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中枢神経障害の理学療法評価と治療戦略

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Academic year: 2021

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はじめに  現在,脳卒中片麻痺患者(以下,CVA)に対する介入には, 様々な理学療法アプローチが存在している。アプローチ方法 は,ある理論に立脚してつくられるため,CVA を異なる側面 から捉えた多くの考え方があるといえる。しかしながら,これ らの理論は 2 つに大別される。1 つは,麻痺側に焦点をあて機 能回復にチャレンジしていこうとするもの,他方は非麻痺側を トレーニングし,可及的早期に ADL を自立させようとする考 え方である。このまったく異なる考え方が存在する背景には, 障害された脳損傷の部位とその範囲,年齢,社会的・経済的な 側面,そしてセラピストの identity などの要因が複雑に絡み合 い,患者には様々なゴールが存在するため適切な介入方法を一 意に決めることができないことによる。そのため我々は,その ときの状況に応じて両側面からのアプローチを使い分けていく 必要があると考えられる。今回は,CVA の機能回復を目指し た考え方について概説する。 身体システムと知覚運動循環  人間の身体は複雑系であり,自律的に全体の秩序を組み立て るシステムとして成り立っている。身体におけるシステムと は,構成要素としての知覚と運動の間に生じる循環的な相互作 用により新たな動作パターンが生みだされ続け,この構成要素 間の関係性が全体を構成している。医学的に知覚(感覚)と運 動は分けて考えることが多いが,日常における動作や行為にお いては知覚と運動は不可分な関係を形成し,その間には循環的 な相互作用が存在している。つまり,図 1 に示すように人間の 運動はすべて身体と環境(物体)との相互作用であり,運動は 脳に知覚情報をもたらす手段であると捉えることができる1)。 このように知覚と運動が双方向的な関係にあるということは, 中枢神経系に収集される知覚が変質した場合,出力される運動 も変質する可能性がある。逆に,知覚を生みだすために運動が 適切に行われなければ,中枢神経系に収集される知覚も変質し たものとなる。すなわち,運動障害を有している患者は,身体 と環境との適切な相互関係を構築する能力が制限され,能動的 に知覚情報を生みだすことができない状態であると考えなくて はならない。  我々がどんな環境であってもすぐさま適応できる背景には, 知覚と運動の関係性を変え,運動の文脈にあった複数存在する 運動パターンの中から適切な解を選択できることに他ならな い。このような観点から CVA の振る舞いをみると,ステレオ タイプな動きとなっており自由度が凍結した状態である。この ような画一的な動作パターンは,環境に働きかけるための解を ひとつしかもたないため冗長性に欠け,環境の変化に対し脆弱 である。では,環境に適応させるためにどうしたらよいのであ ろうか。それには自身の運動に伴う環境からの情報を適切に知 覚(予測)できる身体を構築することが必要である。すなわち 患者の運動機能を向上させるためには,同時に体性感覚機能の 改善が必須である。理学療法アプローチにより,患者が失って いた体性感覚を回復させていくことで,新たな知覚と運動の関 係性を築くことが可能になり,適切な自己組織化へと導かれる と考えられる。しかしながら,CVA 患者には痙性麻痺や感覚 障害が存在する。これらの病理により外界からの情報を適切に 収集することもできなければ,適切な運動出力を決定すること もできない状態となっている。  このような CVA における運動・感覚機能の向上を目指すう えで,考慮していく必要のある神経科学の知見として半球間抑 制メカニズムが挙げられる。本来,大脳は左右の半球間で協調 するために抑制し合っているが,脳卒中では非損傷半球側から

中枢神経障害の理学療法評価と治療戦略

千 鳥 司 浩

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スタンダードセミナー

Assessment and Therapeutic Strategy of Physical Therapy for the Central Nervous System Lesions

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中部学院大学リハビリテーション学部理学療法学科 (〒 501‒3993 岐阜県関市桐ヶ丘 2‒1)

