• 検索結果がありません。

再生型起業家の事業創造とマネジメント-香川大学学術情報リポジトリ

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "再生型起業家の事業創造とマネジメント-香川大学学術情報リポジトリ"

Copied!
39
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

香 川 大 学 経 済 論 議 第73巻 第 1号 2000年 6月 109-147

再生型起業家の事業創造とマネジメント

1.待望される起業家社会

原 因

佐 藤 茂 幸

日本の経済の再生が叫ばれている。制度疲労した社会システムに対する構造 的改革の必要性が主張されているのである。これら変革の担い手として,ベン チャー企業や起業家たちが重要なプレイヤーとして注目されてきた。しかし, 一部のベンチャー企業の進境の著しさが見られるものの,絶対量としては決し て多くはなく,総体的な力不足を感じる。したがって,多くの起業家が輩出さ れる起業家社会への転換が必要と考える。 ここではこうしたことを踏まえて,起業に関する経営環境上の問題を整理す ることからはじめる。そして,期待される起業家社会を提唱し,その産業構造 システムの概念化を試みる。さらには,起業家社会の主役となる存在として再 生型起業の存在を明示し,これによる事業,人生,社会の再生の可能性を整理 している。 L1 起業環境の問題 (1) 産業の新陳代謝が失われている 近年,会社の設立の件数と消滅の件数が減少している。日本の事業所に関す る開業率と廃業率の推移をみると,それぞれがともに低下傾向にある(図表

1-1

参照)。また,廃業率が開業率を上回るいわゆる逆転現象も

f

1

9

8

9

-

1

9

9

1

年」 の調査から3回連続となる。こうしたデータは日本の産業の新陳代謝が減少し ていることを物語っている。これに対して,米国経済は活況を呈しており,会 社の多産多死といった産業の新陳代謝がこれを支えていると考えられる。この

(2)

図表 1ー 1 日本の開廃業率の推移(非一次産業) 日本 78~81 年 81-~86 年 86~89 年 89--'91年 91~94 年 94~96 年 開業率 61% 4.7% 4.2% 4.1% 4..6% 3.7% 廃業率 3..8% 4..0% 3..6% 4.7% 4.7% 3..9% 純増率 23% 07% 0.6% -0.6% -01% -021% 出所 r平成11年版中小企業白書J(中小企業庁)より加工 図表1-2 米国の開廃業率の推移 1990年 1991年 1992年 1993年 1994年 1995年 開業率 138% 12.8% 13..0% 135% 13..8% 13.7% 廃業率 125% 12.0% 120% 1L6% 114% 12.6% 純増率 13% 0.8% LO% 19% 24% 11% 出 所 平 成11年版中小企業白書J (中小企業庁)より加工 図表1-3 日本の個人企業と会社の開廃業率の推移 65~68 年 68-71年 71-86年 86~91 年 91~~96 年 個人・開業率 62% 5.2% 43% 3.2% 22% 個人・廃業率 125% 3.8% 4.6% 4.9% 35% 会社・開業率 4.7% 54% 44% 45% 3.0% 会社・純摺率 26% 1:0% 2.0% 10% L6% 出 所 平 成11年版中小企業白書J(中小企業庁)より加工 ことは米国の開業率と廃業率が高く,また常に開業率が廃業率を上回っている ことからうかがえる(図表

1-2

参照)。 さらに,日本の開廃業率を会社と個人企業の内訳でみてみよう(図表

1-3

参照)。会在の開業率は廃業率を上回っているが,一方,個人企業においては開 業率が一貫して低下し, 1981~1986 年以降廃業率が開業率を上回っている。こ のことから,開廃業率の逆転現象は,個人企業の開業率の低下にあることがわ

(3)

111 再生型起業家の事業創造とマネジメント -111-かる。したがって,停滞する日本経済の一因は,個人レベルでの起業の少なさ にあると想像できょう。

1

9

9

0

年代の半ばから公的なベンチャー支援が実施されているものの,開業率 の増加には結びついていない。つまり,これらの支援がベンチャーブームを演 出してはいるが,起業家自体の数の増加につながっていないのである。もちろ ん,ベンチャー支援の効果が直ちに現れると考えるのは早計であろう。しかし, ベンチャー支援の内容は,資金的な助成に偏っており,起業家の意識を高めた り,起業のリスクをへッジするような社会的制度づくりの面では未整備である と考える。 (2) 労働市場が収縮している 日本の産業システムを支えてきた終身雇用制,年功序列制といった日本的雇 用慣行の崩壊が進んでいる。多くの日本企業は,国際レベルでの競争力の低迷 するなかで,競争力回復の手段として日本的雇用慣行にメスを入れはじめてい る。たとえば,人材の新規採用を控えたり中高年層のリストラを実施するなど, 大企業を中心に雇用調整が進行中である。そして,近年の日本の失業率は5.0% 弱と,かつてない高い水準を記録じているのである。これらを労働者の観点か らまとめると次のようなことがいえる。 ① リストラなど雇用調整が進み,労働市場としての大企業の求心力が急速 に弱まっている ② 終身雇用制を前提とした従来型人生設計はもはやできないという疑念が 広まっている ③ 起業が第3の就職方法として有効な働き方となる 上記の第3の就職方法とは,第lが長期の雇用契約に基づく会社への就職, 第

2

がアルバイトや派遣社員などによる緩やかな雇用形態による就業とする と,起業が第3に位置することを意味する。これからは起業家になることが就 業の主要な一つになり,これによる労働市場の拡大が期待されるのである。

(4)

(

3

)

地域社会における問題解決のイノベーションが求められている

2

1

世紀を目前に,大きな社会の変革のうねりが押し寄せている。たとえば, 社会の変革要素として,情報化技術の発達,グローパリゼーション,少子高齢 化,地球環境の問題があげられるだろう。これらは,我々のライフスタイルを 変化させるとともに,新たな問題を突きつけている。一人一人の生活のまわり を見わたすと,ごみ問題,環境ホルモンの問題,食品に関する安全性の問題, 高齢者介護の問題,子供の教育の問題など,地域生活での不安要因が高まって いる。しかも,これら不安要因は,地域によって事情の異なった問題として発 生している。したがって,それぞれの地域社会において,健康,教育,安全, 環境,文化に関連した生活のトータノレソリューションが求められてくるだろう。 こうした地域社会の要請に対して,従来型の企業や行政ではすべてをカバー できるとは言い難い。そこに,地域の問題を解決する事業ニーズが生まれ,小 規模でも地域に密着して事業を起こす起業家が求められる。こうした地域密着 型の起業家を市民起業家とよび,地域社会における問題解決のイノベーション の担い手として期待されるのである。市民起業家は,利益追求型の事業拡大を 第一義とせず,地域に根付く身の丈にあった事業スタイルを志向する。 (4) 新しいワークスタイルの自立した個人が台頭していく 企業や行政に依存することなし自分の責任で自分が決めていく「個人の確 立J の時代が到来している。個人の確立を目指すとき,起業家になることが有 効な手段になるだろう。しかし,現状の社会の枠組みでは,それを促進させる までには至っていない。 個人の確立の一つに,社会の高度化,情報化に伴う専門性の高い知識ワーカー の台頭があげられる。彼らが抱く忠誠心は組織に対するものではなく,自分の 知識に対してであって自立性の高い存在である。したがって,知識ワーカーは 一つの組織に固執せず,自分の能力を活かせるフィールドを転々とする。自立 性の高い知識ワーカーほど,仕事を自己実現の手段として強く感じるに違いな い。つまり,自分自身の人生観から自分なりのワークスタイルを見出していこ

(5)

