我が国における認知症高齢者の介護者支援の現状と課題 C u r r e n t s t a t u s and i s s u e s o f c a r e g i v e r s u p p o r t f o r e l d e r l y p e o p l e with dementia
i n J a p a n .
大谷明弘*) 塚本博之**) 加城貴美子*)
Akihiro OTANI Hiroyuki TSUKAMOTO Kimiko KASHIRO
角谷ふみ江*) 春日井美知代*)Fumie SUMIYA Michiyo KASUGAI
(令和元年
9
月3 0日受理)
本研究の目的は、認知症高齢者の介護者支援に関する文献レビューを行い、支援の現状 と今後の課題を明らかにすることである。文献の抽出は、医中誌
web ( v e r . 6 )を活用し、
原著論文に限定し、「認知症」「家族支援」「介護者支援」の
3
つのキーワードの組み合わせ で行った。その結呆、29
件の文献が抽出された。これらは、「介護者が抱える困難や問題( 5
件)」、「介護者の内面的成長( 1 0
件)」、「介護者への支援・介入( 1 1
件)」、「介護者支援を 行う専門職への教育( 3件)」の 4つのカテゴリーに分類できた。分析の結果、介護者は、
進行性の認知症に対する戸惑いや「予後不安」を抱えており、また介護者の抱える介護負 担感は、認知症裔齢者本人と介護者間、介護者と近隣家族間の関係性が影響していること が明らかになった。また、専門職が行う認知症高齢者に有効な支援を介護者に対しても実 践することが効果的であり、このことが「肯定的意識化」を促進する一要因であることが 明らかになった。さらに、介護者は介護する中で、様々な苦難や苦労に直面するもののそ れを乗り越えることで内而的な成長につながっていることが明らかになった。このことか ら、介護者には、認知症のステージ進行に応じた段階的な支援や認知症高齢者と介護者の 心理的距離を適切に保つための支援が必要であることが示唆された。そして、そのための 専門職の役割として、ケアマネジャーを中心とした多職種によるソーシャルサポートの必 要性が示唆された。
1 .
はじめに我が国は、超高齢社会を迎え、今後、認知症高齢者は増加の一途をたどる。認知症は、加 齢とともに増加するアルツハイマー病を中心とした神経変性疾患を主体とする進行性の症 候である。また、中核症状と言われる記憶障害や見当識障害、理解・判断力の低下と行動・
心理症状
( B e h a v i o r a land P s y c h o l o g i c a l Symptoms o f Dementia : BPSD)
と言われる本 来の性格や本人を取り巻く環境等に影響して現れる妄想や抑うつ、興奮、徘徊、不眠、幻 覚、意欲の低下等に分けることができる。認知症高齢者を在宅で介護する介護者の介護負 担感は、特にBPSD
がみられる場合に増加すると言われている叫2000
年の介護保険制度の導入以降も医療費抑制策を背屎とした在院H数の短縮化やクオ リティ・オブ・ライフ( q u a l i t yo f l i f e : QOL)
重視による脱施設化の流れの中にあり、依*名古屋医専 **静岡産業大学
然として認知症高齢者の在宅介護は、その家族が中心的な役割を担う傾向にある2)3)4)。特に 認知症は、進行性の疾患であり、徐々に判断能力の低下もみられることから、生活全般に 関わる多くの場面で家族の支援を必要とする。このような家族は、経済的負担に加え、介 護に伴う肉体的、あるいは精神的負担を強いられることになり、別名「隠れた患者
( h i d d e n p a t i e n t s
)」とも言われている5)。もし、家族が何らかの事情で在宅において介護ができない 状況に陥れば、たちまち在宅生活は困難となり、施設入所に至ってしまう恐れがある。日本における現在の認知症施策は、
2015
年に厚生労働省が策定した「認知症施策推進総 合戦略(新オレンジプラン)」を中心に展開している。その基本理念は、「認知症の人の意 思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることがで きる社会の実現を目指すこと」であり、7
つの柱で構成されている6)。その中の一つに「認 知症の人の介護者への支援」が明記されたことから、地域住民らを中心とした認知症カフ ェや家族向け介護教室の地域展開、これらを担うボランティアの育成等、地域における実 践活動も少しずつ浸透してきた。しかし、我が国の介護保険制度の
H
的は、要介護・支援者の「自立支援」にあり、介護者 の介護負担軽減は明記されていないことから、介護者の介護負担軽減を重要視しない傾向 がある叫これは、1 9 9 5
年に法制化されたイギリスの「ケアラー法」や2010
年に法制化さ れたオーストラリアの「ケアラー承認法」 8)が、介護者支援を明確にしているのとは異な り、我が国の介護者支援対策の未熟さを露呈している。つまり、我が国の介護保険制度は、末だ現場の専門職や介護者自身の精神論頼みの部分が多いことを示している。認知症高齢 者が望む在宅生活を継続するという観点から考えると、認知症高齢者本人への支援はもと
より、その家族等の介護者に対する心理的・教育的支援が必要となる。
このような現状を踏まえ、介護者支援に関する先行研究をみてみると、その重要性の認 識が高まっていることから、多くの関連する研究が行われている。しかし、認知症高齢者 の介護者支援に焦点をあて、それらを包括的に整理した研究は少ない。
本研究の目的は、認知症高齢者の介護者支援に関する文献レビューを行い、支援の現状 と今後の課題を明らかにすることである。このような研究は、介護者が安心して在宅介護 ができる環境を整えながらも認知症高齢者自身の人生を充実させることができる環境づく
りを行うための基礎資料となり、ひいては認知症高齢者自身の
QOL
向上に寄与するもの と考える。そして、今後、我が国が目指す地域包括ケアシステムの実現のための一翼を担 うものと考える。2.