Kazuhiro Chidori, PT, MS: Faculty of Rehabilitation, Department of Physical Therapy, Chubu Gakuin University

キーワード:脳卒中片麻痺,知覚運動循環,内部観察

図 1 身体と環境(物体)との相互作用1)

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理学療法学 第 41 巻第 4 号 208 損傷半球側への抑制作用が強まることで,さらに損傷半球側の 機能が低下してしまうことが報告されている2)。このため脳 卒中リハビリテーションでは,この大脳半球間の不均衡を早 期より是正し,損傷半球側の興奮性をアップレギュレートす る必要性があり,近年では反復経頭蓋磁気刺激法(repetitive magnetic stimulation: rTMS)を用いて皮質の興奮性をコント ロールする取り組みが導入されている。この知見からセラピス トが考慮しなければならないことは,非麻痺側のみの使用を可 及的に減らし,逆に麻痺側の使用頻度(運動出力)を高め,同 時に感覚フィードバックを入れていくことが損傷半球の興奮性 を高めることに役立つと考えられる。また,Sharma ら3)は, 脳卒中後の神経可塑性メカニズムに関連した様々な先行研究を レビューし,運動機能回復に影響を与える要因として,①麻痺 側への体性感覚フィードバック,②運動イメージや運動観察に 伴う運動先行・予測型の脳活動,③運動発現における皮質脊髄 路を経由した発火が有効であるが,①,②の神経ネットワーク の組み合わせが必要であると報告している。以上のことより, 麻痺側(損傷側半球)の興奮性を高めるためには,身体に入っ てくる体性感覚情報を的確に認識し,その情報をもとに適切な 運動イメージを想起するなど,健常な運動を生みだすための神 経ネットワークを賦活させた状態にしてから,運動出力を反復 していくことが重要である。 痙性麻痺,感覚障害に対する考え方  我々の身体には意識の有無にかかわらず,雑多な感覚刺激が 絶え間なく入力され続けている。その感覚刺激に対し,選択的 に注意を向けられた感覚モダリティが知覚として意識にのぼ る。そして,知覚された感覚モダリティが運動遂行の情報とな るためには,その知覚が自己身体にとって,どのような意味を 有しているのかを認識し,それを構造的に記憶していくことが 必要になる。たとえば,身体を直立した状態から体幹を前傾し ていくと,同時に足圧中心が前方に移動するという知覚が生 じ,前方に転倒しないように自然に足趾が屈曲してくるであろ う。このときの足圧中心が移動したという知覚は,主体にとっ て「前方に倒れそうだ」という意味の情報になる。そして,こ のように情報化されるためには,知覚の細分化が必要になる。 たとえば,足底に触圧覚が加わったことは認識できるが,どの 部位に加わったかを認識できない場合が図 2a の状態となる。 徐々に,足底面を細かく区分し,知覚(弁別)できるようになっ た状態が図 2d である。このように知覚の空間分解能を高める ことを学習することができて,はじめて足圧の偏倚方向を詳細 に認識することが可能になる。  そして情報化するためにはもうひとつ重要なことがあり,今 必要な感覚モダリティを取捨選択できるということである。図 3 のように踵を下にしたとき,主体に生じる関節運動は足関節 背屈であり,入力された感覚は触圧覚と関節覚である。しか し,「踵の下にある物体はどのような硬さですか?」と聞いた 場合と,「踵とつま先はどちらが低いですか?」と聞いたとき では,情報化のされ方が異なる。主体が情報として抽出したも のは前者では「フワフワしている」という触圧覚,後者では「踵 の方が低い」という関節覚である。すなわち,同じ感覚,同じ 運動であっても主体の志向性により情報化のされ方が異なって いる。情報(information = in + formation)とは外部に存在す るものではなく,主体の中で構築されるものであるといえる。 たとえば,関節覚について感覚検査を行った際,患者が触圧覚 など関節覚以外の感覚モダリティに注意が向いていたら,正し く関節覚を認識できないことになる。以上のことから,主体の 志向性によって,知覚の成立が決定されるということを考える と,CVA の感覚障害は,単に脳血管障害による神経線維の損 傷によるものではなく,適切な感覚モダリティに注意を向けて いくなど,知覚するための方法を忘れている可能性もあると考 えられる。また,能動的に注意を向けることで大脳皮質ニュー ロンの刺激感受性を高め,期待される感覚に対する検出感度を 高めているという報告4)から,運動に伴い生じるはずの感覚 を正確に予測することで感覚閾値は低くなることが考えられ る。実際,筆者の経験では患者の注意を適切な部位に作動させ, 図 2 足底知覚の細分化 a の状態における足底面は,触圧覚は認識できるが,どの部位に触圧覚が生じたかを 認識することができない状態.徐々に足底知覚が細分化され,触圧覚の空間分解能が 向上した状態が d である.d のように足底知覚が細分化されて,はじめて足圧がどこ からどこに移動したかを認識することが可能になる.

