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監査方法論について--グリネエーカーおよびバーの所説を中心にして---香川大学学術情報リポジトリ

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(1)

監査方法論について −グリネエーカーおよびバー・の所説を

中心にして一

Ⅰ…はじめに.ⅠⅠ.監査証拠の分類 田Ⅰい基本的監査命題と二つの立証形態 ⅠⅤ.財務諸表の監査方式 Ⅴ.試査と統計的方法の適用 ⅤⅠ.総括および 批判 Ⅰ 財務諸表監査の理論では,財務諸表の適正性に対する監査人の意見が,どの ような基礎に.よって支持されているかを明らかに.するこ.とが,重要な問題の1 つであろう。このような監査手続に関する基礎理論,換言すれば監査方法論に ついて体系的な考察を試みる文献は,米国の場合,従来,あまり見られなかっ た。こ.の点で,グリネエーカーおよびバーは,いろいろな箇所で,興味のある 見解をのべている。1)たとえば,監査証拠の分類,監査証拠紅よる立証形態, 立証すべき監査命題,財務諸表の監査方式,試査などの考え方に.おいて,また, これらの諸問題を通じての内部統制組織の位置づけに.おいて,特徴のある考え 1)R”L.Grinakerand B.B・Barr,Audiiing,1965.本苔に/ついてふれた論文に.は,つ ぎのものがある。江村稔,「財務諸表監査の理論的基準」,『会計』,昭和41年8月. また,グリネエ・−カ−・の論文には,つぎのものがある。RLGrinaker、‘‘TlleAccount−

ant′s Responsibilityin Expressingan Opinion,’,TheJournalof Accountancy, Nov.1960、これに.ついては,つぎの紹介がある。江村稔,『財務諸表監査二一一一−一理論と構造』

久保田音二郎,「監査報告苔の情報提供の機能」,『産業経理』,昭和41年6凡. なお,江村稔教授は,グリネエ・−カ−・の見解を,「財務諸表の適正表示に重点を監査 理論」の代表的なものとして提示し,教授は,「会計処理業務監査としての財務諸表監 査の理論」を独自に展開しておられる。

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香川大学経済学部 研究年報 6 ⊥966 − 72 − 方がうかがえ.る。 本稿では,グリネ.エ−カ−およびパーの,所説の特徴を明確紅するとともに・, かれらの論理をさぐり,かつ若干の批判を加えよう。 ⅠⅠ 監査人の具体的かつ実際的な業務は,監査証拠の収集,評価,およびその組 み立てに.あるが,こ.の業務は,AICPAのいう監査の−・般基準が要求する諸原 則に.したがうことが必要なことはいうまでもない。したがって−,以下の議論 は,監査人の専門的能力および経験,独立性,正当な職業的注意などの要件を 前提に.して行なわれることに注意しておきたい。 グリネーカーおよびバーほ,監査の実施は,財務諸表の適正表示に・ついて, 監査人が,専門的意見を表明する信念の合理的基礎を確立することであり,監 査証拠は,その手段であると位置づける。2) ところで,かれらは,AICPAの監査実施基準の第3の基準の,「十分かつ有 効な証拠資料」という言葉から,収集される監査証拠の豊と質の二面に・注意を 向けていると考えられる。すなわち,量的な側面からは,特定の状況に・おいて 監査証拠を収集するとき,その入手可能性および経済性を考慮することが必要 になり,他方に.おいて,質的な側面からほ,収集された監査証拠が,どの程度 の立証能力をもっているかというこ.とを評価しなければならない。この2つの 考慮に.よって,「■十分かつ有効な監査証拠」が決定され,その収集により,監査 人の意見の合理的基礎が形成される。 しかし,この監査証拠の墓と質は,実際に監査が実施される特定の状況に・よ って,非常に.相違するので,監査人のその状況にのぞんでの判断が非常に重要 である。このような注意を与えながら,このような場合の判断に.−・般的に.役立

2)R.LGrinaker and B.B”Barr,ObルCit.,pp一91∼92,グリネエーノか−およびバl−は, 意見(Opinion)とは,単なる印象よりは強力であるが,絶対的知識(POSitive knowledge)

よりも弱い信念または判断(beliefor judgement)であり,専門的意見とは専門家が, 慎重な意見を立証するに十分な監査証拠を収集したこ享を意味するとしているo RいL

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監査方法論紅つい て − 73一・・・・ つような監査証拠の分類を提示する。そこで,かれらは,証拠の入手源泉およ び立証能力を示す方法によ.り分類する。すなわち,つぎのように.なっでいる。さ)

1..内部証拠(internalevidence)

2外部証拠(externalevidence)

3.中間的証拠(internal−eXternalevidence)

4.事実観察(physicalobservation)

5.分析的証拠(analyticalevidence) かれらの分類は,従来の用語を用いているものもあるが,その内容を異紅す るので,それぞれ紅ついて−,かれらの説明を加えておくことにする。 まず,第1の内部証拠ほ,監査される会社の内部で作成され,そして内部の みを経由して会社が所持する証拠として定義される。その例として,購入指図 書,受入報告書,時間記録表,崩料出痺伝票,会社内部の役員および従業員の 口頭および文書に.よる陳述などがあげられる。4) 第2の外部証拠は,会社の外部で作成され,そして外部から監査人に直接に 与えられた証拠と定義される。その例として,銀行預金,売掛金および受取手 形,買掛金および支払手形の残高の確認,係争中の訴訟事件紅ついての顧問弁 護士の陳述,および監査人に盾接に.伝えられた外部の人の陳述などがあげられ る。6) 第8の中間的証拠は,会社の内部または外部のどちらかで作成され,会社が 3)′∂紀.,pい93ハ 監査証拠の分類に.ついてほ,論者ごと紅異なる主張がなされているが, これに.ついて一は,レイが,つぎの論文でくわしく説明している。J.C.Ray,‘−Class・・

ification of Audit Evidence,’,TheJownalofAccountancy,March1964,Pp.42

∼47,.かれは,ここで,監査証拠を分類する仕方について,(1監査証拠の存在形態を強 調するものとしでニ.ユ.−マン(B”Newman,Auditing,pp.・10∼12)とぺルベおよびと−・

トン(S小W。Peloubet and HhHeaton,Integrated Auditing,p.39)の分類をあげ, (2′監査証拠の信頼性を強調する分類として,マクツおよびシャラフ(R∴K・・Ma11tZand

H.A。Sharaf,The Philosoph.y ofAudiiing,p.68)とスf’ツr・ラー(H.F=Stettler, Az‘d査■わー〝g Pγ∠〝C∠〆β∫,pp.101∼8)の分類をあげている。レイの論文に∴ついては,つ