研究方法1)
用語の定義・認知症高齢者とは、「唐澤式老人知能の臨床判断基準」の中等度(+)以上と診断され た
65
歳以上の人とする(厚生労働省の定義)。・認知症高齢者の介護者とは、認知症高齢者を在宅で介護している家族等とする。
・介護者支援とは、認知症高齢者を在宅で介護している家族等の介護者に対して支援を 行うこととする。
2)
文献収集方法介護は、国により違いがあるため、本研究では日本の文献を分析の対象とした。対象と した文献の選択プロセスは、図
l
に示した。データベースは医中誌web ( v e r . 6 )
を用い、検索期間を
1 9 8 1
年1 0
月〜2019年5
月までとした。そして、原著論文に限定した上で、「認 知症」「家族支援」「介護者支援」の3
つのキーワードを掛け合わせて検索を行った。「家族 支援」を用いた理由は、「介護者支援」と同様の意味で利用されることが多いからである。学術的知見を得るために検索対象の雑誌を学術誌とした。検索の結果、「認知症+家族支援
=226
件」「認知症十介護者支援=39
件」であった。これらの論文を精査したうえで、重複 する文献、本研究の趣旨と合わない文献、介護者ではなく利用者個人に焦点化された文献、人院中の患者を対象とした文献等を対象外とし、最終的に
29
件の文献を本研究の対象とし た。医中誌
web
により収集された文献 キーワード【認知症】(原著論文に限定)
n=Zl,406
キーワード キーワード
【家族支援】 【介護者支援】
n=226 n=39
フルテキストで適格性を評価した文献
n=29
分析対象とした文献
n=29
フルテキストを精査したうえで除外 された文献
n=236
著論文に限定した;抽出された特集や研究ノート、
する文献、本研究の主旨と合わ 文献、家族ではなく利用者個人 点化された文献、入院中の患者
対象とした文献
※
n
=文献数図1 対象論文の選択プロセス
3)
文献の分析方法得られた文献より本文を精査して、「介護者が抱える困難や問題」、「介護者の内面的成 長」、「介護者への支援・介入」、「介護者支援を行う専門職への教育」についてグループ化
して分析を行った。分析過程では、スーパーバイザー(文献レビューに精通している看護 学の教授)とともに分析を行った。
4)
倫理的配慮本研究は、先行研究に基づく研究であり、著作権法の範囲内で印刷を行い、出典を明示 し、その引用方法に留意した。また、データベース会社と正当に契約した範囲内でアクセ スを実施した。
3.
結 果対象論文を分類した結果、
4
つのカテゴリーに分類することができた。「介護者が抱える 困難や問題」に関する論文が5
件、「介護者の内面的成長」に関する論文が1 0
件、「介護者 への支援・介入」に関する論文が1 1
件、「介護者支援を行う専門職への教育」に関する論 文が3
件であった。以降、カテゴリーごとに具体的な内容を述べていく。1)
介護者が抱える困難や問題楠本ら
( 2 0 0 6 )
は、認知症高齢者を介護する主介護者が実際に行っている問題行動への 対応方法と介護負担感を調査し、その関係について検討することを目的に質問紙法を行っ た。その結果、多くの主介護者は、問題行動に対する対応方法が分からないと思いながら も経験的に肯定的な対応方法を選択し介護を行っていることが明らかになった。小林
( 2 0 0 8 )
は、介護者自身が診療を希望するか否かについて、J‑ZBI̲S
得点から評価 し、層別尤度比(SSLR)
を用いた判断基準を見いだすことを目的に群間比較による統計処 理を行った。その結果、受診希望群では7 .7
点、不要群では9.9点であり、両群の総得点
に有意差を認めた。また、層別尤度比(SSLR)
についてJ‑ZBL̲S
総得点が2 1
点以上の 場合にはSSLR
が7であり、受診を希望している可能性を強めることを示していた。 J‑
ZBL̲8は、介護者自身の受診希望を判断する際に有用であることが明らかになった。
石本ら
( 2 0 0 8 )
は、在宅で認知症の母を介護している娘の精神的負担を明らかにするこ とを目的に半構造化インタビューを行った。その結果、在宅介護している娘の精神的負担 として、【在宅介護において共通する思い】と【娘が実母の介護において抱く思い】の2
つ のカテゴリーが明らかになった。さらに、前者は【認知症の症状に対する戸惑い】【介護を 始めてからの心身の不調】 【介護していく上での後海】 【介護する事での拘束感】の4つ
にサブカテゴリー化できた。そして、後者は【母を看なければいけないという責任感】【局 との約束】【昔と今の母のイメージのずれ】【一人で背負わなければいけない負担】【常に 持ち続ける母への心配】の5
つにサブカテゴリー化できた。原田ら
( 2 0 1 5 )
は、認知症状が進んだ要介護状態にある若年性認知症者の介護をしてい る家族の抱える介護負担の構造を明らかにし、若年性認知症者の家族に対する支援のあり 方を明らかにすることを目的に半構造化インタビューを行った。その結果、家族の介護負 担として、 【介護上の問題】 【経済的問題や制度上の課題】 【重複する負担】 【家族の選 択】の4カテゴリーが抽出された。そのうえで、若年性認知症の家族支援では、日常生活
全般を包括した具体的なケアプラン、総合的な医療情報の管理・提供システム、家族の生 活と就労維持の支援、ワンストップの総合的相談、家族の選択に対して寄り添う支援の必 要性を指摘している。仙波ら
( 2 0 1 6 )
は、重度認知症患者デイケアを利用する認知症高齢者の介護者を対象と した介護に対する「困りごと」の実態を明らかにすることを目的に相談記録シートの分析 を行い、その後カテゴリー化を行った。その結果、認知症高齢者の症状やケアに関する「困 りごと」は、 「心身機能と構造」 「活動と参加」レベルにカテゴリー化され、 「家族者間の 間題」が介護負担感に影響を及ぼしていることが明らかになった。また、入所させたいと 考えている家族介護者も多く、在宅介護への迷いも浮き彫りとなった。対象論文のリスト は、表1
の通りである。表1介護者が抱える困難や問題に関する論文リスト
テーマ 研究デザイン 著者および発表年 掲載雑誌 研究者の属性
楠本由佳・横川舞・
認知症高齢者の問題行動に対する主介護者の対
量的調査 池田千鶴・鈴木麻美・ 日本看護学会論文集 大学で看護学を専門とす 応方法と介護負担感との関係 近藤ふさえ 老年看護(37),pp73‑75 る研究者
(2006) 認知症高齢者を介護する家族自身の受診ニーズ
小林裕人 老年精神医学雑誌(19)6
をとらえる一本語版Zarit介護負担尺度短縮版 比較研究 (2008) , pp681‑686 対象病院の外来看護師 (J‑ZBLS)を用いた検討一
石本智枝・筒井千津子・ 日本看護学会論文集 地域 病院に勤務している 認知症の母を介護する娘の精神的負担 量的調査 伊賀原由香(2008) 看護(39),pp63‑65 看護師
