ーとの比較
著者 宮本 大, 中田 喜文
雑誌名 同志社政策科学研究
巻 3
ページ 15‑34
発行年 2002‑02‑28
権利 同志社大学大学院総合政策科学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000004733
日本におけるNPO労働市場の現状―民間営利セクターとの比較― 1
宮 本 大・中 田 喜 文
1.はじめに
近年、経済成長の鈍化、少子高齢化の進展等、
社会的、経済的に大きな変化が起こっており雇 用面においても様々な形態や関係が出現してい る。そうした中で利潤追求を目的とはせず社会 に貢献することを活動の目的とする民間非営利 組織(NPO)で働く人が増加している。
NPO における有給就労者数については、山内2
(1999)が1995年でフルタイム労働者に換算して 214 万人と推計した。また、これは日本の非農業 総就業者の 3.5%、サービス業就業者の 12.3%に 相当し、これにボランティア3の70万人を加える と284万人(非農業総就業者の4.6%)となる。ま た、1990 年からの5年間で約 45 万人、27%の増 加を記録している。この時期の総就業者数が 2.3
%しか増加していないことを考えると、NPO労働 者数の増加は目覚しいものであると論じている。
こうしたNPO労働者の増加には1995年の阪神 大震災でのボランティアの活躍を機に NPO 団体 の活動がメディアを通じて注目を集めたことも 影響していよう。しかし、より大きく近年の増加 を規定すると思われるのは潜在的なボランティ
1 この研究は平成 11 年− 13 年科学研究費基盤研究 B『日本におけるエマージング労働市場の研究』の成果に基づくものである。
2 ここでの山内の数値は Johns Hopkins Comparative Nonprofit Sector Project(JHCNP)によって算出された数値である。JHCNP にお ける NPO の定義は、①正式に組織されたものであること、②政府とは別組織であること、③営利を追及しないこと、④自己統治 組織であること、⑤ある程度自発的な意思によるものであることの5つに、宗教組織、政治組織ではないという条件をつけてい る。対象範囲については経企庁(1998)「日本の NPO の経済規模」で詳しく紹介している。
3 ボランティアとは、山内(1999)の定義によると、基本的には社会奉仕のため無償で労働力を提供する人のことを指す。
4 「国民生活選好度調査」経済企画庁,2000 年,p11 − 13.この年の調査はボランティアと国民生活というテーマに基づき調査が なされている。
5 小野・浦坂(2001)p1.
6 こうした点は『民間非営利組織(NPO)の活動と労働行政に関する調査研究報告書』(労働省 1998 年7月)、『高齢者が参加する 経済社会とそれに対応した労働市場の展望と課題』(労働省 1999 年 10 月)『「経済新生対策」の策定について』(労働省 1999 年 11 月)等で検討課題として議論されている。
ア活動希望者の多さであろう。例えば、経済企画 庁のボランティアに関する意識調査4において何 らかの形で社会の役に立ちたいと思っている人 は全世代平均で約75%にも達している。特に、50 代以上の高齢世代が約 80%と高い数値を示して いることはボランティア潜在人口の今後の更な る増加を暗示する。さらに、同調査ではボラン ティア活動に参加すべきかを質問しているが 66
%の人が何らかの形で参加すべきであると答え ており、このような社会貢献への意識の高さが NPO 活動を支えていると考えられる。しかし、
NPO 団体には財政的基盤の弱い団体が多く、ま た労働力が定着し難いために持続的な活動の核 となる人材確保が困難という問題を抱えている5。 このように NPO は問題を抱えながらも社会的に も、経済的にも今日の日本において重要な位置 を占めるにいたった。また、近年の若年層におけ る企業への定着率の低下や中高年層における失 業の増加等、労働市場環境の変化の中で営利セ クターに吸収されない労働力の受け皿としても 期待が高まっている6。
以上のように、NPO の活動への注目が高まっ てはいるが日本における NPO 研究は限定された
分野での研究成果の蓄積しか進んでおらず、多 くの重要な領域、特に、NPO 労働に関する研究 はほとんどなされていないのが現状である。海 外において NPO 労働はすでに重要な研究領域と して確立されている現実とは対照的である。先 行研究の代表例に Menchik and Weisbrod(1987)
がある。彼らはボランティア活動を消費財と捉 えボランティアをすることで労働者の効用が上 昇するという消費モデルと、ボランティア活動 はその当事者の人的資本を高め企業に就職する 際の賃金率を上昇させるとする投資モデルの二 つを定式化し、それらのモデルを用いてボラン ティア活動に対する労働供給行動を分析してい る。彼らの実証分析によってボランティア活動 に対する労働供給量は市場賃金率とは負の関係、
総所得とは正の関係があること、そして、ボラン ティア労働と寄付の間に補完的な関係があるこ とが示された。その他にも、Preston(1989)によ る非営利団体と営利団体の賃金格差の研究や Freeman(1997)によるボランティアを行う動機 に関する研究等が知られている。一方、日本では Menchik and Weisbrod の二つのモデルをもとに、