ぎの論文で説明した。拙稿,「財務諸表監査紅おける内部統制組織の本質一証拠理論と 職能理論に.よる解明−」,『香川大学経済論叢』,昭和40年2月。

4)RLlGrinaker and BいB、、Bat【,Obnc払.p。93l 5)∫∂之■d.,pp.93∼94い

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香川大学経済学部 研究年報 6 ・−74− J966 所持するものであるが,会社の外部で作成されたというしるし,またほ.会社の 外部を経由したというしるしのついている証拠と定義される。その例として は,支払済小切手,仕入先の送り状,通信書類,顧客の注文書,、契約書などが あげられる。6) 第4の事実観察は,実査またほ立会のようにり監査人が,資産または手続に, 憤接に接触す・ることによって求められる証拠と定義される。この例として,商 品,現金,有価証券,賃金支給手続の観察またほ実査などがあげられる。7) 第5の分析的証拠とは,監査人の分析的検査に.よってごえられる証拠と定義さ れる。分析的検査の例として,事務的正確性の照合(clericalaccuracychecks) 全体的検査(overalltest),関連研究(correlationstudy)の3っがあげられる。8) さらに,事務的正確性の検査の例としては,特殊仕訳帳の合計の検査,元帳 勘定の合計転記の検査,棚卸計算表の計算の検査がある。 また,全体的検査は.,分析的推論(analyticalreasoning)および1会計年 度中の取引の合計に対する簡単な照合として.行なう計算とし,その例として個 別償却計算の正否を総合償却計算の結果との対比に.よって換査することをあげ て言いる。 最後に関連研究とほ,個々の項目間の関係の合理性を検討して,資料の正確 性を確かめることであるとし,たとえ.ば,固定資産の増加額は,保険契約および 固定資産税の額の増加に比例するのが論理的であるといった例をあげている。 つぎに,グリネ・エ−カ▲−およびバーほ,以上のよう紅分類した証拠の立証能 力について,その強弱をつぎのように考えている。すなわち,外部証拠,事実 観察および分析的証拠が,もっとも強力であり,これに対して,内部証拠は,操 作が加え.られ易いという点から,もっとも弱く,この中間の立証能力のものと して中間的証拠が位置づけられる。9) しかしながら,特定種類の監査証拠ほ.,同種またほ,他種の監査証拠と関係 づけられるごとによって,監査証拠の信頼性が高まる。このような証拠の関係 6)∫∂ど夙,p・・94、 7)∫∂よ♂い,p.94. 8)′∂紘,p・94・ 9)J∂よ♂.,p.94.

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監査方法論につい て ・−7∂− づけは,分析的過程であり,関係づけられた証拠は,全体として,1っの分析 的証拠と考えている。10) グ.リネコニーーカーおよびパーのあげる監査証拠の種類の内容は,以上のようで あるが,つぎに・,その特徴および意味を考察しなければならない。 まず第1に・いえることは,古くからの伝統的な監査証拠の分類である内部証 拠と外部証拠の分類を,形式的に展開したものと考えられる。形式的な展開と よんだことについては,後に説明しなければならないが,かれらの分類が,内 部証拠と外部証拠の分類の本来的意図を,実質的に展開したものではないとい うことである。 ともかく,かれらの分類は,表面的には,内部証拠,外部証拠の分類をより 精細なものとし,かつ問題のあった項目を区別したものと考えることができ る。すなわち,従来の内部証拠ほ,純粋の内部証拠と,1部分外部のしるしをも つものと紅分け,後者を中間的証拠と名づける。それほ,同じように被監査会社 が所持する証拠資料であるにしても,その立証能力に相違があるからである。 また,外部証拠と従来されていた証拠資料のなかでも性質とか入手方法の相 違のあるこ・とが知られる。そこで,この点を整理して,文字通りに外部の関係 者から入手する外部証拠と,実査とか立会などの監蛮人自身の事実観察という 体験的な証拠とを区別する。 さらに,外部証拠と内部証拠のどちらに属するかが疑問である分析的証拠を 1つの種類として区別する。 ところが,グリネエ−カ−およびバ・−のこのような監査証拠の分類は,従来 の内部証拠と外部証拠の分類の細分化というのではなくて,証拠資料の配置換 えに結果している。たとえば,質問に対する解答として−の関係者の陳述は,従 来でほ.,すべて外部証拠とされていたが,かれらの分類では,陳述を行なう関 係者が,被監査会社の内部のものであるか,外部のものであるかによって,内 部証拠と外部証拠とに分けている。 また,従来は,内部証拠を入手する手続とされている伝票突合,帳簿突合な どは,事務的正確性の突合のなかに含めて,分析的証拠の1つにしている。 10)′∂柑.,p.95∩

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香川大学経済学部 研究年報 6 ヱ966 −76− かられが,分析的証拠を,かなり重視していることも,1つの特徴としてあ げられる。これは,米国で,精査から試査へ転換したとき,外部証拠ととも紅 分析的証拠が重視されるようになったのであるが,従来は,それはど証拠の種 類として強調されていなかった。かれらが,分析的証拠を重視していることほ, 後の立証形厳にも関連して,注意すべきであろう。 以上のようなかれらの分類は,一・面から見れば,従来の内部証拠と外部証拠 の分類をより精巧忙したということもできるのであるが,われわれほ,さきに も,少しふれておいたように,本来の内部証拠と外部証拠の分類の意図に.沿っ た展開とは無関係であると思う。それについて,・若干説明を加え.ておこう。 一般に・,内部証拠と外部証拠との分類は,監査証拠の入手源泉の差を強調し たものと,単純に解釈するのが常であるが,われわれほ,より深く,歴史的な 背景において,その本質的意図をさぐるぺきであることを,別稿において了指摘 した。すなわち,この分類は,1942年に,S,ブロードが,はじめて主張した のであるが,こ.の主張の歴史的背負として,マッケソン・ロビンス事件,ひい てはAIAの「監査手続の拡張」が,大きな要素として考えられなければなら ない011) こ.のような歴史的背景の下において解釈すれば,内部証拠とほ,会社の経営 活動に.よって,会社自体が作成し,あるいほ取得し,その結果として会社が所 持する文書であり,監査以前に.財務諸表および帳簿の証拠資料として存在する ものてある0これに対して,外部証拠とは,監査人が,財務諸表および帳簿の 立証のために,監査業務として,作成し,あるいは入手した証拠資料である。12) なぜ,このように,この分頬を理解すべきであるかといえば,その歴史的背 景である不正事件は,会社の作成または取得に基づき所持する証拠資料は,会

11)S”T.Broadl・,The Need for Statement of Auditing Standards,Journalo.f. A“の相応馴化.γ,抽1y1942. 12)拙稿イ監査証拠論の課題について」,『香川大学経済論叢』,昭和40年4月,97∼98ぺ・− ジ。なお,久保田音二郎博士も,内部証拠と外部証拠との分類紅,特別の意味を考えら れ,内部証拠は,記録の系列に.あるものとし,これに.対しで,外部証拠は,その記録の 背後に.ある事実の系列に.あるものとされている。久保田音二郎,『近代財務監査』,78− 80ぺ・−汐。

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ー 77 − 監査方法論につい て 社が操作する可能性があるという,監査証拠としての弱点を利用したために起 ったからである。したがって,外部証拠ほ,このような内部証拠の弱点を補完 するために,監査人自らが,作成あるいは取得する証拠資料として,明確に対 立する監査証拠の種類として見られるべきである。1$) それにもかかわらず,それ自体,監査の入手源泉および立証能力による分類と 見ることもできるのだから,その観点から,こ.の分類をより厳密に検討しようと 試みるものがあらわれるのは当然である。これについては,別稿でふれた如く, 論者によって,いろいろの分類を提案しているわけである。それはそれご,そ れなりに.意味があるわけであるが,内部証拠と外部証拠の分類の本来的意図の 展開とは無関係である。それゆえに,それらは,単に分類の基準をいろいろに・ 変える試みとして,議論が終ってしまうであろう。 ここで,詳細な議論紅はいっていくことは差し控えるが,内部証拠と外部証 拠の分類の本来の意図を展開すれば,AICPAの「監査基準および監査手続」 のような見解になるのが妥当なように思われる。すなわち,それは,監査証拠 の分類について,それまでのように,内部証拠および外部証拠のような分け方 を採ってこはいない。そうして,財務諸表を立証する証拠資料を,基礎的会計資 料と監査人が利用することのできるすべての確証的情報とに分ける。14) この分け方は,内部証拠を,より純粋化して,財務諸表を基礎的に立証する ものとし,外部証拠を,より明確化して,基礎的会計資料の立証を補完するも のと性格づけ確証的証拠としたものである。すなわち,会社の通常の会計行為 により作成されあるいほ取得される基礎的会計資料は,本来的に,財務諸表を 立証するものであるが,それだけでは立証するのに十分でなく,したがって基 礎的会計資料の不十分さを補完するために,会計行為に・より作成され,あるい は取得された基礎的会計資料ばかりでなく,それを補完する証拠資料として確 証的証拠を,監査人が,自分で,作成し,または取得しなければならない。15) なお,わが国の監査実施準則は,従来は,内部証拠と外部証拠との分類を採 13)この部分についての議論は,前掲の拙稿「監査証拠論の課題に・ついて」で行なっている ので参照されたい。