若年認知症者の家族の支援—要介護度の重い事 原田小夜・大籠広恵・ 日本認知症ケア学会誌14 大学で看護学を専門とす 例を介護する家族の介護負担の構造ー 質的研究 安孫子尚子・山根寛 (3), pp644‑655 る研究者2名
(2015)
認知症の人を介護する家族の「認知症ケアの困 仙波梨沙・若松美咲・ 日本臨床作業療法研究 対象施設のデイケア りごと」に関する調査 質的研究 菅沼一平・上城憲司(2016) (3), pp!‑4 スタッフ
2)
介護者の内面的成長佐伯ら
( 2 0 0 0 )
は、脳血管性痴呆の配偶者を介護している高齢者の疾病認識の特徴およ び夫婦としての認識を明らかにすることを目的に質的研究を行った。その結果、夫婦関係 に関しては、 【意思疎通の困難さの中に夫婦であることを探索】し、夫婦の絆の再確認をし、自分の生きがいを見出そうとしていたことが明らかになった。
西山
( 2 0 0 6 )
は、在宅で認知症高齢者とともに暮らす主介護者が、生活再編成をしてい くために必要な援助的視点を得ることを目的に半構造化インタビューを行った。その結果、主介護者は、高齢者が認知症を発症する前より備えている【介護の備え】を基盤とし、【実 践しながら介護力をつける】こと、 【情を深くする】こと、 【新たな意識をもつ】ことを繰
り返しながら、生活を緊張の少ない自然なものへと導いていたことが明らかになった。
大野ら
( 2 0 0 6 )
は、アルツハイマー型認知症の義母( 7 8
歳)を自宅で介護したM
氏の介 護体験記録(著書『忘れても, しあわせ』1 9 9 8 )
を対象に家族看護の7
段階の発展過程に そって「相互性」と「準備状況」の面から社会的支援について分析した。その結果、第1
、 第4
段階での家族や親族による支援は、M
氏の「準備状況」を促進してM
氏の内省的思考 に繋がり、第 5段階では「相互性」を促進して義犀との関係性への気づきに繋がっていた。また、第
1 6
段階での認知症ケアの専門家による支援は、M
氏の「準備状況」と「相互性」を促進し、第 5段階での家族会の交流は「準備状況」を促進し、ノンバーバルコミュニケ ーションの再発見に繋がっていた。さらに、第
6 7
段階では、大学、介護サービス等、地 域ボランティア、近所の人々などの社会資源による支援が、M
氏の「準備状況」と「相互 性」を促進していることが明らかになった。そして、このことが、義犀の認知症に障害されない側而を見出すことと義母への情緒的・配慮的看護に繋がっていることが明らかにな った。
高野ら
( 2 0 0 7 )
は、介護者の介護に対する肯定的意識に焦点をあて、介護生活継続との 関連を探ることを目的に自記式質問紙および半構造化インタビューを行った。その結果、介護者の心にゆとりをもたらす援助、介護のプラスの側而に気付かせる援助、受容プロセ スに沿った援助が、肯定的意識化を促進させ介護継続支援につながることが明らかになっ た。
田中ら
( 2 0 0 7 )
は、B病院「もの忘れ外来」の『看護相談』における一事例(アルツハイ
マー型認知症の家族)を対象に、家族看護がどのような発展過程をたどり、 「相互性」と「準備状況」を促進する社会的支援が行われたのかを分析することを目的に半構造化イン タビューを行った。その結果、認知症高齢者の家族看護者が、敵対的看護や諦め放任する 段階を経ることなく家族看護の発展をもたらしたものは、 「相互性」 「準備状況」を促進し た家族と親族、認知症ケア専門家、その他の社会資源による時機を得た社会的支援である ことが明らかになった。加えて、 「相互性」を促進した
A
氏(本人)と家族看護者の生活 史に認められる関係性や価値観であることが明らかになった。菅沼ら
( 2 0 0 8 )
は、認知症高齢者の家族介護者の介護継続要因について明らかにするこ とを目的に半構造化インタビューを行った。その結果、認知症高齢者の介護者の介護継続 要因として、 【要介護者に対する愛情・同情】 【要介護者・家族からの感謝.承認】 【認知 症の疾患.症状•関わり方の理解・対応】 【介護者独自の対処法】 【専門職に支援依頼】【介護に対する意義・自信】【高齢者・介護をされる立場の理解】【介護者を支える人間関 係】の
8
つが抽出された。池添ら
( 2 0 0 9 )
は、在宅介護を要する慢性疾患の病者を内包する家族の主介護者がどの ように生活を再構築しているのかを明らかにすることを目的に半構造化インタビューを行 った。その結果、生活の再構築に取り組む家族介護者は、【介護キャリア】という中核とな るカテゴリーと【納得できるストーリーづくり】【闘う姿勢の確立】【知を動員した介護の 展開】 【調和への希求】 【自己信頼の場の確立】という5
つの副次的カテゴリーに分類さ れることが明らかとなった。上城ら
( 2 0 0 9 )
は、デイケアを利用する認知症高齢者の介護者を対象とした家族支援プ ログラム介入が、介護者の介護負担感や介護肯定感等の介護意識にどのような効果を示す のか、また家族介護者に対する支援が、認知症高齢者の生活機能に及ぼす影響を明らかに することを目的にランダム化比較試験(Randomizedc o n t r o l l e d t r i a l : RCT)
手法を用い た調査を行った。その結果、介入群と対照群の比較では、Z a r i t
介護負担尺度日本語版 (J‑ZBI)
に有意差が認められた。また、介護肯定感(介護肯定感尺度)では有意差は認められ なかったものの、介入群における介護肯定感が増加傾向を示したことが明らかになった。さらに、介入群における介入前後を比較すると上記の結果に加え、認知症高齢者の問題行 動評価尺度 (TBS)において行動・心理症状 (BPSD)が有意に軽減したことが明らかにな った。
高見ら
( 2 0 1 1 )
は、認知症高齢者と家族介護者が関わり合う際に生じる困難に着目し、その困難を軽減する看護介入の開発を目的に「理解と関係を促進する介入プログラム」の 作成と評価を行った。その結呆、家族介護者にも【相手に添った関わりをする】【病前の面
影にも注日する】 【気持ちを通わせて相手を知る】等、認知症高齢者の行動特性への理解 と対応がみられた。このような変化が、両者が関わり合う際に【補う】【見えにくいことか らも相手を理解する】という関係のもち方や理解の仕方を導くことが明らかとなった。こ のことから、認知症高齢者と家族介護者が関わり合う際の困難を軽減する看護介入として、
この介入プログラムの有用性が示唆された。
菅沼ら
( 2 0 1 4 )
は、地域包括支援センターにおいて認知症高齢者の女性介護者同士が相 互に交流する家族介護者問交流プログラムを実施し、女性介護者の心理と精神的健康度に おける効果を検証した。その結呆、介入群と対照群の続柄が均質ではないものの、介入群 における介入l
