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The effect of tax rate and deduction in income taxation In Japan, numerous attempts have been made to reform the income taxation system. Researchers h

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所得課税における税率効果と控除効果

著者

金田 陸幸

雑誌名

関西学院経済学研究

44

ページ

39-59

発行年

2013

URL

http://hdl.handle.net/10236/12274

(2)

所得課税における税率効果と控除効果 *

The effect of tax rate and deduction

in income taxation

金 田 陸 幸

  In Japan, numerous attempts have been made to reform the income taxation system. Researchers have pointed out that as a result of these attempts, the redistribution effect in income taxation decreases. Much research has been done concerning the redistribution effect of income through the taxation system. But most studies haven t disclosed what the causes are behind the decrease in the income redistribution effect.

  In this paper, I use the Anonymized Data from National Survey of Family Income and Expenditure and analyze the effects that income tax and resident tax or tax rate and deductions have on income redistribution. As a result of this analysis, I found the following three points. First, resident taxes have a redistribution effect that is similar to that of income taxes. Second, the tax rate has a redistribution effect, while deductions have the effect of expanding the income gap. Third, reducing the number of deductions closes the income gap between age groups, but it may widen the income gap among young people.

Takayuki Kaneda JEL:H23, H24

キーワード: マイクロシミュレーション、所得税、住民税、税制改革、再 分配効果

Keywords: Microsimulation, Income tax, Resident tax, Tax reform, Redistribution effect

*   本稿の分析で用いているデータセットは、統計法に基づいて、独立行政法人統計センター から総務省『全国消費実態調査』に関する匿名データの提供を受け、独自に作成・処理し たものである。

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1. はじめに  近年、日本では所得格差に関する議論が盛んになされている。日本の所得 格差は拡大しているという議論がある一方で、大竹(2005)や小塩(2006) で指摘されているように、所得格差拡大の原因は高齢化によるところが大き いという見解もある。  税制が所得格差に与える影響を分析した研究も蓄積されており、日本の 所得税制は所得格差の是正に寄与することが知られている。しかしながら、 1980年代後半の抜本的税制改革以降、所得税制における税率の累進構造の 緩和によって、所得再分配機能が低下していることが指摘されている。  また、過去の税制改革によって税率のフラット化とともに各種の控除が拡 大されてきたが、日本の所得税制はもともと控除額が大きいため、控除の拡 大は低所得者よりも、高所得者に対して税負担軽減効果が大きい。  近年の税制改正大綱もこの点を指摘しており、所得再分配機能を回復する ための改革として税率構造の見直しだけでなく、高所得者に対して有利な制 度となっている所得控除の見直しによる課税ベースの拡大に加え、所得控除 から税額控除・給付付き税額控除・手当へシフトするような改革をあげてい る1)  所得再分配機能の回復を目的に税制改革を考える際には、税制のどのよう な要因によって、所得再分配機能が低下しているのかを明らかにする必要が ある。  本稿では、以上の点を踏まえ、1989 年から 2004 年の『全国消費実態調査』(以 下、全消)の匿名データを用いて、所得税、住民税それぞれの所得再分配効 果における税率と控除による影響を明らかにする。  本稿の構成は以下の通りである。  第 2 節では日本の格差や税・社会保障制度の所得再分配効果について分析 を行った既存研究を概観し、第 3 節では、全消匿名データとデータ処理の方 法について述べる。第 4 節では各年における税制の所得再分配効果を税制の 1) 政府税制調査会「平成 23 度税制改正大綱」10 頁。

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要因ごとに明らかにし、第 5 節で分析から得た結果をまとめ、結びとする。 2. 既存研究  日本においては、1990 年代頃から、格差に関する多くの研究が蓄積され ている。例えば、大竹・齊藤(1999)、大竹(2000, 2005)、小塩(2010)な どが挙げられる。  大竹(2000)は日本の所得格差の拡大傾向の原因を様々な要因ごとに分析 している。1980 年代、1990 年代において日本の所得格差は拡大していること、 格差拡大の主因は、人口高齢化と世帯構造の変化であることを示している。  小塩(2010)は、厚生労働省『国民生活基礎調査』の個票データを用いて、 日本の所得格差の推移、および所得格差の変化の要因を年齢階層内要因、年 齢階層間要因、人口動態要因に分類して、どのような要因が格差に影響を与 えたのかを明らかにしている。分析の結果、2000 年代以降は格差が拡大し ているとはいえないこと、高齢化の進展は全体の格差拡大につながるが、高 齢層の格差は縮小していることを明らかにしている。  日本の既存研究においては、1980 年代から 1990 年代にかけて、格差が拡 大してきたことと、格差拡大の主因が高齢化にあることに関して、コンセン サスがあるように思われる。  所得格差の研究が進んでいくにつれて、税・社会保障制度の所得再分配効 果に焦点を当てた分析も行われるようになった。例えば、小塩(2004, 2006)、 橘木・浦川(2006)、北村・宮崎(2013)などが挙げられる。  橘木・浦川(2006)では、厚生労働省『所得再分配調査』のデータを用い て、1992 年から 2001 年までのジニ係数の改善度を計測することで、日本の 税制や社会保障制度が所得分配にどのような影響を与えているかを分析して いる。社会保障制度、特に公的年金と医療の現物給付の所得再分配効果が大 きいことと、税制による所得再分配効果はもともと大きくはないが、2001 年 には非常に弱くなっているという結果を得ている。

