フランス法に於ける特別受益の持戻し財産について
その他のタイトル Une etude sur des biens rapportables dans le droit successoral francais
著者 千藤 洋三
雑誌名 關西大學法學論集
巻 32
号 3‑5
ページ 569‑593
発行年 1982‑12‑01
URL http://hdl.handle.net/10112/1786
フ
フ ン ス 法
に 於 け る 特
塁
益 の 持 千 戻 し 財
藤 産
に
洋 つ
し
、
て
. .
目 次
一問題の所在
二 贈 与 財 産
H
一般 与贈 財産
⇔嫁資等生活安定のための贈与財産
回 金 銭 の 贈 与
同負債弁済のための贈与
三 遣 贈 財 産
四生命保険金等による贈与
H
生命保険金⇔ 終 身 定 期 金 五 終 り に
フ ラ
ン ス
法 に
於 け
る 特
別 受
益 の
持 戻
し 財
産 に
つ い
て
フ ラ
ン ス
で は
︑
わが民法は︑相続人間の平等化をはかるために︑被相続人によって特定の相続人に対して︑
せている︵日民九
0 1 ︱
一 条
︶ ︒
こ れ
に 比
し て
︑
接に譲渡された全ての贈与財産を持戻しに服せしめている︒ また︑遣贈については︑
﹁ 遣
贈 ﹂
や ︑
姻︑養子縁組のため若しくは生計の資本としての贈与﹂として付与された特別受益を相続財産の中に計算上︑持戻さ
フランス民法は︑贈与財産の持戻し範囲を限定せず︑原則として寵接・間
日本民法とは逆に︑原則的に持
その他︑生 戻しが免除され︑遣言者の反対の意思表示がある場合にのみ持戻しに服せしめている︵仏民八四三条︶︒
( 1 )
命保険金や死亡退職金が持戻しの対象となりうるかについて︑わが国の多数説は肯定し︑判例は︑下級審であるが意
見が分かれている︒フランス民法上も︑生命保険金や終身定期金等が持戻しの対象となりうるか︑問題とされている
このように︑持戻しに服する贈与もしくは遺贈の内容について︑わが国でもフランスでも色
本稿は︑持戻しに服する特別受益財産の範囲について︑
れまで︑相続人間の衡平化という見地から特別受益の持戻しをフランス法に遡って考察してきた︵関大法学論集二九
巻六号︑三 0 巻二号︑三二巻一号︑三二巻二号︶︒ フランス法を概観しようとするものである︒筆者はこ
ローマ法︵南部成文法に継受︶及びゲルマン法︵北部慣習法に継受︶の伝統を承継した一八 0 四年
民法典制定以来︑持戻し法に関して︑今日まで数回に亘る改正が試みられている︒これまで︑持戻しによる相続人間
の衡平化をはかりつつ︑ とりわけ農耕地の細分化を防ぐため︑色々な手直しが農地相続に関して民法という一般法の 々と問題にされる場合が多い︒ ︵
後 述
二 四
六 頁
参 照
︶ ︒
問 題 の 所 在
> ︵
五 七
一 ︶
﹁ 婚
第三
1
一巻第三•四・五合併号中で加えられた︒現物持戻しから価額持戻しへの移行も︑
しが全面的に排除された訳ではなく︑清算金という形で処理されるようになってきた︒如何なる財産が特別受益の持
戻しに服するかに関しては︑遺贈財産を︑原則的に持戻しから除外した一八九七年改正が主たるものといえよう︒し
一 八
0 四年の立法以来︑特別受益の持戻し範囲に関しては︑今日までほとんど変るところがない︒
の改正も基本的には従来通りといってよい︒だが︑高度に発達した今日の社会経済状態の下において︑たとえば︑死
亡退職金や各種の年金︑生命保険金等にみられるように財産の種類・範囲が複雑多様化し︑これらの財産が持戻しに
服するか否かを確定することは︑ か
し ︑
以下︑本稿では︑
第 二
章 で
︑
の 贈
与 や
︑
二 三
四
その︱つの表れといえよう︒
︵ 五
七 二
︶
いずれにせよ︑そこでは持戻
一九七一年
ますます困難になってきており︑解釈上︑判断に苦しむ場合が少なくない︒
フランス民法が原則としてすべての贈与を持戻すことと規定しているので︵仏民八四三条︶︑
まずこの贈与一般について述べることにしたい︒次に︑嫁資に代表されるような生活の安定・自立のため
わが国ではあまり論じられることのない被相続人による相続人への負債弁済のための贈与︵仏民八五一
条︶を取り上げる︒さらに︑別項目を立てて金銭による贈与を検討する︒ここでは︑贈与金銭が︑他の財産獲得のた