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運動に伴い生じるであろう感覚(期待される感覚)を予測させ ることで,感覚機能が向上することは少なくない。  次に,CVA の運動機能に関し,特異的に発生し問題となる 痙性麻痺について考える。痙性麻痺は,伸張反射の亢進(痙 縮),異常な連合反応,病的な共同運動パターン,筋出力の減 弱や欠如など複数の特徴をもつ現象からなっている。特に伸張 反射の亢進は,脊髄レベルにおける原始的な組織化によるもの であり,連合反応や共同運動パターンの出現にも関与している ため優先的に解決すべき問題である。一般に,痙縮を抑制する ための手段として持続的伸張が行われることが多い。この伸張 刺激により一時的に痙縮を軽減させることは可能であるが,そ の方法を採択すると永遠に伸張刺激を用い続けなくてはならな くなる。なぜなら患者自身に制御させる方法を学習していない からである。伸張反射の亢進には複数の要因が関わっている が,なかでも伸張反射の繰り返しにより筋紡錘からの求心性入 力が増大し,α 運動ニューロンへの発芽(collateral sprouting) 現象が生じ,α 運動ニューロンの興奮性を増加させているとの 説が有力とされている5)。つまり脊髄の運動ニューロンが中枢 神経系による制御ではなく,相対的に末梢からの信号(伸張刺 激)に多く支配される状態になることで,筋紡錘からの求心性 入力の増加がα 運動ニューロンの興奮性を増加させる主要なメ カニズムとなっていると考えられている。そのため痙縮を抑制 させるためには,過興奮状態となった脊髄運動ニューロンが中 枢からの制御を取り戻すことが不可欠となる。  その反射活動の調節について興味深い歴史的研究がある。 Nashner6)は,被験者が立っている台を突然足関節が背屈する 方向に傾斜させ,そのときの腓腹筋の筋電図を記録した。この 際,腓腹筋は引き伸ばされ,筋電図上に伸張反射活動が記録さ れたが,この外乱を繰り返すと数回のうちに反射活動が低下し ていったことを報告している。このことは,次に入ってくる刺 激が予測できるようになると,反射活動は調節されることを示 している。これ以外にも,意識,注意,予測(イメージ)など の高次中枢の働きにより脊髄への入力(Ⅰ a 群線維)に対する シナプス前抑制が調節されることが多数報告されている7‒10)。 脊髄性の伸張反射は,意識的に調節することは困難であると考 えられてきたが,これらの知見に基づくと,積極的に自分の身 体に注意を向けさせ,身体が動くことでどのような感じが生じ るのかといった予測を構築していくことで,CVA に特異的に 出現している感覚障害を改善し,痙性麻痺を制御する能力を回 復させ,脳あるいは脊髄における神経回路の再組織化につなが ることが期待できる。 CVA に対する評価と治療  以上のことを踏まえて,CVA の評価および治療介入の方法 について考えていく。従来,CVA の評価にはブルンストロー ム・ステージ,Modifi ed Ashworth Scal(以下,MAS),深部 腱反射などの項目が行われている。これらの評価は,患者の状 態を外部から観察したものであり,それにより得られる情報 は,患者が「どのような状態であるか」,あるいは「どの程度, 障害されているか」ということである。こうした評価に加え, 「なぜそうなっているのか」という視点で患者の内部で生じて いる情報処理過程を観察する試みが重要である。セラピストが 見ることのできる患者の運動のエラーは,様々な脳領域におい て情報処理がなされた結果として表出されていることを考える と,最終的に表出された運動を回復させていくためには,表出 される前に行われている脳内における情報処理の過程(注意, 記憶,思考,予測 etc)について観察していく必要がある。  ここで,CVA に多く存在する伸張反射の亢進について考え てみる。前述したように,注意や予測といった高次中枢の働き を活性化していくことで体性感覚機能が向上し,伸張反射を制 御していくことが可能となる。このことから理学療法評価とし て追加していくべき内容は,伸張反射を制御するための注意や イメージを操作する能力の有無,そして伸張反射を制御できな い場合は,なぜイメージを操作することができないのかについ 図 3 情報化の違い

