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超早期離床が可能であった肺炎高齢者の特徴と背景因子

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(1)理学療法学 第 90 45 巻第 2 号 90 ∼ 96 頁(2018 年) 理学療法学 第 45 巻第 2 号. 研究論文(原著). 超早期離床が可能であった肺炎高齢者の特徴と背景因子* 河 村 健 太 1)2)# 廣 瀬 由 美 1) 奥野裕佳子 2) 大曽根賢一 1) 会 田 育 男 1) 岩 井 浩 一 2) 冨 田 和 秀 2). 要旨 【目的】本研究の目的は,24 時間以内の超早期離床(Very Early Mobilization;以下,VEM)が可能であっ た肺炎高齢者の特徴や背景因子を分析することである。 【方法】対象は 75 歳以上の肺炎患者のうち,理学療 法を施行した者とした。診療録より後方視的に関連情報を収集し,該当した 122 名を VEM 群(55 名)と non-VEM 群(67 名)の 2 群に割りつけた。それらを傾向スコアの逆数重みづけ法により特徴を検討し,ロ ジスティック回帰分析によって VEM の背景因子を抽出した。 【結果】VEM 群は在院日数や酸素療法終了 までの日数と有意な関連を認めた。超早期離床の背景因子としては A-DROP や食止めの有無が抽出された。 【結論】超早期離床において在院日数や酸素療法終了までの日数との関連を認め,重症度や栄養摂取状況が 影響を与えていることがわかった。 キーワード 早期離床,肺炎,高齢者. はじめに. め,在院日数が長期化し,ADL 能力が低下しやすい。 ADL 能力低下の要因は廃用症候群,疾患,低栄養,薬.  高齢化の進展と医療技術の進歩により,本邦では. 剤など様々な要因が複雑に絡みあって生じるとされ,入. 2025 年に 18.1% が後期高齢者に該当すると推察されて. 院関連機能障害とも呼ばれている. いる. 1). 。進行し続ける超高齢社会では社会保障費増大や. 3). 。先行研究 4)では,. 内科疾患入院患者のおよそ 35% に ADL 能力低下を認め. 介護負担の増加などが懸念されており,大きな問題と. たと報告している。. なっている。それを受けて平成 26 年度診療報酬改定で.  近年集中治療分野や脳卒中においては早期離床が機能. は急性期病院に対して早期退院や日常生活動作(以下,. 予後,ADL 能力,QOL などの様々な因子を改善させる. ADL)能力の低下予防を推進するために,早期リハビ. ということが徐々に明らかになってきている. リテーションの実施や退院支援の充実に関する方針が示. に肺炎患者においても,早期離床によって在院日数の短. された. 2). 。理学療法士(以下,PT)には ADL 能力の. 5)6). 。同様. 縮や ADL 能力の維持,死亡率低下に影響を与えると報 7‒9). 。早いものでは入院後 24 時間以内の. 低下を予防するために,多職種と連携しながら離床や身. 告されている. 体活動量をマネージメントする中心的存在になることが. VEM により,在院日数の短縮が報告されているが. 求められている。. その調査には若年者も含まれており,高齢者においても.  高齢者は併存疾患を抱え,基礎体力も低下しているた. 同様の効果が得られるかどうかは明らかになっていな. 7). ,. い。また,予備能力の低い高齢者は,短い期間の臥床で *. Characteristics and Background Factors of Elderly Patients with Pneumonia who Received a Very Early Mobilization Intervention 1)公益財団法人筑波メディカルセンター病院 (〒 305‒8558 茨城県つくば市天久保 1‒3‒1) Kenta Kawamura, PT, MSc, Yumi Hirose, MD, Kenichi Ozone, PT, Ikuo Aita, MD: Public Interest Incorporated Foundation Tsukuba Medical Center Hospital 2)茨城県立医療大学 Kenta Kawamura, PT, MSc, Yukako Okuno, PT, PhD, Koichi Iwai, PhD, Kazuhide Tomita, PT, PhD: Ibaraki Prefectural University of Health Sciences # E-mail: pt12120117@yahoo.co.jp (受付日 2016 年 11 月 14 日/受理日 2017 年 12 月 1 日) [J-STAGE での早期公開日 2018 年 1 月 31 日]. あっても廃用症候群による ADL 能力の低下につながる 可能性は高いため,早期離床による廃用症候群予防が重 要である。しかしながら,入院から離床までの早期離床 の定義は様々で,どの程度の早期離床が適切に廃用症候 群を予防することが可能かは明らかになっていない。肺 炎罹患後超早期から離床を行うことが廃用症候群を予防 し,その後のアウトカムに正の効果を及ぼすかどうかは 不明である。安静による病状治癒の側面を考えると,む.

