1〒 631–8505 奈良県奈良市中町 3327–204 近畿大学大学院農学研究科 2〒 657–8501 兵庫県神戸市灘区鶴甲 3–11 神戸大学大学院人間発達環境学研究科 3〒 181–8585 東京都三鷹市大沢 3–10–2 国際基督教大学教養学部 (2016 年 12 月 27 日受付;2017 年 6 月 23 日改訂;2017 年 6 月 24 日受理) キーワード:ヒメダカ , 遺伝的撹乱 , 遺伝的多様性 , 保全 , 予防原則 Japanese Journal of Ichthyology © The Ichthyological Society of Japan 2017
Ryohei Nakao, Yuka Iguchi, Xiangying Zhou, Sakurako Kamide, Tadao Kitagawa* and Makito Kobayashi. 2017. Extent of genetic introgression in wild populations of minami-medaka in the Nogawa River, Tokyo, Japan. Japan. J. Ichthyol., 64(2): 131–138.
Abstract Genetic disturbance in Japanese wild medaka populations (Oryzias latipes
species complex) has resulted mainly from artificial introductions from geographically distinct populations or of commercial varieties, especially an orange-red body color variety (himedaka). Because the extent of genetic introgression within a single water body has remained unclear, the genetic population structure of wild minami-medaka Oryzias latipes in the Nogawa River, a tributary of the Tamagawa River system in Tokyo, Japan, was surveyed using three DNA markers (cytb and ND2 genes on mitochondrial DNA and b-marker on nuclear DNA) to evaluate the extent of introgression throughout upper and lower reaches. Genotypes originating from himedaka were detected at all sites surveyed. Although different genetic composition of introgressed mitotypes among some sampling sites suggested multiple introductions of non-native populations, high dispersal rates of introgressed genes could not be rejected as a cause of wide-spread introgression. Based on this study, appropriate management strategies for the genetic conservation of wild medaka populations are discussed.
*Corresponding author: Graduate School of Agriculture, Kindai University, 3327–204 Nakamachi, Nara 631–8505, Japan (e-mail: [email protected])
人
為的な影響を介した同一種内の他地域由来 の集団の侵入は,各集団の遺伝的固有性の 低下や喪失を引き起こす.このような遺伝的な撹 乱は,生物多様性の基本単位である「種」に含ま れる遺伝的多様性を低下させ,種が長期的に存続 していく上で重大な問題を引き起こすものである (Frankham et al., 2002;Allendorf et al., 2013; 向 井ほか,2013;環境省,2015).
メダカ種群 Oryzias latipes species complex(Asai et al., 2011)は,ダツ目メダカ科に属する小型の 純 淡 水 魚 類 で あ り, 国 内 に は ミ ナ ミ メ ダ カ Oryzias latipes とキタノメダカ Oryzias sakaizumii の
