Ⅳ 飛鳥・ 藤 原地 域 にお け る地 区設定基準 の改定
飛 鳥 藤原 宮 跡 発掘 調 査 部 で は、1993年
8月
か ら1994年 3月 ま で の約8ケ
月 間 にわ た って、従来発掘調 査 時 に運 用 して きた地 区設定基準 の見 なお し と改定 案 の作成 。検討 を継続 的 に行 って きた。以下 に従来 の方式 と、その問題 点 を述べ、最 終 的 に合 意 した改定 の基 本 方 針 を記 す。 な お新地 区設 定 基 準 は、 す で に1994 年 4月 1日 か ら実施 して い る。
1
従来 の地 区割 の方式従 来 の地 区設 定 は、概 ね条 里 制 の遺存 畦 畔 を基 準 と しつ つ、 部 分 的 に は寺 院 や宮 殿 な どの遺跡 の種別 を も考慮 した もの とな っていた。 まず、地 図 上 で明瞭 に判読可能 な約125m四方 の条 里 畦 畔 の区画
(1坪
)を 基本単位 と し、南北3坪、 東 西6坪か らな る計18坪分(南北 約375m、 東 西約630m)を
1大地 区 と す る。 大 地 区 は大 き く4つ
の大地 区群 を構成 し、藤原 宮域 を包括 す る南北6大
地 区、東 西3大
地 区、計18大地 区 を6A」
地 区、その外周 を帯状 に取 り囲 む1大地 区分 (計 22大地 区)を6AW地
区 と し、6AW地
区 の東 西距離 に合 わ せ て南 方 に そ れ ぞ れ 25大地 区か らな る6AM地
区 お よ び6AK地
区 を設定 す る。 そ して主 要 寺 院 等 に該 当す る地域 に は、上記 の大地 区 とは関係 な く寺 院固有 の名称 を持 つ大地 区 を独 自に設定 す るとい うもので あ った (Fig。56の ス ミア ミ部分、Fig。57上 図)。中地 区 は条 里 の遺存 畦 畔 に基 きつ つ、 大 地 区 の中 を東 西 方 向 に
3分
割 、 南 北 方 向 に6〜 8分割 し、 東 北 か ら順 に アル フ ァベ ッ トを付 して設 定 し、 中地 区 の 東 南 隅 をA‑01と
して、3m間
隔 の小 地 区 を設 定 す るわ けで あ る。しか し、と り わ け中 。小地 区 の設定 につ いて は、上記 の原則 に基 きつつ も、各調 査 時 に調 査 区 の位 置 や形 状 に合 わ せ て、 か な り弾 力 的 に運 用 して きた とい う経緯 が あ った。2
従来 の方式 の問題 点①
基本 的な問題
(1)調査 が畦 畔 を尊重 しな が ら水 田単 位 で実施 され る ことが多 か った ため、基 本 的 な大地 区 や 中地 区 も条 里 制 の遺 存 畦 畔 を基 準 に設定 され る必 要 が あ った。
と ころが、条里 の畦畔 は藤原 京 の条 坊地割 が その まま遺存 した もので はな いた め、地 区設 定 が必 ず しも藤原 京 とい う都城遺 跡 の枠組 み とは一 致 して い なか っ た。 この点 は、 と りわ け藤原 京 の寺 院 (本薬 師寺・ 大官大 寺 等
)と
、 そ の隣接 地 域 との間 に地 区設定 方式 の相違 とな って現 われて くる。 す なわ ち、 京 内寺 院 の地 区設定 は条坊 に規 制 され た寺 域 を基準 とす るの に対 し、 その隣接 地 域 の地 区設 定 は条 坊 や寺 域 とは無 関 係 な現 状 の畦畔 を基 準 と して い るか らで あ る。liil藤原宮・ 京 域 にお け る都 市 化 の進 行 や、 藤 原宮跡 内の整 備事業 の進 展 な ど
に よ って、水 田畦畔 が徐 々 に消滅 して い く傾 向 にあ り、畦畔 を基準 とす る地 区 設 定 の方 式 が無 意 味 と化 しつ つ あ る。
②
大 地 区 に関 す る問題
(i)近年 の発 掘 調査 で は、 従 来 の地 区設定 区域 の範 囲外 にお いて藤原 宮・ 京 と 同 時期 に該 当す る道 路 状 遺 構 や溝 遺 構 な どを検 出す る機 会 が増 加 しつ つ あ る。
また従来 の地 区設定 は、史跡 稲 渕宮殿跡 や史跡桧 隈寺跡、 あ るい は坂 田寺跡 な ど、飛鳥 南方 の重要遺跡群 を包 括 す る もの とはな っていなか った。
liil大地 区 の設 定範 囲 を拡大 す る場 合 に問題 とな るのが、
6Aを
冠 す る未 使 用の大地 区名 には もはや充 分 な余裕 が ない ことで あ る。
③
中地 区 に関す る問題
