、Xの損害賠償請求を認めると﹁被用者には別の企業でよりよい条件で働くために退職する自由はないという原則を認めることになってしまう﹂とし、Yの行為を不正競争だと評価することはできないと判示して、Xの請求を棄却した。

⒝ この判決は、被用者の引抜きに関する新使用者の責任を一般的に否定しているようであり、その理由としては、被用者の転職の自由を確保する必要性が挙げられている。

︻2︼ マルセイユ商事裁判所一八七九年一〇月一〇日判決 ₂₃

⒜ 事案および判旨は、次のとおりである。 Xは、マルセイユでXと類似の商店および製造所を開業したYが、Xの被用者Zを引き抜いたことが不正競争にあたる等と主張して、YおよびZに対して、損害賠償を請求した。 マルセイユ商事裁判所は、﹁Zは自らの意思でXのもとを離れたのであり、また、ZにはYのもとで働く権利がある﹂としたうえで、﹁YがZから役務の提供を受ける権利を行使したからといって、そのことを非難することはできないし、 四八〇

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(   )引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界同志社法学 六五巻二号二〇一 Xは、同人に対して何ら債務を負っていないZが他の雇主のもとでその職業を遂行すること⋮⋮を妨げることはできない﹂として、Xの請求を棄却した。

⒝ この判決も、︻1︼判決と同様、被用者の転職の自由に対する配慮から、被用者の引抜きに関する新使用者の責任を否定している。但し、この判決が、被用者が旧使用者に対して何ら債務を負っていないことを指摘していることからすれば、旧雇用契約が適法に解消されておらず、被用者が旧使用者に対してなお契約上の債務を負っている場合には、新使用者の責任を認める余地が残されているとみることができる。また、判決が、被用者が自らの意思で旧使用者のもとを離れたことを指摘していることからすれば、積極的な勧誘行為がある場合には別の判断がなされる可能性も否定できないだろう。

︻3︼ エクス控訴院一八八三年四月四日判決 ₂₄

⒜ 事案および判旨は、次のとおりである。 Xに会計係として勤めていたZは、健康上の理由から辞職を願い出た。ところが、Zはその直後から、Yのもとで働き始めた。Yは、Zから入手した住所を利用する等して、Xの商業代理人(représentant de commerce )の多数に対し、Xが支払っている手数料よりも高額の手数料を提示して、Yと契約するよう勧誘した。そのため、Xの商業代理人の一部は、Xとの契約継続を望んだものの、Xに対して、Yが提示した手数料と同額の手数料を要求した。また、Yの商業代理人として取引を行った者もいた。Xは、Y及びZに対して、損害賠償を請求した。 第一審であるエクス商事裁判所は、﹁民法典一三八二条は、他人に損害を生じさせる所為がそれをした者の権利に基

四八一

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(   )同志社法学 六五巻二号二〇二引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界

づくものでない場合にのみ、適用され得る。したがって、Xの商業代理人の住所をYに伝えることについてZがした濫用がZおよびYの責任を生じさせるとしても、より高額の手数料を提示することについても同様であるとはいえない。各商人は、商業代理人に対して、あるいは当該商業代理人を発奮させるために、あるいはその商品の販売を確実なものとするために、より高額の手数料を提示する自由を有する﹂と判示し、Xの請求を一部のみ認容した。X、YおよびZが控訴。 エクス控訴院は、第一審の判断を正当と認めて、控訴を棄却した。

⒝ この判決も、被用者の引抜きに関する新使用者の責任を否定しているが、その理由として挙げられているのは、被用者の転職の自由ではなく、新使用者自身の―― 他人の被用者により良い条件を提示することを内容とする―― 自由である。また、この判決が、被用者や新使用者による引抜きとは別の権利濫用行為がある場合には、新使用者の責任が肯定され得ることを示唆していることには注意が必要である。

︻4︼ リール商事裁判所一八八七年四月一日判決/ドゥエ控訴院一八八七年七月一五日判決 ₂₅

⒜ 事案および判旨は、次のとおりである。 Xは、一八八五年に綿糸工場と支店を開設したYが、一八八四年までXのもとで働いていた被用者二人(一方は製造の、他方は製品販売の責任者として働いていた)を雇用したことが不正競争にあたる等と主張して、Yに対して、損害賠償を請求した。 リール商事裁判所は、Xのもとで働いていた被用者二人はXのもとを離れており、Xに対して何の約務も負っていな 四八二

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(   )引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界同志社法学 六五巻二号二〇三 いこと、および、競争に関して非難されるべきYの行為が主張されていないことに鑑みれば、﹁Yが、新たに開設した事業部門を経営するために、その種の事柄に関する経験が有益であろうと思われる被用者二人を雇い入れたことについて、責任を追及されることはない﹂と判示して、Xの請求を棄却した。 ドゥエ控訴院は、﹁Xは、Yが、Xのもとで働いていた被用者から秘密裡に獲得した情報を利用したことを証明していない﹂等として、Xの控訴を棄却している。

