アカデ ミック ・ハ ラスメ ン ト問題 と学生相談

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アカデ ミック ・ハ ラスメ ン ト問題 と学生相談

保 健管 理 セ ンター  西 村  優 紀 美

Yukilni Nishilnura:Academic Harassment and Campus Counseling

は じめ に

平成 17年 1月 19日 か ら 21日 まで,筑 波大 学 において第 38回 全国学生相談研究会議が行わ れ,最 終 日に 「アカデ ミック ・ハ ラスメ ン ト問題 と学生相談」 とい うテーマで シンポジウムが行わ れ ま した。 この シンポ ジウムでは,「 アカデ ミッ ク ・ハ ラスメ ン トは,教 育 ・研究の場 の本質的な 機能 に関わる ものであ り,問 題 は本来的に深刻で ある」 と し,『学生 と教職員の 「人間の尊厳」が 守 られる教育研究環境を作 るために,わ か りやす い基準案 と防止のための システムのモデルを提案 しなければな らない』 という趣 旨で行われま した。

現在,ど の大学で も 「セクシュアル ・ハ ラスメ ン ト」のガイ ドライ ンは整備 されていますが,ア カデ ミック ・ハ ラスメ ン トのガイ ドライ ンや相談 システムはどこの大学 も整 っていない状況です。

そのような中で, さまざまな相談活動 を行 ちてい る学生相談室が,ア カデ ミック ・ハ ラスメ ン ト問 題 にどのような相談 システムのアイデ ィアを提供 で きるかが討論の中心 にな りま した。

ハラスメン ト ( h a r a s s m e n t ) と い じめ ( b u l ‐ lying)

平成 16年 7月 に 「アカデ ミック ・ハ ラスメ ン ト」防止 のための 5大 学合同研究協議会が北海道 大学 を会場 に行われ,北 海道大学,東 北大学,東 京大学,・ 東京工業大学,九 州大学 の学生相談担当 者が一堂 に会 してハ ラスメ ン トの概念整理,メ カ ニズムとその影響,ガ イ ドライン原案作成,ハ ラ スメ ン トか らの救済 システム案の作成等 の協議が 行われま した。 ここでは,そ の第 1回 報告書の中 か ら,ハ ラスメ ン トの概念,メ カニズム等 につい て,参 考 になる部分を抜粋 しなが ら整理 していき たい と思 います。

まず,本 大学 について整理 してみま しょう。

富山大学 の場合 は,『 セ ク シュアル ・ハ ラスメ ン ト等の防止 に関す る指針』の中に,次 のように 記 されています。

セクシュアル ・ハ ラスメント等 とは,修 学, 就労,教 育又 は,研 究上の関係を利用 してな される次 に挙 げる行為をいう。

1.性 的欲求への月 風従又は拒否を理由として,

修学,就 労,教 育又 は研究上 の利益又 は不

利益 に影響 を与え ること。

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2.相 手が望 まないにもかかわ らず,修 学, 就労,教 育又 は研究上の利益又 は不利益

を条件 と して,性 的誘 いかけを行 うこと 又 は性的に好意的な態度 を要求す ること。

3.性 的言動及 び掲示等 により,不 快 の念 を 抱かせ るような環境 を作 り出す こと。

4。 その他不当な言動等 により,修 学,就 労, 教育又 は研究上の不利益 を与え ること。

4.に アカデ ミック ・ハ ラスメ ン ト,い じ め,人 種差別 など,不 当に他者 に不利益 を与 える行為が含 まれ る。

アカデ ミック ・ハ ラスメ ン ト:教員 一学生 間の問題 のように学校で特有の,必 ず しも性 的な こととは限 らないハ ラスメ ン ト

この よ うに,セ ク シュアル ・ハ ラスメ ン トの文 言 の中 に 「アカデ ミック ・ハ ラスメ ン ト・い じめ」

とい う用語 が入 ってお り,含 まれ る もの と して あ ります が,セ ク シュアル ・ハ ラス メ ン トとは別 の さまざ まなデ リケー トな問題 もあ り,あ らためて 定義 し,メ カニ ズ ム と影響 の解 明 をす る必 要 が あ

るよ うです。

仁平 義 明 (東北大学学生 相 談所長 )氏 は,ハ ラ スメ ン ト概念 を見直す ために,イ ギ リスにおいて, 職場 の い じめ に関 し,企 業 や組織 と特 別雇用契約 を 結 ん で 実 践 を 行 っ て い る 心 理 学 者 , P . R . P e y t o n が採 用 す る ・ ハ ラスメ ン ト と" い じめ

" の

定義 を紹 介 して い ます 。 。

著書 『D i g n i t y   a t   w o r k : E l i m i n a t e   b u l l y ― ing and create positive working environme nt』 (2003,Bunner―Routledge)よ り物支1粋

