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「区分所有者とその団体の法的関係に関する考察」 概要書

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(1)「区分所有者とその団体の法的関係に関する考察」. 概要書. 藤巻. 1. 梓.

(2) はじめに 日本で「建物等の区分所有に関する法律」 (以下、 「区分所有法」ともいう)が昭和 37 年 (1962 年)に制定されてからすでにほぼ半世紀が経過し、今日、区分所有建物は都市にお ける主要な居住形態として定着した。しかしそれに伴い、特に都市部において、区分所有 建物をめぐる様々な問題が顕在化してきて久しい。区分所有法は、区分所有建物の大規模、 複雑化と、老朽化マンションが急激に増加しつつあるという状況に対応するため、区分所 有建物の管理の充実と適正化を目的として、昭和 58 年および平成 14 年に二回の大きな改 正を経ている。そして、これらの改正を通じて区分所有権はその団体的拘束を強化してい る。 しかし、現行法の下ではなお多くの検討課題が残されている。確かに、区分所有者の権 利は、建物の区分所有関係が解消不可能な長期の関係であること、およびその生活の近接 性から、必然的に様々な団体的拘束を受けることになる。しかし他方において、区分所有 権は、住居に対する排他的な所有権として構想されたのであり、その区分所有者の所有の 自由は最大限に確保されるべきである。本稿における直接の考察の対象とするものではな いが、これについては、区分所有建物の建替え決議の要件の緩和をめぐる問題がある。こ のように、区分所有建物においては、良好な居住環境の形成ための、区分所有者の多数決 による規律に基づく私的自治の承認と、区分所有者の権利の保護の要請とをいかに調整す るかが重要な課題となる。 以上のような問題意識から、本稿では、区分所有関係においてその存在が指摘される団 体法的性質の内容がいかなるものであるかについて、区分所有者の相互関係および区分所 有者の団体の法的性質の検討を通じて考察する。具体的には、区分所有権(住居所有権) が区分所有法制の創設時にいかなる権利として構想されたのか、そしてその構想の下で、 特に共用部分の管理において、区分所有者の団体(集団)がどのような意義および機能を 有してきたのかという点を民法の共有法における理論まで遡って検討し、それを踏まえて、 区分所有者の団体の内部的・外部的法律関係に焦点を当てて考察する。 日本の建物区分所有法の制定にあたっては、多様な外国の立法例が参照されたが、日本 法はそのなかでもとりわけドイツ法の影響を強く受けている。ドイツ住居所有権法 ( Wohnungseigentumsgesetz 、 正 式 名 称 は Gesetz über das Wohnungseigentum und Dauerwohnrecht(住居所有権及び継続的居住権に関する法律)であり、以下「住居所有権法」 または WEG という。 )は 1951 年に制定され、最近までごく僅かな例外を除いて改正を経験 していなかったが、周知の通り、2007 年に大幅に改正された。さらにそれに先立ち、ドイ ツ連邦通常裁判所(BGH)が一連の重要な判断を示さしている。この半世紀におけるドイ ツ住居所有権法の判例、学説の発展は目覚しく、そこでは、日本法の制定当初は明確には 認識されていなかった日本法との法的構想における基本的相違が明瞭に現れている。区分 所有法制が直面している今日の課題は、日本とドイツにおいてそれほど大きく異なるもの ではなく、むしろ両国の法制度は多くの共通の課題を有するといえる。この共通の課題に 日独の両制度がいかなる方策をもって対応をしているのか、そしてこれらの解決策がそれ. 2.

(3) ぞれの法体系においてどのように根拠付けられているのか、これらの点を詳細に分析する ことにより、わが国における区分所有法制のあり方を検討する際の示唆を得ることができ ると考える。. 第一部 区分所有権の法的構成と区分所有者の団体の性格 第一部では、日本とドイツにおいて、区分所有権がどのような法的構成のもとに構想さ れ、また、区分所有建物における区分所有者の団体はいかなる法的性格を有し、この団体 と個々の区分所有者はいかなる関係に立つかという問題を検討する。 ドイツでは、かなり以前から、ゲルマン法により、階層所有権(Stockwerkeigentum)とい う形態において建物の一部に所有権を設定する可能性が認められていた。しかし、18 世紀 から 19 世紀にかけて、ローマ法の継受の下に、地上物を土地の同体的構成部分とし、これ についての所有権の成立を否定したことの論理的帰結として、階層所有権はいったん否定 される。その背景には、ドイツの従前の階層所有制度が多くの重大な欠陥を含んだもので あったという事情も指摘される。ところが、ドイツ民法典(BGB)制定直後の 1900 年頃に はすでに、住居の需要の増加を背景として、比較的小規模の資本で設定しうる階層所有権 の再導入に向けた活発な動きが見られ、さらに、第一次世界大戦後の 1923 年のインフレー ションを機に、階層所有権の導入を求める声は一層高まった。この段階では、結果として これらの動きが直ちに実を結ぶことはなく、階層所有権の再導入には至らなかったが、そ の後第二次世界大戦の直後には再び、逼迫した住居に対する需要に対応するため、 「建物の 一部に対する所有権」の制度が集中的に検討されることになる。そして、この立法に向け た試みのなかで、従前の階層所有権とは異なる、新たな「住居所有権(Wohnungseigentum) 」 という概念が登場することになる。このような経緯を経て、住居所有権法は 1951 年に成立 した。 住居所有権の法的構成については、BGB1008 条の規定する、持分による共同所有を出発 点としていることが立法資料から明らかである。そこでは、住居所有権法の制定の目的が、 ドイツの一般的な法体系を可能な限り維持しつつ、住居所有権の概念を導入することであ ったこと、従って住居所有権の法的構成としては、民法典の規定する共有から出発し、敷 地および建物の共同財産(日本法の共用部分に当たる。 )に対する共有と結合させたかたち で、建物部分に特別所有権(日本法の、専有部分に対する狭義の区分所有権に当たる。 )を 認めるという道が選択されたことが記されている。 しかし、住居所有権の法的構成をめぐる議論は、法制定直後からさらに活発化する。そこ における論点は、住居所有権が、敷地および建物の共同財産に対する共有持分と、特別所 有権とが結合したものと定義されていることから、第一に、住居所有権の法的構成として 共有と特別所有権のいずれが優越的な位置づけを得るのかという問題、および共有の優越 的地位を前提とした場合の、住居所有権と BGB の共有との関係、第二に、住居所有権に、 構成員的権利の要素を加えた新たな所有権概念を付与することの当否であった。. 3.

