競争政策・独禁法と私訴制度利用について
損害賠償制度の利用を中心に
瀬 領 真 悟
IH
皿WV
目 次 はじめに 競争政策・独禁法における私訴制度の担い 手の範囲と消費者利益の保護 競争政策・独禁法をめぐる状況変化一私訴 制度をめぐる背景の変化 独禁法に関連する私訴制度 私訴制度をめぐる問題点と課題 終わりに 工 はじめに 本稿は,主に損害賠償制度を素材にして,わ が国の競争政策・独禁法における私訴制度をめ ぐる現状と問題点を整理し,その位置づけを見 直す手がかりを得ることを狙いとする。 私訴制度に対しては競争政策・独禁法制にお いてどのような位置づけが与えられてきたのか。 まず,損害賠償制度をめぐり一般消費者による 損害賠償に関する大規模訴訟で社会的注目を集 めた時期があった。これらの訴訟の結果は,独 禁法における私訴制度が一般消費者には使用困 難で,本来期待された機能を果たせないことを 示したにすぎなかった。一般消費者ではない事 業者等による私訴制度利用も諸外国(特に米国) と比較して乏しいものであると評価される。次 に,損害賠償と並び独禁法における民事規律と して,独禁法違反にかかる行為の私法上の効力 論が展開された。通説的な学説が,無効論から 有効論を経て,現在はバリエーションを内包す る相対的・限定的無効論に落ち着き,具体的違 反行為との関連で無効範囲等を確定する傾向に ある。但し,この議論の際には,厳格な公私法 二元論や私法上の効力を争う訴訟の対世的効力 等の点で,違反行為の是正については行政的措 置に重点をおき,私法上の効力を争う私訴の役 割については二義的な位置づけしがなかったと のも思われる。これら私訴制度の位置づけは,公 取の行政的規律に比べて法の実効性確保措置と して比重の軽いものだった。 しかし,近年状況変化の兆しがみられる。競 争政策・独禁法をめぐる経済的・社会的状況が 国際面・国内面で変化しており,私訴制度もこ の影響を受けつつある。化粧品取引や談合事件 に関連して事業者や市民が違反行為に関する民 1)民事救済のあり方や違反行為の私法上の効力論 の検討を通じ独禁法と私法秩序との関連性を整理・ 検討したものとして,川濱昇「独占禁止法と私法 取引」ジュリスト1095号170頁以下参照。効力論 の整理として,服部育生「独占禁止法違反行為の 私法上の効力」(1)(2)民商法雑誌94巻2号24頁・ 3号20頁,経済法学会編『独占禁止法講座第孤巻』 (商事法務研究会・1989年)3頁以下(高津幸一 執筆)等参照。私人が違反行為の私法上の効力を 争うことは,私人の法施行体制への参加を意味し, 法の効果的執行に資する。実方謙二『独占禁止法 (第三版)』(有斐閣・1995年)430頁。無効を争う 私訴をめぐる議論の検討も必要があるが,紙幅と 能力の関係もあり議論を損害賠償制度を中心にす る。 本稿は,公取委事務総局近畿中国四国事務所及 び滋賀大学特定研究経費の援助を受けた成果の一 部である。また経済活動法再構成研究会(座長・ 江口順一大阪大学教授)での議論を基にしており, 研究会で議論下さったメンバーに謝意を表した いo一190一 滋賀大学経済学部研究年報Vol.3 1996 事訴訟を提起し,公取による行政一法執行とは 別に注目を集めている。また,無効論をめぐっ ては民法学者や独禁法学者から,独禁法違反を 私法秩序(公序良俗等)の中に位置づける再評 価・再構成論が出現し,無効主張による私訴制 度を利用した違反行為是正効果の実効性向上が 期待されうる。では,過去に私訴制度が機能し ないといわれた問題点は改善されたのだろうか。 あるいは私訴制度利用が乏しかった状況が変化 し,それを社会的に受け入れる素地は生成され たのであろうか。 本稿では,以上の状況認識を背景にし,次の 順で検討を進める。まず,私訴制度の担い手の 範囲や独禁法での役割を理解する手がかりを, 独禁法の目的や過去の運用中での素材から検討 する。次に,私訴制度のあり方の再検討を迫る 背景となっている近年の競争政策・独禁法をめ ぐる経済的・社会的状況の変化を示す。更に, 私訴制度の利用状況,問題点や課題及びこれら に対して現在までの対応策を整理する。最後に, 私訴制度の改善に向けた施策に対する現時点で の評価を加えた上で,私訴制度が今後競争政策・ 独禁法において果たすべきいくつかの役割を示 の す。 現在まで競争政策・独禁法で私訴という場合 に,独禁法25条又は民法709条に基づく損害賠 償訴訟や独禁法違反の存在を前提として私法上 の契約の有効・無効を争う訴訟を想定するのが 通常で,議論も両制度をめぐり展開してきた。 しかし,近年の訴訟で,違反行為による損害の 回復をめぐる不当利得返還請求訴訟,違反行為 の除去やそれによる不利益状態の回復をめぐる 契約上の地位確認や無効及び違法行為の停止を 求める差止訴訟類似の提訴が行われている。と りわけ,違法行為の停止を求める類型の訴訟で 2)本稿では私訴制度を中心にした独禁法執行の担 い手としての一般消費者の利益・権利に言及する。 消費者の利益・権利保護の全体的把握のためには, 実体規制・権利面での消費者利益・権利の検討を 要するが,それについては今後の課題とする。 は,従来の議論が想定した損害賠償訴訟に関す るものとは別の問題があり,学説の議論もこれ らの問題を想定して展開しつつある。本稿では 従来の議論との関連上,損害賠償制度をめぐる 議論を中心に取り上げる,差止訴訟に関しても 必要かつ可能な限り言及する。 また,従来の私訴の議論は,一般消費者によ る訴訟を想定し,訴訟の円滑化や一般消費者利 益の確保をはかることを念頭においた。ただし, 私訴の担い手に関しては,一般消費者以外にも 事業者等や公共団体等も主体となりうると考え られる。これらに関しても,日本の現行法制度 の下で一般消費者と同様な問題と事業者等や公 共団体等に特有な問題もあると考えられ,本稿 おう ではかかる点にも適宜言及する。
H 競争政策・独禁法における私訴制
度の担い手の範囲と消費者利益の 保護 1.独禁法の目的規定解釈と私訴制度の担い 手 独禁法で私訴制度の役割を考える際には,第 一に競争政策・独禁法の中で私訴制度の占める 位置づけ,第二に私訴制度の担い手となる私 人とりわけその一翼を占める一般消費者に対 しどのような位置づけを与えた上で,その利益 3)私訴という場合に次の限定を加える。一般消費 者及びその団体並びに事業者及びその団体を私人 とし,これらによる訴訟を私訴とするのが通念で あろう。外国法では,一般消費者に代位し地方公 共団体や法執行機関が民事訴訟を提起する場合が ある。あるいは日本では,地方自治法や会社法等 に依拠して住民や株主が独禁法関連で提訴したケー スがある。将来的には半官半民や公的資金を含む 団体の提訴等が想定される。比較法的検討と日本 法への示唆を得る際には,私人や私訴の範疇に関 して範囲の明確化等の議論を要しよう。本稿は, 主に一般消費者,事業者及びそれらの団体を対象 とし,談合等の被害者となった公共団体による賠 償訴訟等を含めて検討し,それ以外の問題は今後 の課題とする。保護を考えられるかが問題となる。前者に関し ては後に検討し(後述「V.5私訴制度の位置 づけ及び役割の検討」参照),まず後者の問題 を取りあげる。