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実施率100%の運動指導に必要なこと

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Academic year: 2021

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理学療法学 第 40 巻第 8 号 662 はじめに  糖尿病の予防,治療において運動が重要であることはあきら かであるものの,その実施率は未だに低い。実施率が低い理由 には様々な要因があると考えられるが,その根底にあるのは, 運動の意義が正しく理解されていない,ということがあるよう に感じる。本項では,運動がどのようにして効果を発揮するか, また,臨床的にどのような問題点があり,どのような指導が有 効であるか,について最近の研究結果を交えて紹介したい。 脂肪筋とインスリン抵抗性   近 年,2 型 糖 尿 病 の 病 態 生 理 に 関 し て 異 所 性 脂 肪 の 重 要 性が指摘されている。異所性脂肪とは,脂肪組織以外の異 所,特に肝臓,骨格筋の細胞内に溜まる脂肪とここでは定義 し た い。1999 年 に ヒ ト に お い て proton magnetic resonance spectroscopy(1H-MRS)法で細胞内脂質量(異所性脂肪)の 測定が可能になったことがブレークスルーとなり,一般的に肥 満に伴って発生すると考えられていたインスリン抵抗性が,痩 せていても骨格筋細胞内脂質(脂肪筋)や脂肪肝の蓄積がある 場合でもそれぞれの臓器にそれが生じることがあきらかとなっ てきた。つまり,過去においては肥満がインスリン抵抗性の臨 床的マーカーであったが,見た目では判断できない肝臓,骨格 筋の「細胞内肥満」がインスリン抵抗性の原因としてクローズ アップされてきた。  現在までの所,脂肪筋がインスリン抵抗性を発生するメカニ ズムとして,その脂肪の組成が重要と考えられている。脂肪筋 の大部分は中性脂肪であるが,中性脂肪そのものがインスリン 抵抗性を直接惹起している可能性は低い。現在までに,細胞 内でインスリン抵抗性を惹起する原因として,diacylglycerol (DAG)がインスリンシグナル伝達不全を引き起こしインスリ ン抵抗性が発生すると仮説が立てられている1)2)。 2 型糖尿病における脂肪筋に対する運動の効果  脂肪肝,脂肪筋がインスリン抵抗性の原因であるならば,「体 型が太っていても,脂肪筋,脂肪肝さえ改善すれば代謝は改善 しうる」と考えられる。この点に関して我々は,2 型糖尿病に おける食事,運動療法の脂肪筋,脂肪肝に対する意義について 検討した。2 週間の糖尿病教育入院となった 2 型糖尿病患者 14 名を食事療法単独または,食事+運動療法により加療を行う 2 群に分け,入院前後に1H-MRS により脂肪筋,脂肪肝を定量評 価し,同時に高インスリン正常血糖クランプに経口糖負荷を組 み合わせて,末梢インスリン感受性,肝糖取りこみ率を測定し た3)。介入による体重の変化は有意ではあるが,2%程度と両 群とも軽度であった。しかし,脂肪肝は,両群ともにほぼ同等 に約 30%減少し,それに伴って肝糖取りこみは増加した。骨格 筋に関しては,食事療法単独では脂肪筋とインスリン感受性は 有意に変化しなかったが,食事+運動療法群では脂肪筋が 19% 減少し,インスリン感受性は 57%増加した(図 1)。脂肪筋の 変化率はメモリー付加速度計で測定した身体活動度の変化率は 負の相関を認め,脂肪筋減少は運動により細胞内脂質が消費さ れた結果であることが推察された(図 2)。  これらのことより,2 型糖尿病において,食事療法はおもに 肝臓の,運動療法はおもに骨格筋の細胞内脂質を減少させ,そ れぞれのインスリン抵抗性を改善すると考えられる。また,こ れらの作用は介入後 2 週間で認められており,その間の体重減 少も 2%であったことから,短期の介入によりわずかな体重減少 でも代謝が改善されるひとつのメカニズムとして脂肪肝,脂肪 筋とインスリン抵抗性の改善が重要である可能性が示唆された。 理学療法学 第 40 巻第 8 号 662 ∼ 665 頁(2013 年)

実施率 100%の運動指導に必要なこと

田 村 好 史

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専門領域研究部会 内部障害理学療法 特別セッション「パネルディスカッション」

What is Required for Exercise Instruction to Achieve 100 % Im-plementation Rate of Exercise Therapy?