(4) 第一の点について、従来の伝統的な学説は共有持分の優先を唱える。ヴァイトナウアーは、 住居所有権法が土地所有権と建物所有権の一体化から出発していることから、住居所有権 を、土地所有権から完全に分離された建物に対する所有権として構成することは適当でな いと主張する。他方で、住居所有権法は、不真正階層所有権の方法による単なる持分的共 同関係の創設を意図したわけでもなく、住居所有権法による解決は、次のような構想に依 拠したものだと考える。つまり、住居所有権者に、土地および建物に対する共同所有権の 範囲内において、単独所有権の対象領域を認めるという方向性である。共有者は相互に、 各自の専有する建物部分に特別所有権を認め、その範囲で共同財産の領域を狭めるのであ る。つまり、一方においては、このようにして共有が「制限」されるが、他方において共 有者の法的地位は、単独所有権の領域の付加の分だけ拡大されることになる。このような 基本的理解から、住居所有権を「特別に形成された共有」として把握する法的構成が導か れる。この立場は、土地と建物の共有が住居所有権の基礎であり、この共有を制限する、 住居に対する個別の所有権は、共有に付随する権利であるとして、住居の個別所有権に対 する優位を共有に認めるのである。 これに対しベアマンは、住居所有権を「新たな所有権概念」として捉え、その構成要素と して、住居に対する特別所有権(または、居住目的外の用途に供される部屋に対する部分 所有権) 、その特別所有権の属する共同財産に対する共有持分に加えて、第三の構成要素と して、WEG10 条以下の意味における、住居所有権者の共同関係への参加権(構成員権)を 挙げる。ここでベアマンが参加権の具体的内容として観念するのは、住居所有権者の団体 の積極・消極財産である。すなわち、ベアマンの見解によれば、住居所有権者が団体の管 理財産(維持・修繕積立金等)に対して有する持分は、その住居所有権の譲渡の際に、住 居所有権者たる地位の移転に伴い譲受人に当然に移転し、また、譲渡人(前主)の未払管 理費についても同様に、譲受人たる新所有者が当然にその債務を承継するものと考えられ る。 住居所有権の法的構成に関する以上の議論を前提として、次に、住居所有権者共同体の法 的性質をめぐる議論を概観する。先ず、住居所有権者の共同体を持分的共有者の団体であ ると捉える、ヴァイトナウアーに代表される見解である。住居所有権を特別に形成された 共有とするこの見解によれば、住居所有権者は、土地の持分的共有者である。これにより、 住居所有権者相互の関係は必然的に、BGB741 条以下の規定する、持分による権利共同関係 (Bruchteilsgemeinschaft)を意味する。それゆえヴァイトナウアーは、この関係は合有関係 でも組合でもなく、またこれらとの類似性も否定されると主張した。 しかし、住居所有権者の共同体について、単純な権利共同関係におけるのと同様の法的 処理を徹底しようとする上記の見解が、住居所有関係の実体にそぐわない不合理な帰結を 導くことは避け得なかった。なぜなら、BGB の権利共同関係に関する規定は、BGB794 条 の規定する共同関係の廃止請求権に特徴付けられる、偶然に成立した一時的な共同所有関 係をその範型としていることを理由としていたからである。この見解の不都合は、殊に、 住居所有権者の団体の管理財産が、住居所有権法および BGB741 条以下の定める共有持分 4.

(5) 割合に従い各住居所有権者に帰属すると考える点にあった。これにより論理上は、各住居 所有権者がその管理財産について有する持分を住居所有権と別個に処分することが可能に なる(BGB741 条) 。ただし、このような権利共同関係説の徹底による具体的な結論上の不 都合は、その後の学説の強い批判を受けて今日では大幅に修正されており、伝統的な見解 は、持分による権利関係説に立脚しつつも、具体的結論において不都合の修正を図る方向 にあった。 他方で、ベアマンは当初から、住居所有権者の共同体と BGB54 条の未登記の社団(権利 能力なき社団)との間の組織形態上の類似性を指摘していた。すなわち、住居所有権法に おける、定款に対応する住居所有権者による規約の設定(WEG10 条) 、社員総会に対応す る住居所有権者の集会の開催(WEG23 条~25 条) 、総会で任命される機関に対応する管理 者(WEG27 条) 、共同体が短縮名での名称を有すること等の規定は、BGB の権利共同関係 に関する規定ではなく、むしろ社団法の規定を根拠とする。そして、このような未登記の 社団との近似性により、共同体には、少なくとも部分的にその権利主体性を承認すること が可能となると主張したのである。当時のベアマンの見解においてすでに、住居所有権者 の共同体について権利能力概念を拡張する方向が示されていたことは注目される。これに よりベアマンはまさに、共同体を権利(義務)の帰属主体とすることを意図したのである。 このように、ドイツにおいても、住居所有関係に伴って生じる多様な問題に、持分的共同 関係に関する規定をそのまま適用することが適当でない場面があることは、立法当初から 明確に認識されていた。しかし他方では、立法者が採用した、民法における共有の(特殊 な)一形態という住居所有権の位置付けを尊重する必要性も強調され、従来は、BGB の共 有法理を、立法者の構想と抵触しない範囲において「非本質的」に修正するという方向に おいて、その修正の限界付けが試みられてきた。この方向性は、さらに、住居所有権者の 共同体の性格付けについても妥当する。今日の支配的見解によれば、住居所有権者の共同 体は、法人でも、民法上の組合でもなく、また日本法における「権利能力なき社団」との 把握とも異なる、 「特殊な団体(Verband sui generis) 」であるとされる。この理解は 2007 年 改正法の下でも変更はない。 以上のように、BGB における人的結合の基本的象形であるところの社団と組合のいずれ にも、住居所有権者共同体を位置付けることはできないとされる理由は、ライザーの分析 によれば以下の点にある。すなわち、社団と組合は共同目的への結合を前提とするが、住 居所有権者の場合には、各所有者の目的は、その住居を個人で享受し、そこから他者を排 除しうることに存するのであり、敷地と建物の共同の管理は、その目的のための「必要悪 (notwendiges Übel) 」に過ぎないからである。共同目的を基礎とする民法上の組合は、法的 構造上これに適合しない。他方で、住居所有権者の共同体における集会の多数決議を通じ た意思形成および管理者による代理等の要素は、共同体をむしろ社団に接近させるが、し かし住居所有権者共同体は、形式論において登記簿への登記能力を欠くのみならず、その 実質においても、社団の特徴である、構成員を超越して存在する社会的単一(soziale Einheit) としての組織上の独立性を欠くことが指摘されている。. 5.