2 種が生息している.いわゆる「メダカ」として 全国的に親しまれている両種は,2 種間の分化だ けでなく遺伝的に異なる多くの地域集団を有して おり,遺伝的多様性に富んでいることが知られて いる(酒泉,1990;Takehana et al., 2003).しかし, 生息場の減少や外来種による影響から集団や個体 数が減少し,現在,2 種はともに絶滅危惧 II 類に 指定されている(環境省,2013).また,全国各 地で人為的に導入された外来集団との交雑による 遺伝的撹乱が 2 種にまたがって生じており,その 主要因が観賞魚や大型肉食魚の餌魚として大規模 に養殖され全国に流通している黄体色変異品種の
東京都野川のミナミメダカにおける外来遺伝子の
河川内分布現況
中尾遼平
1, 2・入口友香
1・周 翔瀛
3・上出櫻子
3・北川忠生
1・小林牧人
3ヒメダカであることが明らかとなっている(Nakao et al., 2017a).均質な遺伝子構成をもつヒメダカ による遺伝的撹乱の拡大は,各地域集団の遺伝的 な固有性の喪失に加えて全国的な遺伝子構成の均 質化を招く危険性がある(小山ほか,2011;北川 ほか,2017). 近年,国内のメダカ野生集団における遺伝的撹 乱の実態の情報は蓄積されつつある(Takehana et al., 2003; 小 山・ 北 川,2009; 中 井 ほ か,2011; 横 田 ほ か,2014; 入 口 ほ か,2017; 今 井 ほ か, 2017;Nakao et al., 2017a, b).外来遺伝子の移入源 を特定し,侵入後のその分散しやすさを把握する ことは,メダカ 2 種の野生集団における遺伝的撹 乱の拡大の予防や,在来集団の効果的な保全施策 への有用な情報となる.しかし,野生メダカの潜 在的な移動や分散範囲である水系や流域内を対象 とした遺伝的撹乱の実態の調査事例は少なく,特 に外来遺伝子の直接的な分散範囲である単一河川 の上流から下流までの流程を連続的に調査した報 告はない. これまでに,近畿地方の奈良県大和川水系と兵 庫県武庫川水系において同一水系の複数の地点を 対象としたヒメダカによる遺伝的撹乱の実態調査 が行われている(小山・北川,2009;中井ほか, 2011;横田ほか,2014).しかし,これらの地域 に在来のミトコンドリア DNA の遺伝子型(マイ トタイプ)がヒメダカのもつマイトタイプ B1a と 共 通 す る た め(Takehana et al., 2003; 小 山 ほ か, 2011),在来とヒメダカ由来の遺伝子型の識別が 出来ていない.ヒメダカ由来の遺伝子の分布実態 を正確に把握するためには,野生集団に移入され たヒメダカ由来の遺伝子型を容易に判別できる地 域の河川集団を調べる必要がある.そこで本研究 では,在来集団のマイトタイプの構成がヒメダカ とは共通ぜず,ヒメダカ由来の遺伝子型が比較的 高い頻度で検出されている東京都の野川のミナミ メダカ集団を対象として(Takehana et al., 2003; Nakao et al., 2017a),ヒメダカおよびその他の外来 遺伝子の分布現況について調査した.またこの結 果から,今後,メダカ野生集団の遺伝的多様性を 保全していく上での基本的な方針について提案を 行った. 材 料 と 方 法 標本採集 野川は,東京都国分寺市の日立製作 所中央研究所にある大池を水源として,小金井市, 三鷹市,調布市を貫流し,世田谷区で多摩川に合 流する流域面積 69.6 km2,流路延長 20.2 km の一 級河川である(東京都建設局,2009).野川は, 東京都内では貴重な自然河床の河川で,遊歩道や 河川に降りられる階段,自然公園などが整備され ており,多くの市民のレクリエーションの場となっ ている.植生および生物種も豊富であり,2001 年の時点では魚類ではミナミメダカのほかにオイ カワ Opsariichthys platypus やカマツカ Pseudogobio esocinus などの生息が記録されている(東京都建 設局,2015).このような比較的良好な環境によ り,ミナミメダカは流程全域に認めることが出来 る. 本研究では,2014 年から 2015 年にかけて野川 本流の 8 地点でミナミメダカ 215 個体を採集した (Table 1,Fig. 1).このうち site 2 では,ヒメダカ の特徴である黄体色の個体が 1 個体捕獲された. 採集した個体は,苦痛をあたえないために 0.05% 2- フェノキシエタノールで麻酔した後,99.5% エ タノールで固定した.ミナミメダカは絶滅危惧種 に指定されているが,野川の集団はすでに高い割 合で外来遺伝子が確認されているため,生物多様 性上の保全対象としての位置づけは低い.また, 1 地点の採集は 30 個体程度としたが,この数は 多回産卵するミナミメダカ 1 個体の 1 日の最大産 卵数と同程度の数である.したがって,本研究に おける採集が河川集団の個体数や遺伝的多様性に 与える影響は小さいと考えられる. 遺伝解析 各標本の筋組織または鰭組織から フ ェ ノ ー ル・ ク ロ ロ ホ ル ム 法(Asahida et al., 1996)によって全 DNA を抽出し, TE 緩衝液中に 保 存 し た. 本 研 究 で は, 外 来 遺 伝 子 の 検 出 に Nakao et al.(2017a)と同様の方法を行い,ミトコ ンドリア DNA(mtDNA)分析としてチトクロー ム b(cytb) 領 域 を 対 象 と し た RFLP 分 析(cytb 分析;Takehana et al., 2003),核 DNA 上のヒメダ カの黄体色原因遺伝子検出マーカー分析(b マー カー分析;中井ほか,2011)を行った.cytb 分析 における PCR プロトコル,RFLP 分析で使用する 制 限 酵 素, マ イ ト タ イ プ の 判 定 に つ い て は Takehana et al.(2003)に従った.cytb 分析により 検出されたマイトタイプのうち,関東地方に在来 のもの(マイトタイプ B11,B34,B36)を「在来 型」,ヒメダカを構成しているマイトタイプ B27 および B1a を「ヒメダカ型」,ヒメダカ型以外で 関東地方に在来でないものを「他地域型」に分類 した.しかし,最近の著者らの調査により,cytb
