原
著
痛みおよび疲労についての予測と現実とのギャップ;
自然分娩 VS 無痛分娩
The gap between expectations and realities of pain and fatigue
in women receiving epidural anesthesia versus no anesthesia
宍 戸 恵 理(Eri SHISHIDO)
*1八 重 ゆかり(Yukari YAJU)
*2堀 内 成 子(Shigeko HORIUCHI)
*2 抄 録 目 的 出産体験における痛みの予測と現実および疲労の予測と現実のギャップについて,ギャップと出産満 足度がどのように関連しているか探索し,この関連について無痛分娩者と自然分娩者とを比較すること で,分娩方法による違いがあるのか探索する。 対象と方法 同一対象者を産前・産後の2時点を追跡・比較する質問紙を用いた縦断的量的記述研究であり,都市 部の総合周産期医療センター1施設で調査した。2時点のデータを確保できた609名のデータを用いて, 統計学的に分析を行った。 結 果 1. 陣痛のギャップについて,「予測より痛かった」と回答した者が,自然分娩者に多かったが,会陰部 痛のギャップは,「予測より痛かった」と回答した者が,無痛分娩者に多かった。 2. 産後の疲労感の平均値は,無痛分娩者が60.1(SD=27.2),自然分娩者は52.2(SD=28.0)であり,無 痛分娩者の方が有意に高かった(P<0.001)。また,無痛分娩者,自然分娩者ともに痛みと疲労感が 「予測より痛かった/予測より疲れている」と回答した者は,「予測より痛くなかった/予測より疲れ ていない」,「予測通りだった」と回答した者よりも,産後の疲労感の得点が有意に高かった。 3. 出産満足度の平均値は,無痛分娩者7.61(SD=1.85),自然分娩者8.65(SD=1.43)であり,自然分娩 者の出産満足度は,無痛分娩者よりも有意に高かった(P<0.001)。陣痛のギャップ,分娩転帰と出 産満足度について,分散分析した結果,陣痛のギャップと分娩転帰の交互作用は有意ではなかった が,それぞれ主効果は有意であった。また,無痛分娩者では,陣痛のギャップと出産満足度との間 に負の関連が認められたが,自然分娩者では関連が認められなかった。 2017年10月1日受付 2018 年6月30日採用 2018 年11月30日早期公開*1聖路加国際大学大学院看護学研究科博士後期課程(St. Luke's International University, Graduate School, Doctoral Course) *2聖路加国際大学(St. Luke's International University)
結 論 無痛分娩,自然分娩のどちらの場合も,痛みや疲労感に関する予想と現実とのギャップを小さくする 方策が求められる。出産満足度を改善するためには,ギャップに着目する必要があり,それは無痛分娩 でより重要である。 キーワード:妊娠,痛み,疲労,産科無痛法,自然分娩 Abstract Objective
The objective of this study was to analyze the gap between expectations and experiences of pain and fatigue in childbirth, by comparing women's experiences with epidural anesthesia and those with no anesthesia, and to explore how the gap related to satisfaction with delivery.
Methods
This study was a longitudinal quantitative descriptive study using a questionnaire survey. Expectation of pain, actual pain, fatigue and satisfaction were measured quantitatively. It compared participants' responses at two-time points: during pregnancy after 36 weeks gestation and during postpartum (within 2 days). The survey was conducted with a purposive sample of 700 pregnant women from a Japanese urban hospital. The 609 (87.0%) valid responses were analyzed statistically.
Results
1. There was in gap between expectations and experiences of labor pain. Those who responded,“more painful than expected” were more frequently in the ‘no epidural anesthesia’ group. Conversely, those who responded that perineal pain was“more painful than expected” were more frequently in epidural anesthesia.
2. The fatigue after delivery was a mean of 60.1 (SD=27.2) with epidural anesthesia and a mean of 52.2 (SD=28.0) for no epidural anesthesia, which was significantly higher in the epidural anesthesia group (P<0.001). In both groups, those whose pain was higher than expected also had significantly higher fatigue levels.
3. Satisfaction with delivery was a mean of 7.61 (SD=1.85) with epidural anesthesia, a mean of 8.65 (SD=1.43) compared to no epidural, which was significantly higher (P<0.001). With epidural anesthesia, there was a signi-ficant inverse relation between‘expectation and experience gaps’ of labor pain and satisfaction with delivery, but not with no epidural anesthesia.
Conclusion
This study confirmed there was a gap in women's (1) expectations of pain and actual experiences of pain and was related to (2) fatigue. In both groups, it is desired to reduce the gap between pain and fatigue.
This study highly recommends providing information to women during their antenatal care regarding pain man-agement during labor and fatigue including the possibility of a gap in their expectations and experiences. In particular, for those women having epidural anesthesia, that gap between expectations of pain and actual labor pain had a greater influence on reducing satisfaction with delivery.
