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若年労働市場の変容は男性性を揺らがせているか

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(1)

<論文>

若年労働市場の変容は男性性を揺らがせているか

‑YCSJ 調査不安定就労層男性の事例から一

1  .課題

従来日本社会においては、長期雇用と年功賃金の もとで家計の大半を一人で担う男性と、パート等 による家計補助的就労のもとで家事育児の大半 を担う女性とのカップリングとしづ家族像が「標 準的」と想定されてきた。そこでは男性には「稼 ぎ手( b r e a d w i n n e r ) 役割 J が強く期待され、とり わけ戦後高度成長期以降は、こうした「稼ぎ手 J に特化した男性性が支配的であったといわれて いる(江原 2012 、多賀 2006 ) 。 だが 1990 年代後 半以降の非正規雇用等の男性への急速な広がり は、その前提条件を大きく揺るがせている。契約 社員等を含む非正規雇用の大半は、雇用の不安定 性とともに正社員等に比べ低賃金でかつ年功賃 金カーブからはずれた賃金体系のもとにあり、そ のような条件は、 「 稼ぎ手」としての伝統的男性 役割の遂行を困難にしている。

そのなかで、例えば非正規雇用フノレタイム就 労・ 月収 20 万円程度同士のカップリングによる、

新たな「第二標準」(中西 2 00 3 )など、就労・家 事育児ともより対等なパートナ一関係による家 族形成の可能性が提起されている。だが、実際の ところ雇用をめぐるこのような変化は、男性の意 識や生活にどのような影響を与えているのか。と

りわけ 「 稼ぎ手」としての男性役割意識には、 何 らかの揺らぎが生じているのだろうか。

目黒らは、「都市男性の生活と意識に関する調 査」結果として、離転職経験のある男性に平等志 向の高まりが見られるものの、不安定雇用経験は

「 稼ぎ手

j

意識に影響を与えていないとしている

(目黒ほか 2012 。 ) 一方太郎丸は 、 2005 年 S SM 調査結果から、 1 9 9 2 ‑ 2 0 0 5 年に結婚したカップノレ

において非正規同士の結婚確率が高まっている としている(太郎丸 2 0 1 1 )

10 

そこで本稿では、長期間にわたって不安定就労を続

乾 彰 夫 いるのかを検討する。

2 . 使用するデータ

使用するデータは「若者の教育とキャリア形成 に関する調査( Youth Coho

S t ud y o f  J a p a n ) J で ある。 YCSJ は 2007 年 4 月 1 日現在満 20 歳の全 国サンプルを対象に同年秋から 2 0 1 1 年秩までの 5 年間にわたって実施したパネノレ調査で、ある。初 回回答者 1687 名 、ー 最終回回答者 8 91 名(ウエイ ト付後サンプル数 768 ) であった。 調査では 2005 年 4 月〜2 0 1 1 年 1 0 月までの期間の毎月の主な状 態を質問している。その回答をもとに、オプティ マノレ・マッチング法によって 8 つの移行類型が得

られた。ここではその中の「早期離学・非正規雇 用優勢」類型の男性(3 9サンフ 。 /レ)に主に注目 する。調査対象期間 79ヶ月についてこの類型の 平均的経験期間は、在学 1 2 . 6 ヶ月、正規雇用 5 . 9 ヶ月に対し、非正規雇用 5 2 . 7 ヶ月、失業 3 . 1 ヶ月、

無業 3 . 3 ヶ月である。 およそ 2 007 年 3 月 (20 歳 ) 以前に最終学校を離れ、その後 2 0 1 1年 1 0月

( 2 4 / 2 5 歳)までの期間の大半を非正規雇用を中 心に、聞に失業・無業を挟むなど、正規雇用以外 の状態で過ごしている

20

男性 女性 合計

①後期・正規 111  110  221  34.4 27.2%  30.4¥ 

②早織・疋売量 64  102  166  19.8 25.2 22.8

③後期・非iE規 21  43  64  5 10.6 8

⑥早期・非正規 39  63  102  12.1 15.6 14.m. 

