Citation
[材料] vol.[56] no.[8] p.[764]-[770]
Issue Date
2007-08
Rights
The Society of Materials Science, Japan (日本材料学会)
Version
出版社版 (publisher version) postprint
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/24117
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
論 文
1
緒 言 マグネシウム (Mg) 合金は電磁シールド性や振動減衰 能に優れ,また実用金属中最も軽量であることから,電 子機器の筐体として使用されているが,一方では優れた 比強度や比剛性も有するので,近年,軽量構造材料とし て注目されている.その場合,各種疲労特性の評価と破 壊機構の解明は不可欠であるが,最新のデータの蓄積は 必ずしも十分ではなかった.1)そこで著者らは,これまで に市販展伸 Mg 合金について疲労き裂進展 (FCP)2), 3)や 疲労挙動の評価,3), 4)押出加工による疲労強度の改善,5), 6) および新しい合金の疲労挙動7), 8)などについて一連の検 討を行ってきた. ところで,Mg は海水中のガルバニック列において最 も卑な位置にある.9)したがって,Mg 合金の耐食性も悪 く,このことが構造材料として広範な応用を制限する理 由のひとつになっている.Mg 合金にとって耐食性の改 善は最重要課題であるが,それに先だって腐食疲労に関 する研究が必要である.こうした観点から Mg 合金の腐 食疲労挙動に関して幾つかの報告が見られるが,10)∼ 13)腐 食環境中における FCP 挙動に関する研究はほとんど行わ れていない.14), 15)著者らは大気中において 2 種類の展伸 Mg 合金の FCP 挙動を検討し,FCP 速度と有効応力拡 大係数幅の関係が顕著に折れ曲がることを認め,その現 象に大気湿度の関与を指摘した.2)同様に,大気中の疲労 強度に湿度の影響を指摘する他の研究も見受けられる.16) これらの結果は,Mg 合金の大気中における使用が湿度 に影響されることを意味するだけでなく,疲労特性に及 ぼす水環境の影響と破壊機構について系統的な研究が必 要であることを提起している. そこで本研究では,Mg 合金 AZ31 圧延材および AZ61 押出材を用いて蒸留水中および乾燥空気中において FCP 試験を行い,すでに得られている大気中の結果2)と比較 することによって,FCP 挙動に及ぼす湿度および水環境 の影響と破壊機構について検討した.2
試 験 方 法2
・1
材料および試験片 用いた材料は前報2)∼ 4)と同一の展伸 Mg 合金 AZ31 圧延材および AZ61 押出材である.両材の化学成分を Table 1 に示す.なお,AZ31 の化学成分の詳細は不明で あるので,規格値を記載している.いずれも組織はほぼ 等軸の結晶粒から成っており,平均結晶粒径は AZ31 で は約 60μm2),AZ61 では表面近傍と内部で結晶粒径が異マグネシウム合金の疲労き裂進展に及ぼす湿度および水環境の影響
†中 島 正 貴
**戸 梶 惠 郎
**植 松 美 彦
**清 水 利 弘
**Effects of Humidity and Water Environment on Fatigue Crack Propagation
in Magnesium Alloys
by
Masaki N
AKAJIMA*, Keiro T
OKAJI**, Yoshihiko U
EMATSU**and Toshihiro S
HIMIZU*This paper presents the effects of environment on fatigue crack propagation (FCP) in two magnesium alloys, rolled AZ31 and extruded AZ61. FCP tests have been performed using electro-hydraulic fatigue testing machine oper-ating at a frequency of 1Hz at a stress ratio, R, of 0.05 in distilled water and in dry air. The dew point of dry air was − 60℃. The obtained results were compared with those already established in laboratory air, and the effects of humid-ity and water environment were discussed on the basis of fractographic analysis of fracture surfaces. The effect of cyclic frequency was also studied. Both alloys exhibited basically the same FCP behaviour regardless of environ-ment. FCP rates were nearly the same in laboratory air and in distilled water, while approximately an order of mag-nitude slower in dry air than in those environments. After allowing for crack closure, the effect of environment still existed, where FCP rates were the fastest in laboratory air, then in distilled water, in dry air in decreasing order. Fractographic analysis revealed that fracture surfaces were extensively brittle in laboratory air, while entirely covered with corrosion products in distilled water. It was believed, therefore, that different FCP mechanisms operated in lab-oratory air and in distilled water, possibly hydrogen embrittlement and anodic dissolution, respectively. The fre-quency dependence of FCP rate was not recognized in dry air and less remarkable in laboratory air over a wide range of frequencies of 0.01Hz to 10Hz, while FCP rates became faster with decreasing frequency in distilled water.