Key words: pregnancy, pain, fatigue, epidural anesthesia, natural birth
Ⅰ.緒 言
1.研究背景 産痛の認知として,Read(1949)は,恐怖・緊張・ 痛みの理論を提唱している。鈴木(1998)は,産痛体 験について褥婦6名に聞き取り調査を行い,出産前の 産痛へのイメージが実際体験した産痛の程度の認識に 影響していること,産痛へのイメージや対処行動はこ れまでの個人の経験が大きく影響しており,産痛の程 度よりも産痛時の対処法についての知識を求めている と報告している。強い不安や恐怖心を伴うことが,出 産時のリスクを増加させ,出産体験を否定的にとら えやすく,産後のメンタルヘルスにも影響を与えると の報告を認める(Areskog, et al. 1984;Ryding, et al. 1998)。産痛は主観的体験であるが,Lowe(2002)に よると,痛みに耐えるというだけでなく,痛みを乗り 越えたという達成感などの精神的要素も含まれると報 告しており,分娩を乗り越える上で,出産前教育や, 分娩時の産痛緩和を図り,産婦の気持ちに寄り添う助 産ケアが必要とされている。 産婦は,経腟分娩の方法として,自然分娩と無痛分 娩が可能である。無痛分娩を選択する理由として,岡田他(2007)は,無痛分娩を希望している妊婦 7 名に 半構成的面接法を行い,「妊婦の特性」,「無痛分娩をす すめる人的環境」,「出産に関連した社会背景」,「出産 価値の多様化」という 4 つのカテゴリーを抽出した。 さらに,無痛分娩を選択する女性が,痛みに対する不 安や恐怖心だけでなく,高齢出産や産後のサポート不 足,社会復帰を見据え,産後への体力温存や産褥早期 の疲労回復を期待しているとの指摘がある(佐々木, 2011)。このような背景より,退院後より女性が 1 人 で育児をしていくことを予期して,分娩での体力の温 存を望み,無痛分娩を選択するのではないかと推察さ れる。 宍戸(2016)は,妊娠期の無痛分娩の希望とその分 娩転帰について調査した。この結果,妊娠期の無痛分 娩希望者と自然分娩希望者は9割以上希望した通りの 分娩転帰であり,どちらか迷っていた者の分娩転帰は 約半数に分かれていた。無痛分娩の選択理由として, 「体力を温存したいから」がもっとも多く,次に「痛み が嫌」,「痛みが怖い」ことであった。無痛分娩希望者 の特徴は,妊娠前の痛みへの対処行動として,薬剤使 用の抵抗感の低さを認め,陣痛の捉え方もネガティブ な傾向(薬で緩和,体力を消耗,怖いもの)を認めた。 次に,無痛分娩を選択した結果について,Somuah, et al.(2011)のシステマティックレビュー(以下,SR と略す)では,硬膜外麻酔群は対照群(オピオイド薬 の鎮痛薬の使用,麻酔なしを含む)よりも産痛緩和の 効果は高いが,出産満足度について有意差はなかった と報告している。無痛分娩による産痛緩和効果は高い ことは明らかにされているが,出産満足度が上がらな い要因については明らかにされていない。 陣痛と出産満足度に影響する要因として,Hodnett (2002)は,経腟分娩をした女性を対象にした,137件 の研究の SR にて,産婦個人の期待,医療者の支援, 医療者と産婦の信頼関係,産婦自身の意思決定への参 加が,年齢や人種,出産の準備よりも大きく影響して いると報告しており,産婦個人の期待が満足度に影響 する可能性がある。 次に,疲労感に関する先行研究では,慢性疾患の患 者を対象とした疲労感を測定した SR(Whitehead, L. 2009)や,産後については,育児に関連した疲労感の 尺度開発等の研究(Wilson, et al. 2017)は行われてい るが,分娩直後や産褥早期の疲労感に関する研究は皆 無である。 本邦においては,山崎ら(2014)により,「産後の疲 労感」の概念分析を行い,先行因子として,「高年出 産」,「初産婦」,「分娩期の要因」等を挙げているが, 同様に産褥早期の疲労感について測定した研究はほと んど認められない。 ギャップについて,Oliver(1970)の期待不一致モ デルは,事前の期待と実際の成果の不一致によって評 価し,期待以下であれば,不満足となり,期待通り・ 期待以上であれば,満足につながると報告している。 よって,このモデルを適用し,無痛分娩者と自然分娩 者に分類し,ギャップと出産満足度と産後の疲労感に ついて検討することで,助産の臨床場面において出産 を控えた女性への分娩に関する意思決定に役立つと思 われる情報提供や教育への一助になると考える。 2.研究目的 出産体験における痛みの予測と現実とのギャップお よび疲労の予測と現実のギャップについて,それぞれ のギャップと出産満足度がどのように関連しているか 探索し,この関連について無痛分娩者と自然分娩者と を比較することで,分娩方法による違いがあるのか探 索する。 3.用語の操作的定義 1) 無痛分娩:陣痛発来し,産婦の希望時に,麻酔 科医師にて硬膜外腔にカテーテルを挿入し,麻 酔薬(マーカイン,フェンタニル等)の注入に よって産痛緩和する分娩方法である。 2) 自然分娩:分娩進行中に,麻酔薬を使用しない 分娩方法である。ただし,会陰切開や裂傷の縫 合には局所麻酔薬(キシロカイン)を用いる。
Ⅱ.研 究 方 法