⒝ これらの判決も、理由は明示されていないものの、被用者の引抜きに関する新使用者の責任を否定している。もっとも、第一審判決は、︻2︼判決と同じく、被用者が旧使用者に対して何ら債務を負っていないことを指摘しており、旧雇用契約が適法に解消されていない場合には、新使用者の責任を認める余地が残されている。また、第一審判決および控訴審判決が、新使用者に引抜きとは別の不正競争行為が存在すればその責任を認めることができることを示唆していることには注意が必要である。

︻5︼ セーヌ商事裁判所一八九三年一一月一五日判決 ₂₆

⒜ 事案および判旨は、次のとおりである。 Zは、外交員(voyageur)としてA商店に雇われていたが、Aとの契約関係を突然解消して、競争企業であるY商店に雇い入れられた。Aの清算人であるXは、ZおよびYに対して、損害賠償を請求した。 セーヌ商事裁判所は、Zの責任については、ZがA商店を退職する意図を事前に伝えなかったことによってAは商売を継続することができなくなったとして、これを認めたが、Yの責任に関しては、次のように判示して、これを否定し

四八三

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(   )同志社法学 六五巻二号二〇四引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界

た。すなわち、﹁Xは、Yが責任を負うべき不正競争行為を何ら証明していない。Zは、退職した商店︹A︺との間の有期契約(traité)に拘束されていたわけではなかったのであるから、Zを雇い入れたYが、許された競争の限界を超えたとはいえない﹂と。

⒝ この判決も被用者の引抜きに関する新使用者の責任を否定しているが、︻4︼判決と同様、新使用者に引抜きとは別の不正競争行為が存在すればその責任を認めることができることが示唆されていることに注意が必要である。また、旧雇用契約が有期契約であった場合には新使用者の責任を認めることができることも示唆されている。

︻6︼ ナント商事裁判所一八九七年四月一四日判決 ₂₇

⒜ 事案および判旨は、次のとおりである。 建設業を営むXは、同じく建設業を営むYに対して、YがXの被用者を引き抜いたことが不正競争にあたると主張して、損害賠償を請求した。 ナント商事裁判所は、﹁事業主が、競争企業の労働者がその雇主のもとを去るよう仕向けるために、詐害的な術策を用いることは、原則として、法律が不正競争と評価する行為を構成し得る﹂が、裁判所には慎重な判断が求められるとしたうえで、次のように判示している。すなわち、﹁労働者が有期契約によって雇用されているのでない限り、労働者がその事業所を去る権利を否定することはできない﹂。また、﹁ある企業の労働者が、類似の企業の労働者から︹自分が働いている先の企業で働くよう︺誘われたが、雇主はそれに何ら関与していないということはしばしばある﹂。雇主がこれに関与しているとしても、それは﹁人員を募集しなければならない会社責任者の行為として完全に適法な行為の一 四八四

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(   )引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界同志社法学 六五巻二号二〇五 つであることがほとんどである。したがって、一定の作業の遂行に不可欠な労働者を、より高い賃金をもって誘引することをもって、不正競争と評価することはできない﹂。そして、﹁一定の行為がその目的を達するために狡猾(indélicat )だと非難され得るとしても、裁判所としては、それが特に詐害的性質を有すると考えることはできない﹂、と。また、同裁判所は、Xの請求を棄却するにあたって、﹁Yが直接Xの労働者に働きかけたことも、XがYの労働者に︹転職を︺唆されたと主張する労働者がXにとって代替困難な特別の労働者であったことも、証明されていない﹂としている。

⒝ この判決が被用者の引抜きに関する新使用者の責任を否定する理由としてまず挙げているのは、被用者の退職の自由である。もっとも、有期契約の場合には被用者の退職の自由は否定されること、したがって、旧雇用契約が有期契約であった場合には新使用者の責任を認めることができることが示唆されている。このような考え方は︻5︼判決と共通のものであり、旧雇用契約が適法に解消されていない場合に新使用者の責任を認める余地を残している︻2︼判決や︻4︼判決とも類似の発想に立つものといえよう。この判決は、また、引抜きが特に詐害的性質を有する場合や、被用者が旧使用者にとって特に代替困難な者であるような場合には、例外的に、新使用者の責任を認める余地があると考えているようでもある。

︻7︼ パリ控訴院一九〇五年一二月二八日判決 ₂₈

⒜ 事案および判旨は、次のとおりである。 俳優Zは、一九〇八年六月までの期間について、ヴァリエテ座を経営するXとの間で契約を締結していたにもかかわらず、一九〇四年七月に、Yとの間で、一九〇四年から一九〇五年のシーズン中、オランピアで﹁カントリー・ガール﹂

四八五

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(   )同志社法学 六五巻二号二〇六引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界