 北村・宮崎(2013)は、全消の個票データに Fixed income approach を用 いた分析を行うことで、1984 年から 2004 年にかけて、所得税の再分配効果

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が低下していることを明らかにしている。さらに、若年者において再分配効 果が小さく、高齢者ほど再分配効果が大きいことが示されている。  近年では、データの整備が進み、マイクロデータを用いて、税制改革のシ ミュレーションを適用する研究も増えてきている。  田近・古谷(2003)はマイクロシミュレーションモデル TJMOD(Tax Japan Model)を用いて、配偶者控除や配偶者特別控除を廃止した際の税負 担率の変化や所得税の税収の変化を分析している。さらに、当時の所得税制 のもとでの限界税率と控除廃止後の限界税率を比較することで、配偶者控除 や配偶者特別控除が既婚女性の労働供給に歪みを与えているかどうかを分析 している。  田近・八塩(2008)では、給付付き税額控除の還付を社会保険料負担の軽 減で行う制度を導入すると、勤労世帯では税負担が微減し、年金世帯では微 増する、つまり勤労世帯への所得の再分配が行われるという結果を得ている。 さらに、若年の低所得者に対して還付を手厚くする制度を導入すると、低所 得者の税負担は少なくなるものの、税負担が高所得者に偏りすぎるという問 題点も指摘している。  これらの研究では、所得控除が低所得者よりも高所得者の税負担を軽減す るという問題点を指摘したうえで、控除を廃止した場合の家計への影響、控 除の縮小によって得られる財源を用いて、仮想的な税制を適用した場合の家 計への影響を分析している。  以上のように、日本の既存研究では、税制による所得再分配効果が低下し ていることを指摘し、低所得者の税負担を軽減するような税制改革の導入の 影響を分析している。  しかしながら、税制改革を考える際には、個人所得課税のどのような要因 が所得再分配効果の低下に寄与しているのかを明らかにする必要があるにも かかわらず、その点を明示した既存研究は少ない。  例えば、個人所得課税としては、所得税と住民税が考えられるが、所得税、 住民税それぞれの所得再分配効果を分析した既存研究は、筆者の知る限り、 林(1995)、望月・野村・深江(2010)のみである。

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 また、過去の税制改革において、税率あるいは控除のどちらの変化が所得 再分配効果に影響を与えたかによって、今後の税制改革の方向性が変化する 可能性があるが、個人所得課税の所得再分配効果を税率による効果と控除に よる効果に分類して、分析している既存研究は望月・野村・深江(2010)の みである。  本稿では、以上の問題意識から、全消匿名データを用いて、個人所得課税 における所得再分配効果がどのような要因によって影響を受けているのかを 明らかにする。  第一に、所得課税の影響を所得税と住民税に分類し、それぞれの税制が所 得再分配効果にどの程度の影響を与えているかを明らかにする。望月・野村・ 深江(2010)では、林(1995)の問題点として、総務省『家計調査年報』のデー タを用いており、分析対象が勤労者世帯に限定される点を指摘している。  一方、本稿で用いる全消匿名データには、勤労者世帯以外の世帯も含まれ たデータであるため、異質な家計を考慮に入れて分析を行うことができる。  また、望月・野村・深江(2010)では所得税と住民税の再分配効果を推計 する際に、異なるデータを用いているため、所得税と住民税の効果を比較す ることができないが、本稿では、推計に同一のデータを用いるため、所得税 と住民税の所得再分配効果を相対的に比較することができる。  第二に、所得課税税制における所得再分配効果の税率による効果と控除に よる効果を明示する。まず、望月・野村・深江(2010)の分析手法を、マイ クロデータで再現した結果を示す。次に、独自に税率効果と控除効果を定義 し、タイル尺度を用いることで、所得階級別、年齢階級別、主とする収入別 のグループごとに税率効果、控除効果の所得再分配効果への影響を明らかに する。 3. 全消匿名データとデータ処理の方法  まず、本稿の分析に用いるデータと、分析のために必要なデータの処理方 法について述べる。本稿の分析では、1989 年、1994 年、1999 年、2004 年の 全消匿名データを用いる。

