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分類学と関連規約・法令 : 知的財産としての論文

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闘轍輔畿闘機│

C a r c i n % g ica/ Society 0 1 Japan

分類学と関連規約・法令知的財産としての論文

T h e interrelationship b e t w e e n animal t a x o n o m y

a n d I C Z N a n d C o p y Rights

-scientific papers as intellectual

properties-渡 部 元

l H a j i m e W a t a b e 分類学の特性としては,具体的な論文執筆上の取 り決めの他に ,命名規約と呼ばれる取り決めによっ て統制されている点が挙げられる. ところが,その 条文解釈に 関 しては様々な誤解があるように思わ れ,その中で特に重要な問題について述べてみた い この問題は,将来的に分類学の個別の論文を基 にして,各種のデータベース ,たとえば生物多様性 や学名に関するものがあるが,こうしたインタ ー ネット上公開される編集著作物を構成し ,適正な対 価,閲覧料を得るにあたって重要と考え られる. ま た,近年の建物等に関するネーミングライツへの関 心の高まりを勘案するに,学名に関しでもネーミン グライツが行使され,分類学の運営に必要な資金が 発生することをも想定できる . このことに関連し て. [ " 命名の対象が何であるか

J.

改めて確認するこ とも急務である 今後,これらの問題は分類群を問 わず問題になるため,甲殻類を題材に論じてみた u

. 国際動物命名規約の述べる内容 まず,分類学の論文と 言えば新種記載が典型例で あろう. 掲載雑誌を問わず,概ね体裁が共通してい るが,その構成は要旨,イントロダクション,標本 の所在と検討方法,標本の記載,論議,謝辞, 引用 1 理化学研究所生命情報基盤研究部門 (B A S E) 干230-0045 神 奈川県横浜市鶴見区末広町[-7-22

RIKEN (The Institute of Physical and Chemical

R esearch), Bioinformatics and Systems Engineering

(BA SE) Division, [-7-22 Suehiro, Tsurumi,

Yoko-ham a, K anagawa, 230-0045 Japan

E-mail: watabeh@ base.riken.jp

文献となる そして,学名の構成に関して,甲殻類 であれば国際動物命名規約 (rcZN) が所管し,こ の規約に従った学名構成,命名を行なわなければな らない ところが,ここで一つ問題が生じることに なる. それは. [ " 命名の対象は何 か

?J

という問題 である. 現在出版されている記載論文を詳細 に検討 してみる場合に,それがかなりまちまちであり ,厳 密な言い方をすると命名規約が要請するところとは 異なるところで論文執筆を展開していること,それ にも関わらず「命名規約に従って」と述べられる, あるいは編集されている,そう したケ ースを屡々見 ることになる では,改めて国際動物命名規約 第 4版( 動物命名法国際審議会. 2000,2005,2009) の 最も根本的な思想を述べた箇所を検討してみよう . 以下に記す以外に細則が存在するが,割愛しであ る. 章1 . 動物命名法 条1 . 定義および対象範囲. 1.1. 定義. 動物命名法は,現生している動物や 絶滅した動物の分類学的単位( タクソン) に 対して適用する学名の体系である. 1ム 対 象 範 囲 . (略) 1ふ 除外. 次のものに対して提唱された名称 は,本規約の条項か ら除外する 1.4. 独立性. ある動物タクソンの学名が動物 (条 1.1.1 を見よ) ではないタクソンの学名と 同ーだという理由だけで拒否されないという 点で,動物命名法は他の命名法から独立して いる. とりわけ重要なのはこのうち,条1 . [ 定義であり,

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命名の対象が

rr

タクソン」と呼ばれる分類学的単 位である

J

という宣言である これが条 1.2 にて述 べられる対象範囲に適用され,条 1.3 にてそこから 除外される概念, 物体,実体等が示される. 最終的 に条 1. 4 にて動物の命名に関して,この規約が他の 命名法か ら独立していることが記されている. とな れば,記載論文の根本的な用 件として.

r

タクソン の認識」を行なわなければならなくなる. 同時に, 論文の執筆についても,首尾一貫して「タクソンに 関する論議」を展開しなければ規約からの保護は受 けられない,ということにもなる また,規約の前 文に明記されるように.

r

動物の学名における安定 性と普遍性を推進することと,各タクソンの学名が 唯一かっ独自であることを保証すること」を道守, 実行した上で初めて. [ " 分類学上の思考や行為の自 由が束縛されない」という意味合いで.

r

研究者の 自由な執筆が実現する」ことになる.

「タクソン

J

とは何か? それでは. [ " タクソン」とは何だろうか? 上記の 規約の条文を検討する場合に , これが標本そのもの でも,形態形質の集合でもないことは明らかであ る また. [ " 分類学上の単位j である,という性格 から,標本から抽出可能な任意の形質によって「定 義される」ものでは「ない

J.

