『太平記秘伝理尽鈔』における「謀」 : 「道」と の関わりから
著者 山本 晋平
雑誌名 文化學年報
号 63
ページ 218‑241
発行年 2014‑03‑15
権利 同志社大学文化学会
URL http://doi.org/10.14988/00027772
『太平記秘伝理尽鈔』における「謀」 : 「道」と の関わりから
著者 山本,晋平
雑誌名 文化學年報
号 63
ページ 218‑241
発行年 2014‑03‑15
権利 同志社大学文化学会
URL http://doi.org/10.14988/00027772
﹃ 太 平 記 秘 伝 理 尽 鈔 ﹄ に お け る
﹁ 謀
﹂
│
│
﹁ 道﹂ と の 関わ り か ら│
│
山 本 晋 平
は じ め に 慶長
︵一 五九 六〜 一六 一五
︶・ 元 和︵ 一六 一五
〜一 六二 四︶ 頃に 成立 した と考 えら れる
﹃太 平記 秘伝 理尽 鈔﹄
︵以 下
﹃理 尽鈔
﹄︶ は
︑南 北 朝時 代 の 歴史 を 描 い た﹃ 太平 記
﹄の 詞 章に
︑﹁ 評
﹂︵ 論 評︶ と﹁ 伝﹂
︵異 説
︶が 加 わる こ と で︑ 謀 略
・治 国・ 倫理 など 多様 な主 張が 説か れた 書で ある
︒こ の﹃ 理尽 鈔﹄ の思 想的 特質 につ いて
︑今 井正 之助 氏は 本書 が 武 威の 発動 を勧 める 一方 で︑ その 行使 を厳 しい 条件 で抑 制す る点 を挙 げ︑ 武威 と仁 徳と いう 相反 する 理念 の拮 抗と 葛 藤 を指 摘す る!
︒ この 問題 につ いて は筆 者も 以前
︑本 書の 理想 的存 在で ある 正 成 の 死に 対 す る批 判 に 着目 し て
︑こ の 拮 抗 を 謀略
︵﹁ 謀
﹂︶ と 倫理
︵﹁ 道
﹂︶ の 相剋 と 捉 え て論 じ た こと が あ る"
︒ そ の 際︑
﹁正 成 が﹃ 道﹄ を 優 先 し て 死 ん だ よ うに
︑﹃ 理 尽鈔
﹄に おけ る倫 理の 比重 につ いて は
︑今 後 も改 め て 考え る 必 要 があ る
﹂と し て︑ その 比 重 の問 題 を 検 討 する 必要 性を 提起 して 稿を 閉じ た︒ 内容 を踏 まえ れば 自明 では ある が︑ この 問題 に対 する 筆者 の分 析の 手法 は︑ 倫 理 的意 味と して の﹁ 道﹂ を取 り上 げ︑ それ と対 立す る意 味と して の﹁ 謀﹂ を対 置し て論 じる とい うも ので ある
︒に も
― 218 ―
か かわ らず
︑こ れま で﹁ 謀﹂ と﹁ 道﹂ に関 する 具体 的な 定義 づけ が不 足 で あ った よ う に思 わ れ る!
︒ 一見
︑両 者 の 意 味 はま さに 文字 通り で明 白で ある よう だが
︑文 献の 検討 であ る以 上︑ 用例 を踏 まえ たう えで
﹁謀
﹂お よび
﹁道
﹂の 意 味 を整 理し てお くこ とは 基礎 的な 作業 のは ずで ある
︒ この よう な反 省も 踏ま え︑ 本稿 では
﹁謀
﹂と
﹁道
﹂の 定義 を用 例か ら位 置づ け︑ 改め て﹁ 謀﹂ と﹁ 道﹂ の関 係を 追 究 する こと とし たい
︒な お︑ 旧稿 では
﹁倫 理の 比重
﹂の 検討 と記 した が︑ それ はい うま でも なく 倫理 を謀 略と の関 係 か ら 校 量す る こ とで あ る︒ ま た︑ 佐 伯真 一 氏 の﹁ 謀略 を す べて の 根 本 にお い た︑ 謀 略主 義 と でも い う べ き考 え 方
﹂"
と いう 言及 もあ る通 り︑
﹃ 理尽 鈔﹄ には 確か に謀 略の 書と い う イメ ー ジ が漂 う
︒で は 謀 略を 説 く 目的 と は 何で あ る の か
︒こ の疑 問に つい ても 明ら かに でき れば と考 える
︒表 題で 特に
﹁謀
﹂を 掲げ た理 由は その ため であ る︒ 一︑
﹁ 謀
﹂の 論 理 と志 向
﹃ 理尽 鈔﹄ にお いて
﹁謀
﹂と はい かな る位 相に ある の か︒ ま ず︑ 呉越 合 戦 記事 を め ぐ って 合 戦 の勝 負 に つい て 論 じ た
﹁評
﹂︵ 巻 第四
︶を 見る と︑ 次の よう にあ る︒
セ ウ ブ
軍 ノ勝 負ハ
︑第 一︑ 将ノ 智謀
・勇
・仁 ニヨ レリ
︒第 二ニ ハ勢 ノ多 少ニ ヨレ リ︒ 第三 ニハ 臣下 ノ善 悪ニ ヨレ リ︒ 第
シ ン ク ワ
シン
!"
イ
カタ チ
四 ニハ 諸人 ノ親 和︵ 親恐
│校
・異
︶ニ ヨ レリ
︒第 五 ニ ハ臣 々 威 ヲ争 ト 不レ
争ト ニ ヨ レリ
︒第 六 ニ ハ戦 場 ノ 形︵ 形
セ ウ ブ
荘
│校
・異
︶ニ ヨレ リ︒ 此ノ 六ツ ニ依 テ︑ 勝負 アリ
︒︵ 十 二表
︶ 合戦 の勝 敗を 左右 す るも の と して
﹁智 謀
﹂は
﹁仁
﹂と
﹁勇
﹂と 共 に第 一 の 要 素に 挙 げ られ て い る︒
﹁智
﹂に つ い て は 以前 に論 じた こと があ るが
#
︑﹁ 智 謀﹂ の用 語に 象徴 され るよ うに
︑﹁ 謀﹂ とは そ の 時 々に 相 応 した 行 動 を取 る う え
― 219 ― 『太平記秘伝理尽鈔』における「謀」
で 必要 な才 能で ある
﹁智
﹂を 用い て︑ 様々 な個 別具 体的 な状 況下 で敵 に勝 つた めに 講ず る最 適な 手段 であ り︑ また そ の ため の資 質を さす とい える
!
