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量子井戸型近赤外フォトダイオード開発

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Academic year: 2021

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(1)

ライフサイエンス

1 − 2 タイプⅡ型量子井戸 量子井戸構造とは異な るバンドギャップをもつ半導体を数 nm オーダーで積層し たものであり、バルク半導体では実現できない特性を具現 化できる。図 1 にタイプ II 型の量子井戸構造を示す。タイ プ I と呼ばれる量子井戸では、同一半導体内で光学遷移は 生じるのに対し、タイプ II 型量子井戸構造では、電子、お よび正孔は空間的に分離されており、その波動関数のオー バーラップにより、異なる半導体間で光学遷移が生じる。 結果的に、バンドギャップの大きな半導体を用いながら、 赤外受光素子で必要とされる狭いバンドギャップでの遷移 を実現できる。 タイプ II 型量子井戸については、江崎らによる報告を端 緒とし、赤外用受光素子としての利用が Smith らによって 提案されている。InGaAs/GaAsSb タイプ II 量子井戸に関 しては、JPL、テキサス大、大阪府立大学他のグループが

1. 緒  言

1 − 1 近赤外フォトダイオード 中赤外、遠赤外領 域には多くの分子の基準振動が存在し、その倍音や結合音 が近赤外領域には存在する。いわゆる「Sleeping giant」 と呼ばれていたこれらの領域は、Norris らの近赤外スペク トルに対する統計的処理方法の提案以降、一気にその応用 分野が開拓され、近年では、ケモメトリクス手法により非 破壊での物質同定方法として期待されている。特に、 1.7µm から 2.5µm にかけての領域は環境ガス検出、化学 プラントのプロセスモニタリング、医療用モニタなどに適 しているとして有望視されている。 しかしながら、近赤外領域での倍音、結合音での遷移に 伴う信号は微弱であり、高精度の分析には高 S/N、すなわ ち、高感度、低暗電流のフォトダイオード(PD)が必要と される。この波長領域では、HgCdTe(MCT)を受光層材 料とする PD が主に使われているが、暗電流低減のために 冷却機構を必要とする。冷却機構の付帯は消費電力やサイ ズおよびコスト増につながり、応用分野拡大への障害と なっている。 一方、InP 基板上に格子整合した InGaAs を受光層とす る PD は、低暗電流、高信頼性を有し生産性にもすぐれ、 非冷却で既に光通信分野で使われている。しかしながら、 カットオフ波長は 1.7µm にとどまっている。格子不整合 系 InGaAs(1)を用いると、カットオフ波長は 2.6µm に達す るが、暗電流が大きくなり、MCT と同様に冷却機構を要 する。 我々のグループでは、近赤外センサの非冷却動作実現を めざし、量子井戸を受光層とする PD の検討をおこなった。 本報告では、InGaAs/GaAsSb タイプ II 型量子井戸構造の 作製とそれを用いた PD 作製、特性について報告する。

Low Dark Current SWIR Photodiode with InGaAs/GaAsSb Type II Quantum Wells Grown on InP Substrate─ by Hiroshi Inada, Kouhei Miura, Hiroki Mori, Youichi Nagai, Yasuhiro Iguchi and Yuichi Kawamura─ We have developed a PIN photodiode with a type-II quantum well structure, which can operate in a short wavelength region up to 2.5µm. This photodiode will make uncooled operation possible. The absorption layer consisting of 250 pair-InGaAs(5nm)/ GaAsSb(5nm) quantum well structures was grown on InP substrates by solid source molecular beam epitaxy (MBE). The p-n junctions were formed in the absorption layer by the selective diffusion of zinc. Dark current density was 0.92mA/cm2, which was smaller than that of a conventional HgCdTe detector.

Keywords: SWIR, quantum well, type II, InGaAs/GaAsSb, InP

量子井戸型近赤外フォトダイオード開発

稲 田 博 史

・三 浦 広 平・森   大 樹

永 井 陽 一・猪 口 康 博・河 村 裕 一

GaAs0.51Sb0.49 Ec Ev Absorption Hole In0.53Ga0.47As Electron 0.49eV 図 1 タイプⅡ型量子井戸構造 2 0 1 0 年 7 月・ S E I テ クニ カ ル レ ビ ュ ー ・ 第 1 7 7 号 −(129 )−

(2)

先駆的研究を報告している(2)〜(5) タイプ II 量子井戸構造の特徴としては、 ①それぞれの半導体の厚みを変えることにより、波動 関数のオーバーラップを変化させ、光学的なバンド ギャップを工学的に設計できること ②オージェ効果の抑制が期待されること などがあげられる。また暗電流の低減が期待されている。