Key words : Fatigue crack propagation, Magnesium alloy, Environment, Frequency, Fracture mechanism
† 原稿受理 平成 18 年 12 月 21 日 Received Dec. 21, 2006 ©2007 The Society of Materials Science, Japan
* 正 会 員 豊田工業高等専門学校機械工学科 〒471-8525 豊田市栄生町,Dept. of Mech. Eng., Toyota National Coll. of Tech., Eisei-cho, Toyota, 471-8525 ** 正 会 員 岐阜大学工学部機械システム工学科 〒501-1193 岐阜市柳戸,Dept. of Mech. Systems Eng., Gifu Univ., Yanagido, Gifu, 501-1193
なっており,表面近傍では約 28μm,中心部では約 14μm であった.3)両合金の機械的性質を Table 2 に示す.表か ら明らかなように,AZ61 の引張強さや硬さは AZ31 より も高い. 試験には幅 50.8mm で板厚が AZ31 では 6mm,AZ61 では 5mm の CT 試験片を用いた.採取方位は L-T 方位 (L:圧延方向または押出方向)である.機械加工後,エ メリー紙で 1000 番まで順次研磨し,酸化クロム粉末を 用いたバフ研磨により鏡面に仕上げ,試験に用いた.
2
・2
実験方法 用いた試験機は容量 19.6kN の電気油圧式サーボ疲労 試験機である.切欠き底から約 2mm の予き裂を応力拡 大係数幅ΔK 漸減法によって導入した後,繰返し速度 f = 1Hz,応力比 R= 0.05 で ΔK 漸増および漸減試験を行っ た.また,FCP 速度に及ぼす繰返し速度の影響を検討す るために,f= 0.01,0.1,1,10Hz で ΔK = 3.5MPam1/2 一定試験を行った. 用いた環境は蒸留水中および乾燥空気中である.蒸留 水中の試験では,アクリル樹脂製の腐食槽を試験片に取 付け,水温 30℃一定に保ったタンクからポンプによって 循環させる方法を採用した.タンクの蒸留水は適宜交換 した.乾燥空気中の試験では,コンプレッサーエアドラ イヤーにより,シリコンチューブを通してアクリル樹脂 製の腐食槽に乾燥空気(露点温度:−60℃)を供給した. なお大気中の結果として,da/dN-ΔK (ΔKeff) 関係につい て前報で報告した結果2), 3)を用いているが,本研究にお ける大気中の試験も前報と同様に温度ならびに湿度の制 御は行っていない. き裂長さおよびき裂開閉口挙動の測定には,それぞれ 読取り顕微鏡および除荷弾性コンプライアンス法を用い た.また,破面の観察には走査型電子顕微鏡 (SEM) を 用いた.3
実 験 結 果3
・1
ΔK 漸増・漸減試験下の FCP 挙動 大気中,蒸留水中および乾燥空気中で得られた FCP 速度 da/dN とΔK および有効応力拡大係数幅 ΔKeffの関係をそれぞれ Fig. 1,Fig. 2 および Fig. 3 に示す.なお,
大気中の場合,前報の結果 (f = 10Hz)2), 3)を再掲してい
る.まず,これらの図から,AZ31 と AZ61 の FCP 挙動
(da/dN-ΔK 関係および da/dN-ΔKeff関係)は,いずれの
環境においてもほぼ同様であることがわかる.大気中で は (Fig. 1),da/dN-ΔK 関係に折れ曲がりが見られ,こ の折れ曲がりはき裂開閉口を考慮すると一層顕著になる. この挙動は作動した微視的破壊機構の遷移に起因して いることを前報で指摘した.2), 3)こうした現象は蒸留水中 (Fig. 2) や乾燥空気中 (Fig. 3) では消失していることに注 目すべきであり,大気湿度の影響に起因することが推察 される. AZ31 および AZ61 の FCP 挙動に及ぼす環境の影響を それぞれ Fig. 4 および Fig. 5 に示す.両図から,両合金 の FCP 挙動の環境依存性はほぼ同様であり,合金種に 依存しないことがわかる.すなわち,ΔK で表した FCP †マグネシウム合金の疲労き裂進展に及ぼす湿度および水環境の影響† 765
Table 1 Chemical compositions (wt. %).