︒続 いて
﹁謀
﹂﹁ 勇
﹂﹁ 仁﹂ をめ ぐる 説明 を見 る︒
ハカ リ ゴ ト タ ウ ジ
サ イ カ ク
ナ キ ユ ウ ハ
キ タ ヽ カ フ ズ
ハ
キ
次 ニ 謀
︑当 時ノ 才 覚 ナリ
︒負 ケ
︵勇
│校
・異
︶ハ 将 タル 者
︑イ カ ニ 智謀 ア レ ドモ 無レ
勇者
︑可
レ
戦 ヲ 不レ
戦
︑可
レ セ ム
ル メ
チ
ジ ン
ン
ズ
ラ ル
責 ヲ不
レ
責ハ
︵責 めず
︒│ 校・ 異︶
︑此 故勝 ツ事 ナシ
︒将 ハ智
・仁 アレ ドモ
︑無
レ
勇バ 不レ
可レ
有
︒︵ 中略
︶次 ニ仁 ト
ア イ
ム ヨ ク
ヨ クフ カ
者
︑諸 人ヲ 愛シ テ無 欲ニ 事ヲ 行︵ ふを
│校
・異
・補
︶謂 ゾ︒ 将︑ 欲深 ケレ バ︑ 諸人 ニ賞 ヲ与 フル 事少 ナシ
︒少 ナ
ズ シ タシ マ
ケン ビ
セ イ ス ク
ナ クン
ケ レバ
︑諸 人不
レ
親︒ 此故 ニ将 ノ智 謀 ト仁 ト 勇 ト兼 備 シ タ ラン ハ
︑勢 少 ナケ レ ド モ勝 チ
︑無
二
智・ 仁・ 勇一
バ 多 勢 ナ レド モ負 クベ キ也
︒︵ 十 三表
︶
﹁ 智謀
﹂に 優れ ても それ を実 践す る﹁ 勇﹂ がな け れ ば戦 に は 勝て ず
︑無 欲 に 賞を 与 え て親 し む﹁ 仁﹂ が なけ れ ば 諸 人 は従 わな い︒ 逆に これ らを 兼備 すれ ば勢 の多 少を 覆し て勝 つこ とも 可能 であ る点 から も︑ 六つ の要 件で も将 の﹁ 智 謀
﹂﹁ 仁
﹂﹁ 勇﹂ は合 戦に おい てと りわ け重 視さ れる
︒ とこ ろで
︑こ こで
﹁謀
﹂と は﹁ 当時 ノ 才覚
﹂︑ つ ま り﹃ 理尽 鈔
﹄の 直 面す る 現 今 の時 代
=
当 代 に必 要 な 資質 で あ る と 述べ られ てい る︒ それ はい かな る理 由に よる のか︒次 に示 すの は︑ 北条 高時 に討 手を 向け られ た新 田義 貞の 挙兵 の 評 議に おい て︑ 守勢 論を 退け て積 極 的な 鎌 倉 攻撃 を 提 案し た 弟
・脇 屋 義助 に 関 する
﹁評
﹂︵ 巻 第 十︶ であ る
︒こ こ で は 脇屋 義助 の意 見の 是非 が複 数の 評者 によ り議 論さ れて いる が︑ その うち の二 人目 の﹁ 傍ヘ ノ人
﹂の 意見 を見 る"
︒
イ
ト ウ
カ
昔 ト今 ノ世 ト︑ 人ノ 意大 ニ異 セリ
︒古 ヘ︑ 頼朝 ニハ 東八 箇国 ノ諸 侍等
︑彼 ノ先 祖代 々ノ 恩ヲ 受ケ シ事 ヲ︑ 海ヨ リ
タ ウ ジ
フ カク 山ヨ リタ カク
︵海 に山 に高 く深 く│ 校・ 異︶ 思ヒ テ有 シ︒ ソレ サヘ 当時 ノ少 恩ニ
︑昔 ノ大 恩ヲ ワス レ︑ 又
ケ ツ ヂ ヤウ
ハ 勝負 ノ決
定 ヲ量 リカ ネテ
︑頼 朝ニ 弓ヲ 引シ 者多 カリ シト ニヤ
︒今 ノ世 ノ 人ハ 不レ
然︒ 我ガ 所 徳 アレ バ
︑子 ハ 親
シ ウ
シ シン シ ノ
ニ 敵シ
︑臣 ハ主 ニア タス
︒又
︑昨 日マ デ父 祖代 々ノ 敵ト 思シ モ︑ 少シ ノ徳 アレ バ如
二
親子
一
︒ 親シ キモ 終親 シキ ニ
『太平記秘伝理尽鈔』における「謀」 ― 220 ―
ク
ウゴ
ゴ ト
テ ダ テ
ア ラズ
︒敵 モ終 敵ニ アラ ズ︒ 如レ
是 ノ世 ニハ 兵ヲ 動カ スニ 大ニ 謀多 ク侍 ルモ ノニ ヤ︒
︵中 略︶ 義助 ノ方 便︑
︵ 中略
︶
モツ ト ヨ
ヨ
今 ノ世
︑其 時ノ 戦ニ 相応 シタ リ︒ 最モ 善シ
︒又
︑余 ノ評 儀ハ 上代 ノ謀 ヲ以 テ︑ 末代 ニ当 テタ リ︒ 万ニ 一ツ モ勝 ツ 事 不レ
可レ
有
︒︵ 十 六表
〜裏
︶ 議 論は こ の 意見 で 締 めく く ら れ︑ こ れが
﹃理 尽 鈔﹄ の 結論 と い え る
︒こ こ で 守 勢 論 は﹁ 上 代 ノ 謀﹂ の た め﹁ 今 ノ 世
﹂の
﹁末 代﹂ には
﹁相 応﹂ しな いと 批判 され
︑義 助の 攻勢 論は
﹁最 モ善 シ﹂ と評 価さ れる
︒そ の理 由と して 評者 は
﹁昔 ト今 ノ世
﹂の
﹁人 ノ意
﹂の 相異 を挙 げる
︒源 頼朝 の挙 兵 し た古 い 時 代は 敵 対 者 も少 な く なか っ た が︑ 武士 は 概 ね 先 祖 以 来の 恩 を 深 く 思 っ て 頼 朝 に 味 方 し た
︒し か し
︑今 は わ ず か な 得 で 子 は 親 に︑ 臣 は 主 に 敵 対 す る 一 方
︑﹁ 父 祖 代 々ノ 敵﹂ も容 易に 味方 にな る世 であ ると いう
︒こ のよ うに 当代 は人 々の 欲心 にま みれ
︑敵 味方 も容 易に 入れ 替わ る よ う な 時 代 と 捉 え ら れ て お り︑ そ れ ゆ え に
﹁謀
﹂は 多 様 に 考 え ら れ る べ き も の と さ れ て い る︒
﹃ 理 尽 鈔﹄ に お い て
﹁謀
﹂が 当代 に必 要と 意識 され るの は︑ この よう な﹁ 末代
﹂認 識に 裏打 ちさ れた もの とい える
︒ では
︑個 別具 体的 な場 面に
﹁相 応﹂ する
﹁謀
﹂を 見出 すに は︑ どう すれ ば良 いの か︒
ザ ウ ミ ン
ツカ サ ド
ガ ウ
ク ハ ン
ニ ン ト
ヤ ク
ク ハ ウ ケ ウ
グ ン
凡 ソ 異 朝ニ 雑 民 百ヲ 司 レ バ︑ 号 シテ 曰二
宦︵ 官│ 校・ 釈︶ 人一
︒去 レ バ 官人 タ ル 者 ノ役 ハ
︑一 天 下 ノ 広 狭︑ 国 郡
ソ ン リ
ミ ン シ ツ
ド ミ ン
ハ ウ フ ウ ゾ ク フ ルマ ヒ ケ ン グ
シ ンク ハ
ヅ
・ 村里 ノ民 室︑ 土民 ノ数 ヲ知 リ︑ 又ハ 其ノ 村里 ノ法
︑風 俗・ 行跡
・賢 愚・ 親和 等ノ 事ヲ 知ル
︒又 其ノ 村里 ノ図 ヲ
ヂ ヤウ ヲ モム
知 ル︒ 其ノ 故ハ
︑︵ 中 略︶ 戦場 ニ趣 ク時
︑軍 勢ノ 多少 ヲ知 ンガ 為也
︒︵ 中略
︶良 将ハ 是ヲ 知ル 則ハ
︑敵 国ヲ 亡ス 者 也
︒︵ 六
・十 六裏
〜十 七表
・﹁ 評﹂!
