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資料5-2-1事業原簿_高温岩体.PDF

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「貯留層変動探査法開発」・「高温岩体発電 システムの技術開発(要素技術の開発)」(事 後評価)2件合同分科会 資料5-2-1

「熱水利用発電プラント等開発

高温岩体発電システムの技術開発

(要素技術の開発)」

事業原簿

作成者 新エネルギー・産業技術総合開発機構 地熱開発室

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―目次―

0. 概要...i,ii Ⅰ.事業の目的・政策的位置付けについて 1. NEDO の関与の必要性・制度への適合性... 1 1.1 NEDO が関与することの意義... 1 1.2 実施の効果(費用対効果)... 1 2. 事業の背景・目的・位置づけ... 1 Ⅱ.研究開発マネジメントについて 1. 事業の目標... 4 2. 事業の計画内容... 4 2.1 研究開発の内容... 4 2.2 研究開発の実施体制 ...9 2.3 研究の運営管理 ...9 3. 情勢変化への対応 ...9 4. 今後の事業の方向性...10 5. 中間・事後評価の評価項目・評価基準、評価手法及び実施時期 ...10 Ⅲ.研究開発成果について 1. 事業全体の成果...12 2. 研究開発項目毎の成果...13 Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて 1. 実用化、事業化の見通し...20 2. 今後の展開...20 【添付資料】 論文リスト等 基本計画

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概要

作成日 2003.3.19 制度・プログラム名 熱水利用発電プラント等開発 事業(プロジェクト名) 高温岩体発電システムの技術 開発(要素技術の開発) PJ コード E85001 事業概要 未利用地下資源である高温岩体から人工的に熱を取り出すために必要な要 素技術の開発を行う。 事業担当推進部室・担当者 地熱開発室 川崎 耕一 1.事業の目的・政策的位置 付けについて 【NEDO が関与する意義】【実施の 効果(費用対効果)】【事業の背景・ 目的・位置付け】 【NEDO が関与する意義】 未利用資源の1つである高温岩体エネルギーは、資源量が多くかつ CO2 等の環境負荷の小さい再生可能な国産エネルギー源である。高温岩体開 発は、再生可能エネルギー増加のための取り組みとして、国際的にも価 値が高い。実用化には、発電可能な人工貯留層の造成と抽熱システムの 構築技術の確立が不可欠であるが、このような地下の能動的な開発は技 術的に難しく時間を要する上、開発費用も高額となる。したがって、民 間企業のみでは研究の実施が困難である。 【実施の効果(費用対効果)】 要素技術の一部(水圧破砕技術等)は既存地熱発電所の出力維持や増大 に貢献できる。 【事業の背景・目的・位置付け】 背 景:高温岩体エネルギーの資源量は、国内 18 地域に限っても約 2,900 万 kW×20 年(温度 250℃以上で深度 3km の範囲)と試算されて おり、このエネルギーを発電利用できれば、国産エネルギー量 の増大ならびに CO2削減に寄与する。 目 的:高温低透水性地層における①人工熱水系の造成、②フラクチャ マッピング・坑内計測技術、③循環システムの技術開発を行い、 「高温岩体発電システムの可能性」を把握する。 位置づけ:将来における高温岩体発電システムの実証を目的とした「要素 技術の研究開発」 2.研究開発マネジメントに ついて 【事業の目標】 未利用資源である高温岩体の商用的な発電を目指すために、未だ行われて いない要素技術である長期循環における人工貯留層の抽熱及び生産特性を 把握する。 貯留層造成、試験準備 長期循環試験 主な実施事項

H4-11fy H12fy H13fy H14fy (1)人工熱水系の造成 掘削・水圧破砕 (2)フラクチャマッピング・坑内計 測技術 フラクチャマッピング 坑内計測 (3)循環システムの開発 地質調査 循環・抽熱 地化学調査 フラクチャモデル作成 貯留層解析 【事業の計画内容】 (4)環境調査

(単位:百万円) H4-11fy H12fy H13fy H14fy 総額 (当初) 3,143 241 400 306 4,073 【開発予算】 特会(電特) (総予算額) (実績) 2,960 222 381 306 3,870 H8 H6 H7 H8

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経済省担当原課 産業技術環境局研究開発課 運営機関 新エネルギー・産業技術総合開発機構 プロジェクトリーダー なし 委託先 地熱技術開発(株)、(財)電力中央研究所 石油資源開発(株)、三井金属鉱業(株) 【開発体制】 共同研究先 独立行政法人産業技術総合研究所 (技術協力) 【情勢変化への対応】 基本計画の変更:なし 【今後の事業の方向性】 循環試験により、高温岩体開発の技術的な可能性を示すことができた。実 用化に向けて、経済性に重点を置いたさらなる技術開発が必要であるが、 本事業は国の方針転換により一旦終了することになった。 3.研究開発成果 (H12∼H14 年度分) 第一期(S60∼H3)では、浅部貯留層(1,800m 深)を造成し、短期の抽熱 特性を把握するとともに、計測機器の開発等を実施した。第二期(H4∼H11) では、深部貯留層(2,200m 深)を造成し、予備循環、坑井間の導通性改善 を行い、循環試験の前準備を行った。H12∼14 は貯留層の長期的な抽熱特 性を把握するために長期循環試験を行った。 (長期循環試験での成果:H12∼14 年度) (1)フラクチャマッピング・坑内計測技術 ①フラクチャマッピング フラクチャ進展把握のための AE 観測システムの確立 ②坑内計測技術 坑内流動特性把握のための PTS 検層機システム等の確立 (2)循環システムの開発 ①循環・抽熱 550 日(うち 58 日、発電)の循環データ取得に成功し、坑井間距離拡大 による生産エネルギー変化を把握することができた。一方、長期循環で生 産井の坑内スケールという課題を初めて明らかにした。 ②地化学調査 循環時に注水と熱水を採取・化学分析し、貯留層内の流体挙動の評価に 有効な化学成分を特定して流動特性を把握した。 ③フラクチャモデル作成 フラクチャモデルを完成させ、最適な坑井配置を推定した。 ④貯留層解析 貯留層シミュレータを開発し、貯留層モデルを完成し、将来の流動特性 を予測できるようになった。 (3)環境調査等 循環中、実験場周辺における微小地震活動の活性化や周辺温泉地域への 影響は認められなかった。 NEDO : 特許 1件 論文 102件 産総研: 特許 4件 論文 68件 4.実用化、事業化の見通 し 要素技術は、地熱分野では、坑井刺激、涵養等に適用でき、地熱発電量の 増大、既設地熱発電所の出力維持に貢献できる。また他分野においても、 石油の2次回収、天然ガス田の坑井刺激、CO2の地中固定化、核廃棄物の地 層処分に応用可能であると考えられ、波及効果は大きい。 実施時期 6年度 中間評価実施 産業技術審議会エネルギー・環境技術開 発部会評価委員会地熱評価小委員会 11年度 中間評価実施 産業技術審議会評価部会地熱技術開発 評価委員会(高温岩体発電システム) 評価履歴 評価項目・評価基準 標準的評価項目・評価基準 実施時期 14年度 事後評価実施予定 5.評価に関する事項 【評価実施時期】 【評価項目・評価基準】 評価予定 評価項目・評価基準 標準的評価項目・評価基準

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「貯留層変動探査法開発」・「高温岩体発電 システムの技術開発(要素技術の開発)」(事 後評価)2件合同分科会 資料5-2-1 1 Ⅰ.事業の目的・政策的位置付けについて 1. NEDO の関与の必要性・制度への適合性 1.1 NEDO が関与することの意義