⑤正規4非正幾 15  18  33  4.6 4.5%  4.5

⑥非iE衆一正幾 6  22  28  1.9 5.4%  3.9l

⑦在学 58  22  80  18.0 5.4li  11.0

⑥無事監 9  24  33 

(2)

3 .   結果

( 1)対象者全体の状況

まずはじめに、他の類型も含む対象者全体の傾 向について示す。最終調査時点では男女ともに 9 割前後が未婚である(以下、とくに断りのない限

り、数値はすべて最終調査時の回答)。男性では 早期・正規類型に比較的既婚者が多い(早期・正 規男性の未婚率 73.4% ) 。また男女とも 7 割あま りが実親と一緒に暮らしている。ジェンダー意識 では、結婚後の家事育児分担について、男性の 54.2% 、女性の 40.4% が「夫と妻同じぐらい J と 答えており、男性の方が意識の上では平等志向が 高いえ 一方、結婚後の妻の就労については、「結 婚退職」「出産退職 J で女性がやや多いものの、

男女とも「出産退職・復帰」 5 割弱、「就労継続 J

25% あまりで全体としての差はほとんどない。

1

未婚率(男女)

0%  20%  40%  60%  80%  100% 

男 性 出 圃

E 園 田 園 園 田 園 田 園E 園 田 白 血

| 

‑ l

 

I  I  I  I  女性 4 州州制誌や駒市工凡ふ •}i'

| 

2 実親との同居率(男女)

0%  20%  40%  60%  80%  100% 

男性』ーーー』ーーー』ー圃ーー−− I  I 

I  I 

j  I 

I  女性 l ?  守 山 、γJ ν付 日 ぺ

I  I 

図 3 結婚後の家事・育児分担(「どちらかという と夫」+「夫婦問じぐらし、」)(男女)

0%  20%  40%  60%  80%  100% 

ず空ケ I I I 

図 4 結婚後の就労(男性は配偶者に望むこと、

女性は自身について)(男女)

0%  20%  40%  60%  80%  100% 

男性 i 隠欝畿※ 綴 8

袋線綴綴浴秘 主

1 .    , : . r  I 

i  I  I  I  I  I 

女性 ! 臨灘臨総綴綴綴お綴綴~

• t  l : I  J 

ロ結婚したら仕事をやめる

・結婚して子どもができたら仕事をやめる 固子供ができたら仕事をやめるが、 子供が大きく

なったら仕事をする

ロ結婚して子どもができても、ずっと仕事を続ける 臼結婚するつもりはない

「 10 年後の見通し J については「同じ仕事を 続けている 」 「安定した仕事についている」 など で男性が上回るものの、「結婚している J では女 性が上回っている。また「職業に関する意識 J で は「家族を養うこと大切 J に男性の 9 割(女性 8 害時号)が肯定し、稼ぎ手意識は高い。 「高い地位 や収入

j

「ずっとフルタイム

j

など男性の職業意 識は高いが、「就職・失業不安」も男性に高い。

図 5 10 年後の見通し・ずっと同じ仕事を続けて いる(男女)

0%  20%  40%  60%  80%  100% 

男性ーーーーーーーーーーーーー I  I 

女性|品 小!

j I  I  I 

図 6 10 年後の見通し:安定した仕事について いる(男女)

0%  20%  40%  60%  80%  100% 

男性』ーーー』ーーー』園圃圃由ー

| 

| 

1  I 

I  I 

I  I 

女性

t 川.,,,,,

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I  I 

(3)

乾彰夫若年労働市場の変容は男性性を揺らがせているか 図 7 10 年後の見通し : 結婚 し て いる(男女)

0 %  2 0 %  4 0 %  6 0 %  8 0 %  100 % 

男性 』園田園』−"'−ーー』

|  | 

1  I  I  I  I  I 

女 性 問 州 制 母 校 お 抗 議 凶 制 川 市 対 叫 州 :I

I  I 

8 仕事を し て家族を養うこと大切(男女)

0 %  2 0 %  4 0 %  6 0 %  8 0 %  100 % 

男性 』ー圃圃占−』_...

1  j  I  ! 

女 性 3ι沼 野 沼 町 五 い 閉 口1 W 州:/.<'

図 9 就職できなかったり失業するのではないか 不安(男女)

::~~ I I 

人間関係については、「一緒にいて安心できる 人」が 「 いる」割合は男性 84.5% 女性 94 . 1 % と 女性が上回り、その内訳でも親・恋人 ・ 高校以降 の学校の友人など女性の方が人間関係を豊富に 持っていることがうかがわれる。

図 10 一緒にいると居心地がよく安心できる人 がいる(男女)

0 %  20 %  40%  6 0 %  8 0 %  100 % 

男性

女 性 候 議 開 縦三鰍 碗 通 謀 説illill?j雨 漏 爾 繭 雨 漏 禰

11

一緒にいると安心できる人・親(男女)