これに関して,独禁法1条の目 的規定で一般消費者の利益確保を掲げるところ がら,目的規定の検討を要する。1条のような 目的規定解釈は,独禁法内の各制度や解釈問題 に対して具体的解釈基準を示すことになるから むである。 解釈基準にかかわる独禁法の目的に関する考 のえ方としては次のようなものがある。第一に公 正かつ自由な競争という競争政策のみを法目的 ユ とする説,第二に競争政策以外の価値をも無目 アエ 的に包含するとする説及び第三に競争政策とそ れに関連づけた一般消費者の利益確保を法目的 う とする二等である。判例は石油カルテル刑事事 件判決以降,公正かつ自由な競争維持という競 争政策を直接的目的とすることを基本にしなが ら一般消費者の利益確保と国民経済の民主的発 達をも究極目的として法目的とする判断を下し ている。これに対しては有力学説の支持はある り が,批判的な学説も多い。批判の中心は,競争 政策により達成される利益と密接にかかわりを 持つ一般消費者の利益確保や経済の民主的発達 に加えて,競争政策以外の価値,場合によって はそれと対立する価値判断が導入されることに より独禁法制や運用が歪曲されることへの懸念 にある。 以上のような独禁法の目的に関する考え方の 差異について,私訴制度との関連では限定的な 検討を次のように加えることでよいと思われる。 一般消費者利益の確保を国民経済の民主的で健 全な発達と並んで法の最終・究極目的として掲 げる判例と有力学説の立場に対しては,競争 (維持)政策目的以外に,一般消費者利益の確 保や国民経済の民主的で健全な発達を目的と解 するかについて伝統的多数説からの批判がなさ れる。しかし,伝統的多数説においても具体的 法解釈において消費者利益確保の方向で制度解 釈や文言解釈を行うことに関しては反対は少な いように思われる。伝統的多数説の主張の核心 は,競争政策的価値以外の価値の恣意的導入を 拒むことにあり,それはとりわけ実体的禁止・ ゆ 規制規定を念頭においたものである。これらの 学説においても,独禁法の実施や手続の面で消 費者の利益を実現するために消費者参加を求め 4)目的規定解釈に関しては,金井貴様「現代にお ける競争秩序と法」(『現代経済社会と法』現代経 済法講座第1巻(三省堂・1990年))89頁,110頁 以下。今村他編『注解経済法[上巻]』(青林書院・ 1985年)20頁(今村成和執筆)は,目的規定が法 目的明示と解釈基準となるという意味と効果を果 たすものとする。 5)学説の整理に関しては,丹宗曉信『経済法』 (放送大学教育振興会・1996年)73頁以下。経済 法学会編『独占禁止法講座・第1巻・総論』(商 事法務研究会・1974年)168頁以下(金沢良雄執 筆)。根岸哲「営業の自由とその制限」(竹内=龍 田編『現代企業法講座・第1巻・企業法総論』 (東大出版会・1984年))257頁以下。 6)多数説であったと考えられる。根岸・前掲注 5)257頁及び根岸哲・杉浦市郎編『経済法』(法 律文化社・!996年)19頁以下(根岸哲執筆)。伝 統的多数説としておく。 7)松下満雄『経済法概説[第2版]』(東大出版会・ 1995年)49頁以下及び71頁以下。 8)今村成和『独占禁止法入門(第4版)』(有斐閣・ 1993年)9頁以下。根岸教授は伝統的多数説の立 場に立つと見られるが,『独占禁止法の基本問題』 (有斐閣・1990年)86頁では「一般消費者の利益 の確保」及び「国民経済の民主的で健全な発達の 促進」を一体的かつ統一的にとらえて独禁法の保 護法益とされる。なお,正田彬・実方謙二編『独 占禁止法を学ぶ一経済憲法入門一[第3版]』(有 斐閣・ 1995年)4頁以下(正EB彬執筆)も同様の 目的規定解釈を採用する。但し,経済の民主性維 持に重点をおき,経済的従属関係の解消を目的と 解する点で今村教授とは異なる。正田説について は次の文献も参照。正田彬『全訂独占禁止法[1]』 (日本評論社・1981年)107頁以下。 9)独禁法の目的が一般消費者の利益の確保と国民 経済の民主的で健全な発展であることを明言する 学説は多い。今村成和・前掲書注8)7頁以下及 び70頁以下。実方謙二・前掲書注1)4頁以下及 び195頁以下。根岸・杉浦編・前掲書算6)66頁 以下(杉浦市郎執筆)。
一192一 滋賀大学経済学部研究年報Vo1.3 1996 の ることには否定的ではない。かかる点では,問 題点を実体規制の面と,独禁法の実施もしくは 手続に区分して整理することが可能かもしれな い。最高裁判決以降の判例の適用範囲を限定す る学説も,目的解釈においては判例に近い立場 であり,以上のような限定を付した上で一般消 費者の利益確保を解釈指針として独禁法の目的 に取り込むことが妥当と解される。 では独禁法は,禁止行為の規律手段とその担 い手に関して限定や制限をおくであろうか。独 禁法は,違反行為の禁止達成のため,排除措置 を中心とした行政的規律,違反行為者や法人等 に対し刑事罰を課す刑事的規律,違反行為の被 害者による損害賠償訴訟を許容する等の民事的 規律といわれる規律手段を規定する。行政的規 律についでは,法運用機関として公正取引委員 会が設置される。これら諸規律については,後 にみるように公取が重要な位置を占める法構造 である。1条が明言するのは,競争政策の実施 と一般消費者の利益確保等という大枠を実現す る方向性と類型的禁止行為の明示のみで,規律 の担い手の範囲と役割について限定はない。競 争制限の「排除」を示す1条の文言は,公取に よる排除措置が及ぶことを示すと解されるが, かかる解釈も公取による排他的運用を示したと は考えられない。法は,公取による行政的措置 10)金井教授は,手段・究極目的という構成を採用 された上で,今村教授が究極目的を法目的として 採用したが「個々の実体規定の解釈に『究極目的』 をもちだしてはならないという点」に通説的見解 の眼目があると評価され,支持を表される。金井・ 前掲注4)113頁。今村教授は,独禁政策の国民 経済的意義として究極目的を説明され,一般消費 者の利益確保を法目的であるとした上で,国民経 済全体の利益を優先する解釈や一般消費者の利益 を競争維持の反射利益とする説には反対する旨を 明言される。今村・前掲書面6)7∼8頁。 11)根岸教授は伝統的多数説の立場でも一般消費者 の利益のより積極的な位置づけを要請し,規制内 容・規制手段の両面で消費者の利益・権利確保を 必須と主張される。根岸ほか著『独占禁止法入門』 11頁以下(有斐閣・1983年)(根岸哲執筆)。 以外に刑事罰や私訴制度も規定しており,「排 除する」という文言から他の規律手段や担い手 の存在を否定できないと思慮される。1条は, 目的実現の担い手に関する制約をおかず,一般 消費者による法運用参加及び一般消費者以外の 事業者等並びに公共団体等を私訴制度の担い手 として想定しても規制体系上の問題はなく,一 般消費者自身やその利益にかなう形のものであ れば積極的に取り入れることが望ましいと考え られる。 2.独禁法における消費者利益の確保 独禁法で一般消費者の利益確保が目的として 包摂される認識が十分でなかった故に,消費者 利益の確保や消費者による法運用・実現に消極 的であった可能性もある。