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中国キリスト教史研究の現在 : 「中国語キリスト 教文献目録の整理と研究」というプロジェクトを中 心に

著者 朱 虹

雑誌名 キリスト教社会問題研究

号 66

ページ 131‑158

発行年 2017‑12‑22

権利 同志社大学人文科学研究所

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000016856

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中国キリスト教史研究の現在

「中国語キリスト教文献目録の整理と研究」

というプロジェクトを中心に

朱 虹

はじめに

同じくキリスト教の宣教地となる日本と中国はキリスト教文化の受容過程に おいて、実は異なる様相を呈している。両国の相違を解明しようとすれば、そ れに関連する研究成果を把握しておく必要がある。本稿は1978年から現在に至 るまでの中国キリスト教史研究の歩みとその特徴を概観し、そのうえで中国の 社会科学分野における国家プロジェクト「中国語キリスト教文献目録の整理と 研究」の趣旨、内容及び推進状況を詳しく紹介し、中国キリスト教史研究の最 新動向を捉えようと試みたい。これによって、日中キリスト教史の比較研究に 何らかの示唆を与えたい。なお、本題に入る前に、本稿で取り扱う「基督教」

という用語について簡単に説明しておきたい。キリスト教を指す場合は、日本 語であれ、中国語であれ、同じく「基督教」という漢字が使われている。キリ スト教にはカトリック、プロテスタント、正教会という三つの宗派があり、中 国語でそれぞれ「天主教」、「新教」、「東正教」と呼ばれている。「基督教」と いう用語は本来キリスト教全体を指すが、今の中国では、プロテスタント系統 のキリスト教を意味する場合も多い。

研究ノート

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Ⅰ 中国におけるキリスト教史研究の歩み

改革・開放政策を導入した1978年以来、長い間歴史の闇に埋もれていた中国 キリスト教史研究は著しい発展を見せてきた。イデオロギーの束縛から解き放 たれた中国人研究者たちは宗教学、社会学、政治学、文化人類学などさまざま な研究アプローチを取り入れ、キリスト教史研究分野の発展と活性化を図ろう としている。また、貴重文献の発掘や国際交流の進展によって、中国キリスト 教史研究の理論と方法が新しい展開を見せた。不完全な統計によれば、改革開 放30年の間に中国大陸で出版されたキリスト教史研究の著作は約300部、研究 論文は約3000件、未出版の博士論文は約40件ある(1)。現在、キリスト教史研究は 重要な学問分野として確立されつつある。

1 中国キリスト教史研究の三段階

中国キリスト教史研究の展開を辿ってみれば、主に三つの段階に分けられる。

第一段階では、感情的認識から理性的認識への傾向を見せている(1978年

〜1988年)。中国では、キリスト教が長期にわたって、「文化侵略」という烙印 を押されていた。こうした侵略認識はいつも研究者たちの脳裏に根強くこびり ついて、長い間中国のキリスト教史研究の視点を制約していた。1980年代に入 って、文革の鎮静化に伴い、理性的な声が少しずつ浮かび上がってくる。徐以

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、曹立前、景鐘、程偉礼などの研究者たちは政治的な固定観念に囚われず、

政治、宗教、社会、文化など様々な分野におけるキリスト教の様相を深く検討 すべきだと主張しはじめた。彼らはキリスト教に内包される「文化侵略」の性 質を認めながら、「文化交流」という新しい視点を導入して、中国におけるキ リスト教の全貌を客観的に解明しようと努力した(3)。しかし、この段階における 中国キリスト教史研究は量的にも質的にも充実しているとは言い難い。

第二段階では、単一的な視点から多角的な視点への傾向を見せている(1989

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年〜2002年)。1989年、章開(4)は第一回キリスト教主義大学史研究大会におい て、中国におけるキリスト教主義大学が「帝国主義文化侵略の道具」だけでな く、「近代中西文化交流の産物」でもあると指摘した(5)。それ以降、彼の提唱の もとで、「文化交流」という視点は中国キリスト教史研究の分野において広く 援用されている。ここ十数年、すでに「文化侵略」という視点に取って代わっ て重要な研究視点の一つとなっている。だが、キリスト教を通じて遭遇した中 国文化と西洋文化の間に、必ずしも対等な関係で交流が行われていたというわ けではない。西洋文化がいつも優位に立っているのは自明の前提である。王立 新の指摘によれば、「文化交流」という視点はキリスト教の在華文化事業を考 察する場合においては有効性をもつが、それ以外の場合においては説明しきれ ないところが多いという(6)。1990年代以降、章開 も「文化交流」という視点の 限界に気づき、「近代化」という視点を中国近代史研究の分野に導入し、中国 の近代化過程におけるキリスト教の役割と意義を読み直そうとした。この視点 は後ほど『教会学校与中国教育近代化』、『基督教与十九世紀中国社会的現代化 歴程』、『美国伝教士与晩清中国現代化』などの研究成果に取り入れられている(7)。 このほか、「普遍主義」や「ポスト植民地主義」などの視点も中国キリスト教 史研究に活用されている(8)。これらの試みが中国キリスト教史研究の活性化にも つながると考えられる。

第三段階では、外面的考察から内面的検討への傾向を見せている(2002年以 降)。2002年10月に、上海大学で「東アジアにおけるキリスト教の再解釈」と 題する学術シンポジウムが開催された。その成果は二年後、同題の論文集とし て出版された(9)。これをきっかけに、中国キリスト教史研究は外面的考察から内 面的検討へ変わりつつある。とくにキリスト教の土着化という問題が重要視さ れるようになってきている。段 の著作『奮進的歴程 中国基督教本色化』

と会議論文集『離異与融会:中国基督教徒与本色教会的興起』の刊行は一層こ の傾向を強めたものである(10)。また、研究の深化につれて、研究対象も一層多様

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化してきている。神学、宗派、青年会、医療、言語などの問題も研究者たちの 視野に入ってくる。それに関連する研究成果も次々と生み出されてきた。

2 中国キリスト教史研究成果の類型 陶飛亜

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の指摘に従えば、今まで蓄積されてきた中国キリスト教史研究の成果 を大別すると八種類に区分できる(12)。それに関連する研究が多岐にわたるため、

ここですべての成果を網羅することはできないが、いくつか重要な成果を紹介 したいと考える。第一に、通史的著作。1981年に刊行された顧長声『伝教士与 近代中国(13)』という書物は中国キリスト教史研究の分野においては先駆的な存在 とされ、1840年から1949まで宣教師たちによる中国での布教活動の全貌を浮き 彫りにしたものである。1990年代に入って以来、 暁辛・呂延涛『龍与十字 架』(吉林文史出版社、1991年)や周 藩『中国的基督教』(商務印書館、1997 年)、卓新平『基督教猶太教志』(上海人民出版社、1998年)、 民権・羅偉虹

