• 検索結果がありません。

蛋白質の熱変性ごトリプシン感受性

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "蛋白質の熱変性ごトリプシン感受性"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

17

〔特 別 掲 載〕

(東女医大誌第29巻第11号頁925−928昭和34年11月)

蛋白質の熱変性ごトリプシン感受性

東京女子医科大学生化学教室(主任 松村義寛教授)

キ/

チョウ

(受付昭和34年9月31日)

 蛋白質が生命現象にとって極めて:璽要な物質で あることは今更多言を要さない。にも拘らずこの 物質の化学的解明が今なお充分に行われたとは言 い難いのは,蛋白質が甚だ多数のアミノ酸を基幹 とする高分子物質であること,叉天然には多種多 様の蛋白質が共存すろこと等以外にこのものの極 端な不安定性による所が多いと思われる。

 蛋白質がペプチド鎖をその主要構造として有し ていることは明かにされているが,この長いペプ チド鎖はそれに含まれる種々のアミノ酸の性質に 従って様々の立体配置を取ることができる。この いわば準安定状態の構造は水素結合その他の二次 的結合によって保持されているといわれる。これ 等の弱い二次的結合は,通常の化学結合には影響 を与えない様な弱い外力,化学的或いは物理的操 作によっても容易に破れ,この為にペプチド鎖は 別のより安定な立体配置に変換する。

 天然蛋白質は概して安定度の低い構造にあると 老えられ,そしてこの不安定な状態においてのみ 生命現象を担うことができる。或種の蛋白質は甚 だ穏和と思われる操作によってすら既にその性質 を変えることがある。例えば酵素の溶液が中性低 温においても徐々に失活して行くことは屡々経験 する所である。

 古くは蛋白質溶液に 加熱,酸,アルカリ添加等 の処置を加えることによって蛋白質の不溶解化さ れることを蛋白質の変性と称したが,現在にては この様な巨視的変化を伴わなくても天然蛋白質が ペプチド結合の変化を起さずに種々の性質を変ず ることをもって変性と老えてよいと思う。この点

に関しNeurath 1)2)らはtt変性とはuniqueな 構造を有する生の蛋白質の non proteolytic modificationで,それによって化学的物理的あ

るいは生物学的な一定の変化を起すような現象で ある と述べ,又Putnam 3)は 変性とは天然 蛋白質の構造の化学変化ではなく,物理的或いは 分子内変化(intrarnolecular rearrangement)

であり,これによって一次的共有結合の加水分解 を起さずに特異的な立体配置の変化を生ずる と 述べている。

 変性にともなって生ずる蛋白質性状の変化につ いては種々の研究が行われているが,この変化の 詳細を知ることはひいては天然蛋白質と生命現象 の関係を理解する上に重要な知見を与え得るもの であろう。

 変性に伴う蛋白質性状変化の一つとして蛋白分 解酵素に対する感受性の増加が算えられる1)4)。

一般にトリプシン等の蛋白質加水分解酵素の作用 をしらべる場合には変性蛋白質を基質としたり,

尿素の様な蛋白質変性剤を共存させることが広く 行われている5)。種々の蛋白質変性剤は一面トリ プシンに対して阻害作用を示すものである6)7)8)

にも拘らず,未変性蛋白質を基質とした場合には ある程度迄の変性剤濃度の増加はトリプシン作用 を促進させる。即ち基質蛋白質の変性の度合とそ のトリプシン感受性の聞には関連を有するのであ ろう。蛋白質が変性によって種々の試薬に対する 反応性を増すことは屡々見受けられるが,これは 蛋白質中の活性基が表面に露出する等の為と言わ れる。一一一・方蛋白質水解酵素は特定のアミノ酸の関

Chao−Ye KING (Department of Biochemistry, Tokyo Women s Medical College) : The relation between heat denaturation of protein and i ts susceptibility to trypsin.

m r9:?5 d

(2)

lg

与するペプチド結合に親和性を有する。従って変 性による活性基の露出と酵素感受性の間に関係が

あるのかもしれない。

 蛋白質の変性操作には数多の方法があげられる が,加熱による揚合は他の物質の混入を招かない ので共の後の操作に影響する所が小さい。本誌で は牛血清アルブミン溶液を加熱処理し,トリプシ

ン感受性に対する影響を検討した。

        実験方法

  }リプシンは持田製薬株式会社製のトリプシリン  (結晶トリプシン)を用いた。;基質:にはThe Armour

Laboratory製Bovine Albumin(Fraction V from bovine plasma)を使用した。酵素,;基質及び尿素は 夫々緩衝液を用いて溶解した。緩衝液はS6rensen法

}こよる1/15MpH 7.6の燐酸緩衝液である。 >iJ  クu一ル酢酸は第一化学の特級を用いた。

 加熱処理。ア7レブミンの1%溶液を10ml宛ウヶ ナ比色管(条約1.5c皿全長30 cmの共栓附ガラス 管で0.1ml毎に30 ml迄の目盛を有する。管の太  さ,壁の厚さは略一様と考えられる)にいれ沸騰水浴