Table 2 Mechanical properties.
Fig. 2 Relationship between crack propagation rate and stress intensity factor range in distilled water. Fig. 1 Relationship between crack propagation rate
速度は,大気中と蒸留水中ではほぼ一致するのに対して, 乾燥空気中では全ΔK 領域においてそれらの環境中より も約 1 オーダー遅い.き裂開閉口を考慮しても(da/dN-ΔKeff関係),環境の影響が明瞭に認められ,大気中の FCP 速度が最も速く,次いで蒸留水中,乾燥空気中の順で ある.大気中と乾燥空気中では依然として約 1 オーダー の FCP 速度の相違がある.このように Mg 合金の FCP 挙 動は純粋に環境の影響を受け,大気湿度や水環境によっ てき裂進展が加速されるが,大気湿度によるき裂進展の 加速効果が蒸留水よりも顕著であることに注目すべきで ある.
3
・2
ΔK 一定環境変化試験下の FCP 挙動 FCP 挙動に及ぼす環境の影響をさらに検討するため に,両合金について f= 1Hz,ΔK = 3.5MPam1/2一定の条 件下で環境を変化させて FCP 試験を行った.その結果をFig. 6 に示す.Fig. 6 (a)は AZ31,Fig. 6 (b)は AZ61 の
結果であり,環境を大気中から蒸留水中と乾燥空気中に 変化させた.図から明らかなように,両合金とも同様の
FCP 挙動を示している.環境変化後,直ちに変化後の環
境中(蒸留水中または乾燥空気中)の FCP 速度が達成さ Fig. 3 Relationship between crack propagation rate
and stress intensity factor range in dry air.
Fig. 4 Effect of environment on FCP behaviour in AZ31.
Fig. 5 Effect of environment on FCP behaviour in AZ61.
Fig. 6 FCP behaviour at constant stress intensity factor range of 3.5MPam1/2under environment
れており,それらはΔK 漸増・漸減試験で得られた ΔK =
3.5MPam1/2に対する FCP 速度(Fig. 2 および Fig. 3,
蒸留水中:da/dN≈ 3.8 × 10−5mm/cycle,乾燥空気中: da/dN≈ 5.6 × 10−6mm/cycle)とほぼ一致している.こ のことから,両合金の FCP 挙動における環境効果が再確 認されるとともに,環境変化直後の過度的挙動が全く観 察されない事実は,新生面が露出すると直ちに続く環境 と反応することを示しており,Mg 合金の高い環境感受 性を示唆している.