︶ 敵に 勝つ ため には 様々 な知 識や 情勢 を把 握す る必 要が ある
︒先 に見 た﹁ 智謀
﹂に 関す る説 明は
﹁将
﹂を 対象 とし て い た が
︑こ こ で は 人 を 統 べ る﹁ 官 人
﹂︵ 為 政 者︶ の 責 務 と し て
︑天 下 の 地 理 や 家 屋
・人 民 の 数
︑村 里 の 法 や 風 俗
︑ 人 々の 振る 舞い
・賢 愚・ 親和 の把 握が 挙げ られ てい る︒ それ は﹁ 戦場 ニ趣 ク時
﹂の ため であ り︑ 他に も﹁ 凡ソ 百人 ノ
― 221 ― 『太平記秘伝理尽鈔』における「謀」
ツ カ サ
キ タ シナ ム
司 アラ ン者 ハ︑ イカ ニモ シテ 将ノ 謀才 ヲ可
レ
嗜事 ニヤ
﹂︵ 十・ 五十 七表
・﹁ 評
﹂︶ と見 える 点か ら︑ 為政 者は
﹁将
﹂と し て の役 割を も要 請さ れて いる とい える
︒ま た右 のう ちの
﹁行 跡﹂ の把 握に つい て見 ると
︑次 のよ うに ある
︒
タ イ
カ ゲ
行 跡ヲ 謂バ
︑主 ハ体
︑臣 ハ影 也︒ 民ノ 行 跡ヲ 見 テ︑ 君 ノ行 ヲ 知 ル︒ 如レ
是 ノ 事 々ヲ 分 別 シテ
︑我 ガ 国 ト相 対 シ テ
ジ
セ
ヨ
自 ノ 弱 ヲ捨 テ
︑自 ノ 強キ 所 ヲ 以 テ攻 メ ヨ ト也
︒自 ノ 弱 ヲ捨 ヨ ト ハ︑ 敵 国ノ 善 カ ラン 行 跡 ヲ バ︑ 先 是 ヲ 取 テ 行 ヒ
シ カ フ
ヨ
シ カ
ウ
テ
︑而 シテ 後ニ
︑其 ノ行 ヨリ 善カ ラン 有ラ バ︑ 是ヲ ナセ ト也
︒智 謀皆 然也
︒如
レ
是敵 ヲ討 タン ガ為 也︒
︵六
・十 七 裏
︶ 君 と 臣 は 形 影 の 如 く 密 接 し て 影 響 し 合 う た め!
︑﹁ 民
﹂や
﹁臣
﹂の 行 動 か ら﹁ 君 ノ 行
﹂を 知 っ て
︑自 国 と 敵 国 を
﹁相 対
﹂し
﹁分 別
﹂す る"
︒そ し て
︑自 国 の
﹁弱
﹂を 捨 て
﹁強
﹂で 敵 を 攻 め る こ と︑ 具 体 的 に は 敵 国 の 良 い﹁ 行 跡
﹂ を 絶え ず摂 取し て実 践し 続け るこ と が﹁ 智謀
﹂で あ る とい う
︒こ の 点か ら
︑﹁ 敵 ヲ 討タ ン ガ 為﹂ に必 要 で 最適 な 戦 略
・ 戦術 を模 索す るた めに は︑ 常時 継続 的な 敵情 察知 と戦 闘指 揮者 自ら の工 夫や 練磨 が不 可欠 であ るこ とが わか る︒ ま た
︑弱 を捨 てて 強を 用い る︑ とい う志 向に は別 の視 点か らも 注意 を払 う 必 要が あ る︒ 巻 第二 で は 将の 勇#
の一 つ と し て
︑賞 を与 える 基準 とそ の﹁ 謀﹂ が述 べら れる
︒
シ ユ シ ヤ
リ ヒ
ズ
ラ
ル
シユ シ ヤ
シ ナ
取 捨 ハ 理非 ニ 不レ
可レ
依︒ 一 ヲ捨 テ テ 十 ヲ取 レ
︒十 ヲ 捨テ テ 百 ヲ 取レ
︒強 キ ヲ 取リ テ 弱 キ ヲ 捨 ヨ︒ 取 捨 ニ 品 ヲ 云
ハカ リ ゴ ト
ヤ ク
イ
イ クサ
チ バウ
イ
シ ナ
イ
ヘ
︒是 レ 謀 也︒ 世治 マリ テ後
︑コ ノ約 ヲ 異 セヨ
︒是 軍 ノ 智謀 也
︒異 ス ル ニ品 ア リ︒ 大 忠ア ラ バ︑ 異 スル 事 ナ カ
ヤク
キ
ブ ン"
!
レ
︒忠 ニ ヨ リ︑ 約ニ ヨ リ︑ 其 ノ器 ニ 依 テ︑ 分 々︵ 分々 当 々│ 校・ 異︶ ニ 賞ヲ 与 ヘ︵ 与 へよ
│校
・異
︶︑ 而 シ テ 恨
ヂ ウ ク ハ
タチ マ
ヤ
ミ ヲ訴 ヘバ
︑品 ニ依 テ重 科︵ 禍│ 校・ 異︶ ニ行 ヘ︒ 訴ヘ 忽チ ニ止 マン
︒︵ 二 表・
﹁評
﹂︶ 戦乱 の中 で﹁ 強﹂ を取 る際 には
︑﹁ 理 非﹂ に依 ら ず 多様 な 文 言で 納 得 さ せる こ と が﹁ 謀﹂ であ り
︑し か も世 が 治 ま っ た際 には その
﹁約
﹂を も破 るこ とが
﹁軍 ノ智 謀﹂ であ ると いう
︒こ のこ とは 次に 示す よう に︑ 降参 人の 処遇 の問 題
『太平記秘伝理尽鈔』における「謀」 ― 222 ―
と 深く 関連 する
︒
ド
ア ク ジ
ユ ル
シヨ ク
イ ツ ハ
ト ガ
良 将ハ 一度 ノ降 参ハ
︑以 前ニ 如何 ナル 悪事 在リ 共︑ 是ヲ 免セ
︒其 ノ降 人又 敵ニ 属セ バ偽 リシ ノ禍 在ル 故ニ
︑又 々
カ ウ
ホド コ
シ ヅ
ハ イ
ヲク
コ ヽ ロ ユル
味 方ニ 降セ バ謀 ナレ バ︑ 新恩 ヲモ 施セ
︒世 静マ ツテ 後︑ 是ヲ 敗セ ヨ︒
︵ 中略
︶又 降参 人ニ 奥ノ 意ヲ 免ス 事ナ カレ
︒
アラ ハ
ウ ハ ベ
ル シ ヅマ ラ
ハ イ
ヤ ク ヘ ン
タ イ
心 ヲヘ ダツ ルヲ 顕ス 事ナ カレ
︒上 部 ハ打 チ 解 ケヨ
︒世 ノ 不レ
静 以 前
︑敗 ス ル事 ナ カ レ︒ 約ヲ 変 ズ ル事 ナ カ レ︒ 泰
ヘ イ
コ ト
シ
平 ノ 時ニ 至 ツ テハ
︑又 大 ニ 異也
︒此 ヲ 謀 ト 云ト 也
︒可
二
心得
一
︒︵ 二 十二
・六 裏
〜七 表・
﹁ 評﹂
︒二 十 一
・一 表〜 三 表
・﹁ 評
﹂に も同 種の 内容 があ る︒
︶ 初度 の降 参は 過去 の﹁ 悪事
﹂を 問わ ずに 赦免 する が︑ 度重 なる 降参 は﹁ 偽リ
﹂の
﹁禍
﹂で あり
︑ま た敵 の﹁ 謀﹂ の お それ があ る︒ よっ て︑ 戦乱 の間 は厚 遇し て奥 意を 見せ ずに 親 し み︑ 戦 後に 排 除 する の が﹁ 謀﹂ で ある と い う!
