小・中学校におけるタブレット端末を活用した教育実践とその効果の検証
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(2) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2012-CE-113 No.2 2012/2/4. きくなっただけとも考えられるので,画面の大きさを積極的に活用するぐらいしか, 携帯電話を超える特徴が出せないからである。現状では画面の大きさを生かしたイン ターネットでの調べ学習や電子教科書の閲覧等が,利用法として確立されているに過 ぎない。これらを超える利用法については精力的に検討されているものの,実践事例 が積み重なっておらず教育効果を十分に議論するレベルには達していない。そのため 本研究ではタブレット端末の代表的製品である iPad を利用し,小・中学校教育におけ るタブレット端末を活用した教育実践をおこなった事例,およびアンケート調査結果 について報告する。さらに小・中学校教員を対象としたタブレット端末の教育利用に 関するアンケート調査結果についても,あわせて報告する。. 導要領の「脱ゆとり教育」は鮮明であり,理数教科の内容増加以外でも英語教育でも 学習する単語数が増加するなど,主要科目の大幅な学習内容・時間の増加がはかられ た。逆に情報に関する授業時間は約22時間となり,旧学習指導要領の44時間の約 半分になってしまった。このような変更を考えると,新学習指導要領では情報教育の 高度化が提唱されているにもかかわらず,従来と同じ発想のもとでは情報教育を縮小 せざるを得ないことになってしまう。また新学習指導要領の目標そのものにも,問題 点がある。例えば小学校でコンピュータでの文字入力を中心とした操作を習得するこ とが明記されているが,手の小さい児童が大人用のキーボードで入力をおこなうのは 困難を伴うと予想される。また中学校で必履修となったプログラムと計測・制御では 「プログラムの機能を知り,簡単なプログラムの作成ができること」と記されている が,限られた時間でプログラムの作成が出来るようになるには,通常利用されている 一般的なプログラム言語では難しい。そのため中学生でも利用可能な特殊なプログラ ム言語を学ぶことになるが,高等学校以後で再度実用的なプログラム言語を学ぶ,と いう二重の手間を要することになる。またプログラムを作成するためには,その基礎 となるアルゴリズムに関する理解が欠かせないが,必履修化したためにその理解を全 中学生に求めることになってしまった。いずれにしても小・中学校における情報教育 は,大きな転換点を迎えているのである。. 2.小・中学校教育におけるタブレット端末 2.1 小・中学校教育におけるコンピュータ教育の問題点 小・中学校教育における体系的な情報教育は,2002 年度から実施された学習指導要 領から始まった 2,3)。さらに小学校では 2011 年度から実施が開始され,中学校では 2012 年度から実施予定の新学習指導要領では,以前に比べより高度な目標が情報教育に設 定されることとなった 4,5)。情報教育を高度化させるべくなされた主な変更点は,以 下のとおりである 6)。小学校における情報教育は「総合的な学習の時間」を中心に全 教科を通じ,コンピュータなどの情報機器を手段として情報活用の実践力をはぐくむ ことを目標としている点は変わらない。しかしコンピュータで文字を入力するなどの 基本的な操作,及び情報モラルの習得・活用が明記された点が大きく異なる。また情 報活用の実践力,情報社会に参画する態度についても学習させるように求めている点 も新しい。一方中学校における情報教育も,主に技術・家庭科の技術分野で取り扱わ れることに変わりはない。しかし内容をよく見ると,情報通信ネットワークと情報モ ラルに主眼を置いたものとなっており必修だったコンピュータリテラシーについては 小学校に移されていること,選択項目であったマルチメディアやプログラムと計測・ 制御が必履修となったことなど,内容が高度化している。このような変更を概観する と,いじめや学級崩壊などの現在の教育が抱えている問題点解決し「生きる力」をは ぐくむ上で,情報教育が欠かせないとの認識があることが伺える。 しかしながら新学習指導要領のもとで,小・中学校において情報教育を高度化する ことの困難さについても,理解をしておく必要がある。小学校教育では情報教育に特 化した教科が設定されているわけではないので, 「総合的な学習の時間」を中心として 情報教育がおこわなれることになる。しかし新学習指導要領ではいわゆる「ゆとり教 育」への批判から,算数・理科を中心に教授内容の増大がおこなわれており,そのう え小学校5・6年生からの英語教育も新たに導入された。それに連動して旧学習指導 要領の目玉であった総合的な学習の時間が大幅に削減されてしまい,現実問題として 情報教育をおこなう貴重な時間が失われてしまった。