0 %  20 %  4 0 %  60 %  8 0 %  100 % 

図 1 2 一緒にいると安心できる人・恋人(男女)

0 %  2 0 %  4 0 %  6 0 %  8 0 %  100 % 

i::里t ,~J I I  I 

図 1 3 一緒にいると安心できる人・高校以降の 学校の友人(男女)

0 %  2 0 %  4 0 %  6 0 %  8 0 %  100 % 

: : : = : : ι l 

( 2 ) 早期非正規男性の状況

次に早期離学・非正規雇用 優勢類型男性の状況 である。早期非正規男性のほとんど( 97.4 % )が 未婚で大多数( 89.7 % )が実親と同居している。

実親との同居率は男性平均よりも明らかに高く 、 未婚率も統計的有意差は認められないとはいえ 男性平均よりもやや高い。また高校卒業時から最 終調査時点までの居住地移動では、 非 3 大都市圏

4

定住者 ( 1 8 歳の誕生日以降移動経験なし )の割 合が顕著に高く、大都市部以外の地域に定住して いることも早期非正規男性の大きな特徴である。

図 1 4 未婚率(男性)

男 性 平 均 」 ー 』 ー 』 ー 』 ー 』 ー

i

I I  I  I  I 

早期非正規男性服部矧~,"Q,0','0必'0'9'7/,"h研都矧 j

0 % 20 % 4 0 % 6 0 % 8 0 %  100 % 

図 15 実親同居率

男 性 平 均 」 ー 』 ー 』 ー 』 |

1  I  I  I  I 

早期・非正規男性掛悌餅封~/////~タ例帰仙店主到

0 % 20 % 4 0 % 6 0 %  80 %  100 % 

(4)

図 16

居住地移動

0%  20%  40% 

意~照同

岳 E ト 製 同 金 女 性 生_ 」

1

雲 ; 吾 { :

森 田 宮吾主三 ト 帯 主

妄 男 正 性 一

ジェンダー意識では、早期非正規男性の家事育 児分担「夫と妻同じぐらい

j

の割合は男性平均よ りも高い( 63 . 2 % )ものの 3 年前( 76.9% )に比 べ明らかに低下している。また結婚後の妻の就労 については、「結婚するつもりはなしリが早期非 正規男性で有意に高いほかは、男性平均との間に 統計的有意差は認められない。配偶者の「継続就 労 J を望む者が平均よりもやや高いものの統計上 の有意差はない。

図 18 結婚後の配偶者の就労(男性)

0%  20% 

結婚したら仕事をやめる

60% 

80% 

1  l 

100% 

"

1  

一 『

「 司

孟斗 →  1  二二司

3

大都市定住

園非 3 大都市定住 口その他

図 17 結婚後の家事・育児分担(「どちらかとい うと夫 J +「夫婦同じぐらしリ)(男性)

男性平均(21122歳) 男性平均(24125歳) 早期・非正規男性(21122歳) 早期・非正規男性(24125歳)

切 古 都 も4IBも 的 古 都 も1α野も

40%  60%  80%  100% 

圃結婚して子どもができたら仕事をやめる

図子供ができたら仕事をやめるが、子供が大きくなったら仕事をする

園結婚して子どもができても、ずっと仕事を続ける

ロ結婚するつもりはない

・無回答

30 

(5)

乾彰夫若年労働市場の変容は男性性を揺らがせているか

「 1 0 年後の見通し」では、早期非正規男性で「同 じ仕事を続けている」が男性平均に比べて顕著に低 い。また「結婚している」は第二回調査の 21/22 歳 時点では、男性平均との聞に有意な差はなかったも のの、 3 年後の最終時点、では大きく低下し顕著な差 が生じている。一方で、「親と暮らしている」 「 今の 生出或に住んでいる」が男性平均よりも顕著に高くか

っ 3 年前の第二回調査より上昇している。 とくに

「親と暮らしている」は、 3 年前には男性平均との 聞に統計上の有意差が認めら得なかったものから、

20% を超える大きな上昇となっている。

図 1 9 10 年後の見通し:ずっと同じ仕事を 続けている(男性)

男性平均

h

園 田 白

. . 