『中国基督教簡史』(宗教文化出版社、2000年)などが次々と出版されてきたが、

いずれも1949年以降の中国キリスト教史の展開に対する関心が薄いと言わざる をえない。近年刊行された 偉 ・胡俊修『基督教与20世紀中国社会』(広西 師範大学出版社、2014年)や羅偉虹編『中国基督教(新教)史』(上海人民出 版社、2016年)などの著書が上記の空白を埋めるために、1949年以降の中国キ リスト教史の展開を研究の射程に入れ、事実解明を試みている。

第二に、資料集と辞典類。1980年代に入ってから、資料集の整理と出版作業 が着実に進んでいる。代表的な成果として、中国社会科学院世界宗教研究所訳

『中華帰主』(中国社会学出版社、1987年)、中国宗教歴史文献集成編纂委員会 編『東伝福音』(黄山書社、2005年)、中国第一歴史 案館・福建師範大学歴史 系編『清末教案』(中華書局、1996年)などが挙げられる。キリスト教研究の 手引きとして、『近代来華外国人名詞典』(中国社会科学出版社、1981年)や

『近代外国在華文化機構綜録』(上海人民出版社、1993年)、『基督教詞典』(北

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京語言学院出版社、1994年)、『基督宗教知識辞典』(宗教文化出版社、2003 年)、『基督教大辞典』(上海辞書出版社、2010年)などの辞典が編纂・出版さ れている。

第三に、宣教師研究。尚智叢『伝教士与西学東漸』(山西教育出版社、2000 年)、遊汝傑『西洋伝教士漢語方言学著作書目考述』(黒竜江人民出版社、2002 年)、 振環『西方伝教士与晩清西史東漸:以1815至1890年西方歴史譯著的伝 播与影響為中心』(上海古籍出版社、2007年)などがすべて宣教師全体を対象 として行われた研究である。国別の宣教師研究といえば、アメリカ人宣教師を めぐる研究は最も盛んに行われている。例えば、何大進『晩清中美関係与社会 変革:晩清美国伝教士在華活動的歴史考察』(金盾出版社、1996年)、斉小新

『口述歴史分析:中国近代史上的美国伝教士』(北京大学出版社、2003年)、王 立新『美国伝教士与晩清中国現代化』(天津人民出版社、1997年)などの研究 成果が挙げられる。だが、アメリカ人以外の宣教師たちを対象とする研究は未 だに手薄い状態にある。そのほか、一人の宣教師に焦点を当て、その人物像を 描き出す動きも現れてきた。中国大陸では、最も注目を集めている外国人宣教 師はロバート・モリソン(馬礼遜

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)とジョン・レイトン・スチュアート(司徒 雷登(15))である。二人の宣教活動に関しては、顧長声『従馬礼遜至司徒雷登』

(上海人民出版社、1985年)、譚樹林『馬礼遜与中西文化交流』(中国美術学院 出版、2004年)、 平『無奈的結局:司徒雷登与中国』(北京大学出版社、2002 年)という著書の中で詳しく書かれている。

第四に、中国本土の教会と中国人教徒。これらの問題を解明するための研究 が比較的に数少ない。中国大陸では、最初に中国本土の教会研究に目を向けた のは沈以藩と曹聖潔が執筆した「中国基督教的自立運動」(『社会科学』第3期、

1982年)という一文である。その後、段 『奮進的歴程 中国基督教本色 化』(商務印書館、2004年)や中国基督教三自愛国運動委員会・中国基督教協 会編『伝教運動与中国教会』(宗教文化出版社、2007年)などの著作も公刊さ

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れ、中国本土における教会の独立過程を雄弁に物語っている。代表的な中国人 教徒をめぐる研究も若干あるが、その中では、唐暁峰『趙紫宸(16)神学思想研究』

(宗教文化出版社、2006年)と劉華俊編『天風甘雨:中国基督教領袖丁光訓(17)

(南京大学出版社、2001年)が理論構築や方法論などの面で学術性に富む著書 と言えよう。

第五に、キリスト教と近代中国の政治。陶飛亜が著した『辺縁の歴史:基督 教与近代中国』(上海古籍出版社、2005年)と『衝突的解釈:基督教与近代中 国政治』(台北:宇宙光全人関懐機構、2006年)は直接キリスト教と近代中国 政治の関係性を論じるものである。ほとんどの研究は宗教政策や反キリスト教 運動などの問題に関心を注いでいる。于本源『清王朝的宗教政策』(中国社会 科学出版社、1999年)、楊大春『晩清政府基督教政策初探』(金城出版社、2004 年)、蘇萍『謡言与近代教案(18)』(上海遠東出版社、2001年)、楊天宏『基督教与 民国知識分子:1922年至1927年中国非基督教運動研究』(人民出版社、2005年)

などが代表的な研究成果として取り上げられる。ただし、近代中国社会におけ るキリスト教の政治的参与や各政治勢力との向き合い方などの問題は更なる検 討を要すると言わざるを得ない。

第六に、キリスト教と近代中国の社会事業。近代中国における社会事業の発 展は宣教師たちを抜きにして語れない。1990年代から、それを扱う研究が著し く増えてきた。教育事業に関しては、主に高等教育に焦点を当て、初等・中等 教育や特殊教育に言及するものが少ない。その中で、章開 が編集した『文化 伝播与教会大学』(湖北教育出版社、1996年)と『社会転型与教会大学』(湖北 教育出版社、1998年)、徐以 『教育与宗教:作為伝教媒介的聖約翰大学』(珠 海出版社、1999年)、王立誠『美国文化滲透与近代中国教育:滬寧大学的歴史』

(復旦大学出版社、2001年)などの研究が学術的価値の高いものとして評価さ れている。医療事業に関しては、何小蓮『西医東漸与文化調適』(上海古籍出 版社、2006年)や李伝斌『条約特権下的医療事業:基督教在華医療事業研究

(8)

(1835〜1937)』(湖南人民出版社、2010年)などの研究はキリスト教が中国医 学の近代化に果した役割を明らかにした。出版事業に関しては、陳建明『激揚 文字・広伝福音:近代基督教在華文字事工』(台北:宇宙光全人関懐機構、

2006年)や陳林『近代福建基督教出版事業考略』(海洋出版社、2006年)、 興 富『儒耶対話与融合:「教会新報」(1868〜1874)』(福建教育 出 版 社、1999 年)、楊代春『「万国公報」与晩清中西文化交流』(湖南人民出版社、2002年)

などの研究は宣教師たちが中国各地で興した出版事業の様相を浮き彫りにした。

第七に、キリスト教と中国の文学・芸術。文学領域におけるキリスト教の意 義を検討する研究としては、王本朝『20世紀中国文学与基督教文化』(安徽教 育出版社、2000年)、劉麗霞『中国基督教文学的歴史存在』(社会科学文献出版 社、2006年)などが挙げられる。文学のほか、中国の芸術にもキリスト教が多 大な影響力を与えていた。董黎『中国教会大学建築研究:中西建築文化的交滙 与建築形態的構成』(珠海出版社、1998年)や顧衛民『基督宗教芸術在華発展 史』(上海書店出版社、2005年)などの著作がその一端を示している。

