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最近の石油市場の動きに関する一考察

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Academic year: 2021

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最近の石油市場の動きに関する

一考察

 前回、本誌に執筆した(「最近の石油市場の動きに関する一考察」2017. 11. Vol.51 No.6)時点から1年 が経過した。昨年の今頃までの約1年間は、原油価格の水準によって、世界の石油供給に大きな影響を 与える米国のシェールオイルを中心とする原油生産の増加と減少に関する観測が市場で強弱を繰り返し たことから、原油価格はWTIで1バレルあたり40ドル台前半~ 50ドル台前半の比較的限られた範囲内 で推移していた。しかし、それ以降の1年間原油価格は変動領域を切り上げてきている(図1)。本稿では、 この1年間(概ね2017年9月~ 2018年9月)、石油市場において、どのような要因がどのように作用し てきたか、そして今後の見通しについて市場はどのように考えているか、もしくは考えられるか、を中 心に述べることとしたい。  まず、この1年間の原油価格に影響を与えた主な要因として市場関係者から指摘される点に触れ、続 いて、原油価格変動領域を切り上げた背景について説明する。加えて、この間OPEC産油国等の原油生 産方針についても動きがあったので、これについても述べる。さらに、この1年間の特に後半部分の石 油市場に大きな影響を与えたイランをめぐる状況についても触れる。そして2019年(つまり来年)、中 期(2023年まで)、さらにはその先の長期的な石油市場等の展望につき考察を試みることとしたい。最 後に石油市場の足元の状況について補足的に筆者の見解を述べる。

じめに

20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 ドル/バレル WTI ブレント ドバイ 月 出所:各種資料を基に推定 原油価格(2016 ~ 2018 年) 図1

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 「はじめに」でも述べたように、原油価格は2016年9 月から 2017 年 9 月にかけて WTIの終値ベースで 1 バレ ルあたり概おおむね45 ~ 55ドル程度で推移していた。その後 2017年11月初頭には55ドルを、12月末には60ドルを、 さらに 2018 年 5 月上旬には 70 ドルを突破。6 月 29 日に は74.15ドルと2014年11月24日(この時点の価格は同 75.78ドル)以来の高水準に到達するなど(さらに10月に 入り価格はこの高水準を超過した。これについては最後 に触れる)、総じて上昇傾向となった。以下にこの 1 年 間の原油価格の動きとそこに作用した主な要因を概観す る。  2017年8月中旬から9月中旬にかけては、米国原油生 産およびその見通し、ハリケーン「ハービー(Harvey)」 の米国メキシコ湾岸地域来襲に伴う製油所の操業停止と 原油需給緩和懸念等が原油相場に下方圧力を加えた。そ の半面、原油やガソリン、留出油在庫の減少を示す統計 類、米国石油坑井掘削装置(以下「リグ(rig)」)稼働数の 伸び悩み、ハリケーン通過後の製油所の操業再開と原油 購入活発化観測、OPEC事務局や国際エネルギー機関 (IEA)による世界石油需要の上方修正等が原油相場に上 方圧力を加え、原油価格は WTIでそれまでの 1 バレル あたり 40 ドル台後半から 9 月 20 日には同終値で 1 バレ ルあたり50ドルを突破。9月25日には52.22ドルと4月 18日以来の高値に到達した。  ただ、それ以降は9月のOPEC産油国原油生産量増加 の報告等が相場に下方圧力を加えたことから、10 月上 旬には再び 40 ドル台後半に下落。それでも、OPEC産 油国等による減産の再延長(後述)に対する市場の期待や イラク中央政府とクルド人自治区の対立激化の懸念、米 国のトランプ大統領がイランが核合意を遵じゅんしゅ守していない と認定したこと等により、原油価格はその後反発。さら に米国原油在庫等の減少、リグ稼働数の伸び悩み、ベネ ズエラによる債務再編の意向やナイジェリアでの武装勢 力の攻撃再開の示唆等の地政学的リスク要因、さらには、 11 月 30 日に開催される予定であった OPEC総会等で 2018 年末までの減産延長が決定されることに対する期 待が市場で膨らんだこと、Keystoneパイプラインや英 領北海の Fortiesパイプラインが原油流出により操業を 停止したこと等で、相場は押し上げられ、11 月 24 日に は1バレルあたり58.95ドルに到達した。  さらに、イエメンの武装勢力がサウジアラビアのリヤ ドに向け弾道ミサイルを発射した旨発表したこと、リビ アでの原油パイプライン爆破と操業停止、イラン各地で の反体制デモの発生といった地政学的リスク要因に伴う 市場での石油供給途絶懸念の高まりや、米国原油在庫の 減少、また、北東部への寒波来襲による暖房油需要増加 観測に伴う暖房油価格の上昇、加うるに米国株式相場の 上昇、米ドルの下落等から、原油価格の上昇基調は継続 し、2018 年 1 月 26 日には WTIで 1 バレルあたり 66.14 ドルと、2014年12月4日以来の高水準の終値に到達した。 しかし、米国リグ稼働数の増加、また、同国原油生産量 見通しの上方修正、株式相場下落、米ドルの上昇等が相 場に下方圧力を加えた結果、原油価格は下落傾向となり、 2 月 10 日前後には終値で 60 ドルを割り込む場面も見ら れた。その後市場では、OPECと一部非OPEC産油国に よる減産協力関係継続の意向の顕在化と石油需給引き締 まりに対する市場の期待の増大、リビアでの油田操業の 停止等が相場に上方圧力を加えた。その半面、米国シェー ルオイルの生産増加見通し等が原油相場に下方圧力を加 えた。そのようななかで、国務長官(ティラーソン氏)解 任に伴う同国の政治・経済・外交情勢をめぐる不透明感 に加え、株式相場や米ドルの変動等の影響を受けつつ、 原油相場は 2 月中旬から 3 月中旬にかけ WTIで 1 バレル あたり 60 ドル台前半を中心とする比較的限られた範囲 で推移した。ただ、3 月下旬にはイランに対する米国の 制裁再発動の可能性をめぐる市場の懸念が増大したこと もあり、原油価格は上昇基調となり、3 月 26 日には 1バ レルあたり65.55ドルに到達した。  しかし、その後は米国の原油在庫や生産量の増加に関 する各種情報、米国の中国に対する関税賦課の方針の表 明と中国による報復関税賦課の方針の発表による、両国 間での「貿易戦争」勃発に伴う両国等の成長減速と石油 需要の伸びの鈍化に対する市場の不安感の増大が相場に 下方圧力を加え、4 月上旬から半ば頃にかけ原油価格は 下落傾向となり、4月6日には1バレルあたり62.06ドル となった。  それでも、4 月中旬にかけては、中国が貿易政策に関 し融和的な方針を表明したことで米中間の貿易戦争に対 する市場の不安感が後退。これに加え、米国がシリアに 対し軍事行動をとる旨示唆したことにより、中東情勢の 不安定化と当該地域からの石油供給途絶に対する懸念が 市場で増大した。また、米国原油在庫減少、OPECと一 部非OPEC産油国の減産延長に対する市場の期待の増大 の他、ベネズエラの石油供給減少懸念、米国のイラン核

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2017年9月~ 2018年9月の原油価格と、そこに作用した主な要因

