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木板による由服表現の研究
教科・領域教育専攻 芸術系(美術)コース 包金剛
ト 研 究 動 機
筆者はさまざまな版画技法を修得する中で、
木版の凹版表現に強く惹かれた。それはインク を擦り込まれた後に掻きとられ、強い圧力で刷 られることによって、普段はよく見えない木目 の美しい模様が、はっきりと表れたことによる。
そこで、本研究では木目を活かした作品制作を 行うこととした。
また、テ}マとして花を取り上げた。花の作 品を差し出すことによーって、アジア人、アフリ カ系の人、白人など世界中の人と自分が友好的 な関係を築くことができると考えたからである。
すべての人に対して友情を伝えたい。また、そ れは「生きている実感」、「旺盛な生きる力Jを 感じられる作品につながると考えるつ
n .
方法技法については、原聞から下絵を描いて彫り に入るというプロセスではない。まずシナベニ ヤの木目をじっくり見て、その模様から広がる イメージを、存在感を持たせながら鉛筆で版面 に直に描き、それを元に製版するものである。
浮世絵版画は日本の伝統的な木版画であり、
それに強い関心を持っているが、それが木板の 凸版、多色摺り、桜の板目、パレンによる摺り、
多量の印刷枚数、などの特性がある。これに対 し、木板の凹版、白黒一色刷り、シナベニヤの 板目、プレス機による刷り、少数の刷り作品、
という点で、ほとんど対極にある。さらに、加
指 導 教 員 武 市 勝
えると、浮世絵版画は、当時「絵の印刷」の役 割だ、ったため、木目はそれほど必要ではなく、
桜の板目がみられるものはほとんどない。しか し本研究では、木板の凹版表現をするのはあく まで木目の魅力を最大限に引き出すため重要で ある。
このため、彫版用具を工夫したり刷りの前に 水滴を加えるなどの試みによって表現の幅を作
ることをJ心がけた。
ここで使用した材料の選択から印刷工程ま でについて記しておく。
1.材料の選択と描画
材料としてシナベニヤを選んだのは、入手が、
簡単で比較的安価ということも大きいが、それ 以上にその木目が生命の躍動を感じさせるため
である。
まず、木目の方向や流れる形を生かしながら、
版面に鉛筆で原画を描く。原画のモチーフは、
植物、人問、風景などを使うが、ここでは特に さまざまな花を中心に作品を制作することにし た。シナベニヤの木目は、「生きているモチーフ」
の背景としてふさわしく感じられた。
2.製版工程
描画した上に筆で速乾性のラッカーニスを 塗る。この塗布が行われた箇所は木目がほぼ完 全に消えるので、主たるモチーフとしての「花J が前面に出ることになる。したがって、この場 合、明暗や立体感の表現を意識して行うことに
- 364 - なる。
ラッカーの塗布が完全に乾し、た後、ハンダゴ、
テは焼成による点刻、ミニルーターは線描、そ して彫刻刀では切り出しゃ三角刀による深く鋭 い線などの表現に使われる。これらの点刻や線 描の後、再度ラッカーニスを塗る場合もある。
3.印刷工程
版全面に黒色の水溶性インクを刷毛で塗る。 木目や彫りあとまで丁寧に擦り込み、インクが 乾かないうちにシルクスクリーン用のハイカー ゴム製スキージで一気に拭き取る。そして凹版 用のプレス機に版を運び、あらかじめ湿してお いた紙を版面に置いてフェノレトをかぶせ、圧力 をかけて刷りとる。紙は機械漉き和紙やアノレデ パラン紙を使っている。これにより、シナベニ ヤの繊細な木目も正確に拾うことができ、モチ ーフの表現に効果的と思われるO
バリエーションとして、プレス機に置いた版 面に歯ブラシによる細かい散水をし、水滴によ る印刷効果を試みている。印刷完了後はテープ による水張りによって乾燥させる。凹部のイン クの乗り上がりをできるだけ保つために通常の 木版凸版の版と異なり、吸い取り紙で乾燥させ
ることができない。
ill.考察
本研究では「花」をテーマに取り上げ作品を 制作した。テーマである友好関係を築く作品を 作るにあたり、素材として、繊細で柔らかく温 かみを感じさせる曲線の木目があるものを、多 くのシナベニヤの板の中から選んだ。
この温かい木目を活かしながら、木目に沿う ようにして、シナベニヤの上に直接鉛筆で、花の 下絵を描くことにした。また、速乾性ラッカー ニスを塗ることで、モチーフである花の存在が 浮き出るようにした。こうすることによって、
単色の中での暗い部分と明るい部分の明暗の度
合いがはっきりと出て画面に面白い変化が現れ たと考える。
さらに,刷る行為の跡を残す表現を考え、用 具として半田ごてや、彫刻刀や、ミニノレーター といったさまざまな用具を試しながら制作を行 った。そうすることで、筆者の考えるテーマに 合った、画面に独特の調子に近づくことができ たと考える。
IV.おわりに
木目を活かすためには、シナベニヤの木目を 描画の一部として取り入れ、刷る行為の跡を残 す表現を行う必要があると考えた。また、繰り 返しの研究によって、木目を出すためには、歯 ブラシによる細かい散水を行うことが一つの重 要な工程であることが分かつた。今後は,刷る 行為の跡を効果的に残せるような新たな用具に よる彫版の研究をさらに進めていくとともに、
本研究で確立したこれらの工程による制作を続 けていきたい。
図l制作途中の作例
図2 完成作品「蓮J[木版/45cmX41c皿]