14)AICPA,Auditing Siandards and Procedures,p・34 15)拙稿,「監査証拠論の課題に・ついて」,101∼3ぺ・−汐。

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香川大学経済学部 研究年報 6 J966 − 7β− って−,これを一・般監査手続と個別監査手続とに.結びつけていたが,今度の改正 にさいして,これらを省いてしまった。この理由としては,佐藤教授は,「■<新 監査実施準則>では,く旧準則>以来用いられてきた内部証拠および外部証拠 という概念を規制していないが,それは,一・般監査手続および個別監査手続と 内部証拠および外部証拠との変則的な関連づけを削るためと,なるべく定義的 な規制を排するためとの2っの理由からで,内部証拠および外部証拠という区 別そのものを排しているわけでは決してない」16)としている。しかし,ここで ほAICPAの「■監査基準および手続」のような,内部証拠と外部証拠の本来的 意図が考慮されているわけではない。 これまで見てきたように,グリネエーカーおよぴバ−の監査証拠の分類に関 する意図ほ,従来の内部証拠と外部証拠との分類の本来の意図の展開とは,観 点を異にする。かれらの分類の意図ほ.,入手源泉の多様性,したがって入手可 能性に種々の差があることを示すとともに,監査証拠の立証能力に.も差がある ことを明確にすることにある。これらは,かれらが,つぎに問題にする2っの 立証形態と関連しで理解されなければならない。 ⅠⅠⅠ 監査証拠は,財務諸表に対する監査人の意見を立証するものであるが,グリ ネエ・−カ−およびバ−は,監査証拠を,財務諸表が,すべての資産および持分 と実際の経営活動を表示していることを立証するものとする。かれらほ,この ことを4っの基本的監査命題にまとめる。それほ,実在性(existence),評価 (valuation),分類および公開(classification and disclosure),期間限定 (cutoff)である。17)

16)佐藤孝一・『監査論』,88ぺ・−ジ。

17)RL.Grinaker and B.B.Barr,Ob.cit。,p.98。立証すべき監査命題を,どのように とらえるかは,論者に.よって異なる。たとえばマクツは,財務諸表の監査命題を,つぎ

のように.分けている。1l実在または非実在,㈲有形物,(1)被監査会社内に/存在するもの, (2)被監査会社内に存在しないもの,(B)無形物.2,過去の事象・3,量的状態,刷価値 判断を含まない単純な数塁,(B)価値判断を含む金額.4,質的状態,因明確に示された

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監査方法論につい て −79− 第1の実在性であるが,これは従来の概念よりも相当牲広く考えられてい る。すなわち,かれらは,実在性の概念は,実体および事実が,資産,持分お よび経営活動の表示の基礎紅あるととを意味するものとする。従来でほ,実在 性は,貸借対照表の資産および負債の項目について問題にされることが多かっ たのであるが,グリネ.エーか−およびバ−は,それらに限定せず,資本の項目, 損益計算書の項目に∴ついても,実在性を問題忙し,それらを立証すべき監査命 題とする。これについては,つぎのような説明を加えている。 資産について,実在性とほ.,貸借対蘭表が,会社の所有する実際の資産のみ を記載し,そしてそ・のなか紅すべての重要な資産が含まれていることを意味す る。つぎに,持分に.ついて,実在性とは,会社の資産紅対する轟実の関係者の 請求権を記載し,そして−,そのなかに.すべての存在する請求権が含まれている ことを意味する。最後に,経営活動について,実在性とほ,損益計算審が,実 際の経営活動のみを記載し,そして−そのなかにすべてのこのような事項が含ま れていることを意味する。18) 上の説明のよう紅,実在性を,いわゆる実在勘定ばかりでなく名目勘定にま で広げたことは,実在性を,一・定時点における実在というよりも,むしろ事実 という意味に考えているからである。とくに損益計算書における実在性とほそ うしなければ理解できない。その場合でも,事実が,会計的事実であることは, かれらとしても否定していないが,それよりも,その基礎にある経営活動とい う事実を強調しようという意図が見られる。これは,かれらの基礎的思考の大 きな特徴であると考えられる19)。 欝2の監査命題を評価(valuation)とする。これは,財務諸表上の資産,持

R・K・Mautち j物祓伽相加由(./−A微動洪〝g,2nd ed.,p.571.かれの分類で,グリネ エ・−か−およびバ・−の分類と共通するのは,実在性の監査命題であるが,その内容は異 なる。マクツの場合,実在性は,有形に.しろ無形忙しろ,貸借対照表項目紅ついて問題 にされ,グリネェ一九−およびバ」−のように,損益計井番項目に.まで実在性の概念を拡 張せず,マクツは,扱益計罫書項目は,過去の事象として別の監査命題とレている。 RKMautz,Op.Cit.,pり58.マクツのように,現在の事実を実在性として,過去の事実と 区別した方が,監査命題としては理解し易いであろう。

18)R.LGrinaker and BB.Barr,Ob.cit。pp。98∼9.

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香川大学経済学部 研究年報 6 −βク・− J966 分および経営活動の各項目に適正な金額がつけられているかどうかということ である。といっても,グリネエ−カ−およびバーーが,財産法的な評価法を考え ているわけでなく,やはり近代の会計思考と同じように損益法的な評価法を考 えている。すなわち,かれらは,この評価の命題は,実在しかつ正しい資産, 持分および経営活動の各項目紅,一・般に.認められた会計原則にしたがった金額 がつけられることを意味するという。さらに,このような評価方法が,各期間 に,継続的に適用されなければならない。20)このように.,かれらが,損益法に よる評価を考えるのであれば,第4の期間的限定も当然に.含まれてよいと思わ れる。 第3の監査命題は,分類および公開である。財務資料の適正表示ほ,実在性 および評価の問題ばかりでなく,財務諸表上で,適正に.分類かつ公開されてい るかどうかの問題を含む。21) 第4の監査命題は,期間限定である。期間限定は,損益計算の中心課題であ るが,ここで,グリネエーカ−およびバ−のいうのは,それほど深い意味のも のとは思われない。かれらは,適正な期間限定は,資産,持分および経営活動 の勘定残高となる諸取引が適正な会計期間に.記録されて1、ることを意味すると する。それ故に,期間限定の監査は,決算日前後に記録された取引の基礎的証 拠を検査する。そして取引が,−L般に認められた会計原則の継続的な適用によ 命題の提示を意図している。このことは,かれらが,財務諸表の各項目は,総勘定元帳 の勘定残高であるとして,この立証に重点をおいたためである。しかし,財務諸表の適 正表示の監査命題としてとらえる場合は,平凡のようであるが,会計原則の遵守,継続 性,公開の十分性などをあげ,個々の項目紅ついては,項目の性質に応じた監査命題を あげた方がすっきりすると思われる。とくに,貸借対照表項目と損益計罫書項目主に 同じ監査命題を適用しようとするのは混乱を招く。こ.れは,実在性の命題にあらわれてい る。 なお,ぺルべおよびと−トンは,注24)であげるような監査問題とは,別の検証(Veri・ fication)の問題で,資産の検証の五つの側面として−,実在健,数星,実物性,所有権, 評価をあげている。この方が分り易い見解であろう。S.W。PeloubetandH.Eeatoム, J〝fβgタ■仏毎ゼ.A助弟某乃g,ppい31∼32. 20)J占fd、p99 21)′∂柑.,p.99.

