九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
高効率化に向けた太陽電池用多結晶シリコン結晶育 成過程に関する研究
中野, 智
https://doi.org/10.15017/1441346
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(工学), 論文博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
平 成 2 5 年 度 博 士 論 文
高効率化 高効率化 高効率化
高効率化に に に に向 向 向 向けた けた けた太陽電池用多結晶 けた 太陽電池用多結晶 太陽電池用多結晶 太陽電池用多結晶 シリコン
シリコン シリコン
シリコン結晶育成過程 結晶育成過程 結晶育成過程 結晶育成過程に に に に関 関 関 関する する する する研究 研究 研究 研究
中野 智
目次
目次
第
1
章 序論... 1
1. 1 研究背景 1
1. 2 太陽電池の種類と特徴 3
1. 3 太陽電池の変換効率と結晶欠陥,および不純物との関係 5
1. 3. 1 多結晶シリコン太陽電池の変換効率低下の要因 5
1. 3. 2 転位密度と残留応力 5
1. 3. 3 不純物の混入経路 10
1. 3. 4 軽元素不純物と太陽電池の変換効率 12
1. 3. 5 重金属不純物と太陽電池の変換効率 13
1. 4 研究目的 20
1. 5 論文の構成 21
第1章 参考文献 23
第
2
章 計算方法... 26
2. 1 はじめに 26
2. 2 基礎方程式 29
2. 2. 1 熱輻射の支配方程式 29
2. 2. 2 融液および構成要素内の支配方程式 35
2. 2. 3 一般座標系 36
2. 2. 4 離散化 39
2. 2. 5 圧力補正式 43
2. 2. 6 行列解法 46
2. 3 計算モデル 48
2. 3. 1 計算格子 48
2. 3. 2 熱伝導面 50
2. 3. 3 熱輻射面 51
2. 4 境界条件 54
目次
2. 4. 1 速度の境界条件 54
2. 4. 2 温度の境界条件 55
2. 4. 3 熱伝導面における伝熱 56
2. 4. 4 熱輻射面における伝熱 59
2. 4. 5 固液界面の移動 60
2. 5 物性値 63
2. 6 酸素濃度計算 69
第2章 参考文献 71
第
3
章 酸素濃度分布に対する加熱方法の影響... 72
3. 1 炉内構造および加熱方法 72
3. 2 ヒーター電力履歴,および融液・結晶の温度・流速分布図 74
3. 3 融液および結晶中酸素濃度分布の結果と考察 87
3. 3. 1 加熱方法と酸素濃度との関係 87
3. 3. 2 酸素蒸発量および酸素溶出量の求め方 90
3. 3. 3 加熱方法と酸素蒸発量,酸素溶出量との関係 93
3. 3. 4 坩堝壁面近傍の対流の向きと結晶中酸素濃度との関係 96
3. 4 まとめ 103
第3章 参考文献 104
第
4
章 酸素濃度分布に対する坩堝回転の影響... 105
4. 1 融液内酸素濃度と坩堝回転との関係 105
4. 2 ヒーター電力履歴,および融液・結晶の温度・流速分布図 106
4. 3 数値計算結果と考察 118
4. 3. 1 坩堝回転数と酸素濃度との関係 118
4. 3. 2 酸素の蒸発流束と蒸発量,溶出流束と溶出量の計算方法 121
4. 3. 3 坩堝回転数と蒸発・溶出流束との関係 124
4. 3. 4 酸素の濃度勾配と融液対流との関係 127
4. 3. 5 酸素の蒸発量,溶出量の収支の坩堝回転数依存性 133
4. 4 まとめ 136
第4章 参考文献 137
目次
第
5
章 転位密度解析... 138
5. 1 はじめに 138
5. 2 基礎方程式 142
5. 2. 1 応力・ひずみ解析の基礎式 142
5. 2. 2 転位密度解析モデル 145
5. 3 計算手法 148
5. 4 境界条件 151
5. 5 物性値 153
第5章 参考文献 154
第
6
章 転位密度・残留応力に関する考察... 155
6. 1 はじめに 155
6. 2 転位密度と熱流束の関係 155
6. 2. 1 転位密度と熱流束の関係 155
6. 2. 2 加熱方法について 161
6. 2. 3 ヒーター電力履歴,および結晶の温度履歴 163
6. 3 結果と考察 168
6. 3. 1 加熱方法と転位密度との関係 168
6. 3. 2 熱流量と結晶中の熱エネルギーの変化量について 173
6. 3. 3 上部ヒーターと転位密度,残留応力との関係 176
6. 3. 4 冷却速度と転位密度,残留応力との関係 178
6. 4 まとめ 182
第6章 参考文献 183
第
7
章 総括... 184
謝