最悪不整時における不整敏感度最小化を目的関数と したラチスシェル構造物の二次元問題
著者 小田 純平
出版者 法政大学大学院デザイン工学研究科
雑誌名 法政大学大学院紀要. デザイン工学研究科編
巻 10
ページ 1‑4
発行年 2021‑03‑24
URL http://doi.org/10.15002/00023793
法政大学大学院デザイン工学研究科紀要 Vol. 10(2021年3月) 法政大学
最悪不整時における不整敏感度最小化 を目的関数とした
ラチスシェル構造物の二次元問題
Two-dimensional problem of latticed shell structure with the objective function of minimizing of the Irregular sensitivity at the worst irregularity
小田純平
Jumpei ODA
主査 浜田英明 副査 吉田長行
法政大学大学院デザイン工学研究科建築学専攻修士課程
Latticed shell structures are sensitive to irregularities. But previous research has been acquired morphology of latticed shell structure with the objective function of maximizing buckling loads .So this research seeks the worst irregularities for structures and acquire morphology of latticed shell structure with the objective function of minimizing theIrregular sensitivity at the worst irregularity
Key Words : Worst irregularity, Latticed shell structure, Minimizing theIrregular sensitivity
1. はじめに
自由曲面シェル構造などの空間構造物は外力に対して主 に圧縮力により抵抗するため,部材座屈にほかにシェル 座屈のような全体座屈もあり,この全体座屈は形状不整 の影響を極めて敏感に受けることがわかっている。また, 軸力抵抗型であるため,構造最適化をする場合,座屈に対 する安全性を確保する必要がある。その為,座屈荷重の最 大化に関する研究が行われてきた。一方で,座屈最適化に よって得られる形態は不整敏感性が増す傾向が指摘され ており,自由曲面シェル構造の座屈耐力を実質的な意味 で最適化するためには,座屈耐力が高く同時に初期不整 に対して鈍感な解を求める必要がある。しかし,ドームや ラチスシェル構造は,一般に荷重レベルの狭い範囲に多 くの座屈モードを有するため,最適化の各形態において 不整による座屈荷重の低下を予測しながら解析を行うこ とは難しい。
既往の研究では高橋(1)は構造形態創生手法に対して, 単層ラチスシェル構造の初期不整による弾性座屈の低下 を 線 形 理 論 で 簡 便 に 予 測 で き る 実 用 的 な 手 法 と し て Reduced Stiffness 法(RS 法)を導入した。さらに,この手 法によって得られた曲面形態の力学性状を調査すること で,RS 法を利用した形状初期不整の影響を考慮した座屈 最適化手法の有効性を確認した。