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監査方法論につい て二 −βJ・→

って,正しい期間に.記録されているかどうかを確かめる。22)この監査命題は,

第2の評価の監査命題に含めてもよいように思われる。それを区別して,1つ

の命題としたことは,取引の期間的繰り上げ,繰り下げの摘発紅重点をおくも

のといえる。23)

プリネエーカーおよびバ−は,立証すべき基本的監査命題として,以上の4

っをあげているが,そのなふでも,第1の実在性を最も重視しているように思わ

れる。しかし,実在性といっても,それは貸借対照表監査時代紅主張された資

産および負債の実在性といった意味ではなく,資本,さら紅損益計算書のすぺ

ての項目にまで拡張されている。したがって,それは,すべての会計事実の実

在性といった方が適当であるかもしれない。かれらは,この会計事実の実在性

を基礎にして,その上に評価,分類および公開,期間限定の諸命題をおいてい

ると考えることができる。しかし,このことは,われわれが,勝手に・推論する

にすぎないのであって,かれらはこ.れに・ついて明言していない。かれらとして

も,これらの監査命題の重要性の順序および相互の関連についてふれるぺきで

あったであろう。叫

22)Ibid.,pp.99∼1001期間限定(CutOff)を−つの監査命題としてあげる考え方は,ペ ルべおよびと・−トンにも見られる。ぺルべおよびと−・トンは,財務諸表を作成するとき に,期間限定を決界日までの取引のすぺでを含み,それ以後の取引を排除することとし, 収益および費用の発生および繰延の認識を含むとする。SりWいPeloubet andHいHeaton, ∫〝≠βgγα才βdAαd≠わー〝g,p22・ただし,監査命題のあげ方紅ついては,別の考え方をと っていること紅ついては,注24)を参照されたい。 23)なお,グリネエ・−れ−およびバーが,取引の繰り上げおよび繰り下げの排除というこ とを1つの監査命題に.あげているのは,損益計鈴音項目の実在性を強調する考え方と関 連していると思われる。 24)ぺルべおよびと」−トンは,ここでいう監査命題を監査問題と表現し,つぎのように 体系づけている。かれらは,監査の全体的問題を,財務諸表の適正表示と会社財産の保 全の2つとする。これは,かれらが,外部監査と内部監査とを総合した綺合監査(inte− gratedauditing)を構想しているからである。つぎに,財務諸表の適正表示の監査問題 を,会計原則の遵守,継続性,公開の十分性,会計政策の評価,会計制度の評価,遵守 他に.細分し,これに対して,会社財産保全の監査問題を,政策の評価,制度の評価,資 産の管理紅分ける。さらに,財務諸表の適正表示と会社財産の保全の2つの監査問題に 共通する観点からとらえた断面的な(cIOSSSeCtionview)監査問題として,(1)内部統 制,(2)期間限定,(3)完全性をあげる。したがって期間限定の位置づけも,グリネエ・−カ −およぴバ−の見解よりも明瞭になっている。これについては注22)を参照されたい。 S。W.Peloubet and H。Heaton,0♪.Cii.,pp巾16∼23.

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香川大学経済学部 研究年報 6 J966 − βヱ ▼− つぎに,これらの監査命題の立証の問題に移る。財務諸表の適正な表示であ るととの立証の体系的方式は,あとに.,勘定残高アプローチおよび取引アプロ ーチとして論じられるが,その前に,財務諸表の各項目について,・それぞれ4 つの監査命題が考え.られ,そ・の基本的立証形態が考察される。 グリネエーカーおよびパーほ,監査命題を立証するために・監査証拠を収集 する監査形態を2つに分け,瞳接的立証(diI・eCt pI・00f)および間接的立証 (indir・eCtprOOf)とする。というのは,監査命題を立証するにIは十分な藍と質 の監査証拠が必要であるが,監査証拠の立証能力には様々の程度のものがあ り,監査証拠の鼠も,状況に応じて,相当に異なるからである。そこ・で,かれ らほ,監査証拠によって,直接立証しようとする立証形態を「直接的立証」と よぴ,内部統制組織の有効性の検討の重点をおく立証形態を「間接的立証」と よぶ。25)このような規定の仕方は,かれら独得のものであるから,・その説明を 聞いてみよう。2¢) かれらほ,間接的立証と直接的立証の対照的な例として1棚卸資産の実在性 を立証する問題をとりあげる。たとえば,もしも,棚卸資産が,比較的多額か っ少数の項目で構成されている場合には,監査人が,その大部分を実際粧監査 することに.よって,その実在性を直接的に立証することができる。このような 場合には,監査人ほ,内部統制組織にはあまり依存しないで,実在性を確かめ ることができる。27) これに.対して,デパ−トのよう把.,棚卸資産が,比較的少額かつ多数の項目 で構成されている場合には,監査人は,経済性の点から,その小さい部分しか 実際に監査できない。このような限界があるために,棚卸資産が実在しないか も分らないという危険,ひいては財務諸表の表示が不当であるかも分らないと いう危険が大きくなる。これに対して,棚卸に対する強力な内部統制組織が存 25)R、LGrinakerand B.BいBarr,Obucit。,p”100t 26)スチットラ・一にも,直接的アプローチと間接的アブロ−チという表現があるが,若干グ リネ.エ・−カーーおよぴバ・−の直接的立証と間接的立証の考え方に類似する点もあるが,む しろグリネェL−カーおよぴバ−の勘定残高アブロ・−チ・と取引アプローチの考え方に近い ものといえる。このことに.ついては彼の注38)を参照されたい。H・F・Stettler,Audiiing タグ・j形C去〆β∫,pp.112∼3. 27)R・L・Grinakerand B・B”Barr,OPrCiE.,P・101・

(13)

監査方法論につい て. ・− β3− 在すれば,この危険は小さくなる。その結果として,監査人は,棚卸資産の実 在性に対する直接的立証に.重点をおかないで,棚卸の手続一計画過程,職員の 質,監督の質−が十分であるかどうかを検討すること紅よって,実在性につい ての間接的証拠を入手しようとする。そこで,間接的立証が行なわれる。28) 以上のような棚卸資産の例は,監査証拠の鼠に関するものであるが,監査証 拠の十分性の問題からも,立証の直接的と間接的形態の相違がでてくる。こ.の 例として,売上取引をとる。売上取引の監査は,受取勘定および売上勘定の基 礎にある資産および経営活動の実在性を立証することを目的としている。すな わち,すべての其実の売上取引のみが,正確に記録されていることを立証する ためである。29) これに.関して−,−・方に.は,多数のしかも価格の非常に異なる売上によって売 上勘定が構成されている場合があげられる。このような売上を値接的に立証す ることは,−・般に.不可能である。この理由の第1は,利用できる証拠資料(顧 客の注文書,売上送り状,発送指図沓など)は,内部証拠か中間的証拠であ り,立証能力が弱いということである。この節2は,経済性の問題として,監 査できる監査証拠の量は比較的小部分にすぎないことである。このような監査 は,連接的立証としては不十分であるが,売上取引に対する内部統制組織の機 能の有効性を立証するのに.役立つ。それゆえに,監査人ほ,すべての真実の取 引が,正確に.記録されていることの間接的立証として,内部統制組織に依存す ることができる。30) これに対立する場合として,もしも,売上が,はとんど標準価格に.近二い価格 のそして少数の製品からなっている場合があげられる。このような場合には, 内部統制組織にあまり依存しない■で,直接的立証を行なうことが可能である。 たとえば,アルコL−ルを主成分とする薬品の売上を例に.とる。この場合紅ほ, 売上高と生産鼠との関係を見ることによって,全体的検査を行なうことができ る。すなわち,まず最初に,生産畠は,アルコ−ルの消費記録から計静される。 通常は.,共晶の生産では,アルコ−ルの消費記録は,税務当局によって検査さ 28)ム鋸d.,ppい100′}101∩ 29)J∂オ♂・,p.101. 30)∫み∠dい,p.101.

