トー 高 岡短 期 大 学 紀 要 第1 9 巻 平 成16 年3 月 B ull.Taka okn N ati o nal College,γol.1 9,M a r ch 2 00 4
我が国の製造 部 門に おける労働生産性の
地域 問格差に閲する要 因分析
‑ バ ブル崩壊から9 0 年 代後半の動 向につ いて ‑
小柳津 英知一
要 旨
現 在、 日本経 済は 一 般物価 水 準が低下 を掛ナる デ フ レの状態にある。 このような中で, ①バブ ル発生 と その後のリス トラが, 本社 等の間接部 門 を含ま ない製造部門の生産性に与えた地 域 別影 響と②デ フ レ の進行と労働生産 性の地 域 間格 差へ の影響につ いて把 握 する事を 目的と し た。
そのた め 「工業統 計 表」 の デ ー タを利 用し, 1 4 地廟区 分に従っ た労 働生産 性の諸 要 因の地域 間 格 差につ いて 19 95 年 ‑ 2 0 0 0 年の変 動 係 数の水 準と推 移につ いて検 証卑行っ た。 観 測事実は以 下
の通 りであるo ①製造 業の従 業'B i 人当 り 名目貸 金の地域 間 格 差は‑
1 9 9 5 年以薩縮 小 傾 向にある。
②し か し従 業 月1 人当 り 貸金に影 響を与え る労働生産 性につ いて見ると、 その地 域 間格 差は 縮 小
し た ものの依然 と して大きい水 準にある。 ③ 労働 生産 性につ いて付 加 価 値分析の手 法を 用いた 要 因分解を行うと、 付 加 価 値 率の地 域周格 差は 小 さく, 資本 ・ 労 働比率の地域間格 差は1 9 8 0 年か
ら 一 貫‑して縮 小基調にあり、 2 0 00 年には半 減してい る. ④ 有 形固定 資産回転 率の地域間格 差は、
付加価 値 率よりも高 く、 1 9 9 5 年以降、 徐々 に高まりつ つ ある。 し た がっ て 1 9 9 5 年以降に労 働生 産 性の地 域 間格 差が 縮小しつ つも高い水 準にある のは、 有形固定 資 産回転 率の地 域 間格差にある と考 えら れる. 従 業員 規 模 別に見ると、 従 業 員 規模の大きい製造 部門において,■労 働生産性と そ の要 因の地 域間 格 差が大きい事が明ら か に なっ た占 業 種 別ではr
「 加工組立型」 と 「 素 材型」 の両 方で労 働生産 性の地 域 間格 差は縮小 してい るが、 「 素 材型」 の地 域 間格 差の水 準は依然 と して大 きい. 「 素′材型」 の労働生産 性の地 域 間格差 が大きいのは、 「 加工組立 型」 に比較し た付 加 価値 率 と資 本 ・ 労 働比率の地 域間 格 差が 大 きいため であ る辛が明ら かになっ た。
注目 さ れる こと は、 我が国の製 造部門全体では, 付 加 価 値 率の催そのものは1 9 8 5 年の水準を 上 回っ て いる ことである。 ま た、 資本 ・ 労働比率の低下 と資 本 ・ 労 働比率の地 域 間格 差の縮 小 が 同時 進行してい る事である。 これ は、 資 本効 率を 上げる た め各地 域で 「 素 材型」 業種を中心にリ
ス トラ によ る設 備廃 棄が進 行し た た めに生 じ たものと考え ら れる。 以 上の事か ら、 日本の製 造 部 門においては過 剰 設備の存 在が資本生産性を押し 下げ、 労 働 分配率の上昇を防 ぐ目 的で名目貸金
の上昇が抑え ら れ、 結果 と して 1 人当たり名目賃金の格 差を 縮 小 さ せて いる可能性が 大 きいと考 え ら れ る。
キー ワ ー ド: 製造部門 地 域 問格差 労働生産 性 要素価格 均 等化 変動 係 数 付 加 価 値分析