︒ こ
テ ヲ
ガツ テ イ
イ
う し た 志向 は 賞 罰に 限 ら ず︑ よ り大 局 的 な争 い に おい て も
︑﹁ 以レ
謀 先 ヅ 合体 シ 世 シヅ マ リ テ︑ 我 ガ 威 モ 強 ク ナ リ テ
ソ レ
カ テ
後
︑是 ヲ罰 スル 事ア リ︒ 夫ハ 敵能 キ城 ニ籠 リ︑ 主ト 死ヲ 共ニ セン ト思 フ勇 士多 ク︑ 糧一 年三
︵二
│校
・異
︶年 ニハ ツ
テ チ バ ウ ヲ ガ ツ テ イ
キ ザ ル 事ア リ
︒如
レ
是ナ ル ニ ハ︑ 以二
智 謀一
合 体ス ル
﹂︵ 四・ 二 十 二表
〜裏
・﹁ 評
﹂︶ と︑ 和 睦し て 敵 の 脅 威 を 除 い た 後 に 討つ
﹁謀
﹂な どに も見 られ る︒ 以 上︑ 敵味 方 が 入り 乱 れ ると い う 当 代認 識 を 背景 に 垣 間 見つ つ も︑ 一 より も 十
︑十 よ り も 百 と い う﹁ 強﹂ を 優 先 し
︑時 には
﹁理 非﹂ をも 無視 して 違約 する と いう 武 断 的な 発 想 など に
﹁謀
﹂の 本 質 を見 る こ とが で き る︒ そ こに は
︑ 合 戦で いか に味 方の 損害 を少 なく して 敵に 勝 つか と い う志 向 も 存在 す る わ けで あ る が︑
﹁毎 事 謀 略︒ 此内
︑外 略 ハ 敵
タ バ カ
ハ カ リゴ ト
レン
カ
ヲ 方便 ル事 ニヤ
︒内 略ハ
謀 シ テ郎 従並 ビニ 諸国 ノ 兵ニ 親 シ フ被
レ
思 コト ゾ
︒︵ 中 略︶ 毎 事ニ 謀 略 ナケ レ バ 軍ニ ハ 勝 タ レ ヌ モ ノニ ヤ
︒﹂
︵ 三十 三
・二 十 四表
・﹁ 評
﹂"
︶ と あ るよ う に︑
﹁ 謀﹂ は基 本 的 には 効 率 的・ 機 能的 に 勝 つ た め の 方 法 や 智恵 であ ると いえ る︒ 後述 する よう に︑ この
﹁謀
﹂の 志向 を純 粋に 突き 詰め れば
︑そ の合 理性 によ って 敵味 方の 区
― 223 ― 『太平記秘伝理尽鈔』における「謀」
別 を超 越し
︑規 範的 な側 面を 疎外 した 主張 にた どり 着く こと にな る︒ 二︑
規 範
・倫 理 と して の
﹁ 道﹂ 一方
で︑
﹃ 理尽 鈔﹄ には 規範 や倫 理の 重要 性 を主 張 す ると い う 大 きな 側 面 があ る
︒﹃ 理 尽鈔
﹄巻 第 一 に は﹃ 太平 記
﹄ の
﹁序
﹂に 対 す る 解 釈 と し て︑
﹁ 邪 正﹂ を 弁 え な い
﹁此 比
﹂の 特 に
﹁国 ヲ 領 ス ル ノ 人﹂ に﹁ 三 綱 五 常﹂ の﹁ 道﹂ や
﹁物 ノ意
﹂を 知ら せ︑
﹁無 道﹂ を止 め ると い う 目的 意 識 が見 ら れ る︵ 一・ 六 裏〜 七表
・な し
︶︒ 旧 稿で は こ うし た 叙 述 か ら﹁ 道﹂ を︑
﹁ 概ね 儒学 的な 教義 に基 づく 倫理 観念 およ び内 面的 規範 を 意 味す る 語﹂!
と 述 べた が
︑事 例 を十 分 に 挙 げ た検 討を 行い 得な かっ た︒
﹁ 謀﹂ との 関わ りを 明ら かに す る ため に も︑ 本 節で は 特 に 人の あ る べき あ り 方と し て の
﹁道
﹂や
﹁法
﹂と はい かな る内 容を 指す のか
︑い くつ かの 事例 を列 挙し て整 理し てお きた い︒ 具体 的に 用例 を見 ると
︑人 のあ り方 とし ての
﹁道
﹂は
﹁無 道﹂ に対 する 批判 とし て説 明さ れる こと が多 い︒ その 中
ゲン
ヤ ク
ザル ヘ ンゼ
で 端的 に説 明す る箇 所を 挙げ ると
︑﹁ 凡 ソ 人タ ル 者 ハ︑ 一言 ノ 約 ヲ 不レ
変 ヲ 以テ 道 ト ス︒
︵中 略
︶ソ ム キ難 キ ヲ
︑一 命
ウシ ナ
カ ウ
リ ン
ナ シ ヤ クヲ
ザ ル ヘ ン セ ジ ン リ ン
ヲ 失ハ ン悲 シサ ニヤ
︑敵 ニ降 ゼシ
︵中 略︶
︑ 人倫 ニ非 ズ﹂
︵六
・六 十表
〜裏
・﹁ 評
﹂︶
︑﹁ 一 タビ 成レ
約
︑不
レ
返 ハ人 倫ノ 法
チ ガ
ト キ
也
︒若 シ 其 道ヲ 違 フ 則ン バ 人 ニ ハ 非 ズ
﹂︵ 十 一・ 一 表・
﹁ 評﹂
︶と
︑約 束 を 違 え な い こ と が﹁ 道﹂ で あ り﹁ 人 倫 ノ 法
﹂ と され てい る︒ 一見
︑こ の平 凡な 内容 があ らた まっ て主 張さ れる のは
︑主 従の あり 方と 関係 があ る︒
シ ウ ジ ウ
コ ノカ タ
ツ カ
一 度主 従ノ 約束 ヲ成 シテ ヨリ 已来
︑主 ハ恩 ヲ 以シ
︑臣 ハ 忠 ヲ以 テ 事 フル コ ト
︑一 命 ヲ捨 ル ヲ 以テ 義 ト シ 礼ト ス
︒
セ ツ
カ ウ
是 ヲ忠 トス
︒事 ノ切 ナル ニ及 デ︑ 一命 ヲ生 キン ガ為 ニ生
︵主
│校
・異
︶ヲ 捨テ 敵ニ 降ス ルハ
︑人 タル 者ノ セザ ル
ゴ ク
ヂ ウ ヲ ン
カ ウ
シ ヨク
リ ン
所 也︒ 無道 至極 セリ
︒︵ 中 略︶ カヽ ル重 恩 ヲ忘 レ テ 降人 ニ 成 テ 敵ニ 属 ス ル事
︑人 倫 ト 可レ
云 ヤ︒
︵ 十四
・百 十 四 裏
『太平記秘伝理尽鈔』における「謀」 ― 224 ―
〜 百十 五表
・﹁ 評
﹂︶ 臣下 は主 君の 扶助 の﹁ 恩﹂ に﹁ 一命
﹂を 賭し て報 い る こと が
﹁義
﹂﹁ 礼﹂
﹁ 忠﹂ とさ れ て いる
︒!