(14)

香川大学経済学部 研究年報 6 J966 −∂4− れる。つぎに.,売上の数量は,生産数量を,期首棚卸塁と期末棚卸品とによっ て修正して求めることができる。最後に,総売上金額は,売上数量に平均売価 をかけることに.よって求められる。31) 直接的立証および間接的立証についてのグリネエーカーおよぴバ・−の説明は 以上のようである。監査証拠の畠および質が十分でないような場合には,内部 統制組織の機能の有効性に依存して立証するという監査思考自体ほ,なんら新 しいものでほない。しかし,かれらが監査命題の立証に.おいて,内部統制組織 に.依存する場合を間接的立証とし,内部統制組織に.依存しない場合を直接的立 証として明確に.区別し,それによって,財務諸表監査の仕組みを説明しようと している点に.,大きな特徴がある。 ここで,若干別の観点から,グリネエーか−・およぴバーーの考え方を見てみよ う。かれらは,監査証拠の十分性に.ついて,塁と質の2つの面からとらえ.る、。 つぎに,監査証拠を収集しようとする場合に,集収できる監査証拠が立証すべ き監査命題に対しで十分なものである場合と,不十分なものである場合とに.分

ける。そして,監査証拠が十分である場合を直接的立証とする。この場合紅,

量的紅十分であることほ,必ずしも精査を意味して−いるよう紅は思われない。 この問題は,後でふれるサンプリングの議論に.関係するので,その際に.説明す ることに.する。ともかく,真の問題としては,監査証拠の分類で示したよう紅, その入手源泉に.はいろいろのものがあるので,その時,その時の状況に.応じて, 必ずしも十分な畳の監査証拠を入手することができない場合がある。そこ.で, 監査証拠が量的に.十分虹収集される場合とそうでない場合とに.分れる。 また,監査証拠の質の場合にも,かれらは.多くの種類に.分けて,その間に立 証能力の差のあることを示した。かれらほ,外部証拠,事実観察,分析的証拠 などの監査証拠を強力な、ものとし,中間的証拠,内部証拠などの監査証拠の立 証能力は弱いとする。したがって,外部証拠,事実観察,全体的検査などは監 査命題を,直接的に.立証することができるとし,それに対して中間的証拠,内 部証拠などは.,監査命題を立証するの紅質的に.不十分であるとする。ここで特 徴的であるのは,直接的立証として,全体的検査をとくに重視していることで 31)∫∂‘−d・,ppい101∼2.

(15)

監査方法論につい て −ββ− ある。 これ紅対して,収集できる監査証拠が,盈的にあるいは質的に監査命題を立 証するの紅十分でない場合がある。藍的には,経済性のため紅十分な監査証拠 が入手できないことがあり,質的に.は.,立証能力の弱い中間的証拠とか内部証 拠のみしかえられない場合がある。監査証拠が不十分な場合は,内部統制組織 に依存しない場合と,内部統制組織に.依存する場合とに.分れる。内部統制組織 に.依存しないで監査証拠が不十分な場合に.は,勿論,立証はできないであろう。 内部統制組織に.依存するとして,内部統制組織の有効性を検討↓て,その結果, それが有効でないことが判明したときは,やはり立証不可能であろう。内部統 制組織の有効性が確かめられたときは,間接的立証を行なうことができる。監 査証拠が塁的に不十分であるときは,当然に.試査が問題になるであろうし,質 的に不十分である場合に.も,やほり試査が問題に.なるであろう。しかし,この ときほ,監査命題を立証するための試査ではなくなっていて,監査命題に・関連 する内部統制組織の械能の有効性を検討するための試査に・なる。したがって, 監査証拠の不十分性ということほ,内部統制組織の機能の有効性の検討に・関し てこは問題にならない。内部統制組織の機能の有効性の検討についても,やはり サンプリングの問題が関係し,これに.ついては,かれらの独特の考え方が見ら れるが,あとでふれることにする。 このようなグリネエーカーやよびバL−の立証形態に.ついての見解の重要な点 は,監査証拠のみに.よって監査命題を立証できる場合を直接的立証とし,これ に対して内部統制組織の機能に依存して監査命題を立証する場合を間接的立証 として対立させていることである。したがって,外面的に.は監査証拠の収集と して同じように.見えても,性格的には,監査命題を直接的紅立証しようとする 場合と,内部統制組織の機能の有効性を検討しようとする場合とに分かれる。 この点を明確にすることによって,内部統制組織の監査における位置づけを示 そうとした点に,かれらの主張の貢献がある。 すなわち,グリネエーーカーおよびバ−は内部統制組織と監査証拠との関係に ついて,かなり明確なつぎのような説明を与えている。監査業務において内部 統制組織に依存するのは,監査のもつ限界があるためである。換言すれば,収 集できる監査証拠の塁と質との二面に.おいて,限界があると考えている。量的

(16)

香川大学経済学部 研究年報 6 J966 岬 β6−・ な面の限界ほ,すべての利用できる監査証拠を監査するということは経済的に 実施不可能であるということである。質的な面の限界は,もしもすべての利用 できる監査証拠を監査することが可能であったとしても,財務諸表の適正表示 を立証するものとして,そこに収集された監査証拠ほ決定的な立証能力をもた ないというこ.とである。その理由としては,(1−取引の脱漏,(2)文書の偽造,(3) 資産の模造などの可能性があり,監査人が収集する監査証拠は,これらの事実の 摘発または鑑定として決定的な性質をもつものではないことがあげられる。期 それゆえに.,監査証拠に関連するこれらの限界を克服するために・,監査人ほ 内部統制組織に.依存する。すなわら,第1に,監査人が,内部統制組織の機能 の有効性を検討することによって,監査証拠を収集することができなかった事 項について,その妥当性が確かめられ,欝2に,収集した監査証拠の立証能力 が,内部統制組織の機能の有効性の検討によって強化される。33) ところが,内部統制組織の機能の有効性の検討のためには,監査命題を立証 する場合と同じように.,監査証拠を収集しなければならない。このように・,グ リネエーか−およびバーは,監査証拠の収集は,二重のはたらきをすると説明 する。94)すなわち,第1は,財務諸表の表示の適正性に閲する監査命題を,直 接的に.立証することであり,第2は,内部統制組織の機能の有効性を立証す ることである。その結果として,監査証拠と内部統制組織とほ,相互立証的 (mutual1ysupporting)であるとされる。35) 以上のように,かれらほ,財務諸表監査に・おける内部統制組織の重要性を認 識し,監査の実施業務に・おける位置づけを明確に・しようと試みている。ここで 32)J∂よd・,p・97小 33)J∂オd−,p・97・ 34)監査証拠のはたらきの二題牲については,つぎの拙稿で,詳しくのぺておいたので参 照されたい。「財務諸表監査における内部統制組織の本質」,『香川大学経済論凱,昭和 40年2月,55∼57ぺ一汐。なお,実際に.は,内部統制組織の検討と財務諸表の監査手続 とは,同時的に実施されることが多いので,両者の関係が不明瞭になると・とが多い。前 掲の拙稿でほ,内部統制組織に関する監査証拠のはたらきほ,二重の役割をもち,かつ 反覆的紅はたらくとした。また,内部統制組織の有効性自体を一層の証拠として考えた 場合には,一層の間接的証拠となることを指摘しておいた。グリネェ・一丸ーおよぴバ・− の論拠とは,若干異なるが,かれらの間接的立証と関連する思考である。

