九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
強磁性薄膜パターンにおけるスピン波の動特性とデ バイス応用に関する研究
牙, 暁瑞
https://doi.org/10.15017/4060192
出版情報:Kyushu University, 2019, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
(別紙様式2)
氏 名 :牙 暁瑞
論 文 名 :
強磁性薄膜パターンにおけるスピン波の動特性とデバイス応用に関する研究区 分 :甲
論 文 内 容 の 要 旨
半導体集積回路等に代表される電子デバイスは,高度情報社会を支える重要な基盤技術の一つで あり,近年の微細加工技術の発展により機能要素の小型化と高集積化が急速に進行している.電子 の電荷としての側面を利用する既存の電子デバイスでは、素子の微細化に伴い電子の移動に伴なう エネルギー散逸が顕在化し,そのために生じる動作電力増大等の問題が深刻化しつつある.このよ うな状況の中,電子が持つスピンとしての側面を利用したデバイスの研究が盛んに行われ,スピン の歳差運動が波のように伝搬するスピン波を情報伝播や論理演算に用いるマグノニクスと呼ばれる 新しい技術分野が創出されつつある.スピン波の伝播には電子の移動を伴わないため,電子デバイ スの機能動作におけるようなジュール損の発生が回避できることから,その省電力性に大きな期待 が寄せられている.スピン波の波動性を活用し,その位相情報を機能動作に利用できる点も大きな 利点である.然しながら,微細領域におけるスピン波の動特性については,未だ十分な理解が得ら れておらず,スピン波の動特性を実用的な機能動作として利用するためのデバイス構造等も明らか ではない.
本論文は,マイクロマグネティスシミュレーションにより,デバイス化に際して重要となる強磁 性薄膜パターンにおけるスピン波の動特性を明らかにすると共に,それに基づいて考案した具体的 なデバイス構造において,論理演算機能や情報記憶機能等の可能性を示したものであり,その内容 は以下のように要約される
第1章は序論であり,本論文の研究背景と目的,及び本論文の構成について述べている.
第2章では,スピン波の伝播媒体となる磁性細線と入出力用導体線から構成される3端子のデバ イス構造を提案した.スピン波の位相を情報とし,その干渉による生じる漏れ磁界をヘアピン状導 体線の電磁誘導により電気信号に変換することで,位相比較機能などへの応用が可能であることを 示した.伝搬過程におけるスピン波の減衰を抑制するためには,ダンピング定数の小さな磁性体を 用いることが有効であることを示すと共に,磁性細線の微細化による出力増大効果を定量的に解析 した.
第3章では,局所的な交流電圧印加による磁気異方性の変調効果を利用したスピン波励起法を提 案し,励起周波数の 1/2の周波数の歳差運動が誘起される分周現象や,一定強度以上の励起に対し てのみ歳差運動が共鳴してスピン波が発生する閾値特性等の非線形現象を見出した.100×20 nm2 の磁性細線をスピン波媒体とする論理演算デバイスを設計し,スピン波発生用導体線に印加する交 流電圧の位相を入力情報とした論理演算動作の可能性を示した.
第4章では,スピン波デバイスにおいて,相反する性能要求である動作高周波化と出力増大とを 共に充たすため,異なる磁性薄膜を積層し,層間の交換結合により各層の持つ磁気特性の融合を図 る新しいスピン波伝搬媒体を提案した.交換結合強度,磁気異方性の大きさ,各層の厚さ等をパラ
メータとして,動作周波数および出力電圧との関係を詳しく調べ,実用的な動作特性を得るための 設計指針を確立した.また,磁気異方性方位の異なる磁性層を積層することにより,膜厚方向に沿 ったスピンのねじれ構造が形成され,スピン波の減衰が少ない膜中央部の磁性層にスピン波の伝搬 を局在化できることを示した.
第5章では,正方形状の磁性薄膜パターン中に安定に存在する磁化渦の構造を情報担体とする新 しい記憶方式を提案した.円偏波磁界に対する磁化渦の応答が,渦中心部のスピン方位(渦極性)に 応じて顕著に異なることを利用して,渦極性の違いを電気的に検出できることを示した.また,円 偏波磁界の回転方向によって渦極が任意に設定できることを示し,渦極性による 2進情報の記憶が 可能であることを明らかにした.
6章では,本研究の意義を総括すると共に,主な研究成果をまとめた.