第八に、事例研究と地域研究。キリスト教の地方展開を考察する際に、事例 研究が実証的な研究方法としてよく実施されている。陳支平・李少明『基督教 与福建民間社会』(厦門大学出版社、1992年)や陶飛亜・劉天路『基督教会与 近代山東社会』(山東大学出版社、1995年)、陳月清・劉明翰『北京基督教発展 略史』(首都師範大学出版社、1998年)、呉義雄『在宗教与世俗之間:基督教新 教伝教士在華南沿海的早期活動研究』(広東教育出版社、2000年)、韓軍学『基 督教与雲南少数民族』(雲南人民出版社、2000年)、秦和平『基督宗教在四川伝 播史稿』(四川人民出版社、2006年)、王雪『基督教与陝西』(中国社会科学出 版社、2009年)、邱広軍『基督教与近代中国東北社会(1866〜1931)』(中国社 会科学出版社、2014年)などの研究がそれぞれの地域におけるキリスト教の展 開過程とその特質を描き出している。

総じていえば、中国キリスト教史研究の分野において、大陸学界は40年ほど

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たゆまぬ努力によって、香港、台湾、海外の学界と肩を並べる多彩な成果を挙 げている。ただし、神学研究や宗派研究、女性研究などの領域についてさらに 検討する余地があると指摘しておかなければならない。

Ⅱ 近年の動向 データベースの構築

近年、情報通信技術の急激な進展に伴い、膨大なデジタルデータが収集・分 析される「ビッグデータ時代」が到来している。学術分野においては、その有 効活用は研究の飛躍的発展のカギだと言えよう。中国のキリスト教史研究分野 でもこの機に乗じて、文献資料の収集、整理及び電子化作業に取り組みはじめ た。この中で、最も注目に値するのは上海大学文学部歴史学科の教授 陶飛 亜が責任者として推し進めている「中国語キリスト教文献目録の整理と研究」

というプロジェクトである。これは2012年10月より中国国家社会科学基金重大 プロジェクトの一つとして始動したもので、世界各地に所蔵している中国語の キリスト教関係の文献資料を体系的に収集、整理及び電子化することを目指し ている。2017年8月に至るまで、中国政府から190万元(換算すれば約3,100万 円以上)の助成金を受給していた。計画どおりに実行すれば、2018年12月に完 成できる見通しである。

周知のように、中国語で書かれたキリスト教関係の書物は西洋の宣教師たち が中国でより広く、より速く布教する媒介の一つである。中国におけるキリス ト教宣教活動の展開につれて、その数は増えつつある。中国におけるキリスト 教の宣教の起源は七世紀唐の時代に「景教」と呼ばれたネストリウス派キリス ト教の伝来に溯ることができる。781年にできた「大秦景教流行中国碑」が景 教隆盛時の記録でありながら、もっとも貴重な中国語キリスト教文献資料でも ある。988年、「景教」は長年の迫害を受けてきたことによって途絶えた。元の 時代に至って、カルピーネなど多くの宣教師が中国に派遣され、多数の中国人

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改宗者の獲得に成功した。だが、さまざまな問題によって宣教活動は後ほど廃 絶されるに至った。今なお世に残っている中国語キリスト教文献資料の数がご く少数であった。明末期になると、キリスト教の各教派は中国での宣教活動を 再開した。1582年、マテオ・リッチやミゲル・ルッジェリをはじめとするイエ ズス会士による布教が幕を開けた。1715年、ピョートル大帝の提唱により、イ ラリオン大修道院長を代表とするロシア正教会の宣教師団体が北京へ赴いた。

1807年、ロバート・モリソン(Robert Morrison)はイギリスのロンドン伝道 会(LondonMissionary Society)から最初のプロテスタント宣教師として広 東に派遣された。アヘン戦争を経て、キリスト教は西洋列強の勢力拡張に伴い、

中国の伝統文化と接触・衝突・融合しながら、中国全土へ広がっていく。こう した過程の中で、カトリック、プロテスタント、正教会などの宣教師、中国人 信者および知識人たちは数多くの中国語キリスト教文献資料を書き残した。

中国語キリスト教文献資料の内容は神学や信仰、典礼、宗教運動、政教関係、

社会事業なども含め、広範囲にわたっている。これはキリスト教の土着化、即 ち「中国化」過程を辿る手がかりとして貴重である。宣教師たちはいかに中国 語をもってキリスト教の論理を解説していたのか。中国人信者たちはいかに中 国語を通じてキリスト教の論理を理解していたのか。西洋のキリスト教は中国 の伝統文化と遭遇する際にいかなる思想交流を行っていたのか。中国語キリス ト教文献資料はこれらの問題を解明するにあたって極めて重要な意味をもつに 違いない。言うまでもなく、中国語キリスト教文献資料は中国典籍の一部でも ある。それは中国における儒教・仏教・道教という文化以外の新しい内容とさ れる。中国語キリスト教文献資料の収集と整理は中国典籍や中国文化の内容を より豊かにするだけでなく、思想、言語、芸術などキリスト教以外の研究分野 に新しい視点を提供することもできると考えられる。

現存する中国語キリスト教文献資料は数多くあるが、戦乱、宗教的抗争など 様々な原因によって世界各地に散在している。そして、その多くは国内外の図

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書館や資料館に眠っており、入手することが困難である。「中国語キリスト教 文献目録の整理と研究」というプロジェクトはまさに前述した学術意義と社会 価値を実現する重要な先決条件であろう。このプロジェクトはデータベースの 構築に重点を置く一方、文献資料の収集と整理、貴重文献の影印と出版、研究 活動の展開にも力を入れている。一旦完成すれば、中国キリスト教史研究に関 する文献資料を検索するための最大のデータベースとなるといえよう。

1 文献資料の収集と整理

このプロジェクトは始動してから5年ほどの年月が経っている。中国語キリ スト教文献資料を大量に収集するために、調査範囲は中国全土だけでなく、ア メリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、オーストラリア、

日本、韓国など多くの国々に及んでいる。2014年6月と2017年8月に、二回ほ ど収集済みの文献資料の件数が統計された。その統計データは表1に示されて いる。2017年8月時点で、300部の文献(全文)を収集し、28,705件の文献目 録を編成し、50万字以上の貴重文献を校点したという。2018年12月までに、お よそ500部の文献(全文)を収集し、30,000件の文献目録を編成し、中国広西 師範大学出版社と提携して12,000頁以上の貴重文献を影印出版する予定である。