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合意離脱に対する悲観的な見方の広がりと、実際の核合 意離脱および対イラン制裁再発動の発表に伴うイラン原 油供給減少による石油需給引き締まり観測の増大と中東 情勢が不安定化することによる石油供給途絶懸念の強ま り、米国の駐イスラエル大使館移転に伴うパレスチナ人 とイスラエル軍との衝突、ベネズエラ大統領選挙での現 職再選に伴う米国の対ベネズエラ追加制裁の発動等によ り、原油価格は押し上げられ、5 月 21 日には WTIの終 値で1バレルあたり72ドルを超過した。その後はOPEC 産油国等により実施されている減産措置の緩和に関する 情報が伝えられたこと、米国の原油生産が増加を示した こと、米ドルが上昇したこと、および主要7カ国(G7)財 務相・中央銀行総裁会議で貿易政策に関し米国と他の諸 国との対立が鮮明になったことで世界経済と石油需要に 関する懸念が市場で広がったこと等により、原油価格は 6月初頭には再び1バレルあたり65ドル近辺に下落した。 そして6月下旬にかけては、米国の中国に対する追加関 税賦課の方針表明が原油相場に下方圧力を加えた一方 で、リビアの石油ターミナルの操業停止や米国原油在庫 の減少が逆に上方圧力を加えるなか、OPEC総会および OPECと一部非 OPEC産油国による閣僚級会合を控え、 増産が決定されるかどうか、決定すればどの程度の規模 になるか、などに関する観測で、相場は1バレルあたり 60ドル台後半の比較的限られた範囲内で推移した。  こうしたなか、6 月 22 ~ 23 日に開催された OPEC総 会等では具体的な増産(減産緩和)の数値設定で合意でき ず、予想される増産規模が当初見込みよりも小さくなる との観測が市場で発生したこと、その後米国がイラン原 油輸入国に対して輸入の完全停止を要求している旨明ら かになったことに加え、カナダのオイルサンド改質装置 の停止、リビア情勢の複雑化、米国原油在庫減少等によ り、原油価格は、この総会以降上昇傾向となった。実際、 6月29日にはWTIの終値で1バレルあたり74.15ドルに 到達する場面も見られた。それでも、その後、7月13日 にトランプ政権が500万~ 3,000万バレル程度、または それ以上の戦略石油備蓄(SPR)放出を検討している旨報 じられたこと、中国国内総生産(GDP)の鈍化、サウジ アラビアによる原油供給拡大に関する情報等から、価格 は7月中旬には1バレルあたり70ドルを割り込んだ。さ らに、中国の経済成長減速、米国と中国やトルコとの関 税賦課合戦、ロシア原油生産増加の情報、米国原油在庫 の増加等が相場に下方圧力を加えたことから、8 月中旬 にかけ価格は1バレルあたり65ドル台へと下落している。  それでも、9 月中旬にかけては、米国原油在庫とリグ 稼働数の減少、熱帯性低気圧「ゴードン(Gordon)」の米 国メキシコ湾地域来襲の予報と石油産業への影響に対す る市場の不安感の増大、イランからの原油輸出量減少の 情報、米ドルの下落等が上方圧力を加えたため、価格は 再び上昇傾向となり、WTIは、8 月末には 70 ドルを突 破した。ただ、「ゴードン」が米国メキシコ湾地域の石油 産業の中心地域を直撃しなかったこと、また、米国ガソ リン、ならびに留出油在庫が増加したこと等が原油相場 に下方圧力を加えたことから、WTIは、9月中旬にかけ 再び60ドル台後半に下落した。とはいえ、ハリケーン「フ ローレンス(Florence)」が米国南東部に向かったことで、 避難住民によるガソリン需要増加観測や石油製品輸送イ ンフラへの影響に対する市場の懸念の増大、それに米国 原油生産見通しの下方修正等もあり、9 月中旬以降には 再び概ね70ドルを超過する水準で推移している(後述)。  原油価格に影響を与えた個々の主な要因は以上見たと おりであるが、原油価格が変動領域を切り上げた背景に は何があるのか。  きっかけの一つは、2017 年 8 月に米国メキシコ湾岸 地域に来襲したハリケーン「ハービー」である。「ハー ビー」は米国メキシコ湾沖合の油田関連施設よりも湾岸 地域の製油所により大きな被害をもたらした。一時は同 国の原油精製処理能力日量約 1,860 万バレル中 300 万バ レル超が操業を停止した。この結果、米国では石油製品 生産に相当程度の影響が出た。しばらくして被害を受け た製油所の操業は徐々に回復し始めたものの、ほぼ同時 期に欧米およびアジア諸国では秋場の製油所のメンテナ ンス作業時期に入った。このため、ハリケーン来襲時に 続き、石油製品生産が低迷し、特に冬場の暖房用石油製 品を十分に生産できず、当該製品在庫を積み上げること ができないまま冬場の暖房シーズンに伴う暖房用石油製 品需要期に突入した。しかも、欧米やアジア諸国の一部 では、2017 ~ 2018 年の冬季はしばしば気温が平年を

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2017年9月~ 2018年9月の原油価格変動の背景にある動き

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割り込んだことから、暖房用石油製品需要が盛り上がる ことになった。これにより、同製品価格が上昇するとと もに、原油価格がそれに引きずられて上昇するという構 図となった。  また、石油需要増加に対する市場の期待感が煽あおられた ことで、原油価格にそれが反映される、といった側面も あった。トランプ政権は 2017 年 9 月 27 日に減税措置の 実施方針を発表したが、これが経済成長加速に対する期 待感を生み同国の株式相場が上昇。それに伴い石油需要 が増加するとの観測が市場で発生し、相場に上方圧力を 加える場面も見られた。  さらに、OPECと一部非OPEC産油国による原油生産 削減措置も相場の押し上げに関わっている。OPEC・一 部非 OPEC産油国は 2016 年 11 月 30 日および 12 月 10 日に通常総会、閣僚級会合をそれぞれ開催し、2017 年 1月よりOPEC産油国11カ国(当時)で日量116万4,000 バレルの減産、非OPEC産油国12カ国(当時)で同55万 8,000 バレルの減産を、それぞれ決定した。当初 6 カ月 間の実施予定であった減産措置はしばしば延長され、本 稿執筆時点でもなお実施中である(なお、2016年12月 10 日時点では非 OPECであった産油国の一部が、その 後 OPECに加盟していることから、OPEC産油国、非 OPEC産油国それぞれの減産参加国数および合計減産目 標数値は変動している)。  かつてOPEC産油国は、減産目標を設定しても概して その遵守率は高くなく、また以前ロシアもOPEC産油国 の減産協力を表明したものの、後で見てみると、減産協 力を行っているようには見受けられない場面も見られる など、減産措置が全て成功裏に遂行されたとは言い難 かった。しかし、今般のOPECおよび一部非OPEC産油 国による減産では、サウジアラビアが軒並み目標を超過 するほどの減産を実施、ロシアもその目標近くまで減産 を実行した。  他方、ベネズエラは、2013年3月5日に病死したチャ ベス前大統領の後継者に指名されたマドゥロ副大統領 (当時)が2013年3月8日に暫定大統領となり、同年4月 14 日に実施された大統領選挙を経て同年 4 月 19 日に大 統領に就任した。マドゥロ大統領はチャベス前大統領の 政策を引き継ぎ、石油収入の相当部分を社会対策に使用 したことから、結果として石油産業への再投資が制限さ れ、世界最大の原油埋蔵量を保有しているにもかかわら ず、同国の原油生産は頭打ちとなった。さらに 2014 年 後半には価格が下落、同国の石油収入が大幅に減少して 同国経済が窮地に陥ったこともあり、2015 年 12 月 6 日 に開催された国会議員選挙で反マドゥロ大統領派が圧勝 し、同大統領の罷ひ免めん運動が盛り上がった。このため、大 統領は反大統領派の弾圧に乗り出したほか、2017 年 8 月4日には自身を支持する勢力で固めた制憲議会を発足 させ、同年 8 月 18 日には国会の機能を事実上の停止に 追い込んだ。これらを踏まえ、米国は同年 8 月 25 日に ベネズエラが新規に発行する債券の購入を禁止する等の 大統領令を発効させた。このため、同国経済は資金調達 面を中心にさらに困窮するとともに、原油生産量の減少 ペースが加速、2018年9月には減産量が目標の9倍程度 に達し、OPECと一部非OPEC産油国の減産遵守率を押 し上げる格好となった。  こうした事情もあり、米国での原油生産量は増加傾向 となっていたにもかかわらず、消費国の石油在庫は減少 傾向となった。OECD諸国の石油在庫は減産実施直前の 2016 年 12 月末時点では過去 5 年平均在庫水準(これが いわゆる「平年並み」在庫水準として市場では認識され る)である27億バレルを3億バレル程度上回っていたが、 2018 年 7 月末時点では過去 5 年平均を 5,000 万バレル程 度下回るなど、市場関係者の認識する余剰在庫は一掃さ れ、需給の引き締まり感が強まってきている。  さらに、2018年5月8日に米国がイラン核合意から離 脱するとともに対イラン制裁の再発動を発表したことか ら、イランから世界石油市場への原油供給が低下するこ とによる石油需給の引き締まり観測が市場で広がったこ とが、原油相場を下支えし、他の要因(カナダのオイル サンド改質装置の停止による原油供給停止、リビアでの 油田操業停止等)も加わって、相場に上方圧力を加える 場面も見られるようになったのである。   前 述 の と お り、OPECと 一 部 非 OPEC産 油 国 は、 2016 年 11 月 30 日および 12 月 10 日の会合で、2017 年 1 月 1 日から減産を実施することを決定した。OPEC産 油国による減産と言えば、従来から抜け駆けが多く遵守

3.