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 匿名データとは、統計調査によって集められた調査表情報を特定の個人の 識別が行われないように加工されたデータである。全消匿名データの場合、 80%のリサンプリング、8 人以上世帯の除外、年間収入のトップコーティン グ、年間収入の内訳の削除などが行われている。上記のような措置はとられ ているが、個票データと同様に、収入、消費支出額、世帯類型などの情報を 世帯ごとに得る事ができるだけでなく、個票データよりも比較的容易に利用 できるというメリットがある。  単身世帯と二人以上世帯を合わせた世帯数はそれぞれ、1989 年は 47,780 世帯、1994 年は 48,500 世帯、1999 年は 48,522 世帯、2004 年は 47,797 世帯 である。以下、各データのデータ項目は「 」で表記する。なお、全消匿名 データをそのまま分析に用いることはできないため、下記の処理を施した。 3.1. 収入データの確定  全消匿名データには、収入に関するデータとして、「年間収入」(年額)と、 調査時期における平均の収入(2 人以上世帯は 9、10、11 月の 3 か月平均、 単身世帯は 10 月、11 月の 2 か月平均の月額)である「収入総額」のデータ が存在する。「年間収入」では世帯員ごとの収入が不明であるので、本稿の 分析では、世帯の収入に関するデータとして「収入総額」を用いた。  「収入総額」データには世帯主の事業所得が存在せず、「勤め先収入」と「年 金収入」以外の収入に関しては収入の一部しか記載されていない。そこで本 稿の分析では、「収入総額」内の「勤め先収入」および「年金収入」のデー タを用いる。分析対象とする世帯は、「勤め先収入」か「年金収入」のどち らかがゼロ以上の世帯とする。分析対象とする世帯数は、1989 年は 33,915 世帯、1994 年は 37,772 世帯、1999 年は 33,960 世帯、2004 年は 39,086 世帯 である。  「勤め先収入」データについては、世帯主と配偶者の収入は把握できる。 世帯主と配偶者以外の世帯員については、「他の世帯員の勤め先収入」のデー タがあり、男女別の収入についても把握できるものの、同性の世帯員が複数 いる場合は、世帯員別の収入が不明である。そこで、世帯主と配偶者以外の

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世帯員に対して、給与収入を割り当てる処理を行った。  まず、就業している世帯員へ優先的に「他の世帯員の勤め先収入」を割り 振る。男性の世帯員あるいは女性の世帯員が一人の場合は、それぞれ「男の 他の世帯員の勤め先収入」、「女の他の世帯員の勤め先収入」を割り振る。個 票データを用いている既存研究の多くは、世帯主と配偶者以外で、就業して いる同性の世帯員が複数いる場合は、該当世帯を分析対象から除外している が、本稿では、以下の処理を行うことで、該当世帯に関しても分析対象とし て扱う。  まず、各年の厚生労働省『賃金構造基本統計調査』の産業大分類データと マッチングを行い、各世帯員にウェイトを与える。『賃金構造基本統計調査』 では、産業、年齢、性別ごとにデータが存在する。全消匿名データについても、 各世帯員の属性として、「産業符号」、「年齢 5 歳階級」、「性別」のデータが 存在する。そこで、全消匿名データの属性と『賃金構造基本統計調査』の産業、 年齢、性別でマッチングを行い、各世帯員に「きまって支給する現金給与額」 のデータを与える。  各世帯員に与えられた「きまって支給する現金給与額」を用い、勤め先収 入のウェイトを作成し、「男の他の世帯員の勤め先収入」あるいは「女の他 の世帯員の勤め先収入」にウェイトを乗じたものを各世帯員の勤め先収入と した。例えば、男性で就業している世帯員が 2 人いる場合、世帯員 A およ び世帯員 B の収入ウェイト、勤め先収入は次のように表すことができる。   A(B) の収入ウェイト = A(B) の「きまって支給する現金給与額」 A, B の「きまって支給する現金給与額」の和 (1)   A(B) の勤め先収入 =「男性の他の世帯員の勤め先収入」× A(B) の収入ウェイト(2)  「年金収入」に関しては、世帯主、配偶者にかかわらず、世帯員別の収入 が不明である。そこで、まず 60 歳以上の世帯員に優先して「年金収入」を 割り振る。60 歳以上の世帯員が一人の場合は、年金収入の全額を与える。  60 歳以上の世帯員が 2 人以上いる場合、配偶者および女性の世帯員につい ては各年の国民年金の満額(1989 年は月額 55,000 円、1994 年は月額 65,000 円、

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1999年は月額 67,016 円、2004 年は月額 66,208 円)を受給していると考える。 世帯主と男性の世帯員については「年金収入」を人数で等分した。  次に、所得税住民税の税制を適用するために、「勤め先収入」、「年金収入」 のデータを年間給与収入、年間年金収入に修正する処理を行う。まず、年間 年金収入に関しては、「年金収入」に 12 を乗じることで年間年金収入とした。  「勤め先収入」に関しては、1 か月平均のデータであるので賞与が含まれ ていない。しかし、所得税住民税の税負担額を計算するには、年間収入を用 いるため、賞与を考慮に入れる必要がある。そこで、各年の厚生労働省『賃 金構造基本統計調査』の産業大分類のデータと全消匿名データをマッチング させることで年間賞与を計算した。  マッチングの手法は、その他の世帯員に「きまって支給する現金給与額」 を与える手法と同じである。マッチングによって、各世帯員に「きまって支 給する現金給与額」と「年間賞与その他特別給与額」のデータを与える。  ここでは、「きまって支給する現金給与額」に対する「年間賞与その他特 別給与額」の割合を算出し、「勤め先収入」にその割合を乗じたものを年間 賞与とした。 年間賞与=「勤め先収入」× 「年間賞与その他特別給与額」 「きまって支給する現金給与額」 (3)  マッチングによって、「勤め先収入」がゼロ以上の全ての世帯員に賞与を 与える。「勤め先収入」データに 12 を乗じ、年間賞与を加えたものを年間給 与収入とした。以上より、年間年金収入と年間給与収入の合計を各世帯員の 個人収入とする。 個人収入= 年間給与収入 + 年間年金収入 (4) 3.2. 控除と税額の計算  1989 年の税制と 1994 年の税制は、違いがほとんどなく、税制改革による 家計への影響の違いを把握できないため、本稿では 1989 年のデータに 1988