(2) 肺炎高齢者の超早期離床. やみな早期離床は負の効果をもたらしている危険もあり うる. 10)11). 。しかしながら,現状では VEM の基礎的な. 91. 4)離床実施情報  入院から理学療法開始までの時間,PT による離床ま. データが乏しいため,特徴を理解することは有用で. での時間,看護師による離床までの日数を収集した。. ある。. PT による理学療法開始や離床までの時間は診療録上か.  本研究では,肺炎高齢者の適切な早期離床を検討する. ら詳細な時間収集が可能であったため,時間単位で収集. ために後方視的分析によって,VEM が可能であった対. した。VEM の有無はそれらの離床のもっとも早い時間. 象の在院日数や日常生活動作能力,酸素療法終了までの. を採用した。当院では離床の開始基準は存在せず,全身. 日数に焦点をあてて,VEM 群の特徴や VEM が可能で. 状態に合わせて各療法士や看護師の判断に基づいて離床. あった背景因子を分析することを目的とした。. を行った。 5)ADL 能力. 対象および方法.  Katz ADL Index に基づいた入浴,更衣,トイレ,移. 1.対象. 動,排尿・排便,食事の 6 項目を自立・非自立に分類し.  調査対象は 2013 年 4 月 1 日∼ 2016 年 3 月 31 日の間. た。それを基に「ADL 全介助:1 点」,「ADL1 ∼ 4 項. に当院総合診療科に肺炎の診断で一般病棟に入院し,理. 目自立:2 点」, 「ADL5 項目自立:3 点」, 「全自立:4 点」. 学療法を施行した患者とした。診療録から後方視的に. と採点した。そして入院前と退院時のスコアを比較し,. 75 歳以上の後期高齢者 309 名を抽出し,情報収集を行っ. 退院時に減点された対象を ADL 低下と定義した。ADL. た。さらに,入院中の転科,手術施行,死亡転帰,入院. 能力の採点は PT1 名により行った。. 前 ADL 能力が全介助,集中治療室入室や人工呼吸器管 理,前回退院より 72 時間以内での再入院を除外し 122. 3.統計解析. 名を解析対象とした。その後,PT や看護師などの医療.  調査対象のデータにおいて,比例尺度である年齢,. スタッフによる離床が実施された患者のうち,入院後. BMI,CCI,Alb,CRP,WBC,入院から理学療法開始. 24 時間以内に開始した群を「VEM 群」,24 時間を超え. までの時間,入院から PT による離床までの時間,看護. て開始した群を「non-VEM 群」と分類した。離床基準. 師による離床までの時間,在院日数,酸素療法終了まで. は車椅子移乗や歩行などのベッドから離れた状態と定義. の日数においては Shapiro-Wilk 検定を行い,正規分布. し. 12). ,検討した。. が認められた場合には対応のない t 検定を,正規分布が.  本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十. 認められなかった場合には Mann-Whitney U 検定を用. 分留意して行い,実施にあたり筑波メディカルセンター. いた。名義尺度と順序尺度である性別,入院前 ADL,. 病院倫理委員会の承認を得た(承認番号 2016-028) 。. 入院前の生活場所,肺炎の罹患場所による分類,肺炎の 感染による分類,A-DROP,認知症の有無,ADL 低下. 2.調査項目. 2 の有無,安静度制限の有無,食止めの有無では χ 検定. 1)患者基本情報. を用いた。各群のサンプル数が少ないステロイドの使用.  年齢,性別,入院中 Body Mass Index(以下,BMI) ,. は統計解析を実施しなかった。背景因子の影響を考慮す. 入院前 ADL 能力,認知症の有無を収集した。. るため,VEM 群と non-VEM 群の共変量の影響を除去. 2)疾患・治療情報. したうえで,傾向スコアによる逆数重みづけ法を用い.  C 反応性蛋白(以下,CRP)の入院後最大値,入院時. た。傾向スコアは対象の割りあて確率を示し,背景が異. のアルブミン値(以下,Alb) ,白血球数(以下,WBC). なる対象の共変量を集約することが可能である。それを. の入院後最大値,肺炎の罹患場所による分類,肺炎の感. 逆数重みづけ法などの手法を用いることで共変量を揃え. 