3
・3
繰返し速度効果 ΔK = 3.5MPam1/2一定の条件下で各環境中における FCP 速度の繰返し速度依存性について調べた結果を Fig. 7 に示す.いずれの合金においても,乾燥空気中で は 0.01Hz から 10Hz の広範囲の繰返し速度の変化に対し て FCP 速度はほぼ一定であり,繰返し速度の影響は認め られない.大気中でも,低繰返し速度ほどわずかに FCP 速度が高速となるか (Fig. 7 (a)),またはほとんど繰返し 速度の影響は認められない (Fig. 7 (b)).これに対して, 蒸留水中では明らかに繰返し速度の影響が見られ,繰返 し速度の減少に伴って FCP 速度は高速となる.このこと は FCP 速度に及ぼす水環境の影響が,アノード溶解のよ うな時間依存型の機構であることを示唆している. 大気中の FCP 速度は f> 1Hz では蒸留水中と一致し,f < 1Hz では蒸留水中より遅いが,差異は小さい.また上述 のように,大気中の FCP 速度の繰返し速度依存性は小 さいか,またはほとんど見られない.これらのことから, 大気湿度の影響は見かけ上,蒸留水と同様の効果をもた らすが,作動している FCP 機構は蒸留水中の場合とは異 なることが推察される.3
・4
SEM破面解析 AZ31 の大気中および乾燥空気中における SEM 破面様 相をそれぞれ Fig. 8 および Fig. 9 に示す.大気中の場 合,da/dN-ΔK (ΔKeff) 関係の折れ曲がり点以上では,結 晶粒を単位とする平坦なステップから成る模様 (Fig. 8 (c)),それ以下では擬へき開状ファセットである (Fig. 8 (a)).また,折れ曲がり点近傍では両者の混在した様相 を呈する (Fig. 8 (b)).このように微視的破壊機構の遷 移が da/dN-ΔK (ΔKeff) 関係の折れ曲がりの原因である が,大気中では全体的にぜい性的な破面様相が特徴であ る.これに対して,乾燥空気中の場合,微視的破面様相 のΔK 依存性は不明瞭であり,大気中で見られたステッ プ状模様や擬へき開ファセットは消失し,延性的な破面 となっている. 同様に,AZ61 の大気中および乾燥空気中におけるSEM 破面様相をそれぞれ Fig. 10 および Fig. 11 に示す. AZ61 についても破面様相は基本的に AZ31 と同様であ る.大気中の場合,折れ曲がり点以上では結晶粒を単位 とする平坦なステップ状模様 (Fig. 10 (c)),それ以上で は擬へき開ファセット (Fig. 10 (a)),折れ曲がり点近傍 では両者の混合から成る破面である (Fig. 10 (b)).それ に対して,乾燥空気中の場合 (Fig. 11),ΔK レベルにか かわらず全体的に延性的な破面となっている. なお,蒸留水中では破面は全面腐食生成物(主に Mg(OH)2および MgO と考えられる10))で被われていた ため,その下の破面を観察することはできなかった.こ †マグネシウム合金の疲労き裂進展に及ぼす湿度および水環境の影響† 767
Fig. 7 Effect of cyclic frequency on FCP rate : (a) AZ31, (b) AZ61.
Fig. 8 SEM micrographs of fracture surfaces for AZ31 in laboratory air : (a) ΔK = 2.5MPam1/2, (b) ΔK =
のことは蒸留水中ではアノード溶解が顕著に生じたこと を示している. 環境を大気中から乾燥空気中に変化させた FCP 試験 における破面様相の一例を AZ61 について Fig. 12 に示 す.環境を変化させた位置において,Fig. 10 (b)に示し たような大気中のぜい性的な様相から,Fig. 11 (a)に示 したような乾燥空気中の延性的な様相に変化しているこ とがわかる.環境変化後に遷移的様相は認められず,直 ちに乾燥空気中の FCP 機構が作動していることを示して いる.このことは前述したように,Mg 合金の高い環境 感受性を示唆するものである. Fig. 13 は大気中から蒸留水中に変化させた後の蒸留 水中における破面様相を AZ61 について示したものであ る.図に見られるように,破面は全面腐食生成物で被わ れている.このことは蒸留水中ではアノード溶解が顕著 に生じることを示している.大気中では短時間の FCP 試 験はもとより,ΔK 漸減試験のような長時間を要する場 合にも,破面上には腐食生成物は観察されなかったこと は強調されるべきである.
