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中国人留学生を対象とした日本の学校教育用語学習教材の開発

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Title

中国人留学生を対象とした日本の学校教育用語学習教材の

開発

Author(s)

王, 学頴; 今井, 亜湖

Citation

[岐阜大学カリキュラム開発研究] vol.[28] no.[2] p.[9]-[17]

Issue Date

2011-03

Rights

Version

岐阜大学カリキュラム開発専攻 / 岐阜大学教育学部学校教

育講座

URL

http://hdl.handle.net/20.500.12099/44146

※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。

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中国人留学生を対象とした日本の学校教育用語学習教材の開発

学 頴

*1

・今井

亜湖

*2 本研究では,教員養成系大学院に進学しようとする中国人留学生が大学院の必修科目の学習活動において必要と なる専門用語,すなわち「特定目的のための日本語(JSP)」である日本の学校教育に関する用語を習得するため のweb 型教材を開発した.開発した教材は,日本の学校教育を経験していない留学生が理解しづらい学校教育に 関する用語の概念や使い方を理解できるようにするために,日本の学校教育の現状や文化などを理解しながら, 小・中・高等学校の教育現場でよく用いられる用語を習得できるゴールベースシナリオ理論に基づくシナリオ教材 である.本教材を用いた学習の前後に行なった質問紙調査の結果より,学習者は専門用語の概念および関連する学 校教育活動を習得できたことが確認され,本教材が教員養成系大学院に進学しようとする中国人留学生の日本語学 習教材として有効であることが示唆された. 〈キーワード〉 教員養成系大学院,日本語教育,JSP,web 型教材,ゴールベースシナリオ理論,シナリオ教材, 教材開発 1. はじめに 日本の大学院に在籍する留学生の日本語能力は講義の 内容を理解するには不十分であるとの指摘がなされて いる(三門 1994).そこで,留学生が大学院において研

究や学習を十分に行うために「Japanese for Specific

Purpose(特定目的のための日本語:JSP)」教育が必要 とされてきている(松本 1999).例えば,野田(2001) は,経済学・法学研究科への進学を目指す留学生に必要 な日本語教育を調査し,その結果をふまえて,専門用語 の習得,専門分野に関する読解,論文作成などを中心と した授業実践を行なった.その授業を受講した留学生か らは,日本語や専門分野の知識が広がり,大学院入試に 役立ったという意見が得られたと報告している.つまり, 日本の大学院を目指す留学生にとって専門分野に関す る日本語,すなわちJSP の習得が有効であることが示唆 されたと言える.そこで,本研究では日本の教員養成系 大学院に進学する中国人留学生が大学院の学習や研究 を行なう際に必要となる JSP の習得に注目することに した. 教員養成系大学院では,学校教育に関する基本的な知 識を習得するための科目が共通科目として開講され,留 学生を含む大学院生全員が履修しなければならない.し かし,教員養成系大学に入学するまで日本の学校教育に ついて学んだ経験がない留学生にとって,日本の学校教 育に関する内容を扱う共通科目の授業内容を理解する のは難しい.よって,本研究では,教員養成系大学院に 進学を希望する中国人留学生にとって共通科目の授業 内容を理解するためのJSP 教育が必要であると考えた. 教育分野における JSP 教育の事例としては,山本 (1998)の実践があげられる.山本は,留学生が教育学 分野の学習の背景や土台を理解することによって,留学 生の教育学部の授業への理解を促進する可能性がある と指摘している.この山本の指摘をふまえて,本研究で は留学生が共通科目の授業内容を理解するための JSP 教育を支援するために,日本の学校現場の文化や現状を 理解しながら学校教育に関する用語を習得できる教材 を開発することにした. 2. 開発方法 教員養成系大学院に在籍する中国人留学生の専攻は 様々である.そのため,専攻によって授業の時間帯が異 なり,かつ空き時間にはそれぞれの研究活動が行われる 岐阜大学カリキュラム開発研究 2011.3, Vol.28 No.2, 9-17 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座

