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リハビリテーション神経科学が医療を創る

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 834 42 巻第 8 号 834 ∼ 835 頁(2015 年) 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 分科学会・部門教育講演. リハビリテーション神経科学が医療を創る* 牛 場 潤 一**. 態に応じた治療介入を脳にしなくてはいけない」という点である。. はじめに  脳卒中片麻痺をはじめとした,中枢神経系の損傷を原因とす る運動障害への治療的アプローチは近年,神経科学の知見に基 づいた様々な提案がなされるようになってきた. 1). 。たとえば,. 可塑性原理の発見  病態脳の状態について理解が進むと,現在の病的な状態をど のようにすることが病態改善につながるのかが明らかになって. 経頭蓋的な磁気刺激や電流刺激を用いて,特定の皮質領域の興. くる。すなわちそれは,医学的にいえば治療エンドポイントの設. 奮性を修飾することで,神経系の機能全体のバランスを整える. 定,工学的にいえばセットポイントの定義,が明確になるという. ニューロモジュレーションや,筋収縮量を筋電図波形から推定. ことである。このつぎに重要になるのは, 「脳に対してなにをす. して,その収縮をパワーアシストするように筋電気刺激を与え. れば,脳のどこがどう変化するのか?」という,ルールの理解で. るデバイスなどがその代表例である。このような幾多のニュー. あろう。これがないと,せっかく進むべき道がわかったとしても,. ロリハビリテーションがこの 10 年で提案されるようになった. どのようにしてその状態にたどり着けばよいかがわからない。. 背景には,次に挙げる 3 つの要素が大きく寄与しているといえ.  脳がその機能を変化させるために必要な条件は,これまでの. る。すなわち, 「病態脳の状態理解」 「可塑性原理の発見」 「ウェ. 基礎神経科学の蓄積によってある程度理解されはじめており,. アラブルで精密制御が可能なデバイスの登場」である。. これらを可塑性原理や運動学習則と呼ぶ。以下に,いくつかの 可塑性原理や運動学習則を紹介する。. 病態脳の状態理解. 5)6). 可塑性原理ならびに運動学習則(. より抜粋).  脳卒中片麻痺に限って述べると,磁気共鳴画像法や経頭蓋磁. ・Use dependent plasticity(使用依存的可塑性) :特定の機能. 気刺激法などを用いた様々な研究 2) によって,臨床上の分類. を担う神経細胞が繰り返し活動すると,同じパターンの活動が. が同じ病態であっても,その脳の活動動態には多様な特徴が. つぎに生じやすくなる現象のこと。神経細胞間の情報伝達を担. あることがわかりつつある。キーワードで括るならば,それ. うシナプスの結合性変化が関与していると考えられている。. は「同一性」と「個別性」である。たとえば,片麻痺上肢の特. ・Timing dependent plasticity(タイミング依存的可塑性) :シナ. に手指における随意運動機能に関しては,対側体性感覚運動野. プス結合したふたつの神経細胞が時間的に近接して繰り返し. や運動前野を起始とした皮質脊髄路が主体的な役割を担ってい. 発火することによって生じる可塑性。ふたつの神経細胞の発. ることが知られており,手指の運動機能回復と対側半球の興奮. 火の時間的関係によって,可塑性が増強したり抑圧されたり,. 性の改善には一定の相関が認められている. 3). 。このような関係. 極性自体が変わる場合が多い。細胞間の「発火タイミング」と. は,麻痺の程度が異なっていても成立していると言われてお. いう要因によって可塑性が生じるところに最大の特徴がある。. り,これが「同一性」と呼べる共通基盤である。一方,たと. ・Reward-based reinforcement learning(報酬系を介した強化. えば運動機能の臨床評価法のひとつである Stroke Impairment. 学習) :ある行動に対して報酬(賞賛,金銭など)が与えら. Assessment Set(SIAS)で同じスコアに分類される場合でも,. れると,その行動を生成するために必要な神経活動パターン. 麻痺手指を動かそうと企図したときの脳活動パターンには大き. が発生しやすくなるように学習(シナプス可塑性の組み合わ. な個人差があり,たとえば全脳にわたって顕著な活動変化が認. せによって神経ネットワーク上に生じる変化)が進む現象の. められない寡活動状態を呈する患者もいれば,対側半球の運動. こと。学習のしかたを知らなくても,結果として脳の中に適. 関連領域にとどまらず,両側性かつ非運動関連領域も含んで過. 切なプログラムが定着する点に特徴がある。. 活動状態になる患者もいる 4)。これが「個別性」と呼べる特徴. ・Supervised learning(教師あり学習):脳が計画して骨格筋. である。こうして病態脳の状態理解が進むにつれて明らかに. 群に出力した運動指令と,実際に生じた身体運動の差を手が. なってきたことは,「見かけ上,同じような運動障害を呈して. かりにして学習を進める方法のこと。