Oい じこ b(bul:ying))な NIanufacturing Sci―

ence and Finance(h/1SF)Unionに よ るテ = 義

1回 だけでな く執拗 に続 く ・攻撃的 0虐 待 的 ・脅迫的 ・悪意のある 。侮辱的な行動, あ

るいは権力の濫用,不 公正 な懲罰である。 い じめは,そ れを受 けるものに苦 しみ,脅 威を

与え,誇 りを失わせ,心 を傷つける。 さらに, 自信を失わせ,ス トレスを与える。

◇ ハ ラスメ ン ト (harassment)※ Indus̲

trial Societyに よる定義

不当な ・攻撃的 ・誇 りを傷つ ける行動,習 慣的な行為,あ るいは振 る舞 いは,す べてハ

ラスメ ン トだ と定義で きる。 それは,そ の人 の仕事の安寧 な遂行を脅か し,お びえを起 こ す,不 快でス トレスフルな職場環境をつ くり だす。 あるいは個人的に も不快感を引 き起 こ

し精神的に傷つかせ るものである。

アカデ ミック ・ハ ラスメ ントを :セ クシュアル ・ ハ ラスメ ン ト以外の教育研究上 のハ ラスメ ン ト' の意味で用 いるのは, 日本だけに限 られてお り和 製英語であるようです。

現在,大 学 にお いて問題 とな って い る現象 は

「 ハ ラスメン ト」 という語が暗示する 「迷惑行為」

よ りも,む しろ 「権力関係 を もとに した執拗 ない じめ」 というのが実情です。 しか し, 日本語 ・英 語 いずれにおいて も,よ り遮、さわ しい表現がみあ た らないことか ら,既 にある程度 の市民権 を得て いると考え られ る ・ アカデ ミック ・ハ ラスメ ン ト "

とい う表現を再定義 して使用す ることも考え られ ます。

NPO「 アカデ ミック ・ハ ラスメ ン トをな くす ネ ッ トワーク (NAAH)」 で は, ア カデ ミック ・ ハ ラスメ ン トを次のように定義 していますら。

アカデ ミック ・ハ ラスメ ン トとは

ア カ デ ミック 。ハ ラス メ ン トとは,『 研究 教育 の場 にお け る権 力 を利用 した嫌 が らせ』

です。一般 にはセ ク シュアル ・ハ ラスメ ン ト も含 まれ ますが, こで は対応 の遅 れてい る性 的 で な い嫌 が らせ を アカデ ミック ・ハ ラス メ

ン トとい うことに します。

アカデ ミック ・ハ ラスメ ン トは,そ れが起 きる場面 によ って,研 究活動 に関す る もの, 教育指導 に関す る もの,そ れ以外 の職場 いび

りに類 す る もの,暴 力的発言 や行為 な ど相手

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アカデ ミック 0ハ ラスメン ト問題 と学生相談

に身体的 0精 神的な傷害を与える行為 に分類 す ることがで きます。 たとえば研究

活動 に関す る嫌が らせには,研 究 テーマを与 えないあるいは研究 テーマを強制す る行為, 研究機器を使わせない ・研究費を取 り上げる ・ 研究出張 を認 めないなどの研究 を妨害す る行 為,研 究成果 を奪 った り発表や論文作成 を妨 害 した りす る行為が該当 します。

教育指導 に関す る嫌が らせには,指 導 を行 わないこと,研 究 テーマの押 しつけなど本人 の自主性を認めない行為,学 位や単位認定 に 関 して不公平 ・不公正 な対応 を取 ること,進 路 に関す る妨害や干渉 などが該当 します。

また, 日常的な場面で見 られることとして は,暴 力的あるいは人格を傷つける言動,悪 口や中傷,プ ライバ シーに関す ることを言 い ふ らす こと,退 学や退職を促 した り示唆 した

りす ることなどがあ ります。

以上 のよ うな行為 は,嫌 が らせの意図の有 無 にかかわ らず,教 育 を受 ける権利,研 究教 育 を行 う権利,働 く権利 あるいは人格権 ・自 己決定権への侵害に他ならず,ア カデ ミック ・ ハ ラスメン トとみなされます。

今回行われた シンポ ジウムでは,  これ らの先行 す るさまざまな定義 と現状 をが―スに,『 アカデ ミック ・ノ、ラスメ ン トを,大 学の構成員が権力関 係 を用 いて, 不 適切な言動 を行 い,  これによって 相手が精神的 ・身体的な面を含めて, 学 修 ・研究 や職務遂行 に関連 して不利益 ・損害を こうむ るも の と定義す る。』 とい う案が出されま した。

法人化 と い じめ文化 " ( b u!: y i ng   cu k u r e) 仁平氏 は,報 告書 の中で この二つの関係 を次の ように記述 していますD。

Pey to nは ,い じめが起 こりやす い環境条件,

"い じめ文化 ‖ について述べていますが,驚 いたこ とに,Peytonが あげた条件 は,国 立大学法人化 にともなって多 くの大学が中期 目標,中 期計画 に

掲げた項 目,大 学の経営方針 と関連のある要素を 多 く含んでいます。国立大学の法人化 は,大 学の 進歩 にとって有益 な変化の萌芽を持 って くるとと もに,ま れであ って も "い じめ ‖ を起 こ しやす くさ せ る変化で もあることを自覚 しなければな らない で しょう。 なお,Peytonが い じめ文化 と してあ げた ものは, このよ うな条件です。