高温岩体(Hot Dry Rock: HDR)とは、温度は高温にもかかわらず熱水や蒸気を貯える天然のき裂 や間隙が少なく、熱水循環系の発達が十分でない岩盤をいう。高温岩体発電は、高温岩体中に坑 井を掘削し、水圧破砕等により人工的に割れ目を発生させ、割れ目に注水して蒸気や熱水を取り 出す発電方式である。高温岩体エネルギーは資源量が多く、かつ CO等の環境負荷の小さい未利 用の国産エネルギー源である。環境に優しい国産エネルギーの拡大という観点に立って、このエ ネルギーを開発する技術を確立し、地熱発電量を増大させる必要がある。 本発電システムを実現するには、長期にわたって発電可能で経済性の見合う程度の大規模な人 工貯留層を造成する技術、ならびに抽熱システムを構築する技術について研究開発を行わなけれ ばならない。これらの技術開発は地下の能動的な開発であり、技術的に難しく、かつ開発費用も 高額となる。したがって、民間企業のみでは研究の実施が困難である。 また国際的にも注目されている高温岩体開発を国の開発として実施することは、わが国におけ る地球環境問題に対する積極的な取り組みの具体例として、海外に示すことができる点でも意義 がある。 1.2 実施の効果(費用対効果) 本事業で開発した要素技術(例えば、人工貯留層造成技術、フラクチャマッピング技術等)は、 既存地熱発電所の出力維持や増大に貢献できると考えられる。具体的には、既存地熱発電所で、 掘削した生産井の蒸気や熱水の生産量が小さい場合や、既存生産井の生産量の減衰が生じた場合 などで、水圧破砕により地層の透水性(水の通りやすさを表す物性)を改善し、生産量を増大さ せることが可能であると考えられる。このように、高温岩体技術を既存の地熱資源や高温湿潤岩 体 a) に適用し、地熱発電量の維持・増大をはかる考え方(Enhanced Geothermal System; EGS

と呼ばれる)は、現在米国を中心に取り組まれている。実際に米国ガイザーズ地熱発電所やイタリ アのラルデレロ地熱発電所において、出力が低下している貯留層に対し高温岩体技術でも採用さ れている地層内注水を行い、発電出力の維持や補充井掘削費の削減に貢献している。 2. 事業の背景・目的・位置づけ (1) 背景 a. 経緯 高温岩体の持つエネルギーを発電に利用するアイデアは、1970 年に米国ロスアラモス国立研究 a) 現在開発されている地熱資源は地層の透水性が高い一方、高温岩体は低透水性である。高温湿潤岩 体とは、地層の透水性が両資源の中間に位置する資源を指す。

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2 所で提案された。同研究所はニューメキシコ州フェントンヒルに実験場を設け、1973 年から高温 岩体研究に着手した。 我が国では、通商産業省工業技術院サンシャイン計画の一環として、昭和 49∼59 年度(1974∼ 1984 年度)に「高温岩体発電方式に関するフィージビリティスタディ」と題する基礎研究を行っ た。この研究では、昭和 52 年から岐阜県焼岳地区に小規模な実験場を設け、水圧破砕や循環試験 を 行 い 、 高 温 岩 体 発 電 方 式 に 関 す る 基 礎 研 究 を 実 施 し た 。 こ の 基 礎 研 究 と 並 行 し て 、 IEA(International Energy Agency)実施協定に基づく米国・日本・西独の協力による米国フェン トンヒル高温岩体研究(日本の参画期間:昭和 54∼61 年度(1979∼1986 年度))が実施された。 上記基礎研究を発展させるとともに、IEA 協定の成果を我が国に導入するため、昭和 59 年度(1984 年度)に実験場を焼岳地区から山形県最上郡大蔵村肘折地区に移し、我が国における本格的な高温 岩体研究が実施されることとなった。昭和 60 年度(1985 年度)に、本事業はサンシャイン計画推 進本部より新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に移管された。 以上のように、本プロジェクトは焼岳地区における基礎研究を発展させるとともに、IEA 協定 の成果を我が国に導入するためのものであり、本事業により我が国における本格的な高温岩体研 究が初めて可能となった。本研究開発は、現在世界で進行中の高温岩体プロジェクトの中で最も 進んでおり、本事業の成果や動向は海外からも常に注目されてきた。 (国内外の技術開発動向) 米国フェントンヒルの高温岩体研究は、深度約 3,600m、温度約 230℃の岩盤を対象に実施され、 1993 年に終了した。現在、米国では、高温岩体技術が従来型の地熱開発に適用できるかどうかの フィージビィリティスタディを行っている。また、英国コーンウォールの高温岩体研究は、深度 約 2,000m、温度約 100℃の岩盤を対象に行われ、1988 年に終了した。コーンウォールの成果は、 仏国ソルツの研究開発に引き継がれた。仏国ソルツでは、深度約 3,600m、温度約 160℃の岩盤を 対象に 1997 年に4ヶ月間の循環試験を行い、140℃の熱水採取に成功した。現在、このプロジェ クトでは深度 5,000m の開発を行っており、200℃の熱水回収を目指している。我が国では本事業 の実験場である肘折の他に、電力中央研究所が秋田県雄勝町で、深度約 1,000m、温度約 230℃の 岩盤を対象に高温岩体の研究を行い一定の成果を得た。 b. 社会的背景 高温岩体エネルギーの資源量は、温度 250℃以上で深度 3km の範囲に限っても、国内で実施し た地熱開発促進調査b)18 地域で約 2,900 万 kW×20 年と試算されており(平成5年度調査報告書、 NEDO-P-9325、高温岩体資源利用拡大のための基盤調査、p.200)、このエネルギーを発電に供する ことができれば、国産エネルギー量の増大に寄与する。 地熱発電は、純国産の再生可能エネルギーであり、供給安定性に優れ、CO2等の環境負荷の小さ いエネルギー源である。内山(「発電システムのライフサイクル分析」、電力中央研究所報告、Y94009、 1995)は、1kWh 当たりの CO排出量(炭素換算:g/kWh)が水力発電で 4.8、原子力発電で 5.7、 地熱発電で 6.3、石油火力発電で 200 であると報告しており、地熱発電は水力や原子力発電と並 b) 民間企業の地熱開発を誘導し地熱発電の開発促進を図ることを目的として、探査リスクなどで開発調査が進ん でいない地熱有望地域について、NEDO が先導的に行う調査。天然の貯留層をターゲットとしている。

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3 んで地球温暖化への影響が小さいことがわかる。高温岩体発電も、従来の地熱発電と同様な利点 を有している。 このような利点から、現在未利用となっている高温岩体エネルギーを積極的に有効利用する本 発電システムの開発が強く望まれているところである。 (2) 目的 本研究は、高温岩体発電システムの要素技術、すなわち高温低透水性地層における①人工熱水 系c) の造成、②フラクチャマッピングd) ・坑内計測技術、③循環システムの技術開発を行い、「高 温岩体発電システムの可能性」を把握することを目的とする。 (3)位置づけ 本研究は、高温岩体発電システムの実証を目指した「要素技術の研究開発」と位置づけられ、 国内初の高温岩体を対象とした挑戦的な取り組みである。本研究で得られた知見は、わが国の高 温岩体開発の礎を築くものと考えられる。 高温岩体発電を実証するには、長期間にわたり所用のエネルギーを抽出可能な人工貯留層を造 成する必要がある。このためには、発電に適した人工貯留層(規模、インピーダンス(水の流れや すさを表す用語)、回収率)を造成する技術を確立しなければならない。また、高温岩体は現在の ところ未利用資源であり、この開発にはコストダウンも図らなければならない。したがって、こ れらの技術開発は、長期的視点に立って研究開発を進めていく必要がある。 (類似プロジェクトと比較したポテンシャル、相違点) 新エネルギー・産業技術総合開発機構は、IEA 協定の基に 1986 年 9 月まで西独とともに、米国 フェントンヒル高温岩体研究協力事業に参画した。この研究協力事業で得られた成果を基に、我 が国の地質条件に適した高温岩体発電システムの開発を行うために、本事業は開始された。本プ ロジェクトの遂行には、米国で得られた成果、経験及び人材が生かされており、ポテンシャルは 高い。また、本事業でこれまでに造成した肘折高温岩体システムは、他のプロジェクトと比較し て、次のような特徴が挙げられ、世界でも例のないマルチフラクチャシステムとなっている。 ・ 比較的浅部で岩盤温度が高い ・ 複数の人工貯留層(浅部 1,800m 深、深部 2,200m 深)を造成 ・ 複数生産井を配置(従来は、1本の注入井に対し1本の生産井が主流) c) 水を注入する坑井(注入井)、人工的に造った貯留層、注入水が人工貯留層を通る間に加熱され熱水・蒸気と なり、それを取り出す生産井からなるシステム(p.5 の図2参照)。