この状況は一般消費 者による損害賠償訴訟利用に対する裁判所等の 消極的態度に反映され,そのことが私訴制度に 対する競争政策・独禁法における消極的位置づ けをもたらした一因となっていると考えられる。 そこで,独禁法運用に関して消費者利益確保と のかかわりを示す現象を簡単に見ておき,消費 者利益確保の動きに対して競争政策・独禁法が どのような役割を果たすのかを確認する。 12)「排除する」の解釈自体を公取中心主義と批判 することは可能であろう。 13)独禁法の目的を厚生極大化又は効率性最大化に 限定せず分配の公正性をも含めて実現しようとす れば,制度設計上私訴利用による損害の金銭的補 三等の意義は大きい。1条で消費者利益確保重視 の立場に立てば,法制度の枠内で消費者を法実現 主体とすることに問題はない。独禁法の保護利益 の公序的側面や消費者利益確保を法で位置づけて いることは,私訴制度等を法目的実現手段のみで とらえるのでは妥当でなく,消費者による法執行 保障が取引秩序において消費者の権利・利益保護 に不可欠であることを意味する。この理論的正当 化には,独禁法上の権利・利益と憲法上の人権と の関係及び独禁法の実現する法秩序と民法等で確 保される法秩序との関係について検討を要するが, ここでは課題としておく。 14)今村・前掲書注8)8頁はその可能性があるこ とを示している。
(1)競争政策・独禁法強化の契機と消費者 の利益確保 独禁法強化のための法改正や運用強化は1960 年代以降なされた。実体的規制規定の緩和及び 運用の消極化の一途を辿っていた競争政策・独 禁法の経済的・社会的必要性を見直し,規定や 運用を強化・整備する方向に向かう端緒となっ た象徴的現象は,消費者問題・同保護であった。 例えば,カルテル規制や不公正な取引方法規制 への注目は,カルテル・企業結合容認等に起因 する物価上昇抑制を契機とし,景表法の制定に よる表示・景品規制の整備が景品・表示による 消費者被害救済の発生を契機とし,昭和52年改 正が石油カルテル事件等を契機としたこと等で ある。 (2)裁判に現れた傾向 ①忌事事件及び行政事件 の 石油価格協定刑事事件は,独禁法の究極目的 として「一般消費者の利益」確保に言及する。 の 社会保険庁シール談合刑事事件及びラップブイ ルムカルテル刑事事件は,独禁法の法目的に一 15)村上政博『独占禁th法』76頁・79頁(弘文堂・ 1996年)は,昭和45年や昭和55年までの独禁行政 は,弱者保護・景表法による消費者保護・物価対 策が中心で,経済・産業のあり方に影響を及ぼす 競争政策が実施されず本筋を外れたものだったと 評価される。このことは,市場のあり方の問題が 放置され,消費者利益確保が弱いものにならざる を得なかったことをも示す。ただ,競争政策・独 禁法が,消費者主権や消費者選択権確保等の面で 果たす役割や市場・産業構造改善手段として消費 者参加や私訴制度活用の価値を無視してよいこと を意味しない。 16)最判昭和59年2月24日・刑集38巻4号1287頁。 下級審判決 東高飛・昭和55年9月26日・高裁刑 集33巻5号511頁。この他生産調整事件について は,同日付けの東京高裁判決・高裁刑集33巻5号 359頁。 17)東高判平成5年12月14日・判タ840号81頁・審 決集40集776頁。 18)東高曇平成5年5月21日・判時1474号31頁・審 決集40集731頁。 般消費者の利益確保が含まれる旨言及する。し ユの かし,主婦連ジュース訴訟やローヤルゼリー訴 訟では,消費者やアウトサイダーが反射的利益 の享受者であることを理由にして,公正競争規 約に対する不服申立適格が一般消費者や規約の アウトサイダーにはないとした。 ② 民事事件 松下電器再販訴訟及び石油カルテル損害賠償 ラ訴訟([独禁法25条訴訟]東京灯油訴訟,[民法 709条訴訟]鶴岡灯油訴訟)等の損害賠償訴訟 では,置型的購入者としての消費者の原告適格 の容認により,一般的に消費者が規律の担い手 として承認され,消費者利益保護を取り込んだ 理解がなされる。しかし,後にみるように損害 の存在・損害額及び因果関係に関する厳格な立 証責任負担が課されたことで,一般消費者勝訴 の見込みが極めて狭くなっていると評価される。 以上のように判例は,一般論として消費者の 利益確保を独禁法目的として認識する傾向も見 られる。しかし,個別の行政事件や民事事件で 伝統的法理論による限定を乗り越え,消費者の 利益確保を実現する結論や法理論は未だ採用さ れていない。 19)最判昭和53年3月14日・民集32巻2号211頁・ 審決集24集202頁。下級審判決 東高判昭和49年 7月19日・審決集21集353頁。 20)東高卑昭和57年11月19日・論集33巻11号2320頁・ 審決集29集191頁。 21)東斜脚昭和52年9月19日・高裁民集30巻3号 247頁・審決集24集313頁。 22)最高昭和62年7月2日・分封41巻5号785頁・ 審決集34集119頁。下級審判決 東高志・昭和56 年7月17日・三時1005号32頁・審決集28集別冊3 頁。 23)最判平成元年12月8日・民集43巻11号1259頁・ 審決集36集115頁。下級審判決:山形地鶴岡支部 判・昭和56年3月31日・判時997号18頁・審決集 28集182頁。仙台高秋田支部判・昭和60年3月26 日・判時1147号19頁・審決集31集204頁。注21), 22)及び本注の事件に関しては大量の評釈が公表 されているが,根岸・後集注59)の該当部分の注 に引用されている。
一194一 滋賀大学経済学部研究年報Vol.3 1996 (3)独禁法の下での消費者保護の限界 独禁法は消費者利益の確保を目的に含み,消 費者の利益確保を契機とした法運用強化や法改 正が行われている。しかし,独禁法での消費者 利益の確保には,判例の示した運用面での限界 とともに,独禁法の構造からくる次のような限 ゆ界がある。 第一に,独禁法は競争秩序維持を媒介にして 消費者利益の確保を図る法なので,競争と無関 係な形で消費者保護を図るという論理や規定の 導入は不可能である。 第二に,法運用に関する法構造上の問題があ る。現在までの独禁法における法執行の担い手 や規律手段に関する規定や運用では,行政(公 取)が中心におかれ,行政(公取)中心構造と なっている。公取の担う行政的規律措置である 排除措置に違法行為やその効果の除去の中心的 の役割を負わせて,民事的規律:や刑事的規律に関 しても公取が,重要な部分を占める形になって いる。例えば,民事的規律に関して,独禁法25 条訴訟の利用には,確定審決の存在を前提とす る審決前置主義が採用される。刑事的規律に関 して,専属告発制度が設けられ,独禁法違反に かかる犯罪については公取しか告発できない。 それ以外にも,各訴訟に関して第一審管轄権が 東京高裁に限定される。以上については,次の 趣旨説明がなされる。独禁法は,多様で複雑な 経済活動に関する法であり運用の円滑化のため 専門機関である公取をおき,公取を法運用の中 心にして各規律の効果的実施を担保する。公取 は,各規律手段の効果的実施確保のため法執行 内容を見直し,改善を図る責務を負う。独禁法 は行政(公取)が運用する法であるという意識 すらあると指摘される。
