地域と歩む子育て
未来をはぐくむ
未来をはぐくむ
第 回
第 5 部・母親に寄り添う(下)
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豊後高田市の地域子育て支援拠点「つどいの広場・花っこルー ム 」。 運 営 に 当 た る N P O 法 人「 ア ン ジ ュ・ マ マ ン 」 の 子 育 て 支 援スタッフ、吉原女紀さん( 36)が英語の絵本を取り出した。毎 週木曜日の「英語であそぼ」の時間だ。 数組の親子が車座になって囲む。 絵本の読み聞かせに、 英語カー ドのかるた遊び…。その途中、 ちょっとしたハプニングがあった。 ある子が絵本のページを勝手にめくったり、数枚のカードをつ か ん だ り。 た ま ら ず 母 親 は が わ が 子 を 抱 え て 隣 室 へ。 「 ど う し て み ん な と 一 緒 に 遊 べ な い の!」 。 泣 き 声 が 響 く と、 ス タ ッ フ の 渡 部恵美子さん( 36)はそっと隣室に向かった。 母親の肩に手をやり、優しく話し掛ける。渡辺さんに抱きかか 2 0 1 0 年 8 月 28日 掲 載 「英語であそぼ」の講師、吉原女紀さ ん(手前)も、かつて「ママ友」を 求めて花っこルームに通った。先輩 ママとして、「心の居場所」を支えて いる=豊後高田市
1時間の〝リセット〟
離れて再確認、親子の愛
ネイルアート、美顔マッサージ、アロマ セラピー…。 講 座 は き っ ち り 1 時 間。 そ の 間 は ス タッフが託児を担い、非常時を除き「ど んなに泣いても母親のところには連れて 行かない」のが原則だ。 母親たちはつかの間でも子育てから開 放 さ れ、 「 子 ど も と 離 れ る こ と で 親 子 の 愛を再確認できる」 。 花っこルームでは 「○○ちゃんのママ」 という呼び方は一切しない。大人の女性 として接することで、母親たちの心を癒 やし、支える。 花っこルームのような地域の「子育て 広場」では、特定の〝常連〟による仲良 しグループができやすい。 一 緒 に お 弁 当 を 囲 ん だ り、 楽 し く お しゃべりをしたり…。だが時として、そ のにぎやかさは「見えないバリアー」と なり、周りの親子に疎外感を生んでしま う。スタッフはいつも、固定化しないよ う気を配る。 小川さんは「私たちは子育ての指導者 で は な く〝 共 感 者 〟。 お 母 さ ん の 不 安 感 と孤立感が軽くなる『心の居場所』を守 り、孤立しがちな家庭にアプローチして いきたい」と思っている。 【地域子育て支援拠点】 地域の中で孤立しがちな子育て家庭が、子育て中の親子 や住民と交流したり、育児支援を受けたりできる。市町村 や社会福祉法人、NPO法人などが運営。親子が気軽に集 まり、交流できる「ひろば型」、子育て全般に関する専門的 な支援を行う「センター型」、身近な児童館に交流の場を設 ける「児童館型」がある。県によると、県内の支援拠点は 57 カ所(今年7月現在)。 え ら れ、 そ の 子 に 笑 顔 が 戻 っ た。 「 責 任 感 が 強 い お 母 さ ん ほ ど、 その場の輪を乱しちゃいけない、邪魔しちゃいけないと思い、萎 縮 (いしゅく) してしまう」 。そんなとき、 渡辺さんは 「必ずしも、 周りに合わせる必要はないですよ」と声を掛けるという。 幼 少 期 の 子 育 て は 24時 間、 子 ど も と 付 き っ き り の 生 活 だ。 「 後 追 い が 激 し い 時 期 は、 一 人 で ト イ レ に も 行 け な い 」。 施 設 長 の 小 川由美さん( 37)は「母親は、自分をリセットできる時間を渇望 している」と話す。 花 っ こ ル ー ム に は、 母 親 向 け の「 リ フ レ ッ シ ュ 講 座 」 が あ る。