(6) このようにして、住居所有権の法文上の定義(WEG1 条 2 項)からは、住居所有権者の 共同体に、BGB741 条以下の意味における持分による共同関係という位置付けを付与する見 解が一般的な賛同を得てきた。また、その結果として、住居所有権者の共同体の権利能力 は、ベアマンの見解を例外として一般的に否定されていた。しかし他方で、このような法 的現象の制限が誤ったものであるとの見解も根強くあった。 住居所有権者共同体の権利能力をめぐる議論は沈静化することなく、BGH が 2001 年 1 月 29 日の判決において、民法上の(外的)組合に部分的権利能力を認めたことを契機として さらに活発化する。そこでは、民法上の外的組合の部分的権利能力を範型として、住居所 有権者の共同体にも一定の権利能力を付すことの可否が争われた。そして、BGH 第五民事 部は 2005 年 6 月 2 日決定により、住居所有権者の団体に部分的ながら権利能力を認めたの である。そして、2007 年に成立した住居所有権法の改正法においては、住居所有権者の共 同体が共同財産の管理の全範囲において、対内的・対外的関係において権利能力を有する ことが明文化された(WEG10 条 6 項 1 文) 。また、管理者は、住居所有権者の代理人であ り、かつ権利能力を有する団体の代表者として位置づけられることになった(WEG27 条 2 項・3 項) 。 以上のドイツ法における議論と比較して、日本における区分所有権の法的構成および区 分所有者の団体の法的性格にはいかなる特徴が認められるか。法 1 条は、一棟の建物に構 造上区分された数個の部分で、独立して住居、店舗、事務所等建物としての用途に供する ことができるものがあるときに、各部分をそれぞれ権利の対象とすることを認める。そし て法 2 条 1 項は、 「区分所有権」を、 「第 1 条に規定する建物部分を目的とする所有権」で あると定義している。要するに、区分所有権とは、専有部分を対象とする権利であるとい うのが区分所有法の前提である。従って、法文上は、建物共用部分に対する共有持分は、 区分所有権に含まれない。つまり、区分所有法は、区分所有権を基本的には専有部分に対 する排他的所有権を基軸として構成するものであるということができる。従来の支配的見 解も、共同所有関係をできるだけ個別的所有に分解し、区分所有権を中核ないし本体とし これに共有が附加されたものと把握しようとしていた。確かに日本法も、ドイツ法と同様 に二元的構成を採用するわけであるが、基本的には個別所有権を構想し、それに附加され 残された共用部分につき共有権を認め、その両者の併合関係が区分所有であるとする点に おいて、ドイツ法と基本的に異なる発想を有するのである。 本来、区分所有権の本質の理解は、区分所有者の団体の性質、権利主体性(もしくは権 利能力)の有無等の理解を左右するはずであるが、今日においては、団体の機能性を図る ために一定の修正が加えられている。本来は論理必然的な関係にあるとされていた両者の 関係をどのように解するか、そして、区分所有法 3 条を前提として、区分所有関係におけ る団体性が、民法の共有法理との関係においてどのような位置付けを得るのかについてさ らに研究を進める必要性がある。日本法は、単なる持分的共有者の集団に社団性が認めら れるかという問いに対して、権利能力なき社団の法理を用いて解決を図ってきたのであり、 それによりドイツ法における部分的権利能力の承認による解決に相当する結果を得ること. 6.

(7) ができると考えられてきた。しかし、法 3 条に基づく団体と管理組合の性質と相互の関係、 および区分所有者と団体への権利義務の帰属等、十分な説明がなされていない問題は多く 残されている。. 第二部 区分所有者間の意思形成 ―多数決原則の妥当範囲とその限界付け― 住居所有権法の 2007 年改正法において、住居所有権者共同体の部分的権利能力(権利主 体性)が明文によって認められたことを受けて、ドイツでは、新たな問題として、持分的 共有者の集団と権利能力を有する団体の関係をどう捉えるか、具体的にはその同一性およ び所掌領域の画定が議論されている。その詳細の検討は別稿に譲るが、住居所有権者の団 体は、基本的には、一方で内部的な意思形成および内部秩序が問題となる場面においては 持分的共有者の集団として、他方で、住居所有権者が総体として外部に現れる法的取引の 場面においては権利能力を有する団体として現れるとの理解が一般的である。そこで、以 下では両者を別個に検討することとし、第二部では先ず、共同体の内部的意思形成および 内部秩序についてドイツ法の議論を概観する。 ドイツ法上、「規約(Vereinbarung)」とは、住居所有権者が、その相互の関係について法 律の規定を補完または変更して設定する規律であり(WEG10 条 2 項 1 文) 、この個別の規 約の総和が「共同体規約(Gemeinschaftsordnung) 」を構成する。ドイツ住居所有権法におい ては、住居所有建物における原始規約の設定は住居所有権の設定者により行われることが 予定されている。つまり、住居所有権の設定方法としては、土地の共有者の契約による方 法と(WEG3 条) 、土地の単独所有者による分割を予定しているが(WEG8 条) 、実際には 後者の方法で設定される場合が殆どである。このとき、土地の単独所有者は、土地所有権 の分割を行う際に、将来形成される住居所有権者共同体のために予め共同体規約を設定し、 これを物権的意思表示に添えて土地登記簿に登記する。このように、原始所有者による共 同体規約の一方的な設定という方法により、住居所有権の迅速かつ簡潔な設定、および当 該の住居所有権者共同体にとって適切な共同体規約の成立を可能にすることが、立法者の 意思であった。しかし、これにより他方では、規約の内容の適正さに関する問題が生じる こととなった。 ところで、規約の法的性格は契約である。従って、規約の設定、変更および廃止には新 たな契約(所有者全員の合意)が要求される。そして、規約の法的性格は、それが特別所 有権の内容として登記される前後で異なる。つまり、登記前は債務法上の集団契約であり、 契約秩序としての法的性格と効果を有するにとどまるのである。従って、住居所有権者自 身が規約を遵守する債務法上の義務を負うだけで、特定承継人に対する効力は生じない。 しかし、規約は、特別所有権の内容として土地登記簿に登記されることにより物権的効力 を備え、それについての知、不知にかかわらず特定承継人を拘束する(WEG10 条 3 項) 。 以上のように、規約の改廃に全員合意が必要であるとすると、規約の内容が現状に照ら して妥当性を欠く場合に、必要な変更を行うことができないという問題が生じる。前述の. 7.