113 再生型起業家の事業創造とマネジメント -113 うとするのである。そして,自分にあったワークスタイルを創造しようとする とき,起業は有効な手段となる。このように,自立した個人が自己実現する場 として,起業による機会の提供やその環境作りが社会に求められてくる。 (5) ハイリスク型ベンチャー偏重の限界がみえてきた ベンチャーとは,あえてリスクを取り創造的な事業分野に挑戦していく人や 企業のことである。高い成長意欲と革新性をもって事業を展開する。そして, 大きなリスクの引き替えに多大なリターンをねらうのである。近年,日本でも いくつかのベンチャー企業が急成長を果たしている。しかし,成功しているベ ンチャーはけっして多くはなく,日本の産業構造や雇用システムを変革するに は力不足であるとの指摘がある。日本のベンチャー企業の量的に不足する原因 には,次の2つのことが考えられる。 1つは,ベンチャー企業における経営管理論が定着していないことである。 このことは,ベンチャー企業における事業環境がダイナミックに変化すること に一因する。たとえば,事業を起こすときの経営手法と,事業運営を定着させ るときの経営手法は異なるであろう。つまり,事業のスタートアップ期,急成 長期,安定期,株式公開期など,成長のステージ毎に事業の舵取りを変化させ る動態的マネジメントという考え方が必要となる。

2

つめは,ベンチャーを論じるとき革新性の高いハイリスク型の事業スタイ ルに限定してしまう現状認識があげられる。これからは,ハイリスク型ベン チャーに限定しない起業家が主役となる社会システムが必要と考える。つまり, 起業対象にはミドルリスク・ミドルリターン,ローリスク・ローリターンのビ ジネスが存在することを積極的に受け入れるのである。こうした認識が広まれ ば起業家の絶対数の増加につながっていくであろう。ベンチャーにおいてロー リスクの起業領域にまで,すそ野を広げる必要性をまとめると次のようになる。 ① ミドルリスク型,ローリスク型の起業家が重用される社会鳳土を形成し, さらにこれらの中からハイリスク型の革新的なビジネスが生まれてくると 考える

(6)

② ハイリスク型のベンチャーが革新的な事業で日本の産業をリードする一 方で, ミドノレリスク,ローリスク型のベンチャーがそれを支える形で,日 本の雇用を確保する ③ ジュニアからシニア,男女の性別,地域,学歴を問わない広範な人材に わたり起業家精神が発揮される 本編において上記のようにハイリスク型ベンチャーに限定しない多様な起業 家が生まれる社会を起業家社会と呼ぶことにする。これを次項でさらに解説し ていこう。 L2 起業家社会の産業構造システム 上述してきた社会環境の変化は,本格的な起業家社会を求めている。そこで, 起業家社会を図表

1-4

によって概念化を試みた。これまでの日本の産業構造 は,大企業を頂点にしたいわゆる下請け分業構造を特徴としていた。多くの零 細・中小企業が少数の大企業を支えていたのである。大企業と下請け中小企業 の安定的な系列関係のもと,大企業が先導する形で良質廉価の製品を大量に生 産する経営努力を行ってきた。

1

9

8

0

年代までの日本の経済的発展は,大規模な 組織力や系列の力がその源泉であったといえよう。 図表1-4 起業家社会の産業システム 従来型産業構造 起業家社会による産業構造

¥ 反 転

、、

, ,

e

(7)

115 再生型起業家の事業創造とマネジメント 115-しかし,日本企業の国際的な競争力の低下や,地域社会の変化するニーズの 対応の遅れなど,大企業組織の市場に対する革新性が薄れてきている。したがっ てこれからは,個人が主役となる社会が重要になるのではないだろうか。個人 レペノレの創造性が,事業における革新性の源泉となるのである。これには組織 に理没することなしいかに人間の潜在能力や個性を活かすかが社会に求めら れてくる。個人が主役となる社会とは,多くの個人が活き活きとし事業を起こ す起業家社会に他ならない。 再び図表

1-4

を見てもらいたい。起業家社会では,従来型の大企業を頂点 にしたピラミッド構造は逆転する。大企業は,行政や教育機関とともに最下層 に位置し,起業家を支援するプラットフォームの性格を帯びてくる。つまり, 大企業が,起業家予備軍の養成の場であったり,起業家を支援する存在になる のである。そして,個人の能力ややる気,自立性を重視する人事システムがな いと,大企業といえども生き残りが困難になる。 こうしたプラットフォームに支えられる形で,ミドルリスク型,ローリスク 型の起業家が数多く輩出される。起業家社会の要諦はこの中間層にある。組織 からリストラされた人は,今まで組織の中で押し込められていた能力を開花さ せる。自らの個性がありすぎるが故に就職が決まらなかった青年は,自らが事 業を起こす。社会的な呪縛の中にある女性でも,大胆に仕事が行える。自分の 趣味やちょっとしたヒント等を活かして,ゆっくり楽しむ事業を志向する。そ うした人々が自分のワークスタイルを見出し,結果,日本の社会や経済,生活 に柔軟性と創造性をもたらすのである。 さらに,頂点には,革新性の高いハイリスク型のベンチャー企業が存在し, 付加価値創造性の高い事業で日本の産業をリードする。こうした革新性の高い ベンチャー企業は,中間層のミドルリスク型の起業家層から発露する。この層 での経験から起業家精神が醸成され,イノベーティブな事業シーズを見出した とき,適正なリスクをとって一気に急成長を果たし,ベンチャー企業へと仲間 入りするのである。 以上のように起業家社会とは,次のような特徴をもった社会であると整理で

(8)

きる。 ① 就職して組織に所属するより,起業の有効性の方が高まる ② 個人の自立性に根ざした数多くの起業家が,年齢,性別,地域に偏らず 輩出されている ③大企業を中心とする会社群は,起業家を支援したり養成したりするプ ラットフォームの性格を示すようになる ④ ミドルリスク型,ローリスク型で起業する者が多く誕生し,組織に縛ら れない自立したワークスタイルを形成していく ⑤ ミドノレリスク型の起業群の中からハイリスク型のベンチャー企業が生ま れ,日本の産業の革新を行うリーダーとなる ⑥ 事業目的が明確になったタスク型企業が生まれる。タスク型企業は,事 業に一定の成果が出た段階でキャッシングアウトされるなど,存続期聞が 意図的に限定される タスク型企業とは,明確なる事業目的のもと,プロジェクト的に設立する企 業のことである。多様な企業や人がタスク型企業に参画し,事業の目的が達成 されたら,会社は解散や事業売却が行われる。起業家社会において,産業構造 に柔軟性をもたせるため非常に重要な機能を担う存在となるだろう。タスク型 企業については,後述にて説明する。 1 ..3 再生型起業モデルの概観 (1) 再生のネガティブパワー 夢のある新しいものを作り上げようとするとき,たいていの人は前向きで積 極的な気持ちになる。現状が豊かな環境にあり,ゆとりのある自由な発想から, 創造的なものが生まれてくるのである。このような環境のなかで人も組織も活 き活きとしてくる。これら活力あるエネルギーをポジティブパワーと呼ぶこと ができるだろう。 その一方で,人や組織はネガティフゃなパヴーによっても活き活きしてくる。 差し迫った状況のなか,自の色を変えて知恵、と体力を振り絞り危機的状況から

(9)

