<書評> 外国人研修生権利ネットワーク編 『外国人 研修生時給300円の労働者2 使い捨てを許さない社 会へ』 明石書店, 2009
著者 榎本 てる子
雑誌名 関西学院大学人権研究= Kwansei Gakuin
University journal of human rights studies
号 14
ページ 35‑38
発行年 2010‑03‑31
URL http://hdl.handle.net/10236/3681
場と外国人研修・技能実習制度」が参考となる。
佐野は、外国人研修制度は、1950年代に国際協力 事業(JICA)で友好的な戦後外交の手段として国 際貢献として始まったことを記している。その後 日本企業は海外に進出を始めるに伴い、海外進出 企業の現地法人職員研修に活用されるようになっ た。その後日本はバブル景気を迎えて国内の労働 力は絶対的に不足した。特に労働力が足りない中 小企業の労働者の不足を補うことに研修制度が拡 大解釈を始めることになる。1990年法務省告示に よって中小企業団体等による外国人研修生受け入 れが認められるようになった。すなわち、これま で海外進出企業にのみ許されていた研修生の受け 入れを海外に進出していない中小企業も一定の手 順を踏めば出来るようになったのである。1991年 には、外国人研修生の受け入れの支援とサービス の 実 施 を 目 的 と し た ( 財 ) 国 際 研 修 協 力 機 構
(JITCO)が外務、法務、厚生労働、経済産業、国 土交通、5省共管によって設立された。また、研修 生が研修を終了した後に労働者として働くことが できることを確保するために、技能検定試験を受 けて所定の要件を満たした研修生が外国人技能実 習生に移行する制度が1993年4月に創設された。技 能実習制度の確立により、研修1年+実習2年とい 1929年に発表された小説「蟹工船」で小林多喜
二は、社会の下積みになっている労働者大衆の非 人間的な生活とその中で発生した労働者の団結を 描いている。
当時蟹缶詰を製造していた会社は、凍りつく北 海の海に多数の船を送り込み、ソビエト領カムチ ャッカの領海に侵入して蟹を取り、船上で缶詰に 加工する作業をさせていた。船上で働かされてい た季節労働者は、百姓、炭坑夫、貧民街の少年た ちで、全ての人間的権利を剥奪されて会社の利潤 と帝国の国策のために虐使されていた。蟹工船で は、過酷な残業、粗末な食事、劣悪な生活環境、
病人の放置などの徹底した搾取が行われていた。
小林多喜二の描いた労働者の搾取と人権侵害は、
80年を経た現在の日本でもまだ起こっているとい うことを告発したのが本書である。
本書は、一般読者を対象に書かれており、外国 人研修生・技能実習生の支援者、労働組合相談員、
弁護士、技能実習生自身など18名が執筆している。
本章は制度の説明から政策提言まで5章から構成さ れている。
まず、「外国人研修・技能制度」という一般にあ まり馴染みのない制度の設立について、経緯を理 解するためには、第4章の佐野哲の「日本の労働市
外国人研修生権利ネットワーク編
『外国人研修生時給300円の労働者2
使い捨てを許さない社会へ』明石書店 2009
榎 本 て る 子
4)他企業への転職が認められない。技能実習生 には、職業選択の自由はない。受け入れ企業 の労働環境や雇用条件に問題がある場合でも 他の企業に転職することはできない。黙って 満期を迎えないと保証金を返してもらえない という恐怖心から問題を表面化させない人た ちが多い。
5)管理と束縛
パスポートの取り上げ、通帳、印鑑の取り上 げ、携帯電話所持禁止、電話使用禁止、遠出 の禁止、寮へ監視カメラの設置、生活上の 様々な規則が設けられると人は監禁されてい なくても動けなくなる。その上にいつでも強 制帰国をさせられる可能性があることをちら つかせ、実際に見せしめのように実行する。
研修生・技能実習生の実態は、「多額の補償金や 強制貯金、自由の拘束、強制帰国などの脅しによ っておおむね3年間で帰国することが担保されてい る(厚生労働省)のである。こうして見ると、米 国国務省が指摘したように、まさに「人身売買」
そのものだ。」と川上は結論づけている
山梨事件の被害者である中国人実習生が労働基 準監督署に提出した要望書が紹介されている。そ の中で研修生は自分たちの生活を次のように書い ている。中国上海から山梨県に6名で来日し、T社 で勤務をした。最初縫製の仕事と聞かされていた が実際にはクリーニングの単純労働であった。仕 事を始めて1週間後から残業を要求され、月から金 までは朝8時半から夜10時まで、土曜日は朝8時半 から夜8時まで働かされた。この間の給料は1ヶ月5 万円、残業代は時給300円だった。土曜日の残業代 は支給されずかわりに3年間のお米と生活用品が支 給された。翌年技能実習生となったが、給料は据 え置きの1ヶ月5万円、しかし残業代は時給350円に 昇給した。後に勤務時間は朝7時半から夜12時まで となった。毎年年末になると日本人には支給され
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う継続労働を可能にしていくことになったと述べ ている。
第1章では、この制度が導入された15年を振り返 り、川上園子が、外国人研修・技能実習生の現況 と問題点について言及している。外国人研修生は、
1991年には4万3649人であったが、2007年には10万 2018人となっている。また受け入れ企業は、従業 員1〜19人の小規模企業が全体の38.7%を占めており 小さな規模の企業に集中していることが分かる。
川上は外国人研修生の国籍は2006年に中国が66.7%
(次に多いベトナムは6.2%)と際立っている。産 業・業種別に見ると、縫製業が最も多く(21.1%),
ついで食品製造業(14.7%)、機械器具製造業(8.8%)、 農業(8.0%)と説明している。