皿 競争政策・独禁法をめぐる状況変
化一私訴制度をめぐる背景の変化
私訴制度のあり方を検討するに当たっては, 競争政策・独禁法をめぐる近年の状況変化をと らえておく必要がある。 第一に,国際的な経済(政策)制度・法律制 度の調整・統合の潮流の一部を競争政策・独禁 法が占めていることである。これは,二国間 (例えば日米)貿易摩擦問題とその対応策での 競争政策・独禁法問題の位置づけの変化並びに WTO等の多角的貿易交渉及び地域統合の進展 における競争政策・独禁法問題の浮上という現 象に現れている。資本主義で市場経済体制を採 用する諸国で自由貿易体制の進展や経済の国際 化・相互依存性の拡大に伴い,基本的競争ルー ルとしての競争政策・独禁法における個別制度 も各国間での相互調整や統合化に向けての圧力 ヨのに曝されている。 第二に,国際的状況変化の影響を受けて,国 内的にも競争政策・独禁法をめぐる状況が変化 24)自立した消費者の存在,訴訟利用を厭わない社 会等があれば現状とは異なった状況を生んだと思 われる。現時点では,いわゆる「日本社会の特性」 に基づいた制約があり,それに対する措置として 十分な消費者教育や情報公開等の情報提供制度等 の競争政策・独禁法以外の他の政策・法制の見直 しを要する。 25)根岸・前掲書注8)97頁以下。 26)金井・前掲注4)143頁。 27)独禁政策の手段を示す1条前段の「排除して」 という文言も公取の排除措置による違法行為・状 態の除去を示すとする目的規定解釈が通説である ことからもうかがえる。 28)谷原修身『現代独占禁止法要論』(中央経済社・ 1989年)279頁は,審決前置の立法理由を専門機 関としての公取の機能重視の一表現と説明する。 29)その他独禁法にかかわる問題点については,根 岸哲「公正取引委員会の権限の強化」ジュリスト 1082号143頁。 30)通商政策・貿易摩擦と競争政策・独禁法の関係 に関しては,ジュリスト965号15頁及び法律時報 66巻7号20頁の特集,滝川敏明『貿易摩擦と独禁 法一グローバル経済下の競争政策と通商政策』 (有斐閣・1988年),松下満雄…「独占禁止法の国際 的ハーモナイゼイション(上)(下)」国際商事法 務20巻9号1031頁・10号1227頁等を参照。していることである。1990年代に入っての長期 的不況や先進国へのキャッチアップ型産業発展 の終焉に伴い,産業に対する社会や行政の姿勢 の変化は,国内的にも要請され,企業重視から 生活者・消費者重視への政策転換や規制緩和政 策に現れている。企業社会でも市場経済におけ るルールを重視する行動や自己責任の重視に伴 い,経済法制度全体の見直しの必要性や競争政 策・独禁法制の位置付けを変更する機会を生み, 個別制度に対しても見直し圧力がかかっている。 この傾向は,1990年代に入っての競争政策・ 独禁法制及び運用の展開に影響を及ぼしている。 1990年代に競争政策・独禁法関連でとられた措 置(法改正及び法運用強化)は,第一に法違反 行為の抑止力強化措置,第二に法運用の透明性 確保措置,第三に適用除外の見直し・縮小とい う側面から整理できる。これらが,私訴制度と のかかわりでいかなる意味を有しているのであ ろうか。 第一及び第二の点に関連する具体的措置の内 容を検討してみると,競争政策・独禁法の強化 は,実体的規制の強化や見直しではなく,運用 面の改善・強化にウエイトがおかれていること が明確にみてとれる。私訴制度の改善も損害賠 償制度の活用として違反抑止力向上措置に対す る改善項目の一角を占めている。 第三点に関しては独禁法適用除外制度の見直 しが関連性の一面を示す。適用除外制度は価格 31)規制緩和の中での競争政策・独禁法の位置づけ に関して検討が十分であるとはいえない。自己責 任原則についても,現代社会で自己責任を一般消 費者に帰責させるに十分な制度的前提確保の議論 も不十分である。正田彬「規制緩和と国民生活」 ジュリスト1044号36頁。「消費者保護」の観点か ら規制緩和に批判的な文献として,消費者法ニュー ス25号2頁・26号14頁及び自由と正義47巻4号28 二等参照。 32)拙稿「競争政策と独占禁止法制の動向」(『法の 構造変化と人間の権利』(法律文化社・1996年)) 74頁以下での検討を参照していただければ幸いで ある。 や参入等の競争行為の制限を許容する。しかし, 経済状況の変化や世界経済に占める日本の地位 変化等から,適用除外とそれにより保護された 規制制度の参入阻害や効率化阻害的側面が顕著 となり,消費者利益を損なう弊害もみられるよ うになった。適用除外の見直し・縮小は,競争 政策・独禁法の適用範囲の見直し及び範囲の拡 大につながり,経済的には規制緩和政策の動向 と密接な関連を有する。 規制緩和政策は,経済構造変化に応じて規制・ 法政策の変更を迫る。中でも生産者重視型から 消費者重視型に,規制により保護された経済構 造から市場を通じて消費者選択を満たす経済構 造への転換,を果たす上で,競争政策・独禁法制 の整備は欠かせない。効率的で活力ある市場実 現のみならず,市場での競争を通じ消費者利益 を確保する消費者重視政策のためには,公正か つ自由な競争維持により一般消費者の利益確保 を図る目的を体現する法である独禁法を重視し, 運用改善や違反行為に対する抑止力向上措置に よって法の実効性確保措置がとられることは, 国内的にも当然かつ重要なことであった。規制 緩和政策の概要や課題等を全面的に展開する余 裕はないので,本稿に関連する限りで整理する と次のようになる。第一に,規制緩和政策の下 では,事前かつ一律的規制の撤:廃・後退に従い 個別的・事後的に生ずる問題の処理制度の整備 充実が必須となる。第二に,個々の事業者:消 費者による選択とそれにより発生する結果に対 しては,自己責任原則が強調されるが,自己責 任原則が機能するための情報提供・教育や救済・ 是正等の制度整備が必要となる。 以上から,私訴制度に関しては次のことが言 33)規制緩和と独禁法との関係について次を参照。 根岸哲「規制緩和と独占禁止法」自由と正義45巻 4号44頁,金子晃「規制緩和と独禁法」ジュリス ト1044号43頁,中条潮『規制破壊一公共性の幻想 を斬る』(東洋経済新報社・1995年)67頁,「規制 緩和時代の独占禁止政策」総研研究55号(長銀総 合研究所・1996年)。
一196一 滋賀大学経済学部研究年報Vol. 3 1996 える。第一点に関して法・制度の国際的調整・ 統合圧力が法執行・運用に及んでいるとすれば, 私訴制度についても国際的水準からみた実効性 の有無の検討を要する。第二点及び第三点に関 して規制緩和政策とも関連を有するが,事後的・ 個別的救済・是正制度の一つの典型が私訴制度 であると位置づける必要がある。 以上の背景から,独禁法における私訴制度を めぐる状況は変化しつつあり,後述する私訴制 度に関する次の状況(後述「IV.3.私訴制度 利用の状況」参照)が現在でも放置されている とすれば問題である。第一に,損害賠償訴訟が 殆ど成功せず,制度や解釈論の問題が認識され る状態。第二に,違反抑止に行政的措置だけを 念頭においた法運用がはかられ,違反による被 害者の救済が実現されていず,違反摘発の効率 性及び違反行為抑止の観点からみて私訴制度が 機能していない状態。