分析のみではマイトタイプ B1 内の多型(B1a と B1c)の判別が困難であること,さらに,マイト タイプ B1a には外来でヒメダカ型にも含まれて いるマイトタイプ B1a(B1a-I)以外に関東地方在 来のマイトタイプ B1a(B1a-II)も含まれている ことが明らかとなっている(入口ほか,2017). そこで,cytb 分析でマイトタイプ B1 と決定され た 個 体 に つ い て は, 入 口 ほ か(2017) に よ る mtDNA の NADH 脱水素酵素サブユニット 2(ND2) 遺伝子領域の RFLP 分析(ND2 分析)を追加し, マイトタイプ B1 内の多型判定を行った.さらに, ND2 分析においても判別できなかった個体の遺 伝子型については,入口ほか(2017)に従って同 領域の塩基配列を決定した. b マーカー分析につ いては中井ほか(2011)に基づいて実施し,B 対 立遺伝子を「野生型」,b 対立遺伝子を「ヒメダ カ型」としてそれぞれ分類した. 流程距離・堰等の構造物調査 各採集地点間の 距 離 を, 画 像 解 析 ソ フ ト ImageJ(ver. 1.50i, National Institute of Health, USA) お よ び MtrackJ plug-in(Meijering et al., 2012) を使用して地図上 のプロットから野川の流程に沿って計測した.
また,標本採集と並行して,野川の上流(site 1) から下流(site 8)まで各地点間に造成されてい
Table 1. Wild medaka population genotypes observed at each survey site in the Nogawa River
Site
No. Site name n
b-marker Mitotype
Wild Hybrid Himedaka Native Himedaka Other local UK*
B/B B/b b/b B11 B34 B36 B1a-II B1a-I B27 B1c B15 A13
1 Kuraone-bashi 26 22 4 2 5 1 13 2 2 1 2 Nakamae-bashi 27 25 1 1 12 5 9 1 3 Yamabe-bashi 25 22 3 10 1 2 12 4 Izumi-bashi 26 25 1 15 3 8 5 Otozaka-bashi 28 27 1 18 2 4 3 1 6 Nogawa-bashi 32 25 7 9 3 1 1 10 2 3 3 7 Shinmei-hashi 25 22 3 9 4 2 5 1 2 2 8 Kitami-ohashi 26 26 3 3 2 6 8 2 1 1 215 194 20 1 78 6 5 11 36 57 7 8 1 6 *Unknown mitotypes
Fig. 1. Survey sites of wild medaka populations (A and B) and gene frequencies at each site (C) in the Nogawa
る堰等の構造物の有無を調査した.メダカの遊泳 能力は低く,流速の小さい場所(10 cm/sec 以下) が生息に好ましいと報告されていることから(上 月ほか,2000),流速の速い区間は集団間の交流 を阻害する要因となりうる.本研究ではメダカの 移動をある程度阻害する可能性があるものを構造 物とみなし,流水に高低段差をもたらす堰や組み 石や(Fig. 2A),段差がなくても平常水位での流 速が明らかに速くなる場所を記録した(Fig. 2B). 距離的要因やこれらの構造物の存在により,メ ダカの移動が妨げられることで地点間の外来遺伝 子の頻度に差が生じ,各集団構造へ遺伝的な影響 を与えている可能性があるため,各地点間のマイ トタイプ構成を用いてペアワイズ Fstを算出し, 各地点間の差異について 1000 回の Permutation test を行った.一方, b 対立遺伝子には捕食による選 択圧による大きなバイアスがかかることが予測さ れたため(Nakao and Kitagawa, 2015),b マーカー
の結果に対するペアワイズ Fst値の算出は実施し
なかった.また,各地点間の距離や構造物の数と
地点間のペアワイズ Fst値との間の相関をみるた
め,Mantel 検 定(Mantel, 1967) を 実 施 し た. こ のときのペアワイズ Fst値の算出と Permutation test
に は 解 析 ソ フ ト Arlequin ver. 3.52(Excoffier and Lischer, 2010) を,Mantel 検 定 に は 解 析 ソ フ ト PASSaGE2(Rosenberg and Anderson, 2011)を用いた.