117 再生型起業家の事業創造とマネジメント -117-ー 生還を果たす。敗者となることで失った自信を取り戻すため,改めて自己のあ り方を再考していく。このようなどん底から這い上がる再生のときに働く力が ネガティプパワーなのである。 起業家社会においては,創造の源泉であるポジティブなパワーと,再生の源 泉となるネガティフ、なパワーがバランスよく発揮される必要があると考える。 とくに,起業家社会では再生の概念が重要となる。再生とはゼ、ロからの積み上 げではなく,意義の薄れた既成のものを蘇生することである。再生はこれまで 築いてきたものを根本から否定するのではない。スクラップ&ビノレドによって, リニューアルを実現していこうとする発想である。 さらに,再生を日本の現状の問題から整理してみよう。日本は,戦後の焼け 野原から欧米をキャッチアップしながら,経済大国の地位を築いてきた。欧米 というお手本があったにせよ,ゼ、ロから今の豊かさを築いてきたのである。し かし,今の日本が抱える経済の問題は,大量生産・大量消費型の右肩上がりの 経済成長がもはや立ち行かない構造的な問題である。たとえば,限りある資源 の問題,地球環境の問題などから大量消費に偏った成長が限界にきていること があげられるだろう。工業製品など有形財のリサイクルや,サービスなど無形 財の拡張と反復的提供によって経済システムの循環性が取り沙汰されている。 また,生活者も豊かさを物質的な享受だけでは充足しなくなっている。むしろ, 一人一人が社会に対する閉塞感を抱きながら,生きる目的,生き甲斐を求めて 街

f

皇を始めているのではないだろうか。人は人生の価値を再発見できたならば, 活き活きと行動を始めるのである。 このように,閉塞的な経済や個人のネガティプなパワーが再生に向かったと き,持続的成長を可能にする循環的な社会システムが完成する。そして,再生 のパワーを発揮するための手段として,起業が最も有効となる。つまり,起業 家社会を突き詰めて考えると,起業家の再生パワーによる持続的な成長を実現 する社会といえよう。そして,本編で主張していくことの再生に立脚した起業 家社会,つまり再生型起業家の重要性が浮彫りとなるのである。

(10)

(2) 再生型起業家モデル 再生型起業家のメカニズムをもう少し明らかにしてみよう。再生型起業家と は,複数の専門家,企業組織,システム,顧客,そして自分自身をコーディネー 卜して,事業価値を再構築していく主体者である。再生という言葉は,硬直化 してしまった組織の限界から脱却し,事業資源を循環させることで従来型マネ ジメントを乗り越える新しい経営手法を示唆している。さらに,起業家という 表現は,高い志のもと一定リスクを取りながらも,閉塞する社会を変革したり, 労働市場を創出するなど,新しい事業価値を切り聞いていくイメージである。 こうしたことを踏まえて,図表

1-5

で示すような再生型起業家モデノレの体 系的整理を加えていく。ここでは,再生型起業家を,再利用可能な社会資源を インプットした3つの価値を創造する主体者であるとした。社会資源には,地 域の人的資源,企業や行政の組織体,地域施設など物的資源,地域の文化・芸 能,地域社会のニーズなど,有形・無形に問わず多種多様なものを含んでいる。 再生型起業システムはこうした社会資源をコーディネートし,事業価値,人生 価値,社会形成の価値の再生を実現する。図表

1-5

に照らし合わせ,産出さ れる3つの価値についてそれぞれ説明をしていこう。 事業の再生とは,起業家により企業活動の活性化を促すことである。有効に, 図表1-5 再生型起業家モデル

G

0高齢者 。主婦 O身障者 0地域生活者

再生型起業家

の ど ど な な 報 許 情 特 境 産 環 遣 、 マ 用 全一利 安テ未源 、 活 、 資 康生金業 健 の 資 事

〈 事 業 価 値 の 再 生 〉 ベ 社 会 形 成 酬 の 融 ド ー 〈 人 生 価 値 の 再 生 〉

(11)

119 再生型起業家の事業創造とマネジメント 119-機能していない組織,土地建物といった不動産,資金,事業のノウハウなどの 経営資源を,起業家が発揮する再生パワーによって再構築する。たとえば,第 二の創業期を実現した二世経営者などは,再生型起業家といえるだろう。また, インターネットによって従来の商習慣に革新をもたらし,業界の再編を促すよ うなネットベンチャーも,この種の起業家に属すると考えられる。このように, 何らかの革新的な経営手法をもって,既存の祉会資源から新しい社会サービス に変換していくのである。 人生の再生とは,起業によって一人一人が新しいワークスタイルを見出して いくことである。たとえば,地域には雇用されず、に豊富な人的資源が眠ってい る。一般の企業では雇用されにくい主婦や中高年層は,働きたくても雇用が確 保されずに,地域社会に埋没してしまっている。こうした人々が,地域に密着 した自分の身の丈レベルの事業でも起こすことができたら,人生の再生につな がるであろう。大きな報酬を得ずとも,社会性を帯びた仕事に携わることでそ こに生きがいをみつけ,自己実現を果たすことも少なくない。また,一度事業 に失敗し,再起を賭けて事業を行う人も再生型起業家の典型といえる。このよ うに,再生型起業には,社会の眠れる人的資源を活力あるヒューマンパワーへ と変換する機能を有するのである。 社会の再生には,地域の活性化や新しいまちづくり,文化や芸術の再興といっ たコミコニティの再形成があげられる。再生型起業が軸になり,地域社会に属 する企業や行政,教育機関,

NPO

などの非営利団体,専門家,住民がコーディ ネートされ,新しい社会が形成されるのである。たとえば,教育体制や法制度, 社会の風土に対して,起業家を重視する環境を整えていったとき,その結果が 社会の再生につながっていく。 以降の章においては,再生型起業による事業再生,人生再生,社会再生につ いて詳細に論述していく。

2

.

事業再生のマネジメント

価値創出の力が低下した事業資源をリサイクlレするのが事業の再生である。

(12)

再生型起業家は,こうした有形無形の事業資源を利用し,有効な経営手法によっ て事業価値を再度高めていく。 この意では,事業再生の経営的メカニズムを整理したうえで,知識資源のス トックを重視する異種深化と,外部資源のフローを統制する外部連携といった, 2つの事業再生のアプローチを提示する。そして,具体的には事業生成を実現 する経営手法として,インターネットビジネス,フランチャイズ,タスク型企 業を解説する。 2..1 事業再生のメカニスゃム 日本の企業,とくに従来型の大企業が苦境に立たされている。その原因の一 つに,過去に成功をもたらした企業システムや行動様式に依存しすぎている現 状があげられるだろう。また,利用価値が弱まった経営資源の肥大化もその要 因と考えられる。このような過去の成功体験やしがらみが,新しいものを受け 入れる許容度を低下させる。つまり,これまでの人材,物的資産,ノウハウの ストックがかえって事業組織を停滞させるジレンマが生じている。 また,成長から一転して失速していくベンチャー企業も多い。ベンチャー企 業は,劇的に変化する経営環境に対応するため,次から次へと新しいものを生 み出す。これは,必要な資源は随時アウトソーシングなどによっでまかない, 機動性を保つため不必要になった資源は切り捨てていく,フロー重視の経営と いえるだろう。しかし,そこで獲得するフロー的な資源は一時的なものであり, 将来に向けて基盤となるストック的資源を蓄積しなければ,経営の基盤を安定 化できない。したがって,ベンチャー企業の失敗の一つは,不測の事態が重なっ てしまった場合,ノウハウが蓄積されていないことからそれをリカバリーでき ないところにある。 こうした現象から考察すると,ストックとフローのバランスを動態的に維持 していくことに事業再生のヒントがみえてくる。そこで,図表 2- 1において, ストックとフローをスパイラルに向上させ,事業再生を図ることをイメージし てみた。事業を再生していくためには,力の薄れた事業資源を何らかの形で処

(13)