ボランティア労働者の供給行動と NPO 団体の最 適な労務戦略を八木・中田(2001)が分析し、ま た小野・浦坂(2001)が参加者のモチベーション の違いに着目し、それが NPO 労働者の処遇にど のような差を生じさせているかを実証的に分析 している。さらに、山内(2001)は女性にとっての 雇用と NPO 活動の選択問題の視点から女性の NPO 労働市場参加率の高さを実証的に分析し NPO 労働市場の研究に先鞭がつけられた。NPO 労働に関する研究、とりわけ NPO 労働市場の現 状を分析し理解することは NPO が抱える人材確 保の問題や、雇用の受け皿として NPO が果たす 役割を考えるためにも必要とされる研究課題で ある。
本稿ではNPO団体とNPO労働者に対して実施 したアンケート調査から得たデータを利用して、
有給職員を対象とした NPO 労働市場の現状を把 握することを中心的な課題とし、得られた結果 をふまえ NPO の人材確保についての示唆を得る ことを副次的な目的とする。
7 例えば、Aoki(1988),Koike(1988) あるいは Siebert and Addison(1991)を見よ。
8 以下、内部労働市場の特徴としては、Doeringer and Piore(1971),Williamson(1975),佐野(1989)、小池(1991)等を参考とし た。
9 Ariga, Brunello and Ohkusa(2000)のように長期雇用、若年採用、内部昇進、内部的賃金決定の4つを特徴とするものもある。
構成は以下の通りである。2節では NPO 労働 市場を検証する枠組みについて説明し、3節で は2節で説明する分析の枠組みに沿って民間営 利セクターとの比較分析を行う。4節では NPO 労働市場の特徴を総括する。最後に5節は得ら れた結果から NPO の人材確保に関する示唆を述 べ結びとする。
2.分析の枠組み
労働市場を分析する枠組みの一つとして内部 労働市場−外部労働市場という労働市場の2分法 的振分けがある。これまで、この枠組みにおいて 日本の民間営利セクター企業(以下、営利セク ターとする)、とりわけ中規模程度以上の企業に おいて、その企業内労働市場は国際的に見ても 高度に発達した内部労働市場型と認識されてき た7。NPO 労働市場がこの枠組みに基づきどのよ うな特徴を持つかを示すことで前節に挙げた課 題に対する示唆を得ることができる。例えば、持 続的活動に必要な人材獲得において NPO 労働市 場が外部的であるならば、必要とする人材に対 して適正な市場賃金を支払うことが人材採用の 要となるであろう。逆にもし労働市場が内部的 ならば NPO 内部における人的能力開発の道筋と それを機能させるための処遇制度の整備状況が ポイントとなろう。
分析に先駆けて日本の内部労働市場の特徴を 以下に確認しておく8。ここで特徴というのは企 業の労働力の配置とその賃金の決定において内 部労働市場的と思われるものを抽出したものであ る。本稿では以下の3点をその特徴と考える9。こ れらの特徴は一方では企業の制度によって担保 され、またその特徴は従業員の属性にも影響を 与えることとなる。
①幅広く長い社内キャリアに沿った企業特殊性 の高い内部スキルフォーメーション
職務遂行に必要な技能・技術・知識はOJT中心 の企業内訓練に基づき形成される。その形成は 易しい仕事からより難しい仕事へとステップ
アップし長期に渡る社内キャリアパスに沿って 行われる。その結果、スキルの内容も企業特殊的 なものの比重が大きくなる。実際に課・係等の業 務執行単位レベルでの従業員のローテーション については多くの調査報告が存在し、職場慣行と して確立されていることが証明されている10。ま た、このようなOJTを補完するために職場におけ る多様な Off-JT が企業によって提供される。こ のような制度はその技能形成の長期性ゆえに対 象も長期雇用を前提とする正規従業員となり、
その結果、正規従業員中心の労務構成となり観 察される雇用期間も長期となる。
②職務横断的な職能と個人属性に基づく企業特 殊的な賃金決定
企業活動に必要とされる多様な職務を大きく 括り、それらについて共通の能力概念に基づき階 層化するとともに昇格基準を職能資格によって 制度化し、その制度によって決定される職能資 格等級が各人の賃金水準の主要な決定基準とな る。このような職務にとらわれない賃金決定方 式は上記①の職務横断的なキャリアパスを可能 とする。また個人の属性、例えば、性・学歴・年齢・
勤続年数等は職能資格の等級決定に直接・間接に 影響する以外にもそれらの属性と直接的に関連 付けられた賃金項目の存在を通しても基本給の
水準に影響する。以上の企業内賃金決定制度は 企業独自の賃金表という形で具体化され、その 結果、従業員の賃金水準は上記の個人属性と強 い相関を持つことになる。
③高い従業員の定着とそれを前提とする新卒採 用中心の労働力補充
上記①及び②の結果、企業特殊性を持つ技能 が蓄積され、その技能の高低と勤続年数が賃金 水準、ひいては退職後の経済的処遇にまで影響 することから従業員の定着が促進される。さら に企業年金や退職金の水準が退職時の基本給や 勤続年数によって決まる年金・退職金制度がそ の傾向を増幅する。また、そのような長期を要す る企業特殊的技能蓄積システムは必然的に中高 年齢者の中途採用を労使双方にとって経済的に 非合理的な選択とし、その結果、新規の採用は もっぱら新卒者を中心とする若年者に集中する こととなる。
基本的に内部労働市場は労働力の内部養成、
長期雇用、勤続重視の処遇制度が発達し企業特 殊的スキルを評価することで、働く個人のモチ ベーションを企業内キャリアの全期間を通して 維持させるシステムをもつ労働市場であると特 徴付けることができる。表1に以上3点の内部