そ れ ゆ えに 身 の 切 迫 時に 扶助 の恩 を忘 れ︑ 主君 を見 捨て て降 参す るの は﹁ 主従 ノ約 束﹂ を違 えた
﹁無 道至 極﹂ の行 為で
﹁人 倫﹂ に悖 る
シウ
ケ
フ チ
ナン ギ
シ
と 批判 され る︒ これ は︑
﹁ 主ノ 家人 ヲ扶 持ス ル事
︑皆 事ノ 難儀 ナル ニヨ ツテ 死ヲ 共ニ セヨ トナ リ﹂
︵八
・八 十一 裏・ な
ジ ク ン
ホ ウ コ ウ ミ チ
し
︶と
︑臣 の 責 務は 主 君 が臣 下 を 扶 助す る 目 的 と 一 致 す る︒ し た が っ て︑
﹁ 二 君 ニ 奉 公︑ 道 ニ 非 ズ
﹂︵ 五・ 二 表・ な
シ ウホ ロ
シユ ツ ケ
ア ラ
ブ タウ
し
︶︑
﹁ 主亡 ビン トス ルニ
︑死 ヲト モニ スル ハ上 也︒ 生テ 出 家ハ 中也
︒別 ノ 主ニ 仕 ル ハ忠 ニ 非 ズ︒ 無 道也
﹂︵ 二
・九 裏
〜 十表
・﹁ 評
﹂︶ と︑
﹃ 理尽 鈔﹄ にお いて 一 度 契っ た 主 従の 約 を 違 える こ と は﹁ 無道
﹂と 批 判 され
︑臣
︵特 に 武 士︶ は
ヲン
主 と死 を 共 に する こ と を要 求 さ れる
"
︒こ の 違 約 への 批 判 と関 連 し て︑
﹁恩 ヲ イ タ ヾヒ テ 恩 ヲ報 ズ ル︑ 是 人倫 ノ ナ ス 所 也﹂
︵ 六・ 十裏
・﹁ 評﹂
︶ と︑ 報恩 も人 とし ての 責務 とさ れる
︒
テ
ヲ
カ ル
また
︑﹁ 道
﹂の 内容 とし て
﹁公
﹂の
﹁私
﹂に 対 する 優 先 が挙 げ ら れ る︒
﹁以
レ
私 公儀 ヲ 軽 シム ル ハ︵ 遺 す るは
│校
・
ギ
イ コ ン モ ツパ
異
=
天 理本︶︑ 人 タル 者ノ セザ ル 所 也﹂
︵九
・四 表
・﹁ 評﹂
︶ や︑
﹁公 義 ノ 大事 ヲ 指 シ 置キ
︑私 ノ 意 恨ヲ 専 ラ トシ 給 フ コ
ズ ニ
ト 非レ
道
﹂︵ 十三
・三 十五 裏・
﹁ 評﹂
︶な どの 例が ある が︑ より 直接 的な 事例 とし て敵 中で 孤立 した 子・ 義治 を捜 索・ 救 出 すべ く二 度敵 に攻 め寄 せた 脇屋 義助 につ いて の﹁ 評﹂
︵ 巻第 十四
︶を 見る と︑ 次の よう にあ る︒
ウシ ナ
ナ ゲ
リ
ワウ
義 治 失 ヒシ カ バ︑ 義 助一 命 ヲ 捨 テ︑ 敵ノ 中 ヘ 懸入 シ 条︑ 歎 キニ 理 ヲ 忘 レタ ル モ 一往 コ ト ハ リ 也︒ 親 ノ 子 ヲ 思 フ
リ ンノ ミ
チ クル イ
シ カ
タ メ ノ
ノ
ナ ゲク
ベ キ ウ レ ウ
ル
事
︑人 倫耳 ニ非 ズ︑ 畜類 スラ 然也
︒去 共︑ 人倫 ノ法 ハ為
レ
国為
レ
君 ニ親 子ヲ 捨テ 可レ
歎 ヲ不
レ
歎
︑可
レ
患ヲ 不レ
患ヲ 以 テ 道ト ス︒
︵ 六十 九裏
〜七 十表
︶ 親の 子に 対す る愛 は﹁ 畜類
﹂で も抱 く程 の自 然な 感情 であ り︑ 子を 見失 った 義助 が﹁ 理﹂ を失 った のも 道理 とし て 認 めら れて いる
︒し かし こ こで は
︑﹁ 国﹂ や﹁ 君﹂ の ため に は﹁ 親 子﹂ を捨 て て も 歎き 憂 え ず振 る 舞 うの が
﹁人 倫 ノ
― 225 ― 『太平記秘伝理尽鈔』における「謀」
法
﹂で あり
﹁道
﹂で ある とい う︒ ここ から は﹁ 孝﹂ より も
﹁忠
﹂を 優 先 する 志 向 が読 み と れ!
︑ 一見 す れ ば﹁ 公﹂ に 対 する
﹁私
﹂の 一方 的な 没入 の要 請と 捉え られ るが
︑こ こで は先 に見 たよ うに
︑少 なく とも
﹁君
﹂に 対す る﹁ 私﹂ の 献 身 が 主 君 の 日 常 的 な 扶 助 に 対 す る 報 恩 の 責 務 と し て 説 明 さ れ て い る こ と に 注 意 す る に 留 め る"
︒ な お
︑﹁ 公﹂ の
カ ツ ニ
ツ
︵に
│ 校・ 異・ 補
︶ ズ ニ︵ にし も
│ 校・ 異︶
﹁私
﹂に 対す る優 先に 関連 して
︑﹁ 義︑ 勝レ
欲 ハ道 也︑ 欲︑ 勝レ
義
ハ非
レ
道
﹂︵ 十一
・一 裏・
﹁評
﹂︶ と
﹁義
﹂
シ ヨ ジウ
モン ゼ ン イ チ
の
﹁欲
﹂に 対す る優 先も 説か れる
︒こ れも
︑﹁ 凡 ソ身 ヲ立
︑家 ヲ富 シメ
︑ル イヤ ウ栄 ヘテ
︑所 従︑ 門前 ニ市 ヲナ ス事
︑
シ ユ ヲ ン
ヨク
タ ク
ズ ジン リ ン ニ
皆 主ノ 恩ニ 非ズ ヤ︒ 如レ
是 大恩 ヲ少 シキ 欲ニ 忘テ
︑無 道ヲ 巧ム ハ 非二
人 倫一
﹂︵ 三
・二 十 四裏
〜二 十 五 表・
﹁ 評﹂
︶な ど
︑
﹁欲
﹂が 主 の 扶 助 に よ る 立 身
・栄 達 の
﹁恩
﹂に 対 す る 忘 恩 の 契 機 と な る た め と 考 え ら れ る#
︒ ま た︑ こ う し た
﹁道
﹂ を 守る ため には
︑先 述の
﹁智 謀﹂ の如 く︑ それ を行 い得 る﹁ 勇﹂ が必 要と され る︒
ギ ラ
ム
レ サ
義 ト勇 トハ
︑武 家ニ 不レ
限
︑一 切ノ 人可
レ
嗜 所ナ リ︒
﹁ 無レ
勇︑ 五常 ノ道 モ行 イ難 シ﹂ ト︑ 古ノ 人々 被レ
申 シト ニヤ
︒
ソム
︵中 略︶ 万人 皆死 スレ バト テ︑ 道ニ 背キ タル 死タ ラバ
︑遁 ルベ キコ ソ道 ナレ
︒万 人北 レバ トテ
︑死 ノ節 ニ当 ラバ
︑
ム
何 ゾ死 セザ ラン ヤ︒ 喩ヘ バ
︑﹁ 人 モ無 道 ナ リ︒ 我モ 無 道 ニ セン
﹂ト 謂 シ ニ同 ジ
︒最 可レ
嗜 事 ニ ヤ︒
︵九
・七 十 二 裏
・﹁ 評﹂$
︶ 人と して の﹁ 道﹂ に適 うた めに は︑ たと え万 人が
﹁無 道﹂ を行 った とし ても
︑そ れに 流さ れな いた めの
﹁勇
﹂が な け れ ば な ら ず︑ そ れ は 武 士 に の み 要 求 さ れ る わ け で は な い と い う︒ ま た︑
﹁五 常
﹂の 語 が 見 え る よ う に︑ こ う し た
﹁道
﹂の 理論 的基 礎の 一つ とし て儒 学が 据え られ てい る点 は上 述の 通り であ る︒ 断片 的な 用例 の羅 列に して 不十 分な 点も ある が︑ 以上 を整 理す ると
︑違 約せ ず︑ 恩に 報い
︑私
・欲 より 公・ 義を 優 先 する
︒少 なく とも これ らが 人の ある べき あり 方を 示す
﹁道
﹂の 内容 の輪 郭と して 考え るこ とが でき るだ ろう
︒普 遍 的 な﹁ 人倫 ノ法
﹂や
﹁道
﹂は
︑﹁ 勇
﹂を 媒介 にす る点 で武 士 と して の あ り方 に も 連 関し て い るが
︑と り わ け主 君 と の
『太平記秘伝理尽鈔』における「謀」 ― 226 ―
﹁契 リ﹂ によ って 扶助 と報 恩の 関係 を持 つ臣 下と して の あ り方 を 強 く規 定 し て いる
︒一 見
︑簡 明 で平 易 な 主張 で は あ る が︑
﹁ 道﹂ を説 くと いう より も﹁ 無道
﹂を 批判 する 傾 向 が目 立 つ よう に
︑そ の 背 景に は
︑南 北 朝と い う 複雑 な 戦 乱 の 世を 描く
﹃太 平記
﹄を 論評 する
﹃理 尽鈔
﹄の 退廃 した 当代 認識
!