染による分類,市中肺炎の重症度分類(以下,A-DROP) ,. た状態での解析が可能になる. 併存疾患指数(Charlson Comorbidity Index:以下,CCI) ,. 際に,共変量として,在院日数や ADL 低下,酸素療法. 入院時の酸素化能(P/F 比),酸素療法終了までの日数,. に直接関連のある項目や,先行文献. ステロイド使用の有無,食止めの有無,安静度制限の有. えられる項目を検討した。具体的には年齢,性別,入院. 無を収集した。なお,対象には医療介護関連肺炎も含ま. 前 ADL,肺炎の罹患場所による分類,肺炎の感染によ. 13). る分類,A-DROP,酸素化能,Alb,CRP,安静度制限. れているが,重症度分類は難しいとされているため. ,. 14)15). 。傾向スコア算出の 8)16). より影響が考. 今回は便宜的に A-DROP を活用した。安静度制限の有. の有無,食止めの有無を傾向スコアの算出に用いた。そ. 無は本研究における離床の定義を制限する場合とした。. れを基に重みづけを行い,共変量や交絡因子の影響を調. 3)入退院情報. 整したうえで,両群の在院日数や ADL 能力低下の有無,.  入院前の生活場所,在院日数,退院時転帰を収集した。. 酸素療法終了までの日数における回帰係数の差を一般化 推定方程式により検討した。また,VEM が可能であっ.

(3) 92. 理学療法学 第 45 巻第 2 号. 表 1 対象患者特性 全体 n=122. VEM 群 n=55. non-VEM 群 n=67. P値. 87.0 (82.0:90.0). 87.0 (82.0:90.0). 88.0 (83.0:91.0). 0.823. 61. 29. 32. 0.585. 63/14/45. 26/7/22. 37/7/23. 0.680. 100/22. 45/10. 55/12. 0.969. 19.4 (18.0:21.3). 19.4 (18.3:21.4). 19.4 (17.3:20.8). 0.226. 肺炎の罹患場所による分類 [ 市中 / 医療介護関連 : 名 ]. 39/83. 19/36. 20/47. 0.580. 肺炎の感染による分類 [ 誤嚥 / 感染 / その他 : 名 ]. 67/50/5. 28/25/2. 39/25/3. 0.659. A-DROP [1 点 /2 点 /3 点 /4 点 : 名 ]. 23/57/35/7. 16/25/11/3. 7/32/24/4. 0.041*. 年齢 [ 歳 ] 性別 [ 男:名 ] 入院前 ADL [2 点 /3 点 /4 点:名 ] 入院前の生活場所 [ 自宅 / 施設:名 ] 2 BMI [kg/m ]. CCI [ 点 ] P/F 比. 2.0 (1:3). 2 (1:3). 2 (1:2). 0.259. 280.0 (221.2:332.3). 285.7 (252.8:331.4). 268.3 (205.2:338.1). 0.291. Alb [g/dl]. 3.3 (3.0:3.6). 3.3 (3.0:3.7). 3.3 (3.0:3.6). 0.792. CRP [mg/dl]. 9.6 (5.2:15.2). 8.5 (3.9:13.0). 11.0 (7.1:16.7). 0.021*. 100.0 (76.8.:136.3). 97.0 (67.0:136.0). 102.0 (80.0:137.0). 0.264. 55. 26. 29. 0.659. WBC [102 個 /μ L] 認知症 [ 名 ] ステロイド使用 [ 名 ]. 5. 4. 1. −. 理学療法開始まで [ 時間 ]. 23.0 (17.0:43.3). 19.0 (15.0:24.0). 34.0 (17.0:62.0). 0.004*. PT による離床まで [ 時間 ]. 43.0 (19.0:85.3). 20.0 (16.0:41.0). 77.0 (43.0:116.0). <0.001*. 看護師による離床まで [ 日 ]. 2.0 (2.0:4.0). 1.0 (1.0:2.0). 3.0 (2.0:6.0). <0.001*. 15.0 (9.8:28.0). 12.0 (8.0:18.0). 11.0 (20.0:39.0). <0.001*. 