か月後の介護負担感の軽減と精神的健康度の改善がみられた。しかし、3
か 月後には変化がなかったことが明らかになっている。対象論文のリストは、表2の通りで
ある。表
2
介護者の内面的成長に関する論文リストテーマ 研究デザイン 著者および発表年 掲載雑誌 研究者の属性
脳血管性痴呆を持つ高齢配偶者を介護する介護 佐伯和子・平野憲子・
金大医保紀要(24) 1 大学で看護学を専門とす 者の疾患認識と夫婦の絆 質的研究 塚崎恵子・木村留美子 , pp95‑100 る研究者
(2000)
ともに暮らす高齢者の認知症発症に伴う主介護 質的研究 西山みどり 老年看護学(9) 2, pp85‑91 病院に勤務している看護
者の生活再編成 (2006) 師
認知症高齢者に対する家族看護の発展過程と社 大野沙織・松田晶子・
日本医学看護学教育学会誌 病院に勤務している看護 会的支援について一『忘れても,しあわせ』の 質的研究 田中(高峰)道子 (15),pp47‑53 師 介護体験記録の分析結果から一 (2006)
田中(高峰)道子・
認知症商齢者の家族看護に関する研究一家族
質的研究 赤木陽子・多久島寛孝・ 保健科学研究誌(4) 大学で看護学を専門とす
看護の6段階の発展過程と社会的支援一 山口裕子 ,ppll‑19 る研究者
(2007) 介護者の介護に対する肯定的意識と介護継続と
質的研究 高野歩•山本澄子 地域看護(37),pp243‑245 地域保健福祉センター職
の関連 (2007) 員
詔知症高齢者の家族介護者の介護継続要因 質的研究 菅沼真由美•佐藤みつ子
地域看護(39),pp92‑94 大学で看護学を専門とす
(2008) る研究者
生活の再構築に取り組む家族介護者の介護キャ
質的研究 池添志乃・野嶋佐由美 家族看護学研究 大学で看護学を専門とす
リア (2009) (15) 2, ppl07‑116 る研究者
デイケアにおける認知症家族介護者の「家族支 上城憲司・中村貴志・
旧本認知症ケア学会誌 大学でリハビリテーショ
援プログラム」の効果 比較研究 納戸美佐子・荻原喜茂
8 (3) pp394‑402 ンを専門とする研究者 (2009)
認知症高齢者と家族介護者が憫わり合う際に生 Journal of Japan Academy 大学で看護学を専門とす
高見美保・水谷信子 る研究者と認知症予防事
じる困難に対する看護介入の開発一介入プログ 質的研究
(2011) of Gerontological ラムの作成と実践一 Nursing (15) 2, pp 36‑43 業
スタッフ2名
認知症嵩齢者の女性介護者に対する家族介護者 比較研究 菅沼真由美・新田静江 老年看護学(19) 1 大学で看護学を専門とす 間交流プログラムの効果 (2014) , ppSl‑90 る研究者
3)
介護者への支援・介入村松ら
( 2 0 0 1 )
は、在宅痴呆性老人家族介護者各自の人生観・介護観・家族会に対するニ ーズによって家族会のもたらす意味にどのような違いがあるのかを明確にし、セルフ・ヘ ルプ・グループとしての家族会を支援する保健婦活動への示唆を得ることを目的に参加観 察とインタビュー調査を行った。その結果、家族会のもたらす意味として、カタルシス・心理的結束・希望の描写・自己理解・情報の享受・地域社会との連帯感が見いだされた。そ の一方で、 【介護に自分を立ち向かわせる場】という介護に肯定的に働く方向性と【介護
に自分を立ち向かわせなくする場】という介護に否定的に働く方向性の意味づけが見いだ された。
大森ら
( 2 0 0 6 )
は、在宅認知症高齢者を抱える家族介護者の「家族の会」が主催する「つ どい」へ参加することの意味について、家族介護者のニーズに着目したうえで、そこで起 こっている現象を明らかにすることを目的に半構造化インタビューを行った。その結果、家族介護者が「つどい」に参加することの意味として、 【情報】 【表出】 【コミュニケーシ ョン】 【啓発】 【支援】 【変化】の
6
つにカテゴリー化された。久松
( 2 0 0 6 )
は、介護保険制度施行後における在宅介護支援センターの認知症高齢者と 介護者を対象としたアウトリーチ実践活動の現状を踏まえ、実践上の役割とそれを継続するための条件を明らかにすることを目的に質問紙調杏を行った。結果、介護保険制度施行 後においてアウトリーチを実践していた者は6割を越えていた。また、アウトリーチの役 割と条件の内的構造を明らかにするために因子分析を行った結果、役割においては「介入 法の決定と効果評価」「援助活用を動機づける支援」「地域環境の支援体制づくり」の
3
因 子が抽出された。そして、条件においては「組織の基盤確保」「存在認知の機会」「家族支 援の場の存在」の3
囚子が抽出された。黒河ら
( 2 0 0 6 )
は、介護に対して葛藤を抱えた介護者の思い・態度とその変化を明らか にすることを日的に看護師の関わり・言葉かけ、要介護者および家族の反応、看護師の認 識等に着目した質的研究を行った。その結果、介護者の思い・態度としては、 【母親らし いことをしてもらえなかった】 【厳しく当たる】 【腹立たしい】 【自分がするのは仕方が ない】 【気にかける】 【良くしてあげたい】 【介護する】 【介護は大変】 【長期の介護は 望まない】 【介護サービスを頼りにする】という10
のカテゴリーが得られた。また、当 初みられた【介護が大変】という思いは、後半には【良くしてあげたい】という思いに変 化していた。その一方で、看護師は、介護者の思いに目を向け、これを受け止め、努力や 小さな変化を認める関わりが必要であること、また介護者にとって介護が意味あるものと なるように支援する必要性が明らかになった。佐分
( 2 0 0 7 )
は、家族介護者支援に関する指針を得ることを目的に、エンカウンター・グループにおけるロジャーズの理論を援用し、家族会参加による家族介護者の共感的関係 と家族介護者の創造的な適応との関連性について分析した。その結果、家族介護者支援に おいて、他者からの肯定的な配慮や他者への肯定的配慮を感じ、他者を受容することを璽 視した共感的な関係の維持・増進の重要性が明らかになった。
佐分
( 2 0 0 8 )
は、認知症家族介護者支援に関する指針を得ることを目的に、理論的枠組 みを用いた家族会参加における共感と適応の関連性および家族介護者の継続的な支援のた めの家族会継続意図との関連について分析した。その結果、適合度を示すRMSEA(Root Mean Square Error o f Approximation)
は0 . 0 6 6
、共感から適応への係数は正の方向で0 . 9 8
、 適応から家族会継続意図への係数は正の方向で0 . 6 8
であり、統計的に有意な水準を満たし ていた。この結果から家族会における共感が介護への適応を促進し、適応と家族会継続意 図に関連があることが明らかになった。湯原
( 2 0 1 0 )
