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東 芝 第 三 者 委 員 会 調 査 報 告 書 の 検 証 と 再 発 防 止 に 向 けての 実 務 的 対 応 高 田 寛 キーワード

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富 山 大 学 紀 要. 富 大 経 済 論 集

第61巻第 3 号抜刷 (2016年3月)

富山大学経済学部

高 田   寛

東芝第三者委員会調査報告書の検証と

再発防止に向けての実務的対応

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東芝第三者委員会調査報告書の検証と

再発防止に向けての実務的対応

高 田   寛

キーワード:東芝不正会計処理,第三者委員会調査報告書,監査委員会,会計 監査人,外部監査,コーポレートガバナンス Ⅰ.はじめに Ⅱ.東芝不正会計処理の経緯と概要 Ⅲ.第三者委員会調査報告書の指摘事項 1.直接的原因 2.間接的原因 Ⅳ.監督・監査の限界 1.経営者の意識と企業風土 2.取締役会 3.監査委員会 4.会計監査人 Ⅴ.再発防止に向けて 1.経営者に対する意識改革と倫理教育 2.企業風土と人事システム 3.取締役会の責任と社外取締役 4.監査委員会の資質と能力 5.外部監査の有効性 Ⅵ.結びにかえて

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Ⅰ.はじめに

近時,わが国では大企業の不祥事が相次いでいる。オリンパス粉飾決算事 件(1),東洋ゴム免震装置事件(2),タカタのエアバッグ事件(3),東芝不正会計 処理事件(4),旭化成建材マンション杭打ち事件(5)など,短期間に立て続けに 大きな企業不祥事が起きた。 中でも,2015 年の株式会社東芝(6)(以下「東芝」という。)の不正会計処理 事件は,わが国のみならず海外に対しても大きな衝撃を与えた。その理由は, 東芝が日本を代表する大企業であるだけではない。東芝が,いち早く指名委 員会等設置会社(7)としてコーポレートガバナンスに取り組んできた企業であ るにもかかわらず,オリンパス事件と同様,経営のトップ(8)の主導による不 正会計処理が全社的に行われていたという点である(9)。このため,本事件は, 不正会計処理というよりも粉飾決算(10)に近い。 約 16 年前にアメリカで起きたエンロンの粉飾決算事件(11)では,当時,全 米 8 位の規模の大企業であるエンロンが経営破たんにより倒産した。その原因 は,利益至上主義に走る経営トップの主導による粉飾決算である。2011 年の オリンパス事件も同様の粉飾決算が行われた。 2013 年,会社法が改正された。法改正に当たり,コーポレートガバナンス に関して,取締役会に少なくとも 1 人の社外取締役(12)を置くことの是非を巡っ て,法制審議会会社法制部会で白熱した議論が交わされた(13)。結局,この案 は見送られることになったが,その流れは企業の意識として現れ,現在,東京 証券取引所に上場している企業の約 9 割が社外取締役制度を導入している(14) また,2015 年 6 月,東京証券取引所と金融庁は,コーポレートガバナンス・ コード(15)を発表した。コーポレートガバナンス・コードは,第一義的には企 業不祥事を防止するためのものではないが,今後のコーポレートガバナンスに 大きな影響を与えるものである。 コーポレートガバナンスを巡るこのような趨勢の中,過去に大きな先例とな るべき事件もあったにもかかわらず,東芝の経営トップらは同じ間違いを繰り

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返した。東芝の経営トップらが,コーポレートガバナンスの重要性と,これら の過去の不祥事を知らなかったはずはない。これは,何を意味するものなので あろうか。 本稿では,東芝不正会計処理の第三者委員会調査報告書(16)(以下「本報告書」 という。)を検証するとともに,企業不祥事を防ぐ法制度としての会社法制を 再度検討することにより,なぜ企業不祥事が起こるのかを明らかにし,経営トッ プによる企業不祥事を防ぐための法システムの在り方を実務的な側面から考察 する。

Ⅱ.東芝不正会計処理の経緯と概要

東芝の不正会計処理が行われるようになったのは 2008 年頃からである。当 時,リーマン・ショックの煽りを受けて,東芝は過去最悪となる 3,435 億円の 赤字を計上した。このため,西田社長(当時)は,部下達に業績を上げるよう 強く迫り,利益を嵩上げする不正な会計処理が行われるようになった。西田氏 は,「死に物狂いでやってくれ。最低 100 億円やること。」などと部下にプレッ シャーをかけたという。また,元子会社社長の証言によると,西田氏は,「経 理なんて言われたとおりに数字をつけておけばいいんだ。」と発言し,そうし た考えがほかの部下の間でも広がった(17) 具体的に,PC 事業カンパニーでは,委託生産先に実質的な買戻条件付の部 品を有償支給し,その製品を買取る取引を行っていたが,西田氏の認識・許容 の下,カンパニー社長の意思決定により,委託先に調達価格の数倍以上の価格 で部品を供給し,四半期ごとに部品の押込販売を行い,多額の収益の前倒し計 上を行っていた。 その後,2009 年 6 月に西田氏から佐々木氏に社長が交代したが,この不正 会計処理はさらにエスカレートしていった。元執行役は,「佐々木さんからは 厳しく叱責され,“利益を出せ”とか抽象的な指示を受け,とても嫌な思いを させられた。」と証言している。また,佐々木氏は,社長月例会の場で,決算

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までの 3 日間で 120 億円の利益を出すよう迫るなど不可能な要求をするように なったという(18)。「チャレンジ」と称するこのような強いプレッシャーの中, 不正会計処理が継続的に行われるようになった。 たとえば,佐々木氏の時代では,映像事業カンパニーや PC 事業カンパニー で,佐々木氏の認識・許容及びカンパニー社長の了解の下,事業部門の部門長 が各地域担当長に,損益目標値を達成するためキャリーオーバー(C/O)と称 する費用の先送りの損益調整対策の指示を行った(19) 次の社長の田中氏の時代でも,不正会計処理は是正されることなく続いた。 元執行役は,「田中さんは対外的に必要以上に高い目標を公表してしまう。」と 証言している(20) この頃は,電力事業及び社会インフラ事業における工事進行基準等の受注案 件に関して,田中氏の認識・許容の下,カンパニー社長が各事業部に対して, 予算目標達成のプレッシャーを与える,又は工事損失引当金の計上を認めない, 若しくは,事業採算について見積工事原価総額の増加見積値の反映を認めない, など本来計上すべき工事損失引当金を計上しないこと等による損失の先送りが 行われた(21) このような中,証券取引等監視委員会(22)に届いた内部通報をきっかけに東 芝の不正会計処理が発覚し,2015 年 2 月 12 日,同監視委員会は,東芝に対し て金融商品取引法 26 条(23)に基づき報告命令を発し,工事進行基準案件等に ついて開示検査を行った。そして,同年 3 月下旬,開示検査の指摘に対応する ため,2013 年度のインフラ関連の工事進行基準案件の会計処理に関し,調査 を要することが判明した(24)。そして同年 4 月 3 日になってはじめて,東芝は 不正会計処理を公表した。 その後,工事進行基準案件に端を発する東芝の不正会計処理は,パソコン, テレビ,半導体などの主要事業でも利益の嵩上げが判明し,歴代社長 3 氏によ る組織的関与が明るみに出た。 このため,同年 5 月 8 日,東芝は中立・公正な外部の専門家から構成される