あくまで「指し示さ れるj 対象だ,ということも明らかになる. そうし た対象を平易な形で文字列や図形列によって表現 し,一元的な「学名の体系j を構成することを規約

が要望することも同時に判明する (Mayr & A shlock, 199 1; 渡辺. 1992)

ここでは筆者が実際に記載に従事したカイレイツ

ノ ナ シ オ ハ ラ エ ピ R imicaris kairei W atabe &

H ashimoto, 2002 を例にと って, 各階層のタクソン がどのような形で一元的な体系の中に納められるか を示す. 表 l は Watabe (2007) にて開発された分類 体系の二次元表示法の実施例であるが,各タクソン の名称についてこの論文にて先取権を宣言するもの ではないーそのことを示すために,“. . . . " と表現し である また,個別の暫定的なタクソン名について は,石川 (2008) お よび D e Grave et a. (2009)l から 情報収集し適宜語尾を変形して配置した. 引き続 く措置として,規約にある勧告 16 C,16D , 16E, 16F を尊重して,標本に関する記載を付加して,論文公 表する必要があるが,これについては将来の研究者 の研究資源、として提示するにとどめる. この二次元表示から明らかなように,各階層のタ クソンが,階層が異なっても,共通した「大域的構 造」を持つものとして表現可能である 同時に,こ のような二次元表示が,規約に沿う形でタクソンを 認識し記載の準備を行なうにあたって,便利な手 段であることも明らかである また,このような形 で二次元表示されたタクソンについて,あたかも土 地やインターネット空間と同様に「番地を付ける」 ことも可能であり,多少の工夫を設ければ,それは 「体系学的バーコード」として容易に実現する( 渡 部,未発表) . 著 作 権 法 と の 関 連 規約については上で概観したとおりである で は,実際に規約の要請する原理に基づいて論文執筆 を行なうにあたって,著作物 としての保護がどのよ うな形で実現するのか,その点についても確認して おく必要がある 規約の根本性格として. ["タクソ ンについて述べた論文

J

が要請されているが,これ を著作権法の観点から見た場合どうなるであろう? 明らかに,タクソンの認識にあたっては分類学固有 の[ 思想が発露したもの」であり,その意味で単な る「標本の観察」に留まらず. [ " 創作的j に構成さ れたものと言える. また,独自の「思想を表現した もの」であることも明らかで,分類学の思想、を表す ものとしても妥当である. この点から,著作権法に て述べられる「著作物の定義」に該当することにも なる( 社団法人著作権情報センター. 2006). この観点から個別の記載論文を概観する場合に, 不用意に「種タクソン同士が似ている

J

という記述 を行なえないことも明らかである このような記述 で意図されている内容はおそらくは「標本同士が何 らかの形質を比較した場合に類似している」という ことを示すのであろうが,このような記述では著作 権法の保護から外れてしまい. [ " 単なる事実の表示

J

と見分けがつかなくなってしまうーその点で,学術 論文として記載論文が妥当かどうか,つまり,著作

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縦軸は進化的傾向を,横軸は分類階層の深さを示す カイレイツノナシオハラエピ Rimicaris kairei Watabe & Hashirnoto , 2002 の分類学的位置づけ 表1 . “ Desrnocarididae" “ Kakaducarididae" ‘‘Euryrh 戸 lchidae" ‘‘ H 戸 nenoceridae" Z 協商 idae' “ Palaernonidae" ‘‘ Typhlocarididae " “ Disciadidae " “ Bresiliidae" “A ri steoidea" “ Sergestoidea" ‘‘

Oplophoroidea" ‘‘Processoidea"

"AlP.heo

iaea"

“ Palaemono idea" “ Atyoidea" “ Stylodactyloidea" ‘‘Psalidopodoidea" Astacidea “

Stenopodidea" Crangonidea" Dromiidea

racli

y'!!!!

Raninidea" ‘‘Hippidea" Glypheidea

Th

alassinidea

Waterstonellidea Lophogastrida Thermosbaenacea

Cephalocarida Notos む aca Diprostraca Mystacocarida An omalocarida Cum acea 百宙誕百 Mictacea Speleogriphacea Isopoda Am phipoda

Eurypterida Xiphosura Diplopoda

重量面返

Syrnphyla Pauropoda Epirnorpha An

amorpha

Nematomorpha Ectoprocta Pogonophora

Ann elida Ar chaea Fungi Protista Onychophora Pentastorna Algae

acheo p.1i盟 Bryophyta Ch 訂 aph 戸 a Parazoa “ Cnidoloricifera" Sipunculoida Echiuroida “ Agostocarididae" ‘‘Pseudochelidae" Subgenω (14) Galatheidea “ Heterocarpoidea" “ Porcellanidea" “ Physetoc 叩 doidea" Species (15) Rimi caris kairei ? Euphausiacea Am phionidacea Gen us (13) Rimicaris none Os 仕 acoda Branchiura Sub 凶 be (12) Ar acnida Opilionida Tribe (11) Tardigrada Priapulida Subfarnily (10) Rimi caridinae none Chaetognatha Xenoturbellida ? ワ ? 一 ? - ? ?