は、認知症の人を抱える家族を対象にした電話相談の実態を明らかにし、電話相談が介護者支援に果たしている役割を明らかにすることを目的に受付票の各項目に ついて分析を行った。その結呆、相談者は女性、続柄では娘が多く、また介護経験が
1 0
年以上ある人が
22.8
%を占めており、介護の知識と経験が豊富な人に対しても支援を行う必 要性が明らかになった。さらに、1
時間以上を要する相談が6 .7
%存在し、相談者が本当に 話したい内容に到達するまで時間がかかる場合があることも明らかになった。谷岡ら
( 2 0 1 0 )
は、認知症の行動・心理症状(BPSD)
の改善と家族支援に焦点をあてた 認知症のためのクリニカルパス( C l i n i c a lpathways : CP)
の原案を先行研究に基づき作成 し、各職種に面接による聞き取り調査を通して、その効果検証を行った。その結呆、調査 方法には限界があるが、この研究により作成されたCP
は、他の病院で家族や本人の負担 を軽減するCP
を作成するうえでの基礎資料になることが明らかになった。鈴木ら
( 2 0 1 4 )
は、訪問看護師が行った認知症高齢者と家族介護者間のコミュニケーシ ョンを改善するための支援のプロセスを明らかにすることを目的にグラウンデッド・セオ リー・アプローチを参考にした質的研究を行った。その結呆、共依存関係による抑制や骨 迫観念から生じている虐待やコミュニケーション障害など【生活の中に潜んでいる問題を 捉える】こと、両者が二人だけの世界から解放できるように【脇役に徹して関係性の調整 を図る】こと、 【微調整しながら関係性の維持を試みる】ことを行っていることが明らか になった。このことから、コミュニケーション改善に向けた支援は、その前提として、家 族介護者が認知症高齢者との関係性を客観的に捉え、適切な閲わりをもてるための支援が 必要であることが明らかになった。鈴木ら
( 2 0 1 5 )
は、訪間看護師が実践している認知症高齢者と家族介護者間のコミュニ ケーション改善に向けた支援のプロセスを明らかにすることを目的にグラウンデッド・セ オリー・アプローチを参考にした質的研究を行った。その結果、 【生活のなかに潜んでい る間題をとらえる】過程で、コミュニケーション障害には両者の関係性が影聾しているこ とをとらえたうえで、関係性に着目したコミュニケーション改善のための支援として【脇 役に徹して関係性の調整を図る】ことを行い、 【微調整しながら関係性の維持を試みる】という支援のプロセスが明らかになった。そして、認知症高齢者と家族介護者間のコミュ ニケーションを改善するには、関係性の改善が必要であり、特に家族介護者に対する精神 的ケアの重要性が示唆された。
矢吹ら
( 2 0 1 6 )
は、認知症高齢者を介護する家族の虐待の蓋然性の生起要因を介護者と 被介護者の性別や続柄による特徴を明らかにしたうえでその支援方法を検討することを目 的に質問紙調査を行った。その結果、 「夫が妻」 「息子が母親」が「介護放棄」の蓋然性を 自覚しづらい傾向であることが明らかになった。また、続柄による生起要因の特徴は、夫 婦間の介護は将来の不安を感じることで介護放棄の蓋然性を自覚すること、娘が母親では 父親を介護するよりも蓋然性を自覚する要因が多いこと、さらに嫁が介護する場合のサー ビス利用の拒否が他の続柄に比べ負担となることが明らかになった。対象論文のリストは、表
3
の通りである。表
3
介護者への支援・介入に関する論文リストテーマ 研究デザイン 著者および発表年 掲載雑誌 研究者の属性
谷岡哲也・黒川奈美・
川村亜以・大坂京子・
認知症に伴う行動障害と精神症状善および家族支援に焦点をあてた認知症のため(BPSD)の改 質的研究 友竹正人・安原由子・千葉進一・片岡三佳・ 老年精神医学雑誌(21)7 大学教員 , pp781‑788
のクリニカルパスの検討 大森美津子・;11田知子・
三船和史 (2010)
在宅痴呆性老人介護介護者にとっての家族会の 村松ちづか・川越博美 聖路加看護学会誌(5)1 大学教員 意味一家族介護者の人生勧・介護観・家族会へ 質的研究
(2001) , ppl‑9 のニーズとの関連一
認知症高齢者をかかえる家族介護者の「つど 大森恵理子・木村里世
•佐野由季・峰奈美穂・ 地域看護(37) 研究者 い」への参加の意味一家族介護者のニーズに着 質的研究
松本恵子 , pp240‑242 病院の職員
目して一 (2006)
認知症高齢者と家族へのアウトリーチの意義一 久松信夫・小野寺敦志 老年社会科学(28)3 大学で社会福祉学を専門 介護保険下における実践の役割と条件一 量的調査
(2006) , pp297‑311 とする研究者
介護に対し葛藤を抱えた介護者の思い・態度と 黒河佳代・西崎美和・
川崎市立看護短期大学紀要 訪問看護師 質的研究 菊池珠緒•森口きよ子 11 (!), pp19‑27
訪問看護師の支援に閑する分析
(2006) 家族介護者の家族会参加による介護への適応モ
呈的調査 佐分厚子・黒木保博 日本保健科学学会誌
噂士後期課程
デル (2007) (10) 2, ppB0‑88
家族介護者の家族会参加における3つの主要概
量的調査 佐分厚子・黒木保博 社会福祉学(49)3, pp60‑69 博士後期課程 念の関連性 共感、適応、家族会継続意閑を用
(2008) いた構造方程式モデリング
認知症の人を抱える家族を対象にした電話相談 湯原悦子・尾之内直美・
大学で社会福祉学を専門 量的調査 伊藤美智予・鈴木亮子・ 日本認知症ケア学会誌
の役割一認知症の人と家族の会愛知県支部が行
旭多貴子 (9) I, pp30‑43 とする研究者 う電話相談5,300件の分析から一
(2010) 訪問看護師による認知症高齢者と家族介謹者の 鈴木千枝•松田宣子・
神戸学院大学院保健学研究 大学で看護学を専門とす 関係性に着目したコミュニケーション改善のた 質的研究 櫻井しのぶ
科紀要(30),pp2[‑42 る研究者 めの支援プロセス 共依存事例について (2014)
訪問看護師による認知症高齢者と家族介護者の 鈴木千枝•松田宣子・ 旧本在宅ケア学会誌(19)1 大学で看護学を専門とす 関係性に着目したコミュニケーション改善のた 質的研究 櫻井しのぶ
, pp43‑50 る研究者
めの支援のプロセス (2015)
認知症家族介護者における高齢者虐待の蓋然性 矢吹知之•吉川悠貴・ 老年社会科学(37)4
研究機関の職員 自覚の生起要因一介護者と被介護者の続柄お 量的調査 阿部哲也・加藤伸司 , pp383‑396
よび性別による検討一 (2016)
4)
介護者支援を行う専門職への教育望月
( 2 0 1 3 )