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10 ため,対面授業形式のJSP 教育を行うのは難しいと考え た.そこで,本研究で開発する教材では,学習時間を限 定せず,インターネットに接続されているマシンがあれ ばいつでもどこでも利用できる web 型教材とすること にした. 本研究では,学習者が自分のペースで学習できる個別 学習用web 型教材を開発するために,インストラクショ ナルデザイン(以下,ID)の手法を用いることにした. ID とは「教育を短期間で効率良く効果的に行う手法」(日 本教育工学会 2000)を指し,e-Learning の実践を支える 手法として多くの実践で導入されている (鈴木 2005). ID の最も基本的なモデルは,ADDIE モデルである. ADDIE モデルとは,インストラクショナルデザインの 最も基本的なプロセスである「分析(Analyze)」「設計 (Design)」「開発(Develop)」「実施(Implement)」「評価 (Evaluate)」の 5 つの段階から構成される(R.M.ガニエ ほか 2007).本研究では,開発する教材の質を高めるた めに,ADDIE モデルのプロセスにそって評価・改善を 繰り返すことにより,日本の学校現場の文化や現状を理 解しながら,教員養成系大学院の学校教育に関する科目 で必要となる用語を習得するための web 型教材を開発 していくことにした. 図1 は ADDIE モデルの 5 段階と,その各段階におけ る本研究で行なった活動を示したものである. まず「分析」段階では,学習者と学習内容を決定した. 本研究で開発する教材を利用する学習者は中国人留学 生である.その学習者の日本語能力を考慮しながら,彼 らが教員養成系大学院の学校教育に関する科目の授業 内容を理解するために必要な用語を選定し,その専門用 語の学習内容を決定した. 「設計」段階では,本研究で開発する教材の設計を行 なった.ここでは,分析段階で決定した学習内容をどの ような順番でどのように教えるかを決め,それをどのよ うに教材化していくかを設計した. 「開発」段階では,前段階で設計した教材の仕様に基 づき,教材を開発した.本研究では,教材の精度を高め るために,最終版教材を完成する前に2 回の教材開発(改 善)および評価を行った.すなわち,教材の基本設計の 妥当性を検証するために学習内容を専門用語1 つのみに 限定したα 版教材と,α 版教材の課題を改善し,かつ分 析段階で決定したすべての専門用語を学習させるため のβ 版教材である. 「実行」段階では,開発した教材を使って学習するた めの前提条件を満たす留学生を対象に,本研究で開発し た教材を実際に使って学習してもらった. 「評価」段階では,学習者に開発した教材を使って学 習を行なってもらい,その学習前後に質問紙調査を実施 した.α 版教材では一人で学習することができる教材で あるかを確認し,その評価結果より教材の仕様の改善点 を明らかにした.β 版教材では教材の有効性を評価した. この評価より明らかになった改善点を修正し,β 版教材 を修正したものを最終版教材として完成させた. 以下では,β 版教材(最終版教材)の学習内容,教材 の構成,そしてβ 版教材の評価結果について詳述する. 3. 学習内容 本研究で開発する教材の対象となる学習者は,日本語 能力試験2 級以上の日本語能力を持ち,教員養成系大学 院に進学しようとする中国人留学生とした.これは多く の国立大学の教員養成系大学院において日本語能力試 験2 級以上の日本語能力を持つことが留学生の進学する 図1 ADDIE モデルに対応する本研究のプロセス

