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Carcinological Society01
Japan「北海道能取湖におけるエゾイサザアミの生活史」の紹介
A
c o m m e n t a r y o n“
L ife history o fNeomysis mirabilis
(Crustacea: M y s i d a c e a ) in N o t o r o L a g o o n,
H o k k a i d o,
J a p a n "遊佐貴志
1*・五嶋聖治
2Takashi Y u s a a n d Seiji G o s h i m a
はじめに
本受賞論文 (Yusa & Goshima, 2011)は,エゾイサ ザアミの生活史を高頻度の野外調査によって,詳細 に検討した結果を報告したものである. イサザアミ 類は,その食性や現存量から,生息水域の生態系に 大きな影響を与える分類群と考えられているが,そ の生態は一部の地域の一部の穏でしか分かっていな い. 本研究の調査地である北海道の能取湖でも,イ サザアミ類がアマモ場に優占的に分布し ,多様な捕 食者の餌種となっていることは知られていたが,本 研究を始めるまで,その種名はおろか単一種なのか 複数種なのかもわかっていなか った. 遊佐はそのよ うな種の生態を明らかにすることは,生態系保全や 漁業計画のために重要であると考え,学部の卒業研 究から共著者である五嶋の指導のもと研究を開始し た. その結果として今回,論文賞 という形で評価し ていただけたことを光栄に思う. 以下に受賞論文の l 北海道大学大学院水産科学院海洋生物資源科学専攻 干041-86 11 北海道函館市港町 3-1- 1
Graduate School of Fisheries Sciences, Hokkaido Univer-sity, 3- 1- 1 Minato-cho, Hakodate 041-8611, Japan
2 北海道大学大学院水産科学研究院
干041-86 11 北海道函館市港町 3ー1-1
Graduate School of Fisheries Sciences, Hokkaido Univer-sity, 3-1-1 Minato-cho, Hakodate 041 -86 11, Japan 市現所属 (Present address) :東京農業大学生物産業学部
干099-2493 北海道網走市八坂 196
Faculty of Bioindustry, Tokyo University of Agriculture, 196 Yasaka, Abashiri 099-2493, Japan
E-mail : t4yusa@ bioindustry.nodai .ac.jp
概要を紹介する.
研究の背景
イサザアミ類は,植物プランクトン,動物プラン クトン,デトリタス,小型底生生物などを食べる雑 食性であるとともに (Bremer & V ijverberg, 1982;高 橋, 2004) ,多くの動物プランク トン食者の餌種で もある( 千葉 ・河村, 2011 ). そして,そ の現存量 は大きくなることも多い (Mauchline,1980). そのた め,イ サザアミ類は,キースト ー ン種や優占種とし て 食 物 網 上 重 要 な 役 割 を 持 っ と 考 え られている (Mauchline, 1980; 高橋, 2004). そのような重要性 にもかかわらず,北西太平洋地域での研究は少な く,本研究の調査地である能取湖においても , その 膨大な現存量や水産有用種に対する餌種としての重 要性は知られていたが,その生態に関する知見は全 くなかった. 本研究は,能取湖における優占種であ るエゾイサザアミNeomysis mirabilis の個体群動態と 成長 ・繁殖特性の季節変化を示したものである. 以 下に概略を示す. 内容や文献については一部省略し て い る の で , 詳 し く は 原 著 論 文 (可'usa & Goshima, 2011)を参照されたい. 個体群動態 北 海 道 能 取 湖 の 南 東 部 のア マモ場か ら,2006 年 の4 月 に l回, S 月 から 11 月 に は 週 l回の頻度で, エゾイサザアミ の採集を行った. 採集は水深 8 0 c m 以 下 の 地 点 で , か ぶ せ 網 (80 c m X 80 c m X 8S c m
日本
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般嬬事会 :州 側
2011
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1