4.0 (2.0:9.0). 4.0 (1.0:6.0). 6.0 (3.0:12.0). 0.010*. ADL 低下 [ 名 ]. 61. 26. 35. 0.585. 安静度制限有り [ 名 ]. 12. 0. 12. 0.001*. 食止め有り [ 名 ]. 61. 17. 44. <0.001*. 在院日数 [ 日 ] 酸素療法終了まで [ 日 ]. ( ) はデータ中央値 (25% : 75% 四分位点 ) または合計値,[ ] は単位を表す. BMI: Body Mass Index,A-DROP: 市中肺炎の重症度分類,CCI: Charlson Comorbidity Index,P/F 比 : PaO2/ FiO2 比,Alb: 入院時アルブミン値,CRP: C 反応性蛋白の入院後最大値,WBC: 白血球数の入院後最大値 比例尺度 : 対応のない t 検定,Mann-Whitney U 検定 名義,順序尺度:χ 2 検定 *:P < 0.05. た背景因子をロジスティック回帰分析により検討した。. 対象は全例に理学療法が介入されており,関節可動域練. 説明変数は傾向スコアと同じ項目を選択した。しかしな. 習,筋力トレーニング ADL 練習を中心としたプログラ. がら,安静度制限の有無は標準誤差が非常に高値を示. ムを各療法士の判断にて実施された。理学療法開始まで. し た た め 除 外 し て 検 討 し た。 解 析 に は IBM SPSS. の中央値は 23 時間で,PT による離床までは 43 時間を. Statistics Ver. 22.0 を用い,有意水準はいずれも 5% と. 要していた。退院時の ADL 能力低下は約半数に認めた。. した。. 対象を 24 時間以内の離床の有無で VEM 群と non-VEM. 結   果. 群に分けるとそれぞれ 55 名,67 名であった。各群の特 性を比較すると,A-DROP,CRP,理学療法開始までの. 1.患者特性. 時間,PT による離床までの時間,看護師による離床ま.  対象患者の特性を表 1 に示す。全体の年齢の中央値は. での日数,在院日数,酸素療法終了までの日数,安静度. 87 歳で,半数以上が部分介助を要する ADL 能力であっ. 制限の有無,食止めの有無において有意差が見られた。. た。重症度は中等症∼重症が主で,ほとんどの対象者が. 入院前の ADL 能力に有意差は見られなかった(表 1) 。. 併存疾患を有していた。認知症は約半数にみられていた。.

(4) 肺炎高齢者の超早期離床. 93. 表 2 VEM が可能であった対象の特徴 偏回帰係数. 標準誤差. オッズ比. 95% 信頼区間 下限. 在院日数 ( 切片 ) ADL 低下 ( 切片 ) 酸素投与終了まで ( 切片 ). P値. 上限. ‒ 0.40. 0.20. 0.67. 0.46. 0.99. 3.29. 0.12. 27.78. 21.32. 33.63. <0.001. ‒ 0.43. 0.41. 0.65. 0.29. 1.45. 0.293. 0.20. 0.27. 1.22. 0.72. 2.07. 0.451. ‒ 2.61. 0.07. 0.07. 0.01. 0.59. 0.014*. 7.30. 0.88. 1,476.07. 261.49. 8,332.24. 0.042*. <0.001. VEM 群において在院日数は 0.67, 酸素投与終了までの日数は 0.07 と低いオッズ比を示した.ADL 低下は低いオッ ズ比を示したものの,有意性は認めなかった. *:P < 0.05. 表 3 VEM が可能であった対象の背景因子 偏回帰係数. A-DROP. 1点. オッズ比. 95% 信頼区間 下限. 上限. P値. 1.0. 2点. ‒ 1.11. 0.58. 0.33. 0.11. 1.02. 0.054. 3点. ‒ 1.82. 0.65. 0.16. 0.05. 0.58. 0.005*. 4点. ‒ 0.72. 0.98. 0.49. 0.07. 3.32. 0.464. ‒ 0.06. 0.03. 0.94. 0.09. 1.00. 0.055. 0.11. 0.56. 0.001*. CRP 食止め. 標準誤差. なし. 1.0 ‒ 1.39. あり. 0.42. 