結 果 本研究による遺伝解析の結果,各遺伝子マー カーで多くの地点から外来遺伝子型が確認された. cytb 分 析 で は,100 個 体(46.5 %) が 在 来 型, 93 個 体(43.3 %) が ヒ メ ダ カ 型,16 個 体(7.4 %) が他地域型であった.他地域型をもつ個体のうち, 1 個体はキタノメダカの遺伝子型(マイトタイプ A13)を有していた.また,Takehana et al.(2003) で 報 告 さ れ て い る マ イ ト タ イ プ と 合 致 し な い RFLP パターンが 6 個体(2.8 %)でみられた(Table 1). cytb 分析において,215 個体のうち 54 個体か らマイトタイプ B1 型が確認された.マイトタイ プ B1 型をもつ個体について ND2 分析で精査した ところ,入口ほか(2017)で決定されたマイトタ イプ B1 型内のすべてのグループ(B1a-I,B1a-II, B1c)の RFLP パターンに加えて,新たに 2 種類 の RFLP パターンが検出された.しかし,これら 2 種類のパターンをもつ個体について ND2 領域 の塩基配列決定を行ったところ,入口ほか(2017) で登録されていた既知の塩基配列と一致し(DDBJ 登 録 番 号:LC133214 お よ び LC133215), ハ プ ロ タイプネットワークにより識別されるグループ I (マイトタイプ B1a-I)に含まれることが明らかと なった.したがって,cytb 分析によりマイトタイ プ B1 型と判別された 54 個体の内訳は,マイト タ イ プ B1a-II が 11 個 体, マ イ ト タ イ プ B1a-I が 36 個 体, マ イ ト タ イ プ B1c が 7 個 体 と な っ た (Table 1). b マーカー分析では,野生型が 194 個体(90.2 %),ヘテロ型(B/b)を含めたヒメダカ型が 21 個体(9.8 %)から検出された.また,site 2 で採 集されたヒメダカ個体 1 個体はヒメダカ型マイト タイプと b 対立遺伝子をホモ接合で有していた. mtDNA 分析および b マーカー分析の結果を合わ せると,215 個体のうち 120 個体(55.8 %)から
外来の遺伝子型が検出されたことになる(Table 2). また,ヒメダカ由来の遺伝子型は 8 地点すべてか ら確認された(Table 1).