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11 ための前提条件となっているからである. 開発する教材の目的は,日本語能力試験2 級以上の日 本語能力を持っている留学生が日本の学校現場の文化 や現状を理解しながら学校教育に関する専門用語を習 得できるようにすることである.そこで,まず本教材で 習得すべき学校教育に関する専門用語を決定した.本教 材で習得させる専門用語は,小・中・高等学校の学習指 導要領から抽出した用語と学校教育用語を扱っている 専門用語辞典とを照合し,さらに本教材の対象となる学 習者の日本語能力に応じて選定した.学習指導要領から 用語を抽出した理由は,日本の学校教育がこの学習指導 要領をふまえて行われているため,学習指導要領によく 出現する用語で中国人留学生が理解しづらい用語を学 ばせることが本教材の目的を達成することであると考 えたからである.この結果,本教材で扱う学校教育に関 する専門用語は,学校行事,特別活動,体験的な活動, 学級活動,クラブ活動,児童会活動,生徒会活動,安全 教育,進路指導,生活指導,児童,生徒,総合的な学習 の時間,道徳の時間,問題解決的な学習,探究学習,課 題学習,国際理解教育,個別指導,グループ別指導,発 展的な学習,補充的な学習,習熟度,生きる力,教頭, 教諭,専門教育,総合学科,必修教科,選択教科の計31 語とした. 次に,学習者がこれら 31 語の専門用語を理解するた めに必要な学習内容を決めた.本研究では,谷内(2007) が示した第二言語学習における語彙の習得に必要な学 習内容を基に,上述した専門用語それぞれの学習内容を 決めることにした.谷内(2007)は,語彙を習得するた めには,形式(語の表記などに関する知識),意味(意 味に含まれる概念の理解),使用(使用時の制約の理解) の3 側面を理解する必要があると述べている.この語彙 習得に必要な3 側面を,本教材で習得させる専門用語に 当てはめて考えてみると,形式の側面は各専門用語の 「読み方と書き方」(読み書き),意味の側面は各専門用 語が「学校教育で用いられる時の概念」(概念),使用の 側面は各専門用語の「教育学分野の論文における使用方 法」(使い方)にそれぞれ対応する.そこで,本教材の 専門用語を習得させるためには,これら3 つの内容(読 み書き,概念,使い方)を理解できるようにする必要が あると考えた.本教材で習得させる 31 語の専門用語す べてにおいて,この3 つの内容を扱う必要はない.つま り,本教材で学習させる内容は,日本語能力試験2 級レ ベルでは難しい用語の読み方,留学生が日常的に用いて いる国語辞典で調べただけでは理解が難しいと考えら れる用語の概念,中国人の日本語学習者が使い分けるこ とが難しい用語の使い方に限定することにした.その結 果を表1 に示す.表 1 は本教材で扱う 31 語の専門用語 に対し,その学習内容を一覧にしたものである. 表1 本教材の学習内容 専門用語 学習内容 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 クラブ活動 安全教育 課題学習 学級活動 学校行事 教諭 教頭 道徳の時間 児童会活動 進路指導 生活指導 生徒会活動 専門教育 総合学科 生徒 児童 特別活動 発展的な学習 普通教育 補充的な学習 問題解決的な学習 必修教科 選択教科 総合的な学習の時間 個別指導 体験的な学習 習熟度 グループ別指導 探究学習 生きる力 国際理解教育 概念 概念 読み方,概念 概念 読み方,概念 読み方,概念,使い方 読み方,概念 概念 読み方,概念 読み方,概念 概念 読み方,概念 概念 読み方,概念 読み方,使い方 読み方,使い方 概念 概念 概念 読み方,概念 概念 読み方,概念 読み方,概念 概念 概念 読み方,概念 読み方,概念 概念 読み方,概念 読み方,概念 概念 4.学校教育に関する専門用語を習得するための教授方略 開発する教材の学習内容を決定した後に,これらの学 習内容を学習者が教材でどのように学べるようにする か,すなわち学校教育に関する専門用語を習得させるた めの教授方略を検討した. 教材の目的は,留学生が日本の学校現場の文化や現状 を理解しながら,学校教育に関する専門用語を習得でき

