原著短報
西日本におけるマーモクレブスの初記録と淡水生態系への脅威
New record of Marmorkrebs from western Japan and its potential threats to freshwater
ecosystems
西川 潮
1・東 典子
2・佐々木進一
3・岡 智春
4・井上幹生
3Nisikawa Usio, Noriko Azuma, Shinichi Sasaki, Tomoharu Oka, and Mikio Inoue
Abstract: On 9 November 2016, an unknown Cambaridae
crayfish was collected from the outflow stream of Matsubara Izumi along the Shigenobu River in western Japan. On the basis of COI and 12S rRNA analyses, we identified the cray-fish as the Marmorkrebs (Procambarus fallax f. virginalis), which serves as the first record for this species from western Japan. The Marmorkrebs is widely available across Japan through the aquarium pet trade. Because the parthenogenic Marmorkrebs has high potential to impact biodiversity, fish-eries, and rice farming in Japan through rapid proliferation, transmission of diseases, and herbivory, we call for urgent management plans to restrict the import, movement, and re-lease of this crayfish.
Key Words: Procambarus fallax f. virginalis,
parthenogenet-ic, invasion, disease, aquarium trade, Invasive Species Act
はじめに
マーモクレブス(Procambarus fallax f. virginalis)
は,1990年代中盤にドイツのペット業界で流通して いた個体から世界で初めて報告された,単為生殖を 行うザリガニである(Scholtz et al., 2003).国外のペッ ト業界や学術界では「マーモクレブス(ドイツ語で 大理石模様のザリガニの意)」または「マーブルクレ イフィッシュ (英語で大理石模様のザリガニの意)」, 日本のペット業界では「ミステリークレイフィッ シュ」の名で知られる.これまでの遺伝解析や形態 解析の結果から,マーモクレブスは,アメリカ合州 国フロリダ半島からジョージア州南部にかけての地 域を原産とするP. fallax (スロウザリガニ)と近縁で あることが示されている(Martin et al., 2010).マーモ クレブスの分類学的位置づけについては様々な議論 があるが,本報では,2017年3月時点で広く受け入 れられているスロウザリガニの単為生殖体(P. fal-lax f. virginalis)として扱う(Martin et al., 2010).
マーモクレブスは,ヨーロッパや北米,日本の ペット業界で広く流通しており,これまでに,ドイ ツ,オランダ,イタリア,ハンガリー,ウクライ ナ,スロバキア,クロアチア,スウェーデン,マダ カスカル,日本の天然水域からも確認されている (Chucholl et al., 2012; Kawai et al., 2009; Kawai & Takahata, 2010; Lőkkös et al., 2016; Novitsky & Son, 2016).日本では,2006年に札幌市で1個体のマー モクレブスが捕獲されて以来(川井・高畑,2010), 天然水域からの報告例はなかった. 2016年11月,愛媛大学理学部が松山市の自然再 1 金沢大学環日本海域環境研究センター 〒920–1192 金沢市角間町
Institute of Nature and Environmental Technology, Kanazawa University, Kakuma-mati, Kanazawa 920– 1192, Japan
2 網走市藻琴245–4
245–4 Mokoto, Abashiri 099–3111, Japan
3 愛媛大学大学院理工学研究科
〒790–8577 松山市文京町2–5
Graduate School of Science and Engineering, Ehime Uni-versity, 2–5 Bunkyo-cho, Matsuyama 790–8577, Japan
4 愛媛大学理学部
〒790–8577 松山市文京町2–5
Faculty of Science, Ehime University, 2–5 Bunkyo-cho, Matsuyama 790–8577, Japan