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年の税制を用いることで、1994 年税制との差別化を行う。  まず、各世帯員の年間給与収入と年間年金収入より、給与所得控除および 公的年金等控除を計算する。ここでは、個人収入から給与所得控除と公的年 金等控除を差し引いたものを個人所得とする。   個人所得= 個人収入 − 給与所得控除 − 公的年金等控除 (5)  次に個人所得から所得控除を差し引くことで、課税所得を求める。本稿で は、基礎控除、配偶者控除(特別)、扶養控除、勤労学生控除、老年者控除(2004 年分をもって廃止)、社会保険料控除、医療費控除を考慮に入れた。  社会保険料控除に関しては、財務省が課税最低限の計算に使用している簡 易計算方式を用いて、世帯の社会保険料とした2)  医療費控除に関しては、1989 年の場合は、1 か月の医療費の合計を表す「保 険医療」から「保険医療用品・器具」を減じたものを 1 か月分の医療費控除 の対象となる医療費と考えた。1994 年、1999 年、2004 年の場合は、「保険医療」 から「保険医療用品・器具」と「健康保持用摂取品」を減じたものを 1 か月 分の医療費控除の対象となる医療費と考えた。これらに 12 を乗じたものを 年間の医療費とし、医療費控除を計算した。  勤労学生控除と老年者控除は個人の年齢や所得などから適用を判断した。 配偶者控除(特別)と扶養控除は、世帯構成と各世帯員の所得のデータを用 い、適用を判断した。  また、累進税率構造のもとでは、各種控除は限界税率が高い世帯員に対し て税負担軽減効果が高いことが知られているので、合理的な家計は、税負担 を軽減するように行動すると考えるべきである。そのため、以下の控除につ いて次のような処置を行った。  まず、配偶者控除はもっとも所得の高い世帯員にだけ適用し、他の世帯員 2)  具体的には、収入が 900 万円以下の者は収入に 0.1 を乗じた金額、収入が 900 万円超で 1500万円以下の者は収入に 0.04 を乗じて 54 万円を加えた金額、収入が 1500 万円超の者は 114万円となるように計算される。社会保険料がゼロの世帯は、保険料未納世帯の可能性 があるが、本稿は所得課税税制の再分配効果を測定することに目的があるので、このよう な処理を行った。

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に配偶者控除の対象者がいる場合、その世帯員をもっとも所得の高い世帯員 の扶養控除対象者として扱った。また扶養控除、医療費控除、社会保険料控 除についても、もっとも所得の高い世帯員に適用することとした。すなわち、 本稿で考慮する全ての所得控除は、次のように示すことができる。   所得控除+ 勤労学生控除 + 老年者控除 + 医療費控除 + 社会保険料控除= 基礎控除 + 配偶者控除 + 配偶者特別控除 + 扶養控除 (6)  以上より、各世帯員の課税所得は次のように計算できる。 課税所得= 個人所得 − 所得控除 (7)  課税所得に超過累進構造の税率を乗じることによって、所得税額、住民税 額を計算できる3)。1999 年から 2004 年にかけて、所得税と住民税に定率減税 が実施されているが、定率減税は一時的な処置であるため、本稿では扱わな い。  計算した所得税、住民税を用いると個人課税後所得は次のように示すこと ができる。 個人課税後所得= 個人収入 − 所得税 − 住民税 (8)  各世帯員の個人収入、個人課税後所得を合計したものをそれぞれ世帯収入、 世帯課税後所得とする。本稿の分析では、世帯間の人員数を調整するため、 世帯収入と世帯課税後所得に等価所得の概念を用いる。 等価所得= 所得/世帯員数 (9)  したがって、本稿の分析で用いる世帯収入、世帯課税後所得は人員数を調 整した収入、所得である。 4. 所得再分配効果の計測  本節では、格差指標の一つであるタイル尺度を用いて、税制が持つ所得再 分配効果を様々な要因に分解する。タイル尺度の定義は以下の通りである。 3) 住民税は前年課税であるが、前年と収入が変化していないと仮定して住民税額を算出した。