121 再生型起業家の事業創造とマネジメント 121ー 図表2ー 1 事業再生のメカニズム スパイラル的な向上

フロー

理していくことが必要となる。たとえば,ストック化では,外部から得た事業 資源を組織内部に浸透させ資源価値の高度化を図っていく。フロー化では,内 部の事業資源を外部に発進し別の活用意義を見出す。このような,事業再生の メカニズムでは,大企業の強みとベンチャー企業の強みを兼ね備えた経営を意 図することになる。なお,事業再生メカニズムは,異種深化アプローチと外部 連携アプローチの2つに分類できる。詳細について後述する。 再生型起業家はこうした事業再生を実践する。そして,ビジネスに次のよう な新しいルールを呼び込むことになる。 ① 一人当たりの物的資産規模を最大にする経営ではなく,一人当たりの知 的資産規模を最大にするビジネスが重要となる ② 事業資源の大量確保・大量廃棄から,事業資源の再利用やリサイクルに よる循環的な利用が求められてくる ③企業と企業の関係において,市場シェアを取り合う

Win-Lose

の競争関 係から,ニッチ市場を創造する

Win-Win

の協創関係が重要になってくる

(14)

④ 成功要素が凝縮されたベストブラックティス事業を拡散することによっ て収穫逓増的な成長スタイJレを志向する ⑤社会資産の蓄積装置としてのブランドの重要性が高まる このようなビジネスのルールを定着させるとともに,事業再生を実践する要 素として,インターネット,プランチャイズ,タスク型企業が考えられ,以降 それぞれ解説していこう。 2わ2 インターネットの事業再生 (1) インターネットの衝撃 インターネットを使ったビジネスが百花糠乱の様相を呈している。そして, インターネットの衝撃が産業界に革命をもたらす。革命は,従来の秩序の破壊 と新しい秩序の形成をうながす。インターネットビジネスで起業するいわゆる ネットベンチャーは,こうした革命の当事者として注目されている。言い換え れば,インターネットは再生型起業の重要な戦略ツーJレとなるのである。 インターネットによる事業再生は次の 4つのパワーによって引き起こされる と考える(図表2-2)。第

1

には仮想現実の領域の出現である。ネットワーク 上に現実とは異なるバーチャノレな世界を創り出すことによって,現実世界では 制約となる時間や距離の障害を克服する。これには,たとえばEC(電子商取引) の普及があげられる。ECとは,ネットワークを通じて商品やサービスの売買を することで,インターネット通販,インターネット取引所での取引がこれに該 当する。 ECは世界中の企業や人を,国境や地域の壁を超えて瞬時に結び付げ る。ここから新しいビジネスが日々生まれている。その一方で既存のビジネス の競争力を喪失させてしまうことも少なくない。そこで,インターネットで活 躍する起業家の中には,現実世界の既存事業を仮想空間で再構築することで, 事業創造を実現している。 第

2

は,加速するネットワーク社会の進展における境界の融合化である。日 本の産業は下請け分業構造に象徴されるように,縦割り構造,ピラミツド型の 階層構造の特徴を示していた。また,会社内においても幾重もの組織階層が出

(15)

123 再生型起業家の事業創造とマネジメント 図表2- 2

1.仮想現実世界

の出現 インターネットの衝撃

3。価値編集による

知識創出

4

.

.

顧客との関係性

の増大 -123-来上がっていた。インターネットや電子メールの発達は,これら組織の壁を崩 壊する。組織の壁を超えてネットワークが張り巡らされることで,従来型組織 の枠組みの意味が薄れてくるのである。このように,インターネットは境界線 の再定義を行い,組織の流動化を促す。 第3は,価値創出の可能性の拡大である。インターネットは,情報や知識の 収集・交流・統合・組み替えによって,価値創造の可能性を高める。ネットワー クの発達は,流通する情報や知識の量を拡大すると同時に,デジタル情報のモ ジュールとしての蓄積を可能とする。こうした価値の基本単位となるモジュー ルを自在に組み合わせることで,新しい価値を創出するのである。したがって, 再生型起業家は,既存の事業資源をインターネットによって再構築をする。そ れは,ネットワークにモジューlレを交流させ,多彩に組み合わせる価値編集の 仕掛けによって実現するのである。 第 4には,産業におけるパワー構造の逆転である。インターネットは,生産 者優位,供給者主導の時代に完全なるピリオドを打ち,顧客優位,消費者主導 の時代を不動のものにした。経済活動のパワー源泉が顧客や消費者にシフトし ているのである。この要因として,インターネットで提供される商品やサービ

(16)

スが,顧客の選択性を拡大させたことにある。逆ネットオークションはその最 たるものであろう。ネットベンチャーは,顧客にダイレクトに接するとともに, 顧客との関係性を強くもつことに関心が高い。 このようにインターネットビジネスは,既存の事業に大きな地殻変動を起こ す。ネットベンチャーの台頭によって,消滅していく既存の事業や業種もある だろう。その一方で,新しい価値を付加することで再生する事業分野も出てく るはずである。つまり,インターネットを活用する再生型起業家は,事業再生 の一翼を担うといえる。

(

2

)

異種深化の事業再生のメカニズム インターネットの 4つのパワーは,事業再生における異種深化アプローチを 実現する。異種深化アプローチとは,外部から異質な事業資源を取り入れ,ス トックとして価値資産化していくことである。とくに,知識資産を高めるため には,ナレッジマネジメントなどにこのアプローチが有効と考えられる。前述 の事業再生メカニズムの図表2- 1を応用した図表 2- 3によって確認してい こう。 まず,インターネットが実現するバーチャルな世界へのアクセスは,これま で入手できなかった情報や知識の収集を可能とする。有効な情報をストック化 していくことで,知識資産の量を大きくするのである(図中①)。第

2

には,イ ンターネットの境界融合によって事業資源の流動化を促進させる。たとえば, 蓄積した知識資源は,組織の壁を超えてだれでも活用できるようにフロー化さ せる(図中②)。ある人にとって無用な資源であっても,別の人にとっては価値 あるものかも知れない。知識資源の流動化によって,利用機会を増大させる。 第

3

には,知識資源の高度化である。流動性の高まった知識資源は,他の異質 (1) 逆ネットオークション:ネット上で消費者の指し値で価格を決定する仕組み。通常の ネットオークションは,ネット上の入札によって,買い手iを競わせることで売り手が最終 的に価格を決定するが,逆ネットオークションでは,消費者が値段を決める。航空券やホ テル予約を手がける米国のプライス・ライン・ドット・コムがこのビジネスモデルを採用 している。

(17)

l i I 寸 B I l l -125 再生型起業家の事業創造とマネジメント -125-図表2- 3 インターネットによる異種深化アブローチ

ストック

アプローチ ③知識資源の高度化 ①仮想現実世界 へのアクセス

フロー

な資源と交流・統合・組み合わせを促進させ,新たな価値へと再生される。こ うして生まれた新たな知識資源は,さらに組織内部にストック化される(図中 ③)。第

4

には,インターネットによる知識資産の顧客へのダイレクトな提供で ある。顧客を起点においた経営が求められるなか,顧客へ蓄積した知識資源を 流動化させることでビジネスチャンスを高めていくのである(図中④)。 このようにインターネットは,異種深化アプローチによって知識資源の再生 を進めていく。また,インターネットは異種深化のみならず,外部連携アプロー チによる事業再生にも強力な再生ツールとなりうる。自社に強力なコアスキル がある場合,外部組織とのネットワーク化によって,事業領域を拡充させてい くのである。外部連携アプローチの解説は,次で取り上げるフランチャイズに よって確認することにしよう。

(18)