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第三者委員会(25)による調査を決定し,同月 15 日,第三者委員会に調査を委 嘱した(26)。その約 2 ヵ月後の同年 7 月 20 日,本報告書が発表され,翌 21 日, 田中氏,佐々木氏,西田氏の歴代 3 社長をはじめとする経営トップらが辞任し た。 本報告書によると,2008 年 4 月から約 7 年間の間に,利益の嵩上げによる 利益の過大計上は,総額 1,518 億円にも上ることが判明した。 これにより,同年 8 月 18 日,東芝は新たな経営体制(27)を発表し,同年 9 月 30 日の臨時株主総会で承認された。この間の 9 月 7 日,本来の提出期限か ら約 2 カ月強遅れて 2014 年度の有価証券報告書を提出し,過年度の利益修正 額が 2,248 億円となることを公表した。 これら一連の歴代 3 社長のよる不正会計処理に対し,同年 11 月 7 日,東芝 は歴代 3 社長ら 5 人を提訴した(28)。しかし,その後も,同月 17 日,原子力事 業子会社ウエスチングハウス(WH)に 1,156 億円の減損が存在することが明 らかになった(29) なお,証券取引等監視委員会は,東芝に対し,行政処分として課徴金 70 億 円超を科すよう金融庁に勧告する方向で調整に入り(30),その後,同年 12 月 25 日,金融庁は東芝に対し,金融商品取引法違反(有価証券報告書などの虚 偽記載)があったとして 73 億 7350 万円の課徴金納付命令を出した。

Ⅲ.第三者委員会調査報告書の指摘事項

第三者委員会は,工事進行基準などの会計手法の問題ではなく,全社的な不 正な会計処理そのものに問題があると指摘し,その調査対象をほぼ全事業とし ている。以下,重要な指摘事項を要約する。 1.直接的原因 (1)経営トップらの関与を含めた組織的な関与 本報告書では,組織的な関与について,本社組織であるコーポレート(31)

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事業組織であるカンパニー(32)の両面からまとめている。 コーポレートの関与としては,「経営トップらが意図的な見かけ上の当期利 益の嵩上げの実行や費用・損失計上の先送りの実行又はその継続を認識したの に,中止ないし是正を指示しなかった。」とし,「社内カンパニーから工事損失 引当金の計上の承認を求められたのに対して,経営トップがこれを拒否したり 先延ばしの方針を示した。」としている(33) また,本報告書は,「見かけ上の利益の嵩上げを行わざるを得ない状況にな りかねないことを認識しつつ,社内カンパニーに対して厳しい『チャレンジ』 を課してそのような状況に追い込んだり,・・・見かけ上の利益の嵩上げを解 消する意向を示したのに対して難色を示した。」としている(34) また,カンパニー側としても,「社内カンパニーのトップが不適切な会計処 理の実行又は継続的に関与していたものが認められ,・・・社内カンパニーのトッ プである CP(35)が自ら積極的に不適切な会計処理を指示する・・・」とし,コー ポレート,カンパニー双方の経営トップらの関与があったことを最初に指摘し ている(36) (2)経営トップらにおける意図的な「当期利益の(実力以上の)嵩上げ」の 目的 本報告書は,「コーポレートの経営トップら又は社内カンパニーのトップら が,『見かけ上の当期利益の嵩上げ』を行う目的を有していた。」とし,「幹部 職員等の担当者らは,・・・当該目的の下で,不適切な会計処理を実行し又は 継続してきた。」としている。すなわち,上記(1)で指摘した経営トップら の関与は,意図的であったことを明らかにしている(37) (3)当期利益至上主義と目標必達のプレッシャー 本報告書では,利益至上主義と目標必達のプレッシャーに関して,毎月行わ れる社長月例会の存在を挙げ,予算の達成及び見込みの状況については,社長

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月例会で報告されていたとする。 この社長月例会について,本報告書は,「P(38)から各 CP に対し,『チャレンジ』 と称して設定した収益改善の目標値が示され,その目標達成を強く迫っており, 業績不振のカンパニーに対しては,収益が改善しなければ当該担当カンパニー の事業からの撤退を示唆することもあった。」とし,「そのため,各カンパニー の CP らは,これらの目標を必達しなければならないというプレッシャーを強 く受けていた。」とする(39) ただし,「P が示す『チャレンジ』のほとんどは,長期的な利益目標などの 視点から設定されるものではなく,当期又は当四半期における利益を最大化す るという観点(当期利益至上主義)から設定される目標達成値であった。」とし, その目標値が,長期的な戦略的経営判断によるものではなく,単なる利益至上 主義によるものであったことを明らかにしている(40)。このように,東芝の「チャ レンジ」は,場当たり的な目標設定であり,適正な経営判断とは言えるもので はなかった。 また,本報告書は,「もはや精一杯の営業努力を尽くしても多額の収益改善 を図ることが困難となってからも,会社の実力以上に嵩上げして設定された予 算を達成するための『チャレンジ』が示されていた。」とし,「各カンパニーに おいては『チャレンジ』を達成するためには,当期末の経営成績どおりの会計 処理を行うのではなく,実質的に来期以降の利益を先取りしたり,当期の損失 や費用の計上を次期以降に先送りすることなどにより,当期における見かけ上 の利益を予算やチャレンジの値に近づけるという不適切な会計処理を行わざる を得ない状況に追い込まれていた。」としている(41)。このように,経営トップ らの利益至上主義による不可能な目標設定が,不正会計処理を誘引したことを 明らかにしている。 また,「更なる多額の不適切な会計処理が行わざるを得なくなるということ の繰り返しにより,不適切な会計処理が継続され,その規模も拡大していった。」 とし(42),不正会計処理が継続及び慢性化していたことも明らかにしている。

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(4)上司の意向に逆らうことができないという企業風土 本報告書では,「上司の意向に逆らうことができないという企業風土が存在 していた。このため,経営トップからの『チャレンジ』が行われた結果,経営トッ プの意向を受けた CP,その下の事業部長,さらにその下の従業員らは,上司 の意向に沿って目標を達成するために,不適切な会計処理を継続的に実行して いた。」としている(43) また,社内ルールに関しても,「経理規程等において定められた明文上のルー ルに基づく会計処理を行う前に,順次,上司の承認を求め,その承認が得られ なければ実行できないという事実上のルールが存在していため,仮に上司の承 諾が途中で得られなかった場合には,明文上のルールに基づく適切な会計処理 それ自体がなされないという自体に陥ることとなった。」としている(44)。すな わち,東芝内において,経理規程を有名無実化する事実上のルールが存在して いた。 このため,たとえば,「実務担当者が上司に工事損失引当金の計上の承認を 求めても承認が得られず又は消極的な意向を示されることにより,工事損失引 当金の計上のための手続きが行われないこととなった。」ことを明らかにして いる(45) さらに,本報告書は,「CP や GCEO(46)の中には,・・・独善的な考えのもとに, 適時・適切な会計処理を拒否する者もいた。」としている。このため,「工事引 当金の計上を必要とする案件があっても,その計上を断念するようになってい た。」とし(47),度重なる経営トップらの拒否と経理規程を無視する事実上のルー ルにより,上司の意向に逆らうことができない企業風土が作られていった。 (5)経営者における適切な会計処理に向けての意識又は知識の欠如 本報告書は,「会計処理の担当者,その上長である事業部長やカンパニー CP のみならず,コーポレート P,GCEO 及び CFO(48)に至るまで,数値上の 利益額を優先するあまり,適切な会計処理に向けた意識が欠如していたり,希