◇達成度 に応 じた報酬

実際 には,貧 しい条件 の中でつねに努力 が要求 され,そ の努力の結果が ダメだ とい われる。

◇細 かす ぎる経営

被雇用者をいつ も細か くモニ ター し査定 す る。

◇圧力

業績 を上 げるためにとい う3ゝ れ こみで,

"非

現実的な "業

務負担 をす るよ うな圧力を か ける。

◇合併

二つの組織が合併す るとき,強 力な方の 組織が支配権 を握 って,弱 小 な方 の組織の 価値観や文化を押 しつぶ して しま う6

◇組織改編

組織 を改変す るときには,非 現実的で対 処で きないよ うな仕事が要求 され るよ うに

なることがある。

◇ ワ ン マ ン化

自分の次席の ものを必ずい じめる者がい る。 もし,自 分 に全面的に屈服すれば,厚 遇す るとい うかたちを とる。

◇伝統 の維持

古 い階層構造 の中で,伝 統 だか らという 理 由で,無 理を押 しつ けようとす る。

◇ "相

性1の強調

一つのタイプだけの人間を要求する。

◇パ ワープ レイ (減員)

※ アイスホ ッケー用語

1年 後 に 10%定 員が削減 され ることを

予告 し,休 みに くくす る。

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アカデ ミック ・ハ ラスメ ン トはっ  い くつかの条 件が重 な って深刻化す るものです。 シ.ンポ ジウム では,そ うしたアカデ ミラク 0ハ ラスメ ン トの実 情 にかんす る理解を促進す るためには,定 義 と同 時に模擬事例 を提示す ることが重要であ り,模 擬 事例を検討することで,さ まざまなアカデ ミック ・ ハ ラスメントが起 こる典型的なパ ターンや,共 通 す るメカニズム,大 学教育 における構造的問題 な どを抽出す ることもで きるだろうと提案 されま し た。

アカデ ミック ・ハラスメン トの事例か らみえて く る問題

ここでは,ど のようなことがアカデ ミック ・ハ ラスメ ン ト該当す るのか,具 体的な事例を通 して みてみ ることに しま しょう。 ここでは,NPO法 人 「アカデ ミック ・ハ ラスメ ン トをな くす ネ ッ ト

ワーク」2)のホームペー ジか ら部分的 に引用 しな が ら, コメントを加えてみることに します。なお, 引用部分 は,本 大学で も置 きやすい事案であると 考えた ものです。

1。 学習 ・研究活動妨害 (研究教育機関 における 正当な活動を直接的 ・間接的に妨害す ること)

・文献 ・図書や機械類を使わせないという手段 で,研 究遂行を妨害す る。

・研究に必要な物品購入を,必 要な書類に押印 しないとい う手段で妨害す る。

・机を与えない。 また,机 を廊下 に出 したり, 条件 の悪 い部屋や他の研究室員 とは別の 部屋 に隔離 した りす る。

・研究費の申請を妨害する。

・学会への出張を正当な理由な く許可 しない。

※特 に起 こりやす いのは研究室 内であ り,「講 座制」 に象徴 され る教育研究機関での権力 ・ 権限の集中,閉 鎖性 ・密室性 とチェック機能 の欠如がハ ラスメ ン トの温床 になっていると い う指摘があ ります̀

2.卒 業 ・進級妨害 (学生の進級 ・卒業 ・修了を 正当な理由な く認 めないこと。 また正当な理 由な く単位を与えない こと。)

・卒業研究を開始 して間 もないのに,早 々に留 年 を言 い渡す。

・卒業 ・修了の判定基準を恣意的に変更 して留 年 させ る。

・ 「不真面 目だ」,「就職活動を したやつは留年 だ」 とい う口実で留年 させ る。

・卒業研究 は完了 しているのに, お礼奉公 と しての実験を強要 し,そ れを行わなければ卒 業 させない。

※研究室 は独立性が強 く,授 業中の様子 を他の 教員が見 ることや,あ る研究室 を他 の研究室 の関係者 や外部の人間が気軽 に入 って研究室 での教員 と学生のや り取 りを観察す ることは ほとん どないと言 ってよいで しょう。仮 にど のようなことが行われていて も,他 の教室や 研究室の者が口をはさむ ことはで きるはずが あ りません。卒業論文や修士論文,博 士論文 の提出には指導教員の許可が必要であ り,他 の教員が代わ って認めることはで きません。

5大 学合同研究協議会第 1回 報告書 よ り東北 大学 の例 をみてみま しょう。『東北大学 で は 卒業 の判定 は教授会で行われ,指 導教員が一 人で卒業の可否を決定で きない仕組みにな っ ています。 また,評 価をす るの も,研 究室の 複数 の教員の協議の もとにお こなわれます。

従 って,誰 か一人の教員だけで 「 卒業 させな い」 ことを決定す る権限を持 っているわけで はあ りません。 しか し,評 価の際 に実質的に 指導 を担当 した教員が強固に卒業論文の基準 に達 していないことを主張すれば,他 の教員 の反対がないと卒業 は難 しいか もしれません。

また,失 業論文を書 くための途中で教員の指 導が行 われなければ,論 文を書 く作業 は困難 になることがあ ります (これは,以 下の 4に 連動 しています)。実験等が教員の指導の も