d) 人工的に貯留層を造る際、岩盤の微小破壊音(AE; Acoustic Emission)を計測して、貯留層の位置や広がりを把

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4 Ⅱ.研究開発マネジメントについて 1. 事業の目標 (1)目標 未利用資源である高温岩体の商用的な発電を目指すために、未だ行われていない要素技術であ る長期循環における人工貯留層の抽熱及び生産特性を把握する。即ち、 ① 坑井問距離の拡大e)による生産エネルギーの変化を把握する。(循環・抽熱) ②マルチフラクチャシステムの流動特性を把握する。(地化学、フラクチャモデル作成、貯留 層解析) ③貯留層領域の把握や貯留層の抽熱及び生産能力を把握するために必要な AE 観測網の検討や 検層システムの開発を行う。(フラクチャマッピング・坑内計測) ④高温岩体発電システムによる環境への影響を把握するため、微小地震観測及び河川・温泉水 調査を実施する。(環境調査等) (2)設定理由 ① 貯留層の規模拡大のための1つの手段として、注入井と生産井との坑井間距離拡大の効果、 さらには貯留層数の増加による効果を確認する必要がある。 ② 長期循環時における貯留層の流動変化・メカニズムを解明し、地下の状態をより正確に表 した数値モデルを作成し、シミュレータによる貯留層の寿命予測を行う必要がある。 ③ 貯留層領域の把握や貯留層の抽熱及び生産能力を把握するための技術として、高温岩体開 発に対応した AE 計測、PTS 検層機等の開発を行い、その有効性を確認する必要がある。 ④ 長期循環においても、周辺環境に影響を与えていないことを証明する必要がある。 2.事業の計画内容 2.1 研究開発の内容 (1) 事業全体 ①人工熱水系の造成 高温低透水性地層に水圧破砕による深部貯留層(深度 2,200m付近)の造成を行い、必要な 掘削・造成等の技術開発を行う。 ②フラクチャマッピング・坑内計測技術 高温岩体貯留層の特性把握のために必要な AE 計測、フラクチャマッピング、PTS 検層等の技 術開発を行う。 ③循環システムの開発 マルチフラクチャシステムの設計を行い、循環抽熱による生産特性等の評価を行う。 ④環境調査等 高温岩体発電システムによる環境への影響を把握するため、微小地震観測及び河川水・温泉 水調査を実施する。 e) 浅部貯留層の開発では、造成深度において注入井から生産井までの距離を約 50m にした。深部貯留層の開発で は、浅部よりも倍になるように造成した(図2参照)。

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5 図1 研究開発体系図 図2 肘折における地下システム概念図 Deep Reservoir (2200m, 270oC) Shallow Reservoir (1800m, 250oC) 90m 130m HDR-1 40m 55m 50m 1788m SKG-2 HDR-3 1510m HDR-2 1505m HDR-2a 2303m 2205m 2303m 人工熱水系の造成 循環・抽熱 貯留層解析 フラクチャモデル作成 フラクチャマッピング 坑内計測 等 地化学調査 環境調査

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6 開発項目 平成 4年度 5年度 6年度 7年度 8年度 9年度 10 年度 11 年度 12 年度 13 年度 14 年度 1. 人工熱水系の造成 (1)掘削・水圧破砕 2.フラクチャマッピン グ・坑内計測 (1)フラクチャマッピング (2)坑内計測 3.循環システムの開発 (1)循環・抽熱 (2)地質調査 (3)地化学調査 (4)フラクチャモデル作成 (5)貯留層解析 4.環境調査等 予算(百万円) 653 442 569 356 302 276 161 201 222 381 306 予備循環試験等 長期循環抽熱試験準備 長期循環抽熱試験 PTS検層、坑井レーダー等、データ解析 深部人工貯留層水圧破砕、 HDR−2、3井増掘等 貯留層解析プログラム作成・改良、貯留層の解析等 微小地震観測、河川水・温泉水調査 中 間 評 価 フラクチャ情報の統合と可視化、モデル作成・改良等 中 間 評 価 坑井地質調査、地質データ解析等 事 後 評 価 水圧破砕・循環試験時のAE計測、データ解析、フラクチャ把握技術の開発・評価、等 水圧破砕・循環試験時の調査、データ解析等

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(2)研究テーマ毎の内容 a. 人工熱水系の造成 ① 掘削・水圧破砕(平成 6 年度までの実績) 270℃以上の岩盤を対象に 2,200m 付近に深部貯留層を造成し、浅部・深部2層からなるマルチフラク チャシステムを完成させた。 b.フラクチャマッピング・坑内計測技術 ①フラクチャマッピング技術 フラクチャマッピング技術の開発は、人工貯留層の造成や循環・抽熱試験の際発生する岩盤の破壊 音(AE)の震源を、地表付近に設置した AE センサーを用いて標定、解析することにより、フラクチ ャの広がり、位置、破壊メカニズム、地下応力状態等を評価するものである。長期循環試験では、こ れまでに開発された観測網ならびに解析手法を用いて、継続的に AE 観測を行い、フラクチャの進展 を把握・評価する。 (H11 年度までの実績) 坑井から離れた範囲における貯留層の位置、規模の把握には、AE に基づくフラクチャマッピング が最も有効である。このため、AE データによるフラクチャマッピングの精度向上を目指して、地上 及び坑井内を利用した AE 計測網の強化や、シューティングf) によるデータ補正等の計測法の開発を 行った。 ②坑内計測技術 人工貯留層特性の解明のため、循環中、定期的に(6週間に1回程度)PTS(Pressure, Temperature, Spinner)検層等を行い、坑内流動特性を把握・評価する。 (H11 年度までの実績) 圧力、温度、流量を同時測定できる PTS 検層機システムと、検層用データ収録・解析ソフトを開発し た。検層実績を通じ、信頼性のあるプロダクション検層技術と、流出・流入個所の流量・温度・エン タルピーなどを求める定量評価技術を確立した。これによって、各生産ゾーンの生産量や熱出力の経 時変化、生産特性を評価することが可能となった。 c.循環システムの開発 ①循環・抽熱 長期循環試験で、熱水系の設計・造成に当たり、温度や規模等の検討が浅部及び深部貯留層におい て行われてきたが、時間特性、すなわち長期の循環における熱水系の特性に関しては、十分な把握が 行われていない。このため、1年7ヶ月間の長期循環試験を計画し、最初の1年間では深部貯留層に 注水を行う「深部循環」を、後半の7ヶ月では浅部・深部同時に注水を行う「デュアル循環」を行い、 生産流体温度、圧力、流量等を継続的に計測する。 (H11 年度までの実績) 浅部貯留層では、世界で初めて1本の注入井と3本の生産井からなる多坑井システムの熱水系を設 計・造成した。このシステムを用いて 90 日間の循環試験を行った結果、熱出力 8.5MW に達する熱水・ f) 坑井内など、あらかじめ位置が標定されている地点で火薬を爆発させ、この地点がAEによる震源標定と一致させ るようにデータ補正を行い、AEの震源標定精度を向上させる作業。

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蒸気の生産に成功した。また、深部貯留層では、浅部熱水系より規模を拡大した1本の注入井と2本 の生産井からなる熱水系を設計・造成した。このシステムを用いた 25 日間の循環試験において、熱 水・蒸気を生産し、9MW の熱出力を得ることに成功した。 ②地化学調査 人工貯留層の特性を評価する一手法として、循環試験中の注入水や生産熱水の化学成分変化を解析 する地化学調査法が有効と考えられる。よって循環試験時の流体の貯留層内での挙動を解明すると共 に、抽熱面積評価法を適用し、貯留層の抽熱面積を評価する。長期循環試験時に、注入水、生産水を 採取し、分析する地化学調査を実施し、人工貯留層内での流体の挙動を推定するとともに、人工貯留 層の抽熱面積評価に資するためのデータを取得する。 (H11 年度までの実績) 過去に実施した一連の循環試験時に、注入水及び熱水を採取、分析することにより、地下での流体 挙動、すなわち注入された水は、貯留層内において、①もともと割れ目などの還元機に含まれる地層 水と混合する、②貯留層の母岩と水が反応し、熱水として生産されることを明らかにした。その後、 ②に着目し、肘折地点のコアを用いた水−岩石反応実験により、基礎データを蓄積し、地化学的手法 による貯留層表面積評価手法を提案するとともに、浅部貯留層の抽熱面積を評価した。 ③フラクチャモデル作成 人工貯留層の抽熱特性の把握を行う上で、正確なモデルが必要となる。そのため、各種計測データ を取り込み、地下の状態にできるだけ近いフラクチャモデルを完成させる。 (H11 年度までの実績)