めに利用された場合を主に扱うことになろう︒第三章では︑持戻しを課せられた遣贈を扱うことにしたい︒遣贈は原
則として持戻しを免除されているものの︑遺言者の意思による持戻しの課せられた場合が如何なるものであるかが︑
ここでの検討内容となろう︒最後の第四章では︑生命保険金や終身定期金について考察する︒
本稿で述べようとする点を簡単にまとめれば次のようになろう︒すなわちフランスでは︑原則として全ての贈与が
持戻しの対象とされており︑この中には現物的引渡による贈与︑間接的な贈与︑有償行為の形式に基づく偽装贈与な
どが含まれている︒
関法しかし︑とりわけ間接贈与・偽装贈与については︑持戻し免除が推定されるか否かの点に争いが
9
フランス法に於ける特別受益の持戻し財産について
贈 与 財 産
あり︑ラフンスの通説・判例は否定的に解する︒嫁資等生活安定のための贈与については︑
れた場合︑その一方の死亡に際して︑如何なる割合の持戻しがなされるべきかが問題となる︒ここでは公証人実務が
先駆的役割を果している︒贈与が金銭による場合には︑その金銭を用いて購入した財産の価額が持戻される点が重要
である︒相続人が被相続人に債務を負っていた場合には︑この債務を持戻す必要がある︵負債の持戻し︶︒
的機能は︑遺産分割の促進であり︑フランス遺産分割法において重要な役割を担っている︒遺贈はとくに被相続人の
意思によって持戻される︒間接贈与の一形態とも考えられる生命保険金や終身定期金は︑原則的には持戻しが免除さ
れると解されているが︑やや流動的な部分も残されているといえよう︒ とくに両親名義で行なわ
( 1 )
多数説については︑中川善之助
1 1
泉久雄・相続法︹新版︺︵昭四九︶一九0頁注︵一六︶及び一九一頁注(‑七︶を参照︒生命保険金が特別受益の対象となりうると解するのが学説の大勢である︒これに反して︑死亡退職金については公務員等の規定のある場合には持戻しの対象とならず︑また遣族年金はまったく持戻しの対象とならない︑と解するのが︑通説的見解
とい えよ う︒
( 2 )
否定的な判例として︑生命保険金について福岡家審昭四一・九・ニ九家月一九巻四号一0七頁︑死亡退職金について東京家審昭四四•五・一〇家月ニニ巻三号八九頁が挙げられよう。肯定的な判例として、生命保険金について大阪家審昭五一・
︱︱・ニ五家月二九巻六号二七頁︑死亡退職金の実質をもっている特別弔慰金について神戸家審昭四三・一0
・九 家月 ニ︱
巻二号一七五頁が挙げられよう︒なお︑最判昭五五・一︱・ニ七民集三四巻六号八一五頁は︑死亡退職金の相続性を否定し
た︵ 千藤
・ロ ース クー ル四 四号 五八 頁以 下参 照︶
︒
一般贈与財産
二三 五
︵五 七三
︶
この実質
︵五 七四
︶
被相続人の行なった贈与が︑明示的に先取分として相続分外
( p r e c i p u t e t ho rs p a r t )
に ︑
または持戻しの免
除を伴って
(a ve c di sp en se u d ra p p o r t )
行なわれた場合には︑贈与は︑持戻しに服せしめられることはない︒しか
し︑これら以外の場合には︑受贈者である相続人は︑直接または間接に受領したすぺてのものを︑他の共同相続人に
持戻さなければならない︵仏民八四三条一項︶︒つまり︑本規定によれば︑被相続人による相続人への贈与は︑原則と
して︑被相続人が自己の特定の相続人に利益を与えるものではなく︑単なる相続財産の先渡し
(a va nc em en td ' h o i r i e )
を行なったとの法律上の推定が行なわれることになる︒このように︑ フランス民法は︑持戻しに服する贈与を制限列
挙したわが民法︵日民九
0 1 ︱一条一項︶とは異なり︑原則としてすべての贈与を持戻しに服せしめている︒フランスで
( 1 )
は贈与には︑負担付き贈与や報酬としての贈与も含まれる︵負担に対応した受益は︑持戻しを免除される︶︒また︑婚
姻契約締結の際に父から娘になされた贈与にも︑持戻しが必要とされるが︑ただこの場合︑夫がすでに支払不能に陥
っていた時期に設定された契約には︑持戻しは不必要だとするのが判例の古くからの態度である
( C i v .
8
f e v r .
1 8 9 8 ,
D .
P .
9
9 .