早期 ・ 非正規男性 ~ II

0

20

% 40 % 60% 

80

100

図 20 1 0 年後の見通し:結婚している(男性)

男性平均(

2 1 1 2 2

歳)

男性平均(

2 4 / 2 5

歳) 早期 非 正 規 男 性 (

2 1 1 2 2

歳)

早期・非正規男性(

2 4 / 2 5

歳)

0

% 20% 40% 60%  80% 

100% 

図2 1 1 0 年後の見通し:実親と 一緒に暮らして いる ( 男 十 生 )

男性平均 (2ν22歳) 男性平均(

2 4 / 2 5

歳) 早期・非正規男性(

2 1 2 2

歳) 早期・非正規男性(

2 4 / 2 5

歳)

0

% 20 % 4

0

60% 80% 100

図 22 10 年後の見通 し: 、まと し 同じ地域に住んで いる(男凶

男性平均(

2122

歳) と二ここ二二二二コi

I  I 

男性平均(

2 4 / 2 5

歳) 』一一」一一』ー~

I  I 

早期・非正規男性(21122歳) 仲 間 四 柑 叩 知 仇昨 仇

! 

| 

「職業に関する意識」では 「 家族を養うこと大 切 J については男性平均 8 9.4% に対し早期非正規 男性 86 . 8% と統計上の有意差は認められない。 な おこの傾向は 2 年前の第三回調査でも同様で、あっ た

5o

2 年前との差も認められない。一方で、早期 非正規男性は男性平均に比べて、「同じ会社で続 けたし 、」が「就職・失業不安」とともに平均値を 上回っている。 非正規であることへの不安が同じ 会社での就労継続への希望をより強めているよ

うである。

図 23 仕事をして家族を養うこと大切(男性)

男性平均(

2

2 3

歳) 3j桝 帆 附 附lI g日恥1N,,

男性平均(2仰 歳 ) 阿 国 司 由

i

早期・非正規男性(

2 2 / 2 3

歳) . Y,. !  早期 非正規男性(

2 4 1 2 5

歳)

0

20

% 4

0

60% 80% 100

図 24 毅 7 職できなかったり失業するのではないか 不安(男倒

男性平均山田~ I  I  I 

早期・非正規男性問問V//N必仲必併的W A

I  I 

0

20

% 40% 60% 80% 

100

図 2 5 鵬 識 せず同じ針土で働き続けたし、 ( 男 凶

男 性 平 均 」 司 ー 司 ー ー −

I I 

i  I  I  I  i  I 

早期非正規男性開封併何仰φがグが,,,~ , 0

20% 40% 60

% 80% 

100

人間関係では「安心できる人」がいる早期非正

規男性の割合は男性平均値を下回っており、内訳

でも親・恋人・高校以降の学校の友人で男性平均

値を顕著に下回る。さらに特徴的なこ とは、これ

らすべてで、第一回調査の 20 / 21 歳時には男性平

均と早期非正規男性との聞にほとんど差がない

か、あるいは早期非正規男性が上回るものもあっ

たにもかかわらず、 4年間の聞に早期非正規男性

(6)

に暮らし続けながら学校時代の友人と疎遠にな っているなど、孤立感の進行が窺える。

図 26 一緒にいると居心地がよく安心できる人が いる(男凶

男性平均(20/21歳) 男性平均(24/25歳)

早期非正規男性(20/21歳) ~ 早期・非正規男性(2425歳)

日% 20% 40% 60% 80% 100% 

図 27 一緒にいると安心できる人・親(男性)

男性平均(20/21歳) 男性平均(24/25歳) 早期・非正規男性(201歳) 早期・非正規男性(24/25歳)

0% 20% 40% 60% 80% 100% 

図 28 一緒にいると安心できる人・恋人(男性)

男性平均(20/21歳) 男性平均(24/25歳) 早期・非正規男性(20/21歳) 早期・非正規男性(24/25歳)

0% 20% 40% 60% 80% 100% 

図 2 9 ー繍こしもと安 L できる人・高協ス陣わ友人倒的

男性平均(20/21歳)

男性平均(24125歳) 早期・非正規男性(20/21歳)

早期・非正規男性(24125歳)

0% 20% 40% 60% 80% 100% 

また「自分に関する意識」でも「今のままでよ し、」「自分らしく生きている」とも男性平均値を 顕著に下回っており、 4年前よりも低下している。

これらは男性平均値でも 4年前より低下が見られ るが、低下率は早期非正規男性の方が大きい。な おこれらの項目で女性については、早期非正規女 性と女性平均との聞に有意な差は認められない

( 図 略 ) 。

32 

図 30 今のままの自分でよい(男性)

男性平均(20/21歳) 男性平均(24125歳) 早期・非正規男性(20/21歳) 早期・非正規男性(24/25歳)

