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心理専門職による研究知見の臨床的活用のあり方に関する探索的検討

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Academic year: 2021

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-56 408

-心理専門職による研究知見の臨床的活用のあり方に関する探索的検討

○新井 雅 跡見学園女子大学心理学部臨床心理学科 【問題と目的】 科学者-実践家モデルに基づくと,研究や科学者の 側面に関連した心理専門職の活動には,研究を通して 新たな知見を生成するだけでなく,研究知見を臨床実 践に応用することも重視される。実際に,エビデンス に 基 づ く 実 践(Evidence Based Practice: 以 下, EBP)の観点から(APA Presidential Task Force on Evidence Based Practice,2006),心理専門職には, 最良の研究知見と臨床的専門性を統合することが求め られている。EBPの重要性やその発展状況は日本でも 紹介されているが(e.g.,松見,2016),諸外国では, 心理専門職がEBPを巡ってどのような認識・態度を有 しているかを調査したり,EBPに関わる知識・技能を 育成する教育訓練について積極的に議論されている。 例えば,Lilienfeld et al., (2013)は,心理専門職 がEBPへの肯定的な態度をある程度有している一方, EBPへの誤解や,心理専門職の考えに合致しないエビ デンスが示された時に認知的不協和が生じること,集 団を対象とし厳密に統制された研究知見を臨床現場の 個人に適用する際に生じる抵抗感,EBP実践を阻む時 間的,経済的,組織的問題があることを指摘している。 しかし,日本では心理専門職のEBPに関わる認識・態 度の実態は明らかになっておらず,EBPの教育訓練を どのように具体的に展開し得るのかの議論も未だ十分 ではない。現場の心理専門職のEBPに関わる認識や態 度の実態調査や関連要因の検討を具体的に積み重ね, 心理専門職による研究知見の臨床場面での活用を促進 する方略や体制,教育訓練について議論する必要があ る。 そこで本研究では,日本の心理専門職や大学教員, 大学院生を対象に,臨床実践と実証研究との関係につ いての認識や態度を尋ねる探索的な調査の報告を行 い,心理専門職による研究活動を基盤とした臨床的・ 社会的活動の発展の在り方を検討することを目的とす る。 【方法】 1 )対象者:臨床心理士指定大学院の大学院生(修士・ 博士前期課程)の 2 年生43名,臨床心理系の博士課 程の大学院生 5 名,臨床心理士資格を有し,臨床心 理士養成に携わっている大学教員17名,上記以外の 心理専門職(臨床心理士資格取得者・取得見込み) 57名,計122名(男性32名,女性90名)を対象とした。 2 )調査内容:諸外国の研究動向(e.g., Aarons et al.,2012)を参考に項目を作成した。基本属性と 共に,EBPへの理解度や肯定感,研究知見の臨床実 践への活用可能性についての認識,EBPの実践や研 究 知 見 の 臨 床 的 活 用 を 促 進 し 得 る 教 育 訓 練 や サ ポート体制のあり方について,選択式および自由記 述式の質問項目にて尋ねた。 3 )手続き:郵送法・縁故法を用いて調査を依頼し, 同 意 の 得 ら れ た 対 象 者 に ウ ェ ブ 調 査 を 実 施 し た (2017年 9 〜11月)。著者所属の研究倫理審査委員会 の承認を得て実施された(番号(倫教)17-004))。 【結果と考察】 1 )EBPや研究知見の臨床場面での活用可能性に関す る認識: EBPへの理解度や肯定感,心理学や臨床心理学の知 識や知見が臨床実践に役立つと思うかどうかの程度を 5 件法で尋ねたデータについて,対象者や理論的志向 性の違いを分散分析にて探索的に比較検討した。その 結果,対象者別のデータでは(博士院生を除く),EBP 理解度で院生(修士)・心理専門職<大学教員,EBP肯 定感で心理専門職>大学教員であった(Table 1)。 また,理論的志向性ごとの差異を分散分析にて検討 した結果,EBP理解度とEBP肯定感,基礎的な心理学研 究の活用可能性において有意・有意傾向がみられた (順に, F(4,112)=2.37,7.89,2.84)。多重比較の結 果,EBP理解度では統合・折衷派<認知行動療法,EBP 肯定感では統合・折衷派>精神力動,認知行動療法> 精神力動,人間性心理学,その他, 基礎心理学研究の 活用可能性では,精神力動<統合・折衷派,認知行動 療法,人間性心理学,その他であった。 さらに,研究知見が臨床実践に役立つと思うかどう かの評定理由を尋ねた自由記述を,質的データ分析の 手続きを援用して分析した。その結果,臨床心理学に 関わる研究は,「(個々人の経験則の限界を補う)アセ スメントや援助・介入の参考」となり,「根拠に基づ く説明責任」を行う際に必要で,「自らの臨床の問い 直し・専門性向上」にもつながるとの見解がみられ た。一方,「個別性の強い臨床活動に有益であるか慎 重に判断」する必要性や「研究の質への疑念」に関す る指摘もみられた。基礎的な心理学研究に基づく知見 も,「効果的な臨床実践を行う上での基礎」となり, 発達心理学や社会心理学など,これらの知識や知見を

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-56 409 -学ぶことで「幅広い人間理解」につながるとの見解が みられた一方,「基礎的な心理学的知見への関心の薄 さ」や「臨床への活用の難しさ」への言及が見られた。 さらに,研究を進めるために必要な科学的な思考や手 続きも,「主観に偏りすぎない客観的・中立的な臨床 実践」や「仮説生成-仮説検証的な思考に基づく実践」 のために有益である一方,「研究と臨床は別」であり, 「科学的な思考よりも柔軟性や温かみのある実践の重 要性」の指摘もみられた。 2 )研究知見の臨床的活用に関わる知識・技能・態度 を促進する教育訓練やサポート体制: 上述と同様に自由記述のデータを質的に分析した結 果,「臨床技能の維持・向上」を前提としつつ,「研究 法や統計,論文の読み方の学習・研修」,「研究知見の 臨床的活用法の学習・研修(例:効果判定のデザイン の組み方,研究知見を臨床実践に応用するための具体 的な知識とスキルを学ぶ機会)」,「EBPの視点に基づく 事例検討会」,「関係者・関係機関・関係団体のネット ワーク(例:大学・研究所と臨床現場のネットワーク システムの構築,学術団体と職能団体の協力関係,研 究知見にアクセスしやすいデータベース)」の必要性 と共に,「研究や研修,学会参加のしやすい職場体制 や経済的支援」,「研究知見そのものの成熟化」の必要 性についての指摘もみられた。 本研究は限られたデータに基づく探索的な調査報告 ではあるものの,日本の心理専門職や大学院生等が有 するEBPや科学的な研究知見を臨床実践に活用するこ とに関わる多様な考え・認識と共に,求められる教育 訓練やサポート体制のあり方についての見解の一端が 見出された。今後は,上述の結果を基礎とし,広範囲 の大学院生・心理専門職を対象とした調査を積み重 ね,臨床実践と実証研究の関係と共に,研究知見を活 かした効果的な臨床実践を促進する教育訓練やサ ポート体制を検討する必要がある。 【謝辞】 本研究はJSPS科研費 JP16K17343の助成を受けて行 われました。 【主要引用文献】

Lilienfeld, S. O., Ritschel, L. A., Lynn, S. J., Cautin, R. L., & Latzman, R. D. (2013). Why many clinical psychologists are resistant to evidence based practice: Root causes and constructive remedies. Clinical Psychology Review, 33, 883- 900.

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