(8) 通り、ドイツでは、住居所有権が土地の単独所有者である分譲業者によって設定される場 合が殆どである。そして、分譲業者は、分割の意思表示を行う際、将来の住居所有権者の 共同体に関する一定の基本的事項を定め、これを分割の意思表示に添えて登記所に登記申 請を行い、これが将来の住居所有権者共同体の規約となる。しかし、分譲業者による共同 体規約の形成過程において規約中に分譲業者(単独所有者)に有利な規定や不適切な規定 が盛り込まれるケースが少なくない。それにもかかわらず、規約の変更に住居所有権者全 員の合意が必要とされるため、不適切な規約が盛り込まれた場合には、その規定が法律に 違反するものでない限り、特に対規模な住居所有建物において規約の改変は極めて困難と なるのである。同様の問題は、当初は適切な内容であった規約が、時間の経過にともない、 当該区分所有建物の現下の状況に対応しないものとなった場合にも生ずる。 他方で、住居所有権者は、法律または規約の認めた範囲内の事項について、これを集会 の決議により処理することができる(WEG23 条 1 項) 。決議の法的性格は多数者間におけ る合同行為であるとされ、多数者間の同一方向に向けられた意思表示に基づき、拘束力の ある合意が形成される。集会決議は、登記なくして特定承継人に対する効力を有する (WEG10 条 4 項)点は日本法と同様である。集会決議は、原則として、集会に出席した住 居所有権者の過半(頭数)の賛成により成立するが、このとき、出席した住居所有権者が 全持分の過半数を代表していることが必要である(WEG25 条 3 項) 。このように、集会決 議は、2007 年法による部分的に採用された特別多数決を除き、原則として出席者の過半数 という比較的緩い要件の下で成立する。 規約と決議については、上述した両者の法的性格の相違を理由として、その規律の対象 とされる事項も峻別されている。規約は「住居所有権者の相互の関係」に関する契約によ る規定を意味し、住居所有権法の規定を変更する規律、または「秩序ある使用若しくは管 理」を超える規律、換言すれば住居所有権者共同体の根本問題に該当する規律を内容とす る。これに対して、集会決議による決定には、法律または規約による権限の付与が要件と され、法律上、決議による決定は、住居所有権者共同体の基本秩序に劣後する住居所有権 者の関係、とりわけ秩序ある使用の形態と共同財産の秩序ある管理が問題となる場合にの み認められている(WEG15 条 2 項、21 条1項、3 項) 。そして、決議の対象事項である「秩 序ある管理 (ordnungsgemäße Verwaltung) 」に該当する措置とは、一般的に、全住居所有権 者の利益となる、共同財産の維持および改良、またはその目的決定に従った使用を指向す る措置とされ、その具体的な内容は個々の事情や関係を考慮して決定される。このように、 住居所有権者の集会には絶対的な権限を付与せず、多数決よる支配を原則ではなく例外と 位置付けることが、立法者の意思であったという。以上のように、規約と決議には、その 法的性格、規律の対象とする事項、変更、廃止の要件等において根本的相違があり、規約 と集会決議のいずれの形式によって規律を形成するかは、当該規律の爾後の運用に決定的 な影響を与える。特に、規約が全員合意を要求することを理由として、従来から規約の硬 直性が指摘されていた。また、他方では、住居所有権者が本来決議により決定することが できるとされている事項については、それが形式上規約として規律されている場合であっ. 8.

(9) ても、これを決議により改変することができるというように、解釈論上、規律の内容に応 じた意思形成の方法が検討されてきたことが注目される。 他方で、規約と決議については、上記の問題とは別に、いわゆる代用決議の取り扱いに 関する問題が指摘されていた。つまり、住居所有権者が、規約の形式のみにより規制する ことのできる事項について多数決議を行うと、規約の内容を有する決議(これは代用決議 などと呼ばれる。 )が行われたことになる。ところが、WEG23 条 4 項 2 文によれば、集会 決議は強行規定に反しない範囲において、裁判所により無効であると宣言されない限り有 効であるとされる。また、WEG46 条 1 項によれば、住居所有権者による集会決議に対する 異議申立期間は 1 カ月であり、これを徒過すると決議の有効性が確定する。そこで従前の 実務では、ある事項について住居所有権者が議決権限を欠くために決議が瑕疵を有するこ とを認識しつつも、その決議が取消されないまま異議申立期間を徒過することにより拘束 力を有することになるとの期待の下に、規約で規律すべき内容について多数決による決議 がなされてきた。また、BGH も、2000 年にその判断を変更するまで、かような実務上の取 り扱いを容認していたのである。 しかし、 BGH2000 年 9 月 20 日決定は、 以下の点を指摘して代用決議の有効性を否定した。 第一に、住居所有権者は、住居所有権法または規約に基づき決議による決定権限を有する 事項についてのみ、決議によって定めることができるのであり、さもなければ規約を必要 とすること。第二に、WEG23 条 4 項は、決議が裁判所により無効と宣言された場合に限り 無効であることを規定するが、この規定は、住居所有権者が当該事項を決議により決定す る権限を有することを前提とするものであり、住居所有権者が決議権限を絶対的に欠く場 合には決議は無効であることの二点である。本 BGH 決定により、それまで実務において 30 年来用いられてきた、規約の硬直性を回避するための手法は否定され、規約と決議の対象 について理論上の再検討が迫られる結果となった。BGH2000 年決定の立場に対しては、住 居所有権者共同体の管理の実施において困難が生じることは不可避であるとの批判があっ たが、いずれにせよ、以降は本 BGH 決定の判断に従った実務の修正が図られねばならなか ったのである。 このようにして、上記 2000 年 BGH 決定に対しては、真正な所有権として住居所有権を 把握することとの理論的整合性の観点から、これに賛同する見解は多かったが、他方で本 BGH 決定によって、建物管理の実施に伴う規約の硬直性といった従来の問題が、実務にお いてさらに深刻に受け止められることになった。このような状況に対応するため、住居所 有権法の改正の検討が本格的に開始し、2007 年に、住居所有権者の意思形成要件の緩和を 目的の一つとする住居所有権法の改正法が成立した。改正法における、住居所有権者の意 思形成の要件の緩和に係る変更点は次の通りである。第一に、住居所有権の譲渡制限に関 する規律は規約事項であり、その改廃には全員合意が要求されていたが、改正により当該 規律の撤廃を多数決により決議することができることとなった。第二に、WEG16 条 2 項に よれば、住居所有権者は、共同財産の維持、修繕その他の管理および共同使用の費用を「原 則として」その共有持分割合に従って負担する。そこで、共有持分割合と異なる分配基準. 9.