とに行われなければな らない状況 は,困 難 さ

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アカデ ミック ・ハ ラスメ ン ト問題 と学生相談

をさ らに強化 します。 「卒業 させ ない」 とい う教員の言葉 は,学 生 にとって非常 な重みを 持 って響 くことにな ります。』

過去のケースでは,数 件 において,「卒業 は無 理です」 とか,「 4年 間で卒業 しなければいけな いわけではない」,「最高で 8年 は大学 にい られ る んだ」などの言葉を口にす る教員がいま した。学 生 の表現 によると,「私 を励 ま しているよ うな感 じも受 けるけど,何 度 も繰 り返 されると本当か と 思 う」 とい う場合 と,「家 まで電話をか けて きて 母親 に もそのよ うに伝 えていた。」 とい うよ うに 真意 を図 りかねる場合があ ります。

3。 選択権の侵害 (就職 ・進学の妨害,望 まない 異動の強要 など。)

0指 導教員を途中で変更 した ら自動的に留年。

・本人の希望に反する学習 ・研究計画や研究テー マを押 しつける。

・就職や他大学進学に必要な推薦書を書かない。

・就職活動を禁止す る。

・会社 に圧力をかけて内定を取 り消 させる。

・ 「結婚 したら研究者 としてやってはいけない」

などと言 って,結 婚 と学問の二者択一を迫 る。

※就職活動 にまつわ る相談 は理系学部 によ くみ られ るもので,非 常 に悪質であるといえます。

「 就職活動 は認 めない」 とか,「就職活動をす るな ら卒論 はみない」,「大学院に行 く者だけ が, この研究室 に所属で きるんだ」,「就職先 の○○ さんはよ く知 っている人だ。連絡 して, 君の採用 を取 り消 して もらう」等 とい うケー スもあ ります̀面 々と続 く古 い体質があ り, その空気の中で暗黙 の了解事項のよ うに,被 人道的な対応がなされている現状が未だにな

くな ってはいないといえます。

研究室か ら他大学の大学院 に進学 したいとい う 学生 に対 して,「キ ミの ことはよ く知 らないか ら, 推薦書 は書 けない。私 は忙 しいか ら,自 分で適当 に書 いてお きなさい」 という言葉 も,教 員 は本当 に学生の ことをよ く知 らない し,自 分 は忙 しいの

か もしれませんが,学 生 にとっては拒否的な態度 と して受 け取 られて しまいます。 また,教 員 に勧 め られた就職先を断 った ら,就 職活動 を妨害 され た というケース もあ ります。

4。 指導義務 の放棄,指 導上 の差別 (教員の職務 上 の義務である研究指導や教育を怠 るこ と 。 また指導下 にある学生 ・部下を差別的に扱 うこ と。)

・ 「放任主義だ」 といってセ ミナーを開かず, 研究指導やア ドバ イスもしない。

・研究成果が出ない責任を一方的に学生に押 し つ ける。

・論文原稿を渡 されてか ら何週間経 って も添削 指導 を しない。

・測定を言 いつけるが,そ の資料が どんな物で 何が目的なのか尋ね られて も説明 しない。   ・ 嫌 いなタイプの学生 に対 して指導 を拒否 した

り侮辱的な言辞を言 った りす る。

※指導上の義務を放棄す るような行為 は,積 極 的なハ ラスメ ン トで はないので,ま す ます同 定 しに くいのではないで しょうか。過去のケー スで は,「 実験 の結果報告 に行 って も, こ っ ちをみよ うともせず,ま った く無視 された。」

とか,「 実験室で質問 したのに,聞 こえない ふ りを して,別 の学生 と雑談 して笑 っていた。」

とい うことがあ りま した。別の教員に質問に 行 くことを禁止 され,指 導教員 も無視 をす る 状態の中で,学 生 は精神的 に参 って しまい, 研究室 に入 ることがで きな くなって しまった のです。 このよ うな陰湿なケースは,学 生 も 初め は信 じられず,「 自分 の思 い過 ごしで は ないか」 と思 った り,「 たまたま先生 の体調 が悪か ったんだ」 と思 い再 びアプローチ して みるのですが,同 じようなことが繰 り返 され,

「 怖 くて血 の気が引 く」思 いをす るのです。

他の学生 にわか らないよ うな嫌が らせは,孤 立感を深め精神的に追 いつめます。

5.不 当な経済的負担 の強制 (本来研究費か ら支

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出するべ きものを,学 生 ・部下 に負担 さ せ る)

・実験 に失敗 した場合,そ れまでにかか らた費 用 を弁償 させ る。

6.研 究成果の搾取 (研究論文の著書 を決める国 際的なルールを破 ること,ア イデ ィアの 盗 用 など。)

・加筆訂正 したとい うだけなのに,指 導教員が 第一著者 となる。

・第一著者 となるべ き研究者 に,「第一著者 を 要求 しません」 とい う念書 を書かせ る。

・その研究 に全 くあるいは少 ししか関わ ってい ない者 を共著者 に入れ ることを強要す る。

・学生が出 したアイデ ィアを使 って, こ っそ り 論文 を書 く。

※ これは,研 究室の教員や学生双方 にあ り得 る ケースといえるで しょう。筆者 自身が学生時 代 に経験 した ことで もあ り,そ の時教員か ら

「強要 された」 とい う感 じは受 けませんで し たが,「逆 らえない」 とい う感 じも同時 に受 けた ことを覚えています。

7.精 神的虐待 (本人がその場のいるか否かにか かわ らず,学 生や部下 を傷つ けるネガテ ィ ブ な言動を行 うことも発奮 させ る手段 として も不 適切。)