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12 るようにすることである.つまり,辞書のように単に専 門用語の読みや概念を教えるだけでなく,専門用語の概 念を理解するために必要な日本の学校教育の文化等を 含めて専門用語を習得できるような教材を開発する必 要がある.このような教材を実現する方法として,本研 究ではシナリオ型教材に着目した.シナリオ型教材とは, 学習者にある一定の役割を与え,学習者の既知の情報や 用意された情報から必要な部分を抽出し活用させ,1 つ の判断をさせ,より自然な状態で起こるストーリーを用 いる教材のことである(根本・鈴木 2006). 本研究では,日本の学校教育の現状をストーリーに含 めることにより,学習者は日本の学校現場の文化や現状 を理解しながら,専門用語の「読み書き」「概念」「使い 方」を学習できるようにする.そこで,シナリオ型教材 の教授設計理論であるゴールベースシナリオ(GBS)理 論(Schank 1999)に基づく教材(GBS シナリオ教材) を開発することにした.GBS シナリオ教材は,学習者が カバーストーリーの文脈にそって特定の役割を演じ,各 種の情報源から情報を得たり,フィードバックを受けた りしながら,与えられた使命を達成するというシナリオ を通して,知識やスキルを習得できるように設計される (朴2009).このシナリオには,役割,使命,カバース トーリー,シナリオ操作,学習目標,情報源,フィード バックの 7 つの構成要素を含める必要がある(Schank 1999).そこで,これらの構成要素の内容を具体的に考 えるために,本教材で扱う専門用語に関連する日本の学 校現場の教育活動事例を調査した.調査は教員養成系大 学の学部4 年生 1 名と教員養成系大学の大学院 2 年生 3 名,計4 名の日本人学生を対象に,教材で扱う 31 語の 専門用語のうち,日本の学校教育活動に関連があると考 えられる20 語の専門用語について,それぞれの専門用 語に関する活動でどのようなことを実際に経験したか を口頭で回答してもらった.それぞれの専門用語におい て協力者が回答した事例を分析した結果,同じ事例が関 連する活動としてあげられた専門用語があることに気 づいた.そこで,同じ事例でその概念を説明できる専門 用語は,1 つのシナリオに含めることにした.これによ 表2 開発する教材の各シナリオの基本設計 第一章 「日本の課外活動」 第二章「日本の授業における指導 方法」 第三章 「日本の教科の分類」 学習する用語 学校行事,特別活動,体験的な活 動,学級活動,クラブ活動,児童 会活動,生徒会活動,安全教育, 進路指導,生活指導,児童,生徒 総合的な学習の時間,道徳の時 間,問題解決的な学習,探究学習, 課題学習,国際理解教育,個別指 導,グループ別指導,発展的な学 習,補充的な学習,習熟度,生き る力 教頭,教諭,専門教育,総合学科, 必修教科,選択教科,普通教育 シナリオ の 構成 要素 使命 大学院の研究計画書を完成する 大学院の授業において日本の学校における指導方法を説明する 日本の教育課程を調査し,先生に報告する カバー ストーリー 学習者は辞書を調べたり,周りの 人の話を聞いたりすることで,日 本の学校で行われている「特別活 動」に関する研究計画書を完成し ていく. 学習者は大学院の授業で辞書を 調べたり,周りの人の話を聞いた りすることで,日本の学校でよく 行われている指導方法が説明で きるようになっていく. 学習者は日本の学習指導要領や 辞書を調べ,日本の教育課程と関 連する専門用語を知る 役割 中国から来た教員養成系大学院 一年の留学生 中国から来た教員養成系大学院 一年の留学生 中国から来た教員養成系大学院 一年の留学生 学習 目標 第一章の学習内容となる用語を 習得する 第二章の学習内容となる用語を 習得する 第三章の学習内容となる用語を 習得する シナリオ 操作 辞書を調べる,用語の概念に関す る練習問題を回答する,用語の教 育活動に関する練習問題を解く, 使命を完成するための練習問題 を解く 辞書を調べる,用語の概念に関す る練習問題を回答する,用語の教 育活動に関する練習問題を回答 する,使命を完成するための練習 問題を回答する 辞書を調べる,用語の概念に関す る練習問題を回答する,用語の教 育活動に関する練習問題を回答 する,使命を完成するための練習 問題を回答する フィード バック 練習問題の解答に対し,補足情報 を提示する 練習問題の回答に対し,補足情報 を提示する 練習問題の回答に対し,補足情報 を提示する 情報 源 辞書における用語概念の解釈提 示 辞書における用語概念の解釈の 提示 辞書における用語概念の解釈.学 習指導要領における教育課程の 提示