2 3 フランチャイズによる事業再生 (1) ブランチャイズとは プランチャイズとは,フランチャイズ本部(フランチャイザー)が契約によっ て,直営庖で開発した成功のためのノウハウを加盟庖(フランチャイジー)に 提供する多庖舗経営方式のことである。ブランチャイズで代表的なものにコン ビニエンスストアがあげられるが,それ以外にも近年さまざまの業態が出現し ている。外食レストラン,クリーニング!吉,学習塾,ビデオレンタノレ,中古車 買い取り,不動産・工務庖など,多種多様である。

1

9

9

8

年度の日本フランチャイズチェーン協会の調べによれば,フランチャイ ズ・ビジネスの総売上高は16兆円に達している。これは, 10年前と比較すると 2倍以上の伸びであり,急速に事業領域が拡大している。こうしてみるとフラ ンチャイズには,既存の業界を再生ずるパワーがあると想定できる。つまり, フランチャイズは,再生型起業家にとって,強力な経営手法になると思われる。 ここで,フランチャイズの特徴を次のように整理しておこう。 ① フランチャイズ本部と加盟庖は契約関係で結ぼれており,互いに権利と 義務を有する ② フランチャイズ本部は自分で開発した事業のノウハウをフランチャイ ズ・パッケージとして加盟庖に付与する ③ 加盟屈は成功実績のある事業の運営を行う権利を得るとともに,その対 価として加盟金やロイヤリティーなどをフランチャイズ本部に支払う ④本部は,加盟者が事業を成功できるように,継続的な教育,指導,支援 を行う ⑤本部と加盟者は,資本関係のない独立した経営体であるが,事業につい ては統一的なイメージで運営を行う

(

2

)

外部連携の事業再生のメカニズム フランチャイズは,先の事業再生のメカニズムで考えると,外部連携的なア プローチである。外部連携アプローチでは,内部で蓄積した事業資源をフロー

(19)

127 再生型起業家の事業創造とマネジメント -127ー 化することで外部との連携を高めていく。そして,外部連携は内部資源の高度 化を促し,事業再生を実現する。これを,フランチャイズを例にとって整理し てみよう(図表2-4参照)。 図表2-4 フランチャイズによる外部連携アブローチ

ストック

FC

パッケー ジの確定 ¥」一一一一

フロー

まず,フランチャイズ本部は自ら構想する事業を直営庖によって実践する。 このとき,市場に打って出るということから,事業資源のフロー的行動といえ るだろう(図中①)。そして,直営庄が一定の成果を収めたら,その事業ノウハ ウをフランチャイズ・パッケージとして,事業資源、のストック化を図る(図中 ②)。このとき,フランチャイズのイメージを統一するためのブランドを設定す る。さらに,完成したフランチャイズ・パッケージによって,複数の加盟庖と の契約を結び事業を拡大していく。つまり,フランチャイズ・パッケージをフ ロー化することで,外部との連携を一気に拡充するのである(図中③)。 やがて,加盟庖に付与しているフランチャイズ・パッケージは,プラッシユ アップを図り高度化を進める必要がでてくる。また,商標などのブランドに, 加盟庖やその顧客の事業に対する認知度を蓄積していく工夫も求められてくる

(20)

だろう。あるいは,新業態の開発も検討する段階にあるかも知れない。こうし たことは,拡散した加盟庖ネットワークからの事業ノウハウを本部が吸収,蓄 積し,新しい事業を創出するための源泉となる(図中④)。このようにフランチャ イズは,蓄積した事業ノウハウを絶えず外部に発信することで,外部との連携 を志向する。そして,外部との連携の中から,外部の事業資源を吸収するので ある。 本部からみたフランチャイズによる事業再生は市場の再生のウエートが高い と考えられる。酒屋やたばこ屋など零細屈がコンビニエンスストアに置き代 わっていく様は,その象徴といえるだろう。その一方で,加盟者からみたフラ ンチャイズは,加盟者そのものの再生につながっていく。現在,余剰人員,余 剰資金などだぶ、ついた事業資源を抱えている企業は少なくない。これら事業資 源を活用するためにフランチャイズに加盟をするケースが増えているという。 それと同時に,比較的容易に新規事業の展開も実現することになる。さらに, 複数のフランチャイズ本部と加盟庖契約を結ぶ、メガ・フランチャイジーとして, 積極的な多庖舗展開により急成長を実現している企業もある。ここでは説明を 省くが,こうした加盟屈にとっては,先の事業再生メカニズムにおける異種深 化型アプローチに該当する。 以上から,フランチャイズは再生型起業を実践する有力な経営ツールといえ るだろう。したがって,フランチャイズとは単に契約書を作成して加盟庄を集 めるだけのものではない。企業や市場にとって,その体質を変え,事業の再生 を加速させる有効なシステムなのである。しかし,フランチャイズ・ビジネス の健全な発展という点では課題が少なくない。これは,フランチャイズに関連 する人や企業の正しいシステムの不理解から生ずると思われる。今後は,フラ ンチャイズ本部などを客観的に評価する第三者機関などの登場も望まれるであ ろう。 2,,4 タスク型企業による事業再生 タスク型企業とは,明確なる事業目的のもと会社組織の枠を超えてプロジェ

(21)

129 再生型起業家の事業創造とマネジメント 一129 クト的な会社を設立することである。多様な企業や人がタスク型企業に参画し, 事業の目的が達成されたら,会社は解散,事業売却が行われる(前述の図表

1-4

)。タスク型企業は,インターネットを活用したバーチャルカンパニーによっ て実現されることもある。 タスク型企業の出現は,産業における事業の循環性を高めることになり,そ の特徴を次にまとめる。 ①起業時点からヱグジットプランが練られており,キャッシングアウトを ゴールにしている。 ② 明確となった事業ビジョンのもと,組織的な枠組みを超えた経営チーム をもって運営される ③ 事業のプロセスに応じてマネジメントする経営の専門家を変化させる ④ 事業組織としての永続的存続(ゴーイングコンサーン)を前提にしない こうした特徴を持つタスク型企業は,いわば事業の再生システムを構築する といえる。上記特徴の解説も兼ねて再生のプロセスを簡単に説明してみよう。 まず,明確な事業ビジョンをもった志の高い起業家によって,事業の検討が開 始される。事業の立ち上げにあたっては,多彩な会社や人から,資金的,人的, 技術的,営業的な参画を受け入れ,タスクフォースが結成される。タスク型企 業の形式は,制度的な会社を設立しでもバーチャJレカンパニーとして実態のな い存在でも,その組織形態は問わない。 そして,事業の成長プロセスに応じて,経営の舵取りを行うリーダーや参画 する経営チームも変化させていく。エグジットプランに基づき,一定の事業規 模や運営の安定性や事業ノウハウの取得などが確保できた段階で,組織や事業 の営業権を大企業などへキャッシングアウトを行う。キャッシングアウトとは, 株式公開や

M & A

によって事業を売却し,大きな売却利益を獲得することで ある。売却利益は,起業家の報酬となるばかりでなく,次のアイデアを事業化 するための資金に使われる。 このように考えると,タスク型企業は

2

つのことを予感させる。

1

つは,特 定の事業が,複数の組織や人の手を渡りあっていくことで循環的な進化をとげ

(22)