(10) を採用するためには、旧法によれば、住居所有権者全員の合意による規約が要求されたが、 新法では、共同財産および特別所有権の管理費ならびに維持費のうち特定のものについて は、共有持分割合とは異なる基準に従った分配を多数決により決議することができるとし た。第三に、建物の維持または修繕の措置(WEG21 条 5 項 2 号)若しくは建築上の変更 (WEG22 条 1 項、2 項)のための費用の分配について、原則である共有持分割合(WEG16 条 2 項)または規約による基準(WEG16 条 5 項)と異なる基準の設定につき、住居所有権 者が多数決により決議することを認めた。第四に、WEG22 条 2 項は、住居施設の市場価値 の継続的な維持を目的として、住居所有権者が多数決議により、共同財産の現代化または 技術水準への適合化に資する措置を決定することができるものとした。 以上に加えて、意思形成要件の緩和そのものではないものの、WEG10 条 2 項 3 文におい ては新たに、住居所有権者が法律の規定または規約と異なる内容の規約の設定を請求する 権利が明文で規定された。これにより、各住居所有権者は、個々の事案におけるあらゆる 状況、殊に、他の住居所有権者の権利および利益を考慮して、現行の規律(任意規定もし くは規約)を維持することが、重大な事由によりもはや不衡平であると思われるときは、 法律を変更する規約若しくは規約の適正化を請求することができることになった。住居所 有権者の規約の変更請求権は、2007 年法改正により初めて認めらたわけではなく、すでに 判例において一定の準則が示されていたのであるが、BGH はこの変更請求権を BGB242 条 の信義則に基づく請求権であると構成し、極めて厳格な要件を課していたのである。新法 における基準は、従前の判例によって示された要件を意識的に緩和するものである。 このように、2007 年改正法は、住居所有権者に認められた集会決議による決定権限の範 囲を拡張しているが、これはあくまで従来の実務において、もはや全員合意の要請が妥当 でないと思われる事項につき限定的に多数決原則を採用したものであり、従来の原則とし ての全員合意と例外としての多数決という枠組は、なお維持されている。 他方で、日本法における区分所有者の意思形成についてみると、ドイツ法と同様に規約 と集会決議が用意されている。日本法はこのうち規約について、1962 年の区分所有法制定 当初はドイツ法に倣い、規約の設定および改変に区分所有者全員の合意を要求していたが、 1983 年の改正により多数決主義が採用され、特別多数決議による規約の設定・改変が認め られることになった。そして、それに応じて、規約の法的性格、さらには規約による規律 の対象となしうる事柄についても再検討が迫られているといえよう。 規約の限界については、従来の議論によれば、規約は「建物又はその敷地若しくは付属 施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項」 (30 条 1 項)について定めるもので あるから、建物等の使用または管理に関するものとはいえない事項(専有部分の処分や賃 貸の制限等) 、あるいはその内容、方法、程度が合理的な範囲を超える、使用または管理に 関する規制が、規約として定めることのできない事項であると考えられている。しかしな がら、区分所有者の所有権に直接にかかわる事項であっても、それが建物等の管理または 使用に関するものである限り、これを規約として規律することは排除されていない。そし て、法 31 条 1 項において、規約の設定と改廃は同列に規定され、区分所有権の購入者全員 10.

(11) の合意を前提とした原始規約はその特別な意義を認められていない。従って、区分所有権 の設定の際に分譲業者と各区分所有者間の個別的合意を経て成立した規約のうち、区分所 有権の基本的内容を規定するものも、他の規約中の規定と同様に、特別多数決による変更 に服することになるのである。 他方で、規約と普通決議の区別の問題は、区分所有法において一定の事項が絶対的規約 事項とされていることを除き、規約事項と普通決議事項の区別は一般的に事柄の重要性に よって決まるとされていて、それ以上の具体的な区別はなされていない。 以上のように、区分所有法は区分所有者の意思形成のための多様な方法を用意し、それ らの意義は相互に接近したものであるという理解の下に、一定の事項を規律するためにい かなる形式を採用するかは広く区分所有者の自治に委ねられているのである。. 第三部 区分所有建物の共用部分についての権利関係 ―権利の帰属・行使の主体は誰か ― ドイツ法においては、BGH2005 年決定および住居所有権法 2007 年改正法により、住居所 有権者の団体権利主体性が認められた結果として、住居所有権者の団体が二つの側面を有 することが明確に認識されるに至った。これは一つには、団体が持分的共有者の集団とし て現れる場面、二つには、共同財産の管理について権利能力を有する団体(法主体)とし て現れる場面である。第三部では、後者について、特に共用部分に関して生じた権利の行 使を素材として、共同体の権利能力の範囲をどのように画定するかという問題を検討する。 ドイツ法において、共用部分に関して生じた権利義務の帰属の問題は、主として共用部分 に原始的な物的瑕疵が存在する場合における、分譲業者の瑕疵責任の追及の場面において 現れる。これは、共同体による権利行使と各住居所有権者による権利行使の重複をいかに 調整するか、換言すれば、分譲業者の瑕疵責任の追及について、各住居所有権者の個別の 権利行使を制限しても共同体の(一括的)権利行使を認めるべき範囲の問題である。 同様の問題は日本の区分所有建物においても指摘することができる。日本法によれば、 マンションの分譲契約に際して、建物の共用部分の隠れたる瑕疵を理由として契約の目的 を達成することができないときは、分譲契約を解除することができ、これは各区分所有者 が単独でなすことができる。他方で、契約解除の場合に当たらないときは、瑕疵修補請求 および損害賠償が問題となる。瑕疵修補請求については、わが国ではこれを建物の保存行 為とみなし、区分所有者に単独の請求を認めるのが一般的理解といえる。しかし、瑕疵の 認否、および修補の要否や態様を一人の区分所有者のみで決定することは問題であり、ど のような形で修補されるかは管理組合の判断に委ねるべきであるとする見解もある。他方 で瑕疵修補請求権を不可分債権であるとすると、一人の区分有者が当該請求権を行使した ときは他の区分所有者にもその効果が及び(民法 428 条) 、その結果、他の所有者による損 害賠償請求権の行使可能性が排除されることになることも指摘される。また、損害賠償請 求については、これを金銭債権ゆえに可分債権であって、各区分所有者に分属すると考え. 11.