10 小池(1977)、小池・猪木(1987)、中部産政研(2000)。
表1 内部労働市場の3つの特徴
労働市場の特徴を企業内制度と従業員について の現れ方に分けて整理した。以下の NPO 労働市 場分析では、こうした内部労働市場の特徴に 沿って検討する。
3.日本における NPO 労働市場の検証 3.1 分析の範囲とデータについて 分析に使用するデータは「平成 11 − 13 年度科 学研究費基盤B研究『日本におけるエマージング 労働市場の研究』(研究代表者:中田喜文)」にお いて NPO に関する団体調査(1999 年 11 月)と個 人調査(2000 年7月)を実施し収集した。
団体調査においては、先行調査等で採用され ている「非営利性」、「非政府性」、「自発性」とい う基準11に加え、独自に1)年間総支出が1000万 円以上である団体、2)主に、国際援助活動、環 境に関する活動、まちづくり、人権問題等の市民 活動に携わる団体、3)寄付金や会員費等が収入 に含まれている団体という選択基準を採用して いる12。これらの基準を満たす団体をダイレクト リー13より抽出し郵送にて各団体に調査票を配布 した。抽出団体は 723 団体、回答団体は 331 団体
(回収率 45.8%)であった。本稿の分析では回収 団体 331 団体中 1 名以上の有給職員を雇用する 281団体を対象とする。これらの団体を有給職員 数規模別(以下、単に規模と記している場合、
NPO は有給職員数規模のことである)に見ると 1〜 29 人が 255 団体(90.7%)、30 〜 99 人が 19 団体(6.7%)、100人以上が7団体(2.5%)となっ ており調査回収団体の多くが 30 人未満の規模に 入っている。これらの団体について活動内容を 選択肢から複数選択を許す形で尋ね、規模とそ の事業内容でグループ化すると表2のようにな
る。団体の選択基準から自然環境、国際貢献・協 力、国際交流活動団体が多くなっているが、教 育、学術・文化の割合も高く1団体当り2つ以上 の事業活動を行っており NPO の事業が多角化し ていることが伺える。
次に、個人調査に関しては団体調査における 回答団体に対して、その団体の職員数に応じ個 人票を送付し回答を得た。送付数 3233 人、回収 数 501 人(回収率 15.5%)であり個人票の回答を 回収出来た団体は175団体(個人票送付団体に占 める割合52.9%)である。このうち本稿で使用す るのは有給職員286人の個人データである。内訳 は男性正規職員106人(全サンプルに占める割合 は 37.1%)、女性正規職員 102 人(35.7%)、男性 非正規職員 30 人(10.5%)、女性非正規職員 48 人
(16.8%)となっている。
以下では、これらのデータをもとに分析に必 要な指標を作成し検証を行う。
3.2 スキルフォーメーション
今回の団体調査には OJT や部門・職務間異動 についての質問が含まれていないので、以下で は Off-JT の有無とその費用負担に限定して NPO におけるスキルフォーメーションの特徴を制度 と従業員の両面で分析する。
Off-JT の普及率と費用負担
Off-JTによる教育・訓練は一般スキル、企業特 殊スキル(NPO の場合、組織特殊スキルと置き かえられるが)の形成に関与すると考えられる が、その費用負担は、Becker(1964)やHashimoto (1981)の定式化に基づくと、組織が教育費用を負 担するのは教育・訓練で得られるスキルが組織 特殊的であるからと考えられる14。そこで教育・
11 ここで挙げた3つの基準は JHCNP(1994)、経企庁(1998)、国民経済計算において、少なくとも2つ以上で採用されている。
12 1)に関しては、本稿における興味の対象は NPO 有給職員であるため、1人以上の有給職員がいる必要性から恣意的ではあるが 年間総支出が 1000 万円以上であれば、1名以上の有給職員の雇用が可能であると判断した。
2)に関しては、これらの活動を行う団体の特徴はサービスの受け手が担い手(NPO)に対して直接対価を支払わない点にある。
こうした基準を設けることで活動・運営方法の著しく異なる学校法人、医療法人等と分離することが目的である。
3)に関しては、行政からの補助金や事業費のみに頼るのではなく活動内容に自発的な要素を取り込むことになる。この基準にお いて、より非政府性または自発性の基準が強固になる。
13 団体調査で使用したダイレクトリーは、関西国際交流団体協議会(1998)『インターピープル ダイレクトリー』,(財)日本環境 協会(1998)『平成 10 年版 環境 NGO 総覧』,NGO 活動推進センター(1998)『NGO ダイレクトリー '98』の 3 つである。
14 ただし、一般訓練でも企業が費用を負担する可能性がある。詳しくは Acemoglu and Pischke(1999)を参照。また、Ariga, Brunello and Ohkusa(2000)は一般訓練の費用を企業が負担するという仮定の下でも内部昇進などの内部労働市場の特徴が見出されることを 示している。
表2 調査対象団体の事業分野別分布
表3 教育訓練制度
訓練の実施状況を同規模の営利セクターと比較 するだけでなく、その費用負担のあり方も比較 することから組織特殊性の高さについても相対 的ではあるが推測できる。以下では教育訓練制 度の有無に基づく比率と、制度があると回答し ていない NPO 団体や、過去に教育・訓練を実施 したことのある団体まで対象を広げて、何らかの 形で教育・訓練の費用を負担していると回答し ている団体の比率に基づき比較する。