IV 独禁法に関連する私訴制度
1. 制度の概要 (1)損害賠償 独禁法25条は,被害者による無過失損害賠償 訴訟の容認規定をおく。同条は,私的独占,不 当な取引制限,不公正な取引方法を対象とし (25条1項),通常の不法行為規定と異なる次の 特徴を持つ。第一に,事業者側での故意・過失 の不存在証明による免責不可となる無過失責任 の法定(25条2項)。第二に,25条援用時に確 34)競争政策・独禁法の整備や情報提供等によって も救済できず,消費者に三二できない被害がある ことも事実である。大村敦志「消費者・消費者契 約の特性一中閲報告(3)・(4・完)」NBL 477号 36頁・478頁52頁。 35)次のような各国制度との比較を要すると考えら れる。米国三倍額損害賠償制度・父権訴訟・クラ ス・アクション,ドイツ法の団体訴訟,EU法に おいて競争法規が加盟国に直接適用されることか ら問題となるカルテル行為の無効制度にかかわる 加盟国国内裁判所での取扱。 定審決の存在の必要性(審決前置主義,26条1 項)。第三に,3年の援用時効の法定(26条2 項)。第四に,東京高裁の専属的第一審管轄 (85条)。第五に,本条訴訟提起時に,損害額等 についての公取の見解を求める義務を裁判所に 課す求意見制度の存在(84条)。 民法の不法行為規定や不当利得返還請求規定 も,独禁法違反行為に関して使用可能である。 これらに関しては独禁法25条のような特徴はな い。 (2)差 止 差止に関しては独禁法に明文規定はない。近 年まで違反行為に関して公取以外の私人による 差止請求は余り想定されなかったと思われる。 独禁法違反行為の私法上の効力が心学上論じら れるが,かかる検討は,公取による排除措置の 結果禁止された行為の効力を論ずることが念頭 におかれたものであった。2.歴 史
(1)法制定時 独禁法制定計画は,連合国総指令部による 「持株会社の解体に関する覚書」(昭和20年11月) 中での計画提示と商工省における非公式な「産 業秩序法案」によって開始された。昭和22年制 定の原始独禁法の立法作業は,連合国総指令部 反トラスト課のカイム判事により提示された 「自由取引及び公正競争の促進維持に関する法 律案」(カイム試案)と日本側草案の原案となっ た独占禁止法準備調査会による要綱案とを中心 に進展した。独禁法立法過程において両案の中 で示された私訴制度に関連する内容を見る。 カイム判事の試案である「自由取引及び公正 競争の促進維持に関する法律案」(昭和21年8 36)独禁法制定経緯に関して,経済法学会編『独占 禁止法講座第1巻』(商事法務研究会・1974年) 51頁以下(金子晃執筆)及びそこでの参考文献参 照。月)では,法執行担当機関として司法次官とと もに司法大臣補佐官2名をおき,これら3名か らなる委員会を公正慣行3人委員会と命名して 法執行の任に当たらせることにしていた。訴訟 制度関係では,労働組合や共同組合等を対象と する適用除外の下におかれた者の行為に関する 取締機関による決定等に対しては,司法次官が 法律違反の存在を認めるときには反トラスト及 公正慣行裁判所(反トラスト裁判所)に提訴で きる旨が規定されていた。反トラスト裁判所は, 一審かつ終審である特別裁判所であり,憲法問 題については大審院による再審を認める制度を 想定していた。損害賠償に関しては三倍額損害 賠償が規定されていた。 独占禁止法準備調査会による独占禁止制度要 綱(昭和21年12月公表)において,法執行機関 として独占禁止委員会が設置されている。違法 行為の除去・差止に関しては,違法行為に対し て独占禁止委員会が措置を講ずることとされて いる。損害賠償に関しては不正競争に関しての み一般の民法原則による実損額のみの求償権を もたせるとして,三倍額賠償制度は削除されて いる。 立法経緯からは次のことが窺われると評価さ れている。第一に,当時私訴制度の違反抑止効 果や効率的法執行達成機能が十分に認識されな かったと推測される。第二に,当時一般的でな かった無過失責任規定は,公平の観点からの望 ましさ及び違反者と被害者の類型化に依拠した 被害者保護目的を根拠とする。第三に,三倍額 規定から実損額規定への変更は,実損賠償を原 則とする日本法の状況を克服できなかったと推 ゆ測される。 37)カイム案について,『資料戦後20年史第3巻』 (日本評論社・1966年)263頁以下。 38)独占禁止制度要綱について,公正取引委員会独 占禁止政策20年史編集委員会『独占禁止政策20年 史』(大蔵省印幽草・1968年)454頁以下。 39)谷原修身『独占禁止法と消費者訴訟』(中央経 済社・1983年)212頁以下。 (2)違反行為に対する規律措置強化の法蔵 正・運用見直(昭和52年改正以降) 法制定時以降私訴制度に関する問題点は指摘 されてきたが,法改正や法運用の見直しが大き な動きとなることはなかった。昭和52年法改 正前後からこの傾向に変化が見られる。 昭和52年法改正では実体規定の法改正ととも に,カルテル等の違法行為による獲得利益が違 反行為者側に残り,抑止力等の点で規制の実効 性を欠くことや被害者との関係等で不公正であ ることに鑑み,民事的規律措置及び刑事的規律 措置の実効性欠如の問題が大きいという認識が 示された。一定のカルテル的行為に対して一定 金額を国庫に徴収する課徴金制度の創設は,こ の状況の改善を視野においた。この時点では私 訴制度自身の改善に向けた法改正措置等に手は る う つけられていない。 次に日米構造協議等にも関連して行われた競 争政策の見直し並びに独禁法の改正及び法運用 強化は,法執行や法運用の改正強化面に重点が るお おかれたことは前述の通りであり,違反行為抑 止力強化措置として私訴に対する援助策がとら れている。 40)現段階における三倍額賠償訴訟制度に関する評 価・議論を念頭におくと,三倍額賠償制度の持つ 懲罰的性格,日本法での公私法二元論の存在,憲 法の二重処罰禁止の要請,濫訴の危険性や必要な 訴訟制度の欠如等いくつかの制約条件も想定され る。 41)課徴金制度は,損害賠償制度と代替的で賠償請 求範囲を制限するとの見解もあったが妥当でない。 経済法学会編『独占禁止法講座第孤巻』(商事法 務研究会・1989年)46頁(根岸哲執筆)参照。 42)竹内教授は,昭和52年法網正時に独禁法におけ る公取中心主義構造を含めて私訴制度の改善がみ られないことを批判される。竹内昭夫『消費者保 護法の理論・総論売買等・消費者法研究第一巻』 (有斐閣・1995年)198頁。 43)前述「皿.競争政策・独禁法をめぐる状況変化一 私訴制度をめぐる背景の変化」の項参照。根岸哲 「公取委と独禁法の執行力・抑止力の強化」法律 時報66巻7号21頁。
一198一 滋賀大学経済学部研究年報Vol.3 1996 私訴制度に関して,「独占禁止法に関する損 害賠償制度研究会」及び「独占禁止法違反行為 に係る損害額算定方法に関する研究会」が設置 された。前者から「独占禁止法に関する損害賠 償請求訴訟制度について」,後者から「独占禁 止法第25条に基づく損害賠償請求訴訟におけ る損害額の算定方法等について」とする報告書 が公表され,因果関係,損害及び損害額算定方 法等について問題点や考え方が検討された。以 上に基づき公取は,「独占禁止法違反行為に係 る損害賠償請求訴訟に関する資料の提平等につ いて」を公表し,求意見制度の充実を中心にし た援助策を示し,次のように求意見請求への対 応や意見内容を充実するための基準が策定され が た。