ていく姿である。事業が特定の会社や組織により縛られるのではなしその都 度変わる適当な組織や人によって再生が繰り返されるのである。 2つ目は,創業を何度も繰り返す起業家が誕生することである。創業前の事 業シーズは,個人が暖めているアイデアによることが多い。革新的な事業シー ズは,起業家個人のセンスや才能,経験によって生まれるのである。こうした 起業家は,事業が軌道に乗ったところで事業の運営を他の会社に売却する。こ れによって,次の事業化の構想に時間を割くことができる。したがって,特定 の起業家は創業を繰り返しながらアイデアを次々に打ち出すことが可能にな る。このように,事業を立ち上げることに特化した起業家としての才能を自分 で再資源化していくのである。 以上のようなタスク型企業の存在や活動は,現段階では限られているだろう。 しかし,起業家社会において産業の柔軟性と活性化を維持し事業の再生を進め ていくために,重要な機能の一つになると考えられる。

3

.人生再生のマネジメント

再生型起業は人生の再生を促す。ここでいう人生再生とは,新たな働く環境 に身を置くことで「生きている」という感覚を呼び覚ますことである。生きて いる実感は,絶えず外部とのやりとりをしながら変化し,それでいて周囲の言 いなりにならない主体性が必要である。つまり,人との積極的な関わりのなか で個人の自律性を回復する。 たとえば,周囲の障害を乗り越え,自らの意志に基づき事業を押し進めてい く起業家は,生きているという実感をもっているに違いない。その中でも再生 型起業家は,社会への意欲と積極的な自己改革が求められるフィーノレドに自ら を配置転換する。そして,生きているという個人の自律性を意図的に高揚させ るのである。このようなリプレースメント(再配置)による再生型起業の特徴 を,整理すると次のようになる。 ① やる気の停滞した人材に対して大胆なリプレースメントを実現し, ドラ マチックな人生ステージへと誘う

(23)

131 再生型起業家の事業創造とマネジメント -131ー ② 創造性,自由度の高い環境への人材のリプレースメントにより,その人 の潜在的な能力を引き出す ③ さらに,生き生きとした自律性のある人材へと再生させ,そうした人々 が集まることで事業創造の効果を促す ④事業創造のみならず,人生再生は新しいワークスタイルを構築し,個人 の緩やかな連携が社会の創造へと導いていく 本章では個人に立脚し起業家による人生再生のあり方を探っていく。具体的 には,個人のポジションを会社で雇用される人材,個人事業者,地域の生活者 に分類し,そこから起業していくことで,第

2

の人生をマネジメントする姿を 浮き彫りにする。 3..1 人生を再生するリプレースメン卜 本論での人生の再生は,自分の置かれている環境を起業家の領域へとシフト 図 表3-1 人生再生としての配置転換モデル 組織行動・社会創造 依存的

自律的

(24)

していくことと同義である。そこで,再生型起業家のモデルとして図表3- 1 を提示したい。まず,図中の縦軸は人の組織や社会に対する価値観を表してい る。そして,横軸には,組織に対する関わり方を表した。この 2つの軸から, 4つのポジションの人材に分類することができる。それぞれ解説をしていこう。 第

1

は企業人材のポジションである。会社の組織に対するロイヤリティーが 高く,会社の価値を追求することで,自己の欲求を満たそうとする。組織に対 する依存性が強いため,個人としての主体性には欠ける傾向がある。第2は知 識ワーカーのフィールドである。知識ワーカーは会社などの組織には所属せず, 自身の専門性を武器に仕事を行っている。したがって,主体性をもって多様な 人々との連携により創造的な事業を展開する。しかし,仕事の価値観は自己に 立脚しており,最終的には自己完結型のワークスタイルを好むであろう。第3 は地域生活者のポジションである。多くの生活者は地域という社会に対しては 依存的な立場をとる。生活者一人一人が地域に対して,積極的にはたらきかけ るという機会は少ない。それゆえか,地域では個人の利益に基づく行動が大半 であり,これは都市部で近所づきあいを避ける傾向などからうかがえるだろう。 そして,第 4のポジションに起業家があてはまる。個人の主体性や自律性を 尊重しつつ,地域社会の価値創造を追及するフィールドである。したがって, このポジションの人は,自分の価値観と社会の価値観を対等の関係で認識し, それぞれの価値を両立させる努力をする。そのプロセスが自己成長を促し,自 己と社会との共生を実現するのである。 再生型起業は,第1から第3までの人生を第4のポジションである起業家の 領域へ再配置することである。したがって,ここに3つの人生の再生手段が明 らかになる。その3つとは,企業人材から再生する「会社起業J,知識ワーカー から再生する

iSOHO

起業J,地域生活者を再生する「市t民起業」である。これ らの手法によって,閉塞的になりやる気の停滞した人材を,大胆な配置転換に よって再生を試みるのである。そして,注目したいのは,これら人生のセカン ドステージを踏み出す再生型起業家の特徴は,ミドルリスク,ローリスクでも 起業ができるということである。多様な背景をもっ人材が,多彩な選択肢のも

(25)

133 再生型起業家の事業創造とマネジメント 133ー と起業家としてチャレンジできることが重要なのである。したがって,人生の 再生を論ずるとき, ミドノレリスクでのいかに起業していくかが,大切なテーマ となる。そこで,先に名づけた会社起業,

SOHO

起業,市民起業の具体的な方 法を,リスクの捉え方と絡めて検討していこう。 3..2 企業人材から再生をする会社起業 会社組織に埋没してしまい自分の能力が発揮できない。会社の既成路線に 乗った人生が見えてやる気が失せている。会社からいわゆる肩たたきにあい, 会社に対する信頼感を喪失している。このような停滞した会社人材は,会社か ら独立して事業を起こすことが自分の人生の再生につながる。主体性や積極性 を発揮する状況に身を置くことで,仕事のやりがいを回復するのである。 しかし,会社から独立することはリスクが伴い容易なことではない。そこで, 現在所属する会社を起点に事業を起こし,会社となんらかの接点をもって起業 する方法が考えられる。こうした現職の会社を起点にした起業のことを,本論 においては会社起業と定義する。たとえば,会社起業家には,新規事業を展開 する会社内のプロジェクトリーダーや,将来は分社を目指す社内ベンチャー, フエロー制度やのれん分け制度を利用する独立社員といった会社制度に基づく 人々があげられる。 これらを会社との関わり合いから,図表3- 2のように分類できる。縦軸は, 会社の経営資源の活用度である。会社の資源を有効に活用することで,事業を 展開する障害が少なくてすむ。そして,横軸は会社の所属の有無である。事業 に失敗したとき,最終的に会社が責任を取るか否かを表している。図中の第II 象現に位置する社内ぺンチャーであれば,社員としての身分は確保されるが, (2 ) フエロー制度:フエロー制度とは,特定分野のきわめて高い能力やスキルのもった人 材に対して,いったん退職という形式をとり,改めてフエロ一社員としてプロの契約関係 を結ぶ人事処遇制度である。フェロ一社員は,会社からの時間的な拘束からはずれ,他社 の仕事を積極的に行うことも了解事項となる。したがって,会社で養った能力や社内人脈 をベースに外部と積極的に連携を図り,新しい事業を果敢に進めることが可能となる。そ して,会社にとっては,次代を担う可能性のある新規事業の開発,既存事業の抜本的な改 革といった新しい価値創造を推進していく人材の確保が実現する。

(26)

1

1

図表3-2 会社起業のポジショニングマップ(例)

'