と︑ 主を 裏切 る 多 く の臣 の あ り方 に 対 する 批 判 的 な 視座 があ ると いえ る︒ 三︑
﹁ 謀
﹂と
﹁ 道
﹂の 相 剋
│謀 叛 を めぐ っ て
│ すで
に見 たよ うに
︑﹁ 理 非﹂ を超 越し て 違 約も 是 と する
﹁謀
﹂の 志 向 と︑ 人 のあ る べ きあ り 方 を説 く
﹁道
﹂の 主 張 と は明 らか に矛 盾す る︒ 概ね
﹁謀
﹂は
︑行 使さ れる 前提 とし て敵 対ま たは 排除 すべ き側 に向 けら れて いる が︑ 自ら の
サ カ
仕 える 主君 など の恩 義を 伴う 対象 に向 けら れ る場 合
︑当 然 それ は 謀 叛と な る
︒無 論 それ は
︑﹁ 主 ニ向 テ ホ コヲ 逆 シ マ
デ ウ
ブ
ヲン
ウ シ ナ
チ ク ルイ
リ ン
ニ スル 条︑ 無道 也︒
︵ 中略
︶大 恩ヲ 受ケ ナガ ラ︑ 少シ ノ恨 ニ大 恩ヲ 失ハ ル︒ 是畜 類ノ ナス 所︑ 人倫 ノセ ザル 所也
﹂︵ 十 四
・七 十三 表〜 裏・
﹁ 評﹂
︶︑
﹁ 謀叛 ハ重 科 ノ中 ノ 大 重罪 也
︒国 家 ヲ亡 ス 故 也︒
︵ 中略
︶謀 叛 人 ハ一 天 下 ノ大 ア タ 也︒ 一
カ ギ ラ
キ ダ ン ゼツ ス
代 ニ 不レ
限
︑子 々 孫 々ヲ 可二
断 絶一
﹂︵ 四
・五 裏
〜六 表・
﹁ 評﹂
︶と
︑厳 し く 批判 さ れ る︒ と ころ が そ の 一 方 で︑ あ く ま で 方法 論と して 天下 を得 るた めの 手段 が論 じら れる 側面 が存 在す る︒ これ は先 に見 た﹁ 謀﹂ の志 向が 突き 詰め られ た 主 張で ある とい え︑ 謀叛 を批 判す る﹁ 道﹂ の志 向 と真 っ 向 から 対 立 する
︒﹃ 理 尽 鈔﹄ に おい て 両 者は ど の よう な 論 理 に よっ て共 存す るの か︒ その 好例 とし て︑ 本節 では 謀叛 に関 して 対立 的な 論評 を併 記す る事 例を 検討 する
︒ 次に 示す のは 建武 の新 政の 動揺 に際 し︑ 天下 の 覇権 を 得 られ る 立 場に あ っ た 新田 と 足 利の 確 執 を めぐ る
﹁評
﹂︵ 巻 第 十四
︶で ある
︒
― 227 ― 『太平記秘伝理尽鈔』における「謀」
イク サ
レ ア ヲコ ナ ハ
ヱ ン ザ
ゴ ウ シ ケ ツ シヨ ト
!
朝 敵亡 テ闕 所 ノ地 ト シ テ︑ 軍 ニ忠 有 シ 兵ニ 被二充テ 行一
︑ 所 領 ハ朝 敵 并 ニ其 縁 坐 タル 者 ノ 領 ヲ号
二
闕 所一
充 テ 行 ハ
テ ウ カ
ヒ ギ
ワ タク シ イ コ ン
ス ル
ル ヽ所 也︒ 然ル ニ新 田ノ 一類
︑朝 家ニ 忠 ノミ 多 シ テ︑ 非義 ナ シ︒ 尊 氏私 ノ 遺 恨 ヲ公 義 ニ ヨセ テ
︑彼 ノ 所 領ヲ 号二 ト
キ イ ハ レ
闕 所一
事
︑無
二
所 謂一
︑︵ 後 略︶
︵ 五表
〜裏
︶
サ ハ
シ ゴク
"
又
︑尊 氏兄 弟天 下ヲ 奪ハ ント セン ニハ
︑新 田 兄弟 障 リ トハ ナ ル ベキ ナ レ バ︑ 是 ヲ亡 ン ト セシ ハ
︑道 理 至 極セ リ
︒
イ ヨ!
"
ト ヽ ノ
キ ス
イ ク ラ
然 ド モ 諸国 ノ 兵︵ 傍 書﹁ 私云
︑口 伝
︑此 道 理 ハ非 ノ 中 ノ是 也
︒﹂
︶ 弥 調フ テ 後︑ 義 貞ヲ バ 可レ
亡 謀 幾 等 モ 在 リ ナ
ク ゲ
ン 事ヲ ソコ ツニ 出 ス︒ 是大 事 ノ 前ノ 少 事 ヲ専 ラ ト ス ルニ 非 ズ ヤ︵ 之四 つ
│校
・異
・補
︶︒ 其 上︑ 今武 士
︑公 家 一
セ イ バ イ ニ ク
シ
テ ウ
統 ノ成 敗ヲ 悪ム
︒今 朝敵 ト成 ンニ 天下 ノ士 皆足 利ニ 属﹇ セ﹈ ンカ
︒然 バ新 田・ 楠︑ 朝ニ 在リ ト云 フ共
︑恐 ルル ニ
ル タラ
シラ
ル
ラ
不レ
足所 也︒
︵中 略︶ 此等 ノ事 ヲ︵ 傍書
﹁私 云︑ 口伝 アリ
︑後 ノ評 ニ見 ヘタ リ︒
﹂︶ 不レ
了ハ
︑尊 氏兄 弟ガ 智ノ 不レ
足
ル
ガ ウ
ト
テ ウ
ナガ ラ アリ
ル ト ラ ノ ミ
故 也︒ 智ノ 不レ
足 ヲ号 シテ 曰二
小人
一
︒今 ノ朝 ニ 恐レ テ
︑落 チ 懸カ リ タ ル 天下 ヲ 奪 ハン ト 思 フ志 ハ 乍レ
在︑ 不レ
取 耳
イ ト
カ シ
ナ ラズ
︑其 上ニ 覚乱 レガ ハシ キ振 ル舞 イ︑ 智ノ ホ ド顕 テ 後 代マ デ モ 最恥 ヅ 箇 敷 キ事 ゾ カ シ︒ 心在 ン 人 ノ 可レ
了 事 ニ ヤ︒
︵ 五裏
〜六 裏︶
イ
レ ウ バヽ
コヽ ロ ヨ カラ
ル ウ ラ ミ ノ ミ
#
又︑義 貞モ 天下 ヲ奪 ハン ト思 フ意 ハ無 リ シカ 共
︑諸 事 尊氏 ニ 威 ヲ被
レ
奪 不レ
快 思ヒ ケ レ バ︑ 朝家 ヲ 奉レ
恨 事 耳 多
ブ ン ヲ ン マツ リ ゴ ト
ツイ
レ
キ
ク シテ
︑﹁ 今 ノ分 ノ御
政 ナラ ンニ ハ︑ 我ハ 終ニ 朝敵 トナ ルベ シ﹂ ト被
レ
思 ケレ バ︑ 内々 ハ諸 国ノ 兵ノ 勇ノ 器ニ 当
チカ ヅ ケ
ブ ン
モ ノ
ワキ マ
ジ ンコ ウ
リ タル ヲバ 親シ ミ被
二
近付
一
ケ リ︒ 然ド モ彼 ハ文 ヲ意 ニカ ケテ
︑少 シ物 ノ意 ヲモ 弁ヘ タレ バ︑ 世ノ 人口 ヲ恥 ヂタ リ
ク タ ヾ ヨシ ノ
シ 故ニ
︑心 中ニ ハ思 フト 云ヘ ドモ
︑覚 如二
直 義一
謂 ハザ リシ トナ リ︒
︵中 略│ 義貞 が 挙兵 す れ ば大 勢 の 尊氏 に も 勝
ノ
ヅ
利 でき る︒
︶ 是ヲ 以テ 彼ヲ 思フ ニ︑ 義貞
︑如
二
尊 氏 兄弟
一
世 ヲモ カ ヘ リミ ズ ン バ︑ 此 図ヲ バ 見 ルベ ケ レ バ朝 敵 ト 成