OPEC産油国等の動き

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状況があまりよくないといった印象を市場に与えてお り、今回も市場から懐疑的な目で見られていた面もあっ た。しかし、当初、とりあえず半年程度と言われていた 減産措置は、開始から1年9カ月(執筆時点)を経た現在 においても依然継続中である(表)。ただ、その方針につ いては変化も見られる。ここでOPEC等の減産措置実施 方針につき簡単に振り返るとともにその背景等を概観し ておく。 (1) 2017 年 11 月 30 日 開 催 の OPEC総 会 等 で OPEC・ 一 部 非 OPEC産 油 国 が 減 産 措 置 の 2018年末までの延長で合意 ①協議内容等  OPEC産油国は 2017 年 11 月 30 日にオーストリアの ウィーンで通常総会を開催し、2016 年 11 月 30 日の総 会で 2017 年 1 月 1 日から実施する旨決定し、2017 年 5 月25日の総会で当初の期限予定であった2017年6月30 日を2018年3月末まで延長する旨決定した減産につき、 (注)赤道ギニアは 2017 年 5 月 25 日までは非 OPEC 産油国として減産に参加。 出所:OPEC 月報等を基に推定 2016年10月 原油生産量 ① 基準原油 生産量 (推定) 原油生産 目標 ② 減産目標 ③ 2018年9月 原油生産量 ④ 減産量 (OPEC:④-②) (非OPEC:④-①) ⑤ 減産目標 超過量 (2018年9月) (⑤-③) 減産遵守率 (⑤÷③) (%) アルジェリア 1,091 1,089 1,039 △ 50 1,049 △ 40 10 80 アンゴラ 1,498 1,751 1,673 △ 78 1,519 △ 232 △ 154 297 エクアドル 543 548 522 △ 26 531 △ 17 9 65 赤道ギニア 140 140 128 △ 12 124 △ 16 △ 4 133 ガボン 203 202 193 △ 9 187 △ 15 △ 6 167 イラン 3,709 3,707 3,797 90 3,447 △ 260 △ 350 - イラク 4,571 4,561 4,351 △ 210 4,650 89 299 △ 42 クウェート 2,848 2,838 2,707 △ 131 2,812 △ 26 105 20 カタール 645 648 618 △ 30 616 △ 32 △ 2 107 サウジアラビア 10,566 10,544 10,058 △ 486 10,512 △ 32 454 7 UAE 3,068 3,013 2,874 △ 139 3,004 △ 9 130 6 ベネズエラ 2,072 2,067 1,972 △ 95 1,197 △ 870 △ 775 916 OPEC 減産参加国合計 30,954 31,108 29,932 △ 1,176 29,648 △ 1,460 △ 284 124 リビア 528 - 2,800 - 1,053 - - - ナイジェリア 1,615 - - 1,748 - - - OPEC 小計 33,097 - 32,732 - 32,449 - - - コンゴ 194 - - - 312 - - - OPEC 合計 33,291 - - - 32,761 - - - ロシア 11,229 - - △ 300 11,357 128 428 △ 43 メキシコ 2,103 - - △ 100 1,796 △ 307 △ 207 307 オマーン 1,012 - - △ 45 975 △ 37 8 82 アゼルバイジャン 814 - - △ 35 796 △ 18 17 51 カザフスタン 1,765 - - △ 20 1,800 35 55 △ 175 マレーシア 638 - - △ 20 675 37 57 △ 185 バーレーン 213 - - △ 10 209 △ 4 6 40 南スーダン 104 - - △ 8 143 39 47 △ 488 スーダン 76 - - △ 4 70 △ 6 △ 2 150 ブルネイ 125 - - △ 4 100 △ 25 △ 21 625 非 OPEC 合計 18,079 - - △ 546 17,921 △ 158 388 29 減 産 措 置 に 参 加 す る OPECと非OPEC合計 49,033 - - △ 1,722 47,569 △ 1,618 104 94 減 産 措 置 に 参 加 す る OPECと非OPEC合計 (イラン除く) 45,324 - - △ 1,812 44,122 △ 1,358 454 75 OPEC および一部非 OPEC 産油国原油減産状況 日量千バレル

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さらに 2018 年末まで実施期限を再延長することで合意 した(表)。これまで政情不安等により減産目標設定から 除外されていたリビア、ナイジェリアについては、 2018 年の原油生産量を、両国の 2017 年推定生産量の 合計である日量280万バレルを超過しない水準にすると の目標が設定されたと伝えられる(ただし、本件は声明 には盛り込まれていない)。さらに、OPEC総会に続き、 OPEC産油国・一部非OPEC産油国との間で閣僚級会合 も開催され、2016 年 12 月 10 日に決定した減産につき OPEC産油国と同様に再延長する(つまり、減産実施期 限を2018年末までとする)ことでも合意した。  他方、石油需給面での不透明性に鑑み、市場の状況に よっては 2018 年 6 月に減産方針の再調整を行う機会を 設けることを検討する旨決定した。また、共同閣僚監視 委 員 会(JMMC:OPEC-Non-OPEC Joint Ministerial Monitoring Committee。参加国はサウジアラビア〈議長 国〉、クウェート、アルジェリア、ベネズエラ、ロシア〈共 同議長国〉、オマーン)およびそれを補佐する役割の OPEC事務局の共同技術委員会(JTC:Joint Technical Committee)が引き続き減産状況等を監視するとともに、 必要に応じて適切な進言をすることとなった。なお、今 次OPEC総会では、アラブ首長国連邦(UAE)のマズルー イ エネルギー相が 2018 年 1 月 1 日から 1 年間 OPEC議 長を務めることも決定した。また、次回OPEC総会(通 常総会)を2018年6 月22日にオーストリアのウィーン で開催する旨決定した。 ②会合の背景等  2017年1月1日より実施されていたOPEC産油国・一 部非OPEC産油国による減産は、実際の減産量が目標を 超過するなど遵守状況は比較的良好であった。これを反 映して、例えば OECD諸国の石油在庫余剰幅は減少し つつあり、10 月末時点で OECD諸国の石油在庫余剰は 2017 年 5 月から 1 億 4,000 万バレル近く減少、余剰分は 1 億 4,000 万バレルである旨 OPEC事務局は今次総会時 点で明らかにしている。しかし、石油在庫余剰は、実際 の石油在庫量と過去5年平均石油在庫量との差となって おり、2016 年の OECD諸国石油在庫が極めて高水準で あった影響で、2017 年の過去 5 年平均石油在庫量は総 じて上振れしていた。総会開催時点でのデータに基づけ ば(以下同様)、OECD諸国の石油在庫は2016年12月末 が29億9,000万バレルであったのに対し、2017年10月 末は 29 億 5,000 万バレルと 4,000 万バレルの減少にとど まっている。しかし一方で過去 5 年平均在庫量は 2016 年末の 27 億バレルが 2017 年 10 月末には 28 億 1,000 万 バレルと 1 億 1,000 万バレル増加しており、この結果合 わせて 1 億 5,000 万バレル石油在庫余剰が縮小している と解釈される(図2)。  このように、実際の石油在庫の減少速度は比較的緩や かであるが、これは、米国の原油生産量が当初見込みよ りも堅調に増加していることに加え、当初政情不安で原 油生産量が低迷しているとされていたナイジェリアやリ ビアがその後増産していることなどが背景にあったと考 億バレル 25 26 27 28 29 30 31 32 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 過去5年幅 過去5年平均 2016~2017年 月 (注)2017 年 11 月 30 日 OPEC 総会時点でのデータに基づく。 出所:IEA データ等を基に推定 OECD 諸国石油在庫(2016 ~ 2017 年) 図2