まず、教育訓練制度の有無から見てみよう。
NPO において有給職員に対する教育訓練制度が あると答えた団体は規模計では31.3%である。他 方、営利セクターでは制度化された教育訓練計 画の有無で制度の有無を推定すると 41.3%と約 10%も高い。(表3のAとBの規模計を比較。) し かし、営利セクターの規模計数値は1〜 29 人規 模のサンプルを含んでいないことを考慮し、と もに 30 人以上の規模に限定して規模別に比較す ると、30 〜 99 人規模では、NPO の 73.7%に対し て営利セクターは 35%、100 〜 299 人規模では NPOが71.4%に対し営利セクターが49.9%と、伴 に NPO の方が高い比率となっている。
では、この NPO における教育・訓練の制度化 の高さは NPO の費用負担の高さも意味するのだ
ろうか。そこで NPO が何らかの形で教育・訓練 の費用負担をしている割合を見てみよう。表3C に NPO の規模別に費用負担率を示した。最も規 模の小さい1〜 29人規模の NPOにおいても 52.2
%と過半数を超え、30 〜 99 人規模では 73.7%の 高率である。この比率と直接に比較できる営利 セクターの数値は存在しないが、表3Dに営利セ クターにおける教育・訓練の実施率を示した。営 利セクターにおけるこれら社内教育・訓練が企 業負担で行われることを仮定すると、この比率が NPO の負担率に相当する。同規模で比較できる のは 30 〜 99 人と 100 〜 299 人の2つの規模だけ ではあるが、30 〜 99人規模では NPO負担率は営 利セクターの73.7%と同じレベルとなっている。
また、100 〜 299 人規模では NPO の 57.1%に対し て営利セクターは 87.4%と 30%ほど営利セク ター比率が高くなっている。
また、営利セクターに関しては費用負担のあ り方については情報を含まないため NPO との純 粋な比較はできないが、企業が教育・訓練を全額 負担していると仮定すると、NPO では全額負担 の割合が11.0%であることから、その組織特殊性 は低くむしろ一般性の高い教育・訓練が提供さ れていることが推測できる。こうした教育・訓練
表3 教育訓練制度(つづき)
の一般性の高さを NPO が提供している教育・訓 練の内容からみてみると(表4)、1)形態的には 外部で行われている研修に参加するというもの が多い、2)国際協力関連団体では海外へのイン ターンシップ参加等の高費用の内容もふくむ、
3)基本的には業務に関連した教育・訓練が行わ れているが、特殊性が高いとはいえず、一般性の 高い教育・訓練であるといえる、という特徴が挙 げられよう。
以上まとめると、NPO における教育・訓練は 規模の如何にかかわらず営利セクターと比較し ても遜色の無い実施率であり、その費用につい ても半分以上の教育・訓練が何らかの形で NPO
が負担している。また、その内容は企業(組織)特 殊性が高いとはいえないが業務に直結した内容 である。
では、このような職員に対する人的投資の制 度は、それを受ける職員の構成と属性にどのよ うな関連をもつのであろうか。組織が費用負担 する場合、その投資から得られる収益を回収で きるような対策が必要となる。それは人事戦略 としては長期雇用を目指すこととなり、就業形 態としては正規従業員中心の労務構成で非正規 従業員比率は低くなる。また、施策が効果的に実 施されたなら正規従業員についても勤続年数の 長期化が起こる。そのような現象がデータに現
表4 NPO 教育訓練制度の内容
れているか、次にこれらの点を確認してみよう。
非正規従業員比率
表5に NPO と営利セクターの非正規従業員比 率を比較した。まず NPO では非正規従業員比率 A15は規模計で 29.0%、規模別では1〜 99 人規模 および 100 人以上規模で、それぞれ 26.0%、35.4
%と規模が大きくなるに従って非正規職員比率 は大きくなる。一方、営利セクターでは規模計で
20.3%、規模別でそれぞれ 24.1%、15.8%と規模 が大きくなるに従って非正規に依存する比率は 小さくなる。また、営利セクターについては嘱 託・その他を加え、NPO においては他企業・団体 から給与を受け取っている出向等を含めた広義 の非正規職員比率Bで見ても、全ての規模におい て NPO の非正規依存率が営利セクターを大きく 上回る。さらに、狭義の定義に基づくデータに見 られたと同様、広義のデータにおいても NPO と
表4 NPO 教育訓練制度の内容(続き)
15 NPO の非正規職員 A は活動している NPO 団体から給与を受け取っているパート、アルバイト、契約・臨時職員である。また、営 利セクターの非正規職員 A はパートおよびアルバイト職員である。若干、NPO と営利セクターの非正規職員の定義が異なること に注意が必要である。
営利セクターでは規模と非正規職員比率の関係に ついて逆のパターンが存在する16。その他、非正 規職員比率 B は非正規職員比率 A に比べて1〜
99人規模で約1割も増加することがNPO労務構 成の特徴として挙げられよう。こうした定義の 変更による比率の変化は 100 人以上の規模にお いては NPO、営利セクターのどちらにも見られ ない。つまり、比較的小規模な NPO の労働力構 成は企業や他団体からの出向等でまかなわれて いる部分が大きいことが見て取れる。
職員の平均勤続年数