1.研究デザイン 質問紙を用いた産前・産後の2時点(妊娠36週以降・ 産後 2 日以内)の比較をする縦断的量的記述研究で ある。 2.研究対象者 適格条件: 経腟分娩をする予定の妊娠 36 週以降のローリスク 妊婦 なお,同一対象者について,産前(予測)および産 後(現実)に調査を行った。除外基準: ① 緊急帝王切開術となった女性 ② 児の NICU入院が予測される,または児が NICU に入院となった女性 ③ 向精神薬等内服している精神疾患がある女性 ④ 妊娠高血圧症候群や双胎等の医学的適応で無痛 分娩を選択する女性 ⑤ 日本語での読み書きができない女性 3.データ収集方法 1)収集期間 質問紙の配布と回収は,2015年9月から2016年6月 の期間で行った。 2)調査方法 対象者のリクルートは,研究者および研究補助者に て行った。研究者および研究補助者の役割は,1)電 子カルテから条件を満たした研究対象者の抽出をする こと,2)対象者に対し,説明文書を渡し,研究の説 明を行うこと,3)研究協力が得られる場合,産前の 質問紙,返信用の封筒,同意撤回書を渡した。記名式 質問紙の提出をもって,同意を得られたこととした。 記名式の質問紙とした理由は同一の対象者を2時点追 跡するためである。研究者は,対象者の産前と産後の データを一致させるために,産前の質問紙に回答した 研究対象者の電子カルテの一部に,「ギャップ研究」と 記入した。産後の質問紙については,研究者または研 究補助者が,産後の条件を満たした対象者を電子カル テにて確認し,産後1日目に,質問紙,返信用の封筒 を渡し,研究の協力依頼を行った。質問紙への回答 は,産前は外来受診中,産後は出産の記憶が鮮明な産 後2日以内とした。 4.測定方法 1)痛みの予測と現実 痛み(陣痛,縫合部痛や痔の痛みも含んだ会陰部 痛,後陣痛,乳頭・乳房の痛み)の予測と現実につい て Wong & Baker Face Scale を用い,「痛みはない:0」 から「耐えられないほど痛い:5」の6段階で回答を得 た。Soetenga, et al.(1999)による小児対象の研究に おいて,Wong-Baker の Face Scale の信頼性,妥当性 は検証されている(Cronbach α=0.93)。
2)産後の疲労感の予測と現実
Visual Analog Scaleを用い,100mm の水平な直線上 に疲労感の程度を研究対象者に線をつけてもらい,そ の長さをもって疲労感の程度を数値化した。数値が高 いほど主観的な産後の疲労感の程度が高いことを示 す。 3)痛みおよび産後の疲労感のギャップ 本研究で用いるギャップは,Oliver(1980)のモデ ルを適用し,「予測より軽いもの:1」,「予測通り:2」, 「予測より重いもの:3」を選択肢とした。例えば,痛 みの場合は,「①予測より痛くなかった②予測通り だった③予測より痛かった」,疲労感の場合は,「①予 測より疲れていない②予測通りだった③予測より疲れ ている」と示した。 4)出産満足度 自己評価として,「とても不満足:1」から「とても 満足:10」の10段階で回答する項目を作成した。 5)知人への伝達,次回の分娩方法の希望 今回の出産方法を友人・知人へ紹介したいか,次回 同じ出産方法を選択したいかの項目について,「そう思 わない:1」から「そう思う:5」の5段階で回答を得た。 6)その他 年齢,産科歴 5.データの分析方法 産前,産後のデータを一致させ,各変数の基本統計 量,度数分布表を算出し,単純集計を行った。「痛み と産後の疲労感の予測」については,妊娠期の無痛分 娩の希望の「無痛分娩」,「どちらか迷っている」,「自 然分娩」の3群にて一元配置分散分析を行った。 次に,分娩転帰を,「無痛分娩」,「自然分娩」の 2 群 に分け,「痛みと産後の疲労感の現実」,「痛みと疲労感 のギャップ」,「出産満足度」について,ヒストグラム を描き,データの分布の形より正規性を確認し,独立 したサンプルのt検定,χ2検定,二元配置分散分析を 行い,「知人への伝達」,「次回の分娩方法の希望」につ いては,Mann-Whitney 検定を行った。データの分析 には,統計ソフトSPSS version 22.0を使用し,すべて の有意水準は5%で両側検定とした。 6.倫理的配慮 本研究は,所属大学の研究倫理審査委員会の承認 (15-018)および研究対象施設の倫理審査委員会の承 認(989)を受けて実施した。なお,研究協力は自由意 思であること,途中辞退が可能であること,辞退によ る不利益を受けないこと,プライバシー保護,研究結 果の公表について説明文書を用いて口頭で説明した。
Ⅲ.結 果
1.対象者の属性 産前に705名に対してリクルートをした結果,参加 同意が得られた700名の内,除外基準に該当した者が 73名(緊急帝王切開術70名,NICUへの入院1名,転院 1名,母体理由1名)おり,残りの627名の内,産褥日 数や氏名の記入漏れがあった18名を除いた609名(有 効回答率87.0%)を分析対象とした。分娩転帰は,無痛 分娩324名(53.2%),自然分娩285名(46.8%)であった (表1)。産科歴は,全体では初産婦363名(59.6%),経 産婦246名(40.4%)であった。分娩転帰でみると,無 痛分娩者では,初産婦 190 名(58.6%),経産婦 134 名 (41.4%)で あ り, 自 然 分 娩 者 で は, 初 産 婦 173 名 (60.7%),経産婦112名(39.3%)であり,分娩転帰と産 科歴との間に有意な関連はなかった(P=0.605)。 対象者の年齢は,全体の平均は,35.5歳(SD=4.32) であった。無痛分娩者の平均36.0歳(SD=4.51),自然 分娩者の平均 35.0 歳(SD=4.10)であり,有意に無 痛分娩者の年齢が高かった(t=2.80, P=0.005)。