表1 収集済みの文献資料の統計データ

件数 年月 2014年6月迄 2017年8月迄 増加数 収集済みの文献資料の件数 10,531 28,705 18,174

・カトリック(1840年前) 1,180 1,529 349

・カトリック(清末期) 836 2,061 1,225

・カトリック(民国期) 1,472 2,606 1,134

・プロテスタント(清末期) 2,396 4,004 1,608

・プロテスタント(民国期) 4,642 18,467 13,825

・正教会 5 38 33

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中国語キリスト教文献資料が時代的、地理的に広い範囲に分布しているため、

一括して収集・整理の作業を展開するのは難しいと言わざるを得ない。このプ ロジェクトをより効率的に進めるために、主に五つの課題に分けて同時進行し ている。

課題一、1840年前における中国語キリスト教文献目録の整理と研究。現時点

で、ほぼ1,500件近い文献目録が編成された。その中には、フランス国立図書 館で所蔵している明・清時代のカトリック関係の文献目録321件も含まれてい る。そのほか、ロシア国立図書館所蔵の『天学集解』、マカオ中央図書館所蔵 の『通鑑紀事本末補後編』、日本国立公文書館所蔵の『倫史鴻文』、日本国立国 会図書館所蔵の『枕書』などの貴重文献も入手した。また、多くの貴重文献を めぐる校点作業が行われていた。校点済みの『口鐸日抄』、『哀矜行詮』、『古今 敬天鑑』などの文献がすでに『明清之際西方伝教士漢籍叢刊(第一輯(19))』に収 録され、2013年に刊行された。50万字を超える『超性学要』(清刻本)の校点 も終了し、『明清之際西方伝教士漢籍叢刊(第二輯)』に収録される予定である。

課題二、清末期におけるカトリック関係の中国語文献目録の整理と研究。現

時点で、2,000件以上の文献目録が編成された。このプロジェクトが始まる前 までに、清末期におけるカトリック関係の中国語文献資料の数が極めて少なか った。それによって、清末期のカトリックに関する研究も長い間浅い段階に止 まっていた。近年、上海における徐家滙蔵書楼の修繕工事に伴い、大量の関連 資料が発掘された。これから新たな研究視点への展開が期待できる。そして、

関連資料の整理を通じて、清末期におけるカトリック関係の中国語文献資料の 執筆と編集に携わった宣教師たちや中国人信者たちの姿を浮び上らせることが できた。とりわけ、カトリック教徒としての黄伯禄(1830〜1909)が執筆・編 集した『函牘挙隅』、『契券彙式』、『聖母院函稿』、『職官称謂』など一連の著作 と抄本は清末期におけるカトリックと中国社会の関係性を解明する重要な手が かりとなる。そのほか、蔣邑虚が言語応用問題をめぐって書いた『書契便蒙』、

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『通問便集』などの貴重文献も発見した。上記の文献資料はすべてスキャン済 みで、出版待ちの状態である。

課題三、清末期におけるプロテスタント関係の中国語文献目録の整理と研究。

現時点で4,000件ほどの文献目録が編成された。その中には著作類が3,130件、

文書類が312件、書簡類が359件ある。殆どは中国国家図書館、上海図書館、オ ーストラリア国立図書館、オックスフォード大学ボドリアン図書館、ハーバー ド・イェンチン図書館、イェール大学神学部図書館、日本東洋文庫、同志社大 学図書館などで所蔵している。世界各地から集まった文献資料の中には、プロ テスタント宣教師たちがインド、シンガポール、ムラッカで執筆・編集した中 国語著作も含まれている。例えば、ロバート・モリソン(馬礼遜)の『神道論 贖救世総説真本』(1811年)やウォルター・ヘンリー・メドハースト(麦都思)

の『三字経』(1823年)などが挙げられる。また、地域の特徴と個性をあらわ す方言訳聖書もたくさん手に入った。例えば、上海語で書かれた『善悪経』、

広東語で書かれた『聖学問答』などが挙げられる。

課題四、民国期におけるカトリック関係の中国語文献目録の整理と研究。現

時点で2,400件以上の文献目録が編成された。その中には著作類が1,984件、文 書類が238件、書簡類が26件、逐次刊行物が100件ある。本課題は主に上海図書 館、上海市 案館、重慶市 案館、四川省 案館、北堂印書館、北京大学図書 館、香港浸会大学図書館、台湾中央研究院近代史研究所 案館、中国国民党党 史館、ハーバード・イェンチン図書館、韓国教会史研究所、延世大学図書館な どで資料調査を行い、『聖教古跡』、『上海老天主堂誌』、『聖教古史小説鼓詞』、

『越南致命事略』など約2000頁以上の貴重文献を集めた。これらの文献資料は すべてスキャン済みで、出版待ちの状態である。

課題五、民国期におけるプロテスタント関係の中国語文献目録の整理と研究。

現時点で7,800件以上の文献目録が編成された。その中には著作類が5,528件、

文書類が1,417件、書簡類が89件、逐次刊行物が554件ある。中国国家図書館、

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上海図書館、上海市 案館、台湾国史館、中国国民党党史館、中央研究院近代 史研究所 案館、アメリカ議会図書館、イェール大学神学部図書館、日本国立 国会図書館などで所蔵している中国語文献資料がすべて調査済みである。現在、

南京第二歴史 案館、南京大学図書館、四川大学図書館、中山大学図書館など で所蔵している中国語文献資料の収集・整理に力を注いでいる。民国期になる と、中国人プロテスタント教徒による影響力が強くなった。そして、この時期 に創刊された新聞や雑誌も中国人信者たちの注目を浴びていた。民国期におけ るプロテスタントの特徴をより明確にするために、本課題は『民国中国基督教 徒文献叢刊』と『民国基督教中文報刊叢編』という二つの資料集の刊行を企画 している。現段階では、『王治心(20)文集』、『張仕章(21)文集』、YMCA の機関誌『青 年進歩』、浸信会の機関誌『真光雑誌』などの編集作業に取り組んでいる。

2 データベースの構築

前述したように、データベースの構築は「中国語キリスト教文献目録の整理 と研究」というプロジェクトのコアである。技術上の制約によって、広西師範 大学出版社(上海)有限公司、上海図書館、上海市 案館などと連携して、

「中国語キリスト教文献目録データベース」(http://sd.bbtdb.com 中国語のみ 対応)を共同開発することになっている。このデータベースの構築にあたって、

四つの目的が設定されている。一つ目は中国語キリスト教文献資料の件数、種 類、分布状況を全面的に把握すること。二つ目は明末期から民国期にかけて、

各時期における中国語キリスト教文献資料の変化を浮き彫りにすること。三つ 目は利用者に中国語キリスト教文献資料に関する総合的なデータベースを提供 すること。四つ目はキリスト教の土着化研究に資する学術情報を提供すること。

このデータベースの主たる機能は文献目録の検索ということである。文献目録 の正確性を確保するために、「中国文献編目規則」に基づき、中国語キリスト 教文献目録の特徴を生かす「規範」を新たに制定した。即ち、「規範」のもと