そこで今回の研究では,自由曲面シェル構造における 最悪な不整形状,不整モードを確立する。ある確定的な荷 重において,節点ベクトルに起因する座屈荷重が最小と
なる形状モード算出し,また,その最悪不整時の座屈荷重 を算出する。
2. 最悪座屈係数,モードの定式化
(1)最悪不整時の座屈係数定式化
構造物の設計時の節点ベクトルを𝑟0, その節点に生じる 形状不整モードを𝑟1とする(|𝑟1| = 1とする)不整振幅量 をgとすると,構造物の形状は
𝑟 = 𝑟0+ 𝑔𝑟1 (1)
と表すことができる。
i次線形座屈固有値𝜆𝑖は𝑟の関数であり,𝜆𝑖(𝑟)と表すこと ができる。今,𝑟0は固定値として,𝑟1を変数として扱うこと とする。 𝜆𝑖(𝑟0+ 𝑔𝑟1)を1次線形近似すると
𝜆𝑖(𝑟0+ 𝑔𝑟1) = 𝜆𝑖(𝑟𝑜) +𝜕𝜆𝑖
𝜕r(𝑔𝑟1) (2) となり、ここで右辺第2項が負の最小値をとる時の𝑟1がこ の構造物にとっての最悪不整モードのはずである。
そこでΛ𝑖= −𝜕𝜆𝑖
𝜕r𝑟𝑖と置き、この最大値をとる𝑟1を求め ることとする。
ここで、𝑎𝑖𝑇= −𝜕𝜆𝑖
𝜕rとして、Λ𝑖= 𝑎𝑖𝑇𝑟1, 𝑟1𝑇𝑟 = 1より Λ𝑖𝑟1𝑇𝑟1= 𝑎𝑖𝑇𝑟1 (3)
Λ𝑖𝑟1= 𝑎𝑖つまり、𝑟1は𝑎𝑖の正規化されたベクトルであるこ とがわかる。そしてΛ𝑖の最大値は𝑎𝑖のノルムであり、最悪 不整時の座屈係数は
𝜆𝑖= 𝜆𝑖(𝑟0) − |𝜕𝜆𝑖
𝜕𝑟| 𝑔 (4)
以上より,最悪不整モードを求めるには,𝑎𝑖𝑇= −𝜕𝜆𝑖
𝜕r, すなわちi次線形座屈固有値𝜆𝑖のrに対する感度を求める ことが必要である。
(2)最悪不整モード
構造物の初期剛性マトリックスを𝐾𝐿, 幾何剛性マトリッ クスを𝐾𝐺, i次線形座屈固有値𝜆𝑖,i次の座屈モードを𝜙𝑖と して一般固有値問題を解く。
[𝐾𝐺+1
𝜆𝑖𝐾𝐿] 𝜙𝑖= 0 (5) (5)をある設計変数𝑥𝑗で微分すると
[𝜕𝐾𝐺
𝜕𝑟𝑗
+1 𝜆𝑖
𝜕𝐾𝐿
𝜕𝑟𝑗
−𝐾𝐿 𝜆𝑖2
𝜕𝜆𝑖
𝜕𝑟𝑗
] 𝜙𝑖+ [𝐾𝐺+𝐾𝐿 𝜆𝑖
]𝜕𝜙𝑖
𝜕𝑟𝑗
= 0 (6)
上式を整理すると
[𝐾𝐺+𝐾𝐿 𝜆𝑖 −𝐾𝐿
𝜆2𝑖𝜙𝑖 2𝜙𝑖𝑇𝐾𝐿 0
] {
𝜕𝜙𝑖
𝜕𝑟𝑗
𝜕𝜆𝑖
𝜕𝑟𝑗}
= { −𝜕𝐾𝐿
𝜕𝑟𝑗
𝜙𝑖 −1 𝜆𝑖
𝜕𝐾𝐿
𝜕𝑟𝑗
−𝜙𝑖𝑇𝜕𝐾𝐿
𝜕𝑟𝑗𝜙𝑖 }
(7)
上式の連立方程式を解くと、𝜕𝜙𝑖
𝜕𝑟𝑗
, 𝜕𝜆𝑖
𝜕𝑟𝑗が求まる。ここで𝜕𝜆𝑖
𝜕𝑥𝑗
はi次線形座屈固有値𝜆𝑖の𝑟𝑗に対する感度である。
これにより、最悪不整時の座屈固有値を求めることがで きる。
3. 数値解析例ー最悪不整モード
本章では,二次元の自由曲面ラチスシェルについて最悪 不整モードと最悪不整時の座屈係数を算出する。解析で は以下のモデル(図1)を使用する。本研究のモデルは二隅 をピン支持されたラチスシェルであり外力は各節点に
1.5KNを作用させる。
(1)解析結果と考察
前述した解析モデルに対し,不整振幅量を 4.5i までを 制約条件とし最悪不整モード座屈係数を 算出する。
青色は初期形状,緑色は 1 次不整モード,オレンジ色が最 悪不整モードとなっている。例題4では、1次不整モード から4次不整モードまでで、大きな形状の差は見られな かった。ライズを上げ,段階ごとに窪みを作ることで,不 安定な形状になり,不整に対しても不安定な形状となっ ていることが分かる。自由曲面ラチスシェル構造物は軸
力により大きな影響を及ぼされるためモーメントの影響 を受けづらい。よって,モーメントが大きな影響を及ぼす 不正敏感数において 4 つの例題と比較しても比較的小さ い値となった。また、一次不整が比較モードの中では最も 敏感不整モードであることが分かる。