NPOは規模計で 7.7 年、営利セクターは11.8 年 と平均勤続年数は約4年、NPO の方が短い(表 6)。これはNPO団体の活動年数が短いために平
均勤続年数を押し下げている可能性があるが戦 前に設立された団体を除くと、20 年以上活動し ている団体でも平均勤続年数は長くて7.7年であ り活動年数を考慮しても NPO の方が平均勤続年 数は短いと思われる。また、性別でみると、NPO では規模計で男性、女性それぞれ8.5 年、6.9 年で あるが、営利セクターはそれぞれ 13.2 年、8.5 年 である。規模別でみると、規模が大きくなるにし たがって NPO、営利セクターともに勤続年数が 長くなる傾向にあり男性は営利セクターでの勤 続長期化傾向が強く NPO と営利セクターの差が 広がるのに対して女性はほとんど差が見られな くなる。
以上、Off-JTの普及率と非正規労働者比率及び 勤続年数の特徴を営利セクターとの比較で見た
表5 非正規職員比率
表6 平均勤続年数:NPO vs 営利セクター
16 こうしたパターンは1〜 29 人、30 〜 99 人と1〜 99 人規模を細分化しても見られる。
が、内部労働市場的な特徴の第1点である企業特 殊性の高い内部スキルフォーメーションを示唆 する Off-JT の普及状況とむしろ非整合的と思わ れる。非正規労働者の多さや勤続年数の短さが 混在していて、NPO 組織に第1の特徴が強く見 られるとは断定できない。
3.3 賃金決定方式
内部労働市場の第2の特徴を見るために、こ こではまず賃金決定方法が賃金表を用いる等の 制度として確立されているか、またその制度が どのような特徴をもっているかを見る。また、外 部補充が中心であれば同じスキルを持った人で もその時の市場状況によって異なる賃金で処遇 する必要があり、特定の属性を持った労働者の 賃金を事前に決めておく合理性は無い。つまり、
賃金決定に関する制度の存在は特徴③の「高い 従業員の定着とそれを前提とする新卒採用中心 の労働力補充」という特徴とも関連する。
賃金表の普及
まず、最初に賃金表の普及を見よう(表7)。 NPO 正規職員では、規模計で 59.4%、規模別は 1〜 29 人で 55.6%、30 〜 99 人で 89.5%、100 人 以上で 100.0%と、規模が大きくなるにつれてそ の割合は上昇する。営利セクターは規模計で49.4
%、規模別では 30 〜 99 人で 43.5%、100 〜 999 人で 61.3%、1000 人以上で 77.0%と比較可能な 規模で NPO が上回っている。ここでは営利セク ターの1〜 29 人規模の指標がないため、この規 模の厳密な比較は出来ないが、営利セクターの 30 〜 99 人の割合が 43.5%であること、営利セク ターは規模が小さくなるにつれて賃金率の普及 率が低くなることから1〜 29 人規模においても NPO の方が賃金表の普及率は高いことが類推さ れる。また、非正規職員に関する賃金表の有無も 正規職員より各規模で数値は低いが営利セク ターとの比較では同等もしくは若干高くなって いる。
賃金の決定要素
では次に、どのような要素に依存して賃金の 決定を行っているかを見ることで、NPO の賃金 決定の特徴を検証する。
NPO 正規職員における賃金の決定要素17は規 模計で「職務、職種などの仕事内容」、「職務遂行 能力」、「業績・成果」、「年齢・勤続年数」がそれ ぞれ 60.7、41.4、9.8、66.0%であり仕事内容と個 人属性に傾斜している。他方、営利セクターでは 74.9、78.4、66.1、87.2%と職能の高さが特徴であ る(表8)18。さらに、規模別に比較すると、「職 務、職種などの仕事内容」は 30 〜 99 人規模で、
「年齢・勤続年数」は 30 人以上の規模で NPO が
表7 賃金の普及率
17 賃金の決定要素は労働省『賃金労働時間制度等総合調査』で挙げられている「職務・職種等の仕事内容」、「職務遂行能力」、「業 績・成果」、「年齢・勤続年数」の4つを利用する。これら4つの要素に関しては、NPO 団体調査において、「賃金決定の基準にな るものを重要なものから順に3つまで選択してください」とする質問において、職種、仕事の種類、役職と回答したものを「職 務・職種等の仕事内容」とし、仕事レベル、職能査定、資格・専門性を「職務遂行能力」、業績・成果を「業績・成果」、年齢、勤 続年数を「年齢・勤続年数」とした。
18 表8において、営利セクターの調査では「職務・職種等の仕事内容」、「職務遂行能力」、「業績・成果」、「年齢・勤続年数」から 最大4つ選ぶことができるが、本調査では、3つしか選択できないため、NPO 団体の数値が過少になっている可能性が高い。ま た、この表の営利セクターは一般職のものであるが、管理職の数値も大きく変わることはない。
営利セクターより高い数値を示している。また、
NPO の「業績・成果」が 10%未満であり、「職務 遂行能力」も他の要素に比べ低いことを考慮す ると、NPO は営利セクターよりも限定された要 素から賃金を決定している。また、NPO 非正規 職員は規模計で上記4要素それぞれ 47.8、42.2、
6.8、37.9%となっている。
次に、表9で賃金決定要素の組み合わせから
最も重視している要素を見ると、正規職員にお いてNPOは規模計で職務・職種的な要素26.8%、
職能的な要素 10.8%、属人的な要素 62.4%、営利 セクターはそれぞれ 21.3、28.7、33.7%となって いる19。NPO では職能的な要素は低く、属人的な 要素を重要視する団体が非常に多くなっている。