構造物の調査では,全流程で計 19 個の構造物 を確認した.各地点間の構造物の数は,site 1–2: 5 個,site 2–3:2 個,site 3–4:0 個,site 4–5:5 個, site 5–6:3 個,site 6–7:3 個,site 7–8:1 個であっ た(Fig. 1).各地点間の mtDNA の Fst値は全地点 間 で -0.01876–0.25877, 隣 接 す る 各 地 点 間 で は -0.00997–0.17229 で あ っ た(Table 3).Permutation test の 結 果,Fst値 は site 1 と ほ か 7 地 点 と の 間, site 8 と site 6 より上流の 5 地点との間で有意に高 くなっていた.地点間の構造物数と Fst値,距離 と Fst値についてそれぞれ Mantel 検定を行ったと ころ,どちらも有意な相関はみられなかった(構 造物 vs. Fst,r = 0.28075, P = 0.166;距離 vs. Fst,r = 0.04986, P = 0.820). 考 察 以前に著者らの行った野生型体色のミナミメダ カとヒメダカの飼育実験では,ヒメダカの黄体色 は野生型のミナミメダカと交配相手の選択におい て全く影響を及ぼさないことが確認されている (Nakao and Kitagawa, 2015).このことは,放流等 によって野外へ放たれたヒメダカの遺伝子は容易 に野生集団中へと侵入できることを意味している. その一方で,同研究ではヒメダカの体色は捕食者 に見つかりやすく,捕食対象になりやすいことも 示されている.本研究で実施した遺伝解析の結果, 各地点での cytb 分析のヒメダカ型の出現頻度に 対する b マーカーのヒメダカ型(b 対立遺伝子) の出現頻度はすべての地点で非常に低くなってい た(Fig. 1).このことは,ヒメダカの表現型をも たらす b 対立遺伝子には捕食による淘汰圧が働く という飼育実験からの示唆が,野外集団において も実際に作用していることを示している. しかし,ヒメダカの体色遺伝子の表現型は劣性 で,ひとたび野生個体との交雑が生じれば,雑種 第 1 世代以降の多くの個体は野生型体色となり高 い捕食圧から解放されるため,野外集団において ヒメダカに由来する遺伝子が速やかに排除される ことはない.したがって,一度集団中に侵入した ヒメダカ由来を含む外来遺伝子の分散しやすさを 把握することは,外来遺伝子の分布範囲の推定や 外来遺伝子をもつ集団と保全対象となる集団の隔 離条件の設定など,ミナミメダカ野生集団の遺伝 的多様性を保全にむけた具体的な保護施策を計画 するための重要な情報となる. 本研究の結果,野川においてヒメダカ型を中心 とする外来遺伝子が流域全体から高頻度で確認さ れており(35.7–73.1 %;Tables 1, 2,Fig. 1),遺伝 的撹乱がかなり進行していることが明らかとなっ た.また,採集地点間のヒメダカ型の構成にはば らつきが認められたが(Table 1,Fig. 1),河川全 体でみると地点間の地理的な距離や構造物とペア ワイズ Fst値の間に有意な相関はみられなかった. したがって,野川においては河川内の流程距離や 各構造物が,明確な遺伝的分化を形成するほどの 決定的な拡散の阻害要因とはなっていないことが
Table 2. Number of medaka individuals with introgressed genotype at each survey site in the Nogawa River
Site No. Survey site sampleAll Introgression (All) a (himedaka) Introgressionb (other local) Introgressionc Unknown (UK) d Percentage (%)
1 Kuraone-bashi 26 19 16 3 0 73.1 2 Nakamae-bashi 27 15 14 1 0 55.6 3 Yamabe-bashi 25 15 15 0 0 60.0 4 Izumi-bashi 26 11 11 0 0 42.3 5 Otozaka-bashi 28 10 9 1 0 35.7 6 Nogawa-bashi 32 17 12 5 3 53.1 7 Shinmei-hashi 25 14 11 3 2 56.0 8 Kitami-ohashi 26 19 16 3 1 73.1 215 120 104 16 6 55.8
aNumber of fish with introgressed genotypes (b allele, himedaka mitotypes or other local mitotypes). bNumber of fish with the himedaka genotypes (b allele or himedaka mitotypes).
cNumber of fish with other local mitotypes. dNumber of fish with unknown cytb gene mitotypes.
