工学部学生対象の教職専門科目「理科教育法」の授
業効果 : レポート等からみた受講前後の教職に対
する意識の変容
著者
葛 生伸
雑誌名
福井大学大学院工学研究科研究報告
巻
66
ページ
23-29
発行年
2018-03-27
URL
http://hdl.handle.net/10098/10403
工学部学生対象の教職専門科目「理科教育法」の授業効果
-レポート等からみた受講前後の教職に対する意識の変容-
葛生
伸
*Effects on Practices in a Class “Instruction Method for Science Education” in Teacher
Training Course for Engineering Students
-
Changes in Consciousness of Teachers Before and After Attendance from Reports-
Nobu KUZUU
*(Received January 29, 2018)
Practices in a class “Instruction Methods for Science Education” in the teacher training course for engineering students who will be high school teachers are reported. The fundamental knowledges and concepts on the science education introduced in first five lessons of ninety-minutes class lectures. After these lectures, the teaching practice training are done for all students. Based on the description in the initial and final reports, changes of perspectives on education and studies by taking the class are reported.
Key Words Evaluation of Teaching, Teacher Training Course, Engineering Students, Science
Education 1. 緒 言 福井大学工学部では,教育職員免許状(以下「教 員免許」)が取得できる.当初は高等学校の「工業」 の免許のみ取得出来たが,1999(平成 11)年度の大 学改組以降理科の免許が取得できるようになった [1],[2].以後の学科構成と取得できる教員免許の種類 を表1 に示す.取得できる免許状は高等学校 I 種免 許状であり,中学校の免許は取得できない. 1999 年度の改組では複数の教員が教育学部(旧) から工学部に移動した.それ以来,工学部の「理科 教育法」を工学部教員から担当している.筆者は, 前任者の退職に伴い,2009(平成 21)年度から理科 教育法の授業を担当している. 表2 に示すように,教職専門科目は 3 年次から履 修する[2].そのため,2016 年改組以前に入学した学 生は理科教育法をまだ履修していない.そこで,2015 * 大学院工学研究科物理工学専攻
* Applied Physics Course, Graduate School of
Engineering 表 1 福井大学工学部の学科構成と取得できる教育職 員免許状(1999 年~2015 年入学生) 入学年度 学 科 教 科 定員 1999 年度 ~ 2015 年度 機械工学科 数学 工業 75 電気・電子工学科 理科 工業 64 情報・メディア工学科 数学 工業 65 建築建設工学科 理科 工業 65 材料開発工学科 理科 工業 75 生物応用化学科 理科 工業 65 物理工学科 理科 工業 51 知能システム工学科 数学 工業 65 2016 年度 ~ 機械・システム工学科 工業 155 電気電子情報工学科 工業 125 建築・都市環境工学科 工業 60 物質・生命化学科 理科 135 応用物理学科 理科 50 拡大が確認されているが,今回作成したモデルを 用いたシミュレーションでもひずみ 5%付近で破 断が起きたため実験とオーダーが一致した.図14 にシミュレーションにより得られた s-PP の弾性 率をまとめた.PP の弾性率の実験値[3]は1.032 GPa ~1.720 GPa であるが,ラメラ構造の剛性率 Gyzの 平均値は1.01 GPa となり近い値となった.球晶内 のラメラには様々な方向に応力がかかるが,アモ ルファスの剪断変形が容易に起こるためラメラの 剪断変形の結果が実験結果に近い値を示したと考 えられる.このように,破断ひずみや弾性率が実 験値に近づいたことからラメラ構造がよく再現で きたといえる. 4 結 論 分子シミュレーションを用いて破壊の研究を行 うにあたって必要となる高分子のラメラ構造のモ デルを作成した.温度や分子鎖配置の違いによる 高分子の応答性を理解することで,ラメラ構造の モデルを全原子モデルで生成することに成功した. 高分子の破壊の研究をするうえで重要な要素であ るタイ分子を再現し,せん断応力印加時に剛性に 影響を及ぼすことを確認した.アモルファス内で タイ分子同士が絡み合うことにより結晶同士をつ ないでいるモデルを用いたが,球晶と呼ばれる結 晶組織が崩壊する場合,結晶同士を共有結合によ り繋ぐタイ分子やループ同士の引っ掛かりといっ た要素を考慮する必要がある.しかし,球晶のよ うな大きな系で鎖の初期配置を与えることはでき ない.今回作成したモデルの数倍程度の規模で鎖 を簡素化したモデルであれば,複雑な形態をとる ラメラ間分子鎖を含めてより発展させたシミュレ ーションすることができる. 参考文献
[1] B. Elvers, Eds., Ullmann’s Polymers and Plastics:
Products and Processes, Wiley-VCH, Weinheim (2016).