さらに、この表からどのような要素を組み合わ せて賃金を決定しているかをみることができ、
表8 賃金決定要素
表9 賃金決定要素の組合せ
19 表9では、NPO の項目が「…が最重要」、営利セクターの項目が「…が半分を超える」となっているが、営利セクターでは当該 要素が半分以上の割合で決定に関与していることから、その項目を最も重要であると認識していると考えることができると仮定 し比較に利用している。
職務・職種、職能、属人の要素すべてを賃金決定 要素としている団体は NPO で 11.3%、営利セク ターは 55.6%と実に5倍の差がある。
このように、NPO は賃金表の普及率は高いも のの限定された要素、特に、属人的、職務・職種 的な要素を中心とした賃金決定を行っている団 体が多いことが明らかである。
賃金プロフィール
以下では、個人属性に関するデータと NPO 組 織属性に関するデータをマッチングさせたデー タを用いて賃金関数を推定し、NPO 労働者の賃 金水準及び賃金プロフィールの形状に NPO 労働 市場の特徴がどのよう反映されているかを明ら かにする。
推定において個人データと団体データをマッ チングさせたため、推定に必要な変数が欠落し ているデータを除外し最終的に利用したサンプ ルは275人である。モデルの被説明変数は週給の 対数変換を用い、Genda(1998)における営利セ クターの推定結果と比較可能な説明変数を選択 した。説明変数は男性ダミー、年齢(一次、二次 項)、勤続年数(一次、二次項)、職種ダミー(基 準は製造・組立職)、学歴ダミー(基準は大卒)、 規模ダミーである20。
通常、営利セクターの男性の平均賃金は年齢を 重ねるにつれて上昇し、50 〜 54 歳層でピークを 迎え以降減少していく。営利セクターにおける労 働者の賃金の基本給は先の表8でも見たように、
一般的には年齢・勤続給、職務給、能力給に分け られ、これらの要素を総合的に勘案して決定され る。年齢給は生活給としてライフステージに沿っ た賃金分配として、また勤続給は企業特殊スキル の蓄積量を反映するものとして説明される。
そこで、NPO 正規職員の賃金プロフィールの 推定結果(表 10)を営利セクターと比較してみ る21。 男性ダミー、規模ダミーは営利セクター
同様に有意かつ符号もプラスで一致している。
NPO にも男女間賃金格差と規模間賃金格差が存 在することがこれから確認できる。学歴ダミー に関して営利セクターはすべて有意であり、符 号も教育投資の議論と整合的であるが、NPO で は符号はほぼ整合的であるが有意でない。しか し、この NPO における学歴効果の弱さは高学歴 に特化した NPO 労働者の分布に影響されている 可能性がある。年齢の効果に関しては、営利セク ターの推定結果と同様に年齢の一次、二次項が それぞれ有意かつ正、負の符号を持つが、賃金の 上昇における年齢の効果はむしろ NPO の方が高 く、年功的性格を強く持つ賃金プロフィールで あることがわかる。次に、勤続年数であるが営利 セクターでは、一次、二次項ともに有意で符号条 件も企業特殊スキル蓄積の議論と整合的である が、NPO では一次、二次項ともに符号条件は満 たすものの有意でない22。個人属性を賃金決定要 素に選択する NPO が多い事実とは整合的ではな いが、組織特殊性が低い一般的性格を持つOff−
JTをもっぱら行っているNPOの技能訓練の特性 とは整合性を持つ結果である。
この NPO 組織における勤続年数係数の非有意 性については NPO 団体に固有な財政的な問題が 関係している可能性も考えられる23。小野(2000)
が行った NPO 団体の事例研究において、その団 体では年齢給、勤続給を基本にして作成された 賃金表をもつが、実際の賃金決定は財政難のた め賃金表通りに昇給せず据え置きになることが あると報告している。こうした状況がどの程度 の一般性をもって NPO 団体に当てはまるかをみ るために属性ごとにグルーピングし、新たにNPO 組織の財政規模変数を加えて賃金関数の推定を 試みた。推定結果(表 11)をみると、財政規模 変数はすべてのグループで有意であり NPO 有給 職員の賃金は財政規模によって規定されている ことが確認できる24。
20 その他、説明変数は表 10,11 を参照せよ。
21 職種ダミーに関して、Genda の推定結果は、これまでの日本における内部労働市場の特徴である職務横断的な賃金決定と整合的 でない結果である。この点の解釈に関しては本稿の目的を越えるため比較は行わない。
22 表 10、11 の推定の他に、勤続年数を賃金の決定要素にしていると答えた団体に属する個人を選んで推定したが勤続年数に関する 結果は変わらなかった。
23 この他の原因として、データの年齢と勤続年数に高い相関関係が存在することで、年齢と勤続年数の効果を識別できないという 可能性が考えられる。しかし、推定に利用したデータから年齢 - 勤続年数の相関係数は 0.29 とそれほど高くなく、この可能性は低 いと思われる。
24 表の推定とは別に、職員規模別に推定した結果では規模の大きなグループ(10 人以上)では財政規模の有意性は低く男女別の結 果では有意でなくなる。しかし、規模の小さなグループ(10 人未満)では依然有意であり NPO 団体の多くが属する小規模の賃金 は財政規模によって規定されている。また、小野(2000)で報告されている団体は有給職員 6 名であり、規模別推定において規 模の小さいグループに入る団体である。
表 10 賃金関数の推定結果1
表 11 賃金関数の推定結果2