は、認知症高齢者の家族を支援する能力の育成を目的とした「家族支援能 力育成プログラム」を通所介護職員に対して実施し、その効果の検証を行った。その結果、「家族支援能力育成プログラム」は、職員の認知症の行動・心理症状への対応に関する知 識の習得に効果があり、また家族に対する職員の態度には効呆はみられないが、家族の感 ずる職員の共感には一部効果があることが明らかとなった。
河野ら
( 2 0 1 4 )
は、 「家族と看護師の感情や思考」に焦点を当て、これまで気がつかなか った家族ニーズと看護師の対応のズレを明らかにし、それを基によりよい関係性の構築に 向けての看護師の課題を探求することを目的に質的調査を行った。その結果、認知症患者 のケアを行っている看護師は、目の前にいる患者の言動に着目するあまり、患者を共に支 持してくれる家族をケアの対象として見ておらず、家族との協働作業が十分できていないことが明らかになった。
高橋ら
( 2 0 1 8 )
は、在宅ケア専門職である訪間看護師、ケアマネジャー、介護幅祉士が、在宅認知症高齢者の家族支援をどのように捉え実践しているのか、また当事者である家族
介護者が、各専門職からの支援をどのように認識しているのかを明らかにすることを目的 に半構造化インタビューを行った。その結果、全ての専門職が【介護負担の軽減】を行っ ていることに加えて、訪閲看護師は【不安への対応】【疾患理解への支援】【家族介護者の 人生の尊重】、ケアマネジャーは【介護初期の相談窓口】 【要介護者と家族介護者間の調 整】を家族支援として実践していた。また、多職種連携では、訪問看護師は【多角的な視点 を得るための情報共有】【医療的視点からのアドバイス】を行っていた。また、ケアマネジ ャーは、 【要介護者や家族の現状を正確に把握するための情報共有】 【各専門職の専門性 を互いに尊重した協働】 【ケアの方向性の決定】を行っていた。さらに、介護幅祉士は、
【訪問看護師やケアマネジャーヘの情報提供】を行っていた。その一方で、家族介護者は、
訪問看護師を【要介護者の疾患に対する相談と対応をしてくれる】 【身体的・精神的負担 を気にかけてくれる】と捉えていた。また、ケアマネジャーを【介護に関するサービス調 整をしてくれる】【精神的支援をしてくれる】【専門職との窓口になってくれる】と捉えて いた。さらに、介護福祉士を【話を聞いてもらうことでストレス発散できる】【要介護者へ の介護をしてくれる】 【専門職との窓口になってくれる】と捉えていることが明らかにな った。対象論文のリストは、表
4
の通りである。表
4
介護者支援を行う専門職への教育に関する論文リストテーマ 研究デザイン 著者および発表年 掲載雑誌 研究者の厩性
認知症高齢者の家族支援のための通所介護戟貝
望月紀子 日本看護科学会誌
大学で看護学を専門とす に対する「家族支援能力育成プログラム」の効 介入研究
(2013) J.Jpn Acad Nurs Sci る研究者
果 (32) 3, pp63‑73
認知症患者家族に対する看護 師 の コ ミ ュ ニ 河野裕子・大坂望美・
質的研究 藤田浄美・小椋みづえ・ 日本若護学会論文集 病院の看護師 ケーションの実際ープロセスレコードの分析
大平幸子・奥村太志 精神看護(44),pp82‑85 を通して見えてきたもの一 (2014)
在宅認知症高齢者の家族支援に対する在宅ケア 面橋芙沙子 兵庫県立大学看護学部・地 大学で看護学を専門とす 専門粒の実践と家族介護者の認識一訪問看護導 質的研究 (2018) 域ケア開発研究所紀要
入事例の分析より一 (25), pp41‑55 る研究者
4.考察
対象論文を分類した結呆、「介護者が抱える困難や問題J、「介護者の内而的成長
J
、「介護 者への支援・介入」、「介護者支援を行う専門職への教育」の 4つにカテゴリー化すること ができた。以降、先行研究から明らかになった現状と課題について考察していく。1)
介護者が抱える介護負担感および介護者を取り巻く人間関係に関する先行研究の現状 本研究の結果から、対象となる介護者は、認知症高齢者を介護する介護者と若年性認知 症者を介護する介護者に大別することができた。認知症高齢者の介護者が抱える困難や間 題としては、介護者自身の健康上の問題や BPSDに対する対応方法等の介護技術に関する問 題、介護負担感に関する間題や負担軽減を目的としたプログラムの作成と評価に関する研 究、認知症高齢者と介護者間の関係性や介護者間(家族と近隣家族)の協力体制に関する 問題で構成されていた。一方、若年性認知症者の介護者が抱える問題は、介護上の問題、経済的閲題や制度上の問題、重複する負担、家族の選択があげられていた。
先行研究で多くみられた研究の一つに介護負担感に関する研究があげられる。このよう
な介護負担感に関しては、個別性はあるものの、どの介護者でも共通して抱えていると考 えられる。特に「介護上の問題」としてあげられていた「認知症に伴う
BPSD
に対する対 処法」や「若年性認知症を患う者への対処法」、介護者自身の健康上の問題等が在宅介護を 行ううえで避けて通れない障壁となる。しかし、介護者は専門職のように具体的な介護技 術を学ぶ機会がそもそも少ない。この専門職と介護者間に生じる「情報の非対照性9りの間 題が、介護そのものに対する不安や戸惑いにつながる一要因であると考えられる。こうし た「力の差」の存在は、認知症高齢者のアドボカシーの侵害にも繋がりかねないため、い かにして正しい情報提供を介護者に行い、理解してもらうか、その支援のあり方が間われ ている。一方で、介護負担感は、認知症高齢者自身と介護者の関係性や介護者を支援する近隣家 族の有無によって影聾を受けることが明らかになった。つまり、認知症高齢者の在宅生活 の継続においては、介護者をサポートする者(専門職や近隣家族)の存在が重要であるこ とを意味している。このことは、認知症高齢者と介護者との距離を適切に保つということ でもある。適切な距離とは、介護者が身体的、心理的健康を保ちつつ、在宅介護が継続で きる距離のことである。この距離は、それぞれの認知症高齢者と介護者の関係性や見る立 場によって相対的に異なるため、「相対的距離感」ということができよう。この「相対的距 離感」をいかにして保つのかということを念頭においた支援が必要であり、逆にあらゆる 介護者支援は、この「相対的距離感」を適切に保つための支援とも言うことができる。し かし、昨今の家族構造の変化や人間関係の希薄化から、家族間の関係性が良好とは言えな い場合も多い。このような問題に対して専門職としてどのように関わり、支援していくの かが課題となる。図
2
は、本研究を基に作成した概念図である。図
2
本研究の概念図FS:フォーマルサポート IS:
インフォーマルサポートVo:ボランティア
2)介護者の内面的成長を促すためのフォーマル・インフォーマルサポートの必要性 上記のような介護負担感やこれまでの人間閲係に着目した研究がある一方で、介護を通 して介護者自身が内面的に成長する、所謂、内面的成長に関する研究も多くみられた。例
えば、介護者は、認知症高齢者の
BPSD