1 .2 6 5 事案は︑嫁資の設定を受けた娘から兄︵弟︶への減殺請求︶︒
なお︑わが国では明文規定を欠くが︑社会生活上当然のこととされて︑持戻しの対象からはずされているものに︑
哺育︑養育等の費用︑結婚式の費用︑あるいは慣例の贈物などがある︒これらについては︑
置かれ︑持戻す必要がないとされている︵仏民八五二条︶︒
関法第三二巻第三•四•五合併号二 三
六
フランスでは明文規定が
これらは︑その本質上から︑あるいは被相続人による黙
( 2 )
示の持戻し免除の推定から︑日常生活で消耗されるべき経費であって︑相続財産の先渡しとはみられないからである︒
贈与の種類としては︑贈与物の現物的引渡が要求される現実贈与
(d on ma nu el
)
︑本来的・直接的な贈与では
なく︑例えば相続人が被相続人に対して負う債務の減免や相続人を受益者とする生命保険などの形式による間接贈与
フ ラ
ン ス
法 に
於 け
る 特
別 受
益 の
持 戻
し 財
産 に
つ い
て
( d o n
a t i o
n i n
d i r e
c t e )
︑ (
3 )
d e
g u
i s
e e
)
などがある︒これらの贈与のうち︑ 売買や仮装的債務のような︑
擬制的な有償行為の形式をとってなされる偽装贈与(donati~nこ ︑
'
と く
フランスでは︑贈与者である授益者が受贈者である受益者に
持戻し免除を望まずに︑納税義務を免れるため︑もしくは家族間の争いを避けるために間接贈与や偽装贈与を用いる
点について議論されることが多い︒そこでの問題点として︑こうした間接贈与や偽装贈与によれば︑被相続人が仮に
持戻しを免除する意思を有していたとしても︑免除の意思表示を行なう特別の明白な方法をもちえないこと︑
明は︑多くの場合証拠の残らない現実贈与の湯合にも必要である︒ また被
相続人がこれらの贈与方法を数多く用いるならば︑贈与は第三者に知れることなく秘密のままということになり︑持
( 4 )
戻しにも減殺にも服さないという結果になること︑などが挙げられよう︒逆にいえば︑贈与者が︑問接贈与や偽装贈
与を行なうに際して︑贈与を︑持戻しに服せしめないという明確な意思表示を行なっていれば︑当然︑持戻しに服さ
( 5 )
ないことになるが︑すでに述べたように︑明確な意思表示を行なう手段がない︒このことは︑間接もしくは偽装して
( 6 )
贈与が行なわれたという事を証明しなければならない共同相続人にとっても︑証明に困難を伴う︒勿論︑この存在証
いずれにせよ︑これについて多くの判例は︑現実
( 7 )
贈与や偽装贈与などが行なわれたという事実そのものを持戻し免除の確実な証拠とみることを拒絶する︒ただ︑判例
これらの点は の中には︑このような贈与は︑持戻し免除の意思が確実であるように思われる︑という理由で持戻しを不要と解する
( 8 )
ものもある︒しかし︑第二次世界大戦後の民法典改正委員会は︑現実贈与あるいは偽装贈与の中に持戻し免除の推定
( 9 )
をみとめないという多くの判例の考えを是認した草案を作成した︵しかし︑成文とはならなかった︶︒
ともかくも︑少なくとも裁判所は︑贈与のみならず遣贈も含めて︑恵与の価値がどのようなものであれ︑受贈者であ
る相続人の側で︑証人もしくは推定といった手段で持戻し免除の証明を行なうことを認めようとし︑また贈与の際に
二 三
七
︵五 七五
︶
a t i o
n p o
u r
' e l
t a b l
i s s e
m e m t
) と
呼 ば
れ ︑
例えば婚姻に際し将来の生活を安定させてやるため︑ の明文規定を設けている︵傍点 1
筆 者
︶ ︒
ここでいう自立のための贈与とは︑ ⇔
第三二巻第三•四•五合併号(五七六)( 1 0 )
免除意思が確実に伴われていたという状況があれば︑免除を認めようとする傾向にあるといえよう︒
こ の
よ う
な ︑
除を推定させることになるのか︑
オ ー
プ リ
" ロ
ー
( A
u b
r y
e t
R a
u )
は︑偽装という事実自体が︑その贈与を持戻しから免れしめようとする贈与者の意図を必然的に示唆している︑と主
張する︒しかし︑通説
( t h e
o r i e
s d o m i n a n t e s )
は︑偽装贈与について︑偽装であるが故に必然的に持戻しが免除され
る も の で は な い ︑
に ゆ だ ね ら れ る ︑
な意図を持ち得るのであり︑少数説のように解するのは非常に硬直した解釈であるという︒そして幾つかの判例も︑
( 1 3 )
これに同調する︒こうした通説や判例に対して︑偽装による贈与にも︑例えば︑終身定期金等の自由分への充当並び
あ る
︑
に持戻しに関するフランス民法九一八条の規定に該当するケースにみられるように︑持戻し免除を推定させる場合が
( 1 4 )
との反論が行なわれている︒
嫁資等生活安定のための贈与財産
︱フランス民法は︑贈与のうちのあるものについては一般の贈与から区別して︑﹁持戻しは︑共同相続人の一人
︑ ︑
︑ ︑
︑ ︑
( 1 5 )
の自立のために︑又はその者の負債の支払いのために用いられたものについて義務付けられる﹂
えること︵嫁資の設定︶や︑あるいは安定した職業を得させるために営業の株を買受けてやること︑あるいは弁護士 リペール
1 1 プーランジェ
関法とりわけ有償契約
( c o n
t r a t