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薄であった。」としている(49) また,「実際に会計処理を担当する担当者ら,その上長である事業部長及び カンパニーのトップである CP らにおいて,一般に公正妥当と認められる企業 会計の基準について,十分な知識を有していない状況がみられた。」としてい る(50)。しかし,中小企業ならいざ知らず,東芝のような世界的な大企業に, 果たしてこのようなことが本当にあり得るのであろうかとの疑問が生じる。 さらに,本報告書は,東芝グループ行動基準にも言及し,「東芝グループ行 動基準が存在したにもかかわらず,東芝の役職員において,適切な会計処理に 向けての意識が欠如していたり,必要な知識を有していなかった。」とし(51) 東芝の行動基準も有名無実化していたことを示している。 (6)東芝における会計処理基準又はその運用に問題があったこと 会計処理基準の不備に関し,「いくつかの案件については,東芝において定 めている会計処理基準が適切でなかった。」とし,「いくつかの案件について は,・・・会計基準どおりの運用がなされていなかった。」としている(52)。す なわち,会計処理基準のルールが不備であったうえに,またそれを無視するこ とが日常的に行われていたことを明らかにしている。 (7)不適切な会計処理が,外部からは発見しにくい巧妙な形で行われていた こと 本報告書は,「不適切な会計処理を見ると,その多くは継続的に実行されて きた。」とし,その一因として,「不適切な会計処理が,関係者に対して十分か つ真正な説明がなされることなく,外部からは発見しにくい巧妙な方法で行わ れていた。」とする。会計監査人についても,「担当者がそれなりの説明を行え ば,外部の会計監査人が発見することは困難であった。」とし,また別の例でも, 「会計的知識を有する者であっても容易に発見できるものではなかった。」とし ている(53)

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上記(5)では,「実際に会計処理を担当する担当者ら・・・において,一 般に公正妥当と認められる企業会計の基準について,十分な知識を有していな い状況がみられた。」としているが,一般に公正妥当と認められる企業会計の 基準について十分な知識を有していない会計処理を担当する者が,はたして, このような巧妙な形で不正会計処理をすることができるのか疑問である。 2.間接的原因 (1)各カンパニーにおける内部統制が機能していなかったこと 各カンパニーにおける内部統制については,本報告書は,経理部による内部 統制と,内部監査部門による内部統制の双方に分けて説明している。 経理部による内部統制では,「第一義的には各カンパニーにおける経理部が, 適切な会計処理がなされているか否かをチェックするための内部統制部門とし ての機能を担っていた。」と経理部の内部統制に関する職務と責任について言 及し,「経理部担当者が引当金の計上等の会計処理が必要となる事実を知りな がら何ら行動をとらなかったり,・・・必要性を裏付ける事実を容易に知り得 たにもかかわらず何の行動もとらなかったり,・・・事業部長や CP らの指示 等により何らの行動がとれなかった。」ことについても言及し(54),経理部によ る内部統制が機能しなかったことを明らかにしている。 また,内部監査部門による内部統制については,第一に,「経理部以外に不適 切な会計処理をチェックすることができるような内部監査部門が設置されていな かった。」ことを挙げ,「指揮命令系統か独立した内部監査部門が設置されていな かったことが,内部統制が機能しなかったことの一因」と指摘している(55) (2)コーポレートにおける内部統制が機能していなかったこと コーポレートにおける内部統制については,本報告書は,経営者による不正 リスクに対する内部統制と,コーポレート各部門における内部統制の双方につ いて言及している。また,コーポレート各部門における内部統制については,

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財務部,経営監査部,リスクマネジメント部,有報等開示委員会,の各部門に ついての内部統制について言及している。 経営者による不正リスクに対する内部統制について,「経営トップや幹部職 員の関与により,財務報告に係る内部統制機能を逸脱,無効化して,その枠外 からの指示等により不適切な会計処理が行われていた。」ことについて再度言 及し,「これらの者の関与により不適切な会計処理が行われることを想定した 内部統制(リスク管理)体制が構築されていなかった。」としている(56) コーポレート各部門における内部統制に関して,財務部の当時の役割につい て,「各社内カンパニーが作成した決算を取りまとめて連結決算のための対応 を行うのみであり,各社内カンパニーにおける会計処理が適切であるか否かを チェックする役割を果たしていなかった。」とする。また,「当期利益至上主義 の下で,各社内カンパニーに対して目標達成のプレッシャーを与える過程に関 与していた。」だけでなく,「財務部の担当者自身が,不適切な会計処理が行わ れている事実を知りながら,何ら指摘・是正するなどの対応をとっていない事 実も見られた。」としている。さらに,「CFO 自身が不適切な会計処理に関与 している場合には,財務部による内部機能は全く機能していなかった。」とい う事実を指摘している(57) コーポレート部門には経営監査部が存在していたが,経営監査部の業務分掌 として,「コーポレート部門,カンパニー,分社会社及び関係会社に対する監 査をつかさどるもの」とされていた。しかし,「主として行っている業務は, 各カンパニー等において行われている『経営』のコンサルタント業務(業務監 査の一部)」であり,「会計処理が適切か否かといった会計監査の観点からの業 務はほとんど行われていなかった。」とする(58) さらに,本報告書は,経営監査部について,「P の中には,経営監査部に・・・ 『監査』の役割を期待していなかった者もいた。」,「監査を実施できるだけの人 数が配置されていたとは言い難い」,「キャリアパス的な位置づけで経営監査部 に人を配置するローテーション」にも言及しており,「適切な監査を期待でき