[2] C. De Rosa and P. Corradini, Macromolecules 26, 5711 (1993).
[3] -%UDQGUXS and(+,PPHUJXW(GV3RO\PHU
+DQGERRNUG(G:LOH\1HZ<RUN
[4] J. X. Li and W. L. Cheung, C. M. Chan, Polymer 40,
2089 (1999). 図13 s-PP ラメラ構造に c 軸方向の応力を印加した 時の応力ひずみ線図. entangled は図 5 のような初期 配置で作成した上下に突出した分子鎖が絡み合った サンプル. not entangled は図 2 のような初期配置から 作成した上下での絡み合いが不十分なサンプル. 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0 0.05 0 0.05 0 0.05 stress / GPa strain entangled not entangled 300 K 400 K 500 K strain 図14 s-PP の弾性率.ラメラの a 軸, b 軸 c 軸延伸 及び剪断応力印加の結果を点で,単結晶とアモルフ ァスの結果を線で示した.
E
, G
/
GPa
1/48 1/8 1/4
Ptie
12
10
8
6
4
2
0
年以前の入学者に対する理科教育法の授業の実践を 報告する.さらに,2016 年に実施した授業のレポー トの記述をもとに,学生の意識やその変容をもとに 授業に効果を考察する. 2. 教職課程の履修と授業の概要 2.1 教員免許取得までのながれ 表3 に教員免許取得までの流れを示す.11 月頃に ガイダンスを行う.1 年次に対しては表 2 の科目以 外に,憲法概論,体育実技など卒業必修単位以外の 教育職員免許法[3]で定められている科目の履修およ び教職科目取得にあたっての心構えを説明する.2 年次の学生はこの時点で教育実習の仮申込みを行う. さらに,2 年時終了の春休みに実習校(原則母校, 中学校での実習可)の内諾を得,3 年次の 6 月頃に 実習校に正式の申込を行う.3 年次後期からは教職 専門科目を受講する.理科教育法は教育実習に先立 って履修する必要があるため,3年次後期に履修す る.教育実習は教育実践研究VII の一環として取得 する.科目名にVII が付いているは,教育地域科学 部と併せて科目名が決められているからである.工 学部学生対象の理科教育法も正式には「理科教育法 I」である. 教育実践研究VII では,事前事後学習が含まれて いる.3 年次の 12 月に事前学習として,同年に教育 実習実施者の報告を聴講する.実施学生に対しては, 事後学習となる.4 年次の 4 月に,事前学習として 教育実習の映像教材の視聴と,現職高等学校教員に よる講話を聴く.教育実習は,実習校の指定する時 期に2 週間(実習校が指定する場合は 3 週間)実施 する.多くの場合は5~6 月または 9 月に実施する. 2.2 受講人数と構成 表4 に筆者が担当した理科教育法 I の受講者数を 示す.おおよそ10~20 人程度で材料開発工学科,生 物応用化学科,物理工学科の学生が多い.電気・電 子工学科や建築建設工学科の学生の履修は少ない. 2015 年度以降女子学生の受講が減っている. 2.4 理科教育法の授業構成 授業構成を表5 に示す.初回から 5 回目までは, 理科教育の歴史,学習指導要領,指導案の書き方, 表2 教育職員免許状取得に必要な科目. 