a
t i t r
e o n e r e u x )
の形式の下で行なわれた偽装贈与は︑持戻しの免
という問題に関して︑少数説として︑例えば︑
と解し︑偽装贈与に持戻し免除の意図が伴っているか否かは事実審裁判官
( j u g
e
d u
f a i
t )
( 1 2 )
と主張する︒例えば︑
︵ 四
p e r t
e t
B o
u l
a n
g e
r )
は ︑
贈与者はもっと色ん
一般に生活安定のための贈与
( d o n
,
= = ︱ ‑ 八
持参すべき財産を与 ︵仏民八五一条︶と の判断
フランス法に於ける特別受益の持戻し財産について ように︑ブルジョア階級の減少と共に︑
自分達の子に嫁資を付与したとき︑ しかも当事者間の約束がない
問題の意義も少なくなってはいるが:…•)。嫁資
フ ラ ン ス で は ︑ 一般的な形式から十分知 フランスではわざわざ二 0
四条を置かなくても︑子の生活
要求されている︒ iete) 事務所や医院を購入してやることなど︑要するに︑相続権者をしていわゆる身を立てさせることである︒組合
( 1 6 )
の持分権を取得してやるといった類のものも︑この贈与に含まれよう︒わが国でも︑昨今︑私立医科大学への
( S O C ,
巨額の入学金・授業料等を親が負担する例が多く見受けられるが︑これらの負担は︑右の生活安定のための贈与とい
え る
︒
い ず れ に せ よ ︑
フランス民法八五一条によれば︑相続権者の生活安定のために用いられた贈与額も︑持戻しが ところで︑このフランス民法八五一条の文言は︑非常に緊密に︑生活の自立に関する子の訴権を否定したフランス
民法二 0 四条に結びついている︑といわれる︒もっとも︑
を安定させる親の義務が︑自然債務
( o b l i g a t i o n na tu re I l e )
に該当することは︑実際には︑
られていることであり︑
またこのような親としての義務の履行が持戻しを課すという自由な意思を排除してしまうも のであることもよく分っていることであった︒そこで︑わざわざ八五一条を設けることにより︑相続権者の生活安定
( 1 9 )
のために親が消費した全てのものを持戻すように明規したのである︒
生活安定のための贈与としては︑
の持戻しをめぐる問題は︑ 特に嫁資
( d o t )
が問題とされている︵マゾーもいっている
嫁資の設定自体も減少し︑
いわゆる嫁資の充当
(i mp utation
de la d o t )
とりわけ︑両親により共同の名義で特定の子に嫁資の名目の下に設定された恵与が︑
なる割合で両親の各相続の際に持戻されなければならないか︑
( 2 0 )
に集約される︵ただし︑フランス民法上︑
くは連帯で
(c on jo in te me nt ou o l s i d a i r e m e n t )
︑
二三 九
︵五 七七
︶
︑ ︑
9
しカ
の問題
嫁資の持戻しを明確にした規定はない︶︒学説は一般に︑父母が共同もし
第三二巻第三•四•五合併号
いわゆる この条項によれば︑嫁資は︑全く完全に︑ 場合には︑その子は自己が取得した財産の半分ずつを父母のそれぞれの相続に際して持戻せばよい︑ し︑父もしくは母のいずれかの最初の相続のときに︑全額の持戻しではなくて半額の持戻し︑
(21)と解する︒しか
いいかえれば半分をあ
らかじめ控除することは生存親や他の共同相続人にとって不利であることは明らかといえよう︵例えば︑父母が共同
で 一
0 万フランの嫁資の設定を子の一人に行なった後︑父が一 0 万フランを残して死亡したケースで︑嫁資の全額を
r a n t
)
持 戻
せ ば
︑ 遺
産 は
一 ︳
0 万フランとなるが︑嫁資の半額を持戻すことにすれば︑一五万フランしかならないからである︶︒
そこで︑公証人による実務では︑先死者である親が嫁資全体を設定したものとみなされるという先死者
( 2 2 )
の相続財産への充当条項
( c l a
u s e
d ' i m
p u t a
t i o n
)
がよく利用される︒
両親のうちの最初に死亡した者の相続の際に︑持戻さなければならないことになり︑嫁資を与えられた子以外の共同
相続人である子及び生存親にとって極めて有利となることは否定しえない︒逆に︑この条項は︑嫁資を全て持戻さな
ければならない子にとっては︑相続分がより少なくなるだろうから︑不利になる︵相続を放棄して︑持戻しを免れた
方が得な場合も出てくる︶︒そこで︑こうした不都合を避けるために︑公証人は︑ 嫁資の設定と他の条項︑
生存親の相続への補充的な充当
( i
m p
u t
a t
i o
s u n
b s i d
i a i r
e )
と呼ばれる条項とを組合わせる方法を生み出した︒それに
よると︑嫁資の設定を受けた子は︑先死者の相続について︑自己の相続分額まで嫁資の持戻し義務を負うにすぎず︑
( 2 3 )
相続分を超過する嫁資は︑生存親によって嫁資の設定がなされたものとみなされるということになる
し か
し ︑
フランスの判例は︑この補充的な充当条項は︑嫁資が全て先死者の遺産に持戻されることの妨げとはなら
ない︑と判断しているようである︒判例の考えによれば︑嫁資の設定を受け︑
関法しかも持戻しを行なった子の相続分が︑
先死者の相続に関して︑嫁資よりも少なかったときには︑この補充的充当条項により︑その子は生存親に対して︑差