過去に実施した PTS 検層、AE、定方位コアg) 、地質、BHTVh) (BoreHole TeleViewer)等のデータを

総合的に解析し、開発した D/SC(Deterministic and Stochastic Crack network simulator)プロ グラムにより、フラクチャモデルの作成を行った。 ④貯留層解析 き裂性貯留層の客観的な評価を実施するため、肘折のフラクチャモデルを反映させた貯留層シミュ レータを開発し、実測値とシミュレータによる計算値とのヒストリーマッチングによって貯留層モデ ルを修正し、より現実に近いモデルを用いて抽熱予測を行う。 (H11 年度までの実績) H8 年度までに得られた実測データ(温度、圧力)にマッチングするようにモデルの修正を行った。 またシミュレーションにより、長期循環試験時の抽熱予測を行った。 d. 環境調査等 人工貯留層の造成は、高圧・多量の流体(水)注入によって岩盤を破砕して行う。また、循環・抽 熱試験では、注入井から圧入された水が人工貯留層内で加熱され、蒸気・熱水として生産井から生産 される。環境調査は、人工貯留層の造成や循環・抽熱試験等に伴う環境(微小地震、河川水・温泉水) への影響を把握するために実施している。 g) 原位置での方位・傾斜が明らかな岩石コア(岩芯)。 h) 超音波の反射波を用いて坑井内の坑壁を画像化する装置。

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微小地震観測及び河川水・温泉水調査を実施し、高温岩体発電システムによる環境への影響がない ことを証明する。 2.2 研究開発の実施体制 実施体制を図3に示す。人工熱水系の造成は地熱技術開発、貯留層解析は三井金属鉱業、坑内計測 技術は石油資源開発、フラクチャマッピング技術は電力中央研究所が主として担当しており、循環シ ステムの技術開発は各社が共同して行っている。東北大学は、肘折における高温岩体研究の一般化の ための基礎研究を行う。 産業技術総合研究所(旧資源環境技術総合研究所、以下「産総研」と呼ぶ)は、NEDO が本事業に おいて収集したデータや実施した解析結果に対して、より学術的な、あるいは異なった観点からの再 解析を実施しており、必要性に応じて補足的な調査も独自に行っている。産総研には高温岩体研究に 関する専門家が数名おり、NEDO は検討会等を通じてこの再解析結果のフィードバックや本事業の立 案等に関して助言や技術的支援を受けている。本事業におけるキーパーソンは、IEA 協定の高温岩体 タスクリーダーの産総研松永烈副部門長である。IEA 協定に基づく活動として、各国(日本、米国、 EU、英国、仏国、オーストラリア)の高温岩体に関する情報交換やデータベース化が行われている。 2.3 研究開発の運営管理 本事業を効率的にかつ確実に推進する上で専門家の助言は不可欠である。そのため NEDO では、高 温岩体開発や個々の要素技術に造形の深い有識者による検討会を設置した。検討会は「計画検討会」 と「技術検討会」から構成され、前者は事業計画についての助言、後者は実施内容について技術面で の助言を得ることを目的とした。各検討会は2∼3回/年の頻度で行い、前者は年度初めと終わり(主 に5月、3月)、後者は計画検討会の間に実施した。 3. 情勢変化への対応 本プロジェクト開始後、社会的・技術的な情勢変化は特にないが、IEA 実施協定などによって世界 各国との情報交換を行い、社会的・技術的な情勢を絶えず把握してきた。 先在き裂マッピング・ モデル化 経済産業省産業技術環境局 研究開発課 (H13∼H14) 産 業 技 術 総 合 研 究 新エネルギー・産業技術 総合開発機構(NEDO) 地 熱 技 術 開 発 ㈱ 三 井 金 属 鉱 業 ㈱ 石 油 資 源 開 発 ㈱ (財)電力中央 研 究 所 ( 貯 留 層 解 析 ) (坑内計測 ) ( フ ラ ク チ ャ マ ッ ピ ン グ ) 東北大学 委託 補助金 技術的支援 解析・評価費 人工熱水系造成 循 環 ・ 抽 熱 (旧 資源環境総合研究所) 通商産業省工業技術院 ニュ-サンシャイン本部(H12 まで) 引継 再委託(H10−14 年度) IEA 地熱 実施協定 海外情報 助言 高 温 岩 体 開 発 計 画 検 討 会 高 温 岩 体 開 発 技 術 検 討 会

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4. 今後の事業の方向性 本事業では、要素技術の開発で高温岩体発電システムの技術的な可能性を示すことができた。今後 は、これまでの成果を足がかりに、さらに実用化に向けた技術開発が望まれるところであるが、本事 業は国の方針転換により今回の要素技術の開発をもって一旦終了することになった。 要素技術及びシステム全体については、普遍的技術を目指す立場から、適用限界を明確にする必要 がある。その上で、高温岩体発電候補地の調査・探査から始まり、生産、延命対策、生産終了、環境 復帰(リハビリテーション)までも含めた時系列的な指針が必要である。これについては、今後「地 熱開発に伴うデータの集積調査」(NEDO 実施、委託先:産総研)の中で検討される予定である。 一方海外では、地球環境保全やエネルギーセキュリティなどの観点から、①米国では高温岩体技術 の既存地熱資源開発への応用、②欧州ではより実用的な高温岩体研究への移行、③豪州では本格的な 高温岩体研究への着手など、高温岩体開発は実用化に向かって進みつつある。海外で高温岩体技術の 実用性が立証され、国内で研究開発の気運が高まった時に、速やかにリスタートできるように、海外 の動向を把握しておくことも重要である。 5. 中間・事後評価の評価項目・評価基準、評価手法及び実施時期 (1)平成6年度中間評価 (産業技術審議会エネルギー・環境技術開発部会評価委員会地熱評価小委員会) ① 評価の概要、指摘事項について a. 過去に実施された英国、米国における高温岩体実験の例では、地質等の条件の差によると考え られる流路の短絡や拡大の傾向が示された。肘折地区の実験結果から普遍的な評価が得られるの か。 b. 英国の流路短絡は 100 日以上の循環によって確認できたが、循環試験をどの程度の期間続けれ ば良いのか明確でない。 c. 貯留層となる岩体の熱的ポテンシャルの評価、長期的な循環安定性等、本質的な問題の解決に は時間を要するので、現時点から基礎的な課題に対応しておく必要がある。 d. 高温岩体発電システムの技術開発は国際的にも評価されているプロジェクトである。 ② 指摘を踏まえた研究計画等の変更点、改善点について a. 英国・米国の結果に、肘折の長期循環試験結果を含めることで様々な地質条件下での流路変化 に対する広範囲の実験結果が得られる。肘折の地圧は、米国の実験場に比べて圧縮応力が小さく、 また肘折のフラクチャ分布は平面フラクチャが卓越しているが、米国では少なく、英国では立体 的に発達している等、異なっている。 b. 循環期間としては最短でも2年は必要である。肘折の深部貯留層には少なくとも4枚のフラク チャが確認されている。複数の平面フラクチャモデルの計算より、温度低下が見られるまでに4 枚では1年、8枚では2年程度の循環が必要である。さらに、これまでの英・米の循環試験が示 すように循環期間中に流路が変化する現象、つまりモデルを変えなければならない現象が発生し ており、2年の循環期間は必要である。 c. これまでの実験データの再解析を含め、循環試験で得られた圧力干渉等の問題の検討を始める。 また、貯留層のポテンシャル評価や循環安定性の課題に対応できるようにモデルによる予測計算 等も行えるように準備する。 d. 米国のフェントンヒル実験場の閉鎖等もあり、世界の HDR 研究の中での肘折プロジェクトの重