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る状況でもなかった。」としている(59) リスクマネジメント部に関しては,「業務分掌規程によれば,財務報告に係 る内部統制の有効性評価に関する基本方針の策定,・・・をつかさどるものと されている。」とするが,「カンパニー等における財務報告に係る内部統制が適 切に機能しているか否かをチェックすることは行っていない。」としている(60) また,東芝には,有報等開示委員会が存在し,本報告書は,その役割について, 「財務報告に係る内部統制システムの有効性評価結果の最終確認を行い,内部 統制報告書の内容につき社長に助言すること等」としているが,「若干の質疑 が行われていたことが窺われるのみで,財務報告に係る内部統制システムの有 効性について独自に何らかの確認や検討をしていた形跡は見当たらなかった。」 としている(61) (3)取締役会による内部統制(監督機能)が機能していなかったこと 東芝には,取締役会規則や取締役会規則運用要領があるものの,本報告書は, 「受注時に数十億円の赤字が見込まれる案件や,受注後に数百億円の損失が発 生することが判明していた案件が存在したにもかかわらず,これらの重要な案 件に係る損失の発生について取締役会において何らかの報告がなされた事実は 見当たらなかった。」としている。なお,その一因とし,「取締役会規則等にお いて,取締役会の報告事項として具体的に定められていないこと」を挙げてい る。しかしながら,本報告書は,「不適切な会計処理が行われていることを認 識することが可能な資料に基づいて社長月例会において P らに対して報告が なされていたこと」について言及し(62),経営トップらが意図的に取締役会で の議論を避けていたことが窺える。 (4)監査委員会による内部統制(監査機能)が機能していなかったこと 本報告書は,「不適切な会計処理について,監査委員会として取締役会に報 告を行ったり,何らかの指摘等を行った事実は見当たらない。・・・複数の監

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査委員が不適切な会計処理が行われている事実,又は,引当金の計上等の会計 処理が必要となることを裏付ける事実を認識しているにもかかわらず,監査委 員会において問題点を審査するなどの行動は行われず,また,監査委員会とし て業務執行者に問題点を指摘したりするなどの何らかの行動を行うことはな かった。」としている(63) また,具体例として,「1 人の監査委員が他の監査委員や業務執行者側に懸 念をしてきたにもかかわらず,監査委員会において問題点を審議するなどの行 動は行われず,また,監査委員会として業務執行者側に問題点を指摘したりす るなどの行動を行うこともなかった。」ことにも言及している(64) さらに,監査委員会の体制についても,「監査委員会は,概ね社内出身者 2 名とそれ以外の社外取締役より構成され,・・・社内出身者である 2 名の監査 員は,1 名が主として財務・経理に関する監査を,もう 1 名が主として法務に 関する監査をそれぞれ担当するなど分担しており,財務・経理に関する監査を 担当する常勤の監査委員が実質的に 1 名しか存在しない」ことを挙げ,また,「3 名の社外監査委員の中には財務・経理に関して十分な知見を有している者はい なかった。」としている。また,本報告書は,「監査委員会の補助スタッフとして, 財務・経理に精通した人員が多く配置されていなかった。」とし,監査委員会が, ほとんど機能していなかったことを明らかにしている。さらに,本報告書は,「主 として財務・経理に関する監査を担当する常勤の監査委員が CFO 経験者であっ た。」ことも指摘している(65) 本報告書は,監査委員会の役割について,「取締役及び執行役の職務の執行 を監査するとともに,必要な場合には取締役または執行役に是正を求めること」 を挙げ,その監査方法について,「①業務の有効性及び効率性の確保,②コン プライアンス及びリスクの管理,③財務情報・開示情報等の信頼性の確保」と している(66) さらに本報告書は,これらについて,「上記②は,東芝グループ行動基準の 東芝グループ各社における浸透状況等の監査であり,上記③は,『財務報告の

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適正確保のための体制の構築・運用及び評価の状況について定期的に所属部門 に報告を求めるほか,当社の四半期報告書,有価証券報告書及び内部統制報告 書につき,提出前に作成部門から説明を受ける。また,会計監査人から前述の 報告書等に関する監査状況の報告を定期的に求め,さらに同体制の有効性に重 要な影響を及ぼす恐れがある事項につき,遅滞なく当監査委員会に報告するよ う要請する』とされている。」と指摘している(67) しかしながら,本報告書は,「実際の監査委員会の監査は,①の業務の有効 性及び効率性の確保に主眼が置かれており,②や③の視点による監査は殆ど行 われていなかった」とし,「監査委員会による内部統制は機能していなかった。」 と結論付けている(68) (5)会計監査人による監査 東芝の会計監査人は,監査業界で最大手の新日本有限責任監査法人(69)(以 下「新日本監査法人」という。)である。 本報告書は,「会計監査人の監査(四半期レビューを含む)の過程において 指摘がされず・・・外部監査による統制が十分に機能しなかった。」とする。 その原因について,本報告書は,「・・・会計処理の意図的な操作であり,会 計監査人の気付きにくい方法を用い,かつ会計監査人からの質問や資料要請に 対しては事実を隠蔽したり,事実と異なるストーリーを組み立てた資料を提示 して説明するなど,外部の証拠により事実を確認することが困難な状況を巧み に利用した組織的に行われた不適切な会計処理であった。」としている(70) しかしながら,「このような会社組織による事実の隠ぺいや事実と異なるス トーリーの組み立てに対して,独立の第三者である会計監査人がそれをくつが えすような強力な証拠を入手することは多くの場合極めて困難」とし,外部監 査の限界について言及している(71) さらに,「本調査の目的は,会社の不適切な会計処理について,その内容,原因, 背景等を含めた事実関係を究明することにあり・・・会計監査人の監査の妥当

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性の評価・・・を調査することを目的としていない。」とし(72),会計監査人の 監査の妥当性の評価については,本報告書の目的の範囲外であることを明言し ている。 このように,本報告書は,東芝に対する監査手続きや監査判断に問題があっ たか否かは調査目的ではないとし,新日本監査法人の対応が適正だったか否か については言及していない。当然,会計監査人の監査の適正性については,本 報告書の対象とすべきものと思われるが,この点,本報告書の目的の範囲外と することについていささか疑問が残る。 (6)業績評価制度 人事評価制度について,本報告書は,「役職員の報酬賃金には業績評価制度 が採用され・・・執行役に対する報酬は,役位に講じた基本報酬と職務内容に 応じた職務報酬から構成されている。」とし,「このうち職務報酬の 40%から 45%は,全社又は担当部門の期末業績に応じて 0 倍(不支給)から 2 倍で評価 されることとなっており,このような業績評価部分の割合の高い業績評価制度 の存在が,各カンパニーにおける『当期利益至上主義』に基づく予算又は『チャ レンジ』達成の動機付けないしはプレッシャーにつながった。」としている(73) このように,経営トップらの「チャレンジ」と称するプレッシャーによって 誘発された東芝の不正会計処理は,業績評価精度と密接に関連していたことが わかる。 (7)人事ローテーション 本報告書は,「財務・経理部門に配属される従業員は,入社から退社までの 期間,継続して財務・経理部門に配属されることが通常となっていた。また, 一部の従業員については,コーポレートの財務部長になった後,CFO に就任し, その後は監査委員に就任していた。このため,財務・経理部門の従業員は,入 社から退社までの期間,ずっとほぼ同じメンバーで財務経理に関する業務に従