0.25. ロジスティック回帰分析(変数減少法)により,A-DROP,CRP,食止めの有無の変数が抽出された.ADROP と食止めの有無にて有意性を認めた. *:P < 0.05. 2.VEM が可能であった対象の特徴. 重症度 4 点のオッズ比は 0.49(95% 信頼区間 0.07 ‒ 3.32,.  傾向スコアを算出する場合にはモデルの適合度の検討. p = 0.464) ,CRP の入院後最大値のオッズ比は 0.94(95%. が必要である。先行文献. 15). によると,近年の応用例で. は c 統計量 0.8 以上がひとつの目安であるとしている。 本研究では c 統計量を用いてモデル適合性の検討を行っ たところ,0.78 であり,比較的高い適合度が示された。  VEM 群か否かを外的基準とし,一般化推定方程式で. 信頼区間 0.09 ‒ 1.00,p = 0.055)であった。食止めの有 無 は 無 し を 基 準 と し た 場 合, 有 り の オ ッ ズ 比 は 0.25 (95% 信頼区間 0.11 ‒ 0.56,p = 0.001)であった。 考   察. 検討を行ったところ,在院日数(オッズ比 0.67,95% 信.  肺炎高齢者の入院では長期臥床をはじめとする様々な. 頼区間 0.46 ‒ 0.99,P = 0.042), 酸素療法終了までの日数. 問題により廃用症候群が生じ,ADL 能力の低下や在院. (オッズ比 0.07,95% 信頼区間 0.01 ‒ 0.59,P = 0.014)の. 日数の遷延が懸念されている。それに対し,早期離床は. オッズ比は基準である 1 よりも低値であった。ADL 能. 在院日数の短縮や ADL 能力の維持,死亡率の低下など. 力低下は有意性を認めなかったものの,オッズ比は低値. の様々な影響を与えることが報告されている. であった(オッズ比 0.65,95% 信頼区間 0.29 ‒ 1.45,P =. し,安静臥床には病状治癒のための代謝機能の保護や筋. 0.293)(表 2)。. 酸素消費量の軽減,心臓へのストレス減少などのメリッ トが存在し. 7‒9). 。しか. 17). ,筋骨格系を中心とした廃用症候群の進. 3.VEM が可能であった対象の背景因子. 行のデメリットとの兼ね合いも含めて,どの程度の早期.  ロジスティック回帰分析(変数減少法)を用いて,. 離床が適切かは明らかになっていない。そこで本研究で. VEM の実施の背景因子を分析したところ,A-DROP は. は適切な早期離床を検討する一助とするために,VEM. 重症度 1 点を基準にした場合,重症度 2 点のオッズ比は. に注目し,VEM が可能であった対象の在院日数や日常. 0.33(95% 信頼区間 0.11 ‒ 1.02,p = 0.054) ,重症度 3 点. 生活動作能力,酸素療法終了までの日数の特徴と背景因. のオッズ比は 0.16(95% 信頼区間 0.05 ‒ 0.58,p = 0.005) ,. 子を検討した。.

(5) 94. 理学療法学 第 45 巻第 2 号. 1.患者背景について. ある。また,入院してから離床を行うまでの時間よりも,.  VEM 群と non-VEM 群は重症度や理学療法開始までの. 入院中の離床時間の総和に依存していたことも考えら. 時間,肺炎の分類などの項目に差がみられた。これらの. れる。. ことから VEM が可能であった対象は比較的軽症な対象.  本研究においてはおおよそ半数という多くの患者にお. が多く,理学療法開始までも速やかに行われた対象で. いて ADL 能力低下が生じた。先行研究では内科疾患入. あったことが推察された。しかしながら,当院において. 4) 院患者の 35% に ADL 能力低下が見られたとしている 。. は一定の離床基準が存在しないため,データから収集す. 先行研究に比べると本研究では年齢層が 10 歳程度高く,. ることができない各療法士による判断の差や,医師の処. 在院日数も長期化していたことにより,ADL 能力低下. 方箋の遅延などの要素も影響していることが考えられる。. がより多く生じたと思われる。各群において割合に差は 見られなかったものの,今回は施設入所者も対象に含ま. 2.傾向スコアと共変量の妥当性について. れ,在宅で生活していた対象よりも虚弱であったことが.  