ニ四
0
︵ 五
七 八
︶
( p
r e
m o
u ,
フ ラ
ン ス
法 に
於 け
る 特
別 受
益 の
持 戻
し 財
産 に
つ い
て
始時まで温存されていれば︑
国しを免除されるか︑ かを決定するためには︑資金の出所を考慮に入れる必要はないとする︒この説によれば︑生活安定のための支出の性 質のみが重要であって︑その支出が︑贈与者の収入を減少させるためだけになされたのであれば︑その贈与は︑持戻 しを免除されることとはならないと解する︒これに対して︑二説によれば︑生活安定のための支出は︑相続人がこれ を被相続人の収入から受取ったものであって︑元本
( ca p i ta l )
から受取ったものでないならば︑持戻しを免除される
( 2 8 )
ことになる︑と解する︒いずれが有力な見解か︑定かでない︒
金銭の贈与
一九七一年七月三日法は︑贈与が金銭という形で行なわれた場合の持戻し額について︑もしも贈与額が相続開
一 八
0 四年立法と同じく︑贈与時の金銭額そのものが持戻されるぺきであるとした︒そ
四
( 2 4 )
額を返還するよう求めることが許される︒このことは︑少なくとも相続債権者よりも︑嫁資を得た者を優先させよう
フランスでは︑両親の一方が死亡して︑
れた場合には︑その嫁資は︑両親によって設定されたものとみなされる︑という当事者間での契約条項が多くみられ
( 2 5 )
る︒この条項は︑子が︑すでに開始した相続における自己の相続分を超えたものだけを嫁資として生存親から取得す
つまり︑ここでは︑嫁資とは︑実際には先死者の相続における子の権利を超えたもの
( 2 6 )
にすぎず︑生存親のみが︑嫁資を設定するのである︒
生活安定のための費用に関して︑
ニ四
いまだ遺産分割が終了しないうちに︑他方の親により嫁資が設定さ
とくにこの費用が︑被相続人の収入
( r e v
e n u s
)
から支払われたとき︑
︵ 町︶
という点が問題となる︒これに関して︑学説は分かれている︒ るということを意味している︒
な お
︑
とするからである︒
︵五 七九
︶
一説は︑持戻しの余地があるか否 持戻
の 先
取 式
は ︑
贈与金銭は多くの場合︑他の財産を獲得するために用いられ︑しかも税法上の
( 2 9 )
理由で︑直接受贈者名義で行なわれるからである︒金銭の贈与に関する持戻し方法としては︑一八 0 四年立法によれ
( 3 0 )
ば︑受贈者以外の共同相続人が遺産中の現金の中からまず贈与額と同額を取るのであり︵先取式︶︑遺産中にそれだ
けの現金がなければ︑動産を取り︑ 不足ならば不動産を取ると規定されていた︵仏民旧八六九条︶︒
一九七一年法により廃止され︑現在では控除式と呼ばれる方法が用いられている︒すなわち︑持戻しを
行なう相続人が︑自己の相続分から持戻すべき額を控除して残りを取得するのである︒なお︑この金銭贈与の持戻し
規定が︑後述の﹁負債の持戻し﹂に適用されるか︑という問題がある︒後述する︒
(1 )P ie rr e J u li e n , En cy cl op ed ia Juridique
DallaN•1975,
Ra pp or t d es do ns e t l eg s , n
︒
3 8, p . 3 .~お、フランスの学ふ瑯
・判例は︑次のように解している︒負担付き贈与の場合︑受贈者が受けた価値に等しい負担が受贈者に課せられていたよう なときには︑元来こうした贈与は︑恵与とはいえないので︑持戻しの余地はない︒また︑負担が恵与の額より低い場合には︑ 負担もしくは何らかの奉仕の価値を越えた贈与価額のみを持戻せばよい
(A ub ry e t Ra u, r D oi t c iv i l Fram;ais
par
P•Es-
mein , t .
1 0 ,
1 95 4 ,
§
6 31 , p . 28 8; Ri pe rt e t B ou la ng er , Tr ai te de dr o i t c i v i l , t . 4 , 1 95 9
, n
︒
2 88 6 , p . 90 7; C i v . 28 nov. 1 93 8
D•H.
,1 93 9 .
17
蛭心_戻し額は、事実審裁判官が決める(D•H.1 93 9
. 17)
︒
(2 )H en ri , L eo n e t J ea n M az ea ud , L e 1, o n s de Droit
C iv i l , t . 4 , v ol . 2 , 1 98 0
, n︒
1 64 7 , p . 8 35 .
(3)Don
ma nu el
を ﹁
現 実
贈 与
﹂ と
訳 す
こ と
︑ そ
の 他
︑ 贈
与 の
訳 は
︑ 山
口 俊
夫 ・
概 説
フ ラ
ン ス
法 上
︵ 昭
五 ︱
︱ ‑
) 五
二 九
頁 に
よ っ
た︒なお︑フランスでは︑贈与は原則として要式行為であり︑贈与証書が公証人によって作成され︑かつ︑受諾もまた公証
証書によってなされなければならない︵仏民九三一条︑九三二条参照︶︒従って︑現実の手渡しによる贈与や︑私署証書に
よってなされたものは、本来無効であるが、判例は、これらも有効と解する(山ロ・同書五二七頁•五二九頁参照)。(4 )M az ea ud , o p . c i t . ,
n•
1 64 6 , p . 8 33 .