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えられる。そして、このような状態のまま 2018 年 3 月 末で減産を終了した場合、2018 年は全ての四半期で供 給が需要を上回る状態となると見込まれた。その結果、 OECD諸国の石油在庫は第2四半期以降再び増加を始め、 2018 年末時点では 30 億バレル台後半に到達し 2017 年 1 月並みの水準にまで戻ることになる。それとともに、 石油在庫余剰(つまり過去5年平均値との差)も再び拡大、 2018 年末には 2 億バレルを超過する可能性があると見 られた(図 3)。このため、減産を 2018 年第 1 四半期で 終了した場合には世界石油需給緩和感が市場で醸成され るので、価格下落のリスクを抱えることになる。したがっ て、そうした事態を回避するために、OPEC産油国等は 2018年末まで減産を延長する旨決定したと考えられる。 この減産延長により、2018 年は世界の石油需給がほぼ 均衡することから、例えば OECD諸国石油在庫自体は 2018 年第 2 四半期以降ほとんど減少しないものの、過 去5年平均値が上昇するため、石油在庫余剰量は最大で 7,000万バレル程度縮小すると予想される。そうなれば、 石油需給引き締まり感が市場で醸成され、原油価格を下 支えしやすくなる。  ただ、他方で、価格が上昇してきたこともあって、米 国のリグ稼働数が回復する兆候を見せつつあり、シェー ルオイル増産が加速することにより、OPEC・一部非 OPEC産油国による減産効果が相殺される結果、原油価 格が下落する可能性があるとのロシアの懸念も 2017 年 11 月 29 日に伝えられた。また、ロシアは、原油価格上 昇に伴うルーブル上昇の自国経済(特に輸出産業)への悪 影響についても不安視していたと見る向きもある。これ らを踏まえ、原油価格の行き過ぎた上昇を抑制すること を目的として、減産方針の再調整を行う機会を設けるべ く検討することも決定したと推察される。  さらに、リビアやナイジェリアなど減産目標設定外の OPEC産油国が増産したことが、2017 年前半に世界的 に需給緩和感を市場にもたらし価格下落を引き起こした 一因となったと考えられた。これによって、両国合わせ せて日量280万バレルの生産量(2017年の両国推定生産 量と報じられる)を超過しないとの減産目標が設定され たと伝えられる(ちなみに2017年10月時点では、ナイジェ リアの生産量が日量 169 万バレル、リビアが同 97 万バ レル、合計同 266 万バレルとなっている)。7 月 24 日に 開催された JMMCでは、ナイジェリアの生産量が日量 180万バレルで安定すれば生産を制限することで同国が 合意した旨明らかになっていることから、この水準で合 意が得られれば、一方のリビアの生産目標は日量100万 バレル程度になる。ただ、同国には、同160万バレルの 生産を認められる権利がある(これは2011年のカダフィ 大佐追放のための住民蜂起以前の生産量にほぼ等しい) 旨 12 月 4 日に同国 OPEC理事が発言するなどしており、 総会後においても日量100万バレルの事実上の減産目標 に関して依然協議中である旨伝えられるなど、今後同国 の生産が実際に制限されるかどうかは不透明な部分も残 る格好となった。 億バレル 25 26 27 28 29 30 31 32 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 過去5年幅 過去5年平均 第1四半期減産終了 2018年末まで減産継続 月 (注)2017 年 11 月 30 日 OPEC 総会時点でのデータに基づく。 出所:IEA データ等を基に推定 OECD 諸国石油在庫シナリオ(2017 ~ 2018 年) 図3

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(2) 2018 年 6 月 22 日 開 催 の OPEC総 会 等 で OPEC産油国等が減産遵守率引き下げで合意 ①協議内容等  OPEC産油国は 2018 年 6 月 22 日にオーストリアの ウィーンで通常総会を開催し、2018 年末を期限とする 減産措置につき、同年7月1日から減産実施延長期限(同 年末)までの期間において、現状 152 %(6 月 22 日 OPEC事務局発表。なお、6 月 12 日に発表された OPEC 月報のデータに従えば、OPEC産油国の減産遵守率は 162 %となる)とされる OPEC産油国減産遵守率を 100 %に引き下げるべく努力していくことで合意した。 また翌6月23日にはOPEC・一部非OPEC産油国による 閣僚級会合が開催され、前日の総会と同様、2018 年 7 月1日から現行の減産実施期限内に、現状147 %とされ るOPEC・非OPEC産油国減産遵守率を100 %とすべく 自主的に努力していくことで合意した。また、閣僚級会 合では、JMMCが引き続き全体の遵守状況を監視し、 OPECと一部OPEC産油国閣僚級会合に報告していくこ とでも合意した。次回のOPEC総会(通常総会)は2018 年12月3日に、OPECと一部非OPEC産油国による閣僚 級会合は翌12月4日に、それぞれオーストリアのウィー ンで開催されることも併せて決定された(ただし、10月 1 日には、OPEC総会を 12 月 6 日に、OPECおよび一部 非 OPEC産油国閣僚級会合を 12 月 7 日に、それぞれ延 期する旨明らかになっている)。なお、今次 OPEC総会 ではコンゴ民主共和国がOPECに加盟することも承認さ れた(即日発効)。 ②会合の背景等  OPEC産油国による減産遵守率は、2018 年 2 ~ 4 月 は160 ~ 170%程度、5月においても152%となるなど、 高水準で推移していた。他方、減産に合意した非OPEC 産油国の遵守率は、上下に変動していたが、とりわけロ シアは2017年5月以降90 %前後かそれ以上の遵守率に 到達していると推定される。また、OPEC産油国と一部 非OPEC産油国を合計した減産遵守状況も減産目標を超 過するなど良好であった。事実、例えば OECD諸国の 石油在庫余剰幅(実際の石油在庫が過去5年平均水準を 上回る量)は、2016年12月には3億バレル程度あったが、 2018年6月にはマイナス5,000万バレル程度と推定され るなど、余剰分はほぼ一掃されているので、石油需給均 衡は達成されている形となった。しかし、サウジアラビ アは、国営石油会社Saudi Aramcoの株式公開(IPO)や 経済構造改革(Vision 2030)実施のための資金需要もあ り、4月18日には、原油価格(中東地域と相対的に市場 が近接している欧州地域の代表的原油であるブレントの 価格を想定しているものと思われる)が「1バレルあたり 80ドルを希望する。100ドルでさえあってもいい」といっ た政府関係筋の情報が伝えられるなど、原油価格上昇を 容認する姿勢が示された。また、4月17日には、さらに 可能であれば 2019 年においても減産を継続することを OPEC産油国等は6月22日の総会で検討するであろう旨、 クウェートのラシディ石油相が明らかにしているが、こ れはサウジアラビアの原油価格上昇容認姿勢と軌を一に するものであった。  他方、トランプ大統領は、4月20日、「OPECがまたやっ ているようだ。(中略)原油価格は人為的に高い!これは よくないし容認できない!」旨表明。これに対し、同日、 サウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相 は、エネルギー利用効率改善もあり現状の原油価格水準 (4月20日時点で、ブレントで1バレルあたり74.06ドル、 WTIで同68.38ドルの終値)では世界経済への影響はな いと考えている旨明らかにしている。また、同日、UAE のマズルーイ エネルギー産業相(2018年OPEC議長)も 原油価格は人為的に高いわけではない旨示唆した。ただ、 米国がイラン核合意離脱を発表した5 月8日の前日に米 国政府関係者がサウジアラビアに対し供給途絶が発生し た場合には価格を安定化させてほしい旨要請したとされ た(この内容は6月7日に報じられた)。こうした米国側か らの圧力もあり、サウジアラビアは方針を転換して減産 緩和(つまり事実上の増産)を検討し始めたと見られ、5 月25日には、関係筋から、OPEC産油国が日量最大100 万バレル増産する可能性がある旨伝えられ始めた。同時 に、同日、OPECのバルキンド事務局長が増産の検討は トランプ大統領の発言によるものであると明らかにした。  トランプ大統領がサウジアラビアをはじめとする OPEC産油国に対し増産圧力を加えたのは、米国のイラ ン核合意離脱と対イラン制裁再発動に伴い、イランから の原油供給減少による世界石油需給引き締まり懸念か ら、原油相場に上方圧力が加わったことにより、米国の ガソリン小売り価格が上昇してきたことが背景にあると 見られる。全米平均のガソリン小売り価格は3月後半以 降上昇傾向を示しており、5 月下旬には消費者心理に大 きく影響する水準とされる1ガロン(約4ℓ)あたり3ド ルを超過したことから、国民の不満の高まりと政権支持 への悪影響をトランプ大統領が危き ぐ惧したことによるもの と考えられる。  また、ロシアは、国営石油会社のみならず民間石油会 社を抱えていることが、減産遵守過程を複雑にしていた (つまり、減産しないで済むなら、それに越したことは