・ 「おまえは馬鹿だ」

「 「(論文を さ して)幼 稚園の作文だ」

・おまえは実験はや らなくていい。掃除だけやっ ておけばいい。」 と言 って,大 学院生  に 研究 テーマを与えない。

・持 ってきた論文原稿をゴ ミ箱 につ っこむ,破 り捨てる,受 け取 らない,き ちん と読 ま ない。

・些細 な ミスを大声で叱責する。

※過去 に 「○○弁 (方言)が 耳障 りだ」,「私が 出た大学では,こ んな ことは常識 だよ」 など

の侮辱的な言葉 を授業や指導 のたびに口にす る教員がいま した。学生 は,発 言 の質の悪 さ に初めは相手 に しないのですが,た びたび繰 り返 され るとこんな ことを口にす る教員の指 導 を受 ける自分が情 けな くな り,気 分が沈ん で くるといいます。 中には,「 そんな発言 は 不愉快です」 と直訴 した学生 もいま したが,

「生理的 に方言が きらいなんだよ。特 に:キ ミが しゃべ る方言がね」 と追 い打 ちをかける ように返 して きたと言 います。教員の人格的 な未熟 さを感 じず にはい られません。

8.暴 力

※殴 った り蹴 った りす るという直接的な身体的 暴力が実際にお こなわれることを想像で きな いよ うに思えますが,実 際 に2004年3月 に某 大学工学研究科 の助教授が大学院生の男性 に 対す る暴力で,懲 戒免職処分 を受 けた事件が 明 るみに出た とい うことです。 この助教授 は 大学院生 に対 し,靴 で頭をたたいた り,正 座 をさせて腹を蹴 った りするなどの暴力を繰 り 返 していただけでな く,助 教授が定めた時間 に遅刻す ると 「罰金」を要求 し,実 際に現金

10万 円を支払わせていたといいます。

9.誹 謗,中 傷

。 「彼みたいなやつが就職できるわけがない」

。 「あの人 は頭がおか しい」

・虚偽の噂を流す。怪文書を配 る。

※ このような言動 は, もはや教育的指導の枠 を 越え る問題であ り,そ のよ うな言動をす る教 員の人格的問題 を疑わざるを得ないで しょう。

このよ うな嫌が らせは,当 事者だけでな く,

当事者 を養護す る立場の人間が組織だ って こ

のような動 きをす るとい うケースを経験 して

います。陰湿で執拗 に繰 り返 され,被 害を受

けた当事者 を精神的に追 い込むね らい もある

と思われます。       │

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アカデ ミック ・ハ ラスメ ン ト問題 と学生相談

10.不 適当な環境下での指導の強制

・午後 11時 か らなど深夜に指導を行 う。

・必要のない徹夜実験や体 日の実験を強要する。

・他人の目が行 き届かない状況で個人指導を行

つ 。

・演習 ・セ ミナーの時間が他の研究室 と比べて 異様 に長 く, くど くどと叱責 を行 う。

※ これ もよ くあるケースです。特 に実験 を必要 とす る研究室では,早 朝か ら深夜 まで休憩 も ろ くにとれない状況の中で 「 労働」が続 けら れています。相談 に訪れ る学生 は,長 時間の 実験 その ものが嫌 なのではないと言 います。

研究内容が好 きだか ら選んだ研究室ですか ら, 実験を長時間お こな うことを苦 に しているわ けではないのです。学生がいうのは,抑 圧的 な雰囲気,実 験の主体者 として扱われてお ら ず,教 員の手足のよ うに使われ るだけの関係 が嫌だ というのです。学生の主体性を信 じず に,さ ぼるのではないか,楽 を しようとして いるのではないか とい うまなざ しを向 け られ ると,情 けな くなるといいます。

(以下,権 力の濫用,プ ライバ シ ー侵害,他 大学 の学生,留 学生,聴 講生,ゲ ス トなどへの排斥行 為 については省略)

アカ デ ミ ック ・ハ ラ スメ ン トの もた らす被 害 このよ うなハ ラスメ ン トが 日常的にお こなわれ れば,被 害を受 けた当事者 に もた らされる影響 は 多大です。 「アカデ ミック 0ハ ラスメ ン トをな く すネ ッ トワーク (NPO)」 には,被 害者本人 が受 ける影響 として,ハ ラスメ ン トによる直接的な被 害 と間接的な被害があるとい っています。 まず,

「直接的な被害 は,研 究妨害 によ り物理的 に研究 が遂行で きない,研 究指導の放棄 により研究が進 まない,正 当な理 由な く単位 を与え られないため 卒業 ・進級がで きない,非 常勤 の契約が 一方的に 打 ち切 られて しまい失業す るなど」様 々です。東 北大学 の吉武氏 2)は,被 害者 へ の影響 と して,