中学校教育についても新学習指. 2.2 タブレット端末の可能性 先に見たように,新学習指導要領では時間数が大幅に削減されたうえで,より高度 な情報教育をおこなうことが求められる,という困難を抱えることになってしまった。 それを打破するためには他教科のなかでコンピュータを積極的に活用する以外にない のであるが,そのためには児童・生徒がコンピュータルームへ移動することが必要と なり,利用回数はごく限られたものになるという悩ましい現実にぶつかる。そしてこ のような状況の下で,タブレット端末の流行が始まったのである。タブレット端末な ら通常の教室で利用が可能であるうえ,起動の早さゆえ授業の合間に利用することも 出来る。これは各教科で情報教育をおこなう上で大きなメリットである。それに加え て,タブレット端末にはコンピュータや携帯電話では実施が難しい以下のような利用 法も可能となった。 最初に挙げたいのが画像・音声を利用した電子書籍としての利用である。近年は印 刷と製本というプロセスを経て作られる通常の書籍とは異なり,電子機器のディスプ レイで読むことができる出版物としての電子書籍が注目を集めてきている。米国では 電子書籍リーダーの普及率が 1 割を超えたようであるが,日本でも青空文庫のように 著作権が消滅した文学作品,著作権者が許諾した文学作品を収集・公開しているイン ターネット上の電子図書館が出現した。また自作の文章をインターネット上に公開し, 口コミで評判が広がるケータイ小説も普及している。もちろん空き時間に小説を楽し. 2. ⓒ 2012 Information Processing Society of Japan.
(3) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2012-CE-113 No.2 2012/2/4. むには,携帯電話で十分であろう。しかし近年では紙の書籍では不可能な,ハイパー リンク・動画・音声・振動(バイブレーション)などを併用したコンテンツが登場し たが,画面が小さい携帯電話ではその機能を楽しむことは難しい。一方ある程度の画 面の大きさを持つタブレット端末なら,このようなタイプの書籍の閲覧に適するであ ろう。 次に指を使った入力でのアプリケーション利用である。パソコンではキーボードに よる入力が主であるが,手の小さな小学生はキーボードを扱うのに不利なだけでなく, 無理な入力練習を長時間おこなうと腱鞘炎等の障害を引き起こす可能性すらある。一 方タブレット端末はタッチパネル方式であり,さらにいくつかのアプリケーションで は手書き入力すら可能である。これは訓練を要するキーボード入力を必要としない点 で優れており,この特徴を生かしたアプリケーションは,特に小学生などの低年齢層 には向いていると考えられる。 最後に手に持って動かす操作を前提としたアプリケーション利用である。これはや や特殊な学習状況での活用法であるため,理科教科の天文分野の学習支援をおこなう という状況下で,その特徴を述べる。天文単元は教育困難分野として知られているが, その主原因は昼間の通常授業時間内に夜間観察が出来ないことによる。昼間に疑似的 な星空観察体験をさせることが天文教育には必要なのであるが,そのためには情報機 器の積極的な利用が欠かせない。ところでタブレット端末や携帯電話(主にスマート フォン)には,星座早見の電子版としての利用を目的として作成されたアプリケーシ ョンがある。この種のものを利用すると,タブレット端末やスマートフォンを向けた 方向の星の配置が画面に表示され,星空観察をおこなうのに便利である。このような ことが出来る理由は,これらの情報機器には自分が向いている方向を示す方位磁針機 能(コンパス機能)が搭載されているためである。もちろんこの種のソフトはタブレ ット端末用だけでなく,スマートフォン用にも同時開発されているものが多い。その ため夜間の天体観測を助ける情報機器として見た場合,タブレット端末とスマートフ ォンで本質的な違いはない。場合によっては持ち運び便利なスマートフォンでの利用 が望ましい場合が多いであろう。ところが昼間の教室で利用する教育機器として見た 場合,両者には違いが出てくる。スマートフォンは画面が小さすぎるため,広がりを もった星空の配置を実感することには不向きなのである。あくまでスマートフォンは 現在見えている星の方向に指し示すことでその名前を知るという夜間天体観測の補助 機器としては適しているのであり,昼間の教室内においての疑似的天体観察には不向 きである。逆に十分な画面の大きさを持つタブレット端末はスマートフォンに比べ機 動性が务るので,天体観測アプリケーションとしてのメリットはない。しかし疑似的 な天体観測が体験できるということは,天文教育における観察学習においては大きな メリットである。タブレット端末を手に持ち,いろいろな方向を見たり画面の拡大・ 縮小したりすると,実際に星空観察している錯覚に陥る場合がある(図1参照)。