産科 歴でみると,初産婦では,無痛分娩者の平均が35.6歳 (SD=4.12),自然分娩者の平均が34.3歳(SD=4.67)で あ り, 経 産 婦 で は, 無 痛 分 娩 者 の 平 均 が 36.5 歳 (SD=4.05),自然分娩者の平均が35.9歳(SD=4.07)で あった。分娩転帰と産科歴と交互作用と検討した結 果,それぞれの主効果は有意であったが,交互作用の 有意差はなかった。 また,分娩転帰と分娩状況(分娩時総出血量,分娩 所要時間,器械分娩,会陰裂傷)について検定した (表 1)。この結果,分娩時総出血量(500g 以上・未 満),器械分娩の有無については,有意な関連を認め た(出 血 :χ2 =27.6, P<0.001, 器 械 分 娩 :χ2=50.4, P<0.001)。 妊娠期より無痛分娩の選択肢があると知っていた者 は,609 名(100%)であり,無痛分娩の麻酔に対する 理解については,無痛分娩をした 324 名のうち,314 名(96.9%)が「理解していた」と回答していた。 2.痛み体験の予測と現実とのギャップ 全体的にみると,陣痛の強さの平均は,予測で は 4.24(SD=0.79)であり,現実は 4.27(SD=0.79)と 有意差はなかった。無痛分娩者の無痛導入後の陣痛の 平均は,予測では1.92(SD=0.78)であり,現実は1.08 (SD=1.06)と 有 意 に 得 点 が 低 か っ た(t=11.8, P< 0.001)。会陰部痛の平均は,予測では 3.18(SD=0.88) であ り,現 実は 2.78(SD=1.09)と 有意に 得点が低 かった(t=5.39,P<0.001)。後陣痛の平均は,予測で は 2.54(SD=0.99)であり,現実は 1.85(SD=1.21)と 有意に得点が低かった(t=8.12, P<0.001)。乳房痛 の平均は,予測では 2.23(SD=1.12)であり,現実は 0.94(SD=1.05)と有意に得点が低かった(t=16.3,P< 0.001)。つまり,無痛導入後の陣痛,会陰部痛,後陣 痛,乳房痛については,予測よりも現実の方が痛みの 得点は低いという結果であった。 次に分娩方法と痛み体験の予測と現実について表2 に示す。 1)痛み体験の予測(産前) 陣痛の予測値の平均は,無痛分娩希望者では,4.20 (SD=0.80),どちらか迷っている者では,4.35(SD= 0.71),自然分娩希望者では,4.22(SD=0.71)であり 表1 対象者の属性 N=609 無痛分娩 自然分娩 (n=324) (n=285) t値 F値 χ2値 P値 年齢 36.0歳(SD=4.51) 35.0歳(SD=4.10) 2.80 0.005 産科歴 初産婦 190(58.6) 173(60.7) 0.26 0.605 経産婦 134(41.4) 112(39.3) 分娩時総出血量 500g以上 147(45.4) 71(24.9) 27.6 <0.001 500g未満 177(54.6) 214(75.1) 分娩所要時間(分) 初産婦 772.1(384.8) 565.8(348.9) 0.07 0.780 経産婦 437.5(388.9) 251.8(151.5) 器械分娩 吸引分娩/鉗子分娩 103/2(32.4) 24/1(8.8) 50.4 <0.001 なし 219(67.6) 260(91.2) 会陰裂傷 なし 2(3.7) 18(6.3) 4.31 0.365 Ⅰ度 25(7.7) 22(7.7) Ⅱ度 279(86.1) 242(84.9) Ⅲ度 7(2.2) 2(0.7) Ⅳ度 1(0.3) 1(0.4)有意差はなかった。 無痛分娩希望者およびどちらか迷っている者には, 無痛導入後の陣痛がどれくらいの痛みか予測しても らった。無痛分娩希望者では,1.93(SD=0.79),どち らか迷っている者では,1.63(SD=0.79)であり,どち らか迷っている者は,無痛分娩希望者よりも有意に痛 みの程度が弱いと予測していた(t=3.20,P=0.002)。 産後の乳頭・乳房痛の予測については,各群で有 意 差 を 認 め(P=0.041), 多 重 比 較 の 結 果, ど ち ら か迷っている者(平均 2.34)は,自然分娩希望者(平 均 2.02)よりも痛みを有意に強く予測していた(P= 0.037)。産後の会陰部痛,後陣痛の予測は,各群で有 意な差はなかった。 2)痛み体験の現実(産後) 実際の陣痛の強さの平均は,無痛分娩者の 4.29 (SD=0.78),自然分娩者の 4.47(SD=0.60)であった。 無痛導入後の陣痛は,無痛分娩者の 1.10(SD=1.07) で あ っ た 。 会 陰 部 痛 は, 無 痛 分 娩 者 が 2.76(SD= 1.09),自然分娩者が 2.36(SD=1.02)であった。後陣 痛は,無痛分娩者の 1.84(SD=1.21),自然分娩者の 1.62(SD=0.99)であった。乳頭・乳房痛は,無痛分娩 者の0.94(SD=1.04),自然分娩者の0.91(SD=0.96)で あった。 自然分娩者は,無痛分娩者よりも陣痛を有意に強 く感じていた(t=3.17,P=0.002)。一方で,無痛分娩 者は,産後の会陰部痛と後陣痛については,自然分娩 者よりも有意に痛みを強く感じていた(t=4.65, P< 0.001,t=2.47,P=0.013)。産後の乳頭・乳房痛は,両 群に有意な差はなかった。 3.産後の疲労感の予測と現実とのギャップ 全体的にみると,疲労感の強さの平均は,予測81.4 (SD=17.0),現実59.6(SD=27.2)と有意に現実の方が 得点は低かった(t=12.5, P<0.001)。