①援助策の対象訴訟
独禁法25条訴訟以外に,独禁法違反に起因す る確定審決のある場合の民法709条訴訟も対象 とし,審決確定前の事件でも一定の対応をとる ことを明言する。実際には以上の訴訟に加え地 方自治法に基づく住民訴訟についても資料提供 が行われている。②提訴前の扱い
訴訟前に当事者からの請求のある場合につい ては(i)勧告審決の場合と(ii)同意審決又は 審判審決の場合に分けて提供資料内容を示す。③提訴後の扱い
(i)文書送付嘱託のある場合,(ii)調査・鑑 定嘱託のある場合に分け,提出資料例(違反行 為の存在及び因果関係・損害額に関する資料例), 配慮事項(事業者秘密の取扱,事件処理手続上 の問題,個人のプライバシー),提出時期(及 び提出物)の基準が示される。 以上の対応策は次の意味を持つ。第一に,こ の時点までの判例への批判に対応して,一般消 費者等原告側不利に判示された解釈等の否定的 44)各報告と内容について,公取委事務局編『独占 禁止法の抑止力強化と透明性の確保』(大蔵省印 刷局・1992年)参照。 効果解消のための解釈論や求意見制度の活用を 提言し,損害賠償制度の活性化をはかる。第二 に,以上の公取による私訴制度への対応は,同 制度を競争政策・独禁法において積極的に位置 づける姿勢を示し,同制度に消極的だと批判さ れた時点から転換しつつある。第三に,現行制 度の枠組みの変更を提言してはいないという限 界を有する。 3.私訴制度利用の状況 私訴制度の利用状況は1990年代に入るまでは 活発と評価されるものではない。1990年4月末 現在で損害賠償事件のみについてみると,独禁 法25条事件は6件,民法709条事件は9件あり, うち消費者が原告となっているものが各2件あ る。この時点までで最終的な原告側勝訴事例は がない。この傾向は1990年代に入り変化しつつあ るようであり,過去に比べ私訴制度の利用は増 祝しつつある。その傾向は,先に紹介した私訴 制度利用の奨励策や公取による談合事件を中心 にした法運用の活発化等の影響も受けているで あろう。主要な事件を主に被害者(提訴者)と 違反行為類型に基づき特徴を整理すると次のよ うになる。 第一は,談合事件で被害者側が損害賠償を求 めて提訴した事例がある。社会保険庁による不 当利得返還請求訴訟,米軍基地談合事件に関す る米国政府による損害賠償訴訟,談合事件に関 が する住民訴訟がこの類型に属する。 第二は,主に不公正な取引方法に関連して取 引相手が損害賠償や行為の差止めを求めて提訴 45)今村教授によると,1990年の損害賠償制度に関 する研究会設置当時の公取幹部の考え方は,「賠 償制度自体は,ちゃんと存在するので,後は裁判 の進め方の問題」で法改正の必要性を否定する。 教授は現行制度が判例により実効を欠くものとなつ ているなら法改正を含め改善をはかることが公取 の任務として,この思考を批判する。今村成和 『私的独占禁止法の研究(六)』(有斐閣・1993年) 61頁。した事例がある。化粧品に関する損害賠償及び 商品供給請求訴訟,東芝エレベーター訴訟,フ ランチャイズ契約に関する損害賠償訴下等であ る。 第三は,競争者の不当廉売を理由にして競争 者が行為の差止と損害賠償を請求して提訴した 46)「参考2 独占禁止法に関する損害賠償請求訴 訟事件総括表」(『独占禁止法に関する損害賠償制 度研究会報告書』(平成2年))。この時までの特 徴は次のようである。①損害賠償に関して最終的 な提訴者側勝訴例がない(下級審勝訴事例あり)。 ②米国・ドイツと比較して事業者等による訴訟が 著しく少ない。③談合事件等では直接的被害者で ある購入者の提訴がない。④不公正な取引方法関 連では,中小企業等相手方に対して弱い立場にあ る事業者,参入・事業拡大を阻止・妨害された新 規参入事業者が提:訴側となることが多い。 外国法の状況について,石川正「米国独禁法訴 訟における原告適格(Standing)及び『独禁法 上の被害』(Antitrust Injury)の概念の最近の 展開について」(『民事手続法学の革新』(上巻) 三ケ月章先生古希祝賀(有斐閣・1991年))363頁・ 365頁,赤松美登里「ドイツにおける独禁法違反 と民事責任一日本法への示唆・確認訴訟の活用に 向けて一」判タ758号58頁,同「消費者損害の集 団的救済に関する一考察一ドイツの議論を中心に一」 (上)判タ783号26頁・27頁,山木康孝「ドイツに おける競争法とその違反に関する損害賠償制度に ついて」公正取引481号32頁。米国に関して次の 文献参照。Salop&White, Economic Analy− sis of Private Antitrust Litigation, 74 Geo. L. Rev. 1001 (1986); Private Antitrust Liti− gαtion(ed. by Lawrence J. Whlte,1988).米 国について,前掲石川論文で1965年から89年まで の会計年度毎の政府訴訟及び私入による訴訟数の 対照表が作成されている。これによると私人によ る訴訟は,1971年から85年まで年間1000件を越え, 86年以降も年間600件を越える。同年代の政府訴 訟は,約100件(民・刑事を含む)前後で,最高 でも1981年の141件である。ドイツについて前掲 赤松論文によると,GWB35条訴訟が1958年の GWB施行時から90年6月目でに164件(実質的 訴訟件数。上訴・差戻し数除く提訴件数)ある。 GWBについては不法行為規定・不正競争防止法 1条による民事請求が可能(事実上GWB訴訟数 はもっと多い)である。以上の事例のうち,現実 的救済請求例は123件(民事責任事例全体に占め る比率75%),不作為請求事例は35件あるとされ る。なお,スイス連邦不正競争防止法1条による 消費者訴訟及びドイツGWBに基づく消費者訴 訟の例はないとされる。 47)平成2年4月1日から平成7年3月31日までの 5年間で公取審決集記載の民事事件判決数は23件, 事件数は17件になる。他に3件の決定がある、こ れらの大半が事業者(競争業者又は取引相手)に よるものである。例外としてベルギーダイヤモン ドに関する件や証券会社の損失補填に関する代表 訴訟があるだけである。 過去5年間(平成2(1990)年度から平成6 (1994)年度末)の民事事件数及び判決:・決定数 (公正取引委員会審決集による) 判決決定 計 H6/4/1−7/3/31(41巻> H5/4/1−6/3/31(40巻) H4/4/1−5/3/31(39巻) H3/4/1−4/3/31(38巻) H2/4/1−3/3/31(37巻) 判 決 数 事 件 誹
り0ρ07349Q7
り自−21
903