「内定先への就職 を断念せ ざるを得 ない」 とか,

「 留年す るための金銭 的余裕がな く,退 学 を考え ぎるを得 ない」などを挙 げています ° 。

また, もう一つの被害 として挙 げ られ るのは, ハ ラスメントにより精神的なダメージを受 けると

いうことです。学生が学校 (研究室)に 行 くこと に恐怖 をおぼえます。不眠や体調不良で生活が乱 れ,不 登校状態が長 く続 くよ うにな ります。 その ために学習成績や研究成果が低下 し,結 果 として 不本意 な評価を研究室全体 (教員あるいは,学 生) か ら受 けることになるのです。研究の意欲が減退 す ると,学 生生活全般 において も無気力 にな り, 引 きこもって しま うケース もあ ります2)。

深刻 なケースでは,被 害者 の人生 に取 り返 しの つかない悪影響 を与え る結果 となる場合 もあると いいます。つまり,自 棄的な感情か ら,自 傷行為, 自殺念慮 ・未遂 に至 る場合 もあ ります。 ここまで 深刻 になると,ハ ラスメ ン ト行為がな くな った後 も心身の不調や意欲の低下が長期 に渡 って続 くこ と もあ る1)と いいますが,筆 者 のケースで も, 研究その ものへの意欲減退か ら学生生活全般 に渡

り無力感が ともない,当 事者 の教員だけでな く, 大学教員すべてに対す る不信感 を感 じた り,研 究 室 の学生の視線や言動 に被害的な感情 を持つなど の影響があ りま した。鬱的な状態が長 く続 けば, カウンセ リングや薬物療法 も考えなければな らず, ハ ラスメ ントの影響の大 きさは計 り知れないもの

といえ るで しょう。

被害 を受 けた当事者の家族, 同 僚, 組 織内の関

係者 に もハ ラスメ ン トの影響 につ いて も, ア カデ

ミック 0ハ ラス メ ン トを な くす ネ ッ トワー ク

( NA AH )2 )は ,明 記 しています。つ ま り,「被

害者 の苦痛 やス トレスに付 き合 う家族や友人, 同

僚 は本人 と同様 の苦痛を共有す ることにな ります

が,そ れ 自体非常 に苦 しいことです。 また,有 効

な支援がで きない場合 には,無 気力感 に襲われて

その場か ら逃避 した くな り,結 果 として被害者本

人 を見捨てることになる場合 もあ ります。 このよ

うに して被害者 の周囲の人 も精神的に傷つ き,被

害者本人 は孤立 して しまいます。 アカデ ミック ・

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ハ ラスメン トは被害者の人間関係 さえ壊 して しま うのです。」

アカデ ミ ック 0ハ ラスメ ン ト問題 と学生相談 保健管理 セ ンターには,ア カデ ミック ・ハ ラス メ ン トに関わる相談が毎年数件 あ ります。 また, 正式な相談 という形ではありませんが,ア カデ ミッ

ク ・ハ ラスメ ン トに関わる愚痴 を言 いに くるとい う場合 もあ ります。学生相談がハ ラスメ ン ト相談 機関 システムの中で, どのような役割 を担え るか とい うことについて, 2つ の視点か ら述べてみた いと思 います。

1.ア カデ ミック ・ハ ラスメ ン ト事案への対処 に 関す る点 について

ある被害者が相談 に訪れた場合,そ の相手の当 事者 は加害者 とい う立場 に置かれ るわけですが,

アカデ ミック ・ハ ラスメ ン トと して特定 され るこ とが らについて,被 害者側が話す事 と,加 害者側 が話す事 は事実 として一致 して も,そ れぞれ,そ の事実を巡 る思 いが異なるということがあります。

つまり,一 つの言動 について,そ れを解釈する時 点で,二 つの物語が生 まれ,そ れはそれぞれの当 事者 にとって どち らも 「 事実」であるとい うこと です。

た とえば次のよ うなケースが考え られます。 あ る教員が学生 を紹介 してきま した。学生 は研究室 に行 こうとす ると,吐 き気やめまい,腹 痛が起 こ り非常に体調が悪いということで した。病院に行 っ て検査を して もらったが,内 科的には異常 はない とい うことQ精 神安定剤 と導眠剤 を処方 されま した6本 人 は薬 を飲む と少 し楽 になるが,大 学へ 行 こうとす ると同 じよ うな症状が出るとい うこと で した。

何度 目かのカウンセ リングの時,学 生 は意を決 したよ うに打 ち明 けま した。「正直 に言 うと,指 導教員が嫌 なんです。教室配属の ときは何 も知 ら

なか ったので感 じなか ったけど,就 職活動 をす る ときに,大 学院 に行かない者 を指導す る暇 はない といわれ,暗 に就職活動をす ることを否定 された

よ うな気が しま した。」学生 の話 で は,指 導教員 の言動が非常 に威圧的で,脅 迫 まがいの発言を し ていることにス トレスを感 じて,登 校で きない状 況 にな っているとい うことで した。一方,教 員 は 学生の指導 については非常 に自信を持 っていて, 一番の理解者 は自分であり, きめ細やかな指導を

していると思 っています。学生相談室 に学生を紹 介 したの も,熱 心 な指導,き め細やかな学生指導 の表れだ ったのです。

ここではっきりしていたのは,教 員 と学生 の間 でや りとりされた事柄 は,ほ ぼ一致 していたので すが,そ れぞれに,教 員の言動が教員 にとっては 正 しい指導 として存在 し,学 生 にはハ ラスメ ン ト