示唆された.これらの結果は,メダカにおいて一 度侵入した外来遺伝子は,同一流程内に広く拡散 される可能性があることを示している. 外来遺伝子の分散しやすさをより具体的に知る ためには,現在の外来遺伝子の分布状況とともに その起源,すなわち,いつ,どこで,どの程度の 規模でヒメダカや他地域のメダカが放流されたの かを知る必要がある.しかし,野川においてこれ らの放流に関する具体的な情報は確認されていな い.メダカの飼育は容易で安価な飼育個体が国内 どこでも購入できるため,外来集団の放流は個人 規模の活動でも行われる可能性があり,全国の河 川集団でも放流の記録や情報を欠く場合がほとん どであると考えられる.そこで,遺伝子型の特定 が容易なヒメダカ遺伝子を標識として,各地点の 集団の遺伝子型構成から外来集団の移入場所(放 流場所)の特定と遺伝子の分散状況の推定を試み た. 本研究の結果,流程全体では構造物の数や流程 距離と遺伝的分化の間に相関は見いだせなかった. しかし,さまざまな実験魚道を使用した過去の遡 上実験では,メダカは一定の流速(40–50 cm/s) を上回ると遡上が不可能となる事が報告されてい る(鈴木ほか,2001).これは通常の一般的な河 川においてごく普通に生じる流速であり,常にあ る程度の流量があり構造物が多い野川においても, ミナミメダカとヒメダカの上流方向への移動は阻 害される場所が多数存在すると考えられる(Figs. 1, 2).本研究の結果,最上流部にあたる site 1 で はヒメダカに由来するマイトタイプ B1a-I が多く 検出されている一方で,site 2 より下流では同じ くヒメダカに由来するマイトタイプのマイトタイ プ B27 が多い傾向にあり,その構成に差異が見 られた.また site 1 は他地点間のペアワイズ Fst値 との間で有意に高い値を示していた(Tables 1, 3). このような最上流部とその下流全域との遺伝的差 異は外来遺伝子の分散過程における遺伝的浮動や それぞれの地点における瓶首効果の結果生じた可 能性もある.しかし,もしそれぞれの地点に含ま れる外来遺伝子の構成が放流集団の構成を反映し ていると仮定すれば,site 1 付近で放流されたヒ メダカの集団とは別に,site 2 より下流でもヒメ ダカの放流が行われた可能性が高い.一般に流 通・販売されているヒメダカがマイトタイプ B27 を多く含むことが報告されている(小山ほか, 2011;北川ほか,2017).したがって,site 2 より 下流でヒメダカが放流されたのであれば,それら は一般的なヒメダカ集団の遺伝子組成をもってい たと考えられる.また同様に考えると,下流側の site 6–8 からは他地域型のマイトタイプがこれよ り上流川よりも比較的多く検出されたことから, site 6 より下流でも異なる遺伝的組成をもった集 団の放流があった可能性もある.いずれにしても, このような特定の地点を境にしてその下流で遺伝 子型の構成の変化が認められることは,少なくと も本河川におけるミナミメダカの上流への移動の 困難さを裏付ける結果といえる. 本研究でヒメダカ型を中心とする外来遺伝子が 野川流域全体から高頻度で確認された原因につい て,外来遺伝子の分散のしやすさのリスクが高い ものから順に,1)ミナミメダカにおける外来遺 伝子の分散は迅速に進行する,2)野川では外来 遺伝子の侵入から十分な時間が経過している,3) 複数の場所または複数回の外来集団の放流が行わ れたという可能性があげられる.今回の野川での 調査では,b 対立遺伝子が実際に野外でも淘汰さ れていること,ミナミメダカの外来遺伝子の上流 方向への移動が困難である可能性とともに,上記 の 3)の複数回の放流の可能性に関して示唆的な 情報を得ることができた.しかし,河川全体にお
Table 3. Pairwise Fst between wild medaka populations in the Nogawa River
Site No 1 2 3 4 5 6 7 8 1 – 2 0.17229** – 3 0.24378** –0.00997 – 4 0.25563** –0.01876 0.01347 – 5 0.25877** 0.04200 0.11774* 0.00781 – 6 0.17182** 0.01623 0.01517 0.05080 0.10902** – 7 0.15089** 0.00926 0.03417 0.03145 0.04474 –0.00659 – 8 0.07149* 0.05011* 0.06302* 0.12291** 0.17522** 0.01103 0.03153 – *P < 0.05, **P < 0.01
