菅
家
太
建 築 設 計
事
務
所
これからの
すまい
「居心地の佳いすまい」 を設計し、
持続可能な家づくりを考え、 実践する。
菅家太建築設計事務所 https://kanketadashi.com 東京∞北海道 この冊子は、 これまでの家づくりをとおして感じた疑問や問題を見つめ直し、 これからの家づくりをどのように考えていったらよいかをテーマに、 菅家太建築設計事務所が不定期に刊行する冊子です。 表紙:小樽港防波堤築港工事で製作されたモルタルブリケット(供試体)。 6 万個を超えるブリケットが製作され、約 100 年間にわたり追跡調査が続けられた。 これからのすまい vol.6 2021 年 1 月発行 Ⓒ 2021 TADASHI KANKE 写真:菅家太建築設計事務所(別途記載のあるものを除く)「コンクリートは
草花と一緒なんです。
・・・だから、
絶対に乾燥させたら
駄目なんです。
」
打設当日のミーティングで、作業員に注意事項を伝える岩瀬文夫さん(東京都西東京市)「すまいを支える言葉」
第5回
コンクリートは、セメントの水和反応によってできる結晶が砂利や砂のすき間を埋めてくれる ことによって固まる。だから、打設から養生に至るまで、常にコンクリートを湿潤に保ち、乾 燥させないことが重要であると岩瀬さんは力説する。岩瀬 文夫
(いわせ ふみお)
総合コンクリートサービス
http://www.sc-con.com/
東京都あきる野市
この文章は『ひび割れのないコンクリートのつくり方 実践編』(岩瀬 文夫・岩瀬泰己著 / 日経BP社)の巻頭に記された文章を、岩瀬泰己 さんの了解のもと、タイトル(原題は「本書の狙い」)のみ変更してそ のまま引用させていただきました。
原点に立ち返る
まだ私がコンクリート業界に入る前、 昭和 40 年以前には、 建設途中のコンクリート構造物にひび割れが生じた場合、 工事 のやり直しを迫られることも少なからずあったようです。 恐らく は、 ひび割れを重大な瑕疵と見なしていたためではないでしょ うか。 私がお世話になったある建設会社の社長 (旧南満州鉄 道の土木技師) は、 自社が施工した土木構造物が建設省 (現 在の国土交通省) の検査に合格していながら、 「打ち上がり状 態が不満だ」 として取り壊させたという逸話の持ち主でした。 コ ンクリート構造物をひとつの作品としてとらえ、 その出来栄えは 会社の信用にかかわる大切なものと考えていたようです。 一方、 近年はどうでしょう。 ひび割れが生じた場合も、 補修 をすればそれで済むと安易に考えることもあるようです。 作業 が丁寧に行われず、 施工が不十分であったために生じたひび 割れも、 しばしば 「コンクリートはひび割れるもの」 の一言で 済まされ、 丁寧さに欠けるつくり方が改善されずにいることは残 念なことです。 現在は配合上の強度が躯体コンクリートの品質を決めるもの と考えられているようです。 しかしコンクリートの品質は施工次 第で大きく異なるものになります。 コンクリートの耐久性能の目 安となるのは、 強度というよりむしろ密度です。 本書ではひび 割れのない耐久性の高いコンクリートをつくるためには、 密度を 文 岩瀬 文夫 生コン工場の試験練りでコンクリートの空気量を確認する岩瀬文夫さん(右から2人目)高めることが最重要であるとし、 その ための方法をなるべく具体的に解説す るよう努めています。 水の少ない硬い生コンを丁寧に充填 する打設方法や、 コンクリートを湿潤 状態に保つ養生方法は、 一般的な現 場の作業とはかなり異なることと思い ます。 そこに至るまでの準備も大切で あり、 生コンの配合、 型枠 ・ 鉄筋作 業、 打設計画などについても詳しく解 説しました。 また、 個々の作業の実施 状況に応じて、 コンクリートの品質は まるで異なるものになります。 そこで、 実体コンクリートの品質を確認するた めの方法についても併せて解説しまし た。 もちろん作業に見合うだけの工期 や予算が不可欠なことも忘れてはなり ません。 本書を読んでもう一度原点に立ち返 り、 丁寧な施工法を見直してみてくだ さい。 脱型が楽しみとなるような正しい 施工法でコンクリートを構築してくださ い。 そして、 脱型時には大理石のよう な光沢を工事関係者の皆さんで味わっ てください。 それこそがひび割れのな いコンクリートの証だからです。 2008 年 11 月 総合コンクリートサービス代表取締役 岩瀬 文夫 岩瀬文夫さんは 2018 年 2 月逝去されました。 謹んでご冥福をお祈りいたします。 上:交差部を全数結束された床スラブの配筋。一般的な現場では鉄筋の交差部は番線で千鳥に 結束されるが、岩瀬さんは、打設中に鉄筋が動くことによってコンクリートと鉄筋の付着が損 なわれることが無いよう、鉄筋の交差部をすべて結束して固定度を上げる方法を提案している。 (東京都西東京市) 右:密実に打設され、大理石のように光る脱型直後のコンクリートの躯体。(写真:岩瀬泰己)
再振動のすすめ
このひと手間がコンクリートの密度
に格段の違いを生む。
耐久的なコンクリート構造物をつくるために は、 密度の高いコンクリートを打設することが 必要です。 そのために有効な方法が再振動で す。 再振動とは、 型枠に充填したコンクリート にもう一度バイブレーターで振動を与え、ブリー ディング現象による水みちを破壊し、 巻き込ん だ空気を追い出す作業のことです。 再振動を行うためには、 そのための設計法 と施工技術が必要です。 それらは相互に関連 しているため、 構造体の設計にはじまり、 設 備計画、 型枠や鉄筋の組み方、 生コンの配 合計画、 さらには打設から養生にいたるまで、 設計と施工をひとつながりのものとして進めて いきます。 再振動をかけたコンクリートは、 ジャンカは もちろん、 ピンホールひとつ無い滑らかな光沢 をもったガラス質の表面に仕上がります。 コン クリートの表面に緻密なガラス質の結晶ができ ればもう大丈夫。 ちょっとやそっとのことでは ヘタレません。 目印に緑色のテープを貼り、再振動のバイブレー ターの挿入位置を作業員に伝える現場。コンクリー トを充填すると見えなくなってしまう型枠内の情報 をピックアップしておくと、再振動の作業を確実に 行うことができる。(東京都西東京市)小樽港北防波堤は 1908 年 (明治 41 年) に完成した日本 初の本格的な外洋防波堤。 その工事の陣頭指揮を執ったのが 廣井勇だ。 当時つくられたコンクリートブロック (斜塊) は今も 健全な状態を保ち、 廣井の言葉どおり天然石に匹敵する耐久 性を示している。 コンクリートは、 理屈から言えば、 その極まった特質は天然 の石と同じだ。 だからこの言葉は、 自らが手掛ける材料の特 性に従い、 やるべきことをやり切った人のものだと思う。 コンク リートの声に耳を傾け、 その要求するところの全てを、 そのと おりにやり尽くした人の言葉だ。 ものづくりとはそういうものだ。 この防波堤を見ていると、 人間の持っている大きな可能性を感 じ、 力が湧いてくる。