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順天堂大学大学院代謝内分泌内科学 順天堂大学大学院スポートロジーセンター (〒 113‒8421 東京都文京区本郷 2‒1‒1)

Yoshifumi Tamura, MD, PhD: Department of Metabolism & Endocrinology, Sportology Center, Juntendo University Graduate School of Medicine

キーワード:異所性脂肪,インスリン抵抗性,脂肪筋

図 1 食事・運動療法による IMCL とインスリン感受性の変化

Japanese Physical Therapy Association

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実施率 100%の運動指導に必要なこと 663 脂肪筋の蓄積原因  我々は以前,脂肪摂取量と脂肪筋の変化について,陸上競技 を行っている短距離ランナーと長距離ランナーそれぞれ7名ず つを対象として,3 日間の低脂肪,普通脂肪,高脂肪負荷食を 摂取させ,その直後に脂肪筋を1H-MRS 法により測定した。そ の結果,短距離ランナーにおいては,前脛骨筋における脂肪筋 は食事内容により優位な変化を認めなかったのに対して,長距 離ランナーにおいては脂肪摂取量に応じて脂肪筋は大きく変化 し,同一種目の各個人間での脂肪筋の変化量については,きわ めて個人差が強いことがあきらかとなった(図 3)4)。このよう に,脂肪負荷に対する脂肪筋の増加の程度は,環境因子や遺伝 要因といった様々な体質が関与していることが考えられるが, 現在までほとんどあきらかとなっていない。そこで我々は,一 定量の高脂肪負荷による脂肪筋の増加の程度を「脂肪負荷感受 性」として新規に定義,感受性が高い,つまり高脂肪負荷によ り脂肪筋が蓄積しやすいタイプは,インスリン抵抗性,2型糖 尿病を発症しやすい可能性があると考えた。  この点に関して,37 名の非肥満男性に対して 3 日間の高脂 肪食を負荷し,脂肪筋の変化やインスリン抵抗性の変化につい て観察を行った5)。3 日間の普通食摂取後に,3 日間の高脂肪 食(炭水化物 20%,脂質 60%,蛋白質 20%)を摂取させ,そ れぞれの食事後に空腹時の条件下で脂肪筋を測定し,高インス リン正常血糖クランプにより骨格筋のインスリン感受性を測定 した。その結果,ヒラメ筋,前脛骨筋における細胞内脂質は有 意に約 1.2 ∼ 1.3 倍程度増加し,その一方で,骨格筋のインス リン感受性は減少傾向を認めた。次に,細胞内脂質の変化とイ ンスリン感受性の変化の関連を検討したところ,ヒラメ筋にお いて有意な負の相関が認められた(r = ‒ 0.41,P < 0.05)。そ のため,全体的には 3 日間の高脂肪食により,脂肪筋が蓄積し やすい人ほどインスリン感受性が低下するという傾向があると 考えられた。どのような人で脂肪筋が蓄積しやすかったかを検 図 2 身体活動変化量と脂肪筋の変化率の関係 図 3 短距離ランナーと長距離ランナーにおける脂質摂取と IMCL の変化