傾向スコアは複数の共変量を用いることで各群への割. 推察される。. りつけ確率を予測することができ,多くの交絡因子をひ.  入院後の ADL 能力低下には様々な要因の関与が考え. とつに集約することが可能になる。本研究では収集した. られるが,長期臥床に伴う筋蛋白質の異化作用は一因と. データから VEM,在院日数,ADL 能力低下,酸素療. 考えられる。健常高齢者に対して 10 日間のベッドレス. 法と関連が考慮される項目を抽出した結果,c 統計量は. トを行った研究. 基準値に近い値を取り,概ね高い適合度が得られたと判. 白質異化と 11.5 kg の除脂肪体重減少,19N の膝伸展筋. 断した。そのため,共変量は傾向スコアによって交絡因. 力低下を報告している。入院後の臥床によって徐々に筋. 子をひとつに集約し,共変量の影響を調整したうえで在. 蛋白質の異化に傾き,炎症や薬剤性の因子とも絡み合っ. 院日数や ADL 能力低下,酸素療法終了までの日数の特. て ADL 能力の低下が生じたと思われる。しかし,本研. 徴を検討することができたものと考えられる。. 究においては VEM による筋蛋白異化の抑制効果や他要. 19). では,10 日間で ‒ 0.027%/h の筋蛋. 因の関与の程度などは確認することはできないため,さ らなる研究が望まれる。. 3.在院日数に関して  Mundy ら. 7). の市中肺炎に対する VEM の先行研究で. は若年者から高齢者まで幅広い年代における検討であっ. 5.酸素療法終了までの日数に関して. た。今回は 75 歳以上の後期高齢者において VEM 群は.  VEM 群か否かに対して,酸素療法終了までの日数は. 早期退院と関連していた。Mundy らは在院日数短縮の. 有意な関連を示していた。酸素療法が早期終了するため. 理由として,看護師を中心としたスタッフの注目が. には肺炎そのものの沈静化に加え,感染に伴う気道分泌. VEM に集まって退院が推進される外的要因と,換気血. 物である痰を有効に喀出する必要がある。痰による無気. 流の改善に伴う疾病部位への薬剤運搬の是正や,誤嚥リ. 肺を予防改善することも重要である。座位姿勢は臥位姿. スクの軽減などの生理学的要因を指摘している。本研究. 勢に比べて咳嗽時の呼気流量が大きいと報告されてお. では後方視的研究であり,割りつけによるバイアスは生. り. じないため外的要因は影響しておらず生理学的要因が結. 働くと考えられる。また,臥位に比べて座位では機能的. 果に影響を与えた可能性がある。Govindan ら. 18). は重. 20). ,早期からの離床は気道分泌物の喀出にも有利に. 残気量が増加するとされており. 21). ,換気血流比の是正. 症患者の早期理学療法が運動耐容能の改善,せん妄の減. も重なり,無気肺の予防改善や酸素化の改善が生じると. 少などに効果があったと報告している。それらの要因が. 考えられる。. 在院日数の短縮に影響を与える可能性があり,今回有意 性が認められなかった ADL 能力以外の機能的,精神的. 6.VEM が可能であった対象の背景因子. 側面の詳細な評価を前向き研究で行う必要がある。.  VEM 実施の背景因子として A-DROP,CRP,食止め の有無が抽出され,A-DROP の重症度の一部と,食止. 4.ADL 能力低下に関して. めの有無に有意性を認めた。日本集中治療医学会早期リ.  VEM 群と non-VEM 群において ADL 能力低下の差. ハビリテーション検討委員会のエキスパートコンセンサ. は見られなかった。オッズ比は 0.65 と低値であったも. ス. のの,患者背景のばらつきがあったため,標準誤差が大. 度の項目が含まれている。当院では早期離床の明確な開. きくなり有意性が認められなかった可能性がある。しか. 始基準は定められていないが,A-DROP と重複するそ. しながら,今回は後方視的研究であり,自宅環境での入. れらの項目を指標にして VEM の実施に影響を与えたと. 院前と退院後の ADL 能力の比較ができていない。その. 考えられる。重症度別に見てばらつきが生じたことは,. ため,ADL 能力低下の定義が不適切であった可能性が. 軽症例ではスタッフの離床に拠らず自主的な離床が多く. 12). では,早期離床の開始基準に意識障害や酸素飽和.