4
考 察4
・1
湿度および水環境の FCP 挙動に及ぼす影響 AZ31 および AZ61 の両合金とも,大気中と蒸留水中の da/dN-ΔK 関係はほぼ一致したが,き裂開閉口を考慮す ると,大気中の FCP 速度は蒸留水中よりも高速であった Fig. 9 SEM micrographs of fracture surfaces for AZ31 in dry air : (a) ΔK = 3.5MPam1/2, (b) ΔK = 5.0MPam1/2,(c) ΔK = 6.5MPam1/2.
Fig. 10 SEM micrographs of fracture surfaces for AZ61 in laboratory air : (a) ΔK = 2.5MPam11/2, (b) ΔK =
3.0MPam1/2, (c) ΔK = 5.0MPam1/2.
Fig. 11 SEM micrographs of fracture surfaces for AZ61 in dry air : (a) ΔK = 3.5MPam1/2, (b) ΔK =
5.0MPam1/2, (c) ΔK = 6.5MPam1/2.
Fig. 12 SEM micrograph of fracture surface at constant stress intensity factor range of 3.5MPam1/2under
environment change conditions in AZ61. The FCP direction is from the left to the right.
(Fig. 3, Fig. 4).き裂開閉口以外のき裂先端駆動力に影響 を及ぼす因子,例えばき裂経路の屈曲や分岐などの外的 要因は両環境間で相違は見られなかったことから,観察 された da/dN-ΔKeff関係の相違は純粋な環境効果に起因 すると判断される. SEM 破面解析の結果は,両環境間で以下の相違を明確 に示した.第一に,大気中の微視的破面は平坦なステッ プ,擬へき開ファセット,リバーパターン等のぜい性的様 相が支配的であったこと,第二に,蒸留水中では破面は 腐食生成物で顕著に被われていたことである.腐食生成 物は後腐食に起因するものも含まれるが,少なくともア ノード溶解に対する低い抵抗を意味している.実際,平滑 試験片の蒸留水中における腐食疲労試験においても,試 験片表面が腐食生成物で被われることを確認している.17) 以上の 2 点の事実は,大気中と蒸留水中では作動した FCP 機構が異なることを示しており,それに起因して da/dN-ΔKeff関係に相違が現れたものである. 大気中および蒸留水中で作動した FCP 機構として,そ れぞれ水素ぜい化とアノード溶解が考えられる.これま でに,純 Mg や Mg 合金について水素ぜい化18)や環境助
長割れ (Environment-assisted cracking, EAC)19), 20)に関 する研究が行われており,Mg 合金は室温大気中におい て EAC を生じ,EAC は水素ぜい化によって助長される ことが指摘されている.20)大気中では,水分の毛細凝縮に よってき裂先端近傍は水環境に近い状態になると考えら れるが,21)アノード溶解を引き起こすほどではなく,き裂 進展により露出した新生面と大気湿度との反応の結果生 じた水素の拡散,き裂先端のぜい化によってき裂進展が 促進されたと考えられる.水素の量は少ないと考えられ るが,新生面では材料をぜい化させるのに少量の水素で 十分であることが指摘されている.19)実際,湿潤環境下の AZ91D の FCP 試験において,水素ぜい化がき裂進展を 助長するとの報告も見られる.14) 一方,蒸留水中ではき裂進展により新生面が現れると, 蒸留水との反応の結果,き裂先端でアノード溶解とその 結果として被膜生成(腐食生成物)を生じる.同時に, 大気中よりも多くの水素が生成されると考えられるが, R. S. Stampella らは,19)水素は被膜のために新生面に拡散, 侵入できず,ぜい化を引き起こさないとしている.した がって,新生面のアノード溶解が主にき裂進展を助長し たと考えられる.