図1 解析モデル Table 3.1:解析概要 形状 自由曲面シェル 支持,接合条件 ピン接合
制約条件 長期許容応力度,重量500kg未満 変域 x座標、z座標
鋼材緒元 E=2.05×105N/mm2,ν=0.3 G=7.94×104N/mm2,σ
y=235N/mm2
E:ヤング係数,ν:ポアソン比,G:せん断弾性数,σy:降伏応力度
Table 3.2 座屈係数 不整感度
𝜇𝐾𝑅𝑆 663.2
𝜇1 664.81 − 0.337𝑔
𝛷 0.01017
980mm
1600mm
図 3 不整モード Table 3.3 座屈係数 不整感度
図 4 不整感度曲線
4. 数値解析ー形状最適化
本章では,最悪不整時における形状不整敏感度を目的関 数とし,節点Z座標を変数とした単一目的最適化問題を 扱う。最適化に際し,許容応力度を満たすことを制約条件 としている。
荷重に関しては,Fig4.4.2 に示すものとする。図中の
● に鉛直下向きに1500N かけるものとする。また○は 境界条件,ピン支持を表している。
最適化問題の定式化を行う。設計変数φ1を節点Z座標 とすると,本研究で行う最悪不整時における座屈係数最 大化,また,不整敏感数最小化を目的関数とした単一目的 最適化問題は次のように帰着される。
𝑚𝑖𝑛𝑖𝑚𝑖𝑧𝑒 𝑓(𝜙1) = 𝛷
式(4.1.A)は例題1A,1Bの単一目的最適化問題の定式 化となる。解析概要は右にまとめる。。
(1)解析結果と考察
初めに不整敏感数度最小化を目的関数とした形状最適 化について示す。Fig4.4.6に例題1Bの最適化によって得 られた形状最適化個体の性能値,形状図,および最悪不整 時の軸力図,曲げ図を示す。性能値は躯体重量𝑊,不整敏 感度∅,最悪不整時の線形座屈荷重係数𝜆,部材検定比お よびを表している。形状図,最悪不整時の軸力図,曲げ図 の色は大きさを表す。形状図の色は0mmから500mmの 範囲で表示する。Fig4.4.6 の性能値より,躯体重量𝑊は
895kgとなっており,1000kgの制限値近くまで鋼材を使
用していることが分かる。不整敏感度∅は形態創生前の不 整敏感度が0.01273としめされたことに対し,形態創生後 は0.0070まで落とすことに成功した。また、最悪不整時の 線形座屈荷重係数λは形態創生前は621となっていたの に対し,625と若干上昇していることがわかった。長期許 容応力度に対する部材検定比は 69%となっており,建物
重量に対する長期許容応力度を満たしつつ,不整敏感度 を最小とする個体を得られたと言える。また,これは初期 形状よりも小さな数値を示しており,長期荷重に対して より耐力の高い構造物となっていることが分かる。形状 図では,全体的に節点座標を高くし,ライズを上げるよう な形態をとっている。ライズを上げることでアーチのよ うな軸力抵抗型となっていると思われる。最高高さは初 期形状が1500mmとなっているに対し、1766mmと250 mm以上も高くなっていることが示された。また,中央の ライズは下がり、サイドのライズが上がっている。また左 右対称ではなく,非対称な形状となった。これは、左右対 称の形状では不整が発生した場合、現状の形を維持する ことが難しく,初めから若干形状を崩すことにより不整に 対して鈍感になるのだと推測できる。ただし,建物右側の 変位が左側よりも大きくなっており,左右対称となって いるわけではないことが分かる。