中に浸す。時間毎に一本宛とり出し直ちに流水にて冷 却する。加熱時闇0の試料は沸騰水浴に浸すことなく 最初より流水中に放置する。

 加熱により生じた濁りを500n1μの光に対する吸 光度にて測定した。濁りの大なるものでは適当に燐酸 緩衝液にて希釈して測定した。比色は以下全て日立製 作所製EPU−2A型光電分光光度計により,光路 長1cmのキュベッ〉を使用した。・

 酵素分解。各試料の8倍除蛋白液を調製し分解前の 値を測定する。除蛋白は10%トリクn 一一・tw酢酸を用 い,トリクロール酢酸の終濃度を5%なる如くし,こ れを10分間室温放置の後濾別して除蛋白液を得た。

測定は280mμの光による吸光度測定によった。

 未処置アルブミン溶液を希釈して280mμにおける 吸光度を求め,先の除蛋白液についての値との差を以 って全蛋白質量とした5)。

 各試料を1.Oml適中試験管に移し,夫々2.Omlの 燐酸緩衝液を加える。37。C恒温水槽中に暫時放置の 後,1.OIn1宛トリプシン溶液を添加,混和して30分 恒温水槽中に保持する。この時雨管のアルブミン濃度 は2.5皿9/mlであり,トリプシンは0.25 mg/m1で ある。

 10%〉リクP−」レ酢酸を、4.Oml添加し,反応を 停止すると共に除蛋白を行う。除蛋白液について280 mμの吸光度を測定:し,分解前帯との差より分解量を 求める。・

 別に各試料につき尿素の存在下におけるbリプシン

分解量を求める。尿素は燐酸緩衝液に溶解し,}リプ  シン添加前に基質に加える。}リプシン作用時におけ  る尿素の濃度は1.5Mである。

       実験結果及び考察

 蛋白質の勲凝固反応は,蛋白質の諸性質の中で も最も古くより認められているものと言える。更 にまたこの不可逆的反応はかなり蛋白質に特異的 であり,.今日でも臨床検査に際して蛋白質の確認 反応として賞用されている。蛋白質溶液の加熱に よる白濁は蛋白質の熱変性に起因することは確か であるが,濁りの増 加がそのまま蛋白質の変性進 行を直ちに示すものではない。変性を受けた蛋白 質が沈澱(濁り)として認められるのは,変性に 続く膠質化学的反応に基くものである1)。従って pH,共存する塩類の種類及び濃度等によって大き

く左右される。

 ウシ」血清アルブミンの等電点はpH 4.5〜5.0 にあるので,本実験の条件(pH:7.6)では変性

O,D.

,IF

4

3

7

o

25   50   75  クル〃π・

 第一図 加熱による混濁 横軸は加熱時聞,縦軸は透光度

を受けてもなお安定に溶液として存在レ得るもの であろう。第一図に示された結果は従って変性及 びこれに続く沈澱の全反応に対応するものであ る。反応はS勲状に進行し20分頃より極めて旺盛 に沈澱を生じ,60分では殆んど完了する事が示さ れている。

 この様に長い 加熱処理の聞にも5%トリクP一 ル酢酸可溶性成分の増加は全く認あられず,ペプ チド鎖の開裂は殆んど生じていないものと思われ る。トリプシンに対する感受性は5分聞処理のも

一 926 一

(3)

t9

のにおいて未加熱の試料に比し約45%の増加が 認められたが,これ以上長時町鳶熱を続けること によっても更に増加することはなく寧ろやや減少 の傾向が見られた。

 尿素の共存は未加熱試料では分解の促進を示し たが,5分以上加熱処理を受けた試料では阻害的

であった。

 これ等の現象はトリプシン感受性に関しては既 に5分間の加熱によって最大に達していることを 示すものと解釈される。既に述べた様に濁度(不 溶性蛋白質沈澱量)によって示されるものは蛋白 質の変性そのものではなくて,変性に続行する膠 質化学的反応をも含めたものであるが,この現象 は20分位迄はやや緩かに,次いで極めて盛んに進 行し,60分を用して漸く終了に近づくのに対し,

トリプシン感受性から見π変性は5分において既 に終了しているとみられた。

 そこでより短い加熱処理について検討を行っ た。第二図に示した様に2分30秒に至る迄はトリ プシン感受性は増加して行くが,それ以上の加熱

90

75

ノ0

5

   〆r◎・・、

  グの         も

...ぴ @  祇。

       鴨亀◎凹・凹心㌧。

       ℃臨・亀(》一一・◎

0  7  ,Z  3  み 擁

   第二図 トリプシンによる分解度

横軸は加熱時間,縦軸は分解量の全蛋白量に対する 百分率。点線は尿素添加,実線は尿素を添加せず。

は却って感受性を低める様であり,又その変化の 状況もかなり不規則性を思わせる。加熱処理の長 時間化によりトリフ。シン感受性の低下することは 先の実験によっても認められた所であるが,その 場合にもかなり不規則な変化を観察した。