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Tx=  yi log yi µ (10)   n:世帯数、yi:世帯 i の所得シェア、 µ:所得の平均  タイル尺度の最大の特長は、格差指標を様々な要因に分解することが可能 である点にある。グループ内タイル尺度とグループ間のタイル尺度を用いる と、タイル尺度は(11)式で示すことができる。 Tx= K  k=1 nkµk T k x+ K  k=1 nkµk log µk µ (11)   k:第 k グループ、nk:第 k グループの人数、   µk:第 k グループの平均所得、Tk x:第 k グループのタイル尺度 また、第 k グループのタイル尺度は、(12)式によって定義される。 Txk= nk  i=1 yk i nkµk log yki µk (12) 4.1. 各年の所得税効果と住民税効果  本項では、タイル尺度を用いて、各年の税制の所得再分配効果を所得税、 住民税別の効果に分類して示す。まず、各年の税制効果、所得税効果、住民 税効果を以下の式で示す。 税制効果= YT heil− (Y − TT ax)T heil YT heil (13)

所得税効果= YT heil− (Y − TT axi)T heil

YT heil (14)

住民税効果= YT heil− (Y − TT axr)T heil

YT heil (15)

 ここで、YT heilは世帯収入から算出されるタイル尺度、(Y − TT ax)T heil

世帯の課税後所得から算出されるタイル尺度、(Y − TT axi)T heilは所得税のみ

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住民税のみを適用した場合の課税後所得から得られるタイル尺度である。  図 1 は各年の税制効果を所得税効果と住民税効果に分けて示したものであ る。図 1 から、税制効果が低下していることが確認できる。また、住民税に 関しても当時は、累進的な税制であったため、所得税と同様に再分配効果を 持つことが分かる。また、住民税効果は所得税効果の 6 割ほどである。 4.2. 既存研究における税率効果・控除効果  本項では、望月・野村・深江(2010)で使用されている税率効果と控除効 果を紹介したうえで、既存研究では集計データで行われている分析を、全消 匿名データを用いて行う。  まず、税制の再分配効果 ψ は(13)式と同様の式で定義される。 ψ = YT heil− (Y − TT ax)T heil YT heil (16)  次に、課税による税率効果 τ は課税対象所得の課税前タイル尺度から課 税対象所得の課税後タイル尺度の変化率で示される。 τ = Y(1 − d)T heil− Y (1 − d)(1 − t)T heil Y (1− d)T heil (17) d:所得控除率、t:税率 図 1 所得税住民税による再分配効果 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16 0.18 0.2 1988年 1994年 1999年 2004年 住民税効果 所得税効果

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 控除効果 δ は世帯収入の課税前タイル尺度 YT heil から課税対象所得の課

税前タイル尺度 Y (1− d)T heil への変化率と課税対象所得の課税後タイル尺

Y (1− d)(1 − t)T heil から世帯収入の課税後タイル尺度 (Y − TT ax)T heil

の変化率の 2 つの効果の合計として定義されている。   δ = YT heil−Y (1 − d)T heil

YT heil

+ Y(1 − d)(1 − t)T heil−(Y − TT ax)T heil

Y (1− d)(1 − t)T heil (18)

 実際には、既存研究では、データ上の制約から控除効果に誤差を加えたも のを全体の再分配効果から税率の再分配効果を差し引いた(19)式で求めて いる。

δ + residual = YT heil− (Y −TT ax)T heil YT heil Y(1−d)T heil− Y (1−d)(1−t)T heil Y (1− d)T heil (19)  本稿では、全消匿名データを用いているため、(19)式で示されている控 除効果と誤差をそれぞれ計算できる。  表 1 は本稿で算出した既存研究の税制効果、税率効果、控除効果、誤差を 所得税効果と住民税効果に分けて示したものである。  税率効果と比較すると、所得税、住民税ともに控除効果がはるかに大きい ことが分かる。また、それに伴い、誤差に関しても、控除効果以上の影響が あることが確認できる。この結果から、誤差の存在がなければ、控除効果は 税率効果を大きく上回るため、税制を適用する前よりも格差が拡大すること となる。  しかしながら、税制効果は所得再分配効果を持つということも示されてい 表 1 既存研究の税率効果・控除効果 所得税 住民税 税制 効果 税率効果 控除効果 誤差 税制効果 税率効果 控除効果 誤差 1988年 0.1247 0.0633 -2.9124 2.9738 0.0788 0.0394 -2.5305 2.5698 1994年 0.1381 0.0749 -2.7114 2.7746 0.0526 0.0394 -2.6366 2.6498 1999年 0.2039 0.0579 -3.3534 3.4994 0.1552 0.0394 -2.5926 2.7083 2004年 0.1615 0.0407 -2.9959 3.1167 0.1620 0.0262 -3.0272 3.1630