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ない)ことに加え、価格上昇が過熱すれば、米国のシェー ルオイル開発・生産が加速し、原油価格が乱高下して制 御が難しくなることを懸念したと見られる。また、原油 価格上昇に伴うルーブル上昇の自国経済への悪影響につ いても不安視していたと見る向きもあることは既述し た。このようなこともあり、ロシアは、サウジアラビア 等による減産措置緩和の動きに同調したものと考えられ る。ただ、同国のノバク エネルギー相は、OPEC総会、 およびOPEC・一部非OPEC産油国閣僚級会合において 2018 年第 3 四半期に日量 150 万バレルの増産を提案す る予定である旨明らかにしたと 6 月 19 日に伝えられる など、サウジアラビアとロシアの間では減産緩和規模に 関する考え方に相違がある旨示唆されていた。また、サ ウジアラビアのファリハ エネルギー産業鉱物資源相は、 重要なのは石油需給を均衡させることであり、石油市場 に対し調整し過ぎるつもりはない旨 5 月 24 日に明らか にするなど、相対的に慎重な姿勢も示していた。  ちなみに 2018 年第 3 四半期は OPEC産油国が 5 月の 生産水準を維持すれば、石油需給は概ね均衡すると見ら れていた。イランやベネズエラ等が減産に向かうといっ ても、同年第3四半期に突然日量150万バレル減少する とは考えづらかったことから、ノバク氏の発言で原油価 格は急落する場面も見られた。他方、この減産緩和措置 は、元はといえば、米国のイラン核合意離脱と対イラン 制裁再発動に伴うイランからの原油の事実上の禁輸措置 による価格上昇懸念が一因となっている。米国からの圧 力で、サウジアラビア(現在、イランと敵対関係にある) をはじめとする他のOPEC加盟国の増産によりイラン産 原油の減少を相殺する結果、イランとしては、価格が上 昇しないうえ、供給が削減されることにより原油収入の 減少が予想される半面、サウジアラビア等は価格は上昇 しないものの増産することを通じて原油収入の落ち込み をある程度相殺できることが予想された。これは、特に 生産余力のあるサウジアラビア(および同国と同盟を組 む中東湾岸産油国)を相対的に利する展開となる可能性 があると見られた。  このような背景もあり、イランはOPEC産油国等によ る増産に反対する旨、同国のアルデビリ OPEC理事が 6 月 19 日に明らかにしていた。また、マドゥロ大統領に よる反体制派弾圧に対し、2017 年 8 月 25 日に米国がベ ネズエラの新規発行債券の取引を禁止するとの制裁を発 動したベネズエラに加え、イラク、アルジェリアが減産 措置の緩和に反対していると 6 月 19 日に伝えられた。 こうしたなか、トランプ大統領は6月13日に再び「原油 価格は高過ぎる。OPECがまたやっている。よくない!」 旨表明したこともあり、ファリハ氏は Saudi Aramcoの 株式公開(当初は2018年に実施を予定)について、「2019 年に実施できればいいが、実施時期は重要ではない」旨 6月21日に明らかにした。そしてそのようななか、サウ ジアラビアは、あくまで日量100万バレルといった具体 的な増産幅を声明に盛り込むことにより、市場心理への 影響を通じ原油価格の沈静化を図ろうとしていたように 見受けられ、6月21日に開催されたJMMCでは「名目的 に」日量100万バレル増産することをOPEC総会に進言 することで合意した。この増産量は減産に参加する OPEC・一部非OPEC産油国間で比例配分方式により割 り当てられると 6 月 22 日伝えられたが、同日ファリハ 氏は減産参加国のなかには増産が不可能な国もあること から、実際の増産量は名目的数値よりも小規模なものに なる旨6月22日に明らかにしていた(この場合、増産が 可能な国はサウジアラビア、UAE、クウェート、ロシア、 オマーン〈イラクも一部増産余力がある可能性もある〉 で、日量60万バレル程度になる推定される)。  それでも、今回の JMMCに特別に出席し協議してい たイランのザンギャネ石油相は中途退席。その際周辺に いた記者に対し「OPEC総会では合意できないと思う」旨 言い残していったとされる。イランはあくまで日量100 万バレル程度の具体的な(それも相当規模の)増産数値を 声明に盛り込むことに対しては、たとえそれが名目的な ものであっても、難色を示したものと察せられる。この ようなこともあり、そもそも原油価格の沈静化を目指す サウジアラビアをはじめとするOPEC・一部非OPEC産 油国と、イランとの間で合意に至るかどうかは微妙なと ころであったが、果たして6月22日に開催されたOPEC 総会では最終的には両者間での妥協として、声明には具 体的な増産数値は盛り込まず、現在減産目標を超過して いる実際の減産量を 7 月 1 日以降既存の減産期限である 12 月 31 日まで減産目標の水準に戻すべく努力していく ことで合意したわけである。イラン側としては、減産目 標自体は従来の合意にのっとったものであることから、 これを完全に遵守することに関しては、異論はなかった ものと思われる。他方、サウジアラビア等にとっては、 現在減産目標を上回っている減産量を目標の水準にまで 戻すことで、事実上増産を確保できる。なお、ファリハ 氏はOPEC総会終了後、記者団に対し「名目上日量100 万バレルの増産で合意した」旨表明したが、これは、い わゆる報道による「見出し効果」により、市場心理への影 響を通じ原油価格沈静化を狙ったものと考えられ、実際、 総会後複数の報道機関から「OPEC総会で日量100万バ レルの増産で合意」した旨報じられている。

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 OPEC・一部非 OPEC産油国は 2017 年初から減産を 実施した。この結果、世界の原油輸入国における原油の 流れにどのような変化が生じたか。ここでは、各産油国 で生産される原油の欧米諸国とアジア主要原油輸入国 (日本、韓国、中国、インド)への流れを考察する。なお、 その期間は、OPEC等の減産の影響を測定するという目 的とデータの利用可能性に鑑み、原則 2017 年 1 月~ 2018 年 3 月(アジア主要原油輸入国)、2017 年 1 月~ 2018年6月(米国)、2017年1月~ 2018年6月(欧州)と する。  米国ではOPEC・一部非OPEC産油国による減産開始 後暫くは原油輸入の影響が判然としなかった(図4)。例 えば 2017 年 4 月のサウジアラビアからの原油輸入量は 日量 115 万バレルと 2016 年 12 月に比べ同 14 万バレル の増加となっている。また、米国のOPEC産油国全体か らの原油輸入量も同様であった。しかし、その後は米国 のサウジアラビアからの原油輸入量は減少傾向となり、 7 月以降は、それまでの日量 100 万バレル超の輸入量が 同 60 万~ 90 万バレル程度へと大幅に減少した。また、 サウジアラビアのみならず、クウェートとベネズエラか らの輸入量も減少傾向を示している。例えばベネズエラ からは2016年12月時点では日量72万バレルであったが、 2018 年 2 月は同 41 万バレルへと減少した(これにはベ ネズエラの国内事情もある)。それに伴い OPEC産油国 全体からの輸入量も、それまでの日量300万バレル超だっ た水準がしばしば同200万バレル台半ばから後半程度の 水準へと低下する場面が見られた。他方、米国のカナダ やメキシコ(同国はOPEC産油国の減産に協力する産油 国のうちの一つである)等非OPEC産油国については明 確な減少傾向は認められない。それでも結果としては、 サウジアラビアをはじめとするOPEC産油国からの輸入 量減少の影響を受け、米国の輸入量は減少に向かった。  欧州 OECD諸国のサウジアラビアからの輸入量も米 国同様減少傾向となった(図5)。例えば2017年12月の 輸入量は日量 54 万バレルと 2016 年 12 月の同 93 万バレ ルから同39万バレル減少した。  また、欧州OECD諸国のアルジェリア、アンゴラ、赤 道ギニア、クウェート、ガボンおよびベネズエラからの 輸入量も多少なりとも減少している。ただ、イラクから の輸入量には明確な減少傾向は認められない。UAEやカ タールからの輸入は全くないか、あっても限定的である。 他方、一部のOPEC産油国は欧州OECD諸国への原油輸 出を増加させている。例えば、ナイジェリアやリビアが それに当たる。ナイジェリアの2018年4月の輸出量は日 量 91 万バレルと2016 年12 月比で同 45 万バレルの、リ ビアの2017年9月の輸出量は同82万バレルと同49万バ レルの、それぞれ増加となっている。非OPEC産油国を 見ると、2018年6月の欧州OECD諸国のロシアからの輸

4.