0% 20% 40% 60% 80% 100% 

図 31 自分らしく生きている(男性)

男性平均(20/21歳) 男性平均(24/25歳) 早期非正規男性(20/21歳) 早期・非正規男性(24/25歳)

4.  結論と考察

0% 20% 40% 60% 80% 100% 

以上の結果からは、長期にわたる不安定雇用を 続ける若年男性の中では、それによる稼ぎ手意識 の低下や平等志向の上昇といった男性性の変化 の兆しは今のところ認められない。「仕事をして 家族を養うこと大切

j

という稼ぎ手意識は男性平 均と変わらない高い水準を維持しており、不安定 な就労状況を続けていてもそれによる低下は見 られない。家事育児分担についての平等意識は男 性平均よりやや高いとはいえ、長期にわたる不安 定就労を続けている中でその意識は大きく低下 している。また結婚後の妻の就労等についての希 望も、就労継続はそれほど高くなく、男性平均に 比べ顕著に高いのは「結婚するつもりはなしリで あった。そういう点では彼らの意識は、中西のい うような「第二標準」に向かっているようには見 えない。「就職できなかったり失業するのではな いか」という不安感の高さや、「離転 I 哉せず同じ 会社で働き続けたい J という希望が男性平均を大 きく上回ることからは、むしろ「稼ぎ手役割」が 果たせる状態に何とかたどり着きたいという強 い意識を読み取ることができる。

しかし「稼ぎ手役割」への到達が困難であると

いう感覚も次第に強くなってきている。「結婚し

ている」という将来見通しは 3 年前に比べて大き

く低下し、そのかわり「実親と一緒に暮らしてい

る」だろうという見通しが大きく増加している。

(7)

乾彰夫若年労働市場の変容は男性性を揺らがせているか また彼らはもともと大都市部以外の地域に住み

続けていたが、今後ともこの地域から動かない

(動けない)だろうという見通しも強くなってい る 。

では、親とともに住み慣れた地域で暮らし続け るというその生活は彼らにとってどんなものな のだろうか。阿部(20 1 3 )は「ほどほどに快適な 地方都市」で家族や友人らとともに「ぬるま湯的 な居場所」を確保している若者たちを、今日の新 しい動向として描いている 。 だが、今回の結果か らは、 一緒に暮らし続けているからといって、実 親といることが安心できるとし、う感覚は大きく 低下してきでおり、友人らとの関係も途切れがち になっている。 住み慣れた地域に暮らし続けなが ら、家族・友人らからはむしろ孤立する傾向にあ ることが読み取れた。 そしてその結果として、自 己肯定感も大きく低下していた。

こうした状況は、阿部の描いた上述の姿よりは、

赤木(2 0 0 7 )の描いた「車がないとまともな生活 もできなしリ地方で、親とそりが合わなくても家 を出て行くことさえままならない、しかもこの

「情況すらいつまで続くか分からない」、そんな 欝屈した孤独感に近い。

こうして見ると不安定な就労状況を長期にわ たって続けている早期非正規男性たちは、現実化 できる条件がほとんどないことを自覚しつつも 自らを「稼ぎ手」役割意識から解き放つことがで きず、結果として孤立感と自己否定感を強める状 況に陥っているといえる。ではなぜ 「 稼ぎ手」役 割意識から抜け出ることが困難なのだろうか。そ のことについてはさらに別途本格的な検討が必 要ではあるが、ここではこの調査データから考え られる 二 つの可能性について、最後に指摘 し てお きたい。

一つの可能性は、「稼ぎ手」役割意識そのもの の根強さである。これはもちろん若者たち自身の 中にもあるのではなし、かと考えられるが、同時に 指摘しておきたいことは、彼らへの周囲からの眼 差 しゃ圧力である。すでに指摘したように、彼ら の多くは親と同居し続けているにもかかわらず、

親と一緒にいて安心できるという感覚はこの間 に大きく低下していた。こうした傾向は、同じ不

一緒にいて安心できる人のいる割合(92 . 1% )は 女性平均(94.1% )とほとんど同じ、 一緒にいて 安心できる人として親を選ぶ割合も同様(68.3%

と66 . 9% )で、親を選ぶ割合は 4 年前に比べ有意 に上昇(52.4% →68.3% )している。こうした早 期非正規における男女の違いの背景には、不安定 就労を続けることについて、娘の不安定就労は許 容しても息子の不安定就労については許容でき ないといった、親たちの側での受け止めの違いが あるのではないか。 そこにはさらに家族をとりま く地域社会の視線もあるかも知れない。そのよう な圧力が 、 早期非正規男性たちにそれでも「稼ぎ 手」役割意識にこだわり続けざるをえない環境と なっているのではないだろうか 。