5(化粧品関係4件) 7 (化粧品関係2件) 7(化粧品関係1件) 3 4 26 20 48)横須賀談合事件動産・不動産仮差押異議申立事 件横浜地裁決定(平成6年3月17日)(動産・不 動産・債権仮差押異議申立)判タ839号289頁・審 決集40集715頁。 49)化粧品関係一①花王化粧品事件(地位確認等) 東地判・平成6年7月18日・判タ855号111頁・判 時1500号3頁b審決集41集441頁。 ②資生堂東京販売(富士喜)事件(地位確認等) 東高判・平成6年9月14日・判タ877号201頁・審 決集41集473頁。東割判・平成5年9月27日・審 二二40集683頁。 ③オッペン化粧品事件(損害賠償請求)大阪高話・ 平成5年9月14日・(確定)審決集40集664頁。大 臨地判・平成4年7月24日・審決集39集581頁。 ④資生堂関東販売(河内屋)事件(地位保全仮処 分命令申立)浦和地決定・平成7年2月17日・審 決集41集501頁。 ⑤アザレ化粧品事件(地位保全等仮処分命令申立) 大阪地決定・平成7年2月17日・審決集41集511頁。 東芝エレベーター事件(損害賠償)大阪高判・ 平成5年7月30日・(確定)審決集40集651頁。大 阪地判・平成2年7月30日・審決集37集195頁。 寄々堂フランチャイズ事件(損害賠償請求・売 り掛け代金等請求反訴)京都熱烈・平成3年10月 1日(控訴審で和解終了。平成4年7月17口)・ 審決集39集716頁。一 200 一 滋賀大学経済学部研究年報Vol.3 1996 事例である。お年玉付き年賀葉書に関する事件 である。 第四に,購入者である最終消費者が独禁法違 反を理由にして損害賠償を求めて提訴した事例 である。ベルギーダイヤモンドに関する訴訟等 である。 以上の事件の特徴は次のようである。第一に 損害賠償請求事件における援用条項が独禁法25 条ではない。援用条項は,民法の不法行為・不 当利得もしくは地方自治法の住民訴訟に関する 規定又は契約関係である。独禁法25条自体の欠 陥等の独禁法にかかる私訴制度の欠点の是正が 十分ではないことが推測される。 第二は,競争者又は取引相手による訴訟が多 く,一般消費者によるものが少ないことである。 談合事件にかかわり住民訴訟が提起されている が,談合の直接的相手方である公共団体等を代 位したもので一般消費者によるものと分類し難 の い。 第三に,談合事件における被害者側による訴 訟の増加である。現在まで結果が示されたのは 一件だけで,損害賠償にかかる動産差押仮処分 決定での損害額に関する判断である。裁判所は, 50)お年玉付き年賀葉書不当廉売事件(損害賠償等) 大阪高州・平成6年10月14日・二時1548号63頁・ 審決集41集490頁。大阪山群・平成4年8月31日・ 判タ822号235頁・審決集39集586頁。 51)(損害賠償請求)東血判・平成5年3月29日・ 審決集39集608頁。(損害賠償請求)大阪地上・平 成3年3月11日・審決集39集629頁。 52)石留工業により独禁法25条訴訟が提起されてい る。公取委年次報告平成6年版(公正取引協会) 115頁。近年私法上の法律行為の無効を導き出す ため,独禁法違反を介在させる方法から,行為の 悪性を直接認定し直接公序良俗違反による無効を 導き出す方法への移行がみられる点も影響を及ぼ していると思慮される。泉水文雄「化粧品の流通 制度と独占禁止法(1)」ジュリスト1090号144頁 参照。 53)かかる状態では鶴岡灯油訴訟最高裁判決が「消 費者訴訟の灯火」を吹き消した事態の解消に至っ たとはいい難い。谷原修身「独占禁止法と消費者 の権利」自由と正義45巻4号74頁。 疎明を要する損害額について談合の直接的被害 者である原告側に対して比較的厳格な立証責任 を課す。原告側は,立証について一般消費者よ り有利な状況にあり,疎明においても本件のよ うな判断がなされれば独禁法における損害賠償 請求訴訟が困難となると評価される。間接的購 入者である一般消費者のみならず,直接購入者 の場合にも立証の程度問題がネックになること が示された。本件は,現在までは稀であった談 合事件における損害賠償請求事件であり,立証 程度の問題の他に,賠償対象となる取引の確定, 入札見積価格又は談合不参加者の価格等を使用 した損害額算定の基礎となる想定購入価格算定 にも特有の問題点がある。 第四に,わずかであるが原告勝訴事例が存在 する。東芝エレベーター訴訟,化粧品にかかわ る訴訟のいくつか(花王化粧品第一審判決,ア ザレ化粧品地位確認等仮処分決定,資生堂東京 販売第一審判決:等)等である。 第五に,差止に関連しては,不法行為の存在 や営業権を根拠にして競争者の行為の差止を求 めた訴訟がある。また,化粧品に関する訴訟に おいて継続的契約関係や既存契約関係に関連し て供給拒絶・供給停止行為が行われていること にともない,原告側から地位確認訴訟が提起さ れる事例が多かった。 次にこれらを公取が同様な時期に正式な法的 措置をとった事件と比較してみると次のような ことがみてとれる。 公取による措置はカルテル事件を中心とする。 内容的には,3条後段又は8条1項1号事件で, 価格カルテル及び入札談合が主である。平成4 年度以降は入札談合事件が圧倒的に多い。近年 の法執行は,数的にカルテル摘発中心となり, 不公正な取引方法関係事件数が少なくなってい る。対して,私訴対象となり既に判決が下され ている事件は,公取委年次報告書における分類 に依拠すれば不公正な取引方法又はその他に分 おう 類される行為が中心である。このことはどのよ うに理解すべきか。
不公正な取引方法に関する行政事件数の減少 自体の理由分析は興味深い。事案自体の減少, 処理困難な事案増,カルテル事案への行政資源 の傾斜等の理由が考えられるが,詳細な検討は 別の機会に譲る。不公正な取引方法に関する行 政的事件の相対的減少と私訴事件に占める不公 正な取引方法に関する事件比率が多いことは, 私訴事件が行政的事件の減少を代替していると 見ることも可能である。又は競争者や取引相手 等の事業者が複数以上の問題解決の方途を探っ ているという側面もあろう。 54)この時期に公取が法的措置をとった事件数は次 のように行為類型別に整理される。 年度 カルテル不公正な取引方法 その他 計 H2
H3
H4
Hs H6 13 (59 0/o ) 7 (32 0/o ) 19 (61 0/o ) 8 (26 0/o ) 30 (88 0/. ) 4 (12 0/. ) 24 (78 0/o ) 5 (16 e/, ) 21 (88 0/o ) 1 ( 4 0/o ) 2 ( 9 0/o ) 22 4 (13 0/o ) 310 34