OPEC産油国等の減産と原油の流れ

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 4,000 4,500 5,000 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 サウジアラビア クウェート イラク ナイジェリア アンゴラ ベネズエラ エクアドル ブラジル コロンビア その他 日量千バレル 月 出所:米国エネルギー省データを基に作成 米国原油輸入(カナダおよびメキシコを除く)(2016 ~ 2018 年) 図4

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入量は日量301万バレルと2016年12月(同331万バレル) から減少している。ただ、アゼルバイジャンやカザフス タンからの輸入については明確な傾向は示されていない。 全体として、2018年6月の欧州OECD諸国の域外からの 輸入量は日量 934 万バレルと2016 年12月比で同4 万バ レル減少しているが、これはサウジアラビア等の減産を リビアやナイジェリアの増産で相殺しているためだと言 えよう。  主要アジア消費国(中国、インド、日本、韓国)におい ては、原油輸入に関する傾向が曖昧である(図6)。まず、 これら諸国のサウジアラビア、クウェート、イラクなど 主要OPEC産油国からの輸入量に関しては、明確な減少 傾向は認められない。また UAEに関しては、中国、イ ンドと韓国では若干ながら減少傾向を示しているように 見受けられるものの、日本ではその傾向ははっきりしな い。他方、日本や韓国ではベネズエラからの輸入はほと んどない一方で、中国やインドはベネズエラから輸入し ているが、これは減少傾向を示していないか、あっても 限定的な規模である(中国は融資の返済を原油で行う契 約を有するほか、インドではRelianceがベネズエラ国営 石油会社 PDVSAから日量 30 万~ 40 万バレルの重質原 油を15年間にわたり供給を受ける契約を2012年9月25 日に締結しているなど、両国はベネズエラから事実上長 期にわたる原油調達体制を構築していることが背景にあ ると考えられる)。また、ナイジェリアに関しては、中国、 日本、韓国はほとんど輸入していないが、インドは、そ れなりの輸入があり、その規模は概ね一定の範囲内に収 まっている。  さらに、非OPEC産油国を見ると、ロシアに関しては、 インド、日本、韓国ともに明確な減少傾向は見られない。 一方、中国のロシアからの原油輸入は増加傾向にある。 他方、インドでは、オマーンからの輸入が、また、韓国 ではカザフスタンからの輸入量が増加している。そして、 中国、日本、韓国は最近では米国からの輸入を活発化さ せていたが、中国は米国との貿易戦争の影響で、米国か らの輸入を絞り込む動きが出ていると伝えられる。  以上、今回のOPEC産油国の減産は、地域的に見れば、 欧米諸国、特に米国に対し相対的に大規模に実施されて いるように見受けられる。また、ロシアの原油供給の削 減は対アジア諸国というよりは欧州に向けて実施されて いるようである。サウジアラビア等のペルシャ湾岸産油 国にとっては、欧米諸国、特に米国では国内原油生産の みならず、カナダ、中南米、アフリカ等の産油国からの 輸入といった、原油調達面での競合が相対的に厳しいこ とから、原油販売価格に下方圧力が加わりやすく、アジ ア向け原油販売価格に比べて割安になりやすい(図7)。 一方で、競争相手の少ないアジア諸国にはそのような下 方圧力が加わりにくいことから、相対的に収入獲得が難 しい欧米(特に米国)市場向けの原油販売を絞り込む一 方で、収入が得られやすいアジア市場での原油販売を 維持したものと考えられる。 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 ロシア サウジアラビア イラン リビア ナイジェリア イラク メキシコ アルジェリア アンゴラ クウェート ベネズエラ ブラジル アゼルバイジャン カザフスタン エジプト 米国 その他域外 日量千バレル 月 出所:各種資料を基に推定 欧州の域外からの原油輸入(2016 ~ 2018 年) 図5

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 現在世界石油市場において、市場から最も注目される 要素の一つとして挙げられるのが米国のイラン核合意離 脱をめぐる情勢である。ここでは、それが石油市場にも たらす影響につき、核合意の歴史的背景とともに考察す る。  第二次大戦後の世界列強間での核軍備に対する脅威が 増大するなか、1953年12月8日、米国のアイゼンハワー 大統領が「平和のための原子力」に関する演説を通じ、事 実上の国際原子力機関(IAEA)の設立を提案したこと で、IAEAが 1957 年 7 月 29 日に設立された。続いて 1968 年 7 月 1 日には核兵器不拡散条約(NPT:Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)に62カ国

5.

イランをめぐる情勢

0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 サウジアラビア クウェート UAE イラク イラン カタール ベネズエラ ナイジェリア アンゴラ ロシア オマーン 米国 メキシコ ブラジル その他 日量千バレル 月 ※中国、インド、日本、韓国 出所:各種資料を基に推定 主要アジア消費国※の原油輸入(2016 ~ 2018 年) 図6 -10 -5 0 5 10 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 ドル/バレル 欧州-アジア 米国-アジア 月 出所:各種資料を基に推定 アラビアン・ライト販売価格の地域差(2016 ~ 2018 年) 図7

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が調印、1970 年 3 月 5 日に発効した。これにより 1967 年 1 月 1 日以前に核兵器等の核爆発装置を製造しかつ爆 発させた、米国、ロシア、英国、フランス、中国の 5カ 国の「核兵器国」以外の国においては、原子力の平和利用 と軍事技術への転用を防止するために、IAEAが査察等 を実施することに加え、原子力が平和利用に限定されて いるという認定を獲得するためのIAEAによる手続きを 受け入れる義務を負うこととなった。  イランは 1958 年 5 月 16 日に IAEAに加盟、1968 年 7 月1日にNPTに署名(1970年2月11日批准)、1974年5 月 15 日には IAEAと査察等受け入れのための包括的保 障 措 置 協 定(CSA : Comprehensive Safeguards Agreement)を締結した。そして、同国は1975年5月1 日に同国南西部にあるブシェールで原子力発電所の建設 を開始した。しかし、1979年2月にイスラム革命が発生。 同年 4 月 1 日にイラン・イスラム共和国が建国され、宗 教指導者、ホメイニ師が最高指導者に就任した。その際、 原子力発電を反イスラム的なものであると判断したホメ イニ師の指示によりブシェール原子力発電所建設と同国 の核開発活動は中断された上、1984 年 3 月 24 日には当 時のイラン・イラク戦争(1980年9月22日~ 1988年8 月20日)の相手国であったイラクが同発電所を爆撃した。 なお、ホメイニ師死去(1989年6月3日)後の1995年1 月8日にイランはロシアとブシェール原子力発電所建設 のための協定に調印、同発電所は 2011 年 9 月 4 日に稼 働を開始している。  他方、1987年10月26日には米国のレーガン大統領(当 時)が、イランがペルシャ湾において米国や湾岸諸国の 船舶に対し攻撃を加えていること等を受け、イランから の原油の全面輸入禁止を含む制裁の実施を発表してい る。1990年8月2日のイラクのクウェート侵攻とそれに 伴う湾岸戦争(1991年1月17日~ 2月28日)の際、ブッ シュ(父)政権(当時)下の米国は1991年7 ~ 11月に限 定量ながらイランから原油を輸入した(湾岸戦争拡大に よる石油供給不足の可能性に備えたものであったとされ る)ものの、基本的には今日までイランからの原油輸入 はほとんどなされていない。また、2002 年 8 月 14 日に はイランの反体制派である国民抵抗評議会(NRC: National Resistance Council)が、イラン政府はIAEAに 申請することなく2カ所の核施設を建設している旨明ら かにした。2003 年 2 月 21 日からは IAEAがイラン中部 ナタンツにある原子力関連施設で査察を実施したが、ウ ランを濃縮するための複数の遠心分離機が発見された旨 明らかになったと 2 月 22 日に報じられた他、同年 8 月 26 日には IAEAが採取したサンプルから高濃度の濃縮 ウランが検出された旨判明した。このため、同国が核兵 器開発に必要なウラン濃縮活動を実施していたのではな いかとの疑惑が広がったことを受け、11 月 10 日にはイ ランは国際的な信頼性を取り戻すために同日ウラン濃縮 活動を停止する旨表明した。  しかし、2006年2月6日には一転してアフマディネジャ ド政権(当時)下でイランはウラン濃縮活動を再開する旨 表明。同年 2 月 13 日には同国中部にあるナタンツの核 関連施設でウラン濃縮活動を開始した旨明らかになっ た。さらに 2009 年 9 月 25 日には、イランが IAEAに対 し未申告でウラン濃縮施設を新たに建設している旨明ら かにした他、2010年2月7日にはアフマディネジャド大 統領が、20 %の濃縮ウラン製造作業を開始するよう指 示した。このような一連のイランのウラン濃縮活動の動 きに対し、国連安全保障理事会は、2006 年 12 月 23 日 にイランのウラン濃縮活動停止を求め、ウラン濃縮活動 関連物資や技術の輸出禁止、活動に関与する個人や団体 の金融資産凍結といった制裁決議を採択した。制裁は、 2007 年 3 月 24 日には、イランからの武器輸出の禁止お よび個人と団体の金融資産凍結拡大、2008年3月3日に は、核およびミサイル開発に関与するイラン政府機関幹 部や技術者の渡航禁止、2010年6月9日には、イランに よる核弾頭が搭載可能な弾道ミサイル発射等の禁止、イ ランへの戦車を含む大型兵器の売り渡し禁止、さらにイ ランの個人および団体の金融資産凍結範囲のさらなる拡 大、へと強化された。イランはこれらの制裁決議に反発 しつつ、自国のウラン濃縮活動を進めていった。  そして、2011 年 11 月 8 日には、IAEAが、イランの ウラン濃縮等の核開発活動に軍事的利用の意図が見られ るとする報告書をまとめたことで、ウラン濃縮問題に伴 う西側諸国との対立が一層激化。2011 年 12 月 31 日に は米国のオバマ大統領(当時)がイランに対し新たな制裁 (2012会計年度国防授権法)に署名、EUも2012年1月 23 日に開催された外相理事会で対イラン制裁の実施を 決定した。これに対しイランの国会議員であるコーサリ 氏が、原油輸出が不可能となるのであればホルムズ海峡 を封鎖する旨表明したと2012年1月24日に報じられる。 米国の制裁は、180日以内(2012年6月28日が期限)に イランから「相当程度」の原油引き取りの削減を実施しな ければ、イランと原油取引を行う諸国を本拠地とする金 融機関に対し米国での新規口座開設を禁止したり、既存 口座に制限を課したりする、といった内容のものであっ た。そしてこの「相当程度」については、具体的な数値は 明示されておらず、これは大統領の意向次第といったと ころであった。そして、イランからの原油輸入を 20 %