(12) られることから、その一元的処理の必要性が認識され、2002 年の区分所有法改正にあたり 法 26 条 2 項において管理者にその請求・受領についての代理権が付与された。しかし、こ れにより問題の解決が図られるかには疑問の余地がある。なぜなら、この規定は損害賠償 請求権が各区分所有者に分割して帰属することを前提とするのであって、各区分所有者に よる損害賠償請求権の個別的行使を排除するものではないからである。それゆえ、共用部 分の修補のために一元的に費消されるべき資金が散逸する結果を必ずしも防ぎ得ないので ある。また、一部の区分所有者からは損害賠償請求がされた後に、他の区分所有者が修補 請求をするという、瑕疵担保責任を負う者からしてみれば対応が困難な状況も想定されよ う。日本法の孕むこれらの問題点を敷衍すれば、共用部分について生じた金銭債権につい て、第一にその性質をどのように捉えるべきか(可分か、不可分か)という問題であり、 第二に、その行使をどのように考えるか(誰が、どのように行使するか)という課題が示 される。そこで、以上の日本法の課題を念頭に置きつつ、ドイツ法における、共同財産に 原始的な物的瑕疵が存在する場合の瑕疵責任の追及をめぐる議論を検討する。 ドイツでは、まず、新築建物の場合における住居所有権の分譲契約には、原則として請 負契約法が適用されるから、売主(施工業者)は請負契約上の責任を負う。そして、共同 財産に隠れた物的瑕疵が発見された場合には、BGH の見解によれば、当該瑕疵に基づく責 任の追及は次の通り行われる。先ず、各取得者(各住居所有権者)は、共同関係からの離 脱に向けられた権利(解除権もしくは大きな損害賠償の請求権) 、および第一次的保護とし て、瑕疵の除去に向けられた請求権を各自で単独で行使することができる。これに対して、 第二次的保護として、代金減額権および小さな損害賠償の請求権は、取得者全員により共 同してのみ行使することができる。つまり、これらの権利は、集会決議を要件として、共 同体が自己の名において行使する。さらに、住居所有権が第二、第三の買主に譲渡され、 現下の住居所有権者と施工業者との間にもはや契約関係が存在しない場合においても、共 同体による瑕疵責任の一元的追及が認められる。 以上のように、BGH は広範囲で共同体による権利の一括行使を認めているといえるが、 他方で住居所有権者の個々の取得契約が瑕疵責任に基づく諸権利の基礎となっていること を看過しているわけではない。むしろ BGH は、減額権と小さな損害賠償の請求権が、各住 居所有権者と施工業者との間の個別的契約にその基礎を有していることを明確に指摘しつ つ、そのうえで、取得者からその権利の処分権限(Verfügungsgewalt)を剥奪し、これを共 同体による行使(つまり、住居所有権者の多数決による意思決定)に委ねている。そして、 このような処理が許されることの理論的根拠として、共同財産の瑕疵を理由とする瑕疵責 任に基づく諸権利の「共同体との連関」 、および請求の重複からの施工業者の保護を挙げる のである。さらに、共同体による権利行使が決定された場合には、住居所有関係から離脱 した契約上の権利者はもはや当該権利の行使を制限されると説き、このような制限は住居 所有権の取得契約に内在的なものであると述べる。 このようにして、ドイツにおける議論が、共同財産の瑕疵を理由とする諸権利の処遇を 共有持分単位ではなく共同財産の全部について決定する傾向にあることの背景としては、. 12.

(13) BGB における一般的理解として、共有物について生じた権利の性質が、原則として不可分 であると解されていることが挙げられる。判例によれば、共有物について生じた損害賠償 請求権も、同様に不可分債権であるとされる。BGB432 条は、不可分債権関係について、債 務者は全債権者に対してのみ給付をなすことができ、また各債権者も全債権者への給付の みを請求することができると規定しており、フランス法を継受した日本法と異なり、不可 分債権関係の成立を認めても債権者が不利益を被るおそれがないのである。それに加えて、 2001 年の債務法改正による瑕疵責任の性質の変化も指摘される。つまり、第二次的保護の 代金減額および小さな損害賠償は、 「担保(Gewähr) 」の受領を本来意図するものではなく、 義務違反により生じた不利益の調整を根拠とするものであり、本来の履行請求権に代わり、 売主が責任を負うべき請負契約上の結果の実現を目的とする。それゆえ、代金減額分およ び損害賠償額は、個々の契約関係により個別化されることなく、共同財産の当該瑕疵によ って確定されることになり、その結果、これらの給付は金銭であっても不可分であると解 されるのである。 さらに、多数当事者の債権関係の形態とは別に、瑕疵責任に基づく諸権利を共同体が一 括行使することの可否を検討する必要がある。第一次的保護の場合の瑕疵修補請求とそれ に代わる費用の前払金請求、および瑕疵が共同体によって除去された場合の費用償還請求 権につき、取得者が不可分債権関係に立ち、これを共同体の一括行使に委ねることができ ることには争いがない。問題は、第二次的保護における代金減額権または小さな損害賠償 請求権の法的性質である。ここでは、BGH の説くように、共同財産に建築上の瑕疵がある 場合に、瑕疵責任に基づく権利行使により獲得された金銭が当該瑕疵の除去のために利用 されるときは、取得者の間に不可分債権関係が生じ、それゆえ共同体による一括の権利行 使および金銭の受領が認められるとする見解と、他方において、反対説の採るように、減 額権と小さな損害賠償の請求権について、取得者は分割債権関係に立つと解し、各人によ る個別的な請求権行使が認められるとする原則論、さらには権利の性質は分割債権である との前提に立ちつつ、共同体の一括の権利行使の可否の問題と捉える見解との根本的な対 立が見られるのである。 最後に、これらの議論に 2007 年改正法が与える影響についてである。共同財産の物的瑕 疵に基づく請求権の一元的行使の可能性は、すでに 1979 年の BGH 判決以降活発に議論さ れてきた。そこでは、この問題が共同体の法的性格を巡る議論とは切り離された問題であ ることが指摘されている。このように、共同体の権利能力は、その瑕疵責任の一元的追及 の要件となるものではないが、共同体が権利義務の帰属主体として承認されることは、共 同体がその構成員の交替の影響を受けずに権利を行使することを容易にするものであるし、 また WEG10 条 6 項の新設により、権利の一元的行使のための意思形成が容易となったこと も事実である。住居所有権者の共同体の権利能力をどの範囲まで認めるかは、改正法の解 釈における最も重要な論点の一つであり、より広範な機能を共同体に付与しようとする立 場と、個々の契約上の権利の保護により重点を置く立場との対立の原点は、住居所有権の 本質の理解にまで遡るものである。. 13.