教室. を尐し暗くするとより効果が増す。このような錯覚は画面の小さいスマートフォンで は難しい。いずれにしても,手に持って操作するというパソコンにはない使い方は, 教育機器としてのタブレット端末の価値を大いに高める利用法と言える。. 図1.昼間見えるはずのない夜空をタブレット端末で見る. 3.アンケート調査結果 3.1 小・中学生に対するアンケート調査結果 以上みたように,タブレット端末はコンピュータや携帯電話にはない機能を持って おり,教育機器としての魅力は大きい。そこでタブレット端末として ipad を想定し, それを利用した教育実践を,秋田県内の小学校(大仙市立太田南小学校)及び中学校 (秋田市立城南中学校)でおこなった。先にも述べたように各教科でタブレット端末 を活用するということで,理科教科での利用を試みた。具体的には両校で実施した「昼 間の教室で星空観察をおこなおう」という天文単元での授業実践で,タブレット端末 を利用した。児童たち・生徒たちは天文単元に入る直前の状態であったため,宇宙に 関する興味関心を高めるという授業目的は共通であり,授業時間はともに50分であ った。なお本教育実践では iPad 用の星座早見ソフト「planets」を両校とも,月面・ 惑星観察をおこなう「moon globe」・「skyORB」を,それぞれ太田南小学校・城南中学 校で利用した。なお今回の授業実践は,以下の状況での実施となったことを申し添え ておく。 1) 受講者全員に一人一台ずつ iPad を配布し,操作を各自が体験 秋田大学で採択・実施された「まなびの総合エリアを養成・研修拠点とした統合. 3. ⓒ 2012 Information Processing Society of Japan.
(4) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2012-CE-113 No.2 2012/2/4. 型教員養成プロジェクト」により,ICT 環境の整備を行いその授業活用をめざし た研究がスタートした。その課題の一つとして「iPad を活用した教育実践研究」 が挙げられ,その実施のために新規に iPad が 50 台導入された。本授業実践では, これらの iPad を利用した。. 操作が簡単 画面が見やすい. 持って操作しやすい. 2) ネットワークには接続せず,一般的なアプリケーションのみを利用 タブレット端末は,本来はネットワークに接続した利用が想定されている。しか し現状の小中学校では教室内の無線 LAN の環境整備が十分でないため,本授業実 践ではネットワーク接続しない状況で利用せざるを得なかった。また特殊なアプ リケーションを利用することを避け,誰でも手に入れることが出来る無料のアプ リケーションを用いた実践研究に限定した。. その他 特にない 0% 20% 40% 60% 80%100% 図3.タブレット端末の使いやすい点. このような状況下で教育実践をおこなった後,タブレット端末の教育効果における アンケート調査を実施した。調査に協力してくれたのは,授業を受講してくれた太田 南小学校6年生21名(男子10名,女子11名)と城南中学校3年生221名(男 子119名,女子102名)である。調査項目は7つあり,それぞれパーセンテージ で結果を棒グラフ表示した。いずれも上が太田南小学校,下が城南中学校の結果であ る。 最初にタブレット端末の使い心地(使いやすい・使いづらい)についての結果を図 2に挙げる。また使いやすかった点・使いづらかった点を複数回答可で挙げてもらっ たが,結果は図3・4のとおりであった。これらの結果から受講者のほとんどがタブ レット端末の使いやすいと回答していること,特に操作が簡単な点及び画面の大きさ について高評価をしていることが分かった。. 操作が難しい 画面が見にくい 持って操作しづらい その他. 特にない 0% 20% 40% 60% 80%100% 図4.タブレット端末が使いづらい点. 使いやすい さらにタブレット端末を利用した学習がどの程度興味を持って受け入れられたか, に関する調査をおこなった。図5は planets を使って星空観察を疑似体験した場合の, 図6は moon globe 及び skyORB を使って月面・惑星観察を疑似体験した場合の,学習 の面白さに対する評価結果である。明らかにタブレット端末の利用は高い評価を得て いるが,今回の授業実践を経験してみて,手に持ってかざした方向の星空を見るとい うパソコンでは出来ない操作,拡大・縮小が容易に実行でき詳細かつ全体を見渡した 観察が簡単に出来る,の 2 点が評価されたと感じている。以上より,教育機器として のタブレット端末の特徴が授業内容を魅力的にしていると結論付けてよいと思われる。. 使いづらい. 0%. 20% 40% 60% 80% 100%. 図2.タブレット端末の使い心地. 4. ⓒ 2012 Information Processing Society of Japan.