遊佐貴志 ・五嶋霊治 7α珂 6000 5000 脚 醐 ( 宅 ¥ ) 桜 並 恩 2000 1似加 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10月 11 月 図1 . 2006年の能取湖におけるエゾイサザアミの 個体群動態. 加入はC L l m m未満の未成熟 個体であり,未成熟はC L l m m以上の未成 熟個体を示す. の 鉄 枠 の4側面に目合し、I m m目合いのネッ トを 張ったもの) を水面から垂直に投下してアマモ場を 囲い,その中のエゾイサザアミを全個体,ハン ド ネットで掬い取るという方法で行った. 採集した個 体は10% 中性ホルマリンで固定し,実体顕微鏡下 で頭胸甲長( 以下C L ),性別,抱卵の有無,抱卵数 を記録した . その結果の個体群動態を図 l に示す. 個 体 数 は
4
月に198
個 体/ m
2と少なく ,8
月末に 6,623個 体 /m
2, 9月末に5,813個 体/ m
2と多かっ た. また 1週間で 1m2あたり数千個体の増減が起 こることもしばしばあり,急減の際には捕食者へ大 量の餌の供給が起きたものと考えられた. 後の成長速度の推定結果から ,CLl m m未満の個 体は l週間以内に加入したばかりの個体( 以下加入 個体) であると考えた. 加入個体は5月末から10月 中旬に見られ,抱卵 メスは4月から10月に見ら れた ことから,能取湖におけるエゾイサザアミの繁殖期 は4 月から10月であると考えられた. この間に加入 個体数のピークは5回観察された. 世代推定 加入個体数のピ ークとA kamine(1987)
,相津 ・滝 口(1999)
に基づく体サイズ度数分布による コホー ト分離を行った結果,能取湖のエゾイサザアミは, 各加入個体数のピ ークを一つのグループとする 5 つ のグループと 4 月には既に存在していたグル ープの 計6つのグル ープに分けられた. さらに,先に生ま 図2. 能取湖におけるエソイサザアミの世代推定. 薄い灰色は未成熟期を,濃い灰色は成熟期 を示している . 矢印は加入のピークとその 親子関係を示している . れたグループの体サイズに ,後で生まれたグル ープ の体サイズが追い付いてしまい,その後,体サイズ 頻度分布によってグル ープを分けることができなく なるものを同 一 グ ループとして扱うことで, 6グ ループは 4 グル ープに集約された. この 4 グループ のうち, 8 月下旬以降に生まれたグル ープは調査期 間中(11
月末まで) に繁殖を行わなかったことか ら,繁殖せずに越冬し,翌年の 4 月のグル ープと なって繁殖するものと考えられた . そして,加入個 体数のピ ークとその時の抱卵メスの属するグル ープ から親子関係を推定した. その結果,能取湖におけ るエゾイサザアミの世代交代は,図 2 のように行わ れていると推定された . ここで, 5 月から 6 月に生まれ, 7 月下旬から 8 月 下旬に繁殖を行うものを春世代,7月末に春世代か ら生まれ,9 月に繁殖を行うものを夏世代とする. そして ,8 月末に春世代から生まれたものと 9 月末 に夏世代から生まれたものとが合わさり,その年の うちに繁殖は行わず,越冬後の5月から繁殖を行 い,春世代を生み出すものを越冬世代とする. この ことから能取湖のエゾイサザアミの世代数は,越冬 世代,春世代,夏世代の 3 世代であると推定され た. しかし,春世代の子は,生まれるタイミングに 2I
CaI1CE町2 2 (2013)エゾイサザアミの生活史 表1 . 能取湖におけるエゾイサザアミの成長 ・繁殖特性の世代間比較. 世代 平均水温( 範囲) 成長速度 (C) ( m m day- ') 越冬世代 5.0 (0.0
ー
23 .5) 0.050→0.027 春世代 16.7 (9.4ー
23 .5) 0.043 夏世代 21.1 (18.7-23.5) 0.052 よって,夏世代か越冬世代に分かれ,夏世代からも 越冬世代が生み出されており,その経路は単純なも のではなかった. 成長・繁殖特性の世代間比較 世代間で成長 ・繁殖特性を比較した結果を表 l に 示した. 成長速度は,夏世代が最も速く,春世代が その次に速かった. 越冬世代は初期成長こそ夏世代 と同程度に速かったが,その後は非常に遅くなって いた. しかし,最大体サイズや成熟サイズ( メスの 5 0 %抱卵サイズ) は,越冬世代が最大で,春世代, 夏世代と小さかった. また,抱卵数も越冬世代が非 常に多く,春世代,夏世代とは大きな差があった. ただし,抱卵数は体サイズに依存しがちであるた め,その影響を C L と抱卵数の回帰直線の比較に よって検証したが, C L の影響はあまり大きくなく, 世代によって体サイズと抱卵数の関係性は,異なる ことが分かった. これらの世代聞の違いは,水温によって説明でき るかもしれない. 各世代が経験する平均水温は,越 冬世代が最低で,春世代,夏世代と高くなってい た. つまり,低水温ほど成長は遅いが体サイズは大 きくなり,逆に高水温ほど成長は速いが体サイズは 小さくなる . 越冬世代の初期成長だけが早いことも 水温によって説明できるだろう. 越冬世代の初期成 長期は8月末から9月上旬で, この時期の能取湖の 水温は1年間で最も高く,その後急低下 しており, 高水温期のみ成長が速かったといえる. このよう な,水温と成長の関係は,変温動物でよくみられる 温度一サイズ則と一致する(e.g.