生水域で行っている水生動物のモニタリング調査中 にアメリカザリガニ科不明種が採集された.外見か らは,頭胸甲の青いマーブル模様と,頭胸甲から尾 節にかけて伸びる黒い筋から,マーモクレブスの可 能性が高いと考えられた.本研究では,遺伝解析を 用いて,このアメリカザリガニ科不明種がマーモク レブスであることを明らかにした.結果,西日本の 天然水域からは初記録となるマーモクレブスである ことが示されたため,次にこれらの繁殖特性を紹介 し,日本の淡水生態系に与えうる影響について考察 するとともに,今後の管理対策についての所見を述 べる. 材料と方法 調査地とサンプリング方法 愛媛県松山市森松町にある松原泉(まつばらいず み)は,国土交通省松山河川国道事務所が,重信川 右岸の高水敷に直径20 m程度の池を掘削し,池から 流れる水を重信川へ導水する小川(流路幅1~2.5 m 程度)を整備した自然再生地である(Fig. 1A, B). 松原泉の水源は重信川の伏流水に由来する湧水であ り,その流出水は水路(小川)を経て約350 m下流 で低水路へと流出する.低水路は,伏流により表流 水の枯渇が頻発する間欠流河道(礫河原)となって おり,低水路へ流れ出た水は浸透して途切れるが, 通常は低水路に出てから400 m程度下流までは表流 水が維持されている.松原泉と重信川本流の流れが つながるのは比較的規模の大きな出水時のみである. その他の調査地の詳細については,藤原ら(2015)を 参照されたい. 愛媛大学理学部生態学研究室では,松原泉におけ る魚類群集の動態を調査するために,2015年7月か ら2017年1月までの19 ヶ月間にわたり,小型定置 網を用いた魚類調査を継続的に行っていた.松原泉 とその流出河川における長さ約800 mの区域におい
Fig. 1. Map (A), plan (B), and photos (C–D) of the outflow stream of Matsubara Izumi (spring) along the Shigenobu River
in Ehime Prefecture, Japan. On 9 November 2016, a Marmokrebs (Procambarus fallax f. virginalis) was collected from 610 m downstream (low-water channel of the Shigenobu River) of Matsubara Izumi (Panel C; marked with △610 in Panel B, Latitude 33.7869, Longitude 132.7894). A Marmokrebs was previously collected and released at 400 m downstream (boundary between high- and low-water channels of the Shigenobu River) of the spring (Panel D; marked with △400 in Panel B).
て1地 点(2015年7月~2016年7月)~4地 点(2016 年7月以降)の調査地を設定し,1調査地につき2つ の小型定置網(目合い4 mm)を用いて,一方の開 口部を上流側へ,もう一方を下流側へ向けて設置し, 毎月5~15日の頻度でその地点を通過する魚類の採 捕・計測・放流を行っていた.同時に,採捕された 甲殻類,両生類および爬虫類についても計数すると ともに,調査時(14:00~16:00)の水温も記録して いた.記録した水温は1日の最高水温に近い値であ る. 2016年11月9日,松原泉から610 m下流の流出河 川内で,アメリカザリガニ科不明種が採捕された (Fig. 1C;北緯33.7869度,東経132.7894度).なお, 以前にも一度,同種と思われる個体が400 m地点 (高水敷と低水路の境界;Fig. 1D)でも採捕され放 流したが,その個体が今回の報告個体と同一個体か どうかは不明である. 本水域の水源は湧水であるため源頭部(松原泉) の水温は比較的安定しているが(夏期20~25℃, 冬期14~17℃;藤原ら,2015),下流にいくにつれ, 夏期は暖められて水温が上昇する一方で冬期は流下 中に冷やされて低下する.今回アメリカザリガニ科 不明種が採捕された610 m地点における水温(午後 の水温) は,水温が最も高くなる7~8月で25~28℃, 最も低くなる1~2月で12~13℃であった.午後の 水 温 が15℃を下回るのは12月中旬~4月初旬迄, 15℃を越えるのは4月初旬~12月中旬迄であった. 水域全体にわたって4つの調査地点を設定した 2016年7月から2017年1月のデータから,採捕され た水生生物(総個体数5,243個体)は魚類(タカハ
ヤRhynchocypris oxycephalus jouyiをはじめとする17 種)38.7%, 甲 殻 類32.3%, 両 生 類(ウ シ ガ エ ル Lithobates catesbeianus)28.8%,爬虫類(クサガメ Mauremys reevesii,アカミミガメTrachemys scripta) 0.2%であった.甲殻類の大部分はスジエビPalaemon paucidens(884個体,16.9%)とヌマエビ科(672個 体,12.8%)であり,アメリカザリガニ科は13個体, 0.2%と少なかった(このうち11個体はアメリカザ リガニP. clarkii, 2個体が今回の不明種).なお,捕獲 されたアメリカザリガニ科不明種2個体のうち1個 体が今回捕獲された個体,もう1個体が以前捕獲さ れた個体であり,前述のようにこれらは同一個体の 可能性もある.その他採捕された甲殻類はモクズガ ニEriocheir japonica(64個 体,1.2%), サ ワ ガ ニ Geothelphusa dehaani(56個体,1.1%),およびテナ ガエビ属Macrobrachium (4個体,0.1%) であった. アメリカザリガニ科不明種の標本 アメリカザリガニ科不明種は,採捕後,同定のた めに生かしたまま持ち帰り,実験室で形態計測を 行った(Fig. 2).捕獲個体は,湿重量 (Wet weight) 13.4 g, 全長 (Total length;額角先端から尾節末端ま での長さ) 77 mm, 頭胸甲長 (Carapace length;額角 先端から頭胸甲中央部後縁までの長さ) 36 mm, 眼 窩頭胸甲長 (Orbital carapace length;眼窩後縁から