(17)

監査方法論に.ついて −β7− ほ,監査証拠の収集という監査の実施業務に,監査命題の立証と内部統制組織 の機能の有効性の検討という2つの面が含まれているととを指摘し,さら紅, そ・れを直接的立証と間接的立証という2つの立証形態として監査命題に結びつ ける。そこで,直接的立証と間接的立証とが,まったく別個のものとして存在 しているのではなく,監査業務のなかで,相互に密接に結びついていることが 明らか紅されるのである。 ⅠⅤ これまでの議論において,グリネエ−カーおよぴパーは,財務諸表監査で ほ,財務諸表の適正表示についての意見を基礎づけるために,その時々の状況 に応じて,各種の監査証拠を集収して,その適正表示を構成する基本的監査命 題を,ある場合は内部統制組織に依存して間接的に.,またある場合は,内部統 制組織匿依存しないで喧接的に・,立証すると説明した。ここでは,さら吟,こ れら2つの立証形態を利用して,財務諸表の適正表示の監査方式を展開する。 グリネエーーカ−およぴバーほ,財務諸表の表示の適正性の立証ほ,総勘定元 帳の残高の立証であるとする。それ故に,実在性,評価,分類および公開,期 間限定などの監査命題の立証は,総勘定元帳の勘定残高について行なわれる。 ここで,かれらは,監査人の勘定残高の見方に.は,2つの見方があり,ここか ら,勘定残高の監査方式紅,勘定残高アブロ・−チと取引アプローチとがあらわ れるとする。 すなわち,勘定残高を,1つの観点から見れば,それは,ある会計年度中の 特定の時点の資産,持分および経営活動を表示するものである。もう1つの観 点から見れば,勘定残高は,勘定紅記入された多くの取引の累積的結果を表示 するものと見ることができる。そこで,どのような勘定残高に.ついても,それ に関する監査命題を立証するために,2つの独立的方法を考えることができる。 勘定残高アブロ」−チでは,勘定残高が,ある特定の時点の資産,持分および経 営活動を表示するものと見るので,どのような時点でも,その時の勘定残高の 基礎をなす資産(たとえば,現金,売掛金,受取手形など),持分(たとえば 買梯金,支払手形など)および経営活動(たとえば,経営活動の成果)は,実

(18)

香川大学経済学部 研究年報 6 J966 ・−ββ−

際に監査することができる。8¢)

これに対して,取引アプローチをとれば,勘定残高は,勘定に記入された取

引の累積的結果を表示するものとして見るので,ある期間をとって,売上,仕

入,給料または減価償却のような取引の種類ごとに監査する。そして,それぞ

れの取引について,すべての真実の取引だけが記録されていることが立証でき

れば,総勘定元帳の勘定残高について,その実在性,評価,ある場合に・は期間

限定を立証することができる。取引アプローチによっても,分類および公開に

関する情報をえることができるが,一・般に.は,決算日の勘定残高の内容の詳細

を検討することによって分類および公開の妥当性を確かめることができる0

このような2つの監査方式が,総勘定元帳のそれぞれの監査命題に・ついて,

いろいろなク.ェ.イトで,両方が組み合わされて用いられるとしている。の

以上のようなグリネエ−カーおよびバーの2つの監査方式では,勘定残高ア

プローチは時点監査であり,取引アプローチは.期間監査であると考えることが

できる。かれらほ,いずれの監査方式も,貸借対照表および損益計算書のどの

項目にも適用できるというたてまえのようであるが,その例のあげかたでは,

勘定残高アブロL−チは資産および負債の項目に・,取引アプローチは・,収益および

費用の項目に.,重点がおかれるよう軋思われる。しかし,原理的に・は,損益計

算書の項目に.も,時点的な勘定残高アプローチを,貸借対照表の項目にも,期

間的な取引アプロ−チの適用の可能性を考えているところに,かれらの考え方

の特徴がある。こ.れは,まえにも指摘したように,実在性の監査命題を特紅重

視し,単に資産および負債の実在ばかりではなく,損益計算書項目の実在性を

考えて,経営活動の実在性をも監査命題に・含めているところから,取引の実在

性を重視する考え方になったのであろう。このように取引の真実性の立証を中

心とする監査の考え方は,見方によれば,損益計算中心の監査思考紅通じるの

であるが,グリネエL−カーおよびバ−の考え方ほ,必ずしもそうではない。

むしろ,近代の損益計算の判断の監査に重点におくというよりも,より素朴に,

取引事実が真実に存在したかどうかということを確かめることを重点をおいて 36)J∂紘,p.102・ 37)∫∂∠d.,p一102・

(19)

監査方法論について −βクー・ いるのにすぎない。ここに,かれらの欠陥が見られる。38) つぎに,グリネエー・カーおよびバ−は,勘定残高アプローチと取引アプロー チの,性質,長所および短所について説明しているので,これを見て行く。ま ず,勘定残高アプローチであるが,これは勘定残高に関する4っの監査命題す なわち,実在性,評価,分類および公開,期間限定を,直接的に.立証するもの として機能するのが通常であるとする。この監査方式の長所は,強力な立証の 結果をえることができる点紅ある。すなわち,この監査方式に.よって収集され る監査証拠は,実査,直接的確認および分析的証拠などのよう紅,強力な監査 証拠であるからである。39) しかしながら,グリネエL−カ−およぴバ−は,この監査方式が,他方に.おい て,固有の欠点を含むことを明らか紅する。その第1ほ,経済性の点から,利 用できる監査証拠のすぺでではなくて,その−・部分をサンプルとして監査しな ければならないという点から,サンプルの特徴が全体を代表していないという 可能性があることである。第2の欠点は,たとえ,立証能力の高い監査証拠が 収集されたとしても,それらは偽造され,あるいは操作が加え.られている可能 性があるというこ・とである。その例として,棚卸資産を実査したとしても,そ 38)グリネ・エ−・カーおよびバー・の勘定残高アブロー・チと取引アブロー・チの考え方は,必ず しも,かれら独自のものでなく,他のものにも見られる。たとえば,スタットラ・−・は, これを,直接的アブロ−チと間接的アプローチ・とよぶ。すなわち,監査の一般的方式は, 後進法であり,財務諸表より出発して,監査証拠紅満足するまで,会計のプロセスを後 に・たどる。そして,直接的アブロ−チとは,財務諸表を構成する勘定残高を立証する監 査証拠を連接紅集収する仕方であるとし,現金残高を確かめるための実査を例にあげて いる。また,間接的アプローチとほ,勘定に瀾係する取引を監査することに.よって勘定 残高を立証する仕方であるとする。たとえば,固定資産の取引は数が少ないので,期中 の取引を監査することにより,勘定残高が立証できる。損益勘定に.ついても間接的アブ ロ−チが適用され,取引が発生したことの文書的証拠から財務諸表の数字までの証拠の 連鎖が形成されて,立証が行なわれるとする。また,内部統制の検討の場合にも,間接 的アブロー−チLと同じ方式がとられるとする。HlrFlStettler,Audiiing Pri−nciPIcs, 2nd ed,pp‖112∼3い しかし,グリネエ・−・か−およぴバーーの見解は,スデットラ←の見解に.対して−,2っの監 査方式の相互関係を明確にしたこと,内部統制組織の位置づけを明らかに示したこと, 試査との関係紅独自の見解を導いたことなどに特徴があるといえる。 39)R・LGrinaker and B。BBaIr,Ob.cit.,,p。103.