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で文献目録の作成に必要な題名、著者名、出版者、出版年、所蔵先、分類、書 誌の種別、キーワードなどの情報を一々入力し、三回の審査と三回の校正を経 てデータベースにアップロードしていくということである。約五年間作業を積 み重ねた結果、このデータベースはだいたいの形ができあがっている。これか ら「文献目録」の作成以外に、「人物紹介」、「歴史図像」などの作成プランも 企画されている。(データベースに関するイメージは図1と図2を参照)

図1 文献目録の詳細検索画面

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3 貴重文献の影印と出版

データベースを構築するほか、一部の貴重文献を影印・出版するのもこのプ ロジェクトの重要な一環である。現在、広西師範大学出版社と契約を結び、中 国国内に所蔵していないあるいは所蔵数が三件以下の貴重文献を数回に分けて 影印・出版することを企画している。出版予定の中国語キリスト教文献リスト は表2のとおりである。すべては所蔵先に所定の著作権使用料を払い、出版権 を獲得したものである。これらの文献資料の出版は中国キリスト教史研究を促 す重要な価値をもつ存在だと考えられる。

図2 著作一覧画面

表2 出版予定の中国語キリスト教文献

番号 類別 書名 著者名 出版年

1 『治歴疎稿』 徐光啓

2

カトリック

(1840年前)

『 子遺詮』 [西] 迪我(Diego de Pantoja)述、[葡]陽瑪諾 

(Emmanuel Diaz)・傅汎際

(Francisco Furtado)・費楽德

(Rodrigue de Figuerdo)校訂

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3 カトリック

(清末期)

『函牘挙隅』 黄伯禄 1882年

4 『幼学浅解問答』 [英]米憐(William  Milne) 1816年

5 『鴉片六戒』 [美]培端(Divie Bethune

McCartee) 

1858年

6 『真理三字経注釈』 1869年

7 『真理尋繹』 [英]慕維廉(William

Muirhead) 

1872年 8 『教会異同』 [瑞]韶波(Martin Schaub) 1884年

9 『勧誡鴉片煙十二図』 1890年

10 『探道本原』 [英]秀耀春(Francis Huberty James)  

1894年 11 プロテスタント

(清末期) 『真理便読三字経』 [英]楊格非(Griffith John) 1896年

12 『古教滙参』 [英]韋廉臣(Alexander

Williamson)著、董樹堂訳 

1900年

13 『政教善章合選』 [英]李提摩太(Timothy

Richard)  

1903年

14 『中国耶 教会小史』 謝洪 1908年

15 『儒教搭之耶 教通考』[独]花之安(Ernst Faber) 1908年

16 『興化奮興録』 王佐材 1909年

17 『諸教参考』 [美]赫士(Watson Mcmillen Hayes)訳、于漢清筆述 

1911年

18 『聖教古跡』 黄伯禄

19 『上海老天主堂誌』

20 『高麗致命雅歌伯伝略』

21 カトリック

(民国期) 『高麗主証』 1900年

22 『越南致命事略』 沈則寛 1900年

23 『聖教古史小説鼓詞』 費金標 1926年

24 『高麗致命事略』 沈則寛 1929年

25 『諸巷会修道人表』 1931年

26 『耶 底社会原理』 [美]饒習博(Walter

Rauschenbusch)著、張仕章訳 

1923年

27 プロテスタント

(民国期)

『基督与社会改造』 [英]霍德進

(Hodgkin Henry Theodore)著、

曾約農訳

1925年

28 『耶 改造社会之程序』[美]如雅德(Arthur Rugh) 1926年

29 『国内近十年来之宗教

思潮』

張欽士編 1927年

(18)

4 研究活動の展開

このプロジェクトの充実化を図るために、学術会議や講演会の開催、研究成 果の刊行、学位論文の作成などさまざまな研究活動が展開されている。表3に 示されているように、2014年から2016年にかけて、このプロジェクトの趣旨に 則る学術会議が10回ほど行われたのである。国際会議は5回、国内会議は3回、

大学院生フォーラムは2回ある。学術会議を通じて、このプロジェクトの影響 力が高まるだけでなく、国内外の図書館や研究機関との交流も深まっている。

30 『基督教社会主義論』 [日]賀川豊彦著、 有秋訳 1928年

31

『宣教事業平議』 米 国 平 信 徒 調 査 団(Laymenʼs Foreign  Mission  Inquiry)編、 

秋笙・徐宝謙・范定九訳

1934年

32 プロテスタント

(民国期) 『社会福音』 呉耀宗 1934年

33 『基督教与社会主義運

動』

張仕章 1939年

34 『教会与工人』 楊紹棠 1939年

35 『耶 主義講話』 張仕章 1941年

表3 主催会議のリスト

番号 日付 類別 会議の主題(日本語訳題)

1 2014年10月24日

〜26日 国内会議 第二回「明・清時代のカトリック研究」ワーク ショップ

2 2014年11月19日 国際会議 中国キリスト教研究ワークショップ

3 2014年12月6日 国内会議 「中国語キリスト教文献目録の整理と研究」第 一回大学院生フォーラム

4 2014年12月13日 国内会議 第九回上海市宗教学会青年学者フォーラム 5 2015年10月16日

〜19日 国際会議 第三回「明・清時代のカトリック研究」ワーク ショップ

6 2015年12月4日

〜7日 国際会議 「伝承と打開:ビッグデータ時代における歴史 研究」

7 2015年12月12日 国内会議 「中国語キリスト教文献目録の整理と研究」第 二回大学院生フォーラム

8 2016年6月11日 国際会議 中国語キリスト教文献と中国キリスト教史研究 9 2016年10月29日

〜30日 国際会議 「キリスト教と近代中国の教育」学術シンポジ ウム

10 2016年11月26日 国内会議 第二回「中国語文献とキリスト教の中国化研 究」学術シンポジウム

(19)

中国語キリスト教文献資料の収集・整理に伴い、それに関する研究は活発化 しており、いくつか優れた成果もあがっている。例えば、陶飛亜編『宗教与歴 史③:中国基督教史研究』(上海大学出版社、2014年)、肖清和編『宗教与歴史

⑤:晩明以来的天主教研究』(上海大学出版社、2016年)、陶飛亜・楊衛華編

『宗教与歴史⑥⑦:漢語文献与中国基督教研究』(上海大学出版社、2016年)、

肖清和『「天会」与「吾党」:明末清初天主教徒群体研究』(中華書局、2015 年)、陶飛亜・王皓「近代医学共同体的 変:従博医会到中華医学会」(『歴史 研究』第5期、2014年)、陶飛亜・李強「晩清国家基督教治理中的官教関係」

(『中国社会科学』第3期、2016年)などが挙げられる。

このプロジェクトの運営にあたって、莫大な資金と人手が必要とされること は言うまでもない。人手不足の問題を解決するために、キリスト教史研究に関 心をもつ大学院生が多く動員された。院生たちが文献資料の収集・整理作業を 通じて、専門知識と研究方法を身に付けながら、修士論文の研究テーマも見つ けられた。生の史料に基づいて書かれたこれらの修士論文は中国キリスト教史 研究の幅を一層広げていくことが期待できよう。今まで提出済みの修士論文テ ーマ一覧は表4のとおりである。