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理学療法学 第 41 巻第 4 号 210 て脳内の情報処理の観点から推察していくことが必要である。 具体的には,筋緊張の評価である MAS を行う際に,注意を作 動させた場合,イメージした場合に伸張反射がどの程度,抑制 されるかを観察するとよい。もし,注意やイメージを操作する ことで伸張反射を制御できるのであれば,その患者にとって注 意やイメージはひとつの訓練ツールとして使用できることが, 新たに追加した評価によってわかる。  しかし,強調しておきたいことは臨床場面において患者に, 単に「注意を向けてください」や「イメージしてください」と 促しても効果は得られにくい。患者の多くは注意の向けどころ が不適切であったり,病前の運動イメージを正確に想起できな かったりする場合が多いからである。また CVA の中には身体 所有感を喪失している症例も存在する。当然のことながら,自 分の身体を自分のものとして認識できなければ,それをコント ロールすることは不可能である。それゆえ,患者が環境と相互 作用を行っていく前に,自己身体についての認識を回復させる 必要がある。その場合,単に感覚を入力するのではなく,患者 の注意が今どこに向いているか,どの程度知覚できているの か,身体の動きに伴い生じる感覚を予測できているのかなど, 外部からは観察することのできない患者の内部で生じている意 識的な過程について,患者自身の言語記述を通して,身体を認 識できない原因を探っていく。  そして,体性感覚機能を回復させていくためには,望ましい 状態である非麻痺側の動きと麻痺側の動きを比較することで, その差異に気づかせて誤差学習を促す。すなわち,運動する前 に「自分の麻痺側を動かしたら,こんな感じがするだろう」と いう運動時に生じる体性感覚の予測を立てさせ,運動後に実際 に得られた体性感覚フィードバックとの比較照合を行わせる。 比較照合時に予測と結果の間に不一致が生じた場合,予期を改 変していくことが運動の予測的制御(フィードフォワード制 御)を築くとの仮説11)が提唱されており,このことの繰り返 しが運動学習の過程に重要であると考えられる(図 4)。  以上のように進める中で,自己身体の認識が進み,各関節 の運動の方向や大きさが認識できるようになれば,次に注意 を分散させ,一側肢における各関節の位置関係(運動の空間 性)について認識できるように学習を進める。たとえば,臥位 にて股関節が外転するということは,股関節に対し膝関節は少 し外に,足関節は大きく外に位置するという関係性を認識させ る(図 5a)。続いて,麻痺側のつま先は非麻痺側足部のどの辺 りに位置しているかなど対側肢との位置関係(図 5b)につい て認識できるように進める。こうした各関節の空間的な位置関 係を認識できるということは,運動のエラーや malalignment にも気づくことができ,自己にて身体運動をコントロールして いくうえで非常に重要なポイントとなる。さらに,四肢だけで なく,体幹においても両肩峰,両上前腸骨棘の空間的な位置関 係を認識できることで,体幹の対称性,垂直性を確保すること が可能になる(図 5c)。これら身体各部位の位置関係の認識を 向上させる練習は,まだ離床できない臥位の状態のときでも行 うことが可能であり,将来的に行われる座位や立位など運動制 御の難易度が増加した状況で円滑に進めるための準備となる。 CVA 症例に対する具体的な評価および介入方法については臨 床実践例12)を参照されたいが,セラピストは内部観察を進め るなかで患者がどの感覚であれば認識できるのか,あるいはど うすれば認識できるようになるかについて適切な課題と言語的 な介助を用いながら自己身体の認識を促し,原始的な伸張反射 を制御できるように学習させていく。 歩行をシステムとして考える  歩行は高度に自動化された運動であり,無意識的に行われる ことが多い。しかし,歩行中に友人との話に夢中になっていて も,地面に落ちていたガムを踏んでしまったときには,すぐさ ま気づくであろう。我々は,歩行という運動をほとんど意識せ ずとも行えているが,歩行中,身体にフィードバックされてい る情報を絶えずモニターしており,「私が歩くと,いつもこん な感じがする」という歩行の表象と比較照合を行い,その表象 から逸脱する感覚が惹起された場合,歩行中の異変に気づくこ とになる。また地面の性状が刻々と変化する環境や視覚的に滑 りそうな床に直面したときは,自ら歩行のリズムを変調し,地 図 4 Anokhin による運動学習成立のプロセス (文献 1 より引用)