男女賃金格差については、NPO 正規職員の賃 金プロフィールを男女別に見ると(表 11)、年齢 効果は男女で大きな格差があることが確認でき る。この年齢評価の差異に基づく男女賃金格差 のあり方は中田(1997)の営利セクターにおける発 見と一致する。また職種ダミーは男性の管理職 のみ有意に効いており、ここでも男女間に差が みられ男性の方が女性よりも賃金の処遇はよい との結果が表れている25。
では、就業形態別にみるとどのような差異が 見られるのだろう。まず男性ダミーは正規職員 で有意であるが、非正規職員では効いておらず NPO で働く非正規職員には男女賃金格差が見ら れない。職種ダミーについては正規・非正規職員 ともに管理職ダミーは有意に正で、高い給与が支 払われていることがわかる。しかし、他の職種に ついては正規と非正規では大きく様相が異なる。
非正規職員については管理職以外のホワイト専 門職、営業職についても係数が正で且つ統計的 にも有意である。このことは先に見た賃金の決 定要素において正規職員は個人属性が賃金決定 で重視されているのに対し、非正規職員は個人 属性の重要性が正規職員に比べて低く、その分 職務・職種の要素が高くなっているという事実 と整合的な結果といえる。
3.4 労働力補充と従業員の定着
以下では転職入職者比率、平均入職年齢、転職 希望者比率をみることで NPO 団体の労働力補充 と NPO 職員の定着について考察する。
転職入職者比率
内部労働市場における労働力補充に関して、
Williamson(1975)の取引コストによる議論では 組織のポストに欠員ができたとき、外部補充で は採用する個人に対する不確実性が大きく企業 特殊スキルの蓄積も低いため、その蓄積を促す ように訓練をしなければならない。逆に内部補 充であれば、その不確実性等は軽減され採用に
おける取引コストが内部労働市場という組織を 形成することで節約されると主張する。このよ うに、内部補充することで組織内のヒエラル キーが構成され、新規採用は新卒者が中心と なってくる。ここでは NPO 新卒採用者に関する データが無いので、個人調査のデータから NPO 転職入職者比率と入職年齢で検討する。
正 規 職 員 の 転 職 入 職 者 比 率 は 規 模 計 で NPO69.1%、営利セクター 64.4%と NPO の方が 5ポイント程高い(表12)。規模別で見ると、NPO は規模が大きくなるにつれて、その比率は高く なるという傾向があり営利セクターは 30 人以上 規模で比率が低下していく26。そのため、100 〜 299 人規模では約 30 ポイントも NPO の方が高く なっているが、5〜 29 人規模では営利セクター の方が若干高い数値を示している。また、営利セ クターの比較可能な統計は無いが、NPO を性別 で見ると、男女とも規模が大きくなるにつれて 転職入職者比率が高くなっている傾向は変わら ない。しかし、女性正規職員の転職入職者は 60
%であるのに対して、男性正規職員は 80%近い 数値となっており男性正規職員の新卒者採用は 非常に少ないことが示唆される。また、非正規職 員では NPO65.6%、営利セクター 48.6%と 15 ポ イント以上も NPO の転職者比率が高い。
ここで転職入職者が多いからといっても、若 い年齢での転職ならば新卒者と変わらない内部 キャリア形成が可能であり新卒入職者が少ない ことは内部化の未発達にただちに繋がらない。
この点を考慮するために、次に NPO 職員がどれ くらいの年齢で入職しているかを平均入職年齢 でみることにする。
平均入職年齢27
規模計で NPO 正規職員の平均入職年齢は 34.5 歳、営利セクターは 27.9 歳と NPO の方が高く、
NPO と営利セクターの差は規模が大きくなると 拡大する傾向にある(表 13)。性別で見ると、男 性では規模計、規模別で NPO の方がほぼ 10 歳以 上高いが、女性では 10 〜 99 人規模で NPO の方 が低く、規模計、100 人以上でもその差は1〜2
25 こうした結果は非正規職員を含む全職員の推定結果でも同様であった。
26 営利セクターとの比較においては以下の注意が必要である。NPO は現在、働いている人の中での転職入職者比率であるが、営利 セクターは平成 11 年度単年における入職者の中での転職者の比率である。
27 平均年齢から平均勤続年数を引いて算出。
年程度と NPO と営利セクターの差は明確ではな い。しかし、より詳しく学歴別に見ると、女性は NPO の入職年齢がほぼ全てのカテゴリーで営利 セクターを上回ることがわかる。
以上より、先にみた転職入職者比率と併せて 考慮すると、入職パターンが NPO と営利セク ターでは大きく異なり、NPO労働市場は新卒者に よる補充ではなく、転職を通した外部労働市場
に大きく依存することが確認できる。
転職希望者比率
内部化の進展している企業で働く労働者は企 業特殊的な技能を蓄積し、その技能の高低と勤 続年数が賃金水準等の処遇を高めることから従 業員の定着が促進されることになる。では、NPO 表 13 平均入職年齢:NPO vs 営利セクター
表 14 転職希望者比率
表 12 転職入職者比較
職員の定着はどうなっているのであろうか。ア ンケートでは定着に関する直接的な質問を行っ ていないので、転職希望者比率28を利用してこの 問に答える。
年齢階級計で転職希望者比率をみると NPO、
営利セクターそれぞれ、24.8%、13.1%と NPO の 方が約2倍になっている(表14)。また性別では、