(20)

香川大学経済学部 研究年報 6 エ9β6 −一夕クーー れは実在性の外観を確かめることができるだけで,監査人は,鑑定人もしくは 評価人ではないので,その棚卸資産が模造品紅すりかえられでいないことまで は立証できないことが,あげられる。40) さら把.,グリネエ1−カーおよびバーは,この監査方式の適用領域について, つぎのような説明を与えている。この監査方式が適用されでもっとも信頼でき る結果がえられるのは,−・般に.,勘定に記入された項目の真実性を立証しよう という場合であり,逆に,効果が少ないのほ.,監査人にかくされたり,あるい ほ勘定からもれた資産,持分および経営活動の存在を確かめようとする場合で ある。41) つぎに.,取引アプローチの性質,長所および欠点に.ついて,説明を加えてい る。取引アプローチは,一億期間中の取引を立証するものを監査する方式であ り,各種の取引について,すべての真実の取引だけが記録されていることを立 証すれば,総勘定元帳の勘定残高を立証することができるという考え方に.よる。 そして,この監査方式によって,取引について実在性,評価,期間限定の妥当 性を立証できるとする。42) この監査方式の長所および欠点は,、そこに収集される監査証拠に.依存する。 取引紅ついて−,真実の取引だけがすべて記入されていることを立証するため紅, 監査証拠を収集しようとする場合に,利用できる監査証拠は,取引の基本的特 徴から,企業および取引の性質に.よって非常に相違する。すなわち,取引は, 経営事象であり,−・時的性質のものなので,取引が,実際に発生したかどうか を確かめるためには,取引発生に.立会い,事実観察を行なうこと紅よってのみ 可能である。そして,事実観察以外の監査証拠は,発生した取引事実に・ついて の推定的な監査証拠であるにすぎない。こ.のように・,利用できる監査証拠に は,立証能力のきわめて大きいものから,非常に.弱いものにまでおよぶ。 とこ.ろが,取引アプローチにおいては,ある特定期間中のすぺての取引の発 生を事実観察するようなことは,通常の場合,不可能であって,多くの取引は, 内部証拠または中間的証拠などに.よって立証しなければならない。しかし,こ 40)J∂柑.,p,103・ 41)∫∂gd.けp‖1031 42)J∂拍.,p.104.

(21)

監査方法論について− −9Z− れらの監査証拠ほ,取引の真実性を立証するに.は,不十分であり,したがって 内部統制組織に依存して監査することになる。43) このように,グリネエ・−カおよびバ−は,勘定残高アプローチが,主として 直接的立証と結びつくに対して,取引アプローチは,間接的立証に.結びつくと している。これは,かれらほ.,取引の真実性を立証するの紅,本来は最高の監 査証拠は事実観察であるとするが実際に.は文書的証拠紅顔らなければならない からである。こ.こ紅も,事実の立証という考え方が,基礎になっていることが うかがわれる。 とこ.ろで,グリネエ−カ−およぴバ−は,以上にのぺたように.,監査命題を 直接的紅立証するのに不十分な監査証拠が,内部統制組織の機能の有効性を検 討するのに,な紅ゆえ紅十分と考えられるかという問題に,つぎのような説明 を与えている。かれらは,内部統制組織の機能の有効性の検討は,監査人の予 備的調査と考える。この予備的調査は,内部統制組織の健全性についての暫定 的評価を与える。そしてその後の監査は,さきに与えられた内部統制組織の暫 定的評価が正しいものかどうかを検討する目的で行なわれ,内部統制組織が, 計画通りに・運営されているという合理的保証がえられる。こ.のようにして−,監 査証拠が,監査命題の直接的立証のためにほ不十分であっても,内部統制組織 の機能の有効性の検討のため紅は十分であり,内部統制組織は監査証拠の立証 能力を高めるが,逆に監査証拠は内部統制組織の信頼性を立証するという相.互 紅立証的な関係にあり,内部統制組織の有効性の検討は,その内部統制組織の 関連する項目の間接的立証となる。44) グリネエ−カーーおよびバ−は,以上のように,取引アプローチを,一・般に,間 接的立証と結びつけるのであるが,取引アプローチによっても直接的立証が可 能な場合があることを指摘する。たとえば,固定資産の購入の場合紅は,その 取引を立証するために・,文書的証拠はもちろん物的証拠をも収集することによ って,記録された取引の正確性および真実性を直接的に.立証することができる とする。45) 43)′∂∼♂い,p.104 44)′∂柑.,p‖105 45)J∂紘,pり105

(22)

香川大学経済学部 研究年報 6 ー且2− ユタ66 さらに.,取引アプローチにおいても,全体的検査または関連研究による分析 的証拠を収集して,直接的立証が行なえるとする。その例として,すべての固 定資産の取引が記録されていることの立証は,固定資産勘定の増減と保険料, 固定資産税,修繕および維持費などの増減紅関連づけることによって行なわれ ることがあげられている。こ.のように,グリネエーカーおよびバーは,監査命 題の直接的立証として,きわめて強力な場合があることを強調する。46) 取引アブロL−チの場合も,勘定残高アプローチの場合と同じように,固有の 弱点をもっている。その第1は,監査人は,通常,会計期間中のすべての取引 を監査するのでほなく,そのうちのサンブノヒだけを監査するので,サンプルの 特徴が全体を代表しないかもしれないという危険があるということである。第 2は,取引アプローチで利用できる監査証拠が弱いため紅,監査人は,しばし ば内部統制組織に依存して,間接的立証を行なわなければならないということ である。それゆえに,取引アプローチだけに.よって,監査命題の立証の基礎と することはできない。47) 以上のように.,グリネエ−カ−およびバーは,監査方式として,勘定残高ア プローチと取引アプローチとをあげ,そのどちらも,固有の弱点をもっている ので,一方だけで,全体的に.十分ではなく,両方の監査方式は相互紅依存的で あるとする。すなわち,それぞれの監査方式に.よってえられた結果が,相互に 支持し合うような場合には,・その立証は強められる。48) さらに.,グリネエ−カーおよぴバーは,2っの監査方式の相互立証あるいは 相互強化の考え方を進めて,1つの監査方式の範囲が他の監査方式の結果紅よ って修正されるという考え方にまで拡張している。その例として,売掛金をと りあげる。売掛金紅関する取引として売上および現金の受領を監査して,それ に関連する内部統制組織が特に強力なことが確かめられれば,これ紅よって勘 定残高アブロ−チの適用の範囲を修正する。たとえば,監査する勘定の数を, 通常の場合よりも少なくするかもしれない。また,通常の場合よりも,立証カ 46)∫∂ざdい,p.105. 47)J∂≠♂..,p.105い 48)∫∂摘.,p、107・・

(23)