表4 修士論文テーマ一覧

番号 氏 名 入学年 修士論文テーマ(日本語訳題)

1 韓二帥 2012年 「近代韓国の教案研究及び関連文献目録の整理と研究」

2 王丹丹 2012年 「明末清初における反教と護教の文献目録の整理と研究」

3 王 智 2013年 「民国期における反教と護教の文献目録の整理と研究」

4 喬洋敏 2013年

「アメリカに所蔵している中国語キリスト教文献に関する 考察 アメリカ議会図書館、ハーバード・イェンチン図 書館、イェール大学神学部図書館を中心に」

5 王 晶 2013年 「民国期におけるプロテスタント宣教師の中国語文献目録 の整理と研究」

6 季月華 2013年 「文書宣教:明末期から清中期に至るまでのカトリック関 係の中国語著作の研究」

7 曽嘉玲 2013年 「民国期におけるキリスト教関係の中国語定期刊行物:出 版史の研究」

(20)

おわりに

儒教、仏教、道教に比べて、「異教」と思われがちなキリスト教が文献資料 の収集・整理の面において大きく立ち遅れていることは否めない。それにはも ちろん政治的・歴史的な原因が存在しているが、1978年改革開放政策の実施に よって研究上の規制がだいぶ緩和されてきている。さらに、史料の発掘にも一 定の便宜を供与することになっている。

周知のように、歴史研究の深化を支えるのは、大量の史料との出会いにある。

これから中国キリスト教史研究の量的拡大と質的向上は史料に頼るところが多 いに違いない。「中国語キリスト教文献目録の整理と研究」というプロジェク トの始動はまさに新しい時代の要請に応えるものでありながら、キリスト教研 究領域における大きな試みでもあると言えよう。また、中国語キリスト教文献 目録の整理と研究はキリスト教の土着化、いわゆる「中国化」過程とその特質 をより深く探る手がかりとなる。英文資料のみで解釈しきれない問題点につい ては中国語資料と結びつけて解読すれば、その答えが見つけられるかもしれな い。さらに、中国語キリスト教文献目録の整理と研究は中国政府の宗教政策と 宗教管理にも歴史的根拠と現実的対策を提示することができると言えよう。約 五年間の努力の末、このプロジェクトは今一定の規模を備え、国内外の当該研 究分野では高い注目を浴びている。しかし、これからどのようにデータベース を生かして中国キリスト教史研究の影響力を高めていくのか、そしてどのよう

8 李 濱 2013年 「清末期における反教と護教の文献目録の整理と研究」

9 張翠翠 2013年 「清末期におけるカトリック宣教師の中国語文献目録の整 理と研究」

10 鳳英 2014年 「清末期におけるプロテスタント宣教師ウィリアム・ミュ アヘッド(慕維廉)とキリスト教関係の中国語著作」

11 管栄偉 2014年 「韓国に現存する中国語キリスト教文献の整理と研究」

12 郭 雷 2014年 「上海滞在時のウォルター・ヘンリー・メドハースト(麦 都思)とキリスト教関係の中国語著作」

(21)

に持続可能な運営体制を構築していくのかなどに関しては、まだ多くの課題が 残っていると言わなければならない(22)

付録 同志社に所蔵している中国語キリスト教文献の目録

番号 書名 著者名 出版年 出版社 備考

1 『真道自証』

[仏]沙守信(Emeric Langlois de 

Chavagnac)述、[仏] 

馬若瑟(Joseph Henri Marie de Premare) 

校訂

1721年 皇城堂

2 『明朝破邪集』,8巻 徐昌治訂 1855年 翻刻本

3 『天人異同』 [英]慕維廉(William

Muirhead)  1856年 香港:英華書院

4 『新約全書』 1859年 上海:墨海書館

5 『旧約全書』,3巻 1859年 上海:墨海書館

6 『闢邪管見録』,2巻 杞憂道人編 1861年

7 『旧新約全書』,2巻 1864〜

1865年

上海:美華書館

8 『新約全書』,2巻 1866年 香港:英華書院

9 『新約全書』 1866年 上海:美華書館

10 『耶 教要理大問答』 1866年 上海:美華書館

11 『旧約節録啓蒙』 [美]麦耐(Divie

Bethune McCartee)  1868年 上海:美華書館

12 『馬可福音注釈』 1868年 香港:英華書院

13 『馬太伝福音書』

(馬太福音注釈)

何進善編、[英]理 雅 各

(James Legge)校訂 1868年 香港:英華書院

14

『悔改信耶 説略』

『救世要論』

『真 人物論』

『祀先辨謬』

『論復新之理』

『耶 教要旨』

『信操三綱』

『主祈禱文句解』

『眞神十誡釈義』

『霊魂貴於身體論』

[美]培端(Divie Bethune McCartee) 

1868年

上海:美華書館 『聖 教 書 類雑集』

(22)

15 『使徒行伝注解』

[美] 維思(John Livingstone Nevius) 

1868年

上海:美華書館

16

『上帝総論』

『天人異同』

『野客問難記』

『耶 教或問』

『釈教正謬』

1869年

香港:英華書院 『聖 教 書 類雑集』

17 『天道溯原』

[美]丁 良(William Alexander Parsons  Martin) 

1869年

上海:美華書館

18 『新約全書』 1869年 上海:美華書館

19 『糾幻首集』 1871年 香港:英華書院

20 『天儒総論』 1873年 上海:福音会堂

21 『馬太伝福音書』

(馬太福音注釈)

何進善編、[英]理雅各

(James Legge)校訂 1874年 上海:美華書館 22 『天路指南』 [美] 維思(John

Livingstone Nevius)  1874年 上海:美華書館

23 『約翰聖経釈解』

[英]合信(Benjamin Hobson)、慕維廉 

(William  Muirhead)注 1874年

上海:三牌楼聖

24 『哥林多後書注釈』 1876年 上海:美華書館

25 『使徒雅各 彼得前 後書注釈』

[美]陶錫祈(Samuel

Dodd)訳   1876年 上海:美華書館 26 『約翰一二三書

大書注釈』

[美]陶錫祈(Samuel

Dodd)訳   1876年 上海:美華書館 27 『保羅達提摩太人前

後書』 1877年 羊城:小書会 『新 約 全

書』

28 『保羅達提摩太人前

後書』 1877年 香港:香港小書

『新 約 全 書』

29 『新約聖書馬太伝』 米国聖書会社編

1877年 横浜:米国聖書 会社

30 『天道溯原』

[美]丁 良(William Alexander Parsons  Martin)、中村正直訓点 

1877年

東京:山田俊蔵

31 『保羅達羅馬人書注

釈』 1878年 羊城:小書会 『新 約 全

書』

32 『明心図』 [独]花之安(Ernst

Faber)   1879年 羊城:礼賢堂

33 『新約全書』 1879年 横浜:北英国聖

書会社

(23)