「 育 児 書 に 書 い て あ る よ り、 ミ ル ク を 飲 む 量 が 少 な い 気 が す る んですが…」 子育て全般の相談に 24時間体制で応じる、県こども・女性相談 支 援 セ ン タ ー の「 い つ で も 子 育 て ほ っ と ラ イ ン 」。 わ が 子 の 変 化 に戸惑い、不安を覚えた母親たちが次々に相談を寄せる。 子育て経験者からすればたいしたことはないかもしれない。 「そ れ で も 周 り に 相 談 し た り、 頼 っ た り で き る 人 が い な い 母 親 に は、 育 児 書 や イ ン タ ー ネ ッ ト の 情 報 が す べ て 」。 ほ っ と ラ イ ン 相 談 員 の 女 性( 60) は「 育 児 書 の 通 り に な ら な い と『 異 常 が あ る 』『 子 育てが駄目なんだ』と思い込む母親は少なくない」と言う。 相談者の多くが育児や家事を一人で背負い、身も心も疲れ切っ ていると感じる。 夫が育児に協力的でなかったり、 実家が遠方だっ 20 1 0 年 8 月 30日 掲 載 夕方の散歩。わが子と2人、のんび り歩く―。孤立と隣り合わせの現代 社会、母親たちは懸命に育児と向き 合っている=大分市内、写真と本文 は直接関係ありません
電話相談、24時間体制
「一人で抱え込まないで」
四六時中、子どもとべったりの生活。新 生児 ・ 乳児のころは、ゆっくり寝ることも、 一人で風呂に入ることもままならない。ど こ に 行 っ て も 話 題 は 子 ど も の こ と ば か り。 目の前の子育てに追われ、社会から取り残 される不安感に襲われる。 「 な ん で こ ん な 目 に 遭 わ な き ゃ い け な い の …」 。 相 談 員 と し て、 育 児 ス ト レ ス に 苦 し む 母 親 の〝 叫 び 〟 を 何 度 も 聞 い て き た。 そんなときには、 「一人で抱え込まないで」 と 語 り 掛 け る。 「 子 育 て で 周 り の 手 助 け を 借りるのは当たり前。ずうずうしいかなと 思うぐらいがちょうどいいんですよ」 ほっとラインの相談件数は当初の見込み を 上 回 る。 「 気 を 使 わ ず、 電 話 で 聞 き た い 用件だけを尋ねられる〝コンビニ的〟な手 軽さが、いまの子育て世代にはいいのかも し れ な い 」。 同 セ ン タ ー こ ど も 相 談 支 援 課 の後藤慎司課長( 50)は「何よりも大事な のは子育てに悩む母親が社会とつながって いること」と言った。 親を孤立させず、深刻な児童虐待につな がる〝芽〟を摘むために―。相談員たちは 24時間365日、受話器の向こうで待って いる。 担当 報道部 ・ 百崎浩嗣、吉良政宣、 写真映像部・青木茂之 【いつでも子育てほっとライン】 県は今年4月、子育てを下支えし、虐待予防の領域を 広げるため、「こども・女性相談支援センター」(大分市 荏隈)を設置。子育てに関する不安や悩みを 24 時間受け 付ける「いつでも子育てほっとライン」を開設した。県 によると、4~7月の相談件数は計 696 件。育児・しつ けに関する母親からの相談が最も多いという。 たり、義父母と育児観にギャップがあったり…。毎月150件を超 える相談からは、育児に悩みながら、社会だけでなく家族の中でも 孤立する母親の姿が浮かぶ。 子 育 て 真 っ 最 中 の 女 性 た ち は、 核 家 族 化 と 少 子 化 が 進 む 社 会 で 育ってきた世代だ。自分が出産するまで、小さい子の世話をしたこ とがない人も珍しくない。 だが、 社会人として出産ぎりぎりまで働きながら、 「母親」になっ た と た ん、 生 活 は 一 変 す る。 「 心 の 準 備 も な い ま ま、 い き な り 子 育 ての荒波にさらされる」
母親と地域つなごう 年間企画 「未来をはぐくむ」 の第5部 「母 親 に 寄 り 添 う 」 で は、 母 親 の 孤 立 を 防 ぐ、 子育て支援の現場を見つめた。現代におけ る育児、子育て支援策の在り方などについ て、大分大学の前田明理事( 60)=発達社 会心理学=に聞いた。 ―現代の育児の特徴は。 核家族化に加え、住民と地域との関係が 希薄になった。男女共同参画も進み、女性 のライフスタイル、価値観は大きく変わっ た。母親たちはもはや、自分の親や祖父母 世代の子育てを受け継ぐことはできない。 身近に育児の先輩がいないため、専門書 やインターネットなどに子育ての 〝レシピ〟 を求め、 それにわが子を合わせようとする。 2 0 1 0 年 8 月 31日 掲 載 まえだ・あきら 大阪市出身。東京教育大学大学院博士課程単位取得退学。大 分大学教育学部教授、同教育福祉科学部長などを経て、2007 年現職。 大分大学リレーインタビュー