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るため、税制による所得再分配効果の大部分が明らかにされていないことに なる。 4.3. 本稿における税率効果・控除効果  既存研究では、集計データを用いているため、個々の家計の税負担額を固 定した上で、収入あるいは所得の変化によって、税率効果と控除効果を算出 している。しかし、税率および控除の変化は税負担額に影響を与えるため、 税率効果、控除効果も税負担額の変化を考慮に入れた上で、計測する必要が ある。  また、税率効果と控除効果において、課税対象所得の課税前後の所得を用 いてタイル尺度を求めているが、マイクロデータを用いる場合、控除によっ て課税対象所得がゼロになる世帯が存在すると、タイル尺度が計算できない ため、そのような世帯への影響を把握することができない。  そこで本項では、既存研究と同様にタイル尺度を用いて、独自の税率効果 と控除効果を定義することで、各年の所得課税に関する税制の所得再分配効 果について分析を行う。  本稿では、税率効果を世帯収入のタイル尺度から世帯収入に税率のみを適 用した場合の課税後所得のタイル尺度への変化率として定義する。 税率効果= YT heil− Y (1 − t)T heil YT heil (20)   Y (1− t)T heil:税率のみを適用した場合の課税後所得のタイル尺度  一方で、控除効果は税制効果から税率効果を差し引くことによって求めた。 控除効果= Y(1 − t)T heil− (Y − TT ax)T heil YT heil (21)  図 2、図 3 はそれぞれ、各年の所得税、住民税の税率効果と控除効果を示 している。所得税、住民税ともに、税制効果における税率効果の影響が大き いことが分かる。また、各年によって控除効果の影響は異なるが、1988 年の 所得税、1994 年以降の住民税に関して、控除効果がマイナスであることから、

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控除の存在によって、税制の所得再分配効果が弱められている可能性がある。 4.4. グループ別の税率効果・控除効果  本項では、タイル尺度を用いて、測定される税制効果、税率効果および控 除効果を所得階級別、年齢階級別、主とする収入別の要因分解によって分析 する。  まずは、所得階級別の要因によって、どのように税率効果、控除効果の影 響が異なるのかを検証する。なお、所得階級は各階級の世帯数が等しくなる ように、世帯の課税後所得が低い方から、低所得階級、中所得階級(下)、 図 2 所得税の税率効果および控除効果 -0.02 0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 1988年 1994年 1999年 2004年 税率効果 控除効果 図 3 住民税の税率効果および控除効果 -0.04 -0.02 0 0.02 0.04 0.06 0.08 1988年 1994年 1999年 2004年 税率効果 控除効果

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中所得階級(上)、高所得階級の 4 階級に分類している。  表 2、表 3 は所得階級別の税率効果、控除効果を所得税、住民税ごとに示 したものである。全ての所得階級において、税率効果は所得再分配効果を持 つことが確認できる。しかし、控除効果に関しては、所得階級によって影響 が異なる。所得税、住民税の各年において、比較的所得の低い階級では、控 除効果は所得再分配効果を弱めるが、所得の高い階級では、所得再分配効果 を強める働きを持つことが分かる。 表 2 所得階級別の税率効果・控除効果(所得税) 1988年 1994年 低所得 中所得( 下 ) 中所得( 上 ) 高所得 階級間 低所得 中所得( 下 ) 中所得( 上 ) 高所得 階級間 税制 効果 0.0302 0.1120 0.1493 0.2244 0.0971 0.0333 0.1220 0.1783 0.2356 0.1050 税率 効果 0.0304 0.0799 0.1235 0.2192 0.1050 0.0446 0.1212 0.1265 0.2072 0.1090 控除 効果 -0.0002 0.0321 0.0258 0.0051 -0.0079 -0.0114 0.0008 0.0518 0.0284 -0.0040 1999年 2004年 税制 効果 0.0085 0.1127 0.1409 0.2134 0.0912 0.0054 0.1006 0.1126 0.1461 0.0745 税率 効果 0.0156 0.1019 0.0881 0.1689 0.0796 0.0088 0.1139 0.0907 0.1127 0.0745 控除 効果 -0.0071 0.0108 0.0528 0.0445 0.0116 -0.0034 -0.0133 0.0219 0.0334 0.0000 表 3 所得階級別の税率効果・控除効果(住民税) 1988年 1994年 低所得 中所得( 下 ) 中所得( 上 ) 高所得 階級間 低所得 中所得( 下 ) 中所得( 上 ) 高所得 階級間 税制 効果 0.0217 0.1038 0.1176 0.1052 0.0688 0.0206 0.1044 0.1094 0.1050 0.0616 税率 効果 0.0886 0.1021 0.0741 0.0603 0.0587 0.1021 0.1128 0.0907 0.0694 0.0700 控除 効果 -0.0669 0.0017 0.0435 0.0449 0.0101 -0.0815 -0.0084 0.0187 0.0356 -0.0084 1999年 2004年 税制 効果 0.0084 0.0675 0.1013 0.0955 0.0539 0.0033 0.0537 0.0865 0.0786 0.0460 税率 効果 0.0525 0.1199 0.0668 0.0572 0.0740 0.0307 0.1644 0.0698 0.0452 0.0782 控除 効果 -0.0441 -0.0523 0.0345 0.0383 -0.0201 -0.0274 -0.1108 0.0167 0.0335 -0.0322