34 『宣道津梁』 [美]紀好弼(Rosewell H. Graves)  1879年 35 『旧約全書・新 約 全

書』 1881年 福州:美華書局

36 『馬可講義:訓点』 1882年 横浜:倫敦聖教

書類会社

37 『訓点旧新約全書』 1883年 横浜:大英国聖

書会社

38 『訓点旧約全書』,3巻 1883年 横浜:米国聖書

会社

39 『訓点新約全書』 1883年 横浜:北英国聖

書会社

40 『天道溯原』

[美]丁 良(William Alexander Parsons  Martin)著、中村正直  訓点

1886年

横浜:倫敦聖教 書類会社

41 『天道溯原』

[美]丁 良(William Alexander Parsons  Martin) 

1887年

華北書会

42 『共読経文』 1888年 北京:美華書院

43 『新約聖経』

[英]包爾騰(John Shaw  Burdon)、[美] 

柏亨理(Henry Blodget)訳 

1889年

福州:美華書局

44 『引照旧新約全書』 1891年 横浜:大日本聖

書館

45 Mo-kʼu djon foh-in

sh:su-cheu tʼ  u-bah 1891年

Zong-hæ:

Da-mae-kweh shen-kyin wæ  oh in,  Zong-hæ mæe-wo  sh-kwon in 

蘇州方言

46

Lan e kiu-tsu Ia-so・Ki-tok e Sin Iok:tsoan su 

1891年

[S.l.]:

Seng-Chheh Kong-hoe Oah  Pan in 

厦門方言

47 Kalmuk Gospel of

S. Matthew  1896年

Shanghai:

British and Foreign Bible  Society 

モンゴル

(24)

48 『天道溯原 要』

[美]丁 良(William Alexander Parsons  Martin) 

1901年

中国聖教書会

49 『再造復新』 中国聖教書会編 1901年 上海:美華書館 50 『旧約詩編注釈』

[美]杜歩西

(Hampden Coit DuBose)注 

1902年

上海:美華書館

51 『旧 約 全 書 』『新 約

全書』 1902年 聖書公会

52 『指示霊魂得救之路』 1902年 上海:美華書館

53 『 美詩』 1903年 上海:美華書館

54 『孔子基督為友論』 [独]安保羅(Paul

Kranze)  1904年 上海:商務印書

55

Mo-khau dzen fok-iung su: 

Zaung-he kheu-iung 

1904年

Zaung-he:

Me-wo su-kwen 

上海方言

56 Fu in Ma-tai

『馬太福音』 1904年

Shanghai:

British and Foreign Bible  Society 

布依(プ イ)語

57 Gyiu iah shu:

e-tsiu tʼu-wa

1905〜

1914年

上海:大英聖書 公会

台州方言

58 『旧新約聖経』

[美]施約瑟(Samuel Isaac Joseph  Schereschewsky)訳 

1908年

上海:大美国聖 経会

59 『旧約全書』『新約全

書』 1908年 聖書公会

60 『旧新約聖 経:文 理

串珠』 1910年 上海:大美国聖

経会

61

Lan e Kiu-tsu Ia-so・Ki-tok e Sin  Iok:tsoan su 

1910年

Siong-hai:

Seng-Chheh Kong-hoe Oah  Pan in 

厦門方言

62 『吾主邪蘇基督新約

聖書』 1911年

上海:British and Foreign  Bible Society 

63 『馬可福音』 1912年 上海:大英聖書

公会

64 『馬太福音』 1912年 上海:大英聖書

公会

(25)

65 『路加福音』 1913年 奉天:聖書公会

66 『旧新約全書』 1914年 横浜:大日本聖

書館 67 『魔鬼考』 [美]宋韋義(William

Eugene Blackstone)  1915年 上海:美華書館

68 『新約全書』 1915年 汕頭:聖書公会

69

The Gospel according to S. 

Luke:Nosu

1923年

Shanghai:

British and Foreign Bible  Society 

( イ )

70 Gyiu iah shu:

Nying-po tʼu-wo

1923〜

1934年

上海:大英聖書 公会

寧波方言

71 『新約』 1924年 汕頭:聖書公会

72 『旧新約聖 経:上 海

語』 1928年 上海:美華聖経

73 『新旧約全 書:広 東

話上帝』 1930年 上海:美華聖経

74

St. Markʼs Gospel in Shan: 

Yunnanese

1931年

London:

British and Foreign Bible  Society 

雲南方言

75 『新旧約全書:客話』 1931年 上海:聖書公会 客家語

76 Na-hsi Mark 1932年

Shanghai:

British &

foreign Bible Society 

納西(ナ シ)語

77

The Gospel of St.

Matthew:Black Miao  

1932年

Chefoo:

Printed for the British and  Foreign Bible  Society by  James  McMullan & 

Co.

黒苗(ミ ャオ)語

78

The Gospel of St.

Matthew:Hwa Lisu  

1932年

Chefoo:

Printed for the British and  Foreign Bible  Society by  James  McMullan & 

Co.

花 栗 粟

(リス)

(26)

(1)陶飛亜・楊衛華「改革開放以来的中国基督教史研究」『史学月刊』第10期、2010 年、6頁。

(2)徐以 はアメリカプリンストン大学(Princeton University)哲学博士。復旦大 学教授、中華宗教文化交流協会理事、上海市宗教学会副会長。専門は中国キリス ト教史、宗教と国際関係、宗教と中国社会。キリスト教関係の学術雑誌『宗教与 美国社会』、『基督教学術』、『宗教与当代国際関係論叢』、『宗教与中国国家安全和 対外戦略論叢』の編集長を担当している。主要著作としては、『教育与宗教:作 為伝教媒介的聖約翰大学』(珠海出版社、1999年)、『教会大学与神学教育』(福建 教育出版社、1999年)、『中国基督教教育史論』(広西師範大学出版社、2010年)、

『宗教与当代国際関係』(上海人民出版社、2012年)、『後冷戦時期的宗教与美国政 治和外交』(上海人民出版社、2014年)などが挙げられる。

(3)徐以 「基督教高等教育初探」『復旦学報』第5期、1986年;曹立前「基督教伝教 79

Sin ku iok e seng-keng:tsoan su  

1933年

Siog-hai:

Seng-chheh kong-hoe 

厦門方言

80 『新旧約全 書:官 話

串珠』 1933年 上海:聖書公会

81 『新旧約全書』 1933年 上海:美華聖経

82 『新旧約全 書:福 州

話』 1933年 上海:聖書公会

83 Tibetan New

Testament  1933年

Shanghai:

