【研究ノート】
東南アジア・インド企業グループの文化的背景と経営スタイル
―出身地に由来する同郷的・家族的紐帯の視点から―
Cross-cultural Background and Family-oriented Management Style of
Business Groups in South East Asia and India
小林 守 Mamoru Kobayashi 要約 華人系やインド系などを中心とした東南アジア・南アジアの大企業グループは欧米列強等の 植民地時代やその後の独立以来の長い歴史を持つ企業も多い。多くは出身国の文化や家族・一 族による強い紐帯を強みとしたファミリービジネスの形態を保ちつつも、現地に定着し、現地 政権との緊密な関係を築きながら発展してきた。これが 1990 年代を画期とする市場経済化の 進展の中でコングロマリット化や多国籍企業化を通じて、そのビジネススタイルに変化がみら れる。本稿では東南アジア・南アジアの代表的な大企業グループの変遷について、そうした視 点から比較検討し、今後のさらなる変貌を展望する。 Summary
Cross-cultural local business groups have relatively long history since colony era and independent movement era. They are characterized as “family business” with a particular ethnic culture. They, however seek for localization to target local market place and strong ties with local government. This is sometimes called “crony capitalism”. Under the wave of globalism and market economy since 1990s, the business groups have been developing their local-oriented business to multinational business in the form of conglomerate. The process tends to transform their traditional business style. The paper tries to overview the process through comparing examples across South East Asia and India.
キーワード
異文化的背景、ファミリービジネス、現地市場への定着、現地政権とのつながり、グローバル化
Keywords
表2 フィリピンにおける華人系大企業グループ 財閥名(特徴) 歴史・事業分野 コファンコ 砂糖農園・砂糖精製・不動産開発等で成功。スペイン財閥からサンミゲールビールを 買収。キリンに 2009 年同ビールの株式49%売却。大手電力会社マニラ・エレクト リック、石油元売り会社を買収。砂糖ビジネスは政治家一家のアキノ元大統領 の実家である。ココナツ事業や最大の通信事業者(PLDT)を所有する一家であり、親 戚間で事業が競合しないような産業に展開している。 ユーチェンコ 保険業界で不動の地位を築き、銀行業・投資・貿易・建設・通信・製造業へ多角経営。 リサール商業銀行(RCBC)等にも強い影響力をもつ。 ゴコンウェイ 織物や日用品の行商からスタートし、その後、小麦粉と織物の輸入で得た資金を基に 澱粉製造会社を設立した。インスタントコーヒーで国内最大シェアを獲得するなど成 功をおさめ、ホテルや綿織物会社(ジーンズ製造)にも展開している。 SM(シー) 持ち株会社シューマートの下に金融・不動産・水産・映画、大商業コンプレックス(不 動産)を所有する。華人系銀行の大株主にもなっている。日本企業との連携ではトヨ タ自動車のパートナーの例が挙げられる。 マリアノ・ケ
中核企業「Mercury Drug Store」は多品種・薄利多売を戦略としたフランチャイズ方式 で成功した。その他貿易・ファーストフード・不動産・農産物加工・パン製造などの 分野にも展開している コンセプシオン 製粉のリパブリック・フラワー・ミルズと家電のコンセプション・インダストリーズ が中核企業である。 アルフレッド・ ラモス 1980 年代後半から株式投機で名を上げ、フィリピン最大の書店チェーン「ナショナル・ ブックストア」や石油掘削会社の「フィロドリル社」で成功した。鉱物資源開発・不 動産・持株会社を兼ねる企業が多い。 ホセ・ヤオ・カ ンポス
図2 ベトナムに入国した越僑(単位:人)
出所:小林守、宇佐美暁「アジア新経済圏 東南アジア編」三菱総合研究所、徳間 書店、1996 年、p.92、原出所:Vietnam Economic Times, February, 1996
小林守、宇佐美暁「アジア新経済圏 東南アジア編」三菱総合研究所、徳間書店、1996 年 末廣昭「ファミリービジネス論―後発工業化の担い手―」名古屋大学出版会、2006 年 日本経済新聞社「インド―目覚めた経済大国」日本経済新聞社、2007 年 藤巻正巳、瀬川新平「現代東南アジア入門」古今書院、2009 年 NHK スペシャル取材班「インドの衝撃」文芸春秋、2009 年 須貝信一「インド財閥のすべて」平凡社、2011 年 タニン・チャラワノン「私の履歴書」日本経済新聞、2016 年 7 月 1 日~7 月 31 日 モフタル・リアディ「私の履歴書」日本経済新聞、2018 年 5 月 1 日~5 月 31 日 小林守a「ベトナムビジネス環境の改善の歩み―1990 年代~2000 年代を巡って―」、 上田和勇、小林守、岩尾詠一郎、渡辺達郎編著「メコン諸国に於ける経済統合の中小企 業への影響と対応―持続可能なASEAN を目ざして―」 専修大学社会知性開発研究センター/アジア産業研究センター、2019 年所収、pp.1-26 小林守 b「グレーターベイエリア構想と香港問題―日系企業にとってのビジネス環境変化―」 世界経済評論インパクトレビュー、国際投資貿易研究所、文眞堂、2019 年 9 月 23 日 (http://www.world-economic-review.jp/impact/) 注: i タタ財閥による英国の伝統的高級自動車メーカー、ジャガー・ランドローバーの買収等。また、タタ製 子会社を通じて、英国の他、ドイツ、オランダに生産拠点を持ち、約2 万人の社員を抱えている。 ii タイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、ラオス、カンボ ジア、ミャンマーの10 か国が加盟している。
iii ASEAN 自由貿易地域(ASEAN Free Trade Area: AFTA)協定である。その後、自由化の範囲が順次拡大
し、2015 年には完成された形の ASEAN 経済共同体(ASEAN Economic Community)となった。
ix 須山卓、日比野丈夫、蔵居良造(1977)pp.15-16 x 東南アジアでは中国の出身地別に相互扶助組織等がいわゆる「同郷会館」を設立し、助け合っている。 xi 須山卓、日比野丈夫、蔵居良造(1977)pp.54-66 xii フィリピンへの中国人出稼ぎ者はほとんどが単身であったため、現地のフィリピン女性との通婚が進 み、混血化が広範囲に広がった。したがって、「中国系」であることの異文化的な背景を意識するフィリピ ン華人は現地での商売が軌道に乗ったのちに家族を大陸から呼び寄せて現地で暮らすタイ華人等とは異な り少数派であったと言われる。 xiii タニン・チャラワノン、「私の履歴書」、日本経済新聞、2016 年 7 月 1 日~7 月 31 日掲載 xiv 荒木義弘「第 9 章 ASEAN 諸国の中の華人―インドネシア、マレーシア―」、渡辺利夫、今井理之『概 説華人経済』有斐閣、1994 所収 pp.246-247 xv モフタル・リアディ、「私の履歴書」、日本経済新聞、2018 年 5 月 1 日~5 月 31 日 xvi スハルト政権は 1968 年~1998 年まで政権を握った軍人(陸軍少将)出身のスハルト氏の長期政権であ る。政権与党としてゴルカル党を率いた。
xvii 榊原義雄「ASEAN 諸国の中の華人(I)―タイ、フィリピン―」、渡辺利夫、今井理之『概説華人経済』