次に最悪不整時における座屈係数最適化を目的関数 とした形状最適について示す。Fig4.4.6に例題1Bの最適 化によって得られた性能値は躯体重量𝑊,不整敏感度∅,
最悪不整時の線形座屈荷重係数𝜆,部材検定比を表してい る。形状図,最悪荷重時の変位図の色は大きさを表す。形 状図の色は0mmから500mmの範囲で表示する。
Fig4.4.6の性能値より,躯体重量𝑊は980kgとなってお
り,1000kgの制限値近くまで鋼材を使用していることが
分かる。初期形状での線形座屈係数は614だったのに対 し,形態創生前の線形座屈係数は785と示された。また先 ほどの不整敏感度を最小化したときと同様,初期形状と比 べてライズが上がっており,軸力抵抗型になっていると思 われる。不整敏感度に関しては形態創生前が0.01273だ ったのに対し,形態創生後は0.285と2倍以上敏感になっ ていることがわかる。しかし形状は左右対称でありまた, 縁部分に対して窪みを作ることにより鉛直荷重に強くよ り軸力抵抗型となったと考えられる。
図5 解析モデル
Table 4.1:GA のパラメータ 探索母集団個体
数
120 世代数 3500 交叉確率 95%
突然変異確率 0.5~5%
𝑚𝑎𝑥𝑖𝑚𝑖𝑧𝑒 𝑓(𝜙1) = 𝜆 (8) (9)
980mm
1600mm
table 4.2:解析概要
図6 解析結果
5. 結論
本論文で提案した最悪不整時における不整敏感度最小 化問題による形態創生では,建物重量が確定的に作用し ているとした上で長期許容応力度を満たしつつ,再現期 間に相当する確定な垂直荷重が作用した際の不整敏感度 を最小とする形態を獲得することができた。解析結果よ り,建物形状を変化させることで,左右対象ではなく、非 対称とすることで不整に対して鈍感な形態となり,曲げの 支配量を少なくする形態を獲得できた。
謝辞:法政大学准教授浜田英明先生には,本論文の指導 教授として,学部・修士課程の3年間半にわたり終始丁 寧なご指導,ご助言,ご鞭撻を賜り,感謝の言葉を申し上 げます。浅学菲才な私に,最悪不整時による形状最適化 という,テーマを与えて頂き,無事に修士論文を書き上 げることができました。先生には研究に関する考え方は 勿論のこと,設計者という立場から構造設計の考え方や 設計者の倫理観等,多くのことを学ばせていただきまし た。先生の下でご指導を受け,研究に設計と多岐にわた り楽しく学べたことを幸せに思い心から感謝申し上げま す。同大学吉田長行先生には,振動論,数値解析論等丁寧 にご指導頂きましたことに大変感謝しております。先生 には振動応答解析の基礎を学ばせて頂きましたが,凡才 の私には全てを理解するには時間足りず,修了後,勉学 に勤しむことで,理解を深め,高級エンジニアへなりた いと思います。また,設計データ,解析方法等を引用させ て頂いた参考文献の著者の方々には,深く感謝致します
参考文献
1)高橋伸輔:形状初期不整を考慮した自由曲面ラチスシ ェル構造形態創生に関する研究, 法政大学 修士論文 2015
2)日本建築学会:建築物荷重指針・同解説(2015),2016 3)棟朝雅晴:遺伝的アルゴリズム‐その理論と先端的手
法‐,森北出版 2008 形状 自由曲面シェル
支持接合条件 周辺ピン支持 剛接合 制約条件 許容応力度
変域 節点Z座標(0 ~500mm) 鋼材緒元 E=2.05×105N/mm2,ν=0.3
G=7.94×104N/mm2,σ y=235N/mm2
E:ヤング係数,ν:ポアソン比,G:せん断弾性係数,σy:降伏応力度