(5) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2012-CE-113 No.2 2012/2/4. 面白いと思う. 感じる. 尐し思う. 尐し感じる. あまり思わない. あまり感じない. 思わない. 感じない. 0%. 0% 20% 40% 60% 80% 100% 図5.星空観察は面白いか. 20% 40% 60% 80%. 図7.知識が増えたと感じるか 最後に「授業で使うならどれを希望するか」という質問でパソコン・タブレット端 末・携帯電話の中から選んでもらったが結果は図8の通りであり,タブレット端末は 高い評価を受けた。ただしこれはタブレット端末のみを利用した直後の調査結果であ り,割り引いて考えないといけない可能性があることも指摘しておきたい。. 面白いと思う 尐し思う 余り思わない. パソコン 思わない 0%. 50%. 100%. タブレット端末. 150%. 携帯電話. 図6.月面・惑星観察は面白かったか もちろん面白いだけでは,教育機器として成功とは言えない。タブレット端末を利 用した学習がどの程度知識の獲得に有効であるかについても調査もおこなう必要があ るが,それを「今回の授業を通して知識が増えたと感じるか」という聞き方で調査し た。結果は図7となり,尐なくとも知識獲得効果があったと感じた受講生が多数を占 めたことがわかった。ただし客観的なテスト等をおこなった定量的結果ではないので, 知識獲得効果があったと結論付けることには慎重であるべきである。実はタブレット 端末に限らず情報機器の利用が学習効果にどの程度効果があるのか,についてはあま りはっきりとした結論が出ていない 7,8,9)。この点は情報機器を教育利用する際には大 切な事項であるので,今後続けて調査していきたいと考えている。. どれも希望しない 0% 20% 40% 60% 80% 100% 図8.どれを利用したい? 以上まとめると,タブレット端末の利用した今回の授業実践は,小・中学生には好 意的に受け入れられたと結論付けて良いと思われる。iPad の目新しさもあったとは思 われるが,パソコンと全く違った魅力を持つタブレット端末の可能性を感じてくれた と理解している。なおここでの結果は,タブレット端末を理科教育に利用した際のア 5. ⓒ 2012 Information Processing Society of Japan.
(6) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2012-CE-113 No.2 2012/2/4. ンケート調査である。しかし今回の授業実践ではタブレット端末の特徴を生かす工夫 をしたにせよ特殊な利用をしていないので,他の単元や教科でタブレット端末を利用 した際も同じような傾向が出ると予想される。. 果について何らかの意見をお持ちになったと思われる。現場の小・中学校教員のタブ レット端末に対する評価を知るために,講演終了後にアンケート調査をおこなった。 ここではその結果を報告するが,調査項目は5項目である。結果はパーセンテージで 棒グラフ表示したが,いずれも上が小学校教員,下が中学校・その他の教員の結果で ある。 最初にタブレット端末の使いやすさに対する調査結果を挙げる。どちらとも言えな いと答えた2名の小学校教員がいるため100%とはならなかったが,使いづらいと した教員はいなかった。また使いやすかった点・使いにくかった点を複数回答可で挙 げてもらった。結果は図9・10・11のとおりであった。. 3.2 小・中学校教員に対するアンケート調査結果 タブレット端末を理科教育(天文単元)に利用した際の児童・生徒に対するアンケ ート調査は,先に報告したとおりである。ただしそのデータだけでは,タブレット端 末の教育的有効性に関する洞察を得るには不足である。そこで理科教育から離れ,さ らに小・中学校教員から見たタブレット端末の教育利用に関する有効性についての調 査結果も報告する。この調査は,秋田県南部にある横手市立浅舞小学校で開催された 横手市メディア教育部会での講演中に実施したものである。メディア教育部会の出席 者は小学校教員34名,中学校教員および指導主事等の先生方17名,合計51名で あった。 メディア教育部会の前半でタブレット端末(iPad)を利用した共同模擬授業をおこ なったが,その概要は以下のとおりである。 (なお本授業に参加してくれたのは,浅舞 小学校6年生の児童たちである。)児童たちには授業開始前に,コンピュータに対して どのような点を不満に思っているか(例えば起動が遅い,入力が大変など)を挙げて もらっておいた。それを解決する可能性のある情報機器として,浅舞小学校の加藤・ 高橋両先生がタブレット端末(iPad)を紹介した。その後は私と加藤・高橋先生と一 緒に児童たちにタブレット端末を操作体験してもらうことで,パソコンとどう違うの かについて考えてもらった。