として存在 したとい うことだ ったのです。

セクシャル 0ハ ラスメン トに関わるケースで も 同様の ことが言えます。 まず,そ れぞれの当事者 に対 して,そ れぞれ相談員が話 を聞 きます。被害 者 ―加害者 と して聞 くので はな く,「当事者」 と して認識 している事実 とその思 い,感 じ方 をそれ ぞれに聞いてい くわけです。 ここで必要 になって くるのは,加 害者が被害を受 けたとい う当事者 の 受 け止 め方や感 じ方 を理解 し, 自分の中で感 じて いる真実 を修正で きるか どうか という点 にあ りま す。 ここでは加害者 に対す る相談員の聴 き方がそ の後の問題解決に大 きな影響 を及ぼ します。つま り,加 害者 もまた真実 と思 っていた認識の修正を 行 わなければな らないとい う点で,大 きな精神的 なス トレスを感 じているわけですか ら,い ったん, 自分の物語 を相談人 にわか って もらえ るとい うプ ロセスが必要 なのだと思います。そのような流れ を経て,加 害者が被害者の訴えを理解 し,被 害者 の申 し入れを受 け止める準備がで きるのだ と思 い ます。

次に,相 談員 は被害者が どのよ うな意向を持 っ ているかを確認 し,被 害者が納得す る結果 を,加 害者 との間で調整す る作業が必要 になってきます。

た とえば被害者が,「 A教 員の授業 の代替え授業 を要求す る」 とか,「 B教 員研究室変更をす る」

とい う希望があ った場合,学 部 との調整が必要 に

な って きます。

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アカデ ミック ・ハ ラスメ ン ト問題 と学生相談

このよ うなケースをみると,相 談機関が一方 の 話だけを聞いて対策委員会 に被害の申 し立てをす るとい うよ りも,相 談機関 と対策委員会が同時並 行的 に協働体制 を とりつつ,調 停 してい くとい う 流れが現実的であ るよ うに思 います。京都大学で は,大 学 オ ンブズマ ンと しての役割を学生相談室 が担 うという流れがあるようです。

2.ハ ラスメ ン ト対応の システムに関わ る問題 として,医 療紛争の考え方か ら学ぶ ことがあ りま す粉 。 アカデ ミック ・ハ ラスメ ン トの被害者 は,

自分がそのよ うな目にあ ったとい う事実 を認識 し て もらい,な ぜ このよ うな ことが起 きて しまった のかを知 りたいと思 うものです。要す るに,加 害 者が どうい う思 いでそのような言動を とったかを 知 りたい し,加 害者 に自分が感 じた苦悩をわか っ てほ しい,苦 悩 を共有 し共感 してほ しいと思 いま す。 そ して,多 くの事件 の被害者が言 うよ うに

「 二度 と同 じ思 いをす る人がでないよ うに」 と言 う場合があ ります。 その願 いは自分が受 けた傷つ きを受容 してい くためのケア要求であると解釈で きます6被 害者が比較的調整 しやすい要望 を出 し て くれればよいのですが,「三度 と同 じよ うな被 害が出ないよ うに,加 害者 の態度 や研究室 の環境 を改めてほ しい」 とい う要望が出された場合,非 常 に難 しいと思 います,大 学がそのよ うな教員を

どのように考えるかに関わ って くると思 うのです が,ハ ラスメ ン ト対応の システムの中には,そ の よ うな対応の可能性 を表す必要 はないので しょう か。

前出の東北大学学生相談室 の吉武氏 は,学 生 ― 教員間に関す るハ ラスメ ン トか らの救済 システム に,大 学 あるいは部局が対応す るべ き点 をつ ぎの よ うに紹介 していますD。

1.訴 えが志望の研究室へ移 りたいがための訴え ではな く,ハ ラスメ ン ト窓 口専門相談員あるい は学生相談 カウンセラーなどの第二者か らみて, 学生への教育 ・研究 のサー ビスを提供で きない 教師一学生関係 にな っているとき,当 該部局 は 学生の指導教員を変更で きる。

2.研 究内容等の理由か ら,指 導教員の変更によっ ては,研 究 を継続 しえない場合 には,大 学間の 相互協定を取 り交わ した他大学 の教員を副指導 教員 として教育 0研 究 の機会 を保障す る。

3.被 害を訴える学生が反復 している研究室 ある いは指導教員 については,学 生 との不適合を改 善す るために大学 あるいは部局 として,一 定年 限を目処 に当該教員 に研修の機会を提供 し,そ の間,当 該教員 は主 たる研究指導教員の任 には つ くことがで きない もの とす る。

4.研 究室の密室化を減ず るために,複 数指導体 制 を整え る。

5。 部局のハ ラスメ ン ト相談員 (教職員)へ の研 修を徹底す ること。

フ ァカル テ ィ 0デ ィベ ロ ップ メ ン ト (FD) との連携

東京工業大学 の斎藤憲司氏 はアカデ ミック ・ハ ラスメ ン ト防止のための諸施策 として,1)「 アカ デ ミック ・ハ ラスメ ン ト」 とい う概念 の普及,2) 公的な防止 ・対策 システムの整備,3)教 職員の研 修体制,4)風 通 しのよい教育 ・研究環境へ,5)発 生要因 ・効果的対応要因の究明の 5つ を挙 げてい