* 地 域ビジ ネス学科
I . 問 題の所在
1 . I , バブル発 生とその後のリスト ラ が製 造 部門の生 産 性に与え た 地域別 影 響の把握 現 在 (2 0 0 3 年 未) 、 日本 経 済は平 成 不 況の影 響に よ る低 迷を続 け、
一 般 物 価 水 準の継 続 的 低下 が 生 じる デフ レ状 態にある。 1 9 9 9 年 ( 平成1 1 年 皮) の 『経 済 自書』 は現 在に至る不 況の原 因に
つ いて、 雇用 ・ 設備 ・ 債 務に お ける過剰の存 在、 すなわち 「三つ の過剰」 がバ ブル崩 壊 後の 日本 企業の収益 を 圧 迫 して い ると 分析し た が, その後、 金 融 ・ 保 険業, 建 設 業、 小売 業な どほ ぼ全て
の業種で リス ト ラ に取 り 組む 企業が多 数見ら れ た。
特に製 造業で は、 鉄鋼、 石油化 学 等の素 材型業種を 中 心に 工場 売却 ・・閉鎖、 事 業売 却 ・ 撤 退に
よ る設備 廃 棄が進ん でい るのが特徴である。 最 近 まで、 我が国で は 「工場三法」 等に よ って大 規 模な工場 ・ プ ラ ント等の製 造部門の立 地は政策的に都 市圏の外に促 進され、 バ ブル景 気時に お い
ても積 極的 な設備 投 資が 地方圏 を 中 心に行わ れ てきた. ( 注1)
バブル崩 壊 後の設備 廃 棄お よ び雇 用 調整が, 製 造現 場にあ たる製造部門の生 産性に、 景気 拡大 期と 比 較し て どのような影 響を与えて い る か につ い て分析を行う。
1 . 2 , デフレの進行と労働生産 性の地域間格 差へ の影響の把握
次に, 日本 経済が 長期間デフ レに陥って い る大 き な 原 因 と して、 中 国尊からの労 働 集約的 な製 品の輸入 拡 大 を挙げ られ る辛が多い。 す なわち、 現在の日本に比較して賃金の低い中 国等からの 労働集 約的 な 製 品輸入は、 間接的に安 価な労 働 力を 大 量に輸入 してい ることであ り、 それ に よっ
て 日本の名目賃金 も 下 が り、 物 価水 準も 下落を続けるという解 釈である。 これは、 完全な自由 貿 易が成 立する場 合は生 産 要素の価格、 すなわち貸金、 資本収益率、 地代な どは均 等化する傾向に あるという国際 貿易 論の 「要素価 格 均 等化 定理」 の論理 を適用 して い ると 言 える。
こ の論理に従えば、 1 9 9 0 年代 後 半の日本の製造部門は労働 集約 的な製 品 輸入の拡 大の中, 雇 用削減が進 行する中、 名目賃金は低下 し、 一 方で資本 収 益 率は上昇していくはずである。 ま た、
そ も そ も国と 国の 間より も 生産要 素の移動がは るかに自 由な国内の地 域 間の要 素価 格, 特に貿易 財 を 生 産 して い る製造部門の貸金 と労 働生産性は地 域 間で均 等 化の傾 向を示すはずであり, その 点を確 認 する必要がある ( 注2)0
国 内の地 域経 済間に貿易 論を適用し た先行 研 究は少なくない。 例 えば徳 剛2 0 0 2】は、 我が国を 地 域 間 産業連 関表の 区 分に従っ て全国 を9 地 域に区 分し、 1 9 9 5 年 時 点のデ ー タ に基づ いた土 地 と労働力の既存量 と相 対 価格の 関係から、 地 域経 済問に ヘ ク シヤ ー ‑ オ リ ー ン モデルが妥 当する と 結論づけて い る. その他にも 要素 価格 均 等化命題の適応 を実証 しようと試み た研 究は存在 する.