none none none

品説話 none none

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-

邑m

e none none “ Shinkaicaridinae" Nautiloc 訂 idin 網" “ M ぜひ caridinae" ‘‘ Cho 叩 ωi ii li ii ae " ‘‘ Rimicaridinae" ‘‘Opaepellina 唱" 司 F 0 6 0 J A H V ー ワ ワ none none none non e none none ワ ワ none none none none none none

(4)

物としての構成要件を満たさない危険が発生する. 当然,これでは規約の要請をも満たさないことにな り,執筆に当たっては慎重にあるべきだろう ま た,他の生物学,水産学,医学等の領域での論文等 についても,このような階層性に関する厳密な認識 は当然波及することになり,執筆,査読,雑誌編集 の際には十分留意されるべきである. . データベース構築に 向 けて 分類学の哲学と呼びうる領域では,命名の対象が 何であるか,長年にわたって論議が展開されて きた ( マイア, 1994; マーナ・ ブーンゲ, 2008). しかし ここでの論議が終息していない現状であっても,規 約の存在の下,個別の記載行為は大規模に展開され ている. 問題は,このような状況で, [ " 正しく記載 行為が実施されている」ことを担保するものは何 か,という問題である. 規約の宣言から,それは 「標本の示す「同ーなるもの」の同一性,唯一性」 ではない あくまで, [ " 知識工学的に個別の標本観 察結果をどのように取りまとめるか」という「メタ 知識工学」の問題解決が要請されることになる. データベースの構築に当たっては,このような問題 について一定の原理を早期に策定しそこから一元 的に導出される学名の体系を提案することが不可欠 であろう この点が, E. M a y rの生物学的種概念か らの脱却を模索した系統解析の後に 出現する,最終 的な生物分類体系の構成に関する選択肢ではなかろ うか. 今回提示した二次元表示法は,オートポイエーシ ス理論という「生命の形式的表現」に関する果敢な 試みに由来している. この理論は,蛙や鳩と言った 生物個体がどのように外界を認識しているか,とい う認知に関する神経生理学から提出された理論であ るが,生命の基本的な特質を抽出,表現することに

成功している( 河本, 1995; Maturana & Varela, 1980;

渡部, 1999, 2000a, 2000b; Watabe, 2007; 渡 部, 2011 ) 近年,この理論は主にドイツにて システム 論的社会学への応用が実施されたが,我が国でも精 神医療,企業経営等と言った領域で現実社会に積極 的に応用されているようである. それならば,生命 現象のとりまとめ役をしている生物分類学にてこの

54

I

ω

胸 府 知 { 如 何 } 理論を適用することもそれほど奇異なことではある まい. それどころか,動物の学名の体系を作るにあ たって, [ " 動物の示す最も根本的な性質」の形式的 表現を得た上で一元 的な体系構築をするのであれ ば,平明かっ頑健な論理構成になることは明らかで ある. 同時に,この理論もまた生物学の思想の一つ であることを鑑みるならば,この理論から構成され る任意の執筆物もまた,著作物としての構成要件を も満たすことになる つまり,この理論に基づいた プラットフォームを形成した上で文献の集積,分類 体系作りを行なうの であれば,これまでの膨大な数 の記載論文に統制を与え,データベースコンテンツ としての個別論文の価値保全することにも繋がって 行く このような観点からの知的財産としての論文 の保全,そろそろ模索しでも良いのではなかろう か ? . 謝 辞 本論考を作成するにあたっては以下の方々から有 益な助言 を頂きました,記してお礼申し上げます 故 酒 井 恒 博 士 , 小 野 山 敬 一 博 士 ( 北 海 道 ) ,酒井 勝司博士( 徳島県) ,河本英夫教授 ( 東洋大学) ,橋 本惇教授( 長崎大学) ,馬場敬次博士( 熊本県) , 朝倉彰教授( 神戸大学) ,武田正倫教授( 帝京平 成大学) ,片倉晴雄教授( 北海道大学) ,駒井智幸博 士( 千葉県立千葉中央博物館) , Drs. Peter K. L. N g ( 国立シンガポール大学) , D. Guinot (パ リ自然史博 物 館), M . Turkay ( ゼンケンベルク 研 究 所),

z

Stevcie ( クロアチア) . 文 献

D e Grave, S., Pentcheff, N. D., Ahyong, S. T., Chan, T.-Y.,

Crandall, K. A., Dworschak, P. C., Felder, D. L.,

Feldmann, R. M ., Fransen, C. H. J. M ., Goulding, L. Y.

D., Lemaitre, R., L o w, M . E. Y., Martin, J. W ., N g, P.

K. L., Schweitzer, C. E., Tan, S. H., Tshudy, D., &

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参照

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