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13 り,本教材では31 語の専門用語を習得させ るために 3 つのシナリオを用意することに した.また,調査で収集した事例を参考にし ながら,各シナリオを構成する 7 つの要素 を具体化した.この結果を示したものが表2 である. 表 2 の第一章「日本の課外活動」では, 学習者は日本の課外活動を研究しようとす る留学生を演じ,同じ教員養成系大学院に在 籍する日本人学生に日本の小中学校の特別 活動として行なわれている学校行事,クラブ 活動,児童・生徒会活動や学級活動などの活 動内容を教えてもらい,その内容をふまえて, 日本の課外活動を研究テーマとした研究計 画書を完成するというシナリオを作成し,学 校行事,特別活動,体験的な活動,学級活動, クラブ活動,児童会活動,生徒会活動,安全 教育,進路指導,生活指導,児童,生徒の計 12 語を学習できるようにした.第二章「日 本の授業における指導方法」では,大学院の 授業のグループディスカッションにおいて, 学習者は日本人学生に問題解決的な学習などの指導方 法が日本の小中学校ではどのように行われているかを 教えてもらい,その内容を先生に報告するというシナリ オにより,総合的な学習の時間,道徳の時間,問題解決 的な学習,探究学習,課題学習,国際理解教育,個別指 導,グループ別指導,発展的な学習,補充的な学習,習 熟度,生きる力の計12 語を学習できるようにした.第 三章「日本の教科の分類」では,日本の教育課程に含ま れている教科に関するレポートを作成するという使命 を学習者に与え,学習者は学習指導要領などの資料を用 い,日本の小・中学校の必修教科や選択教科の意味を理 解しながら,レポートを完成するというシナリオにより, 教頭,教諭,専門教育,総合学科,必修教科,選択教科, 普通教育の計7 語の専門用語を習得できるようにした. 5. 教材の構成とその学習方法 本教材はAdobe Flash CS5 を用いて開発した.図 2 に示すように,本教材は,「イントロダクション」,「教 材の説明」,「章の選択」,「学習内容」の4 つの部分から 構成される. 「イントロダクション」部分は,学習者が教材を起動 した時に表示されるトップ画面と,「教材の説明」を見 るか否かを選択する画面から構成される.トップ画面に は,教材のタイトル, 教 材の 概要が 表示 される.学習者が学 習 を開 始する ため に ト ッ プ 画 面 の 「start」ボタンを ク リ ッ ク す る と , 「教材の説明」を見 る か否 かを選 択す る画面(図3)が表 示される.学習者が 教 材の 説明を 見た い時には「YES」ボ タン,教材の説明を 見ずに「章の選択」 図2 教材の構成

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14 部 分 へ 移 動 す る 時 に は 「NO」ボタンを選択する. 「教材の説明」部分では, 学習者 が教材を使うため に知ら なければならない 内容を説明する.その内容 は,教材画面の見方につい て説明する「教材画面の説 明」,「教材の使い方の説 明」,「教材に登場するキャ ラクターの説明」である. 図4 は,教材画面の見方を 説明する画面である.学習 者であ る中国人留学生が 教材の 使い方をしっかり 理解できるように,教材画 面の見 方の説明と教材の 使い方 の説明は中国語で 表示した. 学習者はこれらの内容を 確認すると,「章の選択」 部分へ進む.「章の選択」 部分は,学習者が学習した い用語を選択する画面と, 選択し た専門用語が学習 できる 章が表示される画 面の 2 つから構成される. まず,学習者が学びたい用語をチェックする画面(図5) が表示される.学習者は学習したい用語をチェックし (図5 の①),図 5 の②の確認ボタンをクリックする. すると,図6 の画面が表示され,学習者がチェックした 用語を学習できる章が表示される(図6 の③).この指 示にしたがって,学習者は学習したい章(図6 の④)を 選択すると,その章のカバーストーリーがアニメーショ ンで提示され(図7),最後に使命が表示される.学習者 はカバーストーリーで主な背景を,使命で完成すべき課 題を確認すると,その章の「学習部分」へ進む. 「学習内容」部分では,前節で示したシナリオにそっ て,学習者は専門用語を学ぶ.学習者が使命を達成する ための必要な情報を得るために用意した画面が「辞書を 調べる」と「会話を見る」の2 種類である.学習者が「辞 書を調べる」を選択すると,専門用語の概念が表示され (図8),学習者は用語の概念を理解する.用語の概念が 理解できたら,次の画面において用語の概念と関連する 教育活動を知っているかを確認するボタンが表示され る(図9).知らないというボタンを選択すると,図 10 のようにキャラクター同士の会話をとおして,学習者が その用語と関連する学校教育活動を理解できる画面が 表示される.会話の内容は前述した調査で得られた事例 を参考に作成した. 図6 章の選択画面 図 5 学習する用語のチェック画面 図7 カバーストーリーの表示画面 図 8 用語の概念の確認画面 図 9 教育活動を確認するかの選択肢画面 図 10 用語と関連する教育活動の会話画面