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事」していたことを挙げている(74) さらに,「過去に他の財務・経理部門の従業員の関与により不適切な会計処 理が行われたことに気付いても,仲間意識により実際にこれを是正することは 困難な状況にあった。」とし(75),財務・経理部門に,適切な人事ローテーショ ンがなかったことを問題の一因としている。 (8)内部通報制度が十分に活用されていなかったこと 本報告書は,「内部通報窓口が設置されており,毎事業年度数十件の通報が 行われていたが,本案件に関係する事項は何ら通報されていなかった。」とする。 企業の規模に比して内部通報の件数の少な過ぎる実態について,「何らかの事 情で内部通報制度が十分に活用されているとはいえない」とし,その一因とし て,「会社のコンプライアンスに対する姿勢について,社員の信頼が得られて いない」ことにあるとしている(76)

Ⅳ.監督・監査の限界

1.経営者の意識と企業風土 (1)経営者の意識 本報告書は,経営トップらの意図的な不正会計の関与を認め,これを直接的 な原因としている。企業の経営者にとって,財務諸表等の計算書類は成績表と もいうべきもので,この成績を良くするため経営者は会社経営に努力し,成績 が良ければ役員報酬も多くなり地位も安泰となる。これが会社経営者にとって インセンティブとなる。しかし,逆に成績が悪ければ,株主にその経営能力を 疑われ,地位も危うくなる。このため,倫理観の乏しい経営者は,自らこの成 績表を不正に書き換えようとする。東芝もその例外ではなく,東芝以外の会社 でもその危険性は大きい。 東芝の歴代 3 社長に,経営倫理観が少しでもあれば,このような大きな不正 会計処理は起こらなかったであろう。また,一連の不正会計処理を意図的に主

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導したとすれば特別背任罪(77)に問われ,発覚すれば会社からの損害賠償請求(78) のみならず株主代表訴訟(79)にも発展する可能性が大きい。このような危険を 犯してまで不正会計処理を意図的に行うことは,一般の常識ある経営者では到 底考えられず,法律に対しても無知でしかない。 このように考えると,東芝は,①経営倫理の希薄若しくは欠如した者を経営 トップにしたこと,②法律に無知な者を経営トップにしたこと,③経営トップ に対する経営倫理教育及び法教育がなされなかったこと,が最大の原因ではな いだろうか。 しかし,本報告書でも,歴代 3 社長がそろって不正会計処理に手を染めたの か,本当の動機は解明されていない。動機解明が強く求められるところである。 (2)上司には逆らえない企業風土 上司に逆らえない企業風土は,従来型日本企業の特徴である,いわゆる「サ ラリーマン共同体」に由来するところが大きい。新入社員で入社した会社で, 取締役等の内部昇格により役員になることが「出世の王道」とされる従来型日 本企業では,役員は「上がり」のポジションである。このように,過去の従業 員の延長上のポジションとして役員があるため,仕事における能力よりも,上 司との人間関係を重視した仕事のやり方にとらわれがちとなる。そのため,上 司には逆らえない風土が企業内で形成され,この風土は役員同士の間でも続き, 取締役会でも上下関係によりものが言えない雰囲気が形成されていく。 また,この前提となっているのが,上司の部下に対する業績評価制度及び人 事評価制度である。公平・公正かつ客観的な評価制度なら問題は起きないだろ うが,上司によっては,主観的かつ恣意的な評価もあり得る。このため,上司 に睨まれると左遷されたり昇進が危うくなるという虞から,部下は上司に苦言 を呈したり,逆らうことをためらうようになることはごく自然なことである。 このため,上司はこれを利用して無理難題を部下に押し付けることが可能で あり,これが全社的に蔓延することで,たとえ不正会計を指示されたとしても

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上司に逆らえない企業風土が形成されていく。特に,組織の統廃合が予定され ている場合には,自分の所属する組織の存亡に関わることなので,この傾向が 強くなる。このような人事評価制度がある限り,上司には逆らえない企業風土 は消えることはない。 2.取締役会 東芝には月に 1 度の社長月例会があり,歴代 3 社長は,「チャレンジ」と称 する売上及び利益の大幅増のプレッシャーを部下達に与えた。特に,業績の悪 い社内カンパニーは整理するとの強いメッセージを与え,社内カンパニーは, どうしても業績を上げざるを得ない状況に追い込まれていった。 その原因となったのが,2008 年のリーマン・ショックに続く 2013 年の東日 本大震災である。これにより経営環境は激変し,東芝の経営の柱としていた原 子力事業の先行きが不透明になった。東芝はもともと百貨店のように各種の分 野に事業を展開してきたが,経営環境の変化ともに事業の統廃合が進められて いった。その柱の 1 つとして位置付けられた原子力事業の先行きが不透明に なったことは,東芝にとって大きな痛手であった。そのため,社長月例会で, P は各カンパニー P に対して強く業績改善を求めたと思われる。 このように社長月例会は開催するものの,取締役会では,受注時に数十億円 の赤字が見込まれる案件や,受注後に数百億円の損失が発生することが判明し ていた案件が存在したにもかかわらず,これらの重要な案件に係る損失の発生 については,何らかの報告がなされた事実はなかった。 この一因について,本報告書は,取締役会規則等において,取締役会の報告 事項として具体的に定められていないことを挙げているが,もし仮にそうだと しても,取締役会には取締役の職務の執行の監督義務(80)が課せられている。 少なくとも,社長月例会で,不適切な会計処理が行われていることを認識する ことが可能な資料に基づいて P らに対して報告がなされていたのであるから, 当然,取締役会で議論すべきであった。取締役会は,取締役を監督する責任を

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負っているので,不適切な会計処理が行われている実態を把握しながら,それ を議論し正すことをしないということは,取締役の任務懈怠行為に当たり忠実 義務(81)違反となる。 しかしながら,取締役の誰もが,これに関して口を閉ざしたということは, P の強い権力集中及び取締役自身の保身にあったと考えられる。取締役の 1 人 でも 2 人でも,不正行為防止の発言を続けていれば,今回のような不正会計処 理事件は防げたかもしれない。このように考えると,歴代 3 社長のみならず, 取締役及び執行役の人選の失敗と,経営トップらに対する倫理及び法教育の欠 如が主たる原因であったものと思われる。このため,取締役会が,不正会計処 理の防止に関して,まったく機能しなかったと言える。 指名委員会が取締役候補の人選を行い,取締役会が執行役を選任する(82) いう制度を鑑みると,東芝の指名委員会及び取締役会の責任は重いと言わざる を得ない。 この原因は,会社法が規定する機関設計にも原因があると思われる。東芝の ような指名委員会等設置会社では,取締役候補の人選,会社の業務執行の監査, 取締役・執行役の報酬の決定報酬を,過半数を占める社外取締役からなる 3 委 員会で決定することにより,社内の人間関係(上下関係)に束縛されずに監督 機能が働くことを法は企図している(83) しかし,指名委員会等設置会社は,指名委員会等設置会社でない会社に比べ, 取締役会が執行役に委任(84)できない事項の範囲が狭いく(85),多くの事項が 執行役に委任される傾向がある。このため指名委員会等設置会社では,執行役 による迅速・機動的な経営が可能となる反面,執行役に権限が集中しやすい(86) このような機関設計上の理由から,取締役会は,執行役を選任・解任し(87) 代表執行役を選定・解職し(88),また,会社の経営の基本方針や内部統制シス テムにかかる事項その他の重要事項を決定し,執行役等(89)の職務の執行を監 督する責任がある(90)にも拘わらず,強大な執行役の権限のため,実質的に取 締役会が形骸化し,その存在意義が不明確となる。