教職に関する科目 科目名 履修 時期 備 考 教育学研究I 3 後 教 育 地 域 科学 部 の 科 目を履修(各2 単位) 教育心理学 4 後 理科教育法I 3 後 教育課程研究 4 前 学校教育相談研究I 4 前 教育実践研究VII 4 前 教育実習(事前事後学習含む; 2 単位) 教科に関する科目 物理学 各学科毎に指定された科目を 履修. 化学 生物学 地学 その他教科専門科目 各学科の教育課程表にある教 科専門科目を教職専門科目と 併せて47 単位以上になるよう に取得 その他必要科目 (*は卒業必修科目) 外国語*,情報処理基礎*,体育 実技,憲法概論 表3. 教育職員免許状取得までの流れ. 時 期 項 目 1 年次 11 月 教員免許に関するガイダンス 2 年次 11 月 教員免許に関するガイダンス 教育実習仮申込み 2 年次後春休み 教育実習内諾 3 年次 6 月頃 教育実習正式依頼 3 年次後期~ 教職専門科目受講開始 3 年次 12 月 教育実習事前学習 (教育実習実施者の報告会参加) 4 年次 4 月 教育実習事前学習 (ビデオ視聴,現職高校教員講話) 4 年次 5 月~9 月 教育実習(原則母校.中学校でも可) 4 年次 12 月 教育実習事後学習(教育実習報告会) 表4 受講者の構成 学科 年度 電気・ 電子 工学科 建築・ 建設 工学科 材料 開発 工学科 生物 応用 化学科 物理 工学科 男 女 合計 2009 0 0 3 4 0 2 5 7 2010 0 0 3 1 7 9 2 11 2011 0 0 1 7 2 7 3 10 2012 1 0 8 3 2 10 4 14 2013 1 0 2 9 6 10 8 18 2014 0 1 2 8 8 13 6 19 2015 1 1 4 2 3 10 1 11 2016 1 1 2 1 7 11 1 12 2017 1 0 1 0 8 10 0 10 表5 授業内容の構成. 1 回目 受講についての注意.教師として社会人 として生きること.受講者の自己紹介. 2 回目 理科教育の目的,理科の学習指導要領. 3 回目 指導案の書き方,模擬授業を行うにあた っての注意 4 回目 教育実習ビデオ(物理)視聴.ビデオの 解説,意見交換 5 回目 アクティブ・ラーニングについて 6~14 回目 模擬授業(2 人一組).質疑応答・意見 交換.この間,時間が余る場合は筆者に よる実験教材の活用の模擬授業実施 15 回目 まとめ.意見交換 24
表7 模擬授業の内容例 分野 内容 1 物理 熱とは何か 2 物理 光の性質 3 物理 エネルギーの利用 4 化学 プラスチック 4 化学 食品の化学 5 物理 衣料の科学 6 生物 人の視覚と光 7 生物 微生物の存在 8 生物 微生物の人間生活 9 地学 地震による景観と災害 10 地学 太陽系の中の地球 授業の仕方などの講義を行う.その後,模擬授業を 実施する.最後に全体の総括と意見交換を行う. 2.5 模擬授業 全員が模擬授業を実施する.原則として2 人一組 で50 分の授業を前半,後半にわけて行う.受講者が 少ない場合は,2 回行う.時間数が余る場合は,授 業担当者が教員免許状更新講習[4]などで紹介してき た学校授業で役立つ演示実験や最近の理科教育に関 する講義などを行う. 模擬授業の流れを表6 に示す.教科書として啓林 館の「科学と人間生活」[5]を使用する.「科学と人 間生活」はセンター試験科目になく,主に職業科な どで使われる.一方,物理,化学,生物,地学の分 野を満遍なく扱うとともに,生活関連の学習を意識 している.そのために模擬授業に用いるのに適当で あると判断した.さらに,職業科での使用が多いこ とから,多様な生徒を意識した模擬授業を意識して もらうにも有効と考えた.模擬授業の分野は物理, 化学,生物,地学のいずれかにかたよらないように, 表7 に示す分野から選んで割り当てる. 