常に正解が与えられ,. いても,脳の病的な活動状態には個人差があり,それぞれの状. 実際に自分が行った運動に対して,なにがどの程度違ってい. *. Creating a New Medicine with Rehabilitation Neuroscience ** 慶應義塾大学理工学部生命情報学科 (〒 223‒8522 神奈川県横浜市港北区日吉 3‒14‒1) Junichi Ushiba, PhD: Department of Biosciences and Informatics, Faculty of Science and Technology, Keio University キーワード:神経科学,可塑性,ブレイン・マシン・インターフェース. たのかという手がかりを基に学習が進むのが特徴。  運動学習を専門とする研究者らの分析によれば,脳卒中に よって部分的に損傷のある成人期の中枢神経系においても,可 塑性や運動学習そのものは高度に保たれており,可塑性や運動 学習が生じる環境を整えることによって,その能力が引きださ.

(2) リハビリテーション神経科学が医療を創る. 835. れることがわかっている 7)8)。したがって,これら可塑性原理. の所見が改善すること,手指の随意運動が改善し,臨床スコア. や運動学習則を正しく理解し,演繹することによって,脳卒中. が上昇することなどを症例集積研究により見いだしている. 後の脳に見られる病的な活動動態を適切な状態に導くような. ABAB デザインによる一症例研究では,開ループ型 BMI に治. ニューロリハビリテーションを創ることができると考えられる。. 療効果は認められず,脳活動に応じたリアルタイムフィード. ウェアラブルで精密制御が可能なデバイスの登場. 9). 。. バック要素が機能回復に重要な役割を果たしていることが示 され 10),非ランダム化比較試験による検討からは,視覚的な.  脳卒中そのものは血管障害であり,それが原因で皮質下の感. フィードバックよりも体性感覚フィードバックが効果的である. 覚運動経路の一部が器質的に損傷することが,片麻痺を呈する. ことが示唆された 11)。現在では,44 名の症例集積研究の結果. 直接的な原因である。その後,回復期や維持期を迎えると,麻. から,38 名(約 86%)に筋電図上の所見もしくは臨床的身体. 痺手を使わない,あるいは不適切に使用することが原因で,組. 機能評価上の改善が認められており,その後に随意運動介助型. 織的には直接損傷していない様々な運動関連領域に二次的な機. 電気刺激装置を用いた HANDS 療法へ移行して,さらなる機能. 能変性が生じる。たとえば,一次運動野や脊髄運動ニューロン. 改善が認められる症例群があることも経験している 12)。. 群における基底活動状態の異常化,非一次運動野における身体 運動の制御を司る内部モデルの忘却や誤学習,基底核や視床を. おわりに. 介した運動調節の忘却や誤学習である。神経細胞群の基底活.  本稿では,神経科学のことばで病態脳の計測と制御(理解と. 動状態を変化させる方法は,冒頭で述べたようなニューロモ. 治療)を実現することの重要性を述べた。このように,疾患や. ジュレーションによって可能であるが,内部モデルの再構成. 重症度ごとに治療手技をテーラーメイド的に生みだすための. は,随意運動の遂行とそれに伴う誤差信号の受領を反復する. 「考え方そのもの」を構築することが,本稿のタイトルにもあ. ことが基本であり,随意運動を発現させるために機能させた. る「リハビリテーション神経科学」という学問の創出だと考え. い,機能的に未成熟な神経経路を活性化させるためには,use. る。また,このような学問の臨床展開例として生みだされた,. dependent plasticity や timing dependent plasticity を 活 用 し. 個別的手法やその運用のことを「ニューロリハビリテーショ. て maturation(unmasking)を促す必要がある。. ン」と位置づけることができる。本稿で紹介した BMI リハビ.  ここで問題となるのは, 「それをどうやって実現するか?」で. リテーションは,その代表例である。. ある。脳に興奮性あるいは抑制性の刺激を与えたり,感覚情報.  リハビリテーション神経科学とニューロリハビリテーショ. を送りこんだりするには,適切なタイミングで適切な強度の物. ン。両者が相補的に機能することで,リハビリテーション領域. 理刺激を脳や末梢神経に与える必要があるし,use dependent. に新しいディシプリンが生まれ,これまでの治療体系ではアプ. plasticity や timing dependent plasticity を扱うには,神経の活動. ローチすることが難しかった患者に福音がもたらされることを. 状態をリアルタイムに知る必要がある。いずれの場合も,時間. 願って止まない。. 軸でいえばミリ秒から秒のスケール,空間軸でいえばミリメー ターからセンチメーターのスケール,物理強度でいえばミリア ンペアのスケールでの計測と制御が要求されるので,これを人 間の手で行うことには限界があるし,ましてや脳の状態をリア ルタイムに知ることは,デバイスなしには不可能である。