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実際に,東芝では,業績不振の中,パソコン部品の押し込み販売で嵩上げし てまで利益を改善すべきではないという経理部長の意見に対して,当時,調達 部門の担当執行役であった田中氏は,当時の社長であった西田氏の経営手腕を 高く見せようとする姿勢を貫き,経理部長の意見に耳を貸さなかった。上司に とって,自分をサポートし,自分の代わりに泥をかぶってくれる部下は可愛い。 その後,田中氏は西田氏の 2 代後に社長に就任する。歴代社長が,自分の支援 者を後任に選ぶことはまれではない。 このように,取締役会が,代表執行役を選定するにも拘わらず,強大な権限 を持つ現職の代表執行役が実質的に後任を選び,取締役会が,選定に必要な執 行役候補の十分な吟味をせずに,強大な権限を有する現職の代表執行役の意向 に追随する虞が大きい。この原因は,取締役会の中に上下関係が存在するだけ ではなく,社外取締役の権限及びその存在意義が薄いことにある。 3.監査委員会 監査委員会は,執行役等の職務の執行を監査する権限を有する(91)。監査委 員は取締役(過半数は社外取締役)であり,取締役会のメンバーとして執行役 の選任・解任に関与することから,監査委員会の監査権限は,適法性監査に限 られず妥当性監査にも及ぶとされている(92) 本報告書は,監査委員会による内部統制が全く機能していなかったことを明 らかにしているが,その最も大きな理由が,①財務・経理に関する監査を担当 する常勤の監査委員が実質的に 1 名しか存在しないこと,②主として財務・経 理に関する監査を担当する常勤の監査委員が CFO 経験者であったこと,及び ③社外監査委員の中には財務・経理に関して十分な知見を有している者がいな かったこと,である。 監査委員会の監査は,いつでも執行役に対し,その職務の執行に関する事 項の報告を求め,又は業務及び財産の状況を調査することができる(93)。また, 監査委員会には取締役会への報告義務(94)があり,執行役及び会計参与の行為

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の差止めを請求することができる(95) しかし,東芝の監査委員会のような脆弱な体制では,十分な監査ができるは ずもなく,上記②に至っては,前科のある泥棒が警察官になったようなもので あり,過去に自ら犯した罪をもみ消すことは容易に想像できる。従来の日本型 の監査役(会)設置会社の,いわゆる横滑り監査役(96)と同じ状況を作出して いると言える。 4.会計監査人 会社の不正を見抜く最後の砦となるのが外部の会計監査人(97)である。会計 監査人は,計算書類等の監査(会計監査)を行うものであり,大会社(98)と指 名委員会社等設置会社は会計監査人を置かなければならず(99),会計監査人は 会社に対して善管注意義務を負う(100)。また,会計監査人は,取締役の職務の 執行に関し不正の行為または法令・定款に違反する重大な事実があることを発 見したときは,遅滞なく,これを監査委員会または監査役に報告しなければな らない(101) ところが,東芝の会計監査人である新日本監査法人は,東芝の財務諸表につ いて,「当監査法人は,上記計算書類及びその附属明細が,我が国において一 般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して,当該計算書類及びその 附属明細書に係る期間の財産及び損益の状況をすべての重要な点において適正 に表示しているものと認める。」としている(102) また,新日本監査法人は,2014 年 3 月期有価証券報告書の中で,東芝の財 務諸表監査において,「東芝および連結子会社の連結会計年度の経営成績及び キャッシュ・フローの状況をすべての重要な点において適正に表示しているも のと認める。」との監査意見をつけている。内部統制監査でも,「すべての重要 な点において適正に表示しているものと認める。」としている。 さらに,新日本監査法人は,2014 年 3 月期の東芝の決算で,「重要な会計処 理の変更」を認めている。それまで定率法だった固定有価証券の減価償却方法

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を定額法に変えた。これによって東芝の税金等調整前当期純利益は 379 億円も 嵩上げされた(103)。この変更理由は「今後の設備稼働が安定的に推移するため」 としているが,具体的な理由がなく説得力に乏しい。 このように新日本監査法人の東芝に対する会計監査は,会計監査人の役割を 十分に果たしているとは言いがたいが,本報告書では,「会計監査人の監査の 妥当性の評価・・・を調査することを目的としていない。」とし,会計監査人 の責任について明言を避けている。重要な会計監査人の監査の妥当性について 何も触れていないことは,第三者委員会報告書としては,批判があるところで ある。 しかし,2015 年 12 月 22 日,金融庁は新日本監査法人に対し,21 億円の課 徴金納付命令,及び 2016 年 1 月から 3 ヶ月間の新規契約業務の業務停止命令 を出した。 会計監査人が,十分な監査ができない理由の 1 つに,企業から報酬を受けて いることと,その報酬の低さと薄利がある。東芝は,新日本監査法人にとって 報酬額第6位の重要クライアント(報酬額約11億円)である。新日本監査法人は, わが国最大手の監査法人ではあるが,2015 年 6 月現在で,当期純利益率は 0.8% と低く,自己資本比率も 23.3%(全国平均 39.2%)と低い。 このことを考えると,新日本監査法人にとって東芝はかけがえのない重要顧 客であり,クライアントとしての東芝を失うことは避けなければならず,東芝 に対し比較的弱い立場にあり,適正な監査ができにくい状況にあったのではな いかと推察される。たとえば,経営者側と会計監査人との間で,見解の相違を 理由として対立することが想定されるが,監査を受ける経営者側が,監査する 立場にある会計監査人の報酬決定権を持つことは,会計監査人の立場を弱体化 させ,健全な会計監査をできにくくする(104) このように,監査人が企業から報酬を受けて,監査をするという制度自体が 問題である(105)。この点につき,会社法改正における法制審議会会社法制部会 では,取締役会が決定権を持っていた会計監査人の報酬を,監査役や監査委員

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会の従来の同意書から決定権に移行するとの中間思案も出されたが,最終的に は見送られた。ただし,公開会社では,会計監査人の報酬同意理由を,すべて の株主に対する事業報告に開示義務を課すこととなった(106)。ただし,これも 事後報告的なものとなっているのが現状である。このように,監査法人の監査 にも限界がある。