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要性は増してきている。IEA の研究協力協定を締結して、高温岩体開発の進展に役立たせるとと もに、海外のノウハウを取り入れる。 (2)平成11年度中間評価 (産業技術審議会評価部会地熱技術開発評価委員会(高温岩体発電システム)) ① 評価の概要、指摘事項について a. 高温岩体発電をより具体的に、現実性のあるものにするため、一連のシステムを完成させ、発電 まで行うことについても検討の余地がある。 b. 論文・講演発表数とも十分であるが、一般人を対象とした広報、子供たちを対象とした教育広報 については、より一層の努力が必要である。各要素技術の適用限界を示した上で、時系列的な指 針の作成(調査・探査→生産→延命対策→生産終了→環境復帰)を期待する。 ② 指摘を踏まえた研究計画等の変更点、改善点について a. 長期循環試験の後半で、循環工程が計画どおり遂行できる見通しが立ったため、循環を継続しな がら発電実験を行う工程を追加した。 b. 長期循環試験期間中、1年に1回、一般人、子供を対象とした現地実験場の一般公開を実施した。 c. 高温岩体の要素技術を地熱分野のみならず他分野でも普及を図るとともに、将来高温岩体開発の 必要性が生じた際に、どの段階から開始すればよいかを明示したものを残しておくために、事業 終了後、技術解説書を作成する。その中で時系列的な指針も検討する予定である。

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Ⅲ.研究開発成果について 1. 事業全体の成果 (1)成果概要 肘折高温岩体実験場での研究開発は、大きく2つの期間、すなわち、浅部貯留層(深度約 1,800m、 岩盤温度約 250℃)の造成及び関連技術開発を行った昭和 60 年度から平成 3 年度までと、深部貯留層 (深度約 2,200m、岩盤温度約 270℃)への展開を開始した平成4年度以降に分けられる。 第一期: 浅部貯留層の開発(昭和60∼平成3年) 浅部貯留層の開発では、国内初の高温岩体に対する水圧破砕が実施され、人工貯留層の造成に成功 した。次に、1本の注入井、1本の生産井、人工貯留層からなる人工熱水系(両坑井間距離:約 50m) を造成した。昭和 63 年度にはこの熱水系を用いて、高温岩体を対象とした国内初の循環抽熱試験(2 週間)が行われ、最高温度 180℃の熱水・蒸気の回収に成功した。しかし、米国と地下環境が異なる 我が国では、ロスアラモス研究所で提案された1対の注入井と生産井の循環システムでは熱水・蒸気 の回収率が低く、効率的な熱エネルギー抽出のためには、回収率の向上が必要であることがわかった。 そこで、注入井に複数の生産井を配置する世界初の多坑井システムを提案し、平成3年度には、1本 の注入井と3本の生産井からなる人工熱水系による 90 日間の循環試験を行い、熱水・蒸気の回収率 が 78%、熱出力が 8.5MW の結果を得た。 この浅部貯留層開発では、我が国の高温岩体において水圧破砕法による人工貯留層の造成の可能性 を示すとともに、世界初の多坑井システムによる高温岩体の抽熱に成功した。さらに、人工貯留層の 位置や規模の把握のための AE によるフラクチャマッピングや PTS 検層等の坑内計測技術の開発が進 められた。 第二期: 深部貯留層の開発(平成4∼平成14年) (平成4∼11年) 浅部貯留層開発の結果を受けて、より高温で、規模の大きい貯留層の造成・開発と、浅部貯留層で 得られた貯留層造成技術の確認を目的として、深部貯留層の開発が始められた。深部貯留層の開発で は、浅部貯留層で開発された熱水循環系の造成手順、1)注入井掘削、2)水圧破砕による貯留層造成・ 規模の把握、3)システム規模に対応した生産井掘削、の有効性について再確認を行った。その結果、 坑井間距離が浅部貯留層の約2倍(90∼130m)で 270℃の高温岩体に対する人工熱水系の造成(注入 井1本、生産井2本)に成功した。平成7年度には、この深部貯留層を対象に 25 日間の循環抽熱試 験が行われ、浅部貯留層より高い 9MW の熱出力を得ることに成功した。 以上のように、肘折高温岩体実験場では浅部と深部の2つの貯留層が造成されており、いわゆるマ ルチフラクチャシステムとなっている。従来のマルチフラクチャシステムの概念は、経済性を優先し 坑井本数をできるだけ少なくすること、すなわち1本の注入井に対して複数の貯留層を造成するもの が一般的であった。しかし、この場合は、各貯留層の規模に対する最適な注水の制御が困難であり、 貯留層の抽熱特性を十分に発揮できないと考えた。そこで、本事業では、各貯留層に対し貯留層特性 に適合した流量制御が可能となるよう、注入井を各層に1本ずつ配置し、生産井をさらに複数配置す ることで、各貯留層からの熱水・蒸気の回収率を向上させるマルチフラクチャシステムを構築した。 本システムは、肘折独自のもので世界でも例がない。 (平成12∼14年:長期循環試験) 本事業の最終ステージとして、マルチフラクチャシステムを対象とした長期循環試験を実施し、累 計で 550 日の循環に成功した。さらに試験の最後には、生産蒸気を使ったバイナリー発電を 58 日行

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い、国内初の高温岩体発電に成功した。 循環中に地上にて生産流体の物性値を継続的に計測することにより、坑井間距離の拡大による生産 エネルギーの変化を把握することができた。また、地化学調査、PTS 検層、貯留層解析により、マル チフラクチャシステムの流動特性(寿命予測も含む)を把握することができた。開発した AE 観測シ ステム、PTS 検層システムは、循環中も貯留層領域の把握等のために用いられ、その有効性を実証し た。さらに実験場周辺において環境調査を実施し、循環による周辺環境への影響がないことを確認し た。以上のことから、本事業の目標は全て達成され、高温岩体発電システムの技術的な可能性を示す ことができた。 2. 研究開発項目毎の成果 ここでは、主に長期循環試験(平成 12∼14 年度)で実施した項目について成果概要を述べる。 ○フラクチャマッピング・坑内計測技術(論文:43件、講演:28件、特許:1件) ① フラクチャマッピング 地表ならびに坑内に設置したAE 観測網で AE を観測し、その振動波形の解析から、循環実験にお ける貯留層の拡大が評価された。また、AE のスペクトル解析による震源の大きさの評価や、断層面 解によるAE の発生機構(せん断破壊)および震源分布域の平均的応力の方向を推定することができ た。本 事 業 で AE の震源決定方法の開発に努めた結果、フラクチャ面を表現できるまでフラクチャマ ピング技術の精度向上を図り、高温岩体開発のための貯留層領域の把握等に必要なAE 観測網システ ムを確立することができた。 な お これらの成果は、東北大学を中心とした貯留層マッピングの国際共同研究(MTC(More Than Cloud)プロジェクトと呼ばれる、NEDO 実施)に反映され、本プロジェクトを通じて、欧州 Soultz プロジェクト、オーストラリアなどでも活用されている。在来地熱開発はじめ CO2地下貯 留など地下深部のき裂構造の評価やき裂進展の経時的な変化を推定する手法として、今後活 用 さ れ る 可 能 性 が あ る 。 ② 坑内計測

圧力、温度、流量を同時測定できる一体型の高温用 PTS(Pressure, Temperature, Spinner)検層機 を国内で初めて開発し、信頼性の高いプロダクション検層技術と、流出・流入個所の流量・温度・エ ンタルピーなどを求める定量評価技 術を確立した。循環試験では、計画ど おり6週間おきに PTS 検層による坑内 計測を行い(図5参照)、各生産ゾー ンの生産量や熱出力の経時変化から、 循環に寄与している導通箇所の把握 と、生産特性を評価し、マルチフラク チャシステムの挙動を把握できるこ とを実証した。 なお本事業で開発された検層機に ならい、以後、地熱井においては同様 の一体型が使用されるようになった。 図5 PTS検層の概念図