これらは いずれも 地 域 間 及び産業間の労働 移 動の可能 性を低い ものと仮 定して い る。 実際、 我が 国の非製 造業に おいて は参入 親 制の存 在から産 業間で生 産要 素の移 動の可能性は小 さい。 例 え ば 金 融保険業の営業職 と製 造 部門の製造 職 (製 造 現場の単純 労 働 者、 .技 能工など) の 間の代 替は非 常に困難である が、 製造部門の製造 職内に おける代 替は比較 的 容易である辛が 既存の調査から も 明 らか になって い る ( 注3) 。 こうい っ た事かち、 産 業全体で はなく 製造 業, 特に本社や営 業 所 等の 間凄 部門 を 除いた製造部門に おける地 域 間の貸金格差を、 労働移動の可能性は高い もの と し て分析した方が現実 的で はないかというのが本稿の問遺意 識である。
I . 3 , 観測車 実の把撞
これ まで述べ てきた問 題意識から、 本稿で は, 国 内の製 造部門 を対 象に① 今回の長期不況の発
我が国の製 造 部 門にお ける労 働 生 産性の地 域 間格 差に関 する要 因分 析 1 0 5
生と リス ト ラの中、 名目賃金と製造 部 門の効 率性を 示す 労働生産性の地 域 間格差は縮 小 ・ 不変 ・ 拡 大のい かなる傾向を 示 してい るのか、 ② 労 働生産性を 決め る諸 要因の動きと地 域 間格 差は どの
ようになっ てい るか、 の 二点につ いて、 観測事 実を明ら かにするものである。
2 . 製 造部門に おける労働生 産性の地 域 間格差分析に用い るデ ー タ と計測 方 法
2 . 1
, 「エ業統 計表」 ( 経 済産業省) に基づく 労働生産性の把撞
本稿で は、 製 造 部 門の労働 生産性の地 域 間格差 を計測 する地 域 別デ ー タ と し て、 経 済産業省の
「工業統計 表 (産業編)」 のデ ー タを 用い る。 その理由は以 下の 二点である。
①デ ー タ は全て生デ ー タ で把握され て おり、 「 県民経済計 算」 のように推 計値が 用いられ ていない。
② 製 造部門に所 属 する事 業所の内、 本社 横 能 ( 部門) や営 業 及び販売 機 能 ( 部門) のみを行う 事 業 所は除外さ れており、 純粋に製 造 機能 ( 部門) のみを行う 事 業所を対 象と して い る。
ただ し、 「工業統計表 (産業編)」 は従業 月 数4 入来 満の事 業所のデ ー タを含まず、 日 本 中の製 造部門の事業 所を完全に カバ ー して いない のが短所である。 従業員 数4 人未 満の事 業所の従 業月
が従 業 員全体に占め る構成 比は 1 9 9 0 年で約5.2 % に達 してい る た め全体を捉えてい る と は言え ない。 し か し、 後述の ような要因 分 解を行うに は関 連デ ー タの揃っ た 「工業 統 計 表 ( 産 業編) 」
の利 用 が有用であり、 全体を捉 える 一 次近似と して は問題 が ないと考 えられ る. その ため 「工業 統計 表 ( 産 業編) 」 に基づく観測事 実の把握を行うものである ( 注4)0
2 . 2 , 「 変動係 数」 に基づく地域間格差の評価
地 域 間格 差の計測方法として本箱で は変動 係 数を 用い る ことにする。 その理由は、 1 人当り県 民所 得の地 域 間格 差の指標な ど他の多 くの実 証研 究でも採用 され て おり、 これらのデ ー タの変 動 係 数の水 準 値と製 造 部門におけるそ れ を 比較 する辛が 可能なた め である ( 注5)。 変 動係 数の定 義は以 下であり、 こ こ で標 準 偏差は記述 統計に基づく。
変 動係 数 標 準偏 差 平 均値
2 . 3 , 付加価 値分析による要 田 分 解
地 域 間格差の原 因 を 分析 する手法として, 地 域の生産関 数や地 域 間 産業連 関表を 用 い る手 法が ある。 これ らの場 合に は、 次 節に述べ る地 域区 分ごとのデ ー タの収 集が 困難なこと、 それ らの先 行研 究は多 数あること か ら、 本稿で は付加 価 値分析に よ る要因 分解を行い, 要因ご との変 動係 数 を算出 して, 格差の評 価を行う。
2 . 4 , 地域区 分の設定
・ 地 域区分を どう 設定 する か は、 地 域間格差の把 握を 目的とする場合、 非常に重 要である。 い わ
ゆ る 「地 域経 済」 の比較を行 う 際に, 単 純に 4 7 都 道府 県を 地 域区 分と して計 測を行っ て い る例 が多 数あるが、 本 稿で は 4 7 都 道 府 県を地 域 区分と して採用 し ない。 その最 大の理由は、 4 7 都 道 府 県 区分で は、 多くの場 合, 面 積が小 さすぎて経 済圏域 とほとん ど‑ 改し ない と考え ら れる から
である. 特に地 域内の資本と労 働の厳存を考 える上で、 近 隣県は現 実に通勤 圏である場 合が多い 事を考慮 すると, 区分 と しての意 味が はなはだ弱い。 特に東 京, 大 阪な どの大都 市で は集積の利