監査方法論につい て −9β− の鰐い監査証拠を収集するかもしれない。たとえば,積極的確認でなく消極的 確認を選ぶかもしれない。49) これまで紅,立証形態,監査命題および監査方式についてのグリネエーか− およぴバ・−の考え方を紹介してきたのであるが,全体としての批判紅ついては 後に.ゆずるとして,ここでほ,簡単に,かれらの考え方のすじ道を明確にして おきたい。 かれらは,監査に.おける立証形態を,直接的立証と間接的立証とに分けた。 そして,十分な鼠と質の監査証拠が収集されるときを直接的立証とし,不十分 な最あるいは質の監査証拠しか収集されないときに,内部統制組織に依存する 立証を間接的立証であるとした。そこでほ,明確な表現としてあらわれてはい ないが,直接的立証を基本的立場とし,間接的立証は,基本的立場がとれない ときに.,止むをえ.ないものとして行なわれるものとしていると思われる。 なお,直接的立証を十分な畳および質の監査証拠が収集される場合とし,間 接的立証を不十分な盈あるいは質の監査証拠が収集される場合であるとするが ここでいう十分とか不十分とかいうことは立証すべき監査命題に対する判断で あり,間接的立証は,監査命題を直接的に立証するためにほ不十分な監査証拠 であっても,内部統制組織の機能の有効性を立証するにほ十分な塁と質の監査 であるといえ.る。このように考えれば,それほあまり意味のある表現ではない が,内部統制組織の機能の有効性の直接的立証ということもできる。 つぎに,グリネエ−カーおよびバーーは,総勘定元帳の勘定残高に対する監査 方式として,勘定残高アブロ−チと取引アブロ−チとをあげてこいる。そして, 49)∫∂紀.,p,107..スタットラ−は,近代監査に.おいで,内部統制組織を非常紅重視した 横板的アプロ−チを考えている。すなわち,つぎのようにいう。もしも会社の会計組織 が良好な内部統制組織を備えており,そしてもしもそれが計画通りに運用されている場 合に.は,財務諸表は完全紅承認できるはずである。したがって,監査人の監査は,内部 統制組織の十分性を決定し,かつその計画通りの運用を確かめ,それから監査人がよし という意見がだせるはど信頼的であり,かつ正確であることを決定するため紅会計の最 終的結果を換討することにある。H.F.Stettler,0?1,Cit.,p.90 このような議論を進め,かつ内部統制が決界記帳に.までおよぶとすれば,監査人の監 査ほ,内部統制の有効性の検討によって行なわれ,財務諸表の適正表示の意見が形成さ れるとすることができるであろう。ただし,これは極限的な理想状唐であろう。

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香川大学経済学部 研究年報 6 −・9嘩− J966 勘定残高アブロ−チは,時点的な監査方式とし,.通常,十分な鼠と質の監査証 拠が収集されるので,連接的立証に結びつくものとし,取引アプロ丁チは,期 間的な監査方式とし,通常,不十分な壷あるいは質の監査証拠しか収集できな いので,間接的立証に.結びつくこ.とが多いとする。ところで,この2つの監査 方式は,どちらも固有の濁点をもっているので,一L方のみに依存することはで きず,相互依存的であると考える。そこで,ここでは,直接的立証と間接的立 証とが,同等の重要性紅まで引き上げられているといえよう。 さら紅,勘定残高アプローチの適用の範囲ほ,取引アプローチの適用の結果 に・よっで影響をうけ,それによって修正されるという関係を指摘する。そこで は,取引アブロ・−サの主たる内容をなす間接的立証は,重要な位置を占め,財 務諸表監査紅おいて,先行すべき性質のものとされるに㌧至る。 このような関係で,勘定残高アプロ」−チも,また,内部統制組織の機能の有 効性に依存する結果になる。それゆえに.,喧按的立証が間接的立証に変化する のかという疑問が生じる。しかし,ここでは十分な患および質の監査証拠の意 味が変わったのであると考えることができる。すなわち,内部統制組織の機能 が有効であると判定された結果,十分な鼠と賀の程度が,それだけ引き下げら れて,その引き下げられた星と質の監査証拠で十分であると考えられるように なる。けれども,・それはあくまでも監査命題の立証であって,内部統制の機能 の有効性の検討ではないとすれば,なお直接的立証としてとどまるであろう。 このように.,かれらの見解ほ,直接的立証と間接的立証の−・体化,あるいほ 勘定残高アブローーチと取引アブロ−チの−り体化に向っている。すなわち,監査 命題に.対する監査証拠の収集という監査方式は,近代監査においてほ内部統制 組織に密接に結合しているからである。したがって,かれらも指摘するように 監査証拠ほ,監査命題の立証の手段としてはたらくと同時に.,内部統制組織の機 能の有効性の検討としてはたらくので,喧接的立証と間接的立証という立証形 態も,勘定残高アブロ・−チと取引アプローチという監査方式も,監査証拠紅関 して一・体化に向わざるをえないのである。こここで,監査証拠ほ,予備調査とし て,内部統制組織の機能の有効性を検討するために収集され,そこでえられた 有効性紅ついての暫定的評価に基づいて,監査命題を立証するため紅必要な十 分な鼠と質の監査証拠が収集される。ここで収集された監査証拠ほ,さらにま

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監査方法論紅ついて −95一− たさき紅判定された内部統制組織の機能の有効性の暫定的評価を検討すること に.役立つ。 そこ.で,監査命題の立証一直接的立証一勘定残高アプローチと,内部統 制舶織の有効性の検討−一間接的立証−一取引アブロ・−チとの−・体的結びつき の考え方は,われわれに.よれば,つぎのように表現できる。すなわち,監査命 題の立証は,監査証拠の収集に.よって,内部統制組織の有効性の暫定的評価の 提示とその検討を繰り返すこ.と紅よって,より強固に.なる。50) このよう紅,かれらの思考は,内部統制組織を中心にし,構成しているが, この点,若干,中途半端に.とどまっている。 Ⅴ グリネエ」−カ−およびバーほ,試査は,監査方式において重要な問題である と考え.る。ところで,かれらは,試査をサンプリングと同じとする。試査は,全 体よりその−・部を抜きだして,その標本を調査するこ.とに.よって全体の妥当性 を判断する。このような監査人の試査の方法に.おいて,最近統計的技術の適用 が研究されるようになってきている。ところで,かれらは,試査にとって,統 計的技術が,どのような場合紅でも利用できるのではなく,その利用が役立っ 場合とそうでない場合とを明らかに.して,監査人が,統計的技術の利用につい ての判断を誤らないようにすることが必要であるとする。51) そこで,グリネエ・−か−およびバ・−は,サンプルの選択および範囲の決定に・統 計的技術が用いられる統計的サンプリング(statisticalsampling)と,サンプル 50)われわれは,内部統制組織の検討が継続的評価過程であることを別稿で展開した。す なわち,内部統制組織の検討は,1回限りのものではなく,その後に.行なわれる監査証 拠の集収に.よって,たえず検討され,修正されるものである。拙稿,「財務諸表監査にお ける内部統制組織の本質」,『香川大学経済論凱,昭和40年2月。また,AICpAの 見解にも,これを支持するものが見られる。それは内部統制の有効性に基づき決められ た試査の範囲は,その試査の結果によって修正されることもあるとしている点である。

AICpA,Audi’iing Siandards and ProceduY’eS,p・32・

さらに,ぺルべおよびと・−トンは,証拠一億論−一枚証の過程を,監査方式の全体 系に.組み入れている。S.WいPeloubet andHlHeaton,Op・Cit.,p.30.

参照

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