Japanese Physical Therapy Association

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理学療法学 第 40 巻第 8 号 664 討したところ,高分子型アディポネクチンの血中濃度が低い人 ほど,脂肪筋が蓄積されやすいことがあきらかとなった。さら に,被験者を普段週 1 回以上運動している群と,そうでない群 の 2 群に分けて解析したところ,運動していない群では,脂 肪筋の増加と日常身体活動量に強い負の相関があった(図 4)。 これらのことから,普段の歩行が脂質燃焼を介して骨格筋にお ける脂質蓄積に抑制的に働いている結果であることが推察され た。アディポネクチンについても,骨格筋における脂質燃焼を 促進する役割があるため,同様の機序で脂肪負荷感受性の規定 因子になっているのかもしれない。現在,脂肪負荷前後で生検 したサンプルを解析して脂肪筋増加の原因を検索しているが, 高脂肪食前の骨格筋の遺伝子発現やミトコンドリア量との関連 性は薄い結果を得ている。 日本における糖尿病の運動療法の現状  糖尿病学会では「糖尿病運動療法・運動処方確立のための調 査研究委員会」により現在の日本における糖尿病運動療法の実 態調査が行われた6)。全国の 1,200 名の糖尿病専門医,非専門 医に対してアンケート調査を行い,最終的に 403 名の医師から 回答が得られた。多くの興味深いデータが得られたが,象徴的 な結果として初診患者に対して行う指導として,食事療法につ いては大部分の患者に対して行われていたのに対して,運動 療法においては,90%以上の患者に行っている医師は全体の 39%程度にすぎず,食事療法のそれ(74%)の半分程度しかな かった。なぜこのような数字になったかは様々な原因があると 考えられるが,医師側に十分な時間がない,というのが大きな 理由のひとつであった。  しかし,患者に同様のアンケート調査を行った所,半分の糖 尿病患者が現在運動しており,その頻度は医師から指導を受け る頻度と関連していることがあきらかになってきた。つまり, 医師側は,「恐らく説明しても,運動してくれないだろうから, 時間のムダかな,,,,,」と思い,運動の説明に消極的になる時 もあるかもしれないが,それは間違った態度かもしれない。私 がアンケートの結果を見て感じたことは,指導不足が糖尿病患 者が運動をしない原因となっている可能性が高く,①指導機会 を増やす,②意義,強度,頻度などしっかりと繰り返し伝える, の 2 点が今後運動療法の実施率を高めるうえで重要と考える。 運動の意義を捉え直す  医療者側の「運動指導する時間がない」,という意味をもう 一度考えてみたい。時間がないという理由は概して相対的な意 味で使われることが多い。その裏では,「まず,食事療法を行っ て血糖値さえ改善されればよい。運動も大事なんだろうけど, そこまで時間を掛ける程でも,,,。」という心理が働いてはいな いであろうか? そもそも,血糖値が下がりさえすれば,介入 方法はなんでもよいのであろうか?  この点についてもう一度,視点を糖尿病の治療から外して広 い意味で運動を捉えてみたい。たとえば,日本国内においては, 特定機能健診が開始となり,エクササイズガイドとそれに引き 続くアクティブガイドが策定され運動指導の在り方が標準化, そして運用されてきた。しかし,メタボリックシンドロームに 対する介入効果を判定する基準のひとつである内臓脂肪量を減 らすには,カロリー制限の方が運動療法に比べて短期的な効果 が得られやすく,なんとなく食事制限して内臓脂肪を減らしさ えすればよい,検査データが改善できさえすればよいと捉えら れている面があることも否めない。しかしながら,最近の疫学 的な調査からは,肥満とは独立してフィットネスレベルや身体 活動量が死亡率・心血管イベントをはじめとした予後を左右す る因子となっていることが多く指摘されている7)。簡単にいう と,体重が正常でも運動していないこと自体がリスクである, ということを意味している。  また,我が国における糖尿病患者の特徴として非肥満がある が,このことは介入を行う時のリスクとなっていないであろう か? 太っていないというだけで,多くの運動不足を見落とし ていないであろうか? 前述の通り我々の行った研究結果によ り,運動不足が直接的に脂肪筋を増加させインスリン抵抗性を 引き起こし,様々な疾患の原因となっている可能性があきらか となってきている3)5)。  また,欧米と東アジア人では疾患構造が異なることにもより 注意をするべきかもしれない。欧米人では心疾患で亡くなる方 が多いが,日本人の糖尿病患者における死因の第 1 位は血管イ ベントから癌になった。また血管イベントの中では脳卒中が多 いことが特徴として挙げられる。これらの点に関して,疫学研 究のメタアナリシスの結果,身体活動量の増加は大腸がん,乳 図 4 日常生活活動量は脂肪筋のなりやすさと関連する