頭胸甲中央部後縁までの長さ) 27 mmであった.遺 伝解析用に,採捕個体の鋏脚を1本切除し,無水エ タノールで固定した. アメリカザリガニ科不明種は,形態計測後も著者 の一人(佐々木)が水槽で飼育を続けていたが,死 亡後に標本を70%エタノールで固定し,徳島県立 博物館に寄贈した(登録番号TKPM-AR 3104). 遺伝解析 アメリカザリガニ科不明種の鋏脚の組織の一部か ら,DNeasy Blood & Tissue Kit (Qiagen, Valencia, CA, USA)を用いて,当該キット添付の標準的なプロトコ
ルによってゲノムDNAを抽出した.分子遺伝学的
種同定は,Bohman et al. (2013)の先行研究に従って,
ミトコンドリアDNAのCOI領域および12S領域の
部分塩基配列によって行った.本研究で得られた塩 基 配 列 はDNA Date Bank of Japan (DDBJ)/GenBank データベースに登録した(アクセッション番号: COI: LC228303, 12SrRNA: LC228302).解読した塩基 配列を,DDBJ上の解析ツールBasic Local Alignment Search Tool (BLAST)を用いて,DDBJ/GenBankデー タベースに登録された既知の遺伝子塩基配列と比較 した. 結果と考察 遺伝解析に基づく種判別 捕獲されたザリガニのミトコンドリアDNAのCOI (658塩基) および12S領域 (369塩基) の部分塩基配
列を調べたところ,双方の領域で,ヨーロッパで発見 されたマーモクレブス由来の配列 (CO1: KJ690261, KF033123, KC107813, JF438007, HM358010–358011, KT074364; 12SrRNA: KF033122, KC107813, HM358014– 358016, KT074364–074365) と100% 一 致 し た. な お,12Sについては,フロリダ産のP. fallaxの配列 (HQ171464–171470)とも100%一致した. 日本におけるマーモクレブスの定着・拡散可能性 マーモクレブスは,これまでヨーロッパやマダガ スカル,日本の天然水域で生息・定着が確認され, 初報告されたドイツでは,近年次々と新たな天然水 域で定着が確認されている(Chucholl et al., 2012). 日本は,亜寒帯から亜熱帯の幅広い気候帯を擁す る.種分布モデルからは,日本の亜熱帯から温帯に かけての地域がマーモクレブスの生息適地と推定さ れている(Faulkes et al., 2012).しかし,マーモクレ ブスはアメリカの天然水域からは確認されていない ため,Faulkes et al. (2012)による生息適地の推定は, 有性生殖体であるスロウザリガニ(P. fallax)の在 来生息域における位置情報や,マーモクレブスの ヨーロッパ,マダガスカル,日本における侵入地の 位置情報をもとにしており,どの位置情報を使うか によって生息適地が異なることが示されている. マーモクレブスが繁殖を止める水温は15℃である (Seitz et al., 2005).今回マーモクレブスが発見され た松原泉の流出河川では,4月初旬~12月中旬にか けての約8月は一日の最高水温が15℃を超えるため, 繁殖期は長い.そのため,今後,今回マーモクレブ スが発見された松山市はもとより,四国,九州,沖 縄,本州の多くの地域において,マーモクレブスの 定着・拡散リスクは非常に高いと考えられる.一 方,北海道の多くの地域は生息不適地とされている ものの(Faulkes et al., 2012),日本で最初に天然水域 からマーモクレブスが採集されたのは札幌市であ り,スウェーデンの天然水域でも定着・繁殖が確認 されていることから(Bohman et al., 2013),日本の冷 水域でも本種が定着・繁殖できる可能性は十分にあ る.また,北海道には多くの温泉地や湧水があるこ とからも,少なくとも現在アメリカザリガニが定着 している十勝川温泉,旭岳温泉,札幌市,函館市で は,マーモクレブスが放流された場合,これらが定 着・増殖する可能性は高い. マーモクレブスの繁殖特性と生態影響 マーモクレブスが性成熟する(繁殖可能になる) のは,スロウザリガニ同様,出生後250日目である (Vogt et al., 2015).しかし,マーモクレブスは3倍体 であることから(Martin et al., 2016),最初の性成熟 時に,スロウザリガニのメス個体と比べ,体重が約
Fig. 2. Photo of Marmokrebs (Procambarus fallax f. virginalis) collected from the outflow stream of Matsubara Izumi
along the Shigenobu River in Ehime Prefecture, Japan (Wet weight=13.4 g, Total length=77 mm, Carapace length=36 mm, and Orbital carapace length=27 mm).