ます1)。この うち,3)に は, フ ァカルテ ィ ・デ ィ ベ ロップメン トで, アカデ ミック ・ハ ラスメ ント に関する分科会を行 うことを提案 しています。実 際に東工大で行われた研修会では,か な りの教職 員の参加があ り,具 体的な質問が後を絶 たなか っ た といいます。

筆者 は, フ ァカルテ ィ ・デ ィベロップメ ン トの 充実がアカデ ミック ・ハ ラスメ ン トの発生を減少 す るのではないか と考えます。ハーバー ド大学 デ レク ・ボク教授学習 セ ンター長 ジェームス ・ウィ ルキ ンソ ン (」ames Wilkinson)教 授 が,筑 波 大学で,「アメ リカ合衆国におけるファカルティ ・ デ ィベ ロップメ ン トの最近の動向」4)とい うテー マで講演 している中に,ハ ラスメン ト防止 につな が る観点をみることがで きます。定義の部分を引 用 してみま しょう。

「アメ リカ合衆国では伝統的にファカルテ ィ ・

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デ ィベロップメ ン トは,大 学教員である研究者 を 支援す ることを意味 していま した。つ まり,研 究 材料の入手 を容易 に した り,セ ミナーや シンポ ジ

ウムに参加す る時間を作 った り,研 究補助金の申 請 を助 けるとい うものです。 ファカルテ ィ ・デ ィ ベ ロップメ ン トのこの定義 は,明 らかに大学教員 はまず研究者であ り,そ の研究 を助 けることは大 学 の責務であるとい う考え方 によるものです。 3 0年 ほど前 まではすべての ところで このよ うに考 え られてお り,今 なおアメ リカ合衆国の多 くの と ころではこのように考え られています。 しか し, ファカルテ ィ ・デ ィベロップメ ン トの もう一つの 意味が 30年 ほど前か ら広 まっています。 それは 大学教員が研究者 としてはもちろん,同 時 に教師 としてよりよ くなることを助けるというものです。

これ ら二つの定義 は必ず しも対立す るものではあ りません。研究 と教育技能の両方を改善す ること は実際 に可能だか らです。私 自身 はこの二つは う ま くかみ合 うものであると考えています。 よい研 究をす ることは同時に教員がよ りよい教育 をす る ことを助 け,学 生が単 に正 しい答えを覚え るので はな く問題解決の方法を理解す るのを助 けること になります。従 って,私 の考えではファカルティ ・ デ ィベ ロップメ ン トについて この二つの定義 は実 際 お互 いに支え合 うもの ものです。」

ウィルキ ンソン教授 の講演 には,次 のよ うな説 明があ りま した。 「 教育技能 は今 や昇任や終身在 職権 に関す る決定 に際 して考慮 させ るよ うにな っ ています。優れた教師 とい うことはハ ーバー ド大 学 で終身在職権 を得 る十分条件ではないが,下 手 な教師であると終身在職権 を得 ることはで きませ ん。 たとえば,最 近,あ る科学科の主席教員か ら ボクセ ンターに援助を要請する電話がありました。

助教授 をすば らしい研究業績があるとい うことで 終身在職権 のある地位 に昇格 させ ることが考え ら れているよ うですも しか し,彼 の教育 の仕方 は大 変 お粗末で,当 該学科 の教 員はそれが改善 されな いな ら新 しい任用をで きないと考えま した。 そ こ で ボクセ ンターはこの教員 に集中的な訓練 を行 う ことを依頼 されたわけです。 この ことは,研 究能

力 の見込 み だ けに基 づ いて若 い講 師 を採 用 して き た学科が今や教育 に も関心 を持 たぎるを得 な くな っ て い る と考 え ることがで きます。」

つ ま り,教 育 と して の フ ァカル テ ィ 0デ ィベ ロ ップメ ン トの必要性 は確実 にあ るとい う方 向性 が じめ されて いるわ けです。 アカデ ミック ・ハ ラ ス メ ン トは,先 の章 で も述 べ た よ うに,被 害者 ― 加害者 とい う構図 で しめ され る性 質 の もので はな く,む しろ,加 害者側 の教育技能 の改善,教 育者 と しての理念 と技能 の習熟の機会 を大学教員の ファ カル テ ィ ・デ ィベ ロ ップ メ ン トと して行 うことで 防止 して い く方 向性 を提言 した い と思 い ます。

<参 考文献 >

1)「アカデ ミック ・ハ ラスメ ン ト」防止等対策のため の 5大 学合同研究協議会第 1回 報告書,五 大学合 同研究協議会,2004.7.

2)アカデ ミック ・ハ ラスメン ト防止対策ガイ ドライン, アカデ ミック ・ハ ラスメ ン トをな くすネ ッ トワー ク (NAAH),2004.4.

3)和田仁孝,前 田正一 :医療紛争。医学書院,2001.

4)」ames Wilkinson「アメ リカ合衆国におけるファ

カルティ ・ディベロップメ ントの最近の動向」,筑

波大学講演記録集,1997.

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参照

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