(14) おわりに 日本の区分所有法とドイツの住居所有権法はいずれも、区分所有関係の永続性から必然 的に生じる建物管理の必要性に応えるために、区分所有者または住居所有権者の団体に団 体性を付与しその機能を確保しているが、その団体性の付与の仕方は異なっている。 わが国の区分所有法において、区分所有権とは建物の専有部分を目的とする所有権を意 味し、文理上は共用部分に対する共有持分を含まず、区分所有権、建物共用部分の共有持 分、敷地利用権の三要素が構想されたうえで、三者の間の処分における一体性が認められ るにとどまる。これに対してドイツ法は、議論はあるものの、土地および建物の共同財産 に対する共有持分が住居所有権の基本的構成部分と理解されている。区分所有権の法的構 成における日本法とドイツ法のかような基本的相違は、区分所有者の集団(団体)の法的 性格の理解にも直接に影響を与える。加えて、共有者間の関係の把握に関しても、BGB の 共有に関する規定が、日本民法のそれと基本的構造を異にすることも重要である。BGB に おける「共有」は、債務編に定められた債権上の共有である「共同関係」が物権関係に反 映されたものであると説明され、より一般的に、ドイツ法においては、複数人の共同所有 関係は所有の側面よりも主体間の共同関係に重点が置かれて説明されており、このように 人法的な関係で共同所有を理解する点が、ドイツ法の特徴の一つであると指摘される。従 って、ドイツ法において、住居所有権者間に認められる団体法的制約については、 (共同関 係の廃止が不可能であるという特殊性はあるものの)基本的には BGB の規定する共同関係 にその理論的根拠が置かれている。 これに対して、わが国の従来の議論では、区分所有関係に必然的に生じる団体的拘束を、 原則である共有法理が関係の解消不可能を理由として「限定的に」修正された結果として 把握するにとどまり、この団体的拘束が何を根拠として生じてくるのかの正面からの理由 付けが欠けていた。このことの背景には、区分所有者の団体の団体性に関する問題が、従 来、いわゆる「権利能力なき社団」の理論によって一定程度解決されてきたという事情が あろう。しかし、権利能力なき社団論により区分所有者の団体の権利主体性が導かれない 限り、権利能力なき社団概念を用いることに実体法上の意義を見出すことはできないので あり、法 3 条において区分所有者の団体の存在が明確にされた意義もまた限定的なものに とどまるのではないかと考える。他方で、区分所有者の団体に法主体性を認めるにしても、 団体的意思形成を拡大することについては当然慎重となるべきであり、区分所有者の団体 の有する「団体性」を無制限に強調することは妥当ではない。 むしろ今後日本法においても重要となるのは、ドイツ法と同様に、区分所有者の権利関 係が物権法的秩序と団体法的秩序のそれぞれ異なる規律を要する場面で現れることを認識 し、両者の峻別を試みることではないかと考える。この点において、本稿の検討により、 ドイツ法が、住居所有権者が共同財産の管理のために団体として出現するべき領域と、相 互に物権法的規整により規律される領域とを区別し、前者の場合についてこの団体に権利. 14.

(15) 主体性を与えて、団体の機能性を確保している一方で、後者については民法共有法の諸原 則を維持していることが明らかとなった。そこでは、規約と集会決議という二つの意思形 成の制度を用意したうえで、両者の法的性格からそれぞれの規律の対象事項を峻別し、手 続きの正当性には解消されない、内容に応じた規律の形成を課している。他方で、物権法 秩序と団体法秩序の接合領域ともいえる、個人と共同体の権利行使が競合する場面におい ては、権利の帰属と行使を分離したうえで、共同体による管理を優先させていることが注 目される。このような理解により、真正な所有権の一形態としての、住居所有権の伝統的 解釈を損なわないまま、共同体の機動性の確保の要請に応えるための解決が図られている といえる。 指摘されているように、わが国においては、特に区分所有建物の建替え制度に関して団 体法理があまりに強く強調される場面が見られ、これは批判されなければならないまさし く物権法秩序に該当するべき建替えが、多数決により決議されうるとするならば、それは 建替えを必要とする客観的状況を前提としたものでなければならない。加えて、団体的拘 束の強化については、規約の規律対象の問題もある。日本法において規約が区分所有者の 全員合意ではなく、特別多数決議により設定、改廃されうることに鑑みれば、もはやそれ は契約としての性格を失っているから、区分所有権の本質にかかわる事項をどの程度、規 約の対象に含めることができるのかが課題となる。そして、その検討の際には、一般的準 則を定立することは困難であるから、ドイツ法におけるように具体的な事項を個別的に判 断していくという作業の積み重ねが必要となろう。他方で、共用部分の維持・管理をめぐ っては、多くの場合に、各区分所有者に分属するとされる権利義務を一括的に把握し処理 することが必要となる。そこでは、法 3 条の存在により、社団理論を仲介として、区分所 有者の団体に一定の範囲で権利主体性を認めて権利義務の帰属点をすることにより、建物 の円滑な管理の実施が可能になると考える。ただし、この区分所有者の団体の権利主体性 は共用部分の管理に限って認められるべきであるから、その限界を具体的にどのように画 定するかが次の課題となる。. 15.

(16) 参考文献. 【日本語参考文献】 ・ 秋山靖浩「欠陥建物・最高裁判決とその意義」法セ 637 号(2008) ・ 阿久澤利明「権利能力なき社団」星野英一(編)『民法講座. 第一巻』(有斐閣、昭和. 59) ・ 芦野訓和「ドイツ新債務法における請負法の改正―わが国への示唆を含めて―」駿河 台法学 17 巻 1 号(2003) ・ 粟島明康・山野目章夫・鎌野邦樹・折田泰宏「特集・マンション問題における現状と 課題」ひろば 2002 年 7 月号(2002) ・ 石崎泰雄 「ドイツ新民法における瑕疵担保責任の統合理論」 駿河台法学 17 巻 1 号 (2003) ・ 伊藤栄寿「ドイツ住居所有権法における団体的拘束の根拠と限界(一) 」民商 134 巻 6 号(2006) ・ 伊藤滋夫(編著) 『逐条解説 住宅品質確保促進法』 (有斐閣、1999) ・ 稻本洋之助・鎌野邦樹『コンメンタール・マンション区分所有法 第2版』 (日本評論 社、2004) ・ 稻本洋之助「区分所有の法理」法時 55 号 9 巻(1983) ・ 今西康人「ドイツ新債務法における仕事の瑕疵に関する請負人の責任」関西大学法学 論集第 52 巻 4=5 号(2003) ・ 宇佐見隆夫ほか「<研究会>区分所有建物の管理の現状と立法の課題(3) 」NBL 212 号(1980) ・ 内田貴ほか「座談会 区分所有法等の改正と今後のマンション管理」ジュリ 1249 号 36 頁(2003) ・ 梅謙次郎『民法要義巻之三』 (有斐閣、1992) ・ 遠藤厚之助「階層的区分所有権の系譜」東洋法学第 4 巻第 2 号(1960)49 頁 ・ 遠藤浩・林良平・水本浩『現代契約法体系 第4巻』 (有斐閣、昭和 60) ・ 遠藤浩(編) 『マンション―建築・売買・管理・賃貸―』 (青林書院、1985) ・ 大野武「マンションの瑕疵と消費者保護―住宅瑕疵担保履行法の制定を踏まえて―」 マンション学 30 号(2008) ・ 大野秀夫「総合判例研究 マンション(二八)~(三一) 」判評 470~473 号 ・ 岡田康夫「ドイツと日本における共同所有論史」早稲田法学第 45 巻(1995) ・ 奥田昌道『債権総論』 (悠々社、1992) ・ 尾崎三芳「債権債務の合有的帰属という構成の有用性はどのように考えるべきか」 『現 代契約と現代債権の展望 二』 (日本評論社、1991) ・ 於保不二雄『債権総論〔新版〕 』 (有斐閣、1987). 16.