その 意味において,頭部や手足に生体信号用センサを取りつけたり, 電気刺激装置や電動モータを取りつけたりできるウェアラブル デバイスが登場し,それら汎用なモジュールを組み合わせて自由 にシステム開発できるようになったことは,前二項目に挙げた臨 床医学と神経科学の発展に比肩する,画期的なイベントである。. 実例としてのブレイン・マシン・インターフェースリ ハビリテーション  このように,従来は別々の学問領域として交わることの少な かったものを,神経医療の創出という観点の下に再統合を図る ことが,これからの医学研究のひとつの潮流になると著者は考 えている。このような考えの下に理論構築を進めつつ,その理 論の実証的な事例として,ブレイン・マシン・インターフェー ス(Brain-Machine Interface:以下,BMI)を活用した概念実 証研究や臨床研究を現在進めている。BMI リハビリテーショ ンについては,運動企図時における障害半球体性感覚運動野 の興奮性が可塑的に高まることを,頭皮脳波や BOLD MRI に よって確認したほか 4),安静時における障害側一次運動野の興 奮閾値が低下すること,麻痺側総指伸筋における随意筋電図上. 文  献 1) Dimyan MA, Cohen LG: Neuroplasticity in the context of motor rehabilitation after stroke. Nat Rev Neurol. 2011; 7: 76‒85. 2) Ward NS, Cohen LG: Mechanisms underlying recovery of motor function after stroke. Arch Neurol. 2004; 61(12): 1844‒1848. 3) Werhahn KJ, Conforto AB, et al.: Kadom NHallett MCohen LG Contribution of the ipsilateral motor cortex to recovery after chronic stroke. Ann Neurol. 2003; 54(4): 464‒472. 4) Ono T, Tomita Y, et al.: Multimodal sensory feedback associated with motor attempts alters BOLD responses to paralyzed hand movement in chronic stroke patients. Brain Topogr. 2015; 28(2): 340‒351. 5) 里宇明元,牛場潤一(監修) :神経科学の最前線とリハビリテー ション.医歯薬出版,東京,2015. 6) 正門由久(編):リハビリテーションのための臨床神経生理学.中 外医学社,東京,2015. 7) Krakauer JW: Motor learning: its relevance to stroke recovery and neurorehabilitation. Curr Opin Neurol. 2006; 19(1): 84‒90. 8) Kitago T, Krakauer JW: Motor learning principles for neurorehabilitation. Handb Clin Neurol. 2013; 110: 93‒103. 9) Shindo K, Kawashima K, et al.: Effects of neurofeedback training with an electroencephalogram-based brain-computer interface for hand paralysis in patients with chronic stroke: a preliminary case series study. J Rehabil Med. 2011; 43(10): 951‒957. 10) Mukaino M, Ono T, et al.: Efficacy of brain-computer interfacedriven neuromuscular electrical stimulation for chronic paresis after stroke. J Rehabil Med. 2014; 46(4) : 378‒382. 11) Ono T, Shindo K, et al.: Brain-computer interface with somatosensory feedback improves functional recovery from severe hemiplegia due to chronic stroke. Front Neuroeng. 2014; 7: 19. 12) Liu M, Fujiwara T, et al.: Newer challenges to restore hemiparetic upper extremity after stroke: HANDS therapy and BMI neurorehabilitation. Hong Kong Physiother J. 2012; 30(2): 83‒92..

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参照

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