2. エピタキシャル成長とフォトダイオード作製

2 − 1 GaAsSb 結晶成長 GaAsSb および InGaAs エ ピタキシャル膜の作製は固体ソース分子線エピタキシャル 成長法(Molecular Beam Epitaxy Method)を用いた。 III 族供給にはクヌードセンセル、V 族供給にはバルブク ラッカーセルを用いて、それぞれ、As4、Sb1を供給した。 また、成長前に As フラックス下で、500 ℃程度まで昇温 し InP 基板表面のサーマルクリーニングをおこなった。 InGaAs と比較して、受光層としての GaAsSb の結晶成 長に関しては、これまで報告例が少なく知見に乏しい。そ こで我々は、その結晶成長の最適化を進めた。GaAsSb の 結晶性評価にあたり、Fe-InP 基板上に AlInAs バッファ層 (0.2µm)を成長したのち、GaAsSb 層(1.0µm)を基板 温度、V/III 比を変えて成長させた。成長速度は、それぞれ、 GaAsSb : 0.8µm/hr, AlInAs : 1.5µm/hr とした。X 線 回折法、フォトルミネッセンス(YAG-レーザ 励起波長 1.06µm)を用いて評価した。 2 − 2  GaAsSb フ ォ ト ダ イ オ ー ド お よ び InGaAs/ GaAsSb type Ⅱ量子井戸型フォトダイオード作製 まず、 結晶性評価を目的として、図 2 に示すような GaAsSb を受 光層とする PIN-PD を作製した。S-dope InP 基板上に InGaAs バッファ層(1.5µm)、GaAsSb 受光層(2.5µm)、 および InGaAs キャップ層を成長した。InGaAs 層の成長 速度は 1.8µm/h であり、V/III フラックス比は 10 とした。 さらに、受光層として InGaAs/GaAsSb タイプ II 量子井 戸構造を用いる PD を作製した。各層の厚みは InGaAs 、 GaAsSb とも 5nm とし 250 対を形成した。GaAsSb の成長 条件は単層で最適化したものを用いた。GaAsSb と同様に バッファ層、キャップ層には InGaAs を用いた。 PIN-PD の作製プロセスは一般的なフォトリソグラフィ 技術を用いた。デバイス構造は図 2 に示すように、プレ ナー型を採用し、閉管法による亜鉛選択拡散をおこない、 pn 接合を形成した。拡散ソースとしては Zn3P2を用い拡散 温度は 480 ℃とした。P-CVD 法を用いて、拡散マスクの SiN(100nm)、および反射防止膜の SiON(180nm)を 形成した。p、n 電極には、それぞれ、Zn および Au-Ge-Ni 合金系電極を採用した。それぞれの金属を蒸着した のち、リフトオフ法によりパターニングした。

3. 評価結果と考察

3 − 1 GaAsSb 結晶成長条件最適化 GaAsSb のフォ トルミネッセンス(PL)の発光強度の V/III フラックス依 存性を図 3 に示す。基板温度 480 ℃での発光強度が他の温 度での成長に比べて強いことがわかる。また、V/III フラッ クス比が 12 に比べて、24 の場合は PL 発光は強くなり、 V/III フラックス比 20 以上では飽和傾向にある。このこと は 、 基 板 温 度 480 ℃ 、 V/III フ ラ ッ ク ス 比 20 以 上 が GaAsSb 成長条件として適していることを示唆している。 GaAsSb を受光層として作製した PD の暗電流温度依存性 を図 4 に示す。温度係数を示す n 値は、V/III フラックス比 が 12 場合の 2.8 に比べて、24 の場合は 1.3 と小さくなって いる。n 値が 1 に近いほど結晶欠陥を介したリーク電流成 分が少ないことから、V/III フラックス比 24 での結晶性改 SiON Zn doped region p-electrodes SiN InGaAs cap Absorption layer

InGaAs (5nm) / GaAsSb (5nm) 250p air or GaAsSb (2.5μm) or InGaAs (2.5μm) InGaAs buffer n-electrodes InP sub. 図 2 フォトダイオード断面の模式図 ● ● ■ ■ ■ ■ ■ ■ ▲ ▲ ● ●

V/III flux ratio

0 10 20 30 40 50 PL intensity (a.u.) 1.2 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 ● ● Ts:450℃ ■ ■ Ts:480℃ ▲ ▲ Ts:520℃ 図 3 フォトルミネッセンス発光強度の V/III フラックス比依存性 −(130 )− 量子井戸型近赤外フォトダイオード開発

(3)