であると規定した︵仏民八六九条︶︒ して︑新たに︑もしも贈与額が他の財産を獲得するのに使用されたならば︑購入された財産の価額が持戻されるべき
関 法
第三二巻第三•四•五合併号
ニ 四
二
し か
し ︑
︵ 五
八
0)
これら
フランス法に於ける特別受益の持戻し財産について
( 5 1 ) R i p e r t e t B o u l a n g e r , o p
c i t . .
, t . 4 , n ︒
2 8 8 3 , p . 9 0 6 . ( 6 ) J u l i e n , o p . c i t .
, n ︒
, 3 9 p . 4 . ( 7 ) M a z e a d u , o p . c i t . , n ° 1 6 6 4 , p . 8 3 3 . ( 8 ) C i v 3 . m a i 1 8 6 4 ,
D .1 8 6 4 . 1 . 1 7 3 ; R e q .
1 1
j a n v . 1 8 9 7 ,
D .1 8 9 7 . 1 . 4 7 3 ; i C v . 1 " ,
3 n o v . 1 9 7 6 , e S m . j u r 1 . 9 7 8 .
I I .
1 8 8 7 1 ; ( 9 ) M a z e a u d , o p . c i t . , n ︒
1 6 5 6
̀ p . 8 3 9 . ( 1 0 ) J u l i e n , 0 p . c i t . ,
n ︒
3 9 , p . 4 ; M a z e a u d , 0 p . c i t . , n
° 1 6 4 6 , p . 8 3 4 . ( 1 1 ) A u b r y e t R a u , o p . c i t . ,
§
6 3 2 , p . 3 0 2 . ( 1 2 ) R i p e r t e t B o u l a n g e r , o p . c i t . , n ︒
2 8 8 2 , p . 9 0 5 e t s . ( 1 3 ) C i v .
1 0 n o v , 1 8 5 2 ,
D .P .
5 2 . 1 . 3 0 7 ; R e q .
1 1
j a n v . 1 8 9 7 ,
D . P .9 7 . 1 . 4 7 3 , n o t e L o u i s G u e n e e
; C o l m a r , 1 8 f e v r . 1 9 5 8 ,
D .1 9 5 9 . S o m m . 3 7 .
四誌合はあらゆる手段によって証明されうるが︑とりわけ推定が重要である
< l !
( D .
1 9 5 9 . S o m m . 3 7
)
︒( 1 4 ) J u l i e n , o p . c i t . , n
︒4 0 ' p . 4 .
( 1 5 )
稲本洋之助他訳・フランス民法ー家族・相続関係ー︵昭五三︶二五九頁参照︒なお︑本稿は︑フランス民法の条文訳とし
て、稲本他による訳書及び木村健助•仏蘭西民法
11
財産取得法①(昭=二)を用いることにする。但し、適宜訳を変えたところ もあ る︒
( 1 6 )
木村・前掲書一六一頁参照︒
( 1 7 )
仏民法二0四条は︑﹁子は︑嫁資その他︑独立職業の資本を求めるため︑自己の父や母に対して訴を提起できない﹂と規
定している︒かつて︑ローマ法
1 1
成文法地方では嫁資を付与するのが親の義務であった︒( 1 8 ) J u l i e n , o p .
c i t .
, n ︒
4 6 , p . 4 . ( 1 9 ) C o l i n e t C a p i t a n t , C o u r s e l e m e n t a i r e d e d r 0 i t c i v i l f r a n 1 , a i s , t . 3 , 1 9 5 0 , n ° 1 2 2 4 , p . 6 3 2 ; R i p e r t e t B o u l a n g e r , o p . c i t . , t . 4 ,
n ︒
2 8 9 1 , p . 9 0 9 , ( 2 0 ) J u l i e n , o p . c i t .
, n ︒
4 8 , p . 4 ; M a z e a u d , o p . c i t .
, n ︒
1 6 7 8 e t s . , p . 8 5 4 e t s . ( 2 1 ) M a z e a u d , o p . c i t . ,
n ︒
1 6 7 9 , p . 8 5 4 . ( 2 2 ) M a z e a u d , 0 p . c i t . ,
n ︒
1 6 8 0 , p . 8 5 5 .
ニ四 三
︵五 一八
︶
に返還しなければならず︵仏民八二九条︶︑
すなわち︑被相続人から借金をしていた者は︑これを相続財産
︵仏民八五一条︒傍点ー筆者︶︒これが︑ いわゆる﹁負債︵もしくは債務︶の持戻もし 斡
(23 )M az ea ud
̀o p. ci t . ,
n︒
16 81 ,p .
85 5. e t s .
( 2 4 )
判 例
に は
︑
C iv .2 m
ai 1
89 9,
D
.
P .
99 .
1 .
50 5,
S
.
19 00 .1 .
81;
C iv . 28
n ov . 1 91 0,
D
.
P .
19 12 .
1 .
5, n o t e H en ri Ca p i ta n t ,
S .
1 91 3.1 .
81 ,
n ot e
A .
Es me in;
が
あ る
︒
(2 5) Ju li en , o p . c i t . , n︒48 ,p .
5.
(2 6) Ri pe rt et Bo ul an ge r, 0p . c i t . , t .
4,
n
°
s 194
e t s ; p .
67
e t s ; Ma ze au d, o p . c i t . ,
n
︒
16 82 ,p .