水 田畦 畔 に基 いて 中地 区 を定 め よ うとす る と、 中地 区 の南北距離 が
80m以
上 に設 定 せ ざ るを得 ない部分 が 出て来 る。 このよ うな部分で は、小地 区の アル ファ ベ ッ トを最大26文字(78m)使
用 して もなお余 地 が残 る こと とな り、 同 一 中地 区 内 で小地 区名 が重複 す る可 能 性 が あ った。④
小地 区 に関す る問題
各 水 田が まち まちな形 状 を持 って い るた め、調査 区が近接 して いて も中地 区 が異 なれば小地 区 の
3mグ
リッ ドもず れ る ことにな る。 つ ま り、地 区設 定 の基 準 が統 一 されて いなか った た め に生 ず る不 都合 で あ る。 その ため、新 規 に調 査 を開始 す る際 には必 ず周辺 域 にお け る既往 の調 査 の地 区設定 方式 を検 索 し、 そ れ に合 わせ て新調査 区 にお け る地 区設定 の詳細 を決 めなければな らない とい う、煩 雑 で余 分 な作 業 を必 要 と した。
―
‑134‑
3
地 区 設 定 方 式 の 改 定 案2で述 べ た問 題 点 を根 本 的 に解 消 す るた め に は、 従 来 の地 区設 定 の範 囲 を拡 大 す る と と もに、 大 。中・ 小 地 区 の規 格 を平 面 直 角 座 標 第 Ⅵ 系 (以下 、 単 に国 上 方 眼 座 標 と呼 ぶ
)に
基 い て統 一 し、 地 区 設 定 の基 準 とな る枠 組 み を条 里 制 の 遺 存 畦 畔 か ら藤 原 京 の復 元 条 坊 へ と改 め る こ とが求 め られ る。 しか し、 そ の ような根 本 的 な改 変 は以 下 の2点に照 ら して大 きな困 難 を伴 って い る。
まず 第 一 に、 遺 構 番 号 が
6A」
、6AW、 6AM、 6AKな
ど の大 地 区 群 ご とに0か ら順 に設 定 され て い る こ とで あ る。 つ ま り、 従 来 の地 区設 定 を大 き く 変 更 す る こ と は、 遺 構 番 号 の再 整 理 と い うか な り煩 雑 な作 業 を伴 うわ けで あ る。第 二 に、 藤 原 京 条 坊 を基 準 とす る地 区 設 定 が 、 厳 密 に は不 可 能 だ と い う点 を 挙 げ ね ば な らな い。 検 出遺 構 か ら推 定 復 元 され る藤 原 京 の条 坊 中軸 線 の中 に は、
国 上 方 眼 座 標 軸 に対 して 1度以 上 の偏 度 を持 つ もの も存 在 す る。 た とえ ば南 北 方 向 の条 坊 の偏 度 が 1度で あ る場 合 、 横 大 路 か ら十 二 条 大 路 ま で の お よ そ3.2 kmの 区 間 で は、 南 端 と北 端 に お いて東 西 距 離 に して約55mも の差 を生 じる こ と
とな る。 この差 は、 従 来 の調 査 で判 明 して い る藤 原 京 の大 路 の幅員 (約 15〜 21
m)よ
り もか な り大 きい。 つ ま り、 国 土 方 眼 座 標 に基 い て 広 範 囲 に大 地 区 を展 開 しよ う とす る場 合 、 藤 原 京 条 坊 との ず れ が大 きな 問 題 とな るの で あ る。以 上 の2点を考 慮 す る な らば、 大 規 模 な改 変 は現 実 的 で な く、 む しろ従 来 の 枠 組 み を基 本 的 に踏 襲 しつ つ 、 矛 盾 点 の改 正 を盛 り込 ん だ よ り望 ま しい方 向 へ の改 良 こそ が最 も妥 当 な道 だ とい え るだ ろ う。
①
改 定 の 基 本 方 針
(1)地区 設 定 は発 掘 調 査 を実 施 す る うえ で の ひ とつ の便 宜 で あ るか ら、 統 一 的 で 整 合 性 を伴 って い な けれ ば な らな いが 、 必 ず しも単 一 の枠 組 み を基 準 とす る 必 要 はな い。 した が って 、 条 坊 とい う遺 跡 の枠 組 み に の み と らわ れ ず に、 む し ろ遺 跡 と現 状 地 形 の互 い に異 な る両 側 面 か ら規 定 され る地 区 設 定 の あ り方 を追 求 す る。
liil従来 の大 地 区・ 中地 区 の規 模 や配 列 手 法 を基 本 的 に踏 襲 す る。
ω 大・ 中地 区 の規 格 を統 一 し、 各 境 界 を 国 上 方 眼 座 標 に よ って 定 め る。