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○循環システムの開発(論文:43件、講演:22件) ① 抽熱・循環 平成 12∼14 年度に、本プロジェクトの最終ステージとして、岩盤温度約 270℃で注入井と貯留層 が一対となるマルチフラクチャシステムを対象とした1年7ヶ月の長期循環試験を実施した。最初の 1年は深部貯留層のみに注水・生産を行う「深部循環」で、残りの7ヶ月は、深部・浅部同時に注水・ 生産する「デュアル循環」を行った。本試験はほぼ計画どおり進められ、550 日に及ぶ計測データの 取得に成功するとともに、長期間にわたり貯留層の抽熱特性の経時変化(生産エネルギーの変化)を 把握することができた。また、「深部循環」から「デュアル循環」に変更した際に熱出力の増加が見 られ、貯留層拡大による効果を確認することができた。さらに以下に示すように坑内スケール付着と いう想定していなかった課題を明らかにするとともに、デュアル循環の後半3ヶ月では、生産蒸気を 用いたバイナリー発電装置によって、国内初の高温岩体発電にも成功した。各期間の主な成果を以下 に示す。 深部循環(333 日) 本試験の最初の1年では、貯留層の長期間の生産性や抽熱寿命等の長期抽熱特性を把握するため、 深部貯留層を対象とした「深部循環」を実施し、累計 333 日の循環を行い、深部 1,000L/min の注水 に対し、最大で 10MW 以上の熱出力を得ることに成功した。これは、貯留層シミュレーションで予測 された 7MW よりも高かった。熱出力について、平成3年度に実施した浅部の短期循環( 90 日間)と、 深部の長期循環(最初の3ヶ月間)とを比較した場合、1坑井当たり前者は 2.8MW で後者は 4MW とな る。なお、循環から約 6 ヶ月後には、2本の生産井中1本に生産流体の急激な温度低下が確認され、 熱出力も 4.5MW になった。 デュアル循環(217 日) 本試験の後半では、マルチフラクチャシステムの特性把握を目的に、浅部・深部に同時注水・生産 を行う「デュアル循環」を行った。なお、後半の3ヶ月間では、循環で得られた生産蒸気による発電 も行った。 最初の4ヶ月間は、浅部・深部に 500L/min づつ注水・生産を行い、連続 125 日間で最大 6MW の熱 出力を得ることに成功した。これは、深部循環の最終日における熱出力約 4.5MW を上回っており、貯 留層追加による効果を示していると考えられる。最後の3ヶ月で生産蒸気による発電を行うに際し、 蒸気の安定確保が必要になったため、20 日間、注水比を浅部・深部で 250:750L/min に変更し生産 状況の変化を確認した。その結果、熱水量を抑制しながら蒸気量を安定確保することに成功した。従 来型の地熱発電で困難な生産コントロールの可能性を本システムにおいて実証した。 1ヶ月の休止期間を経て、最後の3ヶ月間は、直前に変更された注水比(浅部・深部、250:750L/min) で循環を行い、連続 92 日間で最大 6MW の熱出力を得ることに成功した。また、100kW 級バイナリー 発電装置による国内初の高温岩体発電を累計 58 日行い、全生産蒸気1MW を利用しておよそ 50kW の 電力を発生することに成功した。 坑内スケール付着(新たな課題の抽出) 本循環で坑内にスケール(硬石膏)が付着し、特に生産井で顕著であることが初めて明らかになっ た。1本の生産井において、簡便で安価なコイルドチュービング法を採用し、短期間で坑内スケール をさらうことに成功した。また、スケール付着防止効果について検証するため、1週間程度逆循環(生

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産井に冷水を注入する)を実施した。若干口径が回復する傾向は見られたものの、短期間のため今の ところこの手法が恒久的な解決策であるとは言えない。本手法に加えて、さらに効果的な手法はない か検討ならびに実証を行う必要がある。 広報活動等 なお、 高温岩体発電に関する研究は日本、米国、欧州(EC)、豪州で進められているが、岩盤温度 約 270℃、注入井と貯留層が一対となるマルチフラクチャシステムで、かつ各貯留層において複数の 生産井を有しているのは本事業のみで世界に例がない。そのため、本事業で得られた実験データ等は 他国での研究開発にも重要な情報となる。とりわけ、HDR 開発を開始したオーストラリアは、肘折の 成果が参考になるであろう。 また世界に先駆け、550 日にも及ぶマルチフラクチャシステムによる抽熱実績を作り上げたことで、 全世界に日本の技術水準の高さをアピールすることができた。さらに、長 期 循 環 試 験 中 に 一 般 公 開を行い( H13 年 8 月 、H14 年 8 月 )、見学者はもちろんマスコミを通じて地熱開発になじみ の薄い一般の人々にも積極的に成果 の P R す る こ と が で き た 。 ② 地化学調査 貯留層内における流体は地化学的観点からは、(1)混合、(2)反応、(3)沈殿という現象が生じてお り、これらを評価する指標としてそれぞれ(1)Cl、(2)Na、(3)Ca と SO4が有効であることが分かった。 また反応現象を基に、生産水の Na 付加量、トレーサテストにより評価された流体の滞留時間、貯留 層の体積、室内における水-岩石反応実験より求められる溶解速度定数の水/岩石比依存性を総合的に 解析し、貯留層抽熱面積を推定する手法を確立した。これらにより、地化学情報から人工貯留層の流 動特性を把握できるようになった。 なお、貯留層内での流体挙動の推定方法および貯留層抽熱面積評価に関する地化学的手法は、高温 岩体に関わる水圧破砕や循環など、比較的能動的な循環系での評価手法であることから、在来地熱よ りむしろ今後の HDR 地点や EGS への転用などに効果があると期待できる。 ③ フラクチャモデル作成 肘折の高温岩体貯留層の流路や貯留スペースは、フラクチャネットワークによって構成さ れていることがわかってきた。そこで循環時の流体挙動を精度良く把握するために、フラク チャモデルを作成することになった。フィールドから得られる確定的なフラク チャ情報(コ アデー タ等 )と統計データなどから推定される確率論的なフラクチャ情報を用いてモデルを 作成するプログラム D/SC を開発した。また D/SC により作成したフラクチャネットワークモ デルは、肘折貯留層の特徴をよく表していることが長期循環試験で確認された。さらに D/SC の機能を応用し、肘折の最適坑井配置を推定(3本の生産井)することができた。 なお、D/SC は PC 上およびワークステーション上で動作し、ヒューマンフレンドリーな入 出力インターフェースを有している。発 生 さ せ る フ ラ ク チ ャ 規 模 、坑 井 の 数 、坑井座標など、 全ての入力パラメータに関して汎用性を持たせてあるため、肘折実験場に限らず従来型地熱 フィールド、石油・天然ガスフィールド、あるいは CO2地下貯留や放射性廃棄物地中処分な ど、フラクチャシステムが関連する貯留層もモデリングに幅広く適用することが可能で、そ の波及効果は大きい。開発した D/SC は、技術の普及促進をはかるため NEDO ホームページか ら無料でダウンロードできるようにする予定である。