最初の5 回の講義の中で,指導案,板書計画の書 き方,物理に関する教育実習のビデオ視聴を行い授 業のやり方に学ぶ(表5). 模擬授業の流れを表6 に示す.模擬授業担当者は, 事前に指導案,板書計画について教員と打ち合わせ を行う.模擬授業当日,模擬授業実施者が5 分程度 授業の概要を説明したあと,50 分の模擬授業を行う. 授業開始・終了時の号令と意見交換の司会および記 録は次回担当者が行う.最終回模擬授業では初回担 当者が行う. 模擬授業終了後,受講者は全員実施した模擬授業 に対して意見を言う.必ず良い点から指摘して,そ の後改善点を言うようにする.人の良い点に目を向 表6 模擬授業の流れ 項 目 事前 前回授業後指導案,板書計画個別指導 当 日 授業内容の説明(模擬授業担当者) 模擬授業(50 分) 受講者による感想・意見交換 教員による講評 翌週 意見交換メモを提出(模擬授業実施者) 受講レポート提出 翌々週 模擬授業実施レポート提出 表8 初回および最終レポート課題 【初回授業出題レポート】教員免許取得を考えている工学 部1 年生を「想定読者」として下記の事を書け. 1) 自分の所属する学科を選んだ理由 2) なぜ教員免許をとりたいと思ったのか 3) どのような教員になりたいのか 4) 教員になるとしたら工学部出身であること,自分の学 科の専門をどのように活かしたいと考えているか. 5) 教員になれなかった場合,教員免許状を取るために受 講した科目および教育実習はどのように将来の自分の 仕事に役に立つと思うか. 【最終レポート】「理科教育法」受講前の理科教員志望の 工学部学生を「想定読者」として下記の問に答えよ. 問 1 「理科教育法」の受講前後で,「理科教育」および 「教師」という職業に対する考え方の変容を両者を対比 する表を書き,それを参照しながら考えを述べよ. 問2 将来教員になった場合,どのようにして自己学習・ 自己啓発をし,どのようにして教員としての力量を上 げ,どのようにして人間的に成長していきたいと考える か.そのような自分の生きる姿をどのような形で生徒に 見せたらよいと考えるか. 問3 もし君が「理科教育法」の授業を担当するとして, 出題する試験問題またはレポート問題を考えよ.さら に,それに対する解答例を書け. 図1 受講報告書の例
ける習慣をつけるためである.意見交換後,模擬授 業実施者が総括をして,教員(筆者)が講評する. 受講者は翌週までに受講レポート(図 1)および 次回担当者による意見交換記録(図 2)を,教員と 模擬授業担当者に提出する.さらに,それらを読ん で模擬授業担当者は実施レポートを提出する(図3). 3. 受講前後の意識の変容 表9.1. 所属学科の選択理由と教員免許取得理由. 木造建築に興味あったが,次にやりたい職業が教師. 教えること好きで教員志望.電気系は自分にとって難解だ が社会で役立つと思い電気・電子に入学. 高校の先生の影響で「教師」に憧憬.理科教育に必要な深 い知識を得,資源の有効利用を学ぶため材料開発を選択. 教えることが好きで教師を目指した.化学の教員になりた かったので材料開発に入学. 教員採用試験ガイダンスで教員という職業に魅力を感じ た.化学が好きで生物応用化学科に入学. 両親・親戚が教員.勉強の面白さを伝えるのが楽しい.多 様な物理を学び,関連の仕事をしたく物理工学に入学. 物理現象の原理と式で表すことに惹かれ物理工学に入学. 教え好きで,物理学の面白さ多くの人に伝えたい. 物理系の話を聞くのが好きで物理工学科に入学.小中学生 の頃教えることが楽しかった.教える仕事に就きたい. 高校の物理の先生が分かりやすく,理解がよくでき好きに なった.そんな教員になりたいと思い物理工学科に入学. 小学生の頃から職業としての教師に憧れがあり,理科,特 に物理学に興味あったので,物理工学科を選んだ. 