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実施率 100%の運動指導に必要なこと 665 がん,子宮体がんの発生に対して予防的に働くことがあきらか となってきている。また,最近になって日本における 2 型糖尿 病患者では,余暇時間の身体活動が脳卒中や死亡率のリスク低 下と関連していることがあきらかとなった8)。 今後の課題  我が国では,糖尿病患者の人数は疑いを否定できない人も含 めると 2,000 万人以上いる。その多くの人に対して,とても医 療機関だけで対応できるわけがなく,予防を含めた自治体など を含めた対応が必要である。また,医療機関内でも医師だけで はなく,糖尿病療養指導士をはじめとした多くのコメディカル の協力が必要である。運動に関しては,今後理学療法士の役割 は増していくと考える。しかし,理学療法士がすべての患者を 管理するのは非現実的であり,むしろ理学療法士は運動指導す る人を指導育成する役割,または,今後の指導に必要なエビデ ンスの構築を行うことが役割であるように感じる。  特に全世界的に手薄となっているのが,レジスタンストレー ニングである。メタアナリシスの結果では,レジスタンスト レーニングが血糖改善効果を有することはすでにあきらかと なっている9)。また,今後増えるであろう高齢者にとって,筋 力を維持するのは認知症の予防と同等に重要な課題である。し かし,現在までの論文としてだされているレジスタンストレー ニングはいずれもジムなどの限られた施設で,指導士がついて キッチリと行われた場合の結果である。国内全体を考えると, そのような環境はごく一部であり,より一般化した方法が必要 であるが,いわゆるホームエクササイズの成績はあまりよくな い10)。確実に効果が上がるホームエクササイズの開発が医療 者,特に理学療法士に課せられた課題と考えている。 文  献

1) Itani SI, Ruderman NB, et al.: Lipid-induced insulin resistance in human muscle is associated with changes in diacylglycerol, protein kinase C, and IkappaB-alpha. Diabetes. 2002; 51: 2005‒ 2011.

2) Petersen KF, Shulman GI: Pathogenesis of skeletal muscle insulin resistance in type 2 diabetes mellitus. Am J Cardiol. 2002; 90: 11G‒18G.

3) Tamura Y, Tanaka Y, et al.: Eff ects of diet and exercise on muscle and liver intracellular lipid contents and insulin sensitivity in type 2 diabetic patients. J Clin Endocrinol Metab. 2005; 90: 3191‒3196. 4) Tamura Y, Watada H, et al.: Short-term effects of dietary fat

on intramyocellular lipid in sprinters and endurance runners. Metabolism. 2008; 57: 373‒379.

5) Sakurai Y, Tamura Y, et al.: Determinants of intramyocellular lipid accumulation after dietary fat loading in non-obese men. J Diabetes Invest. 2011; 2: 310‒317.

6) Sato Y, Kondo T, et al.: Present situation of exercise therapy for patients with diabetes mellitus in Japan: a nationwide survey. Diabetol Int. 2012; 3: 86‒91.

7) Hainer V, Toplak H, et al.: Fat or fit: what is more important? Diabetes Care. 2009; 32 Suppl 2: S392‒S397.

8) Sone H, Tanaka S, et al.: Leisure-time physical activity is a significant predictor of stroke and total mortality in Japanese patients with type 2 diabetes: analysis from the Japan Diabetes Complications Study (JDCS). Diabetologia. 2013; 56: 1021‒1030. 9) Gordon BA, Benson AC, et al.: Resistance training improves

metabolic health in type 2 diabetes: a systematic review. Diabetes Res Clin Pract. 2009; 83: 157‒175.

10) Dunstan DW, Daly RM, et al.: Home-based resistance training is not sufficient to maintain improved glycemic control following supervised training in older individuals with type 2 diabetes. Diabetes Care. 2005; 28: 3‒9.

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図 1 食事・運動療法による IMCL とインスリン感受性の変化Japanese Physical Therapy Association

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