2倍に達することが報告されている(Vogt et al., 2015). また,マーモクレブスの飼育個体の最大抱卵数は 731個,野外個体の最大抱卵数は724個であり,スロ ウザリガニの最大抱卵数130個と比べ,約5.6倍多い (Vogt et al., 2015).さらにマーモクレブスは単為生 殖で増殖するため,温暖な地域では非常に高密度に 達することがある(Jones et al., 2009). 一般にザリガニ類は動物質も植物質も食べる雑食 であるため,これらが高密度になると,水草や水稲, 底生無脊椎動物,両生類への捕食・節食の影響が懸 念される(Nyström, 1999).湿地やため池などで水草 が一掃されると,水草の担う栄養塩の吸収や脱窒, アレロパシー作用,底泥の巻き上げ抑制,小動物へ の隠れ家創出などの機能が失われ,透明な水の系か ら濁った水の系への生態系のレジームシフトを誘発 する可能性がある(西川,2017).そのため,マー モクレブスの大量発生は淡水生態系の構造や機能全 体の変化につながりうる.実際,マーモクレブス は,食用目的のためにマダカスカル島に導入され, 水田や水路,養魚池などで非常に高密度に定着し, 固有性の高い島の生物多様性への影響とともに水稲 農業への被害が懸念されている(Jones et al., 2009). また,マーモクレブスおよび他の北米産ザリガニ 類は,水カビ(アファノマイシス菌;Aphanomyces astaci) や,白斑病 (White Spot Syndrome Virus; WSSV) などのウイルス病の保菌者となることが知られる (Mrugała et al., 2015; Peiró et al., 2016).アファノマイ シス菌は通称ザリガニペストと呼ばれ,国際自然保 護連合 (IUCN) が選定する世界の侵略的外来種ワー
スト100の一つに選定されている.ヨーロッパ産の
ザリガニ類(Astacus astacus, A. leptodactylus),オー ストラリア産のザリガニの一種 (Euastacus kershawi), ニホンザリガニ(Cambaroides japonicus),チュウゴ クモクズガニ(Eriocheir sinensis)はアファノマイ シス菌に対し耐性がないため,いったんこれに感染 すると死に至らしめられ(Unestam, 1969),ときには 在来ザリガニ集団の大量絶滅をもたらすことがある (Ackefors, 1999).一方,ホワイトスポット病は,ザ リガニペストと比べて宿主特異性が低く,様々な十脚 目甲殻類に感染することが示されている(Stentiford et al., 2009).そのため,ホワイトスポット病の感染 は在来甲殻類に壊滅的な影響を与えるとともに,エ ビ・カニ類の養殖業にも深刻な被害をもたらすこと が懸念される. 今回,愛媛県の天然水域で発見されたマーモクレ ブスは,手元に標本が残っているのは1個体のみで ある.しかし,マーモクレブスは3倍体生物である ことから繁殖力が強く,またメスだけで次々とク ローンをつくりながら増殖する.例え1個体であっ ても,これが野外で増殖すると,在来生態系が危機 的状況になりうることに留意する必要がある. マーモクレブスの管理対策 マーモクレブスおよび他の北米産ザリガニ類は アファノマイシス菌や白点病の保菌者となるため (Mrugała et al., 2015; Peiró et al., 2016),これらを完全 に飼育環境下で管理したとしても,実際に屋外への 病気の逸出・拡散を止めることは極めて困難である. そのため,これらの病気の拡散リスクの高い北米産 ザリガニ類の飼育や流通は,外来生物法または都道 府県の条例などによる厳正な規制が検討されるべき である.例えば,スウェーデンでは,ザリガニ類の 病気の感染リスクを鑑み,国外産のザリガニ類の輸 入は現在法律で一切禁止されている(Bohman et al., 2013). マーモクレブスは,フロリダハマー(フロリダブ ルーとも呼ばれる;P. alleniの青色品種) とともにヨー ロッパ,北米,日本のペット業界で広く流通してい る人気のザリガニ類である.マーモクレブスの世界 的な流通量についての情報はないものの,メス単体 で短期間に増殖することから,北米では年々飼育者 数が加速的に増加していることが報告されている (Faulkes, 2010).日本では2006年に,シグナルザリガ ニ (ウチダザリガニ,タンカイザリガニ;Pacifastacus leniusculus),ラスティ―ザリガニ (Orconectes rusticus), Astacus, Cheraxが「特定外来生物による生態系等に 係る被害の防止に関する法律(外来生物法;平成 16年6月2日法律第78号)」における規制対象「特 定外来生物」に指定され,現在アメリカザリガニ以 外のアメリカザリガニ科は未判定外来生物に位置づ けられている.そのため,外来生物法の施行以降, マーモクレブスを輸入する際は,輸入者は最初に環 境省に届出を出す必要があり,当該生物の輸入可否 は分類群の専門家の意見を踏まえて検討される.