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15 学習者が専門用語の概念及び関連する教育活動を学習 した後,その内容を習得できたかを確認するための2 種 類の練習問題が提示される.穴埋め問題は用語の概念と 読み方を確認するための練習問題であり,選択肢問題は 用語とその用語に関連する学校現場の教育活動が理解 できたかを確認するための練習問題である.例えば,学 習者が図 11 のような穴埋め問題を解く場合には,空欄 にあてはまる用語をキーボード入力で解答し,正解を確 認するためのボタンをクリックすると,図12 のような 正解あるいは不正解を示すフィードバック画面が表示 される.正解の場合には次の練習問題が表示される.一 方の不正解の場合には正しい回答とその解説文が表示 され,その後練習問題で扱った用語の概念を学習すると ころまで戻り,学習し直すようになっている. 6. 教材の評価 6.1. 評価方法とその内容 教材を評価する目的は,本教材を利用することにより, 中国人留学生が日本の学校現場の文化や現状を理解し ながら31 語の専門用語を習得することができたかを明 らかにすることである.評価は,評価協力者である中国 人留学生に開発した教材を実際に使用して学習を行な ってもらい,学習前と学習後に実施した質問紙調査の結 果を基に行なう.なお,本教材の学習効果を検証するた めに,学習前と学習後に実施した質問紙調査の内容は統 一した.ただし,質問文の文言は学習前と学習後で多少 異なる. 評価内容は「教材を学習することをとおして用語の読 み方を習得できるか」,「教材を学習することをとおして 用語の概念を知ることができるか」,「教材を学習するこ とをとおして教育学分野の文 章における使い方を知ること ができるか」,「専門用語に関 連する日本の学校における教 育活動を説明することができ るか」の 4 点とした.「教材 を学習することをとおして用 語の読み方を習得できるか」 を確認するために,学習内容 となる用語の読み方をひらが なで表記してもらう質問項目を用意した.「教材を学習 することをとおして用語の概念を知ることができるか」 を確認するために,31 語の専門用語すべてにおいて,そ れぞれの用語の概念について,「分かると思う」,「すこ し分かると思う」,「あまり分からないと思う」,「まった く分からないと思う」の4 段階にて評価してもらうこと にした.「教材を学習することをとおして教育学分野の 文章における使い方を知ることができるか」を確認する ために,これを学習内容として扱っている専門用語「教 員」「教師」「児童」「生徒」を対象に,「教員・教師」「児 童・生徒」の使い方の違いを自由記述で回答してもらう ことにした.「専門用語に関連する日本の学校における 教育活動を説明することができるか」を確認するために, これに該当する20 語の専門用語において,その用語に 関連する教育活動について「分かると思う」,「すこし分 かると思う」,「あまり分からないと思う」,「まったく分 からないと思う」の4 段階にて評価してもらうことにし た. 評価協力者は2011 年 4 月から教員養成系大学院に進 学する予定の中国人留学生2 名であり,その日本語能力 はともに日本語能力試験1 級レベルであった. 6.2. 評価結果 6.2.1. 用語の読み方の習得に関する評価 協力者A と B は本教材の学習内容である用語の読み方 をどの程度習得したかを明らかにするために,事前事後 の質問紙調査において 31 語の専門用語のふりがなを書 いてもらった. 協力者A は事前の質問紙調査で「学級」「行事」「生徒」 のふりがなを正しく書けなかったが,事後の質問紙調査