難解な物理学,数学の修得のため物理工学科に入学.わか りやすく伝えることに自信があり,教員に向いている. 表9.2 工学部出身であること教員としてどのように 活かしたいと考えているか. 専門で学んだ力学の応用,建物の配線などの例が使える. 理科では抽象的・理想的扱いが多いので,工学知識を生か した調べ方,実用化方法等のイメージを持たせる. 化学のほとんどの範囲を深く学ぶので,高校理科より深く 説明できる. 化学を深く学んできたので,実験・講義で学んだ深い経験 や知識を活かした授業をしたい. 物理の様々な分野を学べたので,どの分野でも詳しく教え られるように活かしていきたい. 自分が物理学の学習で理解しにくかった点をできる限り 簡潔にわかりやすく教え,興味を持たせたい. 物理の興味を促進するため,授業中に豆知識を話し,興味 ある生徒への質問に対処できるようにしたい. 高校で可能な限り,多くの理科の実験をしたい.実験によ って理科に興味がわく人を増やしたい. 大学で物理学を学んだので,高校で物理学をより深く教え ることができると思う. 物理,化学の基盤が数学で,微積分の考え方や便利さを伝 えたい.工学的な測定方法や計算の応用を紹介したい. 3.1 初回および最終レポート概要 前項で述べた模擬授業関係のレポート以外に初回 および最終レポートを出題している.表8 にそれぞ れの課題を示す.2016(平成 28)年度のレポートの 記述をもとに,受講前の意識,受講前後の変容をま とめた.以下の表では,記述内容を変えない範囲で 要約する形で要約した. 図2 授業報告書の例 図3 意見交換記録の例 26
表9.3 教員になれなかった場合,教職科目・教育実 習は将来の自分の仕事にどのように役に立つか. 項 目 数 伝え方・コミュニケーションスキル 6 プレゼンテーション技術 2 指導力・育成力 3 まとめる力 1 責任感 1 他科目の学習(生物,地学等) 1 表 10.1 受講前後での「理科教育」に対する考えの 変容. 受講前 受講後 社会で役立つ考え方,応用 の仕方の基礎を学ぶ. 変化なし. 科目に対する多くの量の知 識を与えることが必要. 実験・体験を通じた理解の 大切さを認識. 自分の担当する科目だけ学 べばよい. 物理・化学・生物・地学あ る程度できる必要ある. 教科内容を正確に理解させ る. 日常生活・他教科との関連 の理解も大切. わかりやすい授業を行うこ とが大切. 学ぶことの必要性を感じさ せる授業をすべき. 知識の伝達が大切. 学ぶ姿勢を身に着けさせる ことが必要. 身 の 回 り の 不 思 議 な 現 象 の面白さを伝える. 論理的思考,生きる力を身 に着けるのに最適な科目. 教育を通じ興味を持つ人を 増やす. 興 味 に 加 え 思 考 力 も 育 て る. 基 礎 を 効 率 よ く 修 得 さ せ る. 自ら探究できるように基礎 や思考の重要性を教える. 表10.2.受講前後で「教師」に対する考えの変容 受講前 受講後 科目の基礎・応用・将来展 望,他科目を理解.生徒の特 性に応じた授業,集団生活 のサポート. 左記の考えを確認.理想的 な教育実現には明らかに負 担が過大.制度見直し必要. 学校生活を通じて人間性を 判断した上で接する必要. 受講前と変わらず. 教師は大変な仕事. 大変だが生徒とともに成長 できるやりがいある仕事 教科の面白さを分かりやす く教える. 面白さの伝達に加え興味関 心を引き出し考えさせる. 大変だけどやりがいありそ う. 生徒第一に,生きる力を着 ける.多大な努力時間必要. 学問に興味を持たせ,社会 的に模範となる人物. 興味,必要性を感じさせる. 教師も社会の要求を理解. 均等に教育. 