85 6.
(2 7) Ju li en , o p . c i t . , n
︒
47 ,p .
4;
Ba ud ry ,L ac an ti ne r ie e t Wa hl , T ra i t e t h eo r i qu e e t p r a ti q u e de D r o it C iv i l t .
I X ,
19 05 ,
n
︒
27 52 ,p .
239;
Co li n e t C a p it a n t, o p . c i t . , t .
3,
n
°
12 24 ,
p .
633
; M
az ea ud ,0 p. ci t . , (2 8) Ju li en , o p . c i t . , n
︒
47 ,p .
4;
Au br y et Ra u, o p . c i t . ,
§
63 1, p .
295;
C f . Ma ze au d, o p . c i t . , n
︒
16 49 ,p .
83 6.
(2 9) Mi ch el Da go t, e L nou ve au r o d i t d es s uc c e ss i o ns , 1 97 2,
n︒
7 1 ,
p .
53
( 30 )
先 取
式 ・
控 除
式 に
つ い
て は
木 村
・ 前
掲 書
一 六
八 頁
を 参
照 ︒
債務弁済のための贈与
フランス民法上の規定
` ー
︵ ー ︑
わが民法と大きく異なる規定として︑
める規定にしたがって︑
九条︒傍点ー筆者︶︒﹁持戻しは︑共同相続人の一人の自立のために︑
のについて義務付けられる﹂
( 1 )
(R ap po rt e d s d et te s)
﹂といわれているものである︒
また被相続人が︑当該相続人の債務を肩代りしていた場合︑相続が開始 するとあらためて当該相続人が債務を自分で引受けなければならないこと︵仏民八五一条︶になるわけである︒
関法
フランス民法は︑次のような規定を設けている︒ ︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑
その者に対して行われた贈与及びその者が負っている金額を遺産総体に持戻す﹂
︑︑︑︑︑︑︑︑︑︑
又はその者の負債の支払いのために用いられた
︵ 仏
民 八
第三二巻第三•四•五合併号
﹁各共同相続人は︑後に定
ニ 四
四
︵ 五
八 二
︶
フ ラ
ン ス
法 に
於 け
る 特
別 受
益 の
持 戻
し 財
産 に
つ い
て
ニ四 五
歴史的経緯
︵ 五
八 三
︶
負債の持戻し起源は︑親︵貸主︶が子︵借主︶に金銭消費貸借した事例に関する一六世紀の︒ハルルマン
n t )
の判例の中に見出される︒当時において︑親は︑しばしば子の生活独立に際し相続分の前渡しの目的で撤回不能
︑ ︑
︑
の贈与を公然と行なう代りに︑親の権威をいつまでも保っために︑都合の良いときに返還請求できた金銭消費貸借の
形で︑子に贈与を行なっだ︒従って︑子に認められた消費貸借は︑相続分の前渡しとしての贈与を設定したと推測さ
れ︑また︑遣産分割の際に︑子は親に対する自己の債務を弁済するのではなくて︑贈与を持戻すべきである︑
ことになる︒そして︑初期の概念では︑負債を持戻す義務は︑被相続人が行なった恵与あるいは間接的利益の持戻し
の一適用にすぎなかった︒ いずれにせよ︑このように︑もともと負債の持戻しは︑親子間の消費貸借から生じた負債
に制限されていた︒しかし︑後に︑負債の持戻し義務者は︑パルルマンによって︑子から傍系血族にまで拡大され︑
分割平等の担保とされた︒そして︑
一 八
0 四年の民法典は︑相続人間の衡平化のために︑負債の持戻し規定を設け︑
相続人が被相続人に有する全ての負債を持戻しの対象にした︒
( 2 )
しかし︑その八二九条︑及び八五一条は︑
( P
臼
・ l
e m e ,
という
いずれも極
めて簡単なものであり︑これら一一条文以外に︑特に負債持戻しに関する規定は設けられなかったので︑その性質︑範
囲などについては判例・学説並びに実務の発展に負う所が大きい︒もっとも︑学説は︑民法典制定以来長い間︑これ
0 条及び八六三条で︑負債の持戻し規定を設けるところまで行ったが︑ 一九世紀の後半に至ってのことで ら両規定について検討を加えるところがなく︑本格的な議論がはじめられたのは︑
( 3 )
ある︒その間︑及び︑その後においても︑むしろ︑判例並びに実務が︑この負債の持戻し法理の解明に大きな役割を
果したといえよう︒そして︑今回の民法典改正委員会も︑多くの点で判例理論を是認し︑これに基づいて草案の八六
一九七一年改正法では︑結局︑負債の持戻し
に持戻さなければならない︵仏民八二九条は︑ なる働きを有しているかをここで検討してみたい︒
第三二巻第三•四•五合併号的根拠を八五一条と新改正規定の八六九条︵金銭贈与の持戻し︶に求めようとする学説がある︒これは︑旧八六九条