善を示唆しており、結晶欠陥を介した発生-再結合電流が抑 制され、理想ダイオードの値に近づいていると考えられる。 3 − 2 InGaAs/GaAsSb 量子井戸型フォトダイオード V/III フラックス比 24,基板温度 480 ℃の GaAsSb 成長条 件を用いて成長した InGaAs/GaAsSb タイプ II 量子井戸の 発光スペクトルを図 5 に示す。室温で 2.4µm にピークが観 測された。この発光は InGaAs と GaAsSb のタイプ II ヘテ ロ界面での遷移によるものと考えられる。 さらに、InGaAs/GaAsSb 量子井戸を受光層とする PD の暗電流のバイアス依存性を図 6 に示す。受光径は 140µm である。暗電流は 140nA@-1V であった。厳密にはデバイ ス構造の違いを考慮するべきであるが、これまで報告され た値より改善されており、MCT に比べても約 1 桁程度、暗 電流は低い。この結果は InGaAs/GaAsSb タイプ II 量子井 戸型 PD の室温動作の可能性を示唆するものである。 図 7 に感度の波長依存性を示す。測定は室温、無バイア スで行った。2.5µm までの感度が確認され、最大 0.6A/W の感度が得られた。 図 6 に示されるように、量子井戸の構成要素である InGaAs および GaAsSb の単層を受光層とする PD の暗 電流は、量子井戸型の PD の暗電流よりバイアスにかか わらず小さい。このことは、量子井戸型 PD では各層の InGaAs/GaAsSb ヘテロ界面品質が特性を大きく左右する ことを意味する。したがって、今後、暗電流を低減して S/N を改善するためには量子井戸を構成する InGaAs と GaAsSb ヘテロ界面品質の改善が必要であると考えられる。

4. 結  言

InGaAs/GaAsSb タイプ II 量子井戸構造を受光層に用い た、プレナー型の PIN-PD を作製した。室温で受光径 140µm の素子で暗電流 140nA、感度 0.6A/W を実現した。 このことは、InGaAs/GaAsSb タイプ II 量子井戸型 PIN-PD がイメージセンサ等の応用分野において、非冷却動作 の可能性を有することを示唆している。 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ ▲ 1000/T (K-1) 2.0 2.5 3.0 3.5

Dark current density (A/cm

2) at Vr=1V 1 1x10-1 1x10-2 1x10-3 1x10-4 1x10-5 ▲ ▲ GaAsSb V/III : 24 ■ ■ GaAsSb V/lll : 12 Id exp(Eg/nkT) T:temperature(K) Eg:bandgap(eV) Id:dark current(A) n=2.8 n=1.3 図 4 GaAsSb PD の暗電流温度依存性 Wavelength (µm) 1 1.5 2 2.5 3 3.5 PL intensity (a.u.) 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 図 5 InGaAs/GaAsSb タイプⅡ量子井戸の室温での発光スペクトル ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ ▲ ◆ ■ Applied Voltage (V) 0 2 4 6 InGaAs/GaAsSb quantum wells InGaAs GaAsSb V/III : 24

Dark current (A)

1x10-5 1x10-6 1x10-7 1x10-8 1x10-9 1x10-10 図 6 作製した PD の暗電流バイアス依存性 Wavelength (µm) 1.8 2 2.2 2.4 2.6 2.8 R es po ns e ( A /W ) 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 図 7 感度の波長依存性 2 0 1 0 年 7 月・ S E I テ クニ カ ル レ ビ ュ ー ・ 第 1 7 7 号 −(131 )−

(4)

本研究は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) の産業技術実用化開発費助成事業の支援を受けて行われた。 参 考 文 献 (1)M.Wada and H.Hosomatsu : Appl. Phys. Lett. 64, 1265(1994) (2)A.Yamamoto, Y.Kawamura, H.Naito, and N.Inoue : J.Cryst. Growth.201, 872(1999) (3)R.Sidhu, N.Duan,J.Campbell, and A.Holmes : IEEE Photon. Technol. Lett. 17, 2715(2005) (4)G.J. Brown, J.E. Van Nostrand, S.M. Hedge, W. Siskaninetz, Q.-H.Xie Proc. of  SPIE 4650, 179(2002) (5)Y. L. Goh, D. S. G. Ong, S. Zhang, J. S. Ng, C. H. Tan, J. P. R. David Proc. of SPIE 7298, 729837-1(2009) 執 筆 者---稲田 博史*:伝送デバイス研究所 新領域研究部 主席 化合物半導体光デバイス/センサーの研 究開発に従事 三浦 広平 :伝送デバイス研究所 新領域研究部 森  大樹 :伝送デバイス研究所 新領域研究部 主査 永井 陽一 :伝送デバイス研究所 新領域研究部 主席 猪口 康博 :伝送デバイス研究所 新領域研究部 グループ長 工学博士 河村 裕一 :大阪府立大学 教授 理学博士 ---*主執筆者 −(132 )− 量子井戸型近赤外フォトダイオード開発

4. 謝  辞

参照

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