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削減したトルコや、原油輸入を 20 %削減する方針を示 したインドが、米国からの制裁を免除されたこともあり、 後日「相当程度」の削減は少なくとも「20%程度」の削減 と解釈されるようになった。他方、EUによる制裁はイ ランからの原油購入につき新規契約は即時禁止、既存契 約も2012年7月1日には禁止するといった内容であった。 これらを背景に、まず EU諸国によるイランからの原油 輸入は2012年中頃までには皆無となった(図8)。  EU諸国以外の国もどの程度イラン産原油輸入を削減 すれば、米国からの制裁を免れるのかにつき、半ば手探 りの状態となったこともあり、2012 年中頃には 20 ~ 100 %の削減となった。イラン産原油輸入国による当該 輸入は月によって変動がある一方で、欧米諸国による制 裁によりイランの原油輸出は 2011 年の日量 254 万バレ ルが2012年には同210万バレル、2013年には同122万 バレルと大幅に減少した。それに従って、同国の原油生 産量は 2011 年の日量 362 万バレルが 2012 年後半には 同 270 万~ 280 万バレル程度、2013 年前半には同 270 万バレル弱へと減少した(図9)。また、この過程でイラ ンの姿勢が硬化、対抗措置として原油を武器として使用 0 50 100 150 200 250 300 7 8 9 10 11 12 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 日量万バレル インド 中国 日本 韓国 ドイツ フランス ギリシャ イタリア オランダ スペイン トルコ その他OECD 月 出所:IEA 他各種資料を基に推定 主要国のイランからの原油輸入量(2011 ~ 2012 年) 図8 240 260 280 300 320 340 360 380 400 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 日量万バレル 年 出所:IEA データを基に作成 イラン原油生産量(2011 ~ 2018 年) 図9

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することも否定しない旨イラン政府関係者が発言したこ ともあり、イランが面するホルムズ海峡(2011年で日量 1,700 万バレル、2016 年で同 1,850 万バレルと世界需要 の約2割の石油が通行するとされる)が封鎖され、中東 湾岸諸国の石油輸出や余剰原油生産能力の利用可能性が 大きな影響を受けるのではないか、との懸念が市場で増 大したことにより、2012年3月1日にはブレント原油で 1バレルあたり128.40ドルに到達する場面も見られた。  しかし、実際にはホルムズ海峡が封鎖されたことはな く、また、イランと西側諸国等とのウラン濃縮活動をめ ぐる交渉は一進一退の状況で、大きな進展が見られない 代わりに西側諸国による軍事介入などの事態も差し迫ら ないなど、状況は大きく悪化するというわけでもなかっ た。むしろ 2013 年 8 月 3 日に保守穏健派であるロウハ ニ師が大統領に就任、強硬だったアフマディネジャド前 大統領と異なり、西側諸国等に対し対話路線を推進した 結果、2015年7月14日にはイランと西側諸国等6カ国(米、 英、仏、露、中、独)との間でイランの核開発制限とイ ランに対する制裁の解除について合意。そして実際イラ ンが核開発制限を実施している旨確認した後、2016 年 1月16日に欧米諸国等はイランに対する制裁を解除した。  2017年1月20日に就任した米国のトランプ大統領は、 イラン核合意に関し、①イランの核開発制限には期間が 設けられている(ウラン濃縮のために稼働する遠心分離 機を10年間にわたり5,060基に制限〈合意前は約1万9,000 基〉、濃縮ウランは15年間にわたり3.67%以下の濃度の ものを 300 ㎏の保有に制限等)、②弾道ミサイル開発が 制限されてない、といった核合意上の欠陥を指摘した他、 ③イランが中東諸国への関与を強めつつあること、等を 懸念。これらのいわゆる欠陥が修正されなければ核合意 から離脱する意向である旨2018年1月12日に表明した。 その後も欠陥が修正されたとは判断されなかったと見ら れ、同年 5 月 8 日には核合意から離脱するとともに、イ ランに対し制裁を再発動する旨表明した。今回は 2012 年時のように欧州ではイランからの原油輸入制限に関す る制裁は発動されていない。しかし、米国で発動される 制裁内容は 2011 年末にオバマ前大統領によって発動さ れたものと同様である。すなわち 180 日以内(2018 年 11月4日が期限)に、イランから「相当程度」の原油引き 取りの削減を実施しなければ、イランと原油取引を行う 諸国を本拠地とする金融機関に対し米国での新規口座開 設を禁止したり、既存口座に対する制限を課したりする、 といった内容で、これは、あらゆる国に適用され得るも のである。そして、今回も制裁免除を受けるには「相当 程度」の原油取引の削減が必要とされる。トランプ大統 領は「最大規模の経済制裁」を課する旨表明していること から、今回の「相当規模」は2011年末の制裁時に適用さ れたとされる「20%」以上になるのではないかと予想さ れたが、2018 年 6 月 26 日には米国はイランの原油輸入 国に対し輸入を完全に停止させる方針である旨明らかに した。  一方、米国によるイラン核合意離脱により、離脱決定 日(2018年5月8日)以前に締結した、イランと西側諸国 等の企業間の契約等において、2018年8月6日あるいは 11月4日の猶予期限(対象となる物品もしくは役務等の 内容による)以降に実施した、西側諸国等企業によるイ ランの相手側当事者に対する物品や役務の供与、または 融資もしくは信用の供与については、米国財務省外国資 産管理局(OFAC:Office of Foreign Asset Control)によ る除外の承認がなされなければ、米国における金融取引 や資産の凍結等の制裁の対象となる可能性があり、当該 制裁を免除するかどうかについては、個々の事例(ケー ス・バイ・ケース)によって判断する旨、米国財務省は 明らかにしている。  また、財務省は、2018年5月8日以降制裁猶予期限で ある2018年8月6日、または2018年11月4日までにイ ランで新規の事業等を開始することは可能であるが、 OFACは制裁を実施する際には、猶予期間中のイラン に関する活動の終了への努力と、イランとの間で新規事 業等を実施したかどうかを、考慮することになる(つま り、イランに対し猶予期間中に新規に事業を開始した企 業に対してはそれだけ制裁の程度が重くなる可能性があ ることを示唆する)としている。  イランの最高指導者ハメネイ師は、5月23日に、イラ ンで生産される原油の輸出とイランとの貿易にかかる代 金の銀行での決済を確保すること、イランの弾道ミサイ ル開発と中東地域への関与を認めること等を欧州側に求 め、これに欧州側が対処できない場合には、ウラン濃縮 活動を再開する旨明らかにしていた。ただ、これより前 の 5 月 21 日には、米国のポンペオ国務長官にイランに 対する新戦略を発表。このなかでイランに対し米国の要 求(※参照)を突き付けた。これはトランプ大統領がイラ ン核合意の欠陥として主張した項目(前述)をより具体化 したものであり、従来の路線を強化こそすれ後退してい るわけではなく、イランがそのような戦略を受け入れな ければ(そして、前述のように5月23日にハメネイ師が 表明した核合意維持のための条件を考慮すると、イラン としては、ポンペオ長官の要求は受け入れられないこと が示唆される)、制裁が一層厳しくなる旨同長官は示唆 したのである。