Ⅴ.再発防止に向けて

第三者委員会が提言した再発防止策は,直接的な原因の除去として,不適切な 会計処理に関与等した経営陣の責任の自覚,関与者の責任の明確化,経営トップ の意識改革,企業の実力に即した予算の策定と「チャレンジ」の廃止等,企業風 土の改革,会計処理基準全般の見直しと厳格な運用を項目として挙げている(107) また,間接的な原因の除去として,強力な内部統制部門の新設,取締役会に よる内部統制(監督機能)の強化,監査委員会による内部統制(監督機能)の 強化,内部通報窓口の活用,社外取締役の増員及び構成員の見直し,適切なロー テンション等を挙げている(108) これらと密接に関係するが,実務的な観点からいくつか再発防止に向けての 対策を挙げておきたい。 1.経営者に対する意識改革と倫理教育 本報告書では,経営者に対する意識改革と倫理教育に関しての具体的な防止 策についての記載はないが,コーポレートガバナンス・コード原則 4 − 14 は, 上場会社の取締役及び監査役のトレーニングとして,「新任者をはじめとする 取締役・監査役は,上場会社の重要な統治機関の一翼を担う者として期待され る役割・責務を適切に果たすため,その役割・責務に係る理解を深めるとともに, 必要な知識の習得や適切な更新等の研鑽に務めるべきである。このため,上場 会社は,個々の取締役・監査役に適合したトレーニングの機会の提供・斡旋や その費用の支援を行うべきであり,取締役会は,こうした対応が適切にとられ

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ているか否かを確認すべきである。」としている(109)。  経営者の倫理に対する意識改革を行うためには,社内における継続的な倫理 教育が必要である(110)。たとえば,少なくとも年 1 回以上の倫理教育及び試験 を実施し,企業は倫理試験に合格しなければ取締役及び執行役に就任させない という厳格な規定を設けるべきであろう。 最も効果があると思われるのは,取締役及び執行役に対する倫理教育及び試 験を,証券取引所に上場するための厳格な要件とすることである。また,その 試験結果を公表すれば,なお効果的である。 会社の経営者に倫理教育及び倫理試験を一律に課すには,多大なコスト・労 力がかかるということであれば,研究者に課している Web による倫理教育(111) のようなものを考えてもよいであろう。Web ベースのものであれば,いつで もどこでも受講でき,さほど費用もかからないと思われる。 東芝のような大企業の経営者であっても,倫理観の欠如した者が歴代社長を 務めていたことを考えれば,経営者に対する継続的な倫理教育・試験及び啓蒙 活動が不可欠である。 2.企業風土と人事システム 上司に逆らえない企業風土を防止する 1 つの対策としては,部下からの上司 に対する人事評価が考えられる。一方的な上司からの部下に対する評価ではな く,双方向からの評価が必要である。また,同僚や他部門からの総合的な評価 も考えられる。これによって上司は部下や関係者の目を気にすることになり, 部下に対して理不尽な要求や無理難題を出しにくくなる。元取締役の「社長に 反論する人はいませんでした。」という証言(112)からもわかるように,強大な 権限と人事権を持つ経営トップに反論したら自分の立場が危うくなるという虞 から,何も発言できない状況が生み出されていったと考えることができる。経 営トップの強力なリーダーシップは必要だが,不正を止められないようであっ ては,もはや健全な組織とは言えない。

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また,本報告書は,会計処理の担当者,その上長である事業部長やカンパニー CP のみならず,コーポレート P,GCEO 及び CFO に至るまで,適切な会計 処理に向けた意識が欠如していたり,希薄であったとしているが,このような 状況下においては,上司に逆らわない方が無難と思う方が人間心理としては自 然であろう。これを打開するため公正・公平な双方向の人事評価システムが必 要である。 3.取締役会の責任と社外取締役 本報告書は,再発防止策(提言)の中で,取締役による内部統制(監督機能) の強化として,「取締役会に提供される情報量を増加させることにより取締役 会の監督機能を強化するための報告事項を明確化するとともに,報告すべき事 項を拡大する。・・・社長月例で用いられた資料を,取締役会への報告のため の資料としても用いることにより,取締役会に重要な事項が報告されないとい う事態を防止する。」としている(113) また,コーポレートガバナンス・コード原則 4 − 3 は,取締役会の役割・責 務として,「取締役会は,独立した客観的な立場から,経営陣・取締役に対す る実効性の高い監督を行うことを主要な役割・責務の一つと捉え,適切に会社 の業績等の評価を行い,その評価を経営陣幹部の人事に適切に会社の業績等の 評価を行い,その評価を経営幹部の人事に適切に反映すべきであるとし,適時 かつ正確な情報開示が行われるよう監督を行うとともに,内部統制やリスク管 理体制を適切に整備すべきである。」とする(114) これらの防止策は妥当ではあるが,東芝のように取締役会が形骸化した場合 には,これらの指摘事項は絵にかいた餅に過ぎず,何ら実効性を持たないこと は明かである。これを防止するには,指名委員会等設置会社の特徴である社外 取締役の活用しかない。社外取締役について,本報告書は,「社外取締役を増 員することにより,コーポレートガバナンス体制の強化に努め,社外取締役の 独立性をいっそう確保するとともに,社外取締役に要求される各種の専門性に

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も配慮して構成員の見直しを行うことが必要と考える。」としており(115),社 外取締役の増員と共に,社外取締役の独立性と専門性を重視している。 しかし,現実問題として,社外取締役になりたいと思う人は多くはなく,需 要と供給のバランスがとれていないのが実情で,一般に社外取締役の増員は難 しい。たとえば,指名委員会等設置会社の 3 委員会は,社外取締役の員数は過 半数以上でなければならないが,3 委員会の委員を兼任することができるため, 少なくとも社外取締役が 2 人いれば 3 委員会を構成することができる。このよ うに,社外取締役の実質的人数が少なければ,社会取締役制度を有効なものと することができない。そのため,広く人材を集めるには,会社経営経験者や役 員のみならず,会社経営に知見のある弁護士,公認会計士等の専門家を活用す べきではないだろうか。 また,社外取締役の特別規定として,社外取締役の会社に対する損害賠償責 任(116)を,あらかじめ定められた額と最低責任限度額とのいずれか高い方を限 度とする契約を締結できる旨定款に定めることができるので,これを活用し, 社外取締役になりやすくする方法も大いに利用することが必要である(117) 4.監査委員会の資質と能力 本報告書は,監査委員会による内部統制(監督機能)の強化として,「財務・ 経理に精通した監査委員の人数を増員するなどして体制を強化するとともに, 社内登用の取締役である監査委員は自己監査を実施する立場となる可能性があ ることを考慮し,少なくとも社外取締役である監査委員を監査委員長とするな どの対応を行うことが望ましい。また,監査委員会の補助スタッフとして,財 務・経理に精通した人員体制を増員・強化するとともに,社外取締役である監 査委員との連携を強化する。」としている(118) また,監査委員会の社外監査委員(社外取締役)に関して,再発防止策とし て,本報告書は,「特に,監査委員会を構成する社外取締役に関しては,法律 関係の知識を有する人材とともに,財務・経理の知識を有する人材を含めて選