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④貯留層解析

高温岩体開発では、循環試験仕様の決定、き裂性貯留層の評価(生産寿命の見積、最適生産計画作 成等)の際に、き裂性貯留層の挙動についてシミュレーションが不可欠である。そのため、貯留層解 析 プ ロ グ ラ ム ( GEOR-3D ) を 開 発 し 、 プ ロ グ ラ ム に 坑 井 サ ブ モ デ ル の 追 加 や MBC モ デ ル

i)(Micromechanics-Based Continuum Model)の採用ならびに改良を行った結果、き裂性貯留層の挙動、

特に熱挙動が再現出来るようになった。またプログラムによる計算値と長期循環試験で得られた実測 値とのヒストリーマッチングで、最終的により現実に近い数値モデル(貯留層モデル)を完成した。 このモデルを用いて15年間循環を継続した場合の貯留層の寿命予測を行った結果、循環試験終了時 と同程度の熱出力で推移すると予測され、長期にわたり持続的に生産できると予測した。 なお、デュアル循環において注水比を変更する際、貯留層モデルを用いた貯留層シミュレーション 結果が、注水比決定の判断材料となった。さらに、D/SC で推定された最適な坑井配置を用いて抽熱 予測を行った結果、現行より約2倍以上の熱出力を得られることがわかった。 なお、本プログラムは①き裂性岩盤における、熱、流体の移流・拡散を非定常・非線形でシミュレ ーション可能、②ポーラスモデルはもちろん、き裂モデルも問題により数種選択可能、③貯留層内二 相状態をシミュレーション可能、等の工夫がされており、地熱貯留層シミュレータとして汎用性の高 い作りとなっている。また、坑井シミュレータも結合されており、坑口で境界条件が設定出来るため 坑口データのマッチングが容易である。さ ら に 、 炭 酸 ガ ス を 含 ん だ 地 熱 貯 留 層 の シ ミ ュ レ ー シ ョンも出来る。地熱分野はもちろん、土木分野、環境分野にも適用可能である。開発した貯 留層シミュレータは、技術の普及促進をはかるため NEDO ホームページから無料でダウンロ ードできるようにする予定である。 ○環境調査等 ①微小地震観測 実験場周辺に観測点を3点設け、循環試験中、連続して微小地震の発生を監視できた。 長期循環実験において地下注水による実験場周辺への微小地震活動の影響は見られなかった。 ②河川水・温泉水調査 実験場周辺の河川2点(苦水川と銅山川の各1点)と泉源2点(肘折3号泉と黄金6号泉)で、 計画どおり月1回試料をサンプリングし計測ならびに分析を行うことができた。循環実験による河 川水・温泉水への影響は見られなかった。 i) 不連続なき裂性岩体を平均的な応力−ひずみで表現可能な連続体としてモデル化し、岩体のき裂の開閉 がき裂面での滑りによって生じると仮定したモデル。

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○産総研における研究成果(高温岩体熱抽出システムの技術開発) (論文:68 件、講演:20 件) 産業技術総合研究所(元公害資源研究所、前資源環境技術総合研究所)では、昭和 56 年度以来、 高温岩体の破砕熱抽出技術に関する研究を実施してきたが、平成元年度からはNEDO とのカップリ ング研究として高温岩体熱抽出システムの解析・評価、平成13 年度からは高温岩体熱抽出システム の技術開発の研究を実施している。以下に、現在実施中の、数値シミュレーションによる貯留層評価、 コアを用いた地圧評価、化学トレーサを用いた貯留層評価の3項目に関して、平成元年度以降の成果 を記述する。 a.数値シミュレーションによる貯留層評価 数値シミュレーションでは肘折地区で過去に行われた循環試験をもとにその抽熱挙動を説明でき るような地下モデルを作成し、完成したモデルによって将来の抽熱挙動を予測する研究を実施してい る。主として使用している数値シミュレータはロスアラモス国立研究所で開発された FEHM(Finite Element Heat and Mass transfer code)である。主たる研究成果として上部貯留層開発時には、平成 元年の HDR-1 及び HDR-2 を生産井とした 1 ヶ月の循環試験をもとに上部貯留層をモデル化し、HDR-3 を新規に掘削し循環試験を行った場合の予測シミュレーションを実施した。その際に予測した熱水回 収率の値は65%であり、その後平成 3 年度に実施された HDR-3 を用いた 90 日間の循環試験の熱水 回収率は 78%であることから、満足のできる範囲で熱水回収率を予測することができた。また、平 成12 年度以降の深部貯留層を用いた肘折現場実験では、深部循環試験(平成 12 年 11 月 27 日∼平 成13 年 11 月 15 日)、上部と下部貯留層に同時に注水するデュアル循環試験さらに発電試験と大き く3つの試験が実施された。産総研では FEHM をベースとして、貯留層内圧力によって透水係数等が 変化する Bed-of-Nails モデルを組み込み、上部貯留層と下部貯留層をモデル化して、深部循環試験 のシミュレーションを実施した。深部循環試験で観測された生産井 HDR-2a の生産温度の低下挙動や 上部貯留層からの生産流量の寄与等の現象に関してシミュレーションでほぼ再現することができた。 一例として深度 1900mにおける生産井内の温度の計算結果と PTS 検層結果とを 5℃以内の範囲で一致 させることができた。このシミュレーション結果より、下部貯留層の透水性が循環途中で大きく変化 したことや上部貯留層と下部貯留層からの生産比率に関して把握することが出来た。また、地上で計 測された生産流量に対する上部貯留層からの生産寄与率に関する計算結果は、PTS 検層時の計測結果 と比較してほぼ同様な結果を示しており、上部貯留層からの生産が多かったことや、生産井 HDR-2a では上部貯留層と下部貯留層からの生産比率の変動が大きいこと等をシミュレーションから説明す ることができた。 b.コアを用いた地圧評価技術 高温岩体開発の対象となる岩盤の地圧状態は、新たに人工き裂を造成するときのき裂の方向や、循 環抽熱時における流動抵抗を評価する上で、これを精度よく把握することが必要である。地熱開発の 対象となる高温の地下岩盤を対象とした3次元地圧の計測法は、温度の制約からこれまでに有効なも のは確立していなかった。産総研では地下で採取した岩石コアを用いて原位置の地圧を評価する方法 の研究として、ASR(Anelastic Strain Recovery,非弾性ひずみ回復)法と DSCA(Differential Strain Curve Analysis,差ひずみ曲線解析法)の 2 種類の試験を実施した。ASR では、岩石試料のヤング率 の大きさ、岩盤温度、コア採取後に地表で取り出すまでの時間の長さ等の要因が重なり、計測される 非弾性ひずみが非常に小さくなることが分かった。一方、DSCA では人工き裂の発達方向や人工貯留 層内で発生した AE のメカニズム解等の他のデータに基づく地圧状態と合致する結果が得られた。 DSCA を用いてフランスのソルツ実験場で採取された岩石コアに対して適用した場合にも、3次元的 には他の計測法による地圧状態と概ね調和的な結果が得られた。これ以外にも非地熱地域を含むいく

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つかの地域の現場コアに対しても DSCA を適用したが、いずれの地域においてもほぼ整合的な結果が 得られた。また、DSCA の信頼性をより向上させるため試験片内の微小き裂の開閉口特性に関して実 験的に検討し、計測時には載荷・除荷に応じて開口・閉口する微小き裂群と最初の載荷時のみに閉口 する微小き裂群があることを明らかにした。 c.化学トレーサによる貯留層評価技術 産総研では、水圧破砕や循環試験時の貯留層内の岩石?水反応やき裂の変化に伴う流体挙動変化を 推定するために、地化学モニタリングとトレーサ試験の2つの観点から地化学を用いた貯留層評価を 実施してきた。 前者の地化学モニタリングでは、①循環試験の地化学モニタリング、②室内での岩石水反応実験、 ③河川・温泉水の調査、④水素、酸素などの同位体を用いた貯留層流動評価、⑤スケール調査および 対応を行った。①の地化学モニタリングでは、高温の流体を自動で採取する装置を設計・制作し、下 部循環試験で使用した。その結果、貯留層岩盤と注入水との間で化学反応は十分に進行しており、生 産流体の溶存成分濃度から貯留層温度を評価できること、非反応成分( Cl)とその他の成分の比較か ら溶存成分の変化は主に貯留層内に元々存在した高濃度の間隙流体と注入水との混合希釈に支配さ れることを明らかにした。②の室内での岩石水反応実験では、新たに流通型オートクレーブを設計・ 制作し、肘折のコア試料を用いた溶解実験を行い、硬石膏の溶解が循環流体の溶存成分変化に大きく 影響すること、この溶解反応が上述の化学成分の溶出に比較して速く進行し、生産流体中の SO4 濃度 変化から流動状況の変化も推定可能なことを明らかにした。③の河川・温泉水の調査では、平成 9 年度より現地付近の河川・温泉水を分析し、化学性状が循環前後で大きく変化せず、循環試験による 周囲の影響はないことを示した。④の水素、酸素同位体調査からは、初 期の生産流体は河川・温泉水 よりδ18Oの高い側にあり、1と同様に貯留層岩盤と注入水との間で化学反応は十分に進行している ことを示した。また、循環試験の進行につれ貯留層熱水の注入水による混合・希釈が進行し、特に平 成 13 年5月以後に HDR-2a のδ18O が急速に低くなることを見いだした。⑤のスケール調査では、地 上配管に堆積したスケールは、HDR-2a 地上部が炭酸カルシウム、HDR-3 地上部がシリカに富み、HDR でも地上部のスケールは既存地熱地帯と同様に地下の温度や熱水性状に従うことを示した。また坑内 の硬石膏スケール対策の一つとして、インヒビターを用いた室内・現地実験を行い、インヒビターが 注入水の硬石膏溶解を抑制することで溶液中の Ca,SO4 濃度を減少させ、坑内沈積を抑制する可能性 を見いだした。 トレーサ試験に関しては、①新規トレーサの検索およびその採取、分析法の開発、②坑井内におけ るトレーサ移流分散の評価、③肘折での循環試験中のトレーサ試験、④FEHM シミュレーションによ る③の評価、⑤蛍光トレーサの蛍光強度と溶存成分との関連の解明を行った。 ①は複数のトレーサを用いること(マルチトレーサ試験)による試験精度の向上と、同一トレーサ によるバックグラウンド濃度の上昇を防ぎ、連続してトレーサ試験を実施できるようにすることを目 的に行ったもので、高感度、安価、分析が簡便なため従来から使用されていたものの耐熱性の点から 問題があるとされていた蛍光染料について耐熱試験を行い、肘折ではフルオレセイン、ナフタレンス ルフォン酸などが使用可能なことを明らかにした。また、H12-14 の長期循環では流体自動採取装置 を通年使用できるよう改良し、さらに光ファイバーによる蛍光濃度連続測定システムによってフルオ レセイン濃度のリアルタイム測定を可能とし、現 場での作業効率を向上させた。②に関しては、HDR-2 および HDR-3 井の増掘中に、坑井内でトレーサ試験を実施し、トレーサの移流分散係数(α)を求め た。その結果、αは 0.1 程度で、貯留層内の移流分散評価に影響を及ぼすことはないことを明らかに した。また、坑井内トレーサ試験から坑井容積や逸水率を正確に評価でき、坑井仕上げ設計に有用な