(6) 肺炎高齢者の超早期離床. 生じていた可能性や,重症例では経験によりスタッフご との判断に差が見られたともいえる。重症度ごとに離床 が行われる背景は異なることが推察され,画一的ではな. 95. 要となると考えられる。 結   論. く患者にあった患者の離床プログラムの検討が重要と考.  肺炎高齢者に対する 24 時間以内の超早期離床を行う. えられる。入院後の不要な食止めは代謝が亢進している. ことができた対象の在院日数や日常生活動作能力,酸素. 病態の中で,飢餓状態を招きかねない。今回の結果は,. 療法終了までの日数の特徴や背景因子を検討した。その. スタッフがその状況を配慮して負荷を避けた可能性があ. 結果,超早期離床が可能であった対象において在院日数. る。静脈経腸栄養学会のガイドラインにおいても重症感. や酸素療法終了までの日数は有意な関連を認めた。背景. 染症に対して 48 時間以内に経腸栄養を開始することを. 因子としては A-DROP や食止めの有無が抽出された。. 強く推奨しており. 22). ,十分な栄養投与のうえ,離床を. 含めた運動負荷を検討する必要がある。しかしながら, 重症患者においては内因性エネルギーの利用亢進とオー バーフィーディングの問題もあり. 23). ,十分に栄養療法. の効果を発揮できない場合もあり注意が必要と考えられ る。本研究からは CRP は有意差を認めなかったものの, CRP は全身の炎症状態を示し,侵襲による筋蛋白質の分 解と関連があるとされている。また予定大血管手術後早 期には,CRP が,異化亢進の程度を示す指標である尿中 尿素窒素と強い相関がみられたと報告されている. 24). 。. 今後,炎症状態が強い時点での早期離床の是非を検討す るうえでは,重要な指標のひとつになると考えられる。  VEM は統一した明確な基準は存在しないが,重症度 や摂食状況などの状況が整っていることが,早期離床の 実施に影響を与えていた。それらの要素が離床を進めて よい状態になっているかどうかを見きわめ,損傷部位の 回復推進や心配ストレスの軽減等の安静によるメリット を十分に配慮. 17). したうえで VEM を検討していくこと. が必要である。 7.本研究の意義と限界  早期離床に関する報告は数多くされているが,24 時 間以内という超急性期に肺炎高齢者の早期離床の特徴や 背景因子を検討した報告はされていない。入院という状 況に高齢者は影響を受けやすく,急性期の早期理学療法 を検討していくうえで本研究の意義はあると思われる。 しかしながら,本研究は診療録からの後方視的研究であ り,理学療法による離床までの時間は収集したものの, 1 回あたりの離床の量は評価できておらず,ごく短時間 の 離 床 や 自 主 的 な 離 床 状 況 の 評 価 も 行 え て い な い。 ADL 能力の評価では退院後の環境で ADL 能力を評価 できていないため,ADL 能力低下を正確に評価できて いない可能性がある。また,今回は退院や酸素療法をア ウトカムとして検討したものの,基準は統一されておら ず,病状以外の多要因を調整することができていない。 そのため,基準を統一したうえでの検討が必要である。  背景の様々な因子を統一し,原因と考えられる廃用症 候群の発生や,筋蛋白質の異化を明確に示す証拠も収集 するためには,前向き研究による詳細なデータ収集が必. 文  献 1)内閣府ホームページ:平成 26 年度高齢化の状況及び高 齢 社 会 対 策 の 実 施 状 況.http://www8.cao.go.jp/kourei/ whitepaper/w-2015/gaiyou/pdf/1s1s.pdf(2016 年 10 月 10 日引用). 2)厚 生 労 働 省 ホ ー ム ペ ー ジ: 平 成 26 年 度 診 療 報 酬 改 定 の 基 本 方 針.http://www.mhlw.go.jp/file/05Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_ Shakaihoshoutantou/0000031544.pdf(2016 年 10 月 10 日 引用). 3)Covinsky KE, Pierluissi E, et al.: Hospitalization-associated disability: “She was probably able to ambulate, but I’m not sure”. JAMA. 2011; 306(16): 1782‒1793. 4)Boyd CM, Landefeld CS, et al.: Recovery in activities of daily living among older adults following hospitalization for acute medical illness. J Am Geriatr Soc. 2008; 56(12): 2171‒2179. 5)Morris PE, Goad A, et al.: Early intensive care unit mobility therapy in the treatment of acute respiratory failure. Crit Care Med. 2008; 36(8): 2238‒2243. 6)Cumming TB, Thrift AG, et al.: Very early mobilization after stroke fast-tracks return to walking: further results from the phase Ⅱ AVERT randomized controlled trial. Stroke. 2010; 42(1): 153‒158. 7)Mundy LM, Leet TL, et al.: Early mobilization of patients hospitalized with community-acquired pneumonia. Chest. 2003; 124(3): 883‒889. 8)前本英樹,上村恭生:高齢肺炎患者の ADL 低下に影響を 与える要因の検討.理学療法学.2007; 34(1): 16‒20. 9)Momosaki R, Yasunaga H, et al.: Effect of early rehabilitation by physical therapists on in-hospital mortality after aspiration pneumonia in the elderly. Arch Phys Med Rehabil. 2015; 96(2): 205‒209. 10) Neil JG, Johanna EAW, et al.: An early rehabilitation intervention to enhance recovery during hospital admission for an exacerbation of chronic respiratory disease. BMJ. 2014; 349: g4315. 11)Bernhardt J, Lanqhorne P, et al.: Efficacy and safety of very early mobilization within 24 h of stroke onset. Lancet. 2015; 386(9988): 46‒55. 12)日本集中治療医学会早期リハビリテーション検討委員会: 集中治療室における早期リハビリテーション─早期離床や ベッドサイドからの積極的運動に関する根拠に基づくエ キスパートコンセンサス─.http://www.jsicm.org/pdf/ soki_riha1609.pdf(2017 年 6 月 21 日引用) 13)日本呼吸器学会医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイ ドライン作成員会(編) :医療・介護関連肺炎(NHCAP) 診療ガイドライン.メジカルレビュー社,大阪,2011, pp. 8‒11. 14)新谷 歩:今日から使える医療統計.医学書院,東京, 2015,pp. 108‒113..