2 ( 6 0/o ) 31 2 ( 8 0/o ) 24 出所:平成6年版公正取引委員会年次報告20頁 行為類型区分及び事件数は年次報告から引用し, 比率は筆者が計算した。8条1項5号事件は不公 正な取引方法に,その他には事業者団体による構 成事業者の機能活動制限や金融会社の株式所有制 限の脱法行為等が分類される。 55)昭和56年から61年の期間で正式事件数は,年間 約10件から20件程度。カルテル事件と不公正な取 引方法事件は,半々の割合で,平成年度と対照的 である。 56)私訴事件における原告側主張の違反行為類型別 事件分類は以下のようである。 年度 カルテル不公正な取引方法 その他 事件数 行政的なカルテル事件処理数に比べて,カル テル事件(入札談合を含む)に関する私訴件数 やその比率が高くないことについてもいくつか の意味を示すことができよう。行政的なカルテ ル事件処理増は,カルテルに対する社会的批判 や課徴金による不当な利益奪取等を含めて違反 行為の是正や抑止機能が高まっているといえる。 しかし,私訴制度利用が不十分なことから次の 推測が成り立ちうる。第一に,被害者側の被害 回復による公正さ確保とともに,違反行為の抑 止機能を果たすために違反行為者の獲i得した不 当利益の放出機能が十分間果たされていない状 態にあること。第二に,社会においてカルテル 行為等により損害を被ったという認識が欠落し ている可能性。第三に,独禁法違反事件により 生じた損害の特質や私訴制度にかかわる欠陥の 是正が進んでいないという認識等により訴訟イ ンセンティブが低いこと等。V 私訴制度をめぐる問題点と課題
先にみたように近年独禁法違反にかかる損害 賠償訴訟等が増加しつつあるが,多くは独禁法 25条を利用したものではない。あるいは行政処 分事件数に比べて私訴制度利用例が多いとは評 価できない。正確な理由全ての確定は難しいが, 独禁法にかかる私訴制度利用を困難としてきた と評価される問題点と課題を整理しておく。H2
H3
H4
Hs
H6
00120
9臼ユ﹁D45
22220
4り077﹁0
十 二置 3 17 8 カルテルには8条1項1号違反を含む。その他 は,8条1項3・4号,3条前段,24条但書事案 である。行為類型分類総和と事件数が一致しない のは,一事件で複数の違反行為の主張が行われて いるためである。 !. 一員害帰一{賞 損害賠償制度にかかわる重要論点に対する判 断が下された事件には,松下電器再販売価格事 件(独禁法25条訴訟)及び石油カルテル関連損 害賠償事件をあげることができる。以下その主 要内容を整理し,簡単に検討する。 ①独禁法25条と民法709条 独禁法25条に関しては,独禁法違反行為に対 する損害賠償が同条により創設されたとして, うの 民法による出訴を制限する解釈もあった。判例 は,両規定による損害賠償請求権を同一ととら一 202 一 滋賀大学経済学部研究年報Vo1。3 1996 え,何れの請求による場合も許容した。民法規 定の利用が可能なことは,一般消費者にとって は,審決前置,管轄裁判所や対象行為の限定と いう制約を受けないという点に意義がある。 ② 原告適格 原告適格に関して,間接購入者である一般消 費者等には原告適格がないという解釈があった。 判例は,違反行為と損害の間に相当因果関係が ある限りで間接購入者の原告適格を認めうると し,適格者を広くとる見解を示す。 ③損害の存在と損害額,因果関係 石油カルテルにかかる損害賠償訴訟では,因 果関係,損害の存在,損害額に関して原告(一 般消費者)への厳格な証明が要求された。損害 に関しては違法行為の影響下の現実の購入価格 (現実購入価格)と違法行為のない場合のより 安い購入価格(想定購入価格)との差額である と把握された(差額説)。因果関係については, メーカー段階での価格引上が,卸売価格への転 嫁を経て小売価格の上昇をもたらした関係の存 在であるとされた。損害額の計算に関しては, 現実市場価格からの想定購入価格の推定を認め る。ただし,想定購入価格として違法行為以前 の直前購入価格の使用が可能であるが,カルテ ルによる値上げ以外に著しい価格変動要因があ る場合に,直前購入価格は使用できないとされ た。著しい価格変動要因のないこと又はかかる 変動要因自体を消費者側立証負担であるとされ た。損害の存在,因果関係及び損害額の立証に ついての消費者側に課された立証責任が過重な ものであると評価されている。 損害の存在,損害額及び因果関係に関しては, 少なくとも解釈変更が望まれる。鶴岡灯油訴訟 仙台高裁判決で採用された解釈論がその具体例 である。そこで展開された論理の意義は次の点 にある。違反行為と時間的・場所的に関連した 損害については,違法行為との因果関係の事実 上の推定を認めること。損害額に関しては原告 に厳格な証明を求めるのではなく裁判官の創造 的機能を重視すること等である。さらに,公取 による求意見制度の活用・尊重が図られるべき である。かかる解釈がとられないとすると法改 め正により推定規定の創設等が要請される。 ④ 審決前置主義 審決前置主義は,25条訴訟における無過失責 任主義と対応し違法行為の存在を審決に関連づ け,被害者救済の容易化を目的とする。判例は, 判決に対する審決の拘束力を事実上の推定力で のあるとし法的拘束性を認めない。被告側の裁判 を受ける権利等との関係でかかる見解が一般的 である。審決には審判審決・同意審決・勧告審 決の三種類があり,判例は勧告審決の効力を違 反行為者の審決応諾の意思のみに根拠づけ,審 判・同意審決と対比して「相対的に低い」又は 違反行為推認の為の「一つの資料となりうる」 57)石井幸一「独禁法違反による被害者の審決請求 権について」公正取引108号47頁。岡崎マイカ工 業所取引拒絶等事件・大阪地判昭和47年6月23日・ 判タ283号324頁。 58)鶴岡灯油訴訟事件・最判平成元年12月8日前掲 注23)。 59)損害の存在,因果関係及び損害額に関する野帰 の論理構成の分析や解釈に関しては学説によって 違いがある。整理として,根岸哲「独占禁止法違 反と損害賠償請求一石油カルテル消費者訴訟事件 最高裁判決の検討を中心に一」(『損害賠償法の課 題と展望一石田喜久夫・西原道雄・高木多喜男先 生還暦記念論文集・中巻』(日本評論社・1990年)) 267頁・285頁以下。 60)仙台高秋田支部判・昭和60年3月26日前勘注23)。 61)一般消費者を念頭において因果関係の立証を原 告側に有利に扱うことに関して,被告の二重負担 の可能性がある旨を主張する説がある。日本にお ける実損賠償,推定に対する反証可能性,損害転 嫁の抗弁の可能性からかかる懸念の度合いは低い とされる。根岸・前掲注59)267頁・289頁。 62)東京灯油訴訟事件・最判昭和62年7月2日前掲 注22)。石油カルテル審決取消訴訟では高論で示 されていた。最:判昭和53年4月4日・民集32巻3 号515頁・審決集25集59頁参照。これに関しては 学説の多数が賛成している。経済法学会編・前掲 書注41)45頁・70頁以下。
にすぎないとし,弱い拘束力しか認めない。か かる判例は,審決の理解方法や審決の種類の違 いによって違法行為の不存在が認定されるもの ではない点等から批判される。25条訴訟に法律 上課された技術的制約や勧告審決が事実上最も 数が多いこと等から,かかる判例は審決前置主 義を25条訴訟の制約要因としての意味しか有さ ないようにし,民法規定と比較して25条訴訟の 価値を低下させる。勧告審決の拘束力に関して は,解釈の変更又は法改正(26条1項の削除) が望ましいとされる。 2.差 止 差止請求権に関しては,独禁法上明文規定は なく,独禁法違反行為に基づく請求が可能か否 かに関しては争いがある。 ① 根 拠 外国法を見た場合には,米国法では差止請求 容認規定(クレイトン法4条)を,ドイツ法で