つまり,予測よ りも現実の方が疲労感は有意に低いという結果だっ た。 次に分娩方法と産後の疲労感の予測と現実について 表3に示す。 1)産後の疲労感の予測(産前) 産後の疲労感の予測は,無痛分娩希望者の平均80.5 (SD=17.3),どちらか迷っている者の平均 83.9(SD= 15.5),自然分娩希望者の平均 81.2(SD=18.3)であり 有意差はなかった。また,妊娠期の分娩希望(無痛・ 迷っている・自然)と,産科歴(初産・経産)または 年齢(35歳未満・35歳以上)それぞれとの交互作用を 検討した結果,産科歴でのみ交互作用が有意であった (F=16.0,P<0.001)。 つまり,産科歴と分娩希望の2つの要因が産後の疲 労感の予測に影響していた。 2)産後の疲労感の現実(産後) 実際の産後の疲労感は,無痛分娩者の平均 60.1 (SD=27.2),自然分娩者の平均52.2(SD=28.0)であり, 無痛分娩者は,自然分娩者よりも有意に疲労感が強 かった(t=3.54,P<0.001)。また,分娩転帰(無痛,自 然)と,産科歴(初産・経産)または年齢(35歳未満・ 35歳以上)それぞれとの交互作用を検討した結果,産 科歴のみ交互作用が有意であった(F=14.9,P<0.001)。 つまり,実際の産後の疲労感に影響する要因は,産科 歴と分娩転帰であった。 表2 痛み体験の予測と現実 N=609 無痛分娩 どちらか迷っている 自然分娩 <妊娠期> ( )内はSD (n=271) (n=99) (n=239) F値 t値 P値 痛みに関する予測(0-5) 陣痛 4.20(0.80) 4.35(0.71) 4.22(0.71) 1.628 0.197 無痛導入後の陣痛(無痛分娩,迷っている者のみ) 1.93(0.79) 1.63(0.79) 3.20 0.002 会陰部痛 3.14(0.88) 3.20(0.82) 3.12(0.86) 0.301 0.740 後陣痛 2.55(1.00) 2.55(0.87) 2.54(1.01) 0.013 0.987 乳頭・乳房痛 2.17(1.12) 2.34(1.00) 2.02(1.13) 3.211 0.041 無痛分娩 自然分娩 <産後> (n=324) (n=285) 痛みに関する現実(0-5) 陣痛 4.29(0.78) 4.47(0.60) 3.17 0.002 無痛導入後の陣痛(無痛分娩者のみ) 1.10(1.07) 会陰部痛 2.76(1.09) 2.36(1.02) 4.65 <0.001 後陣痛 1.84(1.21) 1.62(0.99) 2.47 0.013 乳頭・乳房痛 0.94(1.04) 0.91(0.96) 0.40 0.686 (独立したサンプルのt検定および一元配置分散分析における有意確率,多重比較にはTukey,HSD法)
4.痛みおよび産後の疲労感のギャップ 陣痛のギャップは,「予測より痛かった」と「回答し た者の割合は,無痛分娩者(157名,48.5%)よりも自 然 分 娩 者(164 名, 57.5%)の 方 が 有 意 に 多 か っ た (P=0.025)。逆に,会陰部痛のギャップは,「予測より 痛かった」と回答した者の割合は,自然分娩者(79名, 27.7%)よりも,無痛分娩者(131名,40.4%)の方が有 意に多かった(P=0.001)(表4)。 産後の疲労感のギャップは,「予測より疲れている」 と回答した者の割合は,自然分娩者(59 名,20.7%) よりも,無痛分娩者(115名,35.5%)の方が有意に多 かった(P<0.001)。 5.出産満足度 1)分娩転帰と出産満足度 妊娠期に希望した通りに分娩をした者は,無痛分娩 者では 95.2%,自然分娩者では,94.6% であった。無 痛分娩希望から自然分娩となった者は 4.8%,自然分 娩希望から無痛分娩となった者は,5.4%であった。 出 産 満 足 度 に つ い て, 無 痛 分 娩 者 は 平 均 7.61 (SD=1.85),自然分娩者は平均 8.65(SD=1.43)であ り,自然分娩者の出産満足度は,無痛分娩者よりも有 意に高かった(t=7.84,P<0.001)。 2)陣痛のギャップと出産満足度 陣痛のギャップ,分娩転帰と出産満足度について, 分散分析した結果(図1),陣痛のギャップと分娩転帰 の交互作用は有意ではなかったが(P=0.068),それぞ れ主効果は有意であった(F=8.04,P<0.001,F=20.2, P<0.001)。 また,無痛分娩者の陣痛のギャップについて多重比 較した結果,陣痛のギャップが「予測より痛くな かった」と回答した者は,「予測通りだった」,「予測よ 表3 産後の疲労感の予測と現実 N=609 無痛分娩 どちらか迷っている 自然分娩 <妊娠期> ( )内はSD (n=271) (n=99) (n=239) F値 t値 P値 産後の疲労感の予測(0-100) 80.5(17.3) 83.9(15.5) 81.2(18.3) 1.43 0.238 初産婦 82.6(14.5) 85.7(12.9) 84.6(15.0) 16.0 <0.001 経産婦 77.7(20.1) 80.3(19.5) 76.3(21.5) 35歳未満 78.3(15.5) 81.9(14.9) 81.7(18.7) 3.56 0.059 35歳以上 81.6(18.0) 85.9(15.9) 80.8(18.1) 無痛分娩 自然分娩 <産後> (n=324) (n=285) 産後の疲労感の現実(0-100) 60.1(27.2) 52.2(28.0) 3.54 <0.001 初産婦 63.9(27.2) 55.4(29.1) 14.9 <0.001 