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 また、階級間の効果に関しては、控除効果が所得再分配効果を弱めている 場合が多い。なお、2004 年の階級間の控除効果はゼロの値をとっているが、 これは控除による影響がないわけではなく、種々の控除の影響が相殺された ためだと考えられる。  次に、年齢階級別に同様の分析を行った。年齢階級については、世帯内で もっとも課税後所得の多い世帯員の年齢を用いて、40 歳未満の世帯を若年 世代、40 歳以上 60 歳未満の世帯を中年世代、60 歳以上の世帯を老年世代と して分類している。  表 4、表 5 は年齢階級別の税率効果・控除効果を所得税、住民税ごとに表 したものである。ほぼ全ての年で共通して、老年世代において控除の影響は 所得再分配効果を弱めている。また、階級間においても控除効果は所得再分 配効果にマイナスの影響を持つことが分かる。  原因の一つとして、老年世代では、若年世代、中年世代と比較して、同程 度の収入であっても適用される控除額が大きいことがあげられる。 表 4 年齢階級別の税率効果・控除効果(所得税) 1988年 1994年 若年 中年 老年 階級間 若年 中年 老年 階級間 税制効果 0.0981 0.1183 0.0841 0.1211 0.1059 0.1285 0.0869 0.1218 税率効果 0.0878 0.1137 0.1039 0.1619 0.0911 0.1106 0.1145 0.1442 控除効果 0.0102 0.0047 -0.0198 -0.0408 0.0149 0.0180 -0.0276 -0.0225 1999年 2004年 税制効果 0.1008 0.1185 0.0753 0.1046 0.0718 0.0877 0.0586 0.0910 税率効果 0.0690 0.0869 0.0868 0.1014 0.0571 0.0724 0.0746 0.0963 控除効果 0.0318 0.0316 -0.0115 0.0032 0.0147 0.0153 -0.0160 -0.0053 表 5 年齢階級別の税率効果・控除効果(住民税) 1988年 1994年 若年 中年 老年 階級間 若年 中年 老年 階級間 税制効果 0.0691 0.0721 0.0560 0.0922 0.0654 0.0667 0.0499 0.0762 税率効果 0.0442 0.0460 0.0978 0.1037 0.0458 0.0485 0.1119 0.1132 控除効果 0.0249 0.0261 -0.0418 -0.0116 0.0196 0.0181 -0.0620 -0.0370 1999年 2004年 税制効果 0.0557 0.0617 0.0435 0.0677 0.0471 0.0521 0.0336 0.0563 税率効果 0.0403 0.0451 0.1037 0.1126 0.0436 0.0460 0.0997 0.1171 控除効果 0.0154 0.0166 -0.0602 -0.0449 0.0035 0.0061 -0.0661 -0.0608

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 本稿の分析では、控除効果に公的年金等控除と給与所得控除が含まれてい る。老年者世代の多くは公的年金を主な収入としているため、公的年金等控 除が適用される。しかし、公的年金等控除は給与所得控除と比較すると控除 額が大きいため、同じ収入ならば、公的年金を主な収入としている老年世代 の課税後対象所得の方が高くなる。  さらに、2004 年税制のもとでは、所得控除の一つとして老年者控除が存 在する。老年者控除は所得が 1,000 万円以下で年齢が 65 歳以上の者に適用 される控除であるため、老年者控除の恩恵は老年世代に限られる。それによっ て、年齢階級間の控除効果が所得再分配効果を弱める結果になったと考えら れる。  次に、給与収入と年金収入を得ている世帯で、税率効果および控除効果に 違いがあるかどうかを確認するために、主とする収入別のグループに分類し て、分析を行う。  ここで、本稿の分析で扱う収入は給与収入と公的年金であるので、給与収 入のみの世帯、年金収入のみの世帯、給与収入と年金収入を得る世帯の 3 つ のグループに分類した。  表 6、表 7 は主とする収入別の税率効果、控除効果を所得税、住民税ごと に示したものである。所得税、住民税ともに、年金収入のみの世帯では、控 除効果が所得再分配効果を弱めていることが確認できる。階級間に関しても、 税率効果は所得再分配効果を持つが、控除効果は格差を広げている可能性が ある。  公的年金のみを得ている世帯は老年世代が多いことを考えると、表 6、表 7の結果は年齢階級別の結果と整合的である。 5. まとめ  本稿では、全消匿名データを用いて、税制の所得再分配効果を所得税によ る効果と住民税による効果、および税率による効果と控除による効果に分類 し、それぞれの影響を明らかにした。以下では、本稿で得られた結果をまと め、今後の課題を述べることで結びとする。