教え方をきちんと考える 知識を理解させる. 生徒に学び方を教える. 3.2 初回レポートからみる受講当初の意識 初回レポートの「所属学科と教員免許取得理由」を 表 9.1 に要約した.「教えるのが好きだから」「勉強 の面白さを伝えるのが楽しい」「教師となるための 基礎を学びたい」という回答が多い.本当にやりた いことの次が教職という学生や,軽い気持ちで参加 表10.3.受講前後で「理科教育」「教師」に対する考 えの変容に対するコメント. 1 週間以上準備したが,内容を理解させるのは難しく,実 験が失敗する等授業は難航.教師の見えない努力を実感. AI 導入に伴い「生きる力」(前例のない問題,感情の推 量,社会変化への対応)の教育が教師の役割となるだろう. 知識のみを教えても理解が難しい.現象やその背景を深く 伝えるための試行錯誤が必須. 討論を通じて理科の「必要性」感じさせることの重要性認 識.「模範となる人物としての教師像」が明確化. 正確に教えることに加え,生徒に興味を持たせ,面白さを 伝えることの必要性を認識. 「知識の伝達」から「自ら学ぶ姿勢を身に着けさせる」こ とに意識が変容. 社会での勉強の役立ちかた伝達のため,教科内容と生活や 他教科との関連を教えることの必要性を認識. 生きるために必要な力をつけるためにも,積極的に考えさ せる授業を組む努力の必要性を認識. 模擬授業準備段階で,当該分野の理解不足を実感.予想以 上に教師は学ぶ必要があることを認識. さまざまな授業形態を見て,知識重視の授業より生徒に体 験を通して理解させることの大切さを認識した. 表 10.4 教師としての自己研鑽・自己啓発 「生徒の前で可能な限り完璧にすべき」と考え「前を歩き, 道を示し,考えさせる人」なるように学び続けたい. 当初 5 年は,能力を高めるために試行錯誤.生徒の学習へ の興味を引き出すよう,生徒主体の授業をめざす. 将来の可能性を広げるように,感情豊かに生徒と接し将来 の不安を軽減させたい. 学習指導・進路指導で重要なのは信頼関係と考える.生徒 の立場になって相談に対応できる教員でありたい. 毎日の教育活動の反省に基づき,不足する知識・授業技術 を向上することが必要. 生徒にこれまでの人生で学び,考え,行動してきたことを 伝えて生徒たちに良い影響が与えられるようにしたい. 生徒の反応,演習・テストの結果から生徒の考え,理解度, つまずきポイントなどを把握しながら改善していきたい. 生徒の態度や点数が悪い原因は教師にあるという意識を 常に持って臨機応変に授業を改善しながら教えたい. 教科と生活との関わりを伝えることや興味・関心を引き出 す努力をしていきたい. 感想・質問を書かせ次回解説するなどの態度を見せ,生徒 自身の人生の手本にしたい. 様々な事に好奇心を持ち,教員・生徒等の枠組みを外した 交流をし,新しい知識・技能等を身に着けるようにしたい. 「我以外皆我師」の姿勢から,自ずと知識・技能等は身に 着き,他人にも敬意を払い,人間的にも成長できるはず. 確固とした意志を持ち,生き生きと生活することにより滲 み出て見える姿から生徒は感じ取り,学んでいくだろう. 学ぶプロセスを多角的にとらえ社会で求められている「学 ぶ力」が備わるような教育を心掛けたい. 社会の要求を考慮し,学校外にも目を向け生徒と地域社会 を絡ませ,生徒の社会性を高め,自らも成長していきたい. 経験の豊富な先輩教員の生の教育を学び,自分の教育を作 り上げていくことが大切. 生徒の理解度や興味に応じた教育を考えていきたい. あきらめず改善を繰り返していれば失敗できず,成功しか ないことを自らが実践することで伝えたい. 人に喜ばれることを至上とし,「恩返し」よりも「恩送り」 で,将来「相互支援社会」となるための種まきがしたい.