ヲ ヽカ タ
シ タ ガ
コ ヽ ロ ワ キ マ
ナ ン︒ 然バ 諸国 ノ兵 大形 ハ皆 義貞 ニ随 ヒナ ン物 ヲト 覚ベ シ︒ 家ノ 為ニ ハ少 シ物 ノ意 ヲ弁 ヘタ ルガ アタ トヤ 成ケ ン
チ
ボ ダ イ サ ハ
ト 也︒ 去バ 小智 ハ菩 提ノ 障リ トハ 加様 ノ事 ナル カ︒
︵ 六裏
〜七 表︶
『太平記秘伝理尽鈔』における「謀」 ― 228 ―
ブ ン
セ イ
キ
ブ タ ウ チ ウ
ウ レ
ユ ヱ ン シ ウ ブ
シ
ノ
$
又︑義 貞文 ヲ深 ク知 テ聖 ノ器 在ラ バ︑ 不道 ヲ誅 シテ 諸人 ノ患 イヲ 助ケ ント 思ベ シ︒ 所以 ハ周 武ノ 如﹇ レ
﹈行
︒ 是何 ノ
ブ ン
ヨ
サト セ コヽ ロ ナ ヲ カ ラ
ノ
ノ ノ ミ
マ ボ
セ イ
キ
不 義 カ 在ン ヤ
︒文 ヲ 能ク 不レ
覚︑ 意 不レ
直
︑為
レ
家為
レ
身 耳思 ヒ テ︑ 天 下 ヲ 守 ラ ン ト 思 フ 仁 政 ナ シ
︒可
二
心 得一
事 ニ ヤ
︒︵ 七 表〜 裏︶ まず
!
で︑両 氏の 争い の発 端と して 足利 が非 義の ない 新田 の所 領を 横領 した のは
︑私 意を 公義 にか こつ けた 行為 と し て批 判さ れて いる
︒し かし 続く
"
で は︑ 足利 にと って 新田 は天 下を 取る ため の障 害と なる ので
︑こ れを 滅ぼ すの は
キ ス
﹁道 理﹂ で ある と し て﹁ 義貞 ヲ バ 可レ
亡 謀
﹂が 述 べら れ て いる
︒今 の 公 家 政治 に は 多く の 武 士が 不 満 を 持 っ て い る た め
︑尊 氏が
﹁朝 敵﹂ とな れば 多く の武 士が 味方 し︑ 容易 に天 下を 得ら れた にも かか わら ず︑ 不必 要に 朝廷 を恐 れて 粗 忽 な行 動に 終始 した
︒こ こで は尊 氏兄 弟が そう した 情勢 を踏 まえ た行 動を 取る
﹁智
﹂を 持た ず︑ すぐ さま 天下 を取 ら な かっ た点 に批 判が 向け られ てい る︒
!
で 足利 の私 意に よる 横領 を批 判す る意 見が ある もの の︑ ここ での 議論 の中 心 は 足利 およ び新 田が 天下 を奪 うた めの 方法 とし て﹁ 朝敵﹂に なる べき であ った とい う点 にあ る︒ もっ とも
︑
"
の論 評 が 始ま る部 分の 傍書 には
︑﹁ 私 云︑ 口伝
︑コ ノ道 理ハ 非 ノ 中ノ 是 也﹂ と︑ こ れら が 非 道 の論 理 で ある こ と が付 記 さ れ て はい る︒ しか し︑ ここ では そう した 謀叛 に対 す る批 判 的 言辞 が 付 され な が ら も︑
﹁朝 敵
﹂へ 転 ずる こ と が天 下 を 取 る ため の﹁ 謀﹂ とし て位 置づ けら れて 議論 が進 んで いる
%
︒こ れは 先 に 見 た︑ 規範 を 超 える
﹁謀
﹂の 志 向 に基 づ く 論 理 であ ると いえ る︒ また
︑情 勢を 踏ま えた 行動 を取 る﹁ 智﹂ に欠 け︑ 不必 要に 朝廷 を恐 れて 容易 に得 られ る天 下を 取ら なか った とい う 尊 氏兄 弟へ の論 評
"
に比 べて
︑義 貞に 対 する 論 評
#
は 直接 的 で ある︒義 貞 も 不 公正 な 朝 廷の 政 治 を 恨み
︑﹁ 朝 敵﹂ と な る考 えを 心中 に抱 いて い た︒ 義貞 が
﹁朝 敵﹂ と なれ ば 尊 氏の 場 合 と 同様 に 天 下を 得 ら れ たが
︑﹁ 小 智﹂ と﹁ 文﹂ に よ る
﹁物 ノ 意﹂ の分 別 が 支障 と な っ たと 述 べ られ て い る︒ ここ で の
﹁物 ノ 意﹂ とは
︑後 醍 醐 天 皇 と い う 主 君 に 対 し
― 229 ― 『太平記秘伝理尽鈔』における「謀」
て
︑臣 下が 敵対 する とい う不 忠や 不義 を躊 躇さ せる 倫理 的な 思慮 と考 えら れ︑ 先述 の﹁ 道﹂ の志 向に 通底 する
︒し か し
︑天 下を 奪う ため の謀 計に とっ て︑ こう し た要 素 は むし ろ 障 害で あ る と さえ い う ので あ る︒ ま た︑
﹁物 ノ 意
﹂を 弁 え るが ゆえ に︑ 義貞 には さら なる 論評
#
が 加え られ る︒ もし 義 貞 が 学問 を 深 く知 り︑﹁ 周 武﹂$
の よう な
﹁聖 ノ 器﹂ の 持 ち主 であ れば
︑後 醍醐 天皇 の﹁ 不道
﹂を 誅す るこ とは むし ろ全 く﹁ 不義
﹂で はな いと 述べ る︒ 我が 身と 家の みを 思 う 義貞 にそ の資 格は 付与 され てい ない が︑ 天下 の諸 人を 救う ため の﹁ 仁政
﹂の 意志 と資 質が あれ ば︑ 謀叛 とい う﹁ 朝 敵
﹂転 化の
﹁謀
﹂は 放伐 とし て正 当化 され る可 能性 を持 つ︒ この 義貞 の資 質に つい て︑ 続け て﹁ 朝敵
﹂を めぐ る対 立的 な論 評併 記を 見る
︒箱 根・ 竹下 で足 利軍 に敗 れて 西走 す る 義 貞 は︑ 仕方 な く 足利 方 に 随 って い た 新田 一 族 の下 山
・加 々 美 らか ら 挙 兵し て
﹁朝 敵﹂ と なる よ う に 勧 め ら れ る が
︑朝 廷を 恨む 心は なく 義に 反す ると して 拒否 する
︒そ こで 下山
・加 々美 は挙 兵の 折に は足 利方 の二 十八 人の 将が 呼 応 する 確約 を取 り付 け︑ 再度 要請 する が義 貞は あく まで 峻拒 し︑ つい に両 人は 諦め た︵ 十四
・八 十二 表〜 八十 六表
・
﹁伝
﹂︶
︒ 以下 はこ うし た義 貞に 関す る論 評で ある
︒
ア タ ラ
セ ツ タ シ ヤ ウ
イ ン タ ウ シ ウ ブ
!