‑137‑
ぅ│ ▼ │ 」
=i =l=│ コI ▼
Fig 57 従来の地区設定 (下)と改定後の地区設定 (上)(1:10000)
ω 従 来 の地 区設 定 区 域 以 外 で 、 藤 原 宮・ 京 期 に属 す る道 路 状 遺 構 や溝 遺 構 を 検 出 して い る地 点 を含 め て 、 さ らに広 い範 囲 を包 括 す る大 地 区設 定 を行 う。
②
大 地 区
(i)条里 1坪分 の遺 存 地 割 の平 均 寸 法 を試 算 し、 東 西6坪、 南 北 3坪 (計18坪 分
)に
あ た る東 西 672m、 南 北324mを
大 地 区 の基 本 規 格 とす る (Fig.58)。liilすべ て の大 地 区記 号 の数 字 を、 従 来 の6か ら
5に
改 め る。 た だ し、 この改定 は地 区設 定 に の み有 効 で 、 出土 瓦 の型 式 番 号 に は反 映 しな い もの とす る。
liiil広 い範 囲 を包 括 す るた め に、 既 存 大 地 区 の 四方 に新 し く12の大 地 区群 を 設 定 す る (Fig.56)。
livl大地 区 を設 定 す る際 の基 点 は、 藤 原 宮 内 の
5A」
E、5AJF、 5AJJ、
5A」 Kの 4地
区 の 交 点 と し、 こ の 点 の 国 上 方 眼 座 標 の3の倍 数 値(X=―
166,296、
Y=‑17,787)を
基 準 と して 、(1)規格 を持 つ 大 地 区 を 四方 に展 開 す る。大 。中地区の規格
T I I I 剖 引
︱
︱
︱ 上
柔 鶏 肇 輩 輩 輩
T I I ヨ
﹁ 召 司
︱
︱ 上
P H
」
C
L
イ V
N F
Fig 58 大・ 中 。小地区の規格
―‑139‑―
小地区の規格
Fig 59 本薬師寺・ 田中廃寺の地区設定 Fig 60 日向寺・ 大官大寺の地区設定
Fig 63 石川精舎・ 軽寺の地区設定 Fig 64 和田廃寺・ 豊浦寺の地区設定
Fig 65 坂田寺⑭・ 檜隈寺ωの地区設定 Fig 66 川原寺・橘寺・定林寺の地区設定
‑141‑
③
中地 区
(1)大地 区 内 は東西3列、南 北6区画、 計18区画 の中地 区 に分 割 し、東 北 隅 か ら順 に アル フ ァベ ッ トを付 して中地 区 を設 定 す る。 ただ し、 ア ラ ビア数字 と混 同 しやす いG、 I、
Oな
どは従来 どお り割愛 す る (Fig.57)。liil中地 区 の規格 は、 東 、 中 区 が東 西
222m(小
地 区74ス パ ン分)、 南 北54m
(小地 区18ス パ ン分
)で
、 西 区 が 東 西228m(小
地 区76ス パ ン分)、 南 北54m
(小地 区18ス パ ン分
)と
す る (Fig.58)。④
小 地 区
(1)各中地 区 の東 南 隅 を基 点 と し、
3m方
眼 を設 定 す る。ω 各 中地 区 の東 南 隅 を
A‑10と
し、北 ヘ アル フ ァベ ッ ト、西 へ番号 を順 に付 して小地 区名 を付 け る。小地 区 の アル フ ァベ ッ トはAか
らRま
で、番号 は10か ら83あ るい は85ま で で、 それ以外 は使 用 しな い (Fig.58)。③
そ の他 の大地 区 (寺院等)
以上 の基 本 的 な大 。中 。小地 区設定 の もとに、諸寺 院 の主要伽藍 を含 む中地 区群(南北 方 向 は6中地 区 を越 え な い範 囲)に対 して、 そ の寺 院固有 の大 地 区名 を与 え る。 ただ し、「 そ の他 の大地 区」 は主 要 寺 院 のみ と し、従 来設 定 して いた 小墾 田宮
(6AOH)や
見瀬 丸 山古 墳(4PMN)な
どは廃棄 す る(Fig.59〜 66)。4
改 定後 の有効性 と心得①
地 区設定 の基点 と各 種地 区 の規格 が定 ま って い るので、調査 のたび に周 辺 にお け る既 往 の調査 が どの よ うな地 区設定 の もとに実施 され たのか を、逐次 検 索 す る必 要 が な くな る。
②
地 区 の規格化 と設 定基準 の統一 は、将来、遺構 や遺物 に関す るデー タを コ ンピュー タによ って処理 す る際 に も有効 で あ る。
③
改 定 に伴 って、既 往 の各調 査 にお け る従 来 の地 区設 定 方 式 に関 す る情 報 を個別 に洗 いだ し、再整理 す る ことが必要 とな るが、 この作業 は1993年度 末 で 概 ね完 了 して い る。
④