表 10.5 最終レポート課題を出すとしたら? 教育制度や自身の経験,現在の社会情勢やその風潮など多 数視点を踏まえたうえで高校教育とは何かについて答え よ.自身が教師となった時どうすべきか? 自分が担当する科目の面白さと,将来の役立ち方を生徒に 質問されたらどう答えるか. 理科教員の立場として「アクティブ・ラーニング」の必要 性とその理由. 教員として働く上で絶対に忘れてはならないことは? 君にとって理科とは? 高校の教師に求められる力は何か? 教師として教えたいことは何か? 模擬授業を通じて学んだことは何か? 教育実習で学びたいことは何か? 自分の模擬授業の失敗点と後半の授業紹介された実験な どを踏まえて改善法の提案. 学習指導案の作成. 摩擦なしで坂を下る物体の速度が時間一次関数となるこ とを中学生にどう教えるか? した教職関係のガイダンスで職業としての教師に魅 力を感じたという者もいた. 表 9.2 に「教員になった場合,工学部出身である ことをどのように活かすか」の記述をまとめた.電 気・電子工学科と建築建設工学科の学生は,ある程 度応用志向があるが,それ以外の者は物理や化学な どどちらかというと理学系の知識や考え方が役立つ と答えている. 表 9.3 に「他の職業に就いた場合,教職課程の学 習がどのように仕事に活かせるか」を,キーワード の件数でまとめた.伝え方・コミュニケーションス キル,プレゼンテーション技術,指導力・育成力な ど技法的なものが多かった.らかの意味で「ものの 見方,考え方」につながる記述はなかった. 3.3 最終レポートからみる受講者の意識変容 表10.1 に最終レポート課題「理科教育に関する考 えの変容」の結果をまとめた.受講前は「化学だけ」 といった狭い専門や「わかりやすく」「教科内容を正 確に伝える」「知識の伝達」「基礎を効率よく修得」 など知識・技能面の習得面に意識の重点があった. 受講後は,「実験・体験を通じた理解」「日常生活や 他教科とのつながり」「学ぶことの必要性」「『活きる 力』『思考力』の体得」など,意欲や体系的・体験的 理解の重要性を認識するように変容している. 表10.2 に「教師に関する考えの変容」関する認識 の変容をまとめた.学習面以外の多角的な指導の必 要性も認識していたが,負担が課題と感じた学生が いた.その他,「生徒とともに成長」「興味関心の引 き出し」「興味関心の引き出し」「生きる力を身につ ける」「学ぶことの必要性を認識させる」「学び方を 教える」など学習指導要領[6]がうたっている「生き る力」や「真の学力」といったことがらの重要性に 気づいていることがわかる. 変容に対しては,表で比較するだけではなく,詳 しい記述を書いている学生もいる.その結果を表 10.3 に要約した.記述のキーワードをあげると,「生 きる力」「背景理解」「教師の試行錯誤」「必要性の 認識」「社会でいかに役立つか」「理解不足の認識」 「知識重視→体験を通じて学ぶこと」などが挙げら れる.これ自身,生徒が能動的に「生きる力」や「真 の学力」を身につけるだけではなく,教師自身の成 長や試行錯誤どの努力と成長の必要性を認識してい ることがわかる. 最終レポート問題2 の「教員になった場合の自己 研鑽・自己啓発」対する記述を表10.4 に要約した. 他の回答よりも項目が多いのは内容別に分けたため である.それぞれ自分の成長する姿,生きる姿勢な どを見せて生徒ともに成長しようという姿勢がうか がえる. 問題3 の「自分ならどのような課題を出題するか」 に対する回答を表10.5 に要約した.教師のあり方や 考え方に関する問題.理解度や教科観などに関する 問題も多かった.中には,学習指導案や授業の反省 や説明法を問うものもあった.多くは,学ぶ意味, 生活や社会での中の教育の役割など「知識・技能」 中心から,知識・技能を大切にしつつも,さまざま な物事の関連,教師としての姿勢などを問うものに 意識が変容していることを反映している. 4. 考察 4.1 学生の受講姿勢からみの変容 以前にも,理科教育法の実践報告を行った.その 中で,受講生は何らかの意見を言う必要があり,い ずれ自分も模擬授業を実施するという「当事者意識」 をもっているために,模擬授業を真剣に受講し,意 見を言えるようになっていることを示した[7],[8].今 回も同様の結果であった.模擬授業に対する意見交 換では,必ず良い点を先に指摘してから,改善点を 述べることが習慣づき,回を重ねるごとにポジティ ブな面を見出して意見が言えるようになってきた. 毎回の授業でかならず意見を述べるために, 12 月 初旬の教育実習の事前学習では,全員が質問するよ うになっている. さらに,多くの学生が苦手な口述筆記ができるよ うになってくる.他の授業ではなかなか身につかな いが,必要性があるということで身につくという体 験をしている. 28