○ 評云
︑新 田ノ 申様
︑忠 在リ
︑勇 在リ
︑義 ニ不
レ
当︒ 一殺 多 生 ヲ 助ク ル ノ 道有 リ
︒殷 湯・ 周 武ノ 道 也
︒義 貞︑ 若
クラ イ
リ
キ
ブ ン モ ツパ
マ ツリ ゴ ト
シ 尊氏 ヲ亡 ボシ ナバ
︑御 位ヲ アラ タメ テ︑ 天下 ヲ利 セン ニ何 事カ 可レ
有
︒其 ノ後
︑文 ヲ専 ラト シテ
︑天 下ノ
政 ヲ
タ ヾ
ヨ
タ メ
タ イ ヘ イ
正 シ︑ 世ノ 為家 ノ為
︑朝 家ノ 御為 ニ太 平ヲ 致サ ンカ ト也
%
︒︵ 八 十六 表〜 裏︶
シ ウ ブ
キ
カ ク
ス ヘ
ヨ ク
"
又 評云
︑義 貞︑ 周武 ノ君 ニタ クラ ブベ キ器 ニ非 ズ︒ 此ニ 背ヒ テ角 ハセ ザラ ン︒ 又︑ 末ノ 世ニ 至テ
︑人 ノ心 欲深 ク
ラ
ア ナ ガ
ヘ ツラ ヒ曲 ガツ テ︑ 文ノ 名ヲ モ不
レ
知︒ 此レ 等ニ 法ヲ 立テ
︑道 ヲ知 ラセ ン事
︑タ ヤス カラ ズ︒ 強チ ニ知 ント セバ
︑
カ ヘ
ラ ン
シ
ヲサ
却 ツテ アタ ト成 テ︑ 天下 ノ乱 近ニ 可レ
在
︒︵ 中 略︶ 新田 ト テ モソ レ ホ ドノ 才 智 ナ ケレ バ
︑ナ ド 天下 ヲ 能 ク 治メ ン
︒
キ
マ ツ リ ゴト ナ ヲ
公 家ノ 二ノ 前ナ ルベ シ︒ 又︑ 有レ
智 テモ 心 ミジ カ ク 気ツ カ レ ナ バ︑ 難レ
治 世 ゾカ シ
︒又
︑新 田 ヒト リ 政 ヲ 直 ク セ
『太平記秘伝理尽鈔』における「謀」 ― 230 ―
ホ ツ
ヨ コ シマ
ワ キ マ
カ ク
ン ト欲 スト 云共
︑一 類・ 郎従 道ヲ 不﹇ レ
﹈了
︑ 邪ニ ゾ有 ナン
︒義 貞モ 名将 ナレ バ︑ 加様 ノ所 ヲ弁 ヘテ ゾ︑ 角ハ 云フ ラ ン ト也
︒︵ 八 十六 裏〜 八十 七裏
︶
コ ウ
レ ン イ ハ
イ ト ム ネ ン
#
又 評云︑義 貞左 マデ ノ深 キ思 慮有 ベカ ラズ
︒但
︑後 代ニ
﹁無
レ
謂朝 敵ト ナラ ンズ ル﹂ ト被
レ
謂 事︑ 最無 念也 ト思 フ
リ
ウシ ナ
ク チ ヲ
ヱ イ リ ヨ カ タジ ケ ナ
ト
︑一 戦ニ 利ヲ 失ツ テ口 惜シ ト思 フト
︑又 ハ 心ヨ ハ キ 男ナ レ バ︑ 今 度ノ 叡 慮 ノ 忝 キ ト︑ 公 家ノ 人 々 ニ堅 ク 親 シ
ワ
シ
タ メ
ク セシ ヲ︑ 引別 カレ ン事 ヲ恥 ヅカ 布ク 思フ トニ 在リ
︒是 レ皆 世ノ 為︑ 家ノ 為ヲ 思フ ニ非 ズ︒ 只︑ 一身 ヲ重 クス ル
グ
イ ハ レ
ホ ド
マ レ
所 ニ在 リ︒ 愚将 ノ所 謂也
︒去 リナ ガラ
︑今 ノ代 ニハ 新田 程ニ 物ノ 心ヲ 弁タ ル将 ハ又 稀ナ ラン カト 也︒
︵ 八十 七裏
︶
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で は︑ 足利 との 確執 の論 評よ りも 率直 に義 貞が﹁朝 敵﹂ とし て挙 兵し なか った こと が批 判さ れ︑ 義貞 は﹁ 殷湯
・ 周 武 ノ 道﹂$
に 習っ て 尊 氏を 滅 ぼ し︑ 別 の天 皇 を 即位 さ せ て﹁ 太平
﹂を 実 現 す べき だ っ たと 述 べ られ て い る︒ し か し
"
では やは り義 貞の 資質 が問 題視 され
︑な おか つ心 のね じ曲 がっ た﹁ 末ノ 世﹂ の人 々に
﹁法
﹂を 立て て﹁ 道﹂ を教 え 治 める のは 至難 であ ると して
︑
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で述 べる 主 張を 退 け る︒ そし て︑﹁ 名 将﹂ の義 貞 は 自 らの 資 質 では 天 下 を治 め ら れ な いこ とを 自覚 した ため に﹁ 朝敵
﹂と して の挙 兵を 拒ん だ︑ とい うの が
"
の結 論で ある
︒し かし
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は この 主張 に異 を 唱 える︒義 貞が
﹁朝 敵﹂ とな らな かっ たの は﹁ 世ノ 為﹂ や﹁ 家ノ 為﹂ でも なく
︑敗 戦の 無念 や朝 廷の 人々 の信 任を 裏 切 る不 名誉 を案 じる 心情 から で︑ ただ
﹁一 身﹂ を重 んじ たに 過ぎ ない とい う︒ ここ では そう した 義貞 を﹁ 愚将
﹂と 評 し なが らも 当代 に稀 な将 と擁 護し てい る︒ 先の 議論 の義 貞へ の論 評と 同様 に︑ ここ では
﹁朝 敵﹂ 転化 の﹁ 謀﹂ とし ての 謀叛 と﹁ 殷湯
・周 武ノ 道﹂ であ る放 伐 は
︑行 為と して は同 一線 上 に位 置 し てい る こ とが わ か る︒ こ れを
﹁謀
﹂と
﹁道
﹂の 関 わ りか ら い え ば︑
﹁朝 敵
﹂転 化 の
﹁謀
﹂は 放伐 とし て認 めら れる こと で 論理 的 に 正当 化 さ れ︑
﹁道
﹂と の 矛 盾 は解 消 さ れて い る︒ た だ︑ そこ で 問 題 と なる のは 行使 する 側の 倫理 的資 質で ある
︒そ れぞ れの 結論 で義 貞は 資質 に欠 ける とさ れる が︑ 少な くと も後 者
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の― 231 ― 『太平記秘伝理尽鈔』における「謀」