精神障害者ピアサポーターのピアサポート活動にお ける影響
著者 久山 優果
雑誌名 Human Welfare : HW
巻 14
号 1
ページ 187‑188
発行年 2022‑03‑10
URL http://hdl.handle.net/10236/00030136
1.研究目的
本研究は、社会福祉法人尼崎あすなろ福祉会地 域生活支援センターポルタに所属するピアサポー ターへのフォーカス・グループ・インタビューを 通して、精神障害者のピアサポート活動を始める きっかけ、活動のやりがいや苦労を明らかにする ことを目的とした。同時に、精神障害の症状によ る身体的な体調や気分の変化にも着目し、必ずし も順調にピアサポート活動が継続できているとは 限らないことに留意した。また、実際に活動する ピアサポーターを支援する支援者とピアサポー ターとのかかわりにも着目し、それらがピアサ ポート活動による変容にどのようなつながりを持 つのかを明らかにすることを第二の目的とした。
そして、ピアサポーターの育成や活動の場の拡 大、そしてピアサポート活動が精神障害者の地域 生活が推進されている流れにおいてどのような機 能を持つのかを考察していった。
2.研究方法
本研究は、帰納的パラダイムに準じた探索的研 究として、社会福祉法人尼崎あすなろ福祉会地域 生活支援センターポルタにおける尼崎市からの委 託事業である精神障害者地域移行支援・地域定着 支援を行うピアサポーター
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名を対象にフォーカ ス・グループ・インタビューを実施した。現時点 では、精神障害者ピアサポーター自身に対する研 究は数少ない。そのため、ピアサポーターの語る 言葉から、精神保健福祉分野におけるピアサポー ト事業の拡大やピアサポーター育成、活動の場の 拡大に必要なピアサポーター自身の主観的な変容 に着目し、ピアサポーターに寄り添う方法を考え るために探索的研究を可能にする質的研究法とし てフォーカス・グループ・インタビューを採用し た。サンプリングは、筆者の実習担当であった社会
福祉法人あすなろ福祉会地域生活支援センターポ ルタの管理者である精神保健福祉士より、同事業 所の精神障害者地域移行・地域定着支援事業を行 う相談支援専門員を紹介いただき、対象者
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名と アポイントメントをとり、フォーカス・グルー プ・インタビューを実施した。質的データ分析は、佐藤(2008)による質的 データ分析法(カテゴリー分析法)を参照した。
まず、4名の語りであるインタビューの逐語録を 作成した。その逐語録を何度も読み返し、一つの 内容ごとに区切り(ユニットづくり)、本研究目 的を念頭において関連付けられるように概念を抽 出していった。次に、それぞれの概念の関係性を 見出し、カテゴリーを作っていった。具体的に は、オープンコーディング、軸足コーディング、
選択コーディングという手法を用いて、段階的に コード化していき、質的データを整理していっ た。
3.結果
質的データの分析の結果、生成された概念は以 下の表のとおりである。
概念カテゴリーとして
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つが生成された(表1
参照)。『当時者性への洞察の増幅』とは、ピアサ ポート活動をすることによってピアサポーターは 自分自身の経験や、患者やピアサポーターの支援 者など他者とのかかわりの中で自分自身への気づ きが大きい状況を表す。第2
に、『二重の役割へ の苦悩』は、ピアサポートにおける同じ精神障害 を有する仲間という役割と、ピアサポーターとい う役割の二層性によってピアサポーターが感じる 立ち位置の不安定さを意味する。第3
として、『役割取得による新しい可能性の変化』は、ピア サポーターという役割を担いピアサポート活動を 行う中で、自らの日常生活リズムの変化やピアサ ポートをする中で生まれてくる目標の発見として
〔2020年度 人間福祉学部優秀卒業研究賞・最優秀賞 要旨〕
精神障害者ピアサポーターのピアサポート活動における影響
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表される。
これらの概念カテゴリーと下位概念をもう一度 語りのデータと付き合わせながら最終的に得られ たストーリーラインは、次のように示される。そ れは:
同じ精神障害者であるという仲間意識と役割を 得ることで起きるピアサポーターという立場の
『役割の二重性への苦悩』を感じながらも、ピア サポーターは支援者からの励ましや当事者である ことへの誇りを自覚し、『当事者性への洞察を増 幅』させる。これらの二側面は、ピアサポーター の内省的な側面への変化であると言える。そし て、自分自身がピアサポート活動を開始し継続す る中で、自分自身の変化や興味・関心の広がりを 既存のものだけでなく、『役割取得による新しい 可能性への変化』、すなわち新しいものに向け、
自分自身の症状との付き合い方を得たり、精神障 害への新しい視点の気づきや未来志向の行動変容 につながっていく。また、やりがいの実感や苦 悩、それらの内省的な側面への変化は、順を追っ て起こり自覚するものではなく流動的に行き来し ている。他者からの承認が自身への承認につなが り、自信の回復や体調の安定、仲間がいるという 安心感等を獲得して行くことがピアサポート活動 を行う根源の一部分となっていた。
4.今後の課題
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名のピアサポーターはピアサポート活動を行 う上で、本人のストレングスを活かした活動が行われていること、またヘルパーセラピー理論で唱 えられているように支援者であるピアサポーター が患者の言葉に支援されるという経験があること が明らかになった。仲間同士の助け合いという枠 を超え、精神保健福祉を学ぶ学生や精神障害者の 家族会など地域や社会へ向けた講義や講演会によ って自分自身のピアサポーターとしての自己変容 が生じていた。障害に伴う苦悩とやりがいの間を 行き来するピアサポーターは、ときに自分自身の 悩みや葛藤を相談できる支援者とのかかわりが必 要不可欠である。支援者からの意図的な、または 自然なフィードバックは、ピアサポーターの自己 覚知のきっかけを生み出すと考える。
また、地域移行支援・地域定着支援事業を発展 していくためには、ピアサポーターの養成も必要 不可欠である。そのためには、ピアサポーター自 身がピアサポートを行うことによる効果を実感 し、継続するため動機づけの維持が必要となる。
役割の有責感ばかりに囚われない自分自身への気 づきを振り返るために、同じピアサポーター同士 の交流や情報交換は、活動を継続する上で今後の 目標設定につながると考える。
今後の研究課題としては、4名の年齢も近く、
女性の語りは得られなかった。また、疾患や治療 経験、治療年数、就労経験など、さまざまな項目 を整理・分析することが必要となる。さらに、量 的調査による横断研究によって、活動を継続する 中でピアサポーターにもたらす影響をより客観的 な指標から探索することも考えたい。
表1 生成された概念カテゴリーと下位概念
分析ポイント 概念カテゴリー 下位概念
精神障害者ピアサポーターの ピアサポート活動による影響
当事者性への洞察の増幅 ・活動への有責感とやりがいの実感
・支援者からの励まし
・当時者であることへの誇り 二重の役割への苦悩 ・ピアサポーターとしての役割
・ ピアって特別じゃない 役割取得による新しい可
能性の変化
・未来志向による目標
・自分自身の症状とのつきあい方の体得
『Human Welfare』第14巻第1号 2022
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