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データを提供できることも分かった。③に関しては、短期循環試験においては肘折上部貯留層での3 回の循環試験および H7-8 の下部貯留層での2回の試験中に合計 19 回、さらに H12-14 の長期循環試 験では、下部貯留層注水時に6回、デュアル循環試験時に6回のトレーサ試験を実施し貯留層内の流 動状況を評価した。下部貯留層の循環試験の場合、上部貯留層との干渉によって貯留層内の流動状況 が複雑に変化するため、トレーサ試験の結果と坑井内での PTS(圧力・温度・流量)検層結果を合わ せ評価することが重要なことが分かった。特に長期循環試験の下部貯留層循環では、HDR2 において H13 年5月から7月にかけてサーマルブレークスルーに伴って応答が急速に早くなり、PTS による坑 内温度や Cl,SO4組成の急変、同位体シフトと対応していることを確認した。HDR3 は逆に循環につれ 応答が遅くなった。デュアル循環時は、注水比率の変更や発電試験準備のための中断があり、条件が 複雑であるが、全体的には循環の進行につれ応答が早くなり流路の選択が進行していることが示され た。④に関しては、a.で述べた FEHM でトレーサ試験の結果を加味したフラクチャ幅を評価した。そ の結果、上部貯留層での3ヶ月間の循環試験期間中に、循環に寄与する主要なフラクチャの幅はそれ ほど変化しないことを明らかにした。⑤に関して、現場において主に使用された蛍光トレーサはフル オレセインナトリウム(ウラニン)であるが、地熱水の特性(pH、溶存塩)により測定時の蛍光強 度に影響を生じる可能性がある。そこで、室内実験において蛍光強度に及ぼす地熱水中の主要な溶存 成分の影響を検討した。その結果、Na、K、Mg、Ca、Al、Cl、SO4 および CO3 イオンは蛍光強度にほ とんど影響を及ぼさないが、Fe(三価)イオンは大きく影響を及ぼすことが明らかとなった。また、 pH が低いほど蛍光強度も低下するが、pH9 以上では pH の変動による蛍光強度への影響はほとんど ないことを明らかにした。

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Ⅳ.実用化、事業化の見通しについて 1. 実用化、事業化の見通し 本事業で構築された小規模なシステム(深度 2,000m、温度 270℃以上、水平方向の貯留層規模 200m) において、高温岩体発電が技術的に開発可能であることを実証したが、今後経済性の面で実用化を目 指すためには、商売として成立するだけの熱量を稼げる大規模な貯留層、具体的には数百 kWt 以上の 抽熱が可能な貯留層を構築する必要がある。よってそのためには、貯留層規模拡大に伴う要素技術の 開発が必要となる。また、本事業で明らかにされた課題である坑内スケールの問題について、対策手 法の確立を目指す必要がある。 一方、これまでに開発されてきた個々の要素技術は、実用化の域に達しており、地熱分野では、坑 井刺激、涵養に適用可能であり、地熱発電量の増大、ならびに既設地熱発電所の出力維持に貢献でき る。また未利用地熱の直接利用(高温岩体システムから取り出される熱を暖房・融雪用に使用)とし ての可能性も秘めている。さらに他分野においても、石油の2次回収、天然ガス田の坑井刺激、CO2 の地中固定化、核廃棄物の地層処分に応用可能であると考えられ、波及効果は大きい。 なお、本研究開発に関する実用化主体は、地熱業界、石油業界、電力業界等が考えられる。高温岩 体が適用できる地熱資源量は膨大に賦存していると推定されているので、本発電システムが実用化さ れれば、掘削、掘削機器製造、発電設備、土木建築等の業界に大きな市場が創出するものと期待され る。 2. 今後の展開 高温岩体発電の実用化には、今後以下の2つの研究開発フェーズが必要である。 ・貯留層拡大技術等の要素技術の開発 ・高温岩体発電の実証 上記の開発・実証には時間を要することから、当面は本事業で得られた成果(人工貯留層造成技術、 フラクチャマッピング技術、フラクチャモデル(D/SC)、貯留層解析技術(GEOR3D)等)を既存の地 熱開発に適用し、発電量の増大あるいは維持に貢献していくことも肝要であると考える。なお本事業 で開発されたシミュレータ(D/SC、GEOR3D)は、NEDO のホームページを通じて無料配信する予定で ある。また、将来高温岩体開発の必要性が生じた際、速やかにかつ効率的に再開できるように、将来 の技術者のために、肘折地区で得られた貴重なデータをデータベース化するとともに、技術解説書を 作成する予定である。一方、オーストラリアでは事業化を視野に入れた高温岩体開発を開始しており、 肘折の成果は委託先の研究者を通じて反映される予定である。また本事業で開発された装置の一部 (AE 三軸ゾンデ等)は、東北大学を通じてオーストラリアのプロジェクトに使用される予定である。

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1 研究項目別論文,講演,特許,報道の件数総括表 論文(原著/他) 講演(招待/他) 特 許 報 道 NEDO 102 79 1 48 産総研 68 20 4 合 計 170 99 5 48 2 年度別論文,講演,特許,報道の件数一覧 (1) NEDO ①論文・報道 論文・講演等 報道 人工熱水系の造成 フラクチャマッピング・ 坑内計測 循環システムの開発 新聞等 開発項目 年度 論文 (原著他) 講演 (口頭他) 論文 (原著他) 講演 (口頭他) 論文 (原著他) 講演 (口頭他) テレビ・ ラジオ 60 61 1 1 62 1 63 3 1 6 1 1 3 3 4 1 2 1 1 4 4 6 3 3 1 1 1 4 1 6 5 4 1 5 1 2 4 1 6 1 1 7 1 6 4 1 1 1 6 8 3 4 7 2 9 2 3 3 9 3 1 6 2 5 3 1 10 1 5 1 6 1 1 11 1 2 12 2 4 1 4 3 13 8 2 10 2 14 3 1 6 4 10 4 合計 16 29 43 28 43 22 35 13 ②特許 平成7年度 :1件

参照

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