経産婦 54.7(26.6) 47.1(25.4) 35歳未満 61.1(25.4) 52.1(28.0) 0.087 0.768 35歳以上 59.6(28.2) 52.2(28.1) (独立したサンプルのt検定,二元配置分散分析における有意確率) 表4 痛みおよび産後の疲労感のギャップ N=609 無痛分娩 自然分娩 (n=324) (n=285) χ2値 P値 n % n % 陣痛のギャップ 予測通りだった/痛くなかった 167 51.5 121 42.5 5.02 0.025 予測より痛かった 157 48.5 164 57.5 会陰部痛のギャップ 予測通りだった/痛くなかった 193 59.6 206 72.3 10.8 0.001 予測より痛かった 131 40.4 79 27.7 後陣痛のギャップ 予測通りだった/痛くなかった 246 75.9 230 80.7 2.02 0.155 予測より痛かった 78 24.1 55 19.3 乳頭・乳房痛のギャップ 予測通りだった/痛くなかった 294 90.7 265 93.0 1.01 0.315 予測より痛かった 30 9.3 20 7.0 産後の疲労感のギャップ 予測通りだった/予測より疲れていない 209 64.5 226 79.3 16.2 <0.001 予測より疲れている 115 35.5 59 20.7 (χ2検定における有意確率)
り痛かった」と回答した者よりも出産満足度が有意に 高かった。(P=0.021,P<0.001)。一方,自然分娩者 では,陣痛のギャップと出産満足度との関連は認めら れなかった。 6.痛み,疲労感のギャップと産後の疲労感 痛み(陣痛,会陰部痛,後陣痛,乳頭・乳房痛)の ギャップと分娩転帰の交互作用は有意ではなかったが (P=0.246, P=0.657, P=0.475,P=0.341),それぞれ主 効果は有意であった(陣痛:P=0.003,P<0.001,会陰 部 痛 :P<0.001, P=0.018, 後 陣 痛 :P<0.001, P= 0.012,乳房痛:P<0.001, P=0.004)。多重比較を行 い,陣痛のギャップは,自然分娩者では,「予測より 痛かった」と回答した者は,「予測より痛くなかった」 と回答した者よりも疲労感が有意に高かった(P= 0.011)。無痛分娩者では,「予測より痛かった」と回答 した者は,「予測通りだった」と回答した者よりも疲労 感が有意に高かった(P=0.007)。会陰部痛のギャップ は,自然分娩者では,「予測より痛かった」と回答し た者は,「予測通りだった」,「予測より痛くなかった」 と回答した者よりも疲労感が有意に高かった(P= 0.028,P<0.001)。無痛分娩者では,「予測より痛かっ た」と回答した者は,「予測通りだった」,「予測より痛 くなかった」と回答した者よりも疲労感が有意に高 かった(P=0.002,P<0.001)。後陣痛のギャップは, 自然分娩者では,「予測より痛かった」と回答した者 は,「予測より痛くなかった」と回答した者よりも疲労 感が有意に高かった(P=0.003)。無痛分娩者では, 「予測より痛かった」と回答した者は,「予測より痛く なかった」と回答した者よりも疲労感が有意に高 かった(P=0.014)。乳頭・乳房痛のギャップは,自然 分娩者では,「予測より痛かった」と回答した者は, 「予測より痛くなかった」と回答した者よりも疲労感 が有意に高かった(P=0.04)。無痛分娩者では,「予測 より痛かった」と回答した者は,「予測通りだった」, 「予測より痛くなかった」と回答した者よりも疲労感 が有意に高かった(P=0.001,P<0.001)。 以上のことから,無痛分娩者,自然分娩者ともに痛 み(陣痛,会陰部痛,後陣痛,乳頭・乳房痛)が「予 測より痛かった」と回答した者は,「予測より痛くな かった,予測通りだった」と回答した者よりも産後の 疲労感の得点が有意に高かった。 さらに,疲労感のギャップと分娩転帰の交互作用は 有意ではなかったが(P=0.393),疲労感のギャップの み主効果が有意であった(P<0.001)。 疲労感が,「予測より疲れている」と回答した者は, 「予測より疲れていない,予測通りだった」と回答し た者よりも産後の疲労感の得点が有意に高かった。 7.友人・知人への伝達,次回の出産方法の希望 「今回の出産方法を友人・知人に伝えたいか」は, 「そう思わない,あまりそう思わない」と回答した者 が,無痛分娩者で 9 名(2.8%),自然分娩者で 11 名 (3.9%),「どちらでもない」と回答した者が,無痛分娩 者で 29名(9.0%),自然分娩者で57 名(20.0%),「やや そう思う,そう思う」と回答した者が,無痛分娩者で 図1 陣痛のギャップと出産満足度
286名(88.2%),自然分娩者で 217 名(76.1%)であっ た(表5)。 この結果,無痛分娩者は,自然分娩者よりも,今回 の出産方法を友人・知人へ伝達したいと思っている者 が有意に多かった(P<0.001)。 「次回同じ出産方法を選択したいか」は,「そう思わ ない,あまりそう思わない」と回答した者が,無痛分 娩者で10 名(3.1%),自然分娩者で 71 名(25.0%),「ど ちらでもない」と回答した者が,無痛分娩者で 22 名 (6.8%),自然分娩者で56名(20.0%),「ややそう思う, そ う 思 う」と 回 答 し た 者 が, 無 痛 分 娩 者 で 292 名 (90.1%),自然分娩者で158名(55.0%)であった。 この結果,無痛分娩者は,自然分娩者よりも,次回 も同じ出産方法をしたいと思っている者が有意に多 かった(P<0.001)。