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 第一に、各年の所得税効果、住民税効果を計測したところ、所得税だけで なく、住民税に関しても、所得再分効果が確認された。住民税の所得再分配 効果は所得税の 6 割ほどである。住民税は原則的に応益負担とされているた め、所得税に比べて税率の累進性が低いことが原因だと考えられる。また、 所得税、住民税ともに再分配効果が縮小傾向にある。  第二に、既存研究による控除効果と税率効果の分析を行ったところ、税率 効果は所得再分配効果を持つが、既存研究では明示されていなかった控除効 果と誤差の影響が不自然なほど大きいということが分かった。  第三に、税制効果を独自に定義した税率効果と控除効果に分類したところ、 各年の所得税、住民税において税率効果は所得再分配効果をもつが、控除効 果は所得再分配効果を弱める働きがあることが示された。  さらに、所得階級別、年齢階級別、主な収入別のグループに分類して、そ れぞれの税率効果、控除効果を計測した。その結果、各種の控除を縮小した 表 6 主とする収入別の税率効果・控除効果(所得税) 1988年 1994年 給与 年金 給与・年金 階級間 給与 年金 給与・年金 階級間 税制効果 0.1187 0.0285 0.0912 0.0926 0.1315 0.0156 0.0933 0.0921 税率効果 0.1206 0.0358 0.1081 0.1093 0.1216 0.0317 0.1115 0.1088 控除効果 -0.0019 -0.0073 -0.0169 -0.0168 0.0099 -0.0161 -0.0183 -0.0167 1999年 2004年 税制効果 0.1206 0.0103 0.0806 0.0886 0.0859 0.0051 0.0665 0.0845 税率効果 0.0915 0.0236 0.0802 0.0894 0.0749 0.0174 0.0721 0.0892 控除効果 0.0291 -0.0133 0.0004 -0.0009 0.0110 -0.0123 -0.0057 -0.0047 表 7 主とする収入別の税率効果・控除効果(住民税) 1988年 1994年 給与 年金 給与・年金 階級間 給与 年金 給与・年金 階級間 税制効果 0.0635 0.0071 0.0490 0.0566 0.0705 0.0103 0.0582 0.0583 税率効果 0.0420 0.0560 0.0788 0.1242 0.0491 0.0681 0.0834 0.1246 控除効果 0.0216 -0.0489 -0.0299 -0.0676 0.0214 -0.0578 -0.0252 -0.0663 1999年 2004年 税制効果 0.0635 0.0071 0.0490 0.0566 0.0524 0.0035 0.0409 0.0503 税率効果 0.0420 0.0560 0.0788 0.1242 0.0429 0.0410 0.0834 0.1298 控除効果 0.0216 -0.0489 -0.0299 -0.0676 0.0094 -0.0375 -0.0424 -0.0795

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場合、給与収入を得ている世帯(あるいは若年世代、中年世代)と年金収入 を得ている世帯(あるいは老年世代)間の格差は縮小するが、給与収入を得 ている世帯内の格差は拡大するということが分かった。  本稿に残された課題は以下のとおりである。  第一に、本稿の分析では、各年のデータに各年の税制を適用することで、 税制の所得再分配効果を求めた。この手法では、各年の所得再分配効果を計 測することはできるが、各年のデータによって、世帯構成や収入額が異な り、所得再分配効果が税制の変化以外の要因に影響を受けている可能性があ る。そのため、純粋に税制のみの効果を各年で比較することはできない。今 後は、北村・宮崎(2013)が指摘しているような Fixed income approach や Transparent and compare procedureを用いることで税制改革の影響を評価す る必要がある。  第二に、本稿の分析では、2013 年現在の税制を扱っていない。2004 年以降、 公的年金等控除の定額部分の減額、老年者控除の廃止、給与所得控除の上限 の設定などの税制改革が行われているため、2004 年以降の税制改革が税制 の所得再分配効果に与えた影響まで考慮に入れた分析を行わなければならな い。  第三に、これはデータ上の制約であるが、本稿では収入のデータとして「収 入総額」を用いているが、世帯主が自営業者や企業、団体の役員である世帯 に関しては「収入総額」データの情報が不十分であるため、これらの世帯は 分析から除外している。そのため、税制の所得再分配効果が過大あるいは過 小に評価されている可能性もある。  これらの問題点に関しては今後の課題とする。 参考文献 大竹文雄(2000)「90 年代の所得格差」『日本労働研究雑誌』第 480 号, 2-11 頁。 大竹文雄(2005)『日本の不平等:格差社会の幻想と未来』,日本経済新

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聞社。 大竹文雄・齊藤誠(1999)「所得格差化の背景とその政策的含意:年齢階 層内効果、年齢階層間効果、人口高齢化効果」『季刊社会保障研究』第 35巻第 1 号,65-76 頁。 小塩隆士(2004)「1990 年代における所得格差の動向」『季刊社会保障研 究』第 40 号第 3 巻,277-285 頁。 小塩隆士(2006)「所得格差の推移と再分配政策の効果:「所得再分配調 査」からみた 1980-90 年代の日本」,小塩隆士・田近栄治・府川哲夫編『日 本の所得分配:格差拡大と政府の役割』,東京大学出版会,11-38 頁。 小塩隆士(2010)『再分配の厚生分析:公平と効率を問う』,日本評論社。 北村行伸・宮崎毅(2013)『税制改革のミクロ実証分析:家計経済からみ た所得税・消費税』,岩波書店。 田近栄治・古谷泉生(2003)「税制改革のマイクロ・シミュレーション分 析」,小野善康・中山幹夫・福田慎一・本多佑三編『現代経済学の潮流 2003』,東洋経済新報社,207-226 頁。 田近栄治・八塩裕之(2008)「所得税改革:税額控除による税と社会保険 料負担の一体調整」『季刊社会保障研究』第 44 号第 3 巻,291-306 頁。 橘木俊詔・浦川邦夫(2006)『日本の貧困研究』,東京大学出版会。 林宏昭(1995)『租税政策の計量分析:家計間・地域間の負担配分』,日 本評論社。 望月正光・野村容康・深江敬志(2010)『所得税の実証分析:基幹税の再 生を目指して』,日本経済評論社。

参照

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