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※ポンペオ国務長官による対イラン新戦略におけるイランに 対する要求(仮訳) ①イランはIAEAに対し核プログラムにつきこれまでの軍事 的側面の全てを宣明し、永久に、そして立証できる方法で そのような作業を廃止しなければならない。 ②イランはウラン濃縮を停止しプルトニウムの再処理を決し て追求しない。これには重水炉の閉鎖を含む。 ③イランはIAEAに対しイラン全土と全ての場への無条件の アクセスを提供しなければならない。 ④イランは弾道ミサイルの増設を終了し、さらなる核搭載可 能なミサイル施設の稼働もしくは開発を停止しなければな らない。 ⑤イランは、偽りの罪で拘留されている米国市民、もしくは その友好国または同盟国の市民を解放しなければならな い。 ⑥イランは、レバノンのヒズボラ、ハマス、そしてパレスチ ナのイスラム聖戦機構を含む中東のテロリスト集団への支 援を終了しなければならない。 ⑦イランはイラク政府の主権を尊重し、シーア派武装勢力の 非武装化、動員解除、再構築を実施できるようにしなけれ ばならない。 ⑧イランはフーシ派武装勢力に対する軍事的支援を終了さ せ、イエメンの平和裏による政治的解決に向け行動を取ら なければならない。 ⑨イランはシリア全土からイラン指導下にある全ての部隊を 撤収させなければならない。 ⑩イランはアフガニスタンおよびその周辺地域のタリバンと 他のテロリストへの支持をやめアルカイダの上級幹部を匿かくま うことを停止しなければならない。 ⑪イランは同国革命防衛隊コッズ部隊の世界中のテロリスト や軍事的提携先への支援を終了させなければならない。 ⑫イランは、その多くが米国の同盟である近隣諸国に対する 脅迫行為を終了させなければならない。これはイスラエル 破壊への脅威、サウジアラビアや UAEへのミサイル発射 を明らかに含む。また、国際海上輸送への脅威と破壊的な サイバー攻撃を含む。  欧州企業等のなかには米国から制裁対象となり米国で の事業遂行上の制約を受ける可能性を排除すべく、イラ ンでの事業からの撤退を検討する動きも見られた。これ に対し、イランは米国からの制裁を課されることにより 同国経済が影響を受ける上に、ウラン濃縮を制限される 状況に価値を見出せない、ということになれば、イラン も核合意から離脱するとともに、無制限のウラン濃縮活 動を再開すると警告している(また、従来どおり弾道ミ サイル開発と中東諸国等への関与は継続すると見られ る)。こうなった場合には米国も報復措置を示唆、もし くは実際に措置を講じ、それに対してイランはホルムズ 海峡封鎖等石油を武器として使用する可能性も排除しな い旨表明している(10月1日にはイラン外務省のアラグ チ次官が、ホルムズ海峡封鎖の警告は空手形ではない旨 発言したと報じられる)他、イスラエル対イラン(イスラ エル領であるゴラン高原とシリアのイラン革命防衛隊の 拠点に対しての両国軍のミサイル発射)、サウジアラビ ア対イラン(イエメンでのハディ暫定大統領を支援する サウジアラビアが主導する有志連合軍とハディ暫定大統 領と対立するフーシ派武装勢力〈イランが支援している とされるが、イランは公式には支援を否定している〉と の間での有志連合軍によるフーシ派武装勢力への空爆お よびフーシ派武装勢力によるサウジアラビアのリヤドや 南西部のジーザーン等に向けたミサイル発射、もしくは フーシ派武装勢力による紅海等海上のサウジアラビア船 籍タンカー等への攻撃)といった対立が激化することに 伴い、中東地域の不安定化とともに当該地域からの石油 供給途絶懸念が市場で高まる可能性が排除できない状態 となっている。  それは例えば、イエメンから発射したミサイルがサウ ジアラビアの油田地帯もしくは原油出荷関連施設に飛来 する、もしくはイランまたはイスラエルがさらにミサイ ルの標的範囲を拡大するとともに、そのミサイルが両国 の間に位置するトルコ、イラク、クウェート、サウジア ラビア等の油田、原油パイプライン、製油所や港湾等の 石油関連施設に飛来する可能性に対する市場の不安感が 増大することを含む。このような石油供給途絶懸念が強 まると原油を速やかに、かつ潤沢に確保しておこうとす る心理が市場で強まることから、原油相場に上方圧力が 加わるといった展開も否定できない。

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 2019 年の世界石油需給は、どのようになると市場で は考えられているのか。  IEAは 2018 年 6 月 13 日に、OPECは 7 月 11 日に、そ れぞれ初めて 2019 年の世界石油需給見通しの詳細を発 表した。ここでは、既に 1 月 9 日に 2019 年見通しの詳 細を発表している EIAを含め 2019 年の世界 石油需要および供給見通し等の特徴などにつ き述べる(なお、データは原則、IEAが2018 年 10 月 12 日、EIAが 10 月 10 日、OPECが 10 月 11 日に、それぞれ発表したものに基づ くものとする)。  まず、需要面について。2019 年の世界石 油需要は、前年比で日量 136 万~ 149 万バ レル程度の増加を見込む(IEAが同136万バ レル〈前年比1.4%〉、EIAも同149万バレル〈同 1.5%〉、OPECが同136万バレル〈同1.4%〉)の、 それぞれ増加)(図 10)。世界的に堅調な経 済成長とともに、石油化学産業の発展等が石 油需要の成長を下支えすると見られている。 また、世界石油需要の伸びの中心は非OECD 諸国である(図11、図12)。OECD諸国で の石油需要の伸びの中心は米国であり、ガソ リ ン、 ジ ェ ッ ト 燃 料 と NGL(Natural Gas Liquids:天然ガス液)の需要が伸びるが、増 加規模は限定されると認識されている。NGL 需要の増加の大部分は石油化学部門でのエタ ン利用の増加である。米国では新規のエチレ ン生産プラントを建設中で 2018 年後半から 2019 年 に か け 稼 働 を 開 始 す る こ と か ら、 2019 年には当該需要が拡大すると考えられ ている。また、個人可処分所得の増加と雇用 水準の上昇で、2019 年は自動車運転距離数 が適度に拡大する(ガソリン需要増加と解釈 できる)と予想されている。さらに、可処分 所得の増加に伴う航空旅行の機会増大が ジェット燃料消費の拡大に貢献するとの見方 もある。  中国の石油需要増加はガソリンとジェット 燃料が主導すると見られている。また中国の 石油化学部門での消費の増加も予想されてい るが、これは稼働する石油化学プラント数が 増加することによりプロパン需要が拡大する ことによる。インドでは金融財政政策の変更に伴う経済 混乱(2016 年 11 月 8 日に発表された紙幣交換を実施す る際の新紙幣供給不足)もあり、2017年は経済成長と石 油需要の伸びが抑制されたが、その影響がなくなる 2018 と 2019 年は経済が回復することもあり石油需要

6.

2019年の世界石油市場に対する関係者の見方等

80 100 120 140

IEA EIA OPEC

日量万バレル 2017 2018 2019 出所:各機関資料を基に作成 各機関の非 OECD 諸国石油需要増加見通し(前年比) 図12 0 20 40 60

IEA EIA OPEC

日量万バレル 2017 2018 2019 出所:各機関資料を基に作成 各機関の OECD 諸国石油需要増加見通し(前年比) 図11 80 100 120 140 160 180

IEA EIA OPEC

日量万バレル

2017 2018 2019 出所:各機関資料を基に作成

各機関の世界石油需要増加見通し(前年比)

参照

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