NPO、営利セクターともに、男性より女性の方が 転職希望率が高い傾向にある。しかし、NPO で 働く男性の転職希望率は営利セクターより若干 高い程度であるが、女性は営利セクターの倍以 上の高さである。さらに、年齢階級別でみると、
営利セクターでは年齢が上昇するにつれて転職 希望は徐々に低下していくが、NPO で働く職員 は高い率が中高年まで維持されることが特徴と して挙げられる。しかし、その高い転職希望率も 男性は 45 〜 64 歳層で、女性は 55 〜 64 歳層で急 激に低下し、営利セクターよりも低い水準とな り世代間で大きく異なることが見て取れる。
NPO の転職希望の理由はなによりも男女とも 若い層で「やりたいことが見つかった」「視野を 広げるため」というキャリアアップ的な理由で 転職を希望する割合が高い。また、女性はこの他 に「給料に不満」「労働時間に不満」等の処遇に 対する不満も高く、男性はこうした不満をもっ ている人がほとんどいないことが男女差の大き な特徴となっている。
以上のように、入職・転職についての現状も NPO 労働市場の外部労働市場的な特徴の強さを 支持するものである。
4.NPO 労働市場の特徴
今回独自に収集した NPO 組織及びそこで働く 労働者についてのアンケート結果を分析するこ とで、今日まで断片的にしか知られていなかっ た NPO 労働市場の特徴を明らかにして来た。ア ンケート集計によって浮かびあがった日本の NPO 労働市場の実態は内部的な側面を示唆する 面も見られたが、職員に表れる現象は総じて内 部化された労働市場とはいえないものであった。
具体的には、職員に対する教育訓練制度が多く
の NPO 組織に存在し、その費用が組織によって 負担されているにもかかわらず、その内容は企 業(組織)特殊性が低く、むしろ一般的技能や知識 に関するものが大半であること。また、勤続給を 考慮する賃金制度があるにもかかわらず、実際 の賃金支払いには勤続年数がまったく反映され ていないことである。さらには NPO 組織で働く 職員の属性についても、非正規職員比率が高く、
正規職員についても中途入職者が多い点や転職 希望者比率が高い点も日本の営利セクターの労 働市場とは際立った差異を示す点である。総括 的に述べれば日本の NPO 労働市場は、内部労働 市場というより外部労働市場的性格を強く持っ ているといえる。
以上の発見から今後の研究について以下のよ うな示唆が得られる。先ず賃金制度と賃金実態 の乖離については、賃金制度が NPO においては 営利セクターと同じ様には機能していないため と考えられる。そうした機能の差は小野(2000)
でも報告されているように、財政難の状況にな ると必ずしも賃金が制度通りに昇給しないとい う財政状況が関与している可能性が高い。本稿 では財政規模が賃金決定において、どのような 影響を与えているかについての詳細な分析はし ていないが、財政難がもたらす影響については さらなる分析が必要であろう。
5.結びとして
ここまでの結果を踏まえ NPO 労働の人材確保 に関する示唆を述べておく。NPO においては職 員の勤続年数が短く、組織特殊スキルが評価さ れず、賃金も財政状況に規定され昇給がままな らないという現状は、社会貢献に重きを置く人 が NPO に集まるとはいえ、そこで働く個人に対 し経済的インセンティブが欠如していることを 意味する。このことは特に、家計の中心になる男 性労働者が NPO において核となる労働力として 参入することを難しくする。しかし、男性の中高 年層に関しては、NPO を支える労働力になる可 能性も存在する。一つには最初に述べたように、
彼ら中高年は社会貢献に対する関心が非常に高
28 転職希望者比率は直接、定着率を示すものではないが、転職希望者比率は定着率と逆相関があると考えることができることから 代理指標として有用であると考える。
いこと。二つめは、NPO においては、組織特殊 スキルが余り重要ではなく、中高年齢者の転入 職にペナルティーが課されないこと。そして三 つめには、入職後、こうした層の NPO における 労働に対する不満が非常に低いこと。さらに、こ の中高齢層については在職老齢年金や転職の際 に得た退職金等の存在が給与水準の低い NPO で も生計を維持することを可能とし、営利セク ター退職後の現実的な選択肢となり得ることで ある。女性に関しては新卒、もしくは若年層から すでに、NPO は働く場として営利セクターとほ ぼ同列の選択肢の一つとなっている。しかし、
NPO に対する彼女達の最大の不満は低い処遇で あり、今後技能取得と、その技能を評価する制度 を整備することは、有能な女性の定着をさらに 促すのみならず、有能な中高年男性にとっても NPO が現実的な選択肢となるための第 1 歩とな ろう。
最後に、本稿では NPO 労働市場の現状を示す ことが主要な目的であったため NPO 組織および 職員の行動の詳細を考察していない。これにつ いてはこの拙稿で深まった NPO 労働市場の現状 についての理解をもとに NPO 組織の機能モデル とその中で働く労働者の行動モデルについての 検討を進める必要がある。また、今回は NPO に おいて重要な役割を果たしている無給職員(い わゆるボランティア労働者)に関しては分析の 対象としなかったが、無給職員が NPO 労働市場 の特徴にどのように関係しているかは非常に興 味深く且つ重要な問題である。今後の検討が待 たれる。
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付表1 賃金プロフィール推定に利用した個人データの基本統計量