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面の状態を探索するなかで得られた情報に基づき,運動出力を 決定している。すなわち,歩行中に向けられる注意の程度に差 はあるものの,歩行とは環境から情報を収集しながら運動出力 を行っており,歩行は知覚することの連続であるとも考えるこ とができる。  ここで,歩行をシステム13)として考えてみたい。図 6 にあ るように,1 歩行周期は,足を地面に接地するという接床機能, 片足で体重を支持し移動するという支持機能,踵を地面から離 し,踏み切るという推進機能,足を地面から持ち上げ,下肢を 方向づけるという到達機能の 4 つに分けることができる。つま り,移動という目的を達成するためには,この 4 つの機能を有 する必要がある。その 1 つの機能において行われる動きは,知 覚と運動の循環的な相互作用において環境から情報を収集する ための探索活動であり,その探索活動が時間的に連続したもの が歩行となる。では,この 4 つの機能を獲得するためには,ど のようなことを探索しなければならないか? 接床機能では地 面の水平性,支持機能では地面の性質(床の素材・硬度),推 進機能では足圧の移動,到達機能では足を振りだす方向と高さ を認識する必要がある。すなわち,これらを認識するために探 索活動していくことで歩行という動作が自然に生みだされるこ とになる。したがって,患者には環境と相互作用を行ううえで, どのようなことを知覚するために動けばよいのかを教えていく ことがポイントとなる。  たとえば,分回し歩行を呈している症例について,システム の観点から考えてみる。画一的なパターンとなって表れている 分回し歩行は,到達機能の障害である。この到達機能を獲得す る必要性は,外部にある障害物などの高さを認識し,計画した 方向に足を振りだし接地することであるが,その動きを生みだ す知覚(情報処理過程)は,適切な方向に足を振りだし,クリ アランスを確保できているかを認識(モニター)することであ 図 5 運動の空間性(各関節における位置関係) 図 6 歩行におけるシステム理論 (文献 1 より一部改変引用)