リスク高

{

E

N

.,' 官 一 同 会 社 資 源 の 活 用 度 社内ベンチャー

完全独立

, , , , , ,

E

社内プロジlヱクト│のれん分け制度 い

1

社内公募制度 │フヱロー制度 , , , ,

+

原点 社内 社 外 会社所属の有無 会社からのラインからはずれて自らが企画する新規事業に専念することにな る。また,第III象現ののれん分け制度であれば,会社組織からは独立すること になるが,会社で修得した事業ノウハウを活かす形で起業することが叶う。 こうして考えてみると,図中の原点から遠くなればなるほど起業におけるリ スクが高くなる。裏を返せば,原点に近いと会社からの制約が厳しくなる。し たがって,会社起業家は,リスクを出来るだけ抑えつつ,起業家精神が確保で きるような会社との関わり方を探ることになる。会社から一定の距離をおく新 しいポジションの取り方や自分と会社の関係の再構築が,人生の再生へつな がっていくのである。たとえば,これまでの雇用契約による主従関係から,会 社とのパートナーシツプに基づく水平的な関係へシフトしていくことが考えら れる。このとき自分を活かしかっ会社も活かす方法が求められてくるだろう。 こうした会社起業家の活躍は,個人のみならず会社の事業再生にも貢献して

(27)

135 再生型起業家の事業創造とマネジメント 135 いく。一つには,会社起業家のための諸制度が雇用の圧縮の効果をもたらす。 さらに,起業家による新規事業が自社の新しいビジネス分野を切り開いていく こともありえるだろう。会社起業を推進する仕組み作りが,会社を活性化させ る経営手法のーっとして有効となるのである。 3..3 知識ワーカーから再生するSOHO起 業 家 (1) SOHOとは

SOHOとは, Small Office& Home Officeの略のことである。そして,

SOHO事業者とは,小規模オフィス・自宅兼用オフィスにおいて,フlレタイム ま た は パ ー ト タ イ ム の ビ ジ ネ ス に 従 事 し て い る 個 人 事 業 者 と 定 義 で き る 。 SOHO事業者は近年急速に拡大しており,新しいワークスタイルとして注目さ れている。 SOHOが普及している背景として, SOHO者自身のニーズ,企業のニーズ, 社会のニーズ,情報技術の発達から,図表3- 3でまとめた要因が考えられる。 また, SOHOの事業運営ノてターンを整理すると次のようになる。 ① 従 来 型SOHO 個人商庖,家内的な工場,農家など従来から存在している小規模事業者 -企業のこーズ -オフィスコストの 削減 -知的生産性の向上 .有能な人材の確保 図 表3- 3 SOHO普及の概念図

SOHO者のニーズ ・仕事時間の柔軟な設定 -硬直的な人間関係からの開放 .仕事と生活の発展的融合

+

SOHOの普及

+

.情報通信の発展 。インタ!ーネットの普及 ・携帯端末やパソコンの高性 能化 -社会のニーズ .大都市集中の回避 ・主婦、高齢者、身 障者の雇用確保 "地域の活性化

(28)

のことである。 ② ベ ン チ ャ ー 系

SOHO

優れた技術力,企画力を保有した新進気鋭の個人起業家である。いわゆ るネットベンチャーがこのタイプに該当する。 ③ クリエイター系

SOHO

ライター,デザ、イナー,翻訳家,ソフトウエア開発など,自宅兼用の事 務所などフリーランスで事業を運営する人々である。 ④ サムライ系

SOHO

(有資格者フリーワーカー) 税理士・会計士,弁護士,建築家など資格をもった独立専門家のこと。 小規模事務所を構え事業を運営することが多い。 ⑤ 在 宅 ・ 副 業 系

SOHO

主婦,学生,リタイヤ中高年,身障者,副業サラリーマン,ボランティ アなどが,自分の空いた時間で行う事業スタイルのこと。趣味や特技を活 かした事業に発展させる。あるいは副業を活かし自宅内を拠点、に事業を展 開する。

(

2

)

SOHO

起業家

SOHO

による起業は,個人レベルで小規模なオフィス,または自宅を活用し て事業を行うことを前提としているため,自己資金が少なくて済む。事業のア イデアがあれば,低リスクで起業をすることが可能となるのである。したがっ て,

SOHO

スタイルは多くの人に起業への可能性を拡げる。

SOHO

による人生の再生を考えるとき,いくつかの段階やタイプに分類でき る。図表3-4をみてもらいたい。横軸は,現在のポジションと将来像を表し ている。起業時には便宜的に

SOHO

であるが,いずれは大きい会社にしたいと いう卒業志向の強い起業家から,将来も一定の規模とスタイルを維持していく 継続志向が強い起業家が存在する。縦軸は仕事のスタンスを表す。生計が他の 手段によって確保されていることが前提になっている副業志向の強い起業家か ら,高い専門性を武器に十分な報酬を得ょうとするプロ志向が強い起業家まで

(29)

137 プ ロ 意 識 副 業 意 識

I

l

l

1

1

1

仕事のスタンス

再生型起業家の事業創造とマネジメント -137-図表3- 4 SOHO起業家のポジショニングマップ 第

1

の 再 生

/'-¥、

2

の 再 生

r

-

E

N

プロパ一社員 専門職社員

アルバイト

パートタイム

副業

SOHO

会社

SOHO

SOHO

現在のポジション ー惨 いる。このように多様な意識をもった人材が,

SOHO

として起業していくこと が望まれる。そして,そこには2段階の人生の再生パワーがはたらくものと考 える。 第 lの再生の引き金は自立である。

SOHO

によって,好むも好まざるも会社 の雇用という束縛から解放される一方で,仕事に対する自由度と責任度が増し てくる。また,仕事とプライベートの境目がなくなることも予想され,自分の ライフプランの見直しも必要になるだろう。このとき,起業を通じて自立した 主体者として,自分の人生の再構築が求められてくるのである。自分サイズの 適性規模事業で「好きなこと」をやり,自分や家族がハッピーになることが最 重要目的となるだろう。 第

2

の再生は事業体と自身の成長である。成長意欲の高い起業家は,一定期 間,リスクの低い

SOHO

での事業実績を積んだのち,

SOHO

規模を卒業してい

(30)

く。エリートベンチャーとして,事業規模,組織規模を拡大するのである。つ まり,自分サイズの適正規模事業における自己完結性の高い活動から脱却し, さまざまな組織や人との利害関係を築いていくことになる。このような事業の 成長が,

SOHO

起業家自身の人間的成長を促す。起業したのち,他の組織や

SOHO

事業者とアライアンスを結び,契約型の成果報酬を求めるスタイルが典 型的な成長モデルとなろう。 3..4 地域生活者から再生する市民起業家 地域社会には,豊富な人材が眠っている。会社では雇用されにくかった中高 年者,主婦,身障者の多くが,働きたくても働けない状況のなかで地域社会に 埋没している。また,地域には生活者として,行政や会社が提供する地域サー ビスに不満を抱く者も少なくない。生活者の視点から「地域にこんなサービス があったらよいなあ」といったことに気づいている人々である。こうした生活 者の中には,特定のニーズはあるが営利にならないサービス,公平さをベース にすると対応できないサービス,などの事業のシーズをもっている。これら働 く意欲のある人々,地域の事業シーズを持っている人々が自ら事業を起こし, 自分の行いが他人の幸せにつながり,地域生活が豊かになることを実感できた としたら,それは究極の自己実現ではないだろうか。まさに,地域生活者の人 生の再生がここにある。 このような事業を起こす人々を市民起業家とよび,地域担会を再生する担い 手と考える。しかし,地域生活者は,地域社会に対する依存性が高く受身的で ある。したがって,地域生活者に対する起業家精神を醸成する仕掛けが必要に なる。その枠組みのーっとして,コミュニティビジネスがあげられる。コミュ ニティビジネスをひとことで表現すると,地域密着ビジネスであり,地元住民 を主体とするビジネスであるといえる。展開する事業は,コミュニティの住民 が生活課題として抱いているもので,これまで行政や企業がカバーできなかっ たサービスである。その特徴を次にまとめる。 ① 地域サイズにあった適正規模,適正利益を追求するビジネスである