4
・2
FCP速度の繰返し速度依存性 腐食は時間依存現象であるから,FCP 挙動に及ぼす繰 返し速度の影響について古くから多数の研究が行われて いる.一般に,繰返し速度の減少に伴って FCP 速度は 増加する.本研究の場合,乾燥空気中では繰返し速度の 影響は全く認められなかった.この場合,水分はき裂進 展に全く関与しないので,合理的な結果であると考えら れる.一方,大気中では低繰返し速度でわずかに FCP 速 度が高速となるか,またはほとんど繰返し速度の影響は 見られなかった.これに対して,蒸留水中では明らかに 繰返し速度の影響が認められ,繰返し速度の減少に伴っ て FCP 速度は高速になった.この両環境における繰返し 速度依存性の相違は,前節で考察したように作動した FCP 機構の相違に起因すると考えられる.すなわち,き 裂先端で水素が生成,供給される時間依存現象よりも, き裂先端のアノード溶解の時間依存現象が顕著であると いうことである.しかし,蒸留水中の場合,f = 0.01Hz における FCP 速度は 10Hz の速度のたかだか 3 倍程度で あった.これは繰返し速度の減少に伴ってアノード溶解 が顕著になる結果,腐食生成物がき裂内に生成,堆積す ることによってき裂閉口を誘起するため,見かけ上顕著 な加速を示さなかったものと推察される.また,Mg 合 金の本質的に高い環境感受性が,相対的に小さい繰返し 速度依存性を引き起こしていることも考えられる.5
結 言 マグネシウム合金 AZ31 圧延材および AZ61 押出材を 用いて,蒸留水中および乾燥空気中において疲労き裂進 展 (FCP) 試験を行い,大気中の結果と比較,検討する ことによって,大気湿度および水環境の影響と破壊機構 について考察した.得られた主な結論は以下のとおりで ある. (1) いずれの環境においても,AZ31 と AZ61 の FCP 挙動はほぼ一致し,合金種の影響は見られなかった. (2) 蒸留水中の FCP 速度は大気中とほぼ一致したが, 乾燥空気中では全ΔK 領域において,それらの環境中よ りも約 1 オーダー遅い FCP 速度を示した. (3) き裂開閉口を考慮しても,FCP 挙動に環境の影響 が認められ,大気中の FCP 速度が最も高速であり,次いで 蒸留水中,乾燥空気中の順であった.このことから,純粋 な環境効果が FCP 挙動に存在することが明らかになった. (4) 大気中から蒸留水中,および大気中から乾燥空気 中へ環境を変化させると,FCP 挙動や破面様相に過度的 かつ遷移的現象を伴わず,直ちに変化後の環境の FCP 速 度や破面様相に変化した. (5) 大気中では微視的破面は平坦なステップ状模様, 擬へき開ファセットやリバーパターン等から成るぜい性 的様相であった.それに対して,乾燥空気中では大気中 で見られたぜい性的様相は消失し,全ΔK 領域において延 性的であった.また,蒸留水中では破面は腐食生成物で †マグネシウム合金の疲労き裂進展に及ぼす湿度および水環境の影響† 769Fig. 13 SEM micrograph showing fracture surface entirely covered with corrosion products at constant stress intensity factor range of 3.5MPam1/2in distilled
water in AZ61. The FCP direction is from the left to the right.
被われていた.大気中では腐食生成物は観察されなかっ たことから,大気中と蒸留水中では異なる FCP 機構が作 動しており,前者では水素ぜい化,後者ではアノード溶 解の関与を指摘した. (6) 0.01Hz から 10Hz の広範囲の繰返し速度の変化に 対して,乾燥空気中では FCP 速度の繰返し速度依存性 は見られず,大気中でも繰返し速度の影響はきわめて小 さいか,またはほとんど認められなかった.それに対し て,蒸留水中では繰返し速度の減少に伴って FCP 速度 は高速になった. 最後に,本研究の実験にご協力いただいた,当時豊田 工業高等専門学校学生熊谷光祐君,佐藤怜二君,小竹広 和君に感謝する. 参 考 文 献
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