又、第2章では、関東、 東海、関西、北陸、中国 各地での人権侵害の事例9件が紹介されている。こ れまで外国人研修生権利ネットワークが扱ってき たケースに以下の特徴が共通して見られることを 川上は指摘している。
1)入管に提出している研修計画に書かれている 座学研修は殆ど実施されていないこと 2)研修生には禁止されている時間外労働や休日
出勤が日常的に行われている。時間外労働に 対する手当ては一切払われていないか、最低 賃金基準をはるかに下回る金額しか支払われ ていない場合が多い。又管理費や積立貯金の 名目で強制的に研修手当てや賃金から差し引 かれている場合が多い。これらは技能実習制 度の中で禁止されている。
3)送り出し機関による来日前の「保証金」契約 がなされている。出国する前の研修生に保証 金を支払わせており、中国では途中帰国した 研修生にはこの保証金を返さないという契約 を結んでいる場合が多い。帰国前の契約は送 り出し国で行われていることであり、確認す ることは非常に難しい。
るボーナスが研修生には支払われず、社員が休んで いる正月休にも研修生は働かされた。(財)国際研 修協力機構(JITCO)が就労と生活状況を調査する ために会社に来た際には、給料も職場環境も虚偽 の報告をした。会社の中に縫製室を作り、製品を 臨時に借りてきてその場をしのいでいた。研修生 の労働時間も偽装しようとしたが、協力しなかっ たので会社との関係は悪化していった。研修生は 結局JITCOの担当者には直接会えず、問題は解決し ないまま放置された。要望書の最後に研修生たち は、労働基準監督署を通して自分たちの正当な利 益を守りたいと訴えT社に正規の報酬を支払わせる ように要求している。
第3章では、労働者が訴訟を起こした事件が4件 紹介されている。裁判は、事件が複雑であればあ るほど長期に渡り、当事者は弁護をする代理人と 打ち合わせを重ねる必要があるが、長期間の滞在 の間生活費を保障するすべがないため、当事者は 訴訟を始めてから帰国せざるを得ない。そのため 弁護士との連絡、打ち合わせ、などのコミュニケ ーションが難しいことが共通してあげられている。
又研修生を最初に募集し送り出した業者が本国に いるため、裁判を起こして大事にした人は、家族 に対するいやがらせや保証金の返金拒否などの被 害をこうむっていることが分かる。訴訟を起こす ことのリスクと難しさが分かる。
第4章では、世界中に自由貿易の加速化と共に移 民労働が日常化している中で日本に特有の外国人 研修・技能実習制度を今後どうしていけばよいのか について、同じような制度を活用していたが廃止 した韓国と、移民労働力の短期ローテーション制 度を導入しているドイツの例を比較しながら検討 を行っている。日本では、1986年以降バブル経済 期の労働者不足を補うために外国人研修制度を活 用するようになった。労働力確保のために研修生 を活用することを制度の拡大解釈を行い続けてき
たが、安定的な労働者の確保をこの制度の活用し 続けることで行うことはもはやできないと結論づ けている。
第5章では、外国人研修制度の見直しに向けて以 下の提言を行っている。
1.研修・技能実習制度全体を把握し、責任を持 つために一元的に対応する政府機関を設置す る
2.外国人研修に関る基本法を制定する
3.研修、技能実習に関して送り出し国政府に対 して運用の改善を図る
4.労働基準監督機関は、技能実習を行っている 企業に対する立ち入り調査や研修生・技能実 習生の事情聴取を実施する
5.研修、技能実習生の相談窓口の設置
6.新たな研修受け入れ先の紹介、未払い賃金の 回収などの権利保護は厚生労働省及び入管当 局が対応するべき
本書は、小林多喜二が描いた戦前・戦中の国策と しての労働者の搾取が現在にいたるまで連綿と続 いていることを告発している。その利益は特権階 級だけが享受しているわけではなく、日本社会全 体が恩恵に預かっているというという意味では、
外国人を直接搾取しているという意識のない私た ちも搾取に加担しているのである。人の人権を侵 害した上に成り立っている繁栄を変えていくため にどうしたらよいかは、同書が示している提言に 明確に描かれている。それは、外国人労働者を日 本社会が必要とするのであるなら、その人たちが 日本に滞在し、労働している間の人権を保障するた めの法的枠組みをつくることが必要であるという ことである。自由貿易の世界となり人が国境を越 えて労働を求めて移り住むことが当たり前となっ て久しいが、日本には未だに外国人労働者の基本 的人権を保障する法律は存在しないのが現状であ る。
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本書を読む人の大半は日本人であることから、
この告発を知った日本人が、恩恵を受けることが 出来ない外国人労働者の人権についてどこまで共 感することができるのかが課題である。自分とは 直接関係のないことがらについては「対岸の火事」
として片付けてしまう日本人の体質を知り尽くし た上で同書は、日本人に対して二つの具体的な提 案を行っている。一つは、現実を正確に知る努力 をすること。巻末にはかなりのページを割いて外 国人研修・技能実習制度関連法令集が掲載されて いる。法律を細かく見ていくと日本人に対しては 当然適応される保障が外国人に対しては適応され ていない現実を知ることになる。二つ目には、こ のような状況を何とか変えたいと思う人たちが行 動できる先として、全国で外国人研修生権利の擁 護に取り組んでいる市民団体、労働組合の連絡先 を紹介している。社会の枠組みを変えていくため の営みは、考えているだけでは実現しない。同じ 思いを持っている人たちが声を合わせて立ち向か うときに変化はおきる。蟹工船の労働者が自分た ちを非人間的に搾取する権力者に立ち向かったよ うに。
参考文献
小林多喜二(1953)『蟹工船・党生活者』、新潮社