もう 一つの可能性は、「第二 標準」自体が未だ 安定した生活を可能にしていないということで ある。 雇用保険などを含むセフティ・ネットの枠 組みは、基本的に正規雇用者を対象としてつくら れている。その結果 YCSJ 対象者で見た場合、こ れらのセフティ・ネットなどの公共サービス利用 は、当初正規雇用に就いていて途中から不安定就 労に変わった「早期離学正規→非正規」 類型を除 けばほとんど、なかった(樋口20 1 4 ) 。当初から不 安定就労を続けている者たちにとっては、現行の セフティ・ネットは有効には機能していない。そ のような点から見ても、非正規雇用であってもあ る程度安定した生活をとしづ見通しは、現状にお いてはもちづらいといわざるをえない。 「 第二標 準 J を可能にするための制度的な支えが必要であ る 。

j

1

但し太郎丸の分析は、既婚者のみを対象として おり、未婚者を含む結婚確率全般を検討している ものではない。

2

なお「早期離学・非正規雇用優勢」類型を含む 8 類型の移行チャートについては、乾 2014 を参

0

3

なお統計上の差の有無については、カイ二乗検 定で 10 % 水準以下のものについて差ありとして いる。

3 大都市圏とは、首都圏(東京、神奈川、千葉、

埼玉)、中京圏(愛知)、京阪神圏(京都、大阪、

兵庫)を指す。

(8)

参考・引用文献

赤木智弘(2007 )「希望は戦争 『丸山真男』

をひっばたきたい」『論座』 2007 年 1 月号(赤木 2007『若者を見殺しにする国』双風舎に収録)

阿部真大(2013 )『地方にこもる若者たち』朝 日新書

乾彰夫(2014 )「対象者の移行軌跡類型 79 ヶ 月分の活動記録カレンダーをもとに」若者の教育 とキャリア形成に関する研究会『最終調査結果報 告書』

江原由美子(2012 )「社会変動と男性性」目黒 ほか編『揺らぐ男性のジェンダー意識』

多賀太(2006 )『男らしさの社会学』世界島哩社 太郎丸博(2011 )「若年非正規雇用と結婚 J 佐 藤嘉倫・尾嶋史章編『現代の社会階層 1格差と多 様性』東京大学出版会

中西新太郎(2003 )「日本的雇用の転換と若年 層の就業・ライフコース変容」『女性労働研究』

43 号(中西 2004『若者たちに何が起こってい るのか』花伝社に収録)

樋口明彦(2 0 1 4 ) 「若者に対する社会保障制度 の射程 j 若者の教育とキャリア形成に関する研究 会『最終調査結果報告書』

目黒依子・矢津澄子・岡本英雄編(2012 )『揺ら ぐ男性のジェンダー意識』新曜社

若者の教育とキャリア形成に関する研究会 ( 2 0 1 4 )『最終調査結果報告書』

h t t p : / / w w w . c o m p . t m u . a c . j p / y c s j 2 0 0 7 / d l 2 / y c s j 2 0   0 7 r e p 0 5 . p d f  

なお本稿は日本社会学会第 87 回大会シンポジ ウム(2 )「変容する企業中心社会の男性学的解剖」

( 2 0 1 4 年 1 1 月 23日神戸大学)での報告をもと にしている。データとして使用した YCSJ 調査は 日 本 学 術 振 興 会 科 学 研 究 費 基 盤 研 究 ( A)

( 2 0 0 7 ・ 2009 年度、 2010‑2013 年度)を受けて実 施された。

34 

図 2 実親との同居率(男女)
図 8 仕事を し て家族を養うこと大切(男女) 0 %  2 0 %  4 0 %  6 0 %  8 0 %  100 %  男性 』ー圃圃占−』_.............
図 16 居住地移動 0%  20%  40%  意~照同 男 女 性 性 て こ + ー 岳E ト 製 同 金 女 性 生_ 」1 雲 ; 吾 { : 森 田 宮吾主三ト帯主 柑 江 小 妄 男 正 性 一 ジェンダー意識では、早期非正規男性の家事育 児分担「夫と妻同じぐらい j の割合は男性平均よ りも高い( 63
図 2 5 鵬 識 せず同じ針土で働き続けたし、 ( 男 凶

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