[新刊紹介] 山崎善弘著『近世後期の領主支配と地 域社会 : 「百姓成立」と中間層』
その他のタイトル [Book Review] YAMASAKI Yoshihiro, Lordship and Regional Society in the Late Tokugawa Period
著者 山形 隆司
雑誌名 史泉
巻 111
ページ 17‑19
発行年 2010‑01‑31
URL http://hdl.handle.net/10112/00023702
本書 は︑ 一九 九〇 年代 より 精力 的に 日本 の近 世地 域史 研究 に取 り組 ん でこ られ た山 﨑善 弘氏 の最 初の 論文 集で ある
︒そ して 本書 は︑ これ ま で自 治的 組織 とし ての 側面 に偏 って 論じ られ てき た近 世村 落に つい て
︑幕 藩制 国家 の支 配機 構と して の側 面か ら捉 え直 そう とす るも ので あ る︒ その 際に
︑山 﨑氏 が重 視す るの が中 間支 配機 構で
︑近 世後 期に は 地主
・豪 農と いっ た中 間層 が大 庄屋 や﹁ 取締 役﹂ など に任 命さ れ︑ 彼 らが 領主 支配 を支 える 形で 地域 社会 が成 立し てい たと する
︒本 書で は
︑﹁ 取 締役
﹂制 を 主 な 分析 対 象 とし
︑こ れ を﹁ 支 配実 現 の メ カ ニ ズ ム
﹂と し て 分 析 し て い る
︒全 体 は 序 章・ あ と が き と 七 章 か ら 構 成 さ れ
︑そ の内 容は 以下 の通 りで ある
︒ 序 章│ 本書 の課 題と 方法
│ 第 一章
近 世後 期の 領主 支配 と﹁ 取締 役﹂ 制│ 大和
・和 泉・ 播磨 の 清水 領知 を中 心に
│ 第 二章
寛 政改 革と
﹁取 締役
﹂制 第 三 章 寛 政 改 革 と 地 域 支 配 構 造 の 転 換
│惣 代 庄 屋 か ら﹁ 取 締 役
﹂へ の政 治的 転化 をめ ぐっ て
第 四章
社 倉政 策の 展開 と﹁ 取締 役﹂ 制 第 五章
天 保改 革と
﹁取 締役
﹂制 第 六章
﹁ 取締 役﹂ の武 士身 分へ の編 入 第 七章
中 間層 と地 域的 公共 性 あ とが き 第一 章で は︑ 本書 が主 なフ ィー ルド とす る畿 内・ 近国 の御 三卿 清水 領 知の 支配 構造 が分 析さ れる
︒そ こで
︑御 三卿 領知 が幕 領に 準じ る性 格 をも ち︑ 清水 領知 の脆 弱な 支配 組織 を補 完す るた めに 川口 代官 所と 村 役 人 の 間 に 組 合 村 の 統 括 者 と し て﹁ 取 締 役﹂ が 設 置 さ れ た こ と︑
﹁ 取 締役
﹂は 触 伝 達 や郡 中 入 用割 の 他︑ 社 倉の 管 理
・運 営 を担 っ た こ と が明 らか にさ れる
︒こ の章 では
︑近 世後 期に おけ る大 和・ 和泉
・播 磨 の 清水 領 知 支 配の メ カ ニズ ム を 分析 す る 前 提と し て︑
﹁ 取締 役
﹂の 概 要が 示さ れる ので ある
︒ 第二 章 で は︑
﹁ 取締 役
﹂が 寛 政改 革 の 政策 の 一 環 とし て 創 出さ れ た も ので
︑本 来は 村々 の自 主性 によ って 制定 され る性 格を もつ
﹁組 合村 議 定﹂ も和
・泉
・播 の清 水領 知で は領 主支 配を 徹底 させ るた めの もの
︿新 刊 紹 介﹀
山 﨑 善 弘 著
﹃
近 世 後 期 の 領 主 支 配 と 地 域 社 会
│
│
﹁百 姓 成 立﹂ と 中 間層
│
│
﹄
︵ 二〇
〇七 年十 一月 刊︑ 二九
〇頁
︑六 八〇
〇円
︑清 文堂 出版
︶
山 形 隆 司
― 17 ―
と して 領主 の管 理下 に置 かれ たと され る︒ 清水 領知 は寛 政七 年︵ 一七 九 五
︶か ら 文 政 七 年
︵一 八 二 四︶ ま で 幕 領 へ 支 配 替 え に な る も の の
﹁ 取 締役
﹂は
﹁取 締 惣 代﹂ と 名称 を 変 えて 継 承 され
︑清 水 領 知 復 活 後 は 以前 にも 増し て備 荒貯 蓄策 を担 う存 在と して 機能 した とさ れる
︒以 上 の分 析よ り︑ 山﨑 氏は 全国 の﹁ 取締 役﹂ 制を 三類 型に 分類 し︑ 関東 や 畿内
・近 国が 含ま れる 類型 の﹁ 取締 役﹂ 制は 領主 支配 政策 の展 開の 中 で重 要な 位置 を占 めた こと を指 摘す る︒ 第三 章 で は︑
﹁取 締 役
﹂制 創 出の 経 緯・ 意 義 を 検 討 す る
︒山 﨑氏 は
﹁ 取 締役
﹂制 を 天 明 の飢 饉 以 後の 惣 代 庄屋
︵郡 中 惣 代︶ に よる 年 貢 減 免
・増 徴 反対 闘 争︵
﹁ 御 救﹂ 要 求︶ に 対 し て︑ 幕 府 が
﹁御 救
﹂要 求 を 有 力な 地主
・豪 農層 に転 化し たも のと 位置 づけ る︒ また