Ⅳ.考 察
1.集団特性 本研究の対象は,全体の平均年齢35.5歳であり,産 科歴では初産婦が59.6%であった。なお,初産婦の平 均年齢は,無痛分娩者で35.6歳,自然分娩者で34.3歳 であった。初産婦の全国平均年齢は,30.7 歳であり (厚生労働省,2015),対象は全国平均より年齢が高 かった。これは,本研究が便宜的な標本抽出であった ことや,合計特殊出生率が低く,出産年齢の高い都市 部における調査であったことが関係していると考えら れる。 2. 痛 み に 関 す る ギ ャ ッ プ : 産 前(予 測)と 産 後 (現実) 陣痛のギャップは,「予測より痛かった」と回答して いる者が,無痛分娩者で 48.5%,自然分娩者で 57.5% と 自 然 分 娩 者 に 多 か っ た 。 一 方 で, 会 陰 部 痛 の ギャップは「予測より痛かった」と回答した者が無痛 分娩者で 40.4%,自然分娩者で 27.7% と無痛分娩者に 多かった。 柳吉(1992)は,初産婦38名に,出産体験の予測と 現実と評価について産前産後に半構成的面接法を 行った。この結果,出産体験の評価には,産婦の自己 の予測と現実との一致・不一致が一因となっていると 述べている。また,岩ケ谷他(2005)は,経腟分娩を した褥婦166名に,理想・予想と実際の分娩体験と出 産満足度について調査し,分娩体験には理想・予想と 実際の分娩体験のギャップが存在し,分娩の満足度に 影響することを明らかにした。本研究においても,妊 娠期の予測と現実についてのギャップがみられたこと は,同様の結果であった。 支援方法の検討として,Lally, et al.(2008)の産痛 緩和の期待と体験についてのシステマティックレ ビューにおいて,分娩にはギャップが起こるかもしれ ないと妊娠中から伝達していくこと,このことが満足 度を良くすることにつながると報告している。 よって,妊娠期における痛みのギャップへの支援と して,分娩は自分の思い描いていたものになるとは限 らないことや,特に,無痛分娩希望者については,無 痛分娩の麻酔導入のタイミング,分娩所要時間の延 長,器械分娩の増加,分娩後の会陰部痛が「予測より も痛い」体験となる可能性があること,また同時に産 後の疼痛のコントロール方法について情報提供するこ とは,ギャップを最小限にするために有用なことが示 唆された。 特に,友人・知人への分娩方法の勧めや次回の分娩 方法の選択については,無痛分娩者は自然分娩者より も知人に紹介したいという傾向があり,次回も同じ分 娩方法を選択したいとの結果であった。このことよ 表5 友人・知人への伝達,次回の分娩方法の希望 N=609 無痛分娩 自然分娩 (n=324) (n=285) Z値 P値 n % n % 今回の出産方法を友人・知人に伝えたいか そう思わない/あまりそう思わない 9 2.8 11 3.9 12.86 <0.001 どちらでもない 29 9.0 57 20.0 ややそう思う/そう思う 286 88.2 217 76.1 次回,同じ出産方法を選択したいか そう思わない/あまりそう思わない 10 3.1 71 25.0 7.45 <0.001 どちらでもない 22 6.8 56 20.0 ややそう思う/そう思う 292 90.1 158 55.0 (Mann-WhitneyのU検定における有意水準)り,無痛分娩体験者のポジティブな情報のみが世間に 広がっていく可能性があるということを助産師が把握 しておく必要があると考える。そのことを踏まえて, 正しい情報提供が求められる。 また,Leap, et al.(2010)の継続的な助産師の支援 と痛みへの心構えやサポートの影響に関する研究で は,妊娠期から陣痛への乗り越え方を伝えていくこと が必要であると報告しており,痛みのギャップだけで なく,その対処方法についても情報提供していくこと が必要であると考える。 3.産後の疲労感のギャップ:産前(予測)と産後 (現実) 分娩転帰による産後の疲労感の現実の比較では,無 痛分娩者の平均 60.1,自然分娩者の平均 52.2 であり, 無痛分娩者は,自然分娩者よりも有意に得点が高く, 産後の疲労感が有意に強かった。 また,産科歴でも有意差がみられ,経産婦よりも初 産婦の産後の疲労感が強かった。さらに,無痛分娩 者,自然分娩者ともに痛みと疲労感が「予測より痛 かった」,「予測よりも疲れている」と回答した者は, 産後の疲労感の得点が有意に高かった。 無痛分娩者の方が自然分娩者よりも平均年齢は有意 に高かったが,その差は1歳であり,この年齢差は臨 床的には意味のない差として捉えてよいと考える。つ まり,自然分娩者よりも無痛分娩者の方が実際の疲労 感が強く,自然分娩者では影響しなかったが,無痛分 娩者では陣痛のギャップの程度が満足度に影響してい たことは,年齢によるものではなく,無痛分娩による 影響と捉えられる。 宍戸(2016)の研究では,無痛分娩希望者の無痛分 娩の選択理由は,体力を温存や痛みに関することで あったが,本研究における無痛分娩者の産後の疲労感 は,自然分娩者よりも強いことは明らかになったが, 体力温存はどうであったのかについては,今後研究す ることが課題である。 Troy(2003)は, 産 後 の 疲 労 感 に つ い て の レ ビューを行い,疲労の関連要因として,分娩時間,分 娩様式,分娩時総出血量,貧血,会陰部の創部の治癒 状況,痛みや不快症状を挙げている。宍戸(2016)の 研究においても,無痛分娩者は,自然分娩者よりも, 分娩所要時間が長く,器械分娩,分娩時総出血量が多 く,産後の尿閉,膀胱留置カテーテルの挿入が多いた め,分娩直後の母体の疲労感が強く,育児開始ができ ない可能性について示唆した。