(17) ・ 加藤一郎ほか「区分所有建物の管理の現状と立法の課題(3)<研究会>」NBL212 号 (1980)34 頁 ・ 加藤一郎ほか「座談会 区分所有法改正要綱試案」ジュリ 774 号(1982) ・ 鎌野邦樹「マンションの付属物の帰属と管理―給排水管の帰属(専有部分か共用部分 か)と管理を中心として―」千葉大学法学論集第 13 巻第 4 号(1999) ・ 同「店舗住宅複合型マンションについて―店舗営業時間に関する紛争事例を中心に―」 千葉大学法学論集第 17 巻第 1 号(2003) ・ 同「改正区分所有法の解釈上の諸問題」千葉大学法学論集第 18 巻第 2 号(2003) ・ 同「区分所有法と 2000 年の改正」法教 271 号(2003) ・ 同「マンションの建替え―法はどう変わり現実はどう変わるか」法教 272 号(2003) ・ 同「わが国の区分所有法―その発展と比較法的考察―」 『著作権法と民法の現代的課題 ―半田正夫先生古稀記念論集』 (法学書院、2003) ・ 同「区分所有建物における規約・使用細則・集会決議の関係について」千葉大学法学 論集第 19 巻第 1 号(2004) ・ 同「管理組合の権限と機能」 『民法の争点・ジュリスト増刊号』 (有斐閣、2007) ・ 同「判批」判評 488 号 202 頁 ・ 同「建物の瑕疵についての施工者・設計者の法的責任」NBL No.875(2008) ・ 同「マンションの瑕疵についての建設業者の法的責任―最判平 19・7・6 判時 1984 号 34 頁(民集掲載予定)を契機として―」 、マンション学 30 号(2008) ・ 鎌野邦樹・山野目章夫(編) 『マンション法』 (有斐閣、2003) ・ 鎌野邦樹・竹田智志「研究ノート・区分所有建物の修繕・再建(復旧・建替え)およ び終了をめぐる比較研究覚え書き」千葉大学法学論集第 15 巻第 3 号(2001) ・ 鎌野邦樹・花房博文・舟橋哲・大野武「研究ノート・マンション管理制度の比較研究 覚え書き」千葉大学法学論集第 17 巻第 2 号(2002) ・ 鎌野邦樹・折田泰宏・山上知裕(編著) 『改正区分所有法&建替事業法の解説』(民事 法研究会、平成 16) ・ 鎌野邦樹・折田泰宏・東急コミュニティー・石川恵美子・飯島正「特集・マンション 管理をめぐる法と政策」ジュリ 1225 号(2002) ・ 上河内千香子「共有物の使用管理に関する規定の制定過程―ドイツ法を中心に―(一) (二・完) 」広島法学 22 巻 4 号、23 巻 1 号(1999) ・ 同「ドイツ法における共有物の管理に関する理論形成―裁判例及び学説の検討を中心 に―」琉大法学 66 号(2001) ・ 上谷均「共同体的所有の法的構成に関する一考察(二・完) 」民商 90 巻 3 号(1984) ・ 川井健『新版注釈民法(7)物権(2) 』 (有斐閣、2007) ・ 河上正二『民法総則』 (日本評論社、2007) ・ 川島一郎「建物の区分所有等に関する法律の解説(下) 」法曹時報 14 巻 8 号(1962) ・ 川島武宜『民法総則』 (有斐閣、1965). 17.

(18) ・ 川島武宜(編) 『注釈民法(7) 』 (有斐閣、昭和 43) ・ 川島武宜・川井健『新版 注釈民法(7) 』 (有斐閣、2007) ・ 区分所有建物管理問題研究会編『区分所有建物の管理と法律』 (商事法務研究会、1981) ・ 国土交通省『逐条解説 住宅瑕疵担保履行法』 (ぎょうせい、2007) ・ 後藤元伸「権利能力なき社団論の現在―ドイツ民法典制定過程における議論の再評価 ―」阪大法学第 55 巻第 3=4 号(2005) ・ 小沼進一『建物区分所有の法理』 (法律文化社、1992) ・ 塩崎勤「建築された建物の安全性に瑕疵がある場合と建物の設計者,施工者,工事監 理者の不法行為責任」民事法情報 258 号(2008) ・ 同「共有物の保存・管理をめぐる諸問題」判タ 408 号(1980) ・ 潮見佳男『契約各論Ⅰ』 (信山社、2002) ・ 下森定「マンション売買と瑕疵担保責任」ジュリ No.627(1976) ・ 同「不完全履行と瑕疵担保責任」 『現代社会と民法学の動向 下』 (有斐閣、1992) ・ 四宮和夫・能美善久『民法総則 第八版』 (有斐閣、2010) ・ 鈴木禄彌「ドイツ法」有泉亨(編)『借地借家法の研究―比較法的考察―』(東京大學 出版会、1958) ・ 同・報告「極端な立場(建物区分所有法の改正問題に関連して<シンポジウム>) 」私 法 43 号(1981) ・ 同『物権法講義 第五版』 (創文社、2007) ・ 菅原郁夫「判批」判評 466 号 42 頁 ・ 鷹巣信孝『財産法における権利の構造―共有と合有―』 (成文堂、平成 8) ・ 玉田弘毅『注解建物区分所有法(1) 』 (第一法規出版、1979) ・ 同『建物区分所有法の現代的課題』 (商事法務研究会、昭和 56) ・ 同「管理組合/特集・区分所有法改正」法時 55 巻 9 号(1983) ・ 同(編) 『マンションの法律 1』 (一粒社、昭和 60) ・ 同「判批」法教 158 号 110 頁(1993) ・ 玉田弘毅・森泉章・半田正夫(編) 『建物区分所有法』 (一粒社、1975) ・ 田山輝明訳「ドイツ土地登記法」民月 53 巻 10 号(1998) ・ 同『物権法[第三版]』 (弘文堂、平成 20) ・ 田山輝明・鎌野邦樹(編) 『マンションの法律 Q&A』 (有斐閣、2003) ・ 辻正美「<史料>債権総則(十五) 」民商 84 巻 2 号(1981) ・ 椿寿夫「批判」リマークス(1996)53 頁 ・ 同『多数当事者の債権関係』 (信山社、2006) ・ 椿寿夫・右近健男(編) 『ドイツ債権法総論』 (日本評論社、1988) ・ 鶴田滋『共有者の共同訴訟の必要性―歴史的・比較法的考察』 (有斐閣、2009) ・ 道垣内弘人「団体構成員の責任」ジュリ No.1126(1998)66 頁 ・ 西村信雄(編) 『注釈民法(11) 』 (有斐閣、1965). 18.

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参照

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