前田
明
理事
子 育 て と は あ る 意 味 で「 個 性 」 そ の も の で あ り、 唯一の正解など存在しない。だが、社会から孤立 しがちな母親たちは、画一的な正解を求めてしま うか、その答えすら持てないでいる。 ―母親たちは、さまざまな悩みを抱えている。 自分の頭の中に描かれた理想の「子ども像」に 照らして、わが子の発達を過小評価する親は少な くない。 さまざまな育児情報とあいまって、 母親が「 〝で きるママ〟じゃないといけない」という過度なプ レッシャーから、自分で自分を追い込むケースも 多い。 ―現状の子育て支援サービスをどう見るか。 肝 心 な の は サ ー ビ ス を ど う 行 き 渡 ら せ る か ―。 子育ての悩みが深刻になると、フラストレーショ ンが子どもに向かえば虐待につながり、母親自身 にため込んでしまうと「産後うつ」などのメンタ ルな問題を生じかねない。父親の育児参加への支 援も重要なテーマだ。 ―今後の子育て支援の在り方をどう考えるか。 家庭に足を運ぶ「アウトリーチ」的な子育て支 援が求められる。 「こんにちは赤ちゃん事業」は、 「孤立する」母 親と地域、 社会を早期につなげ得る有効な手段だ。 訪問事業を機に母親だけでなく、父親への育児面 の声掛けも大切になる。 ―地域には子育て支援拠点が整備されている。 子育て支援拠点においても、より多くの母親が 気軽に近づき、利用できるよう、敷居を低くする 工夫や環境づくりが必要だ。 育児相談やカウンセリングに当たるスタッフの 専門的な力量の向上、支援体制のより一層の充実 が求められる。 (報道部・百崎浩嗣) 【こんにちは赤ちゃん事業】 生後4カ月までの乳児がいる全家庭に、市町村が保健師や母子保健推進 員を1回派遣し、子どもの健康状態をチェックするとともに母親の育児相 談に応える取り組み。大分県内では今年7月現在で 15 市町が実施している。
■オオイタデジタルブックとは オオイタデジタルブックは、大分合同新聞社と学校法人別府 大学が、大分の文化振興の一助となることを願って立ち上げた インターネット活用プロジェクト「NAN-NAN(なんなん)」の一 環です。 NAN-NAN では、大分の文化と歴史を伝承していくうえで重要 な、さまざまな文書や資料をデジタル化して公開します。そして、 読者からの指摘・追加情報を受けながら逐次、改訂して充実発 展を図っていきたいと願っています。情報があれば、ぜひ NAN-NAN 事務局にお寄せください。 NAN-NAN では、この「未来をはぐくむ」以外にもデジタルブッ ク等をホームページで公開しています。インターネットに接続 のうえ下のボタンをクリックすると、ホームページが立ち上が ります。まずは、クリック!!! 別 府 大 学 ⓒ 大分合同新聞社 デジタル版「未来をはぐくむ~地域と歩む子育て~」 第 13 回 編集 大分合同新聞社 初出掲載媒体 大分合同新聞(2010 年 4 月 20 日~ 2011 年 2 月 12 日) 《デジタル版》 2011 年 5 月 27 日初版発行 編集 大分合同新聞社 制作 別府大学メディア教育・研究センター 地域連携部/川村研究室 発行 NAN-NAN 事務局 (〒 870-8605 大分市府内町 3-9-15 大分合同新聞社 企画調査部内) ⓒ 大分合同新聞社 ●デジタル版「未来をはぐくむ」について 「未来をはぐくむ」は、大分合同新聞社が 2010 年4月から 翌 2011 年 2 月まで、同紙夕刊に掲載した連載記事。今回、 デジタルブックとして再構成し、公開する。登場人物の年齢 をはじめ文中の記述内容は、新聞連載時のもの。 閲覧には Adobe Reader をご利用下さい。ほかの PDF ビュー アではリンクやボタン機能が使えない可能性があります。 2011 年3月4日 NAN-NAN 事務局 大分合同新聞社