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◆春期大会シンポジウム特集
「帝国統治と官僚制度──
ローマ帝国と唐の比較史的考察」◆
前 言
2017年7月1日に早稲田大学多元文化学会は、戸山キャンパス36号館382教室 において春期大会を開催し、第Ⅰ部の総会、第Ⅱ部の学生研究発表会に続いて、
第Ⅲ部で「帝国統治と官僚制度── ローマ帝国と唐の比較史的考察」のテーマ でシンポジウムを行った。
古代地中海世界を支配したローマ帝国は、2世紀に最盛期を迎え、その領土は 東はユーフラテス川、西は大西洋、南はサハラ砂漠に臨んだ。北方のブリテン島 もその中南部がローマ領となっていた。最盛期の帝国の人口は6千万人ほどで あったとされている。一方、7世紀に興った唐の支配領域は、その最盛期におい ては、中国本土のみならず、北はゴビ砂漠を超え、西は遠くアラル海方面にまで 及んだ。朝鮮半島とベトナムの一部もその支配下に入った。人口も玄宗皇帝(在 位712〜756年)の時には、5千万人を超えた。このシンポジウムでは、これら ローマ帝国と唐という二つの巨大帝国の統治システム、特にその官僚制度を比較 史的に考察することを通して、東西の国家、社会や文明のあり方について考える ことを目指した。
ところで、ローマ帝国と中国を比較するということは、意外にと言うべきか、
ごく最近まで、ほとんどなされてこなかった。実際、1991年の段階では、本村 凌二がAn Approach towards a Comparative Study of the Roman Empire and the Ch in
and Han Empiresの論考の中で、「二つの帝国の比較研究に本気で取り組んだ研
究者はほとんどなかった」と述べている通りであり(1)、ようやく21世紀に入っ てから、比較史的な研究が目に付くようになってきた、というのが実情である。
2009年には、W. Scheidelが編者となり、Rome and China: Comparative Perspectives on Ancient World Empiresが刊行され、2015年にも、同じ編者による論文集State Power in Ancient China and Romeが出されている。この間の2008年には、F. H. Mutschler とA. Mittagの編であるConceiving the Empire: China and Rome compared、さらには 2014年 にS. Y. AuyangのThe Dragon and the Eagle: the Rise and Fall of the Chinese and
Roman Empiresが出版された。以上の研究が比較の対象としているのは、主に中
国の漢とローマ帝国である。
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このような研究動向を意識していたわけではないのだが、筆者自身も及ばずな がら、中国との比較史的な視点を盛り込みながら、ローマ帝国を考察したことが ある。筆者の場合は、ローマ(より正確には古代地中海世界)と中国が、3世紀 に至るまではよく似た歴史を辿りながらしかしそれ以後は支配者層の面で大きな 違いが生じたことに着目し、そのことがそれぞれの地域の文明の在り方に大きく 関係したのではないかという見通しを示した。このような筆者の見方に対して は、佐川英治が「国際シンポジウム中国中古史像の再検討趣旨説明」において
「例えば、井上文則『軍人皇帝のローマ── 変貌する元老院と帝国の衰亡』(講 談社、2015年)は、魏晋南北朝時代の貴族とローマの元老院を対比させながら3 世紀以降のローマ帝国の展開を論じている。ただし、井上の六朝史理解は専ら宮 崎市定によったものである。これは西洋史との対比を意識しながら六朝史を論ず るような研究者が宮崎以降現れなかったことにもよると思われる」と指摘した。
同じ佐川による報告によれば、2016年には、科学研究費基盤研究A「文字文化か らみた東アジア社会の比較研究」主催で、ロンドンにおいてシンポジウムLaw and Writing Habits in the Ancient Worldが開かれ、「石刻史料に現れた古代世界に おける法の公示と文字文化のあり方を東アジアとギリシア・ローマの比較対象か ら考える」という試みもなされている(2)。
このように近年では、中国と古代地中海世界の歴史を比較する試みが盛んに なってきているが、本シンポジウムもそのような研究の流れの中にあると言える だろう。シンポジウムでは、ローマの官僚制については東京都市大学の新保良明 氏に、唐については日本学術振興会特別研究員(PD)の林美希氏にお話しいた だいた。報告題目は、それぞれ「ローマ帝国前期における帝国官僚制── 巨大 帝国の「小さな政府」──」と「唐の官僚制と北衙禁軍」であった。新保氏は、
ローマ帝国の官僚制の専門家であり、2016年には主著となる『古代ローマの帝国 官僚と行政── 小さな政府と都市』をミネルヴァ書房から刊行されている。林 氏は、唐代の政治軍事史を専門とし、皇帝の親衛軍(北衙禁軍)や軍馬について の研究論文を多く公にされている。
シンポジウムでは、両氏の報告の後、会場の参加者を交えて、活発な討論を行 うことができた。末筆ながらご参加いただいた皆様に厚く御礼申し上げたい。
注
(1) Kodai, 2, 1991, pp.61-69.
(2) 佐川英治「ロンドン Law and Writing Habits in the Ancient World 学会参加記」『東 方学』134輯、2017年、112〜121頁。
(文責・井上文則)
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