(31)

139 再生型起業家の事業創造とマネジメント -139ー ② 営利追求ビジネスとボランティア活動の中間領域的なビジネスである ③ 高い社会的使命感のもと高度な自己実現を追求し,仕事と地域生活の融 合化を実現するビジネスである ④ コミュニティビジネスが期待される背景に,本格的な少子高齢化社会を 迎え,介護や医療,環境,教育tなどの分野において地域の事情に即したサー ビスが望まれていることがある ⑤ これまで地域に眠っていた労働力,原材料,ノウハウ,技術などといっ た地域の資源を活かし,地域社会の活性化につながる コミュニティビジネスによる起業は,地域社会における循環性の高い再生シ ステムを実践するものである。つまり,市民起業家は再生型起業システムの象 徴的な存在となる。それを図表

3-5

をもって,簡単に整理してみよう。生活 者,市民起業家,事業コミュニティの

3

つの段階が循環し,地域の人材が再生 していくとともに地域社会が活性化することを表現している。 図表3-5 コミュニティビジネスの人生再生

G

第1段階では,地域社会を衣食住を営む場とする生活者が存在する。ここで いう生活者は,日々の生活に根ざした地域で発生している問題を強く意識して いる。または,自分が持て余している働く意欲を活用して,地域への貢献をし

(32)

たいとする人々が該当する。第2段階では,こうした生活者が市民起業家とし て,若干のリスクを負うものの身の丈にあった事業を起こす。そして,地域に おける受け身的な生活者から主体的な事業主に転換したとき,ここから人生の 再生がスタートする。さらに第3段階として,市民起業家の姿勢や事業が地域 に受け入れられたとき,事業体としての事業コミュニティへと発展していくだ ろう。このとき,行政や企業の事業サービスでは解決しきれなかった地域の問 題が市民起業家によって充足される。つまり,地域事業の再生が実現するので ある。 さらに,事業コミュニティが浸透,拡大していくと,雇用の創出,地域の産 業振興,文化・芸能の振興などへとつながっていく。このような地域活性は, 一人一人の生活者への潤いある生きる場の形成へと還元されるだろう。 こうしたコミュニティビジネスの起業は,営利追求が第

1

優先とはならず, 地域社会性,ボランクリー性を追求する新しいタイプの起業である。具体的に は,

NPO

による起業によって,その動きが活発になっている。

NPO

とは,ノ ン・プロフィット・オーガニゼーション

(

N

o

nP

r

o

f

i

t

O

r

g

a

n

i

z

a

t

i

o

n

)

の略のこと で,民間の非営利団体や公益組織を意味する。そして,自主的,自発的に活動 し,営利獲得それ自体を目的としない組織や団体の総称とすることができる。 営利獲得を目的にしな・いということは,組織が活動することによって得た利益 を,一般の企業とは異なり組織や出資者に配分しないということである。また,

NPO

が本意とする自発的,自主的な活動ということは,行政の画一的,限定的 な事業とは異なり,社会が求めるものを自らの意志で提供していこうとするこ とである。

4

.

起業家による社会システムの再生

社会とは,個人を最小単位にした会社,学校,地域,行政などの組織の総体 といえるだろう。そして,こうした社会が個人に対して,生活する,働く,学 ぶ,遊ぶ,安らぐといった価値を提供している。これまで日本の社会において は,企業や行政などの「大,組織」が価値を創る中心的な存在であった。大組織

(33)

141 再生型起業家の事業創造とマネジメント -141-が牽引する大量生産,大量消費,大量廃棄の経済システムが,社会を豊かにし てきたのである。しかし,スケーノレメリットによる経済合理'性に偏った社会は, もはや行き止まりにきている。地球環境の問題,少子高齢化の問題,雇用の不 安,多発する犯罪やトラブルなど,社会が問題解決力を喪失している。 前章までは,こうした社会を再生する主体者として,個人に立脚した起業家 の必要性を述べてきた。再生型起業家が既存の事業を復活させ,人々が起業家 として生きる価値を取り戻すことを論述した。その過程で生み出される価値が 社会に還元され,新しい社会を再形成していくだろう。また,これら再生型起 業家を輩出する社会環境を築くことが,結果,魅力ある社会へと再生していく。 そこで本章では,とくに,再生型起業家を輩出,育成する担会システムにスポッ トを当てて解説をする。 4..1 起業家を輩出する社会システム 再生型起業家と社会システムの関係を考えたとき

2

つの関係に整理できる (図表4- 1参照)01つは,価値をもたらす起業家とその価値を享受して活性 図表4ー 1 起業家による循環型社会システム -起業家の再生サイクル -事業の再生サイクル

¥

ι /

io

、..

H , r ' ・

一 の

一 生 一一再一

一 ム 一

-E

テ 一

一 ス 一

h ト司シ一 ツ ⋮ ム 一 コ ネ⋮社一

活テ 復フ

卓 官 一

敗セ

(34)

化する社会の関係である。再生型起業家は,活力の薄れた社会資源、を積極的に 活用し,新しい価値の再発見を行う。ここでの社会資源とは,起業家自身を含 めた人材,使い道に困っている資金,利用されていない不動産,米利用特許な どの知識資産などがあげられよう。前述してきた事業再生と人生再生は社会資 源の再生を意味し,再生がもたらす価値が社会に還元されることで,活力ある 社会が形成されるのである。 2つには,再生型起業家と,それを輩出し育成するシステムとしての社会と の関係があげられる。つまり,起業家を重視する社会にシフトしていくことが, 社会システムの再生につながるということである。たとえば,教育システムに おいて,起業家重視の在会を考えたとき,その大きな変革が求められるだろう。 今や良い大企業に就職することを目的にした学歴偏重型の学習は意味が薄れて いる。起業家を養成するための教育は,学校教育の根本から再編成を促すと思 われる。教育システムだけではなく,法律など諸制度,行政のあり方,会社の 行動規範,マスコミの社会の風潮などいたるところで再編成を求める。このよ うに,起業家重視の社会作りは,社会の改革の大きな動機になりうるのである。 起業家と社会のこうした

2

つの関係が充実してきたとき,循環型社会が完成 するといえるだろう。前者は社会資源の循環であり,後者は起業家支援の社会 システムの循環とイメージできる。前章までは,結果的に社会資源の循環につ いて解説してきたことになる。そこで,本章では後者の社会システムの循環に ついて説明していく。 4 2 起業家輩出の教育システム 社会が起業家を輩出していくためには,起業家になるための教育システムを 整備していく必要がある。人は,独立して事業を行うことへの意識や,起業家 としての知識や技能を確保したとき行動を起こす。そこで,起業家に必要な能 力から,次のような教育メニューが考えられる。 ① 自分の将来を設計するためのキャリアカウンセリング ② 自立精神とチャレンジ精神の醸成

参照

関連したドキュメント

「必要性を感じない」も大企業と比べ 4.8 ポイント高い。中小企業からは、 「事業のほぼ 7 割が下

「社会人基礎力」とは、 「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な 力」として、経済産業省が 2006

在学中に学生ITベンチャー経営者として、様々な技術を事業化。同大卒業後、社会的

このような状況のもと、昨年改正された社会福祉法においては、全て

私たちは、行政や企業だけではできない新しい価値観にもとづいた行動や新しい社会的取り

関係会社の投融資の評価の際には、会社は業績が悪化

1989 年に市民社会組織の設立が開始、2017 年は 54,000 の組織が教会を背景としたいくつ かの強力な組織が活動している。資金構成:公共

 今日のセミナーは、人生の最終ステージまで芸術の力 でイキイキと生き抜くことができる社会をどのようにつ