が﹁贈与金銭﹂としていたのを︑新八六九条で﹁金銭額の持戻し﹂と改めたから︑八六九条は贈与のみならず︑貸与
( 5 )
の場合にも適用されるからだ︑という考えによる︒
現実的機能
X
は︑結局︑自己の本来の相続分四万フラン
一 八
0 四年立法時のまま︑今日に至っている︑︒なお︑現在では負債の持戻しの法
この負債の持戻し制度は︑共同相続人間の衡平化を図る一手段として設けられたものである︒それが︑実際にいか
( 6 )
マゾーの提出した具体例をもとに検討してみることにする︒
被相続人
Aが︑相続人として
Xと
Yの二人の子︑及び六万フランを残して死亡したが︑
Xは ︑
A
に二万フランの債
務を負っていた︒この場合︑分割しうべき遣産総体︵額︶︵
ma ss e pa rt ag ea bl e)
は︑六万フランに二万フランを加え
た八万フランで︑・各々の相続人の本来の相続分
(p ar t)
は︑八万フランの二分の一︑すなわち四万フランずつという
ことになる︒相続人
Xは︑もともと被相続人
Aの債務者であるから︑自己の負債額
1一万フランを︑差引きで遺産総体
﹁負債の持戻し﹂を﹁贈与の持戻し﹂の一般規定に従わしめているの
で︑差引き持戻しに服する︶︒差引き持戻しは︑計算上の操作なので︑
から
1一万フランを引いた残りの二万フランのみを取得することになる︒従って︑
ラ ン
は ︑
X
の共同相続人 y が取得することになる︒すなわち︑
フランである︒かくして︑
( 3 )
規定には何等の改正も加えられず︑
関法X
によって計算上持戻された二万フ
y の結局の相続分は︑自己の本来の相続分通りの四万
y の相続分は︑侵害されることなく︑共同相続人
Xと y の乎等性は尊重されることになる︒
これが︑仮りに
Xが自己の債務の単純な弁済を実行するということになれば︑ y は︑他の相続債権者と競合するこ
ニ四 六
︵ 五
八 四
︶
フ ラ
ン ス
法 に
於 け
る 特
別 受
益 の
持 戻
し 財
産 に
つ い
て
ニ四 七
︵ 五
八 五
︶
とになり︑四万フランも取得できなくなる可能性が大きい︒より具体的にいえば︑この場合には︑分割すべき遣産総
体は︑六万フランであり︑共同相続人
X及びYの各々の本来の相続分は︑三万フランずつということになる︒また︑
被相続人
Aが相続人
Xに有していた二万フランの債権も各相続人に平等に分割され︑
つ ま
り ︑
を︑自己の共同相続人
Yに一万フランをそれぞれ弁済しなければならない︒
地位との混同により︑差引き零となり︑ただ共同相続人 y に弁済する一万フラン分だけ︑結局の相続分が減ることに
なる︒問題は y である︒共同相続人
Yは︑他の債権者と競合関係に入ることになり︑例えば︑千フランの配当金のみ
を獲得するにすぎないということも起りうる︒従って︑この場合︑平等性は尊重されないことになる︒すなわち︑債
務者である相続人
Xは ︑
人
Yは三万一千フランしか受取れないことになりかねない︒
以上のように︑負債持戻しの意義は︑相続人間の平等化のために極めて大きいものといわざるをえない︒くり返し
ていえば︑被相続人に対する債務者である相続人が︑自己の債務を遺産総体へ弁済できない場合には︑債務者の共同
相続人は︑その債務を持戻してもらう方が︑相続人︵債務者︶の人的な債権者に優先することから︑極めて有利とな
る の
で あ
る ︒
負債持戻しの法的性質 X•Y
とも一万フランずつ取得x .
y
とも四万フランを取得することになる︒しかし︑債務者である相続人
Xは︑自らに一万フラン
X
に関しては︑債権者の地位と債務者の
四万フランの利益を取得し︵三万フラン+自己の債務について一万フラン︶︑ その共同相続
負債持戻し法理の現実的機能は︑右にみた通りであるが︑その法的性質に関して︑フランスの学説は三説に分かれ
ている︒第一説は︑歴史的な伝統に最も忠実な考えで︑負債の持戻しをもって︑恵与の持戻しの一種に他ならないと
( 4 )
す る
︒
渡税
( d r o
i t s
d e
m u
t a t i
o n )
適用の範囲が広く解されやすい︒
第三二巻第三•四・五合併号つまり︑この説は︑共同相続人中のある者が︑被相続人に債務を負って相続開始時までに弁済しなかった場
合には︑その債務を相続分の前渡しとみるべきだとする︒ いいかえれば︑第一説によると︑負債の持戻しとは︑被相
続人の債務者である相続人による弁済不能の危険を防止すべく︑債務者の相続分を減らすことにより︑他の共同相続
人との間で平等性を維持しうる保証手段であるといえよう︒ したがって︑この説によれば︑持戻し適用の範囲は︑制
第二説は︑負債の持戻しをもって分割を衡乎に行なうための容易な︑ かつ手っ取り早い︑単なる清算方法と解する︒
ここにいう清算方法とは︑相続人︵債務者︶が被相続人︵債権者︶に負っていた債務を︑相続人の相続分から控除す
るやり方である︒もともとは︑持戻しというよりも弁済的色彩を強調した考え方であった︒この説によれば︑持戻し
これら第一•第二説以外に、