(7) 96. 理学療法学 第 45 巻第 2 号. 15)星野崇宏,岡田謙介:傾向スコアを用いた共変量調整によ る因果関係の推定と臨床医学・疫学・薬学・公衆衛生分野 での応用について.保健医療科学.2006; 55(3): 230‒243. 16)宮城島慶,松井敏史:高齢肺炎入院患者における予後規定 因子の検討─入院治療による介護度の変化を中心に─.日 本老年医学会雑誌.2015; 52(3): 260‒268. 17)Brower RG: Consequences of bed rest. Crit Care Med. 2009; 37: S422‒S428. 18)Govindan S, Iwashyna TJ, et al.: Mobilization in serve sepsis: an integrative review. J Hosp Med. 2015; 10(1): 54‒59. 19)Kortebein P, Ferrando A, et al.: Effect of 10 days of bed rest on skeletal muscle in healthy older adults. JAMA. 2007; 297(16): 1772‒1774. 20)山科吉弘,田平一行:姿勢が咳の最大流速(Cough Peak. Flow)に与える影響.バイオフィリア リハビリテーショ ン研究.2011; 7(1): 1‒5. 21)Lumb AB, Nunn JF, et al.: Respiratory function and ribcage contribution to ventilation in body positions commonly used during anesthesia. Anesth Analg. 1991; 73: 422‒426. 22)日本静脈経腸栄養学会(編) :静脈経腸栄養ガイドライン (第 3 版).照林社,東京,2014,pp. 235‒247. 23)寺島秀夫,只野聡介:周術期を含め侵襲下におけるエネ ルギー投与に関する理論的考え方─既存のエネルギー 投与量算定方からの脱却─.静脈経腸栄養.2009; 24(5): 1027‒1043. 24)成瀬 智,御室総一郎:予定大血管手術後の尿中尿素窒素 排泄量と血中 CRP 値の関係性.日本集中治療医学会雑誌. 2015; 22: 265‒266.. 〈Abstract〉. Characteristics and Background Factors of Elderly Patients with Pneumonia who Received a Very Early Mobilization Intervention. Kenta KAWAMURA, PT, MSc, Yumi HIROSE, MD, Kenichi OZONE, PT, Ikuo AITA, MD Public Interest Incorporated Foundation Tsukuba Medical Center Hospital Kenta KAWAMURA, PT, MSc, Yukako OKUNO, PT, PhD, Koichi IWAI, PhD, Kazuhide TOMITA, PT, PhD Ibaraki Prefectural University of Health Sciences. Purpose: The purpose of this study was to analyze the length of hospital stay, activity of daily living and length of oxygen therapy and elucidate underlying risk factors in elderly patients with pneumonia who received a very early mobilization (VEM) intervention. Methods: Patients who matched the following inclusion criteria were eligible for the study: 75 years of age or older, suffering from pneumonia, and having undergone physical therapy. We retrospectively collected patient, disease and treatment, admission, mobilization, and ADL data from medical records. A total of 122 patients were recruited for this study and were divided into two groups: the VEM group (55 patients) and the non-VEM group (67 patients). We analyzed the patients’ characteristics using the inverse probability weighting method, and extracted background factors from these data. Results: Patients in the VEM group showed a significant association with the length of hospital stay and length of oxygen therapy. Severity of the A-DROP score and fasting were identified as risk factors. Conclusions: Length of hospital stay and length of oxygen therapy are associated with VEM. VEM was affected by the severity of pneumonia and fasting. Key Words: Early mobilization, Pneumonia, Elderly people.

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