利用したソフトは先に紹介した「planets」のほか「サー カスが燃えた」,「日本一周」である。「planets」ではタブレット端末をいろいろな方 向に向けることで星空が再現できる,というパソコンでは不可能な操作を体験しても らった。 「サーカスが燃えた」は作家の佐々木譲氏の体験に基づく童話を電子書籍にし たものであるが,最大の特徴は動く絵と音楽と一体になった読書ができる点にある。 手元に置いた状態で音響効果を楽しみながら読書が出来る,というタブレット端末の 特徴を堪能してもらった。最後に「日本一周」で県名を答えるクイズ形式のソフトを 楽しんだ。これは県名を画面上に指先で漢字を書いて答える形式をとっているが,こ れによってパソコンと違う入力方式を体験してもらった。なおこの授業は,メディア 教育部会の小・中学校教員の先生方が参観するなかで実施された。 メディア教育部会の後半では,「新しいメディアを使った授業の未来」というテー マのもと,タブレット端末の教育的利用に関する講演をおこなう機会を頂いた。聴講 者は先に述べた51名の小・中学校教員の先生方である。講演会では教育機器として みた場合のタブレット端末の長所及び利用例を中心にお話ししたが,その中でタブレ ット端末を操作してもらった。タブレット端末に初めて触れたという先生方が多数を 占めたが,今回の授業参観・講演会での操作体験を通してタブレット端末の教育的効. 使いやすい. 使いづらい. 0%. 20% 40% 60% 80% 100%. 図9.タブレット端末の使い心地. 操作が簡単 画面が見やすい 持って操作しやすい その他 特にない 0% 20% 40% 60% 80%100% 図10.タブレット端末の使いやすい点 6. ⓒ 2012 Information Processing Society of Japan.
(7) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2012-CE-113 No.2 2012/2/4. 操作が難しい. パソコン. 画面が見にくい. タブレット端末. 持って操作しづらい 携帯電話. その他. どれも希望しない. 特にない 0% 20% 40% 60% 80% 100%. 0%. 20%. 40%. 60%. 80%. 図13.どれを利用した授業をしたいか. 図11.タブレット端末が使いづらい点. 以上まとめると,タブレット端末は,小・中学校教員にも好意的に受け入れられた と結論付けて良いと思われる。スマートフォンを日常的に利用している教員も多いた めであろうか,操作方法についてもほとんど違和感がないように思われた。ただし小 人数ではあるが,タブレット端末の利用に懐疑的な教員がいたことも事実である。今 回のアンケート調査結果から,タブレット端末の利用を促進するためにはきちんとし た授業プランを合わせて提案していく必要を感じた。. 次に教育機器としての可能性についての調査を試みたが,その結果は図12・13 のようになった。図12より小学校教員の方が全般的にタブレット端末に対してより 好意的であることが見て取れる。また図13より受講者を対象とした図8に比べてパ ソコンを利用したい,という割合が多かったことも特徴である。ただしこれらは限ら れたサンプル数での結果であり,簡単に一般化できないことに注意すべきである。. 4.まとめと今後の課題. 感じる. 本論文は小・中学生に対するタブレット端末を活用した教育実践とアンケート調査 報告,および小・中学校教員に対するタブレット端末の教育利用に関するアンケート 調査の結果報告である。今回の調査はタブレット端末の教育機器としての可能性を見 極める目的のために実施したものであるが,その結果を大まかにまとめてみたい。 最初に挙げたいのが,教育機器としてのタブレット端末の魅力である。今回の調査 から,操作が簡単であることがタブレット端末の最大の魅力であることが判明した。 これは授業実践者である教員,受講者である児童・生徒ともに共通した評価である。 また画面が大きくて見やすいことも,教育機器としての魅力であることも分かった。 以上より,入力訓練の必要がなく操作性に優れるタブレット端末は,小・中学校現場 での教育効果が期待できると結論付けられる。次に挙げたいのが,タブレット端末な らではのアプリケーションが,教育に与える影響である。タブレット端末用の電子書 籍や手書き入力可能なアプリケーション及び天体観測アプリケーション等を利用する ことが,情報機器や学習への興味・理解を深めるうえで大いに期待できそうなことが 今回の授業実践及びアンケート調査で分かった。言い換えるとタブレット端末の特性. 尐し感じる あまり感じない 感じない 0%. 20%. 40%. 60%. 80%. 図12.タブレット端末を利用すると授業の魅力が増すと感じるか. 7. ⓒ 2012 Information Processing Society of Japan.