に出演する契約を締結した。Xは、ZおよびYに対して、違約金六万フランの支払いを求めた。 第一審であるセーヌ商事裁判所は、一九〇五年二月二二日、XのZに対する請求のみを認容した。XのYに対する請求については、Yが、XZ間の契約の存在および期間を現実に認識しつつ、Zと契約することによって、Zの約務への違反を助けたことの証明がないとして、これを棄却した。XとZが控訴。 パリ控訴院は、XのYに対する請求について、劇場の支配人が、ある俳優が既に他の劇場との間の契約に拘束されていることを認識しつつ、その契約が終了する前に、当該俳優との間で、自身の施設での出演にかかる契約を締結した場合には、当該支配人は損害賠償責任を負い得るとした。もっとも、支配人の損害賠償責任が認められるためには、当該支配人が旧契約の存在を認識していただけでは足りず、当該支配人の行動や俳優に提示した条件から、当該俳優が旧契約を破棄するよう唆したといえることが必要であるとして、Xの控訴を棄却した。

⒝ この判決は、結論としては、被用者の引抜きに関する新使用者の責任を否定しているが、新使用者が積極的に被用者による契約破棄を唆した場合にはその責任を認めることができるとしている。

︻8︼ パリ一六区治安裁判所一九二〇年一〇月二九日判決 ₂₉

⒜ 事案および判旨は、次のとおりである。 Y伯爵夫人は、Xの小間使いAに対して、Xが支払っていた賃金よりも高額の賃金を提示して、Aを引き抜いた。XはYに対して、損害賠償を請求した。 パリ一六区治安裁判所は、民法典一三八二条に基づく損害賠償請求が認められるためには、問題とされる所為が法律 四八六

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(   )引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界同志社法学 六五巻二号二〇七 違反または先存する債務への違反であってフォートを構成することが必要だとしたうえで、次のように述べて、Xの請求を棄却した。すなわち、他人に損害を生じさせた人の所為がすべて民事責任を生じさせると考えるのは不正確である。﹁道徳準則と実定法への違反とを混同してはならない。道徳準則への違背がすべて外部のサンクションを帰結するわけではないし、﹃法律によって禁止されていないことはすべて認められているのであり、それは妨げることはできない﹄のである(人権宣言五条)。したがって、YがX宅を訪れて、その小間使いにXのもとを離れYのもとで働くよう決心させたことは、それがより高額の賃金を提示することによってなされたものであり、確かに不作法でひどく図々しい行為ではあるとしても、一三八二条に定めるフォートを構成するものではない。この所為は、慎み深さの観点からは非難されるべきであるとしても、申込みおよび注文に関する法原則ならびに労働自由の原則によって正当化され得る。そして、労働自由は、自由競争制度のもとで、自身が好む期間、その役務を提供することを約することにかかる、万人のための権利である﹂、と。

⒝ この判決は、被用者の引抜きに関する新使用者の責任を否定する理由として、第三者の行為自由の重要性と、労働自由の原則を挙げている。また、法と道徳の峻別が強調されていることも、この判決の特徴である。

︻9︼ 破毀院審理部一九二八年三月五日判決 ₃₀

⒜ 事案および判旨は、次のとおりである。 Yは、一九二四年一一月、X会社に雇われていた外国人労働者Zを雇い入れた。その際、Yは、Zが父親を経由して申し込んだ労務の提供を承諾したにすぎず、ZがYのもとを去るよう仕向けたわけではないが、Zに外国人身分証の提

四八七

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(   )同志社法学 六五巻二号二〇八引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界

示を求めることはしなかった。XはYに対して損害賠償を請求した。 控訴審であるリオム控訴院は、一九二七年六月二九日、Yの不作為はフォートを構成しないとして、Xの請求を棄却した。Xは、外国人労働者を雇い入れるにあたって、身分証の提示を求めることによって当該労働者が雇用契約に拘束されていないことを確認しなかったYにはフォートがある等と主張して、破毀申立てをした。 破毀院は、仮にYがZに対して外国人身分証の提示を求めていれば、XZ間の雇用契約の期間を確認することができたといえるとしても、Yは何らの法律上の債務にも違反していないとして、控訴審の判断は正当だとし、破毀申立てを棄却した。

⒝ この判決は、新使用者が旧雇用契約の存在を認識していなかった場合には、同人がそれを認識し得たとしても、被用者の引抜きに関する新使用者の責任を認めることはできないとしている。もっとも、その理由は、外国人労働者を雇い入れる際に外国人身分証の提示を求めなかったとしても、使用者が法律上の債務に違反しているとはいえないというものである。したがって、外国人労働者を雇い入れる際に外国人身分証の提示を求めることを義務付ける一九二六年八月一一日の法律が施行された後の事案は、この判決の射程外だというべきであろう。また、この判決は、新使用者が旧雇用契約の存在を認識しつつ被用者を引き抜いた場合の新使用者の責任の成否については判断していない。