 基質蛋白質の変性によって却って酵素による水 解を受け難くなるという報告6)も叉見受ることが できるが,これは蛋白質の不溶解化,更には凝固

現象に基くのではなかろうか。:先の実験例におい ても濁度の急増する30分以後において特に感受性 の低:下が著るしかった。

 尿素の添加はこの例においては何れも』分解を促 進した。変性蛋白質を基質とした場合には尿素の 存在はトリプシン作用の阻害として現れることが 期待される。従ってこの実験例では変性が未だ完 全には終了していないのであろう。にも拘らず尿 素不添加の場合2分30秒加熱試料にて最高の分解 を見たのは,変性の未だ終了しない中に既に凝固 の開始した為であろう。

 尿素添加の整合1分30秒加熱試料にて搬も分解 が大きかったのは,尿素の濃度が1.5Mであっ て未変性蛋白質を完全に変性させるにはなお濃度 が低かった為と思う。ヘモグロビンを基質とした 揚力,尿素の4M溶液において最高のトリプシン 活性が報告されている6)。

14

1. 3

1, £

/. 1

1, 0

 0 1

2 3 4 ha.

  第三図 尿素添加による分解の促進度

横軸は加熱時聞,縦軸は尿素添加と無添加の夫々の 分解量の比。

 第三図には尿素添加による分解の促進度を示し たが,加熱時間の延長に従って促進度は低下して いることが認められる。尿素は酵素自体に対して は阻害的であろう。

        結   論

 牛一血清アルブミンに加熱処理を施し,これがト リフ。シン感受性に及ぼす影響を検討した。

 0.15M, pH 7.6の燐酸緩衝液溶液中,沸騰水 浴での加熱により,アルブミンの沈澱は20分迄は 徐々に起るが,以降急激に増加し,約60分で終了

する。

 トリプシン感受性は初期の数分間は次第に増加 するが,長期の加熱は却って阻害的である。

一927一

(4)

20

 尿素の存在は加熱時間の短い試料に対しては促 進効果を示すが,その促進度は次第に低下し長時 間加熱試料には寧ろ阻害的である。

 加熱処理によリトリプシン感受性は増加するが 凝固によって次第に分解され難くなる。

 本研究にあたり終姶御指導を賜った松村義寛教授,

松村剛講師ならびに教室の諸氏に厚く感謝を捧げる。

        交   献

』1)荒谷;真平:蛋白質化学第2巻(水島,赤堀編)共   立出版東京(1954)545頁

2) Neurath, H, et al.:Chem, Revs,, 54 157

  (1944)

3)Put皿am, F.W・:The proteins, Vol.1.,(H.

 Neurath and K. Bailey, eds.) 807 (1953)

4) Steinhardt, J. and Zaiser, E.M.:Advance.

 Protein Chem., 10 152 (1955)

5) 赤掘四良9 (編)  :醇饗季…研究法第2巻 朝倉書店

 東京(1956)237頁

6)佐藤佑:生化学29231(1956)

7)佐藤佑:生化学29163(1957)

8)斬 朝曄:東女医大誌29929(1959)

9)牢井秀松,小松寿子,島尾和男:生化学25  170 (1953)

一 928 一

参照

関連したドキュメント

紅色光合成細菌 Ectothiorhodospira halophila

1 蛋白質リフォールディング:段階透析法 東北大学大学院・工学研究科 梅津 光央 (投稿日 2008/5/23、再投稿日 2008/6/17、受理日

(critical micelle concentration)以上の濃度になるように添加する。DDM の場合は 1 % w/v、OG の場合も 1

結晶化リガンドとしての抗体の有用性 -抗体が結合することによって膜蛋白質と安定化な複合体を形成する -膜蛋白質/抗体複合体の全体としての親水性表面が拡大して結晶性が向上する 結晶化リガンドを用いた膜蛋白質の結晶化の原理 右は実際に抗体を用いて結晶化された細菌シトクロム酸化酵素の 結晶中のパッキング.水色の分子が結晶化リガンドである. Iwata et

免疫検査事業を主力としている企業においては、さ らに多いものと思われる)。一方、各々の原料蛋白 質の必要量は、年間 10mg 程度から

チオール(スルフィドリル)基を持つアミノ酸 システイン - チオール基は反応性が高い。金属の結合部位や酵素の活性中心に存在する - 二つのシステイン間でジスルフィド結合を形成し蛋白質を安定化させる 側鎖 主鎖 酸性アミノ酸と酸アミド アスパラギン酸 グルタミン酸 アスパラギン グルタミン - アスパラギン酸、グルタミ ン酸は中性で負に帯電している -

蛋白質 -蛋白質相互作用への応用 ● 蛋白質 -低分子化合物相互 作用は蛋白質の「生化学的 機能」(分子機能) ● 蛋白質

みられる高尿酸血症の一因となることも推測される 10)