ける高頻度な外来遺伝子の分布や地点間の地理的 な距離や構造物と集団の遺伝子構成の間に有意な 相関はみられなかったことからも,ほかの 1)と 2) の可能性は排除出来ない.野川では,上流から下 流まで連続して野生のミナミメダカが生息できる 良好な生息環境が維持されていることや,人々が 親しみやすい水辺環境が整えられていることが外 来遺伝子の分散機会の増加や,外来集団の放流が 起きやすい状況を生み出している可能性もある. 本研究と同様の調査を魚類の移動を完全に阻害 する構造物や生息環境が良好ではない区間を挟む 別の河川で行った場合,野川の結果とは異なるこ とは十分にありうる.したがって,個々の河川に おいて本研究のような調査を個別に実施して判断 していかなければならないことになる.しかし, これには調査・分析に多大なコストと時間を要す ることから,早急な対策が必要な野生メダカ集団 の保全への対応においては現実的ではない.鬼倉・ 渡辺(2016)は,近年注目されている国内外来種 への対応として,在来種や個体群の存続にあたえ るリスクを判断基準とする必要があると同時に, そのデータ取得や許容リスクの時間的変化に伴う 判断の困難さも課題としてあげ,生物多様性保全 における「予防原則」を適切に考慮する必要性を 述べている.全国で進行している野生のメダカ集 団の遺伝的撹乱への対応においても,今回得られ た野川のミナミメダカ野生集団における調査結果 を「予防原則」の立場から判断し,外来遺伝子の 分散しやすさに関する当面の現状のリスク評価の 基準とする必要があろう.すなわち,最もリスク の高い要因である 1)メダカにおける外来遺伝子 の分散は迅速に進行するという仮定が排除できな いことを,今後の保全施策の前提条件とすべきで ある.つまり,野生メダカ集団に対する効率的な 保全対象集団の探索,保全対象集団間の優先順位 付け,集団の保存・回復・復元作業などの具体的 な遺伝的多様性の保全施策を行っていく場合,1) ある支流の 1 地点から外来遺伝子が検出された場 合はその支流単位で外来遺伝子遺伝子移入が生じ ていると想定すること,2)保全対象とする在来 集団を外来遺伝子が検出された集団と同一支流内 に設定すべきではないこと,3)一般的な(魚類 の移動を完全に阻害するほどの高低段差のない) 河川内の構造物は,外来遺伝子の拡散の決定的な 阻害要因とはならないことを前提とした判断をし ていくべきである. また本研究の結果は,野川のようにすでに外来 遺伝子が混入している集団についての取扱いにつ いても逆に示唆的なものとなりうる.野川では大 規模に遺伝的撹乱が生じている一方で,在来の遺 伝子型が確認されており,野川本来の遺伝的多様 性がある程度保持されている可能性を示している. また,良好な環境が維持されている野川のミナミ メダカはその水辺環境の象徴生物ともなりうる. 今後,ヒメダカなどの追加放流によって野川の野 生集団の遺伝的多様性をこれ以上喪失しないよう ヒメダカなどの放流を抑制させるとともに,前述 の提案を考慮して他の流域に影響を及ぼさないよ う管理できれば,地域の財産としての保全対象と して扱うことも可能であろう. 今後,支流レベルから水系レベルへと範囲を拡 大した遺伝的撹乱の影響について評価していくた めに,野川の下流部(site 8)よりも下流で合流 する多摩川本流を経ての遺伝子型の分散について も調査していく必要がある.また,マイクロサテ ライト DNA など移動分散がより詳細に調べられ る遺伝マーカーも有用であろう. 謝 辞 本研究を遂行するにあたり,近畿大学農学部の 細谷和海教授には数々の有益なご助言をいただい た.また同水圏生態学研究室の学生諸氏には,調 査等にご協力いただいた.本論文を改訂するにあ たり,2 名の匿名の校閲者には大変有益な助言を いただいた.この場を借りて厚く御礼申し上げる. 引 用 文 献
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