︑惣 代庄 屋制 と
﹁取 締 役﹂ 制と の 構 造 的差 異 か ら︑
﹁取 締 役﹂ は 代官 と の 委 任 関 係 に 規定 され
︑領 主制 下の 官僚 制の 末端 に位 置づ けら れる 存在 であ った と する
︒そ の上 で︑ 寛政 改革 では 奢侈
・市 場経 済の 抑制
︑小 農経 営維 持 のた めの 勘定 所役 人な どを 対象 とす る幕 府官 僚制 の再 編が 行わ れた が
︑こ れを 地方 にお いて 徹底 させ るた め﹁ 取締 役﹂ が創 出さ れた と結 論 づけ る︒ 第四 章で は︑ 社倉 政策 と中 間層 との 関連 を考 察す る︒ 寛政 改革 期の 社 倉政 策で は︑ その 出資 の多 くを 地域 社会 にお いて 有力 な地 主・ 豪農 層 が担 って いた こと
︑代 官所 は彼 らを
﹁社 倉見 廻役
﹂に 任命 しそ の運 営 を任 せ︑ 天保 四年
︵一 八三 三︶ に﹁ 社倉 見廻 役﹂ は﹁ 取締 役﹂ を兼 任 する よう にな るこ とを 指摘 する
︒享 保期 の備 荒貯 蓄策 と寛 政改 革期 の 社 倉 政 策 の 質 的 転 換 を 有 力 な 地 主・ 豪 農 が 行 っ て い た 村 へ の
﹁合 力
﹂を 領主 側が
﹁御 救﹂ へと 変換 させ
︑恒 常的 な﹁ 御救
﹂体 制の 構築
を 意図 した こと にあ ると 見る ので ある
︒ 第五 章で は︑ 天保 改革 にお いて
﹁取 締役
﹂が 果た した 役割 を余 業人 な どの 取締 りを 素材 とし て検 討す る︒ 天保 十二 年︵ 一八 四一
︶以 降︑ 幕 府の 天保 改革 は和
・泉
・播 の清 水領 知に も及 び︑ 地域 の実 情を 把握 し た﹁ 取締 役﹂ が余 業取 締り を実 現し たこ とを 明ら かに する
︒そ の上 で
︑天 保改 革を 実現 する 上で
﹁取 締役
﹂の 役割 が大 きか った こと を指 摘 し︑ 彼ら を政 策実 現主 体と して 捉え る︒ 第六 章 で は︑
﹁ 取締 役
﹂の 武 士身 分 へ の編 入 に つ いて 検 討 す る
︒播 磨 国加 東郡 河合 中村 の三 枝家 が事 例と して あげ られ
︑非 常帯 刀か ら常 帯 刀へ と身 分的 上昇 を遂 げ︑ 武士 身分 へ編 入さ れる 過程 を跡 付け る︒ ま た
︑そ の 理 由 と し て
﹁取 締 役﹂ と し て 彼 ら が 地 域 社 会 に﹁ 百 姓 成 立
﹂を 保障 する こと を領 主が 期待 した から であ ると する
︒そ して
︑さ ら に︑ 三枝 家は 武士 編入 後も 在村 し高 を所 持し 続け
︑さ らに 大き い権 限 を付 与さ れ地 域経 営に あた った こと が明 らか にさ れる
︒ 第七 章は
︑終 章と して
︑中 間層 と地 域社 会の 問題 が地 域的 公共 性と い う観 点か ら検 討さ れる
︒こ こで は︑ 地域 的公 共性 には 各所 領の 惣代 庄 屋な どが 結集 の核 とな った 播磨 国集 会と 清水 領知 での
﹁取 締役
﹂制 と い う 二 つ の 回 路 が あ っ た と さ れ る︒ そ れ ぞ れ は︑ と も に﹁ 百 姓 成 立
﹂を 志向 する もの であ った が︑ 両者 の核 とな る中 間層 は前 者が 小豪 農
︑後 者が 巨大 豪農 であ った とさ れる
︒そ して
︑両 者は 補完 関係 にあ り
︑前 者 が地 域 的
﹁公
﹂︑ 後 者が 領 主 的﹁ 公﹂ と 捉 え ら れ る
︒明 治 維 新 後︑
﹁ 取締 役
﹂で あ っ た三 枝 は 播磨 一 国 を対 象 と す る地 域 運 営構 想 を 新政 府に 献策 する が︑ そこ には 地域 的公 共性 の論 理と して
﹁百 姓成 立
﹂が 用 い ら れ
︑こ れ が 新 政 府 に も 受 け 入 れ ら れ た こ と が 指 摘 さ れ
― 18 ―
る
︒こ のよ うな 近代 への 展望 が述 べら れて 本書 は幕 を閉 じる
︒ 以上
︑簡 単に 内容 を紹 介し たが
︑本 書で 展開 され る論 点は 多岐 にわ た るた め︑ すべ てに 言及 する こと がで きな かっ た︒ また
︑本 書で は各 章 の課 題に 沿っ て史 料が 綿密 に分 析・ 整理 され てい る︒ すで に近 世地 域 史や その 関連 分野 に関 心の ある 方は この 紹介 を見 るま でも なく 本書 を 手に とら れて いる こと と思 うが
︑政 治史
・経 済史 など に関 心の ある 方 にも ご一 読を おす すめ した い︒ この 野心 的で 問題 提議 に満 ち溢 れた 試 みが
︑読 者に 多く の刺 激を 与え るこ とを 確信 する から であ る︒
︵ 芦 屋 市 立 美 術 博 物 館
︶
― 19 ―