British &

Foreign bible Society 

チベット

84 『新旧約全 書:称 上

帝』 1934年 上海:美華聖経

85 『新約全書:興 化 平

話』 1934年 上海:美華聖経

86 『耶 基利士督我主

救者新遺詔書』,8巻

87 『聖経問答』 [美]那爾敦(Miles Justice Knowlton) 

88 『耶 言行伝』 漢口:中国基督

聖教書会

(27)

士在近代中国的文化活動及其影響」『山東師範大学学報』第2期、1989年;景 鐘・雷泉・一誕「『教会大学』在中西文化交流中的歴史作用」『学術研究』第6期、

1988年;程偉礼「基督教与中西文化交流」『復旦学報』第1期、1987年。

(4)章開 は中国の歴史学者、教育者。1951年華中師範大学歴史学科専任講師、准教 授、教授を経て、1985年から1991年の間、華中師範大学の学長に任じられた。中 国辛亥革命史研究会、華中師範大学中国近代史研究所、中国教会大学史研究セン ターの創建者として、辛亥革命史や中国商会史、中国教会大学史などの研究分野 において数多くの成果を挙げている。主要著書としては、『辛亥革命史』(人民出 版社、1980年)、『辛亥革命与近代社会』(天津人民出版社、1985年)、『開拓者的 足跡 張 伝稿』(中華書局、1986年)、『中西文化与教会大学』(湖北教育出版 社、1991年)、『文化伝播与教会大学』(湖北教育出版社、1996年)、『社会転型与 教会大学』(湖北教育出版社、1998年)などが挙げられる。

(5)章開 「『中西文化与教会大学』序言」、章開 ・林蔚編『中西文化与教会大学』

湖北教育出版社、1991年。

(6)王立新「近代基督教在華伝教史研究的主要範式述評」、陶飛亜・梁元生編『東亜 基督教再詮釈』香港中文大学出版社、2004年、114頁。

(7)何暁夏・史静 『教会学校与中国教育近代化』広東教育出版社、1996年;庄維民

「基督教与十九世紀中国社会的現代化歴程」『青島大学学報』第1期、1991年;王 立新『美国伝教士与晩清中国現代化』天津人民出版社、1997年。

(8)胡衛清『普遍主義的挑戦』上海人民出版社、2000年;王立新「後植民理論与基督 教在華伝教士研究」『史学理論研究』第1期、2003年。

(9)陶飛亜・梁元生編『東亜基督教再詮釈』香港中文大学出版社、2004年。

(10)段 『奮進的歴程 中国基督教本色化』商務印書館、2004年;劉家峰『離異与 融会:中国基督教徒与本色教会的興起』上海人民出版社、2005年。

(11)陶飛亜は香港中文大学哲学博士。山東大学教授、上海大学教授、上海市歴史学会 副会長、上海市宗教学会副会長。専門は中国近現代史、中国キリスト教史、キリ スト教と中国社会。主要著書としては、『基督教与近代山東社会』(山東大学出版 社、1995年)、『中国的基督教烏托邦:耶 家庭1921〜1952』(香港中文大学出版 社、2004年)、『辺縁的歴史:基督教与近代中国』(上海古籍出版社、2005年)、

『衝突的解釈:基督教与近代中国政治』((台北:宇宙光全人関懐機構、2006年)、

『基督教与中国社会研究入門』(復旦大学出版社、2009年)などが挙げられる。

(12)陶飛亜・楊衛華「改革開放以来的中国基督教史研究」『史学月刊』第10期、2010 年、9−19頁を参照。

(13)顧長声『伝教士与近代中国』上海人民出版社、1981年。

(14)ロバート・モリソン(Robert Morrison, 1782〜1834)は1807年、イギリスのロ ンドンン伝道会に派遣され、中国に渡った最初のプロテスタントの宣教師である。

(28)

中国人の助けを借りて、最初に聖書を中国語に翻訳し、また最初の中国語・英語 辞典 “A Dictionary of the Chinese language”を出版することで名を知られてい る。中国名は馬礼遜である。

(15)ジョン・レイトン・スチュアート(John Leighton Stuart, 1876〜1962)は中国 杭州生まれのアメリカ長老教会の宣教師である。1904年より、中国で宣教事業を 開始した。1908年から1949年にかけて、南京金陵神学院教授、燕京大学学長、駐 中華民国アメリカ大使などを歴任し、中華人民共和国成立後アメリカに追われた。

中国名は司徒雷登である。

(16)趙紫宸(1888〜1979)は浙江省徳清県の出身で、東呉大学在学中にアメリカ人宣 教であり学長である孫楽文(David L.Anderson, 1850〜1911)から受洗し、キ リスト教徒となった。東呉大学を卒業した後、1914年にアメリカに渡り、テネシ ー州にあるヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)大学で神学や哲学 を勉強した。帰国後、東呉大学文学院院長、燕京大学宗教学院院長、金陵協和神 学院教授、中国キリスト教三自愛国運動委員会常務委員などを歴任した。20世紀 の中国で最も影響力をもつ神学者の一人として、生前『基督教進解』、『従中国文 化説到基督教』、『繫獄記』など数多くの著作を世に出した。2003年から2013年に かけて、『趙紫宸文集』(全五巻)と『趙紫宸聖 専集』が商務印書館によって出 版された。

(17)丁 光 訓(1915〜2012)は 上 海 出 身 で、上 海 セ ン ト・ジ ョ ー ン ズ 大 学(Saint Johnʼs University)を卒業した後、1947年にアメリカに渡り、コロンビア大学  とニューヨークのユニオン神学校での勉強を経て、神学博士の学位を取った。帰 国後、金陵協和神学院院長、南京大学副学長、中国キリスト教三自愛国運動委員 会主席、中国キリスト教協会会長、全人代常務委員会委員などを歴任した。

(18)教案とは19世紀末以降の中国において、西洋から伝わったキリスト教に対する排 撃運動を背景に発生した衝突事件である。

(19)周振鶴編『明清之際西方伝教士漢籍叢刊(第一輯)』鳳凰出版社、2013年。

(20)王治心(1881〜1968)は浙江省呉興県の出身で、南京金陵神学院や福建協和大学、

滬江大学など多くのキリスト教系学校で教鞭を取った。教育事業に身を置きなが ら、『光華報』、『神学誌』、『金陵神学誌』などキリスト教雑誌の編纂にも携わっ ていた。そのほか、『基督徒之佛学研究』、『中国宗教思想史大綱』、『孫文主義与 耶 主義』、『耶 基督』、『評基督抹殺論』など数多くの著書を出版し、当時の中 国キリスト教界に大きな影響を及ぼした。

(21)張仕章(1896〜 )は浙江省海寧県の出身で、滬江大学在学中に洗礼を受けてキ リスト教徒となった。滬江大学宗教学科での修士課程を終えた後、上海広学会や 中華基督教文社、青年会全国協会などの機関誌の編集作業を担当した。『社会主 義家眼光中的耶 』、『赤裸裸的耶 主義』、『一個耶 主義者的宗教観』、『基督教

参照

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