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理学療法学 第 41 巻第 4 号 212 る。では,分回し歩行を呈している患者は,患者自身が伸張反 射や連合反応を制御できていないことを認識しているか,脚を 外側に振りだしていることに気づいているか,自分が意図した 運動であったかなどの認識について評価していくと,おそらく 多くの症例では,意図した運動とは異なった運動(軌道)に なっている場合が多い。患者の意図と結果が一致していないと いうことは,意図した方向に足を接地できず,障害物に見合っ たクリアランスを確保することができないということになる。 そのようになっている運動を修正するためには前述したよう に,運動により期待される望ましい感覚と実際の求心性感覚情 報を一致させていくためのフィードバック誤差学習11)が必要 である。  このように,CVA では機能単位としての知覚運動循環が適 切に作用しておらず,認識できる感覚モダリティのみを用いて 組織化しているため,いわゆる異常歩行パターンが出現し,環 境を変化させても改善しにくい状態となっている。したがっ て,知覚と運動の相互作用を再学習し,失われた機能の創発を 促すために身体運動に対する認識・予測を向上させるように援 助していく必要がある。そして,身体運動の予測のみならず, 「この環境であれば,これぐらいの出力で成功するはずだ」と いう視覚的に捉えた環境の状態を包括したうえでの身体運動の 予測についても誤差学習を進めていくことが内部モデルを形成 し,フィードフォワード制御による運動の自動化につながって いくと考えられる。 おわりに  CVA における運動機能の回復は脳の可塑性を利用し,神経 系のネットワークを再構築していく学習過程である。この学習 を定着させるために,十分な量の反復練習が必要であることは 公理となっている。しかし,練習の量だけを確保しても個々の 患者の運動・認知機能などが異なるため,一様に学習は進まな いこともある。効果的に運動学習を進めるために,セラピスト は内部観察を通して患者の脳内における情報処理過程のエラー を把握し,運動学習段階に応じた難易度を設定したタスクを与 えることも考慮すべき点である。そして,反復練習を行う中で セラピストが患者に教えるべきことは,あるひとつの正常パ ターンと呼ばれる動きを獲得させることではなく,環境(文脈) に見合った複数存在する運動パターンの中から患者自身にとっ て最適なひとつの運動を選択できることを学習させていくこと が重要ではないだろうか。 文  献 1) 宮本省三,沖田一彦:認知運動療法入門:臨床実践のためのガイ ドブック.協同医書出版,東京,2002.

2) Hummel FC, Cohen LG: Non-invasive brain stimulation: a new strategy to improve neurorehabilitation after stroke? Lancet Neurol. 2006; 5: 708‒712.

3) Sharma N, Cohen LG: Recovery of motor function after stroke. Dev Psychobiol. 2012; 54: 254‒262.

4) Johansen-Berg H, Christensen V, et al.: Attention to touch modulates activity in both primary and secondary somatosensory areas. Neuroreport. 2000; 11: 1237‒1241.

5) Wiesendanger M: Neurophysiological bases of spasticity. In: Sindou M, Abbott R (eds): Neurosurgery for spasticity: a multidisciplinary approach. Springer-Verlag Wien, New York, 1990, pp. 15‒19.

6) Nashner LM: Adapting refl exes controlling the human posture. Exp Brain Res. 1976; 26: 59‒72.

7) Spirduso WW, Duncan AM: Voluntary inhibition of the myotatic refl ex and premotor response to joint angle displacement. Am J Phys Med. 1976; 55: 165‒176.

8) Stam J, Speelman HD, et al.: Tendon reflex asymmetry by voluntary mental eff ort in healthy subjects. Arch Neurol. 1989; 46: 70‒73.

9) Wolf SL, Segal RL: Reducing human biceps brachii spinal stretch refl ex magnitude. J Neurophysiol. 1996; 75: 1637‒1646.

10) Yamamoto C, Ohtsuki T: Modulation of stretch reflex by anticipation of the stimulus through visual information. Exp Brain Res. 1989; 77: 12‒22.

11) Anokhin PK: Biology and neurophysiology of the conditioned refl ex and its role in adaptive behavior. Elsevier, Oxford, 1974. 12) 内田成男:認知神経リハビリテーション(認知運動療法)─誕生 から臨床まで─:認知運動療法の実践例.理学療法学.2012; 39: 36‒42. 13) 沖田一彦:認知神経リハビリテーション(認知運動療法)─誕生 から臨床まで─:認知運動療法の理論背景.理学療法学.2011; 38: 460‒463.

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