マーモクレブスが日本に初めて持ち込まれた年月 は不明である.しかし,1996年頃には,当時「アフ リカザリガニ」の名称で,マーモクレブスと思われ るザリガニが少数ながらも日本で流通し始め,2001 年5月頃にはジャパン・クレイフィッシュ・クラブ (ザリガニ愛好家)の会員間でその存在が広く知ら れるようになったという証言が得られている(砂川 光朗氏,私信).マーモクレブスは,2006年に札幌 の天然水域で採集されていることからも,ザリガニ 類が特定外来生物に指定された2006年以前から国 内で流通していたことになる. 現在,日本のペット業界ではマーモクレブスが広 く流通していることから,今さら輸入規制を行って も手遅れである.しかし,国内での流通や飼育,放 流を規制するとともに,マーモクレブスの生息が 確認された水域では早期駆除が求められる.近年, マーモクレブスのミトコンドリアDNAの全ゲノム 配列が解読された(Vogt et al., 2015).今後,これを もとに環境DNAのマーカーが開発されれば,マー モクレブスの早期発見や定着サイトでのモニタリン グを効率よく進めていくことが可能となるだろう. マーモクレブスの西日本からの報告は本報告が初 となるが,日本の天然水域からの報告は今回で2例 目となり,国内で16年以上流通していたと考えられ る割には天然水域からの報告例が少ない.しかし, マーモクレブスはアメリカザリガニと見間違われる 可能性があるため,他にも多数,未報告のマーモク レブス定着水域がある可能性は否めない.頭胸甲に ある青白いマーブル模様はマーモクレブスに特異的 であるが,マーモクレブスの中にはマーブル模様が 茶褐色を示すものも知られる(Kawai et al., 2009). また,未成熟のアメリカザリガニは全身が茶褐色を 呈し,個体によっては頭胸甲に粒状の斑紋が目立つ ものもある.マーモクレブスとアメリカザリガニを 並べて見比べると,両者の外観は異なることが分か るが,実際にマーモクレブスを見たことがない人が 瞬時に種を判別することは困難であろう.今後,カ ラー写真を掲載したパンフレットなどの配布による 啓蒙活動を通じて,飼育個体の天然水域への放流を 厳に慎むよう,広く呼びかけが必要である. 2017年3月時点では,マーモクレブスはスロウザリ ガニの単為生殖体とみなされている.一方で,フォー マ(forma)は国際動物命名規約(International Code of Zoological Nomenclature; ICZN) では使用が認めら れていない.近年報告された交配実験から,マーモ クレブスとスロウザリガニ間には生殖隔離機構が働 いていることが示されており(Vogt et al., 2015),今 後,マーモクレブスが独立種として記載される可能 性もある.しかし,マーモクレブスとスロウザリガ ニを外部形態のみから分類することは事実上不可能 であり(Martin et al., 2010),種判別の際には遺伝的手 法,または精包不在化でのメス単体による抱卵の事 実確認が必要となる.また,マーモクレブスは3倍 体であることから,種判別やスロウクレイフィッ シュとの区別の際にはマイクロサテライトDNA解
析も有用である(Martin et al., 2016; Vogt et al., 2015). マーモクレブスを外来生物法や都道府県の条例等 での規制対象に選定する際には,スロウザリガニを 含めた形 (P. fallaxおよびその単為生殖体f. virginalis を含む)での指定が望ましい.一方で,マーモクレ ブスは,フロリダハマーと並びペット業界での需要 が高いため,これらが特定外来生物に指定された場 合,何が代わりに流通するかも踏まえ慎重に管理対 策の検討を進める必要があるだろう. 謝 辞 本論文を発表するに当たり,有意義なコメントを 下さった中田和義氏と匿名の査読者,国内でのマー モクレブスの流通に関する情報を提供いただいた佐 倉ザリガニ研究所の砂川光朗氏,そして英文を校閲 していただいたEric R. Larson氏に感謝いたします. 本研究の一部は,JSPS科研費(16K07512)の支援 を受けました. 文 献
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