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任する必要があるものと考える。」としている(119) このように,監査委員は誰でもなれるというものではなく,一定の法律や財 務・経理の知見を持つ者に限るべきであり,具体的には,企業法務に詳しい弁 護士や公認会計士の資格を持つ者が適任である。 特に,会計監査の監査委員は財務・経理に関して十分な知見を有している者 でなくてはならず,また高度な倫理観を持つ者でなければならない。また,過 去に経営に直接関わっていた CFO であった者は,監査委員から排除すべきで ある CFO 経験者の財務・経理に関する知見や当該会社における経験が必要で あるならば,なにも監査委員にする必要はなく,単なるアドバイザーでもその 役は務まるはずである。 もし,東芝のように,過去に CFO であった者が監査委員になれば,その CFO が,過去の経験や知識から,監査委員会による監査の指導的な役割を担 う立場に立つことが考えられる。他の監査委員に財務や経理や知識がなけれ ば,元 CFO の言いなりになる可能性は否定できない。このような状況では, 元 CFO が不正会計処理をもみ消し,その情報を他の監査委員に開示しなけれ ば,不正会計処理を隠すことも容易である。 監査委員会の制度にも問題がある。監査委員会では,監査役制度と異なり, 独任制を採用しておらず,取締役会が設ける内部監査部門を通じての監査を行 うことが予定されており,内部統制システム構築に関する取締役会決議を行う ことが義務づけられている(120)。また,監査報告の内容は多数決で決められ る(121)。さらに,監査委員には,報告聴取権,業務財産状況調査権などは認め られているが,これらの権限の行使は,監査委員会の多数決によって制約を受 ける(122) このように,監査委員会は独任制をとらず,取締役会が設ける内部統制部門 を通じて監査を行うことから,監査役(会)に比べ,独立性が高いとは言えな い。そのため,少なくとも,元CFO を監査委員に選任してはならず,また他 の監査委員も,財務及び経理に疎い者を選任してはならない。さらに,各監査

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委員個々の権限強化のため,監査役(会)と同様,独任制をとるべきではない かと思われる。 監査委員会に求められる最も重要なことは,高い倫理観に基づく正確・公正・ 公平な監査である。そのために,少しでも内部統制遂行に支障をきたす要因に ついては,すべて排除する必要がある。さもなければ,監査委員会の職務を全 うすることはできないであろう。 5.外部監査の有効性 会計監査人の独立性をできる限り担保するためには,会計監査人の選解任権 のみならず報酬の決定権をも監査役または監査委員会に付与すべきである。そ の理由として,会計監査人と監査を受ける側とは利益相反が生じる可能性があ るのに対し,経営を監視する立場にある監査役または監査委員会には利益相反 がないことが挙げられる。また,業績が悪化する局面では,財務情報の虚偽記 載のリスクが高まり,その分,会計監査人は十分な時間が必要であるにも拘わ らず,経営者側からは費用等の面で効率性を求められることなどが挙げられる からである(123)。また,現行の同意書の行使が形式的な手続きに終わっており, 実質的には経営者の提示額を事後的に同意しているに過ぎない場合も見受けら れることも理由の 1 つである(124) また,長年,同じ会計監査人が特定の企業の監査業務を担当していると,馴 れ合いが生じる虞もある。会計監査人も,長年担当してきた企業であれば,内 情もよくわかっており監査がしやすい。そのため,企業も,会計監査人を別の 会計監査人に変更することは,余程のことがない限り行わないのが通例である。 そのため,馴れ合いにより健全な監査がしにくい状況が形成されていく。この 点につき,欧米では,2011 年以降,定期的に監査法人を変更するという監査 法人のローテーションが議論されている(125)。この監査法人のローテーション は,企業にとっては負担となるものであろうが,健全な外部監査を確保するに は不可欠であると思われる。

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このような中,金融庁は,2015 年 10 月 6 日,「会計監査の在り方に関する 懇談会」を設置した。今後,会計監査の在り方に対して幅広く議論が交わされ る予定であり(126),中でも「監査法人の行動原則を定めたコード(指針)」の 策定が期待されている(127) また,外部監査をより有効なものとするため,公認会計士に新たな権限を与 える方法もある。その一つに,公認会計士の反面調査権がある。これは,税務 署が行う税務調査の一つの権限であり,企業の取引先や金融機関に対して,実 際の取引の有無を確かめるもので,原則として調査を拒否することはできない。 現在,監査法人には強制調査権はないが,これに準じる権限が付与されれば, より実効性のある監査が期待できると思われる。

Ⅵ.結びにかえて

企業不祥事は,人の心の影を映す。最初は出来心の小さな不正であったもの が,次から次へと嘘の連鎖を呼び,気づいたときには取り返しのつかない企業 不祥事となる。人間である以上,これを完全に防止することはできない。 企業の内部統制を厳しくすると,経営者が委縮し思い切った経営戦略を採れ なくなる虞があるが,しかし,逆に高い倫理観と堅牢な内部統制システムがあ るからこそ,経営者は自らの経営判断に基づき,安心して会社経営が行えるの ではないだろうか。経営者の判断の中で,最も稚拙な判断が,粉飾決算であり 不正会計処理である。これを許さない内部統制システムの存在こそが,会社の 経営戦略の基礎となるものである。 経営トップによる不正会計処理防止には,第一に,経営トップの高い倫理観 が必要であり,それには倫理教育と法教育が必要である。少なくとも上場企業 の取締役や監査役に対して,定期的な倫理教育・試験を上場の要件とすれば, このような恥ずべき事件は起こらなかったのではないだろうか。 東芝の不正会計処理は,氷山の一角であり,多くの企業が程度の差こそあれ, こえに似たことを行っていると考えられる。経営トップは,今回の東芝事件を

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真摯に受け止める必要がある。また,会社での地位は,社会的身分ではなく, あくまでも会社が与えた役割に過ぎないことを自覚し,その役割に徹するべき である。 今回の東芝不正会計処理事件は,大きな教訓を与えた。いくら内部統制のシ ステムがあったとしても,強い権限を持つ経営トップらの暴走に歯止めをかけ られず,全社的な不正会計処理に発展してしまった。これは,従来の日本型企 業特有の「サラリーマン共同体」に由来する,上司には逆らえない企業風土と 密接に関連していることが明らかになった。 これを防止するには,上司にモノが言える環境を作るしかない。そのために は,経営トップに対する倫理教育・試験とともに,上司・部下の双方向の人事 評価制度の抜本的な見直しが必要であろう(128)。また,会社法制上,取締役会, 監査委員会の法的な権限強化とともに,会計監査人の定期的なローテーション も必要である。 営利目的とする会社にとって,利益至上主義は非難されるものではない。利 益を追求する企業としては当然のことである。しかし,過剰な利益至上主義に よる部下へのプレッシャーが不正会計処理の誘引になったとしても,利益至上 主義と財務諸表等の報告とは全く次元の違う話である。いくらプレッシャーを 与えられたとしても,それはビジネス上の問題であり,経理による不正会計処 理とは全く別の問題である。利益至上主義と不正会計処理は切り離して議論す る必要があると思われる。 短期間の間に詳細の調査を行い本報告書を公表した東芝第三者委員会に対し ては敬意を表したい。しかし,監査法人の監査の妥当性については,何らかの 評価があっても良かったのではないかと思う。また,東芝の経営トップらの真 の動機の解明についても,まだ明らかにされていない。 経営トップによる企業不祥事が絶えない中,企業は自ら不正行為を防止する 断固たる措置を採る時期に来ているように思われる。今後のわが国の成長戦略 に,企業自らが企業不祥事という影を落としてはならない。

参照

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