,Atkinson
, 1994). 温 度一サイズ則は議論の最中にあり(Atkinson
et al., 2003),本種のこのような ノfターンの原因の解明は, その議論に貢献できるかもしれない. 平均最大 C L 平均成熟 C L 平均抱卵数 ( m m ) (m m ) (m ean:t
SO) 3.8 3.6 41.3 土10.1 3.0 3.0 17.2:t
5.3 2.6 2.6 12.0:t
2.8 生活史の普遍性 エゾイサザアミの生態の研究は,北海道東部太平 洋沿岸の厚岸湖でも行われていた(Yam ada et al.,2007). そこで,その研究と比較することで,本研 究で明らかにしたエゾイサザアミの生活史が普遍性 を持つものなのか,もしくは,どのような要因に よって変異するのかを検証した. 厚岸湖の環境は,能取湖と比較して,夏季の水温 は低く,塩分は通年低い. このような違いにもかか わらず,厚岸湖と能取湖のエゾイサザアミの生活史 はよく似ていた. このことか らエゾイサザアミの生 活史は,水温や塩分のみで決定されているわけでは ないと推定された. 受賞論文の発表後,北海道東部 オホ ーツク海沿岸から太平洋沿岸の広範囲でアミ類 の調査を行ったところ,ほとんどの海草藻場からエ ゾイサザアミが採集され,多くの地点で優占種で あった. その調査において,生息地ごとに密度や体 サイズが,異なることが明らかとなり,その要因も 水温や塩分では説明されないことが明らかになっ た. このことから本種の生態の地域間変異の解明に は,他種との関係などより詳細な調査が必要である と考えられた. エゾイサザアミの生活史が他種に与える 影響 本研究により,個体数や様々な生活史特性が世代 間で大きく 異なる ことが判明した. この世代聞の差 異は,他種に影響を与える可能性があるだろう . ま ず,個体数は,捕食者にと って は餌との遭遇頻度の 違いとして現れる. 豊富な現存量が急激に減少した 場合は,短期間に多くの個体が捕食されたことを示 唆するだろう. また,体サイズの世代間変異も捕食 者への影響が大きいと考えられる. 大型のエゾイサ
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22 (2013)I
3滋佐貴志・五嶋聖治 ザアミは 1匹当たりの栄養価は高くなるが,遊泳 能力も高くなるため,小型の捕食者は,大型のエゾ イサザアミを捕獲できないということが起こるだろ う. このような影響のため,エゾイサザアミと他種 との関係を考える際には,世代聞の特徴の違いを十 分に考慮する必要があるだろう . 謝 辞 このたびは論文賞をいただきまして,ありがとう ございました. Crustacean Research 編集長の鈴木虞 志先生,そしてお二人の査読者の先生方には有益な ご助言を数多くいただきました. 厚く御礼申し上げ ます. 本研究の調査にご理解,ご協力をいただいた 西網走漁業協同組合および網走市職員の方々に深く 御礼申し上げます. 文 献 相 津 康 ・滝口直之, 1999. MS-Excelを用いたサイズ 度数分布から年齢組成を推定する方法の検討. 水 産海洋研究, 63: 205-214.
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