(8) 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. Vol.2012-CE-113 No.2 2012/2/4. を生かしたアプリケーションの存在が,教育をおこなう上で大切であるということが 確認できた。なおそれを生かす周到な授業プランが重要であることは,言うまでもな いであろう。 最後にタブレット端末の教育利用に関する今後の展望について述べてみたい。今回 の授業実践・アンケート調査は,現時点での小・中学校での無線LANの整備状況等 のため,ネットワーク接続をした利用が出来なかった。タブレット端末本来の魅力を 出すためには,ネットワークへの接続は必要不可けるであろうが,設置費用やセキュ リティの整備等の課題があり,各教室で無線LANが自由に利用できるまで今しばら くの時間がかかると予想される。いずれにしてもネットワーク接続した場合の教育効 果については,別途調べる必要がある。また情報機器に過度に頼った授業は問題を引 き起こす可能性があることにも,注意を払うべきである。タブレット端末のような新 しいメディアを利用する場合は,その長所だけでなく欠点や限界をよく知った上で, それに振り回されない利用をおこなうことが必要であろう。 タブレット端末は開発されてまだ十分な時間が経過しておらず,教育機器としては もちろん情報機器としての魅力も未知数な部分が多い。しかし今回の教育実践を通し て,教育機器としての可能性を携帯電話以上に感じたことも事実である。タブレット 端末が今後どのような進化を遂げていくのか不明であるが,パソコンや携帯電話では 実現が難しかった教育活用法を,これら第三の情報機器で実現出来そうに思える。今 後とも様々な分野・単元における利用例が蓄積され,教育機器としての活用法が確立 されることを切に願っている。. する』名古屋文理大学紀要,第 11 号,p97-104. 2) 文部科学省,『小学校学習指導要領』 (1998) http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/990301b.htm 3) 文部科学省,『中学校学習指導要領』 (1998) http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/990301/03122602.htm 4) 文部科学省,『小学校学習指導要領』(2008) http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/index.htm 5) 文部科学省,『中学校学習指導要領』(2008) http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/chu/index.htm 6) 中野由章・和田勉,2009,『新学習指導要領とこれからの情報教育』, 情報処理 50(10), p996-1004. 7) ジェーン・ハリー, 1999, 「コンピュータが子どもの心を変える」,大修館書店 8) クリフォード・ストール, 2001, 「コンピュータが子供たちをダメにする」,草 思社 9) ラリー・キューバン,2004,「学校にコンピュータは必要か」,ミネルヴァ書房. 謝辞 今回の授業実践は,大仙市立太田南小学校の小笠原重夫校長,秋田市立城南中学校 の高田均校長のお力添えで実施可能となりました。本教育実践において我々の講義に 参加し,アンケート調査に協力してくださった太田南小学校6年生,城南中学校3年 生の皆さんとともに,ここに深く感謝いたします。また横手市メディア教育部会でお 世話になった山内中学校の島田勝美先生,浅舞小学校の加藤友幸先生をはじめ部会に 出席されアンケート調査に協力頂きました先生方,模擬授業を受けてくれた浅舞小学 校6年生の児童たち,授業実践の補助をして下さった秋田大学の成田堅悦氏にもお礼 を述べさせて頂きます。さらに本教育実践で利用した iPad は秋田大学で実施されてい る「学びの総合エリア」の支援を受けたものであり,石黒純一委員長をはじめ関係教 職員にも感謝致します。なお本教育実践は科学研究費補助金交付 基盤研究(C)(課 題番号 18500648)を受けてなされたものです。 参考文献 1) 本多一彦,2011,『モバイル機器の変遷から情報教育機器としての iPad を考察. 8. ⓒ 2012 Information Processing Society of Japan.
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