4.2 敎育観の変容 多くの学生は受講当初「わかりやすく」「教科内容 を正確に伝える」「知識の伝達」「基礎を効率よく修 得」など知識伝達・技能修得中心の考えを記述して いた.最終レポートでは,「実験・体験を通じた理解」 「日常生活や他教科とのつながり」「学ぶことの必 要性」「活きる力を身につける」「思考力を身につけ る」などに学習態度,意識,能力を身につけること の重要性を意識している.これらは,第2 回授業で 学習指導要領の解説をしたときに,ある程度説明し た.しかし,あまり強調した記憶がないので,模擬 授業とそれに対する意見交換という能動的な学習の 中で自ら気づいて認識を深めていったものであろう. アクティブ・ラーニングは,次期指導要領では「主 体的・対話的で深い学び」という表現に変わってい る.アクティブ・ラーニングの重要性を指摘した学 生もある.これも,自身が模擬授業をして,意見を 言うために受講するというある意味で「能動的授業」 に参加することにより,経験的にアクティブ・ラー ニングの意義を認識したものと考える. 5. おわりに 2009 年から担当してきた工学部学生対象の理科 教育法の授業での実践を報告した.さらに,2016 年 実施の授業の初回および最終レポートでの変容記述 をもとに,学生に意識および敎育観の変容をまとめ た.その結果以下のようなことがわかった. 1) 受講当初の受講生の意識 初回のレポートでは,教員免許取得動機として「教 えるのが好き」という人が多かった.教員になるに あたって,工学部で学んだことをいかに活かすかと いうことについては,電気電子工学科,建築建設工 学科の学生以外は,専門で学んだ化学や物理学が役 に立つと述べ,工学部の答えはなかった.多くの学 生は,知識や技能を身につけることが重要であると 考えていた. 2) 受講前後の変容 知識や技能を身に着けさせるということから,「考 えること」「学ぶ意味を知ること」「社会で学ぶこ とが役立つこと」「生活や他教科との関連を学ばせ ること」などの重要性を認識するようになってきた. さらに,自分ならばどのようなレポート課題を出題 するかという課題の記述からも,同様の意識の変容 がうかがえた.授業実践するなかで,自分自身が授 業するという意識のもとに,他の人の授業を受講し, それに対して意見を述べることで「アクティブ・ラ ーニング」(「主体的・対話的で深い学び」)につ いても,講義や模擬授業でのコメントだけではなく, 自ら体験的に重要性を認識していることがうがかえ る. 著者自身学生時代に教職課程を履修し,企業など で働いた経験からも理科教育法で実践したことは, 様々な職業で仕事をする時の能力育成や,社会人と して仕事をする能力を向上していくためのヒントに なるものと考えている.しかし,学生としては,ど ちらかというと,教職課程を受講したときに,他の 職業についた場合でプレゼン方法,伝え方,伝達力・ 指導力などどちらかというとテクニック的なことに 役立つと考えている.その一方で,学び方やものの 見方考え方などの重要性も認識している.このよう な観点の変容は,教職課程だけではなく,導入教育 やキャリア教育でも必要な要素が入っている.筆者 自身,キャリア教育や新入生の導入教育,技術者倫 理教育に関わっているので,理科教育法の授業実践 で伝えたことを,筆者自身の他の教育実践にも活か していきたい. [1] 福井大学基礎資料 2016. [2] 福井大学学生便覧 (2015). [3] 教育職員免許法 (法律第 147 号). [4] 葛生 伸: 応用物理教育 36-1, 51 (2012). [5] 文部科学省検定教科書「科学と人間生活」啓林 館 (2011). [6] 文部科学省,学習指導要領. [7] 葛生 伸: 第 26 回 物理教育に関するシンポジウ ム, 2A01 (2015.11.1) 福井大学. [8] 葛生 伸: 日本理科教育学会全国大会発表論文集, 15, 269 (2017).