Tsuchiya, et al.(2016) は,初産婦の年齢による産後の疲労感との関連を調査 するため,35歳前後で2群に分け,疲労尺度を用い調 査を行った。この結果,産後の疲労感への関連する因 子としては,産科歴であると報告しており,本研究結 果と同様であった。つまり,無痛分娩,自然分娩とも に予測より悪い体験だった場合に産後の疲労感は強く なるという結果から,ギャップと産後の疲労感との関 連が示唆された。 4.出産満足度への影響 自然分娩者は,無痛分娩者よりも出産満足度は有意 に得点が高かった。 陣痛のギャップと出産満足度における関連をみる と,無痛分娩者では,陣痛のギャップと出産満足度と の関連が有意にみられたが,一方,自然分娩者では, 陣痛のギャップと出産満足度との関連は認められな かった。つまり,無痛分娩者においては,陣痛の ギャップが出産満足度に影響する要因として考えられ るが,自然分娩者では,陣痛のギャップが出産満足度 に影響する要因ではない可能性が示唆され,このこと は,新しい知見であった。 Somuah, et al.(2011)の分娩方法とアウトカムにつ いてのシステマティックレビューにおいて,無痛分娩 が出産満足度に影響しないと報告している。また, Green(1993)は,英国の 6 つの産科病院の 700 名の女 性を対象に,分娩の痛みの予測と体験について前向き 調査を行い,多くの女性は産痛について,「非常に」, 「とても」痛い体験であったが,薬を最小限にしたい と望んでおり,出産満足度も高かったと報告してい る。本研究においても,自然分娩者の出産満足度は高 く,陣痛のギャップに関わらず出産満足度が高く, Greenの結果を支持した。 また,Halls(2008)は,英国の総合病院にて無痛分 娩が出産満足度にどの程度関与するのか,199名の女 性に調査し,13%が不満足であったと述べている。こ の不満足な理由として,10% は麻酔による副作用, 60%は痛みの軽減が不十分であったことを述べており, 十分な痛みの緩和を図ることが,満足度に関わると報 告している。本研究においても,無痛分娩者の陣痛の ギャップが,「予測より痛くなかった」と回答した者は, 「予測より痛かった」と回答した者よりも有意に出産満 足度が高く,Halls(2008)の結果と一致していた。 よって,無痛分娩者は,陣痛をコントロールするこ
とが出産満足度に大きく,影響することが示唆され た。一方,自然分娩者は痛みのギャップが出産満足度 に影響する因子ではなかったことが分かった。
Ⅴ.研究の限界と今後の課題
本研究の限界は,調査対象施設が都内の1施設に限 られていたため,施設の特性によるデータの偏りが生 じた可能性が考えられる。また,全国平均と比較して 年齢が高いという偏りがあった。そのため,全国平均 と同じような年齢集団で,文化的背景を考慮したうえ で,妊娠期から産後における長期間追跡によるコホー ト研究が必要である。次に,本研究において,分娩転 帰による産後の疲労感についての違いは明らかになっ たが,無痛分娩の付随する副作用や合併症が,分娩後 の授乳,育児の開始にどの程度支障をきたすのか,無 痛分娩の副作用や合併症による分娩後の支障度や育児 への初動や困難感については評価できなかったため, 測定用具を検討し調査を行っていく必要がある。Ⅵ.結 論
1. 陣痛のギャップについて,「予測より痛かった」 と回答した者が,自然分娩者に多かったが,会 陰部痛のギャップは,「予測より痛かった」と回 答した者が,無痛分娩者に有意に多かった。 2. 産後の疲労感のギャップは,「予測より疲れてい る」と回答した者の割合は,自然分娩者(59 名, 20.7%)よりも,無痛分娩者(115 名,35.5%)の 方が有意に多かった(P<0.001)。 3. 出産満足度は,無痛分娩者の平均 7.61,自然分 娩者の平均 8.65 であり,自然分娩者の出産満足 度は,無痛分娩者よりも有意に高かった(P< 0.001)。また,無痛分娩者では,陣痛のギャッ プと出産満足度との間に有意な関連が認められ たが,自然分娩者には認められなかった。 本研究にて,痛みと疲労感のギャップという概念に 助産師が目を向けていく必要性について臨床的意義を 得たと言える。 以上の結果より,無痛分娩,自然分娩のどちらの場 合も,痛みや疲労感に関する予想と現実とのギャップ を小さくする方策が求められる。そのための方策とし ては,実際に体験することが予測される痛みや疲労に 関する事前の情報提供が考えられる。出産満足度を 改善するためには,ギャップに着目する必要があり, それは無痛分娩でより重要である。 謝 辞 本研究にご協力くださった妊婦の皆様,研究対象施 設の皆様に心より感謝申し上げます。本研究は,聖路 加国際大学大学院に提出した修士論文の一部を加筆修 正したものである。なお,本研究は,科学研究費補助 金(基盤A)課題番号17H01613の一部分である。 利益相反 本論文内容に関連する利益相反事項はない。 文 献Areskog, B. & Uddenberg, N. (1984). Postnatal emotional balance in women with andwithout antenatal fear of childbirth. Journal of Psychosomatic Research, 28 (3), 213-220.
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