への対応方法が分からず、不安や戸惑いを抱えな がらもこれまでの家族としての関係性(認知症が発症する前の関係性)を保持、あるいは 再構築しながら、自然と肯定的な対応方法を選択している現状が報告されている。また、専門職が認知症裔齢者を介護する際に意識する【相手に添った関わりをする】 【病前の面 影にも注目する】 【気持ちを通わせて相手を知る】等の技術を介護者自身も実践している ことも明らかになっている叫さらに、生活再編成ができる介護者の特徴として「実践しな がら介護力を高めていくこと」 「新たな意識を持つこと」 「納得できるストーリー作り」
「戦う姿勢」等があげられていた。
では、介護者がこのような状態に至るためには、専門職はどのような支援・介入をする 必要があるのだろうか。その方法として、菅沼らが示した
8
つの要因11) (要介護者・家族 からの感謝·承認、認知症の疾患·症状•関わり方の理解・対応、介護者を支える人間関係 等8
要因)や「介護のプラスの側面に気付かせる援助」「介護者の受容プロセスに沿った援 助」 「介護者に添った関わりをする」 「病前の両者の関係性にも注目する」 「気持ちを通わ せて介護者を知る」等の視点が有効となるだろう。こうした関わりが、当初みられた「介 護が大変」という思いを、時の経過とともに「良くしてあげたい」という思いに変化させ る一つの契機となる。つまり、専門職が日々行っている認知症高齢者に有効な支援を、介 護者に対しても実践することが効果的であり、このことが介護者の「肯定的意識化」を促 進する一要因であることが示唆された。一方で、行政や専門職以外が行うインフォーマルサポートとして、地域住民やボランテ ィアによる「認知症カフェ」の展開や認知症の人の家族会(以下、家族会)が主催する「つ どい」「サロン」の開催、電話相談を通した支援があげられる。これらに参加する意味とし ては、「情報の収集」「感情の表出」「コミュニケーションの場」「啓発」「支援」「変化」があ り、このような場を通して、他者からの肯定的な配慮や他者への肯定的配慮を感じ、他者 を受容することを重視した共感的な関係の維持・増進につながることが明らかになった。
しかし、家族会のもたらす効果には、正の部分だけではなく、負の部分も存在することが 指摘されていることから、介護者の特性を丁寧にアセスメントしたうえでの「つなぐ支援・
介入」が必要となる。これらのことから、介護者自身が持つ置かれた環境によって柔軟に 思考・考え方を切り替える力とこれを側而から支える専門職、近隣家族、地域住民、ボラ
ンティア等の支援が、介護者自身の内面的成長に大きく寄与することが示唆された。
3)
認知症のステージ進行に応じた段階的な介護者支援の必要性前項で介護者支援の一つとして、「介護者の受容プロセスに沿った援助」の必要性を示し た。特に認知症は進行性の疾患であることから、今後どのように進行し、どの時点でどの ような症状がでるのか、つまり介護者が抱える「予後不安」に配慮した段階的な支援が必 要となる。高見ら12)が、認知症のステージ進行に応じて専門職がケアをしていく必要性を 述べていることからも、ただ介護者に対して認知症に関する情報発信をするだけではなく、
認知症のステージ進行に応じた段階的な情報発信および支援が必要となる。
こうした「予後不安」に対する支援を担うのは、その者に関わる全ての専門職であるの は言うまでもない。その中でも特に訪間系サービス職員やケアマネジャーは、定期的に自 宅訪問するため、介護者と会う機会も多い。従って、訪問毎に認知症高齢者だけではなく、
その介護者に対しても支援を行うことが可能である。そのためには、訪問系サービス職員 に介護者支援の必要性を理解してもらい、訪間毎の実践を促す支援が必要となるだろう。
そうすることで、少しでも介護者の戸惑いや「予後不安」が解消され、在宅介護の意欲向 上につながるのではないかと考える。
このような支援が求められる一方で、訪問系サービス職員が、決められた時間内に利用 者の直接介護をすることを考えると、どれ程の時間を介護者支援に充てることができるだ ろうか。その点、ケアマネジャーは、直接支援ではなく、ケアマネジメントのためのアセ スメントやモニタリング等の間接支援が主たる業務であり、サービスと認知症高齢者やそ の介護者との媒介機能を有する。そのため、ケアマネジャーを中心に他の訪問系サービス 職員が連携しながら介護者支援を推進していくのが現実的だと考える。その際、ケアマネ ジャーの自宅訪間に認知症の人の家族会メンバーが同行する、所謂、アウトリーチ的な支 援も検討の余地があるだろう。しかし、それには、ケアマネジャーを中心とする専門職が 認知症に関して正しい知識を有しておく必要がある。加えて、超高齢社会の進行と医療技 術の進展により、認知症だけではなく、脳血管疾患13)や糖尿病14)、あるいは難病15)等、他 の疾患との合併している場合も考えられるため、認知症の専門的知識に加え、関連する他 疾患の専門的知識も有しておく必要がある。
しかし、現在は、居宅サービスや施設サービスを問わず、施設内外における研修時間の 確保そのものが困難な状況におかれている。その背屎としては、①介護未経験者や初任者 に対する教育機会の不足、②日数・回数・定員数等を原因とした研修への参加のしにくさ、
③行政間での研修内容等の格差等が考えられるが16)、昨今の深刻な人材不足の影響も大き く、このまま進行すれば認知症介護の質の格差拡大が懸念される。このような課題を各施 設で解決するには限界があると考えられるため、国家主導の下で、制度改正等を含めた抜 本的な改革が必要となるだろう。
4)認知症高齢者の介護者に対するソーシャルサポートの必要性
本研究から、認知症高齢者の介護者は、介護する中で様々苦難や苦労に直面するものの、
それを乗り越えることで内面的な成長につながっていることが明らかになった。そして、
その過程においては、専門職や近隣家族による介護者への精神的ケア(情緒的サポート)、
認知症に関する正しい情報の提供(情報的サポート)が求められることとなる。つまり、
人に投入される外部資源としての「ソーシャルサポート」の必要性が示唆された。
ソーシャルサポートは、
Caplan( 1 9 7 4 )
によって概念化された叫それは、「社会的関係 の中でやりとりされる支援」を指し、健康行動の維持やストレッサーの影響を緩和する働 き(緩衝作用)があると言われている。ソーシャルサポートは、その内容によって、①情緒 的サポート(共感や愛情の提供)、②交友的サポート(興味や趣味のあることを一緒に話し て気分転換させてくれること)、③直接的道具サポート(代わって介護・留守番等をしてく れるサービスの提供)、④情報的サポート(間題の解決に必要なアドバイスや情報提供)、⑤評価的サポート(肯定的な評価の提供)、⑥経済的サポート(金銭や物品の援助)の
6