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16 ではすべての用語のふりがなを正しく書けた.協力者B は事前の質問紙調査で「活動」「指導」「道徳」「児童」「進 路」のふりがなを正しく書けなかったが,事後の質問紙 調査では,「進路」以外の用語のふりがなを正しく書け た.協力者B が「進路」のふりがなを正しく書けなかっ た原因として,本教材で「進路」のふりがなを学習者に 提示しなかったことが考えられる. この質問紙調査の結果に対し,学習者は本教材の学習 を通してほとんどの用語の読み方を習得できたといえ る. 6.2.2. 用語の概念の習得に関する評価 学習者が用語の概念を習得したかを明らかにするため に,質問紙調査の回答である「分かると思う」を 4 点, 「すこし分かると思う」を 3 点,「あまり分からない」 を2 点,「まったく分からない」を 1 点と数値化し,協 力者A と B の事前・事後の回答の点数を比較することで 概念の習得状況を考察した. その結果,協力者A の事前の質問紙調査の結果の平均 点は2.13 で,事後の質問紙調査の結果の平均点は 3.71 であった.協力者B の事前の質問紙調査の結果の平均点 は3.23 で,事後の質問紙調査の結果の平均点は 3.90 で あった.また,有意差検定の結果より,それぞれの協力 者の事前・事後の質問紙調査の結果の差は有意であるこ とが分かった. 以上の結果より,学習者は学習内容である 31 語の専 門用語の概念をほぼ習得できたと評価したことが明ら かになった. 6.2.3. 用語の教育学分野の文章における使い方の習得に 関する評価 協力者A と B が教育学分野の文章における用語の使い 方をどの程度習得したかを明らかにするために,学習内 容である「児童・生徒」と「教員・教師」をどのように 区別して使うかを事前事後の質問紙調査において自由 記述で回答してもらった結果を分析した. 協力者A は,事前の質問紙調査において「児童」と「生 徒」の使い方を正しく区別できたが,「教師」と「教員」 の使い方を区別できなかった.しかし,事後の質問紙調 査では「教員」と「教師」の使い方も区別できるように なっていた.協力者B は事前の質問紙調査で「児童」と 「生徒」,「教員」と「教師」のそれぞれの使い方が区別 できなかったが,事後の質問紙調査では「児童」と「生 徒」,「教員」と「教師」の使い方を正しく区別できた. この結果より,学習者は学習内容となる専門用語の教 育学分野の文章における使い方を本教材によって習得 することができたと考えられる. 6.2.4. 専門用語に関連する日本の学校における教育活動 の理解に関する評価 協力者A と B は本教材の学習内容である専門用語に関 連する日本の教育活動をどの程度理解できたかを明ら かにするために,事前事後の質問紙調査で学校現場の教 育活動に関連する 20 語の専門用語に関連する学校教育 活動が分かるかを評価してもらった.質問紙調査の回答 は「分かると思う」を4 点,「すこし分かると思う」を 3 点,「あまり分からない」を2 点,「まったく分からない」 を1 点と数値化し,協力者 A と B の事前・事後の回答 の点数を比較した. 協力者 A の事前の質問紙調査の結果の平均点は 1.35 で,事後の質問紙調査の結果の平均点は3.50 であった. 協力者B の事前の質問紙調査の結果の平均点は 3.35 で, 事後の質問紙調査の結果の平均点は4.00 であった.また, 有意差検定の結果より,それぞれの協力者の事前・事後 の質問紙調査の結果の差が有意であることが分かった. 以上より,学習者は学習内容となる専門用語に関連す る日本の学校における教育活動を理解できたと考えら れる. 7. おわりに 本研究では,ゴールベースシナリオ理論を基に,教員 養成系大学院に進学しようとする中国人留学生が日本 の学校現場の文化や現状を理解しながら学校教育に関 する専門用語を習得するための個別学習用 web 型教材 を開発した. 学習者に開発した教材を実際に使って専門用語を学習 してもらい,その学習の前後に実施した質問紙調査の結 果より,学習者は開発した教材をとおして専門用語の読 み方,概念,使い方および関連する学校教育活動を習得

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17 したことが確認され,本研究において開発した教材は中 国人留学生が日本の学校現場の文化や現状を理解しな がら学校教育に関する専門用語を習得できる教材とし て有効であることが示唆された. しかし,本研究において明らかにできなかった点もあ る.今回の評価では,筆者が在籍する大学の進学予定者 および在校生,修了生の中で,教材の利用者として設定 した条件を満たす留学生すべてに参加してもらったが, 上記の条件に該当する中国人留学生は2 名しかいなかっ た.また,2 名の評価協力者は,中国の大学の日本語科 を卒業し,かつ日本語能力が1 級以上であった.つまり, 本研究では,開発した教材の学習者と設定した一部の学 習者にとって本教材が有効であることを示したにすぎ ない.よって,今後の課題としては,非日本語専攻出身 の学習者で日本語能力が2 級程度の学習者にとって本教 材が有効であるかを検証する,より多くの学習者に教材 を使って学習してもらい,教材の効果を検証する,の2 点があげられる. 参考文献 朴恵一(2009) ゴールベースシナリオ(GBS)理論に基 づいた情報活用力育成教材の設計. 教育システム情報 学会第34 回全国大会講演論文集: 110-111 松本宏行(1999) 研究支援のための専門日本語・日本事情 教育への一考察.神戸大学留学生センター紀要,6: 99-108 根本淳子・鈴木克明(2006)ゴールベースシナリオ(GBS) 理論の適応度チェックリストの開発. 日本教育工学会 論文誌 29(3): 309-318 日本教育工学会(2000) 教育工学事典. 実教出版 三門準(1994) 専門日本語教育用シラバス作成の試み.亜 細亜大学教養部紀要,49: 138-117

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18 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座 *1 岐阜大学大学院カリキュラム開発専攻 *2 岐阜大学教育学部学校教育講座

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