10二決判日二月四年八九︼ 一所判裁事商ンヨリ ₃₁

⒜ 事案および判旨は、次のとおりである。 絹織物業者Xの元被用者A(製造責任者)および同B(販売員)は、同種の事業を営むYを設立した。そして、その 四八八

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(   )引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界同志社法学 六五巻二号二〇九 当時、Xの被用者でありXの製品をパリで販売していたZは、Xのもとを去ってYに雇い入れられた。Xは、Yの行為は不正競争にあたる等と主張して、Yに対し、損害賠償を請求した。Yは、営業の自由を行使したにすぎず、また、Zは退職を申し出てから二个月間はXの求めに応じて業務を継続したのであって、むしろXから感謝されている等と主張して、争った。 リヨン商事裁判所は、AおよびBは、Xを退職して、あらゆる約務から解放されたのであるから、同人らが競争企業を設立することは同人らの自由だとしたうえで、XはYが不正競争にあたるような行為をしたことを証明していないとした。そして、ZにはXとの間の契約を解約する権利があること、Yが圧力をかけたことによってZが退職を決意したことの立証がないこと、むしろZは複数回にわたってX以外の雇用先を探していたことを指摘して、YがZを雇い入れたことは不正競争に該当しないとして、Xの請求を棄却した。

⒝ この判決は、結論としては、被用者の引抜きに関する新使用者の責任を否定しているが、︻7︼判決と同様、例外的にその責任を認める余地を残している。具体的には、新使用者が被用者に圧力をかけたことによって、被用者が退職を決意したような場合には、新使用者の責任が認められることが示唆されている。また、被用者に旧使用者との間の契約を解消する権利がない場合にも、新使用者の責任を認める余地を残しているといえよう。

⑵ 第三者の責任を肯定した判例・裁判例 労働者を引き抜いた第三者の責任を肯定した判例・裁判例の多くは、前記破毀院審理部一八九八年一一月二八日判決以降に出されているが、それ以前に全く存在しなかったわけではない。以下では、第三者の責任を肯定した判例・裁判

四八九

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(   )同志社法学 六五巻二号二一〇引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界

例を、年代順にみてくことにしよう。

11︼ 決判日四月二年五六八一院訴控リパ ₃₂

⒜ 事案および判旨は、次のとおりである。 一八六二年、歌手Zは、Xが経営するカフェ﹁エルドラド﹂で働き始めた。その給料は一个月あたり六〇〇フランであり、契約が破棄された場合の違約金は二〇〇〇フランと定められていた。ところが、Zは、突然、エルドラドを去って﹁アルカザール﹂で働きはじめた。そのため、Zは、一八六二年一〇月七日の判決によって、Xに対して違約金二〇〇〇フランを支払うよう命じられ、これを支払った。アルカザールでの契約期間が満了した後の一八六三年一一月一五日に、Zは、Xとの間で、給料一个月あたり一五〇〇フランという約定で、六个月間の新たな有期契約を締結した。ところが、その一个月後、Zはエルドラドを去って再びアルカザールへと戻った。アルカザールでのZの給料は一个月あたり二〇〇〇フランであった。Xは、Zおよびアルカザールを経営するYに対して損害賠償を請求した。 第一審であるセーヌ商事裁判所は、一八六四年一月二一日、XのZに対する請求のみを認容し、XのYに対する請求については、YがZの債務不履行を唆したことが証明されていないとして、これを棄却した ₃₃

。XとZが控訴。 パリ控訴院は、XのYに対する請求について、次のように判断した。すなわち、Yは、経営上の利益のために、ZがXに対する約務を破棄してYの店で歌うことをZと共謀し、Xに損害を生じさせる行為に加担したといえる。これは不正競争行為であり、YはXに対して損害賠償義務を負う、と。そして、Yに対し、Zと連帯して、八〇〇〇フランの損害賠償を支払うよう命じた。 四九〇

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(   )引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界同志社法学 六五巻二号二一一 ⒝ この判決は、被用者の引抜きに関する新使用者の責任を認めた裁判例のなかでは、最も古いものの一つである。もっとも、有期契約が破棄された事案に関するものであること、被用者と新使用者との間の共謀が認定されていることには注意が必要である。

12︼ 決判日四二月一一年四〇九一院訴控リパ ₃₄

⒜ 事案および判旨は、次のとおりである。 女優Zは、一九〇三年七月二三日、カジノ・ド・パリを経営するXとの間で、一九〇三年九月一六日から一个月の間、Zが創作した﹁人の矢﹂を上演することを約した。ところが、Zは、この約務を破棄して、オランピアでこれを上演した。Xは、Zおよびオランピアを経営するYに対して、損害賠償を請求した。 第一審であるセーヌ商事裁判所は、一九〇四年一月一九日、XのZに対する請求のみを認容し、XのYに対する請求については、Yは、Zとの間で一九〇三年四月一八日に締結された契約(契約期間は同年五月一五日から六月一五日まで)に基づいてZに出演を求めることができるから、Yにはフォートがないとして、これを棄却した。XおよびZが控訴。 パリ控訴院は、XのYに対する請求について、YZ間で一九〇三年四月一八日に締結された契約の効力は期間満了により失われたとしたうえで、YがZとの間で、同年九月一四日に、二个月間の上演について四万七五〇〇フランの給与を支払うことを内容とする新たな契約を締結したこと、および、YがXZ間の契約を認識していたことを認定した。そして、﹁自由競争は、⋮⋮自由かつ有効に同意された合意の尊重を含意する﹂と判示し、Yは、Zに極めて有利な条件でZとの間の契約を締結することによって、﹁ZがXとの間の約務に違反することを容易にし、Zが犯したフォートに

四九一

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(   )同志社法学 六五巻二号二一二引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界

協力し関与した﹂として、Yに対し、Zと連帯して、三万五〇〇〇フランの損害賠償を支払うよう命じた。

⒝ この判決は、第三者が他人間の既存の合意を尊重しなければならないことを認めて、新使用者が旧雇用契約について悪意である場合には被用者の引抜きに関する新使用者の責任が成立するとしている点で注目される。もっとも、︻

11にものであることはす注意が必要であるる関︼契判決と同様、有期約にが破棄された事案。

13︼ 決判日七二月五年八〇九一部事民院毀破 ₃₅

⒜ 事案および判旨は、次のとおりである。 Zは、高級服飾デザイナーXに雇われており、XZ間の雇用契約の期間は一九〇一年一二月三一日までと定められていた。高級服飾デザイナーYは、一九〇一年六月五日、Zとの間で、同年七月一日から、初年度の給与一万二〇〇〇フラン、二年目の給与一万四〇〇〇フラン、違約金一万フランという条件でZを雇い入れることを内容とする契約を締結した。また、その際、Yは、XがZに対して訴訟を提起した場合に必要となる費用をすべて負担することを約した。そこで、Xは、Zを引き留めるために、一九〇一年六月二一日、Yが提示した条件よりも有利な条件で合意し、かつ、Yに対する一万フランの違約金の支払いおよび既払いの手当て一〇〇〇フランの償還を負担した。Xは、Yの行為は不正競争にあたるとして、Yに対して損害賠償を請求した。 パリ控訴院は、一九〇三年三月一九日、﹁競争企業との間の履行中の役務賃貸借契約(contrat de louage de services )に拘束されている被用者を、そうと知りつつ雇い入れ、また、契約解消に伴って支払うべき金銭の負担を約することによって、当該被用者がその約務に違反することを容易にした﹂Yはフォートを犯しており、XはYに対して 四九二

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(   )引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界同志社法学 六五巻二号二一三 不正競争を理由とする損害賠償を請求できるとして、XのYに対する請求を認容した。Yは、第一に、XZ間の契約を第三者であるYに対抗することはできないし、第二に、XZ間の契約には違約金条項が含まれているところ、Zには違約金を支払うことによって当該契約を解消する権利があるから、Yは正統な権利を行使したにすぎない等と主張して、破毀申立てをした。 破毀院は、次のように判示して、Yの破毀申立てを棄却した。すなわち、破毀申立理由のうち第一点に関しては、控訴院は、Yが自身は当事者となっていない合意を履行しないことを問題にしたわけではないし、Yにそのような合意の履行を命じたわけでもなく、Yが事情を知りつつ、自身の利益のために、契約の破棄を容易にしたことについて不法行為が成立するとしたのであるから、Yの主張には理由がない。また、同第二点については、Yが控訴審までにそのような主張をした形跡はないうえ、控訴院は、Yの行為が自由競争の範囲を超えておりYにフォートがあると判示することができる。したがって、Yの主張には理由がない、と。

⒝ この判決は、破毀院としてはじめて、被用者の引抜きに関する新使用者の責任を認めた判決として重要である ₃₆

。同判決が、新使用者の責任が認められるためには、新使用者が事情を知りつつ自身の利益のために契約の破棄を容易にしたことで足りるとしていること、新使用者の責任を認めることは合意の相対性原則に反するという趣旨の新使用者の主張を排斥したことも、注目される。もっとも、︻

11︼判決や︻

。注あることには意のが必要であるで 12事約判決と同様、有期契が案破棄されたもるす︼に関

四九三

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(   )同志社法学 六五巻二号二一四引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界

14一決判日三一月一一年一︼ 九一院訴控ンソンザブ ₃₇

⒜ 事案および判旨は、次のとおりである。 一九〇八年一一月一九日、時計製造業者Xは、専門技師Zを期間三年の契約で雇い入れた。ところが、Zは、一九一〇年三月五日に、突然契約を破棄して、競争企業であるYに雇い入れられた。XはYに対して損害賠償を請求した。 第一審であるブザンソン商事裁判所は、Xの請求を認容した。Yが控訴。 ブザンソン控訴院は、商人が、自身の利益のために、事情を知って、競争企業との間の役務賃貸借契約に拘束されている被用者が当該契約を破棄するよう唆しまたはそれを容易にした場合には、当該商人は、競争企業に対して責任を負うとした。そして、その責任が認められるためには、﹁被用者が、別の雇主との間の雇用契約に拘束されていると知りつつ被用者と契約しただけで十分である﹂と判示して、Yの控訴を棄却した。

⒝ この判決は、被用者の引抜きに関する新使用者の責任が認められるためには、旧雇用契約を認識しつつ被用者を雇い入れただけで足りるとしている点で、注目される。もっとも、︻

11︼ないし︻

。にるものであることは関注意が必要であるすに事たれさ案 13様の各判決と同︼、有契約が破棄期

15二決判日三一月一年〇九︼ 一所判裁事商レブンカ ₃₈

⒜ 事案および判旨は、次のとおりである。 Zは、一九一九年のシーズン中、煉瓦製造の作業班長として、Xに雇用されていた。Yは、同年五月にZが働いている現場を訪れ、Xが支払っている賃金よりも高い賃金でYのもとで働くことを提案した。同月一四日、Zは突然、事前 四九四

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(   )引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界同志社法学 六五巻二号二一五 に予告することなくXの現場を離れ、作業班員である父親および兄弟とともに、Yの現場で働くようになった。Xは、YおよびZに対して、損害賠償を請求した。 カンブレ商事裁判所は、YのZに対する勧誘はZの職務放棄の決定的原因であったといえ、それは違法な競争行為であるとした。また、Zが突然現場を放棄したことはその責任を生じさせるとして、YおよびZに対して、連帯して、Xに生じた損害を賠償するよう命じた。

⒝ この判決は、被用者の引抜きに関する新使用者の責任を認めているが、新使用者による積極的な勧誘行為を認定している点には注意が必要である。なお、この判決の事案については、期間の定めのない契約が破棄されたとみるべきだとの指摘がなされているが ₃₉

、﹁一九一九年のシーズン中﹂の雇用契約は有期契約であるようにも思われる。また仮にXZ間の契約が期間の定めのない契約であるとしても、Zは事前予告なしに契約を破棄したのであるから、いずれにしても、XZ間の契約が適法に破棄されたとはいえない。

16二決判日三一月五年四九︼ 一院訴控ーリベンャシ ₄₀

⒜ 事案および判旨は、次のとおりである。 炭鉱会社Xは、一九二二年六月六日のデクレに定める条件の下で、複数のポーランド人労働者を雇い入れた。なお、当該労働者らが渡仏するための費用はXが負担した。ところが、競争企業であるYは、当該労働者らのうち二九人を、身分証明書を確認することなく、雇い入れた。そこで、XはYに対して損害賠償を請求した。 第一審であるシャンベリー商事裁判所は、Xの請求を認容した。Yが控訴。Yは、Yには、営業自由の原則に基づい

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(   )同志社法学 六五巻二号二一六引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界

て、労働者を雇用する権利があり、そのことは、当該労働者が他の使用者との間で雇用契約を締結している場合であっても同様である、また、Yが当事者となっていない契約が破棄されたことについてYの責任を問うことはできない等と主張した。 シャンベリー控訴院は、次のように判示して、Yの控訴を棄却した。すなわち、﹁他人の権利を故意に侵害した者は常にフォートを犯しているというべきであり、そのことは、当該権利が契約に基づくものであるか法律に基づくものであるかにかかわらない﹂。そして、﹁Yは、ポーランド人労働者らに身分証明書の提示を求めることなく同人らを雇い入れたことによって、一三八二条にいうフォートを犯している。Yが身分証明書の提示を求めていたならば、当該労働者らがXの費用でフランスに入国していること、また、同人らがXとの間の有効な契約に拘束されていることが分かったはずである﹂、と。

⒝ この判決は、新使用者が旧雇用契約を認識していたことを認定することなく、身分証明書の提示を求めなかったという不注意をもって、被用者の引抜きに関する新使用者のフォートを認めている点で注目される。もっとも、外国人労働者の引抜きに関する事例であることには注意が必要である。なお、この判決は︻9︼判決とは整合しない。

17年決判日八一月三七︼ 二九一院訴控リパ ₄₁

⒜ 事案および判旨は、次のとおりである。 セメント製造業者Xは、Xが雇用していたイタリア人労働者一一人を引き抜いたYに対して、損害賠償を請求した。 第一審であるアヴァロン商事裁判所は、一九二四年一二月一〇日、次のように判示 ₄₂

して、Xの請求を棄却した。すな 四九六

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(   )引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界同志社法学 六五巻二号二一七 わち、まず、﹁あらゆる企業経営者は、いたるところで労働力を探し、他の経営者よりもよい賃金その他の条件を提案することができるし、あらゆる労働者は、自身に最も都合のよい使用者を選択し、そこに身を置く権利を有する﹂。そして、権利濫用があるというためには﹁使用者が、当該労働者と競争企業または第三者との間の雇用契約の存在を知りつつ、当該契約が違法に破棄されるよう不当に仕向けたこと、つまり、そうする権利がないのにその約務を破棄した労働者の共犯となったことが必要である﹂。また、Xはセメント製造業者であるのに対して、Yは林業を営んでいるため、不正競争の問題は生じない。そして、引き抜かれた労働者のうち八人についてはXとの間の雇用契約が存在せず、他の三人についてはXとの間の雇用契約が存在したが、労働者は六日分の賃金を補償しさえすればいつでも約務を終わらせることができるとされていたところ、実際、この三人は六日分の賃金をXに支払ったうえで退職している。そうであるとすれば、﹁Yに雇用された一一人の労働者は、Xとの間の有期契約に拘束されてはおらず、Xのもとを離れることができた。Yは、Xを害する意図をもって行動したのではなく、必要な労働力を確保するという適法かつ正統な目的をもって行動した以上、当該労働者を勧誘し雇い入れたことについて、何のフォートも犯していない﹂、と。Xが控訴。 パリ控訴院は、﹁あらゆる企業経営者は、いたるところで労働力を探すことができるが、それは、その権利が他人を害さないように行使される限りにおいてである﹂と判示して、Xの請求を認容した。その際、パリ控訴院は、引き抜かれた労働者が外国人であることと、同時に複数の従業員が引き抜かれたことを重視している。外国人労働者を出身国から渡仏させて雇い入れる場合には、行政手続きを経ることによって、当該労働者は引抜きの対象とならないことが保障されているし、同時に多数の従業員が引き抜かれた場合には経営が脅かされ得るというのがその理由である。

⒝ この判決は、第一審が被用者と旧使用者との間に有期契約が存在しないことを指摘していたにもかかわらず、被用

四九七

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(   )同志社法学 六五巻二号二一八引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界

者の引抜きに関する新使用者の責任を認めている点が特徴的である。もっとも、外国人労働者の引抜きに関する事例であることには注意が必要である。

18︼ 決判日三一月六年八二九一所判裁事民ヌーセ ₄₃

⒜ 事案および判旨は、次のとおりである。 俳優Zは、一九二六年に出された一連の書簡によって、フランス俳優組合(X)に対し、同組合を脱退する意思を伝えるとともに、一九二七年一月一六日以降はコメディー・フランセーズに出演しないことを通知していたが、Xはこれを受け入れなかった。その後、Zは、コメディー・フランセーズへの出演を拒絶し、一九二七年一〇月七日に、ヴァリエテ座の支配人Yとの間で出演契約を締結した。Xは、ZおよびYに対して、損害賠償を請求した。 セーヌ民事裁判所は、まず、﹁不法行為によって、契約上の債務の不履行に関与した第三者が、債務者とともに損害賠償を命じられることは一般に認められている﹂が、Yは、Zがコメディー・フランセーズを去ってから八个月以上後に同人と契約したのであるから、Zによる契約の破棄に加担したとかそれを生じさせたということはできないとした。しかしながら、同判決は、Xの規則が伝統を守るために定められていること、パリの劇場の支配人であればそれを知らないはずはないうえ、YはXから規則の内容を通知されたことを指摘して、﹁YおよびZは、共にZがヴァリエテ座に出演することを内容とする証書に署名することによって、故意に、一方は不法行為により、他方は契約上の債務に違反して、Zに課せられ続けているところの他の劇場への出演の禁止に反した﹂として、Xの請求を認容した。

⒝ この判決は、有期契約が破棄された事案に関するものであるが、新使用者が旧雇用契約の違法な破棄に関与したと 四九八

(28)

(   )引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界同志社法学 六五巻二号二一九 はいえないとしつつも、新使用者の責任を認めている点で注目される。同判決が新使用者の責任を認めた理由は、被用者が旧雇用契約を破棄した後も、旧使用者に対して他の劇場への出演禁止債務を負っていることを前提として、新使用者が被用者によるその債務の不履行に関与したことである。

19〇決判日二月六年三︼ 九一部理審院毀破 ₄₄

⒜ 事案および判旨は、次のとおりである。 女優Zは、フランス俳優組合(X)の組合員であり、Xに対して、コメディー・フランセーズに二〇年間とどまり、事前の承認なしに引退しないという約務を負っていた。ところが、Zは、一九二六年六月二九日に、一方的に組合を脱退する意思を表明し、爾後の出演を拒絶した。その後、Zは、ポルト・サン・マルタン座を経営するYとの間で出演契約を締結した。Xは、ZおよびYに対して、損害賠償等を請求した。 第一審であるセーヌ民事裁判所は、一九二七年一一月二三日、﹁Yは、約務の破棄に加担し、それをより可能ないし容易にしたことによって、Zが犯したフォートに故意に関与したといえ﹂るとし、また、﹁Yが約務の破棄を引き起こしたか否かを判断する必要はない﹂として、Xの請求を認容した ₄₅

。 控訴審であるパリ控訴院も、一九二八年六月二一日、﹁契約上の債務の不履行を構成する所為に協力した第三者は、原則として、不法行為を犯したといえ﹂るし、﹁合意の相対効は、契約に外在する事由、とりわけ不法行為による責任を認めることを妨げない﹂から、一一六五条の適用によりXZ間の契約上の約務はYには作用し得ないとのYの反論には理由がないとし、また、﹁事情を知って他人の権利を侵害した者は、民法典一三八二条にいうフォートを犯したといえる﹂として、Yの控訴を棄却した ₄₆

。Yが破毀申立て。

四九九

(29)

(   )同志社法学 六五巻二号二二〇引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界

 破毀院は、﹁Yは、ZのXに対する約務の性質および期間を認識しており、その約務への違反がXに深刻な損害を生じさせることを知らないはずはなかったのに、Zが未だXとの間の約務に拘束されているにもかかわらず、Zとの間で新たな約務を締結し、Zが犯したフォートに起因する損害︹の発生︺に加担することを躊躇しなかった﹂等と判示して、Yの破毀申立てを棄却した。

⒝ この判決は、旧雇用契約の存在を認識しつつ被用者を引き抜いた新使用者の責任を認めるものであり、合意の相対性原則に基づく第三者の反論を排斥した原審判決を支持している点で注目される。もっとも、有期契約が破棄された事案に関するものであることには注意を要する。

20三決判日二月七年〇九︼ 一所判裁事民ヌーセ ₄₇

⒜ 事案および判旨は、次のとおりである。 俳優Zは、フランス俳優組合(X)に対し、書簡によって、同組合を脱退する意思を伝えたが、Xはこれを拒絶した。ZはXに対して契約解約を求めて提訴したが、その請求は棄却されたうえ、コメディー・フランセーズに出演するよう求めるXのZに対する請求が認容され、これにアストラントが付された。また、XのZおよびZを出演させた劇場の支配人に対する損害賠償請求も認容された。ところが、Xは、この判決に対して控訴したうえで、控訴審の審理が終わる前に、フォリー・ワグラム座の支配人Yとの間で、出演契約を締結した。そこで、Xは、YおよびZに対して、損害賠償を請求した。 セーヌ民事裁判所は、Yが事情を知らずにZを雇い入れたわけはないとし、また、ZX間の紛争が新聞や専門誌によ 五〇〇

(30)

(   )引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界同志社法学 六五巻二号二二一 って報じられていたことを指摘したうえで、Yには、Zが自由に他の劇場に出演する契約を締結することの可否について疑問を持ったならばXに確認することは容易であったのにそれをしなかった点で不注意があるとして、Xの請求を認容した。

⒝ この判決は、新使用者が、旧雇用契約の存在や被用者が他の劇場に出演することを禁じる規則の存在を認識していたことを明確に認定することなく、被用者の引抜きに関する新使用者の責任を認めている点で注目される。同判決は、新使用者には旧使用者に問い合わせをしなかったという不注意があることを指摘しているところ、不注意をもって新使用者のフォートを認めることが可能だと考えているものとも思われる。もっとも、コメディー・フランセーズの規則が演劇業界では知られたものだったことは想像に難くなく、しかもZX間の紛争は法廷闘争に発展しそれが新聞や専門誌でも報じられていたというのであるから、仮にYが善意であったとしても、重過失があるといい得る事案であったことには注意が必要であろう。

⑶ 検討⒜ まずは、労働者を引き抜いた第三者の責任を否定した裁判例を整理しておこう。 ︻1︼ないし︻

任ま者用使旧が者用被、ず、対はて関に決判の他のそ にしし指て責の者三第でうたし摘えをてと務を負っいないこ債 1も︼、︻はのしいないて決唆判みおの。るよであ決判︼8︻び 合示をとこるあが場もを残く全を地余う負任て責が者用使新、のしいる用得い負を任責が者使な新。いな少はのもいの 10るも、はてしと論結、れ用ずい、は決判各の被者い者てし定否を任責の用の使新るす関にき抜引︼

五〇一

(31)

(   )同志社法学 六五巻二号二二二引抜き事例にみる契約侵害論の意義と限界

を否定するもの(︻2︼判決および︻4︼判決)や、被用者と旧使用者との間の雇用契約が有期契約でないことを指摘したうえで新使用者の責任を否定したもの(︻5︼判決および︻6︼判決)に注目すべきであろう。これらの判決は、旧雇用契約が適法に解消されておらず被用者が旧使用者に対してなお契約上の債務を負っている場合には新使用者の責任を認める余地を残すものだといえるし、前者は、それに加えて、被用者が旧使用者に対して競業避止義務を負っている場合にも新使用者の責任を認める余地を残しているといえる。 また、︻3︼ないし︻6︼の各判決は、権利濫用や不正競争行為が認められる場合、あるいは特に詐害的性質を有する引抜きの場合には新使用者の責任を認める余地を残している。これらの裁判例を前提としても、例えば、営業秘密の漏示があった場合や、新使用者が旧使用者を害する目的で多数の被用者を引き抜いた場合には、新使用者の責任は認められ得るだろう。 なお、︻7︼判決および︻

。者よな場合でなければ、新使用うのいるいてし責となれらめ認は任 被てっよにの与関な的極積者用破が旧雇用契約の棄を決意した用者使識雇新しつつ被用者をいを入れただけでなく、認 10判積破約契に的極が決を者用使新、は棄︼唆用約契用雇旧が者新し、りまつ、合場た使

⒝ 次に、労働者を引き抜いた第三者の責任を肯定する判例・裁判例はどうか。 これらの判例・裁判例を概観して、まず気づかされることは、その多くが、有期契約が違法に破棄された事案に関するものだということである。具体的には、︻

11︼ないし︻

14︼および︻

18︼ないし︻

メは、たま。るあで的照対と用とこるあでのもるす関ディ被者ン可不替代たっいと優の、俳アる属性コみをと、歌手や に案事たれさ棄破き責の者三第たい抜引をを者働労、はとこの任否がが約契いなの定の間期ど定んとほの例判裁るすめ 20︼こ。るあでうそ、が決判各の 五〇二

参照

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