つ に分類されている18)19)。本研究から認知症高齢者の介護者支援には、これらソーシャルサポ ートが包括的に実施される必要があり、中でも介護者は、「情緒的サポート」「情報的サポ ート」を求めていることが明らかになった。しかし、介護者支援をテーマとした専門職教育において、ソーシャルサポートに焦点化したものは少なく十分だとは言えない。今後、
介護者支援を行ううえでの一つの軸になるものがソーシャルサポートであり、これを実践 現場で活用可能なレベルにすることが喫緊の課題である。
5)
認知症高齢者の介護者支援を目的とした専門職教育の必要性認知症高齢者の介護者支援に関する専門職教育は、職員の介護者に対する態度や共感力 の向上を目的としたプログラムや介護者のニーズと専門職との対応のズレに焦点化し、そ の支援のあり方を提示する研究、介護者と専門職双方の家族支援に対する認識に焦点をあ てたものであった。共感力を高めることは、上記でも示した介護者への「情緒的サポート」
の士台となる技術であるため極めて重要なテーマであろう。また、支援のズレを少しでも なくすためには、アセスメントの際に「情報収集」「情報の分析・統合」「情報に対する総 合的な判断(主訴を含むプロフェッショナル・ニーズの確定)」を行うこと、そして専門職 は認知症高齢者の気持ちや障害の程度をよく理解したうえで、フェルト・ニーズ(認知症 高齢者やその家族のニーズ)とのすり合わせを行うことが必要となる20)。さらに、本研究 から認知症高齢者に関わる専門職は、何らかの形で介護者の「情緒的サポート」を行って おり、またそのことを介護者自身も実感していることが明らかになった。加えて、相談窓 口は、ケアマネジャーだけではなく、訪問系の専門職も担っていることも明らかになった。
しかし、現時点では、訪問看護師等の特定の職種に焦点化した研究は行われつつあるもの の、全体としては未だ十分とは言えず、特に在宅介護サービスの調整や多職種連携の要で あるケアマネジャーに関する研究は、ほとんど行われていないことが明らかになった。
従って、認知症高齢者の介護者支援を行う専門職への教育は、関連疾患を考慮したうえ で認知症の病状進行を見越し、今後予測される介護者の不安や個別性の高い介護負担に応 じた支援が望まれる。そして、ケアマネジャーを中心とした多職種による訪間毎のソーシ ャルサポートや相談窓口の柔軟な対応等、より多職種連に重きを置いた方法論の習得が必 要となる。これらは、今後の重要な研究課題の一つである。
5.結論
本研究から以下の
3
点が明らかになった。1) 「介護者が抱える困難や問題」は、認知症高齢者を介護する介護者と若年性認知症者 を介護する介護者に大別でき、その中でも重複する介護負担感に焦点化した研究や認 知症者本人と介護者間、介護者と近隣家族間等、認知症者本人を巡る人間関係に焦点 化した研究が多くみられた。また、この介護者を取り巻く関係性が、介護者の抱える 介護負担感に影響を与えていることが明らかになった。
2)認知症高齢者の介護者は、認知症の親を介護する中で、様々な苦難や苦労に直面する もののそれを乗り越えることで内而的な成長につながっていることが明らかになった。
そして、その過程においては、関連疾患を含めた認知症のステージ進行に応じた段階 的な支援や認知症高齢者と介護者の心理的距離を適切に保つための支援が必要であり、
そのためには、ソーシャルサポート(特に情緒的サポート、情報的サポート)が必要 になることが明らかになった。
3)認知症高齢者の介護者支援に関する専門職教育は、訪問看護師等の特定の職種に関し ては行われつつあるが、介護に関わる多職種全体を対象とした教育は未だ不十分であ ることが明らかになった。特に在宅介護サービスの調整や多職種連携の要であるケア マネジャーに関する研究はほとんど行われておらず、ケアマネジャーを対象とした教 育体制の構築が喫緊の課題であることが明らかになった。
6. おわりに
昨今、仕事を続けながら介護する、所謂、ワークライフバランスに関する間題や子育て しながら介護する、所謂、ダブルケアの間題が大きな社会問題として取り上げられるよう になった。政府も育児・介護休暇の取得、在宅勤務の推奨をしてはいるが、未だ企業全体 に普及しているとは言い難い。超高齢社会に突入した今、認知症高齢者もその介護者も誰 もが
1
人の人間として尊厳され得る社会の実現を目指し、社会全体として取り組むべき時 に来ているのではないか。その第一歩として、まずは、介護保険法に介護者支援を明記す ることが望まれる。そうすることで、国家責任の下での介護者支援が明示され、この分野 の研究もさらに発展するのではないだろうか。今回は、国内の文献に限定したため、今後は海外の文献に日をむけ、現状と課題を明ら かにする必要がある。そのうえで、ケアマネジャーのソーシャルサポートに対する認識や 実態調査を行う必要がある。
文献
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、8 ‑ 1 2
、2000
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援の日英比較日本在宅ケア学会誌7
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、2004
4 )
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1
、2015
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8) 湯原悦子:イギリスとオーストラリアの介護者法の検討— H 本における介護者支援の ために日本福祉大学社会福祉論集
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1 0 )
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、2011
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高見美保、中筋美子、野村陽子:認知症のステージ進行に応じたケアの特徴一認 知症ケアに携わる専門職が留意する関わりを通して— -Phenomenai n
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老年看護、3 9 ‑ 4 2
、2012
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麻美衣、奥野美紀、宇城靖子:インスリン療法中の認知症を伴う高齢糖尿病患者 の家族支援の実態調査日本看護学会論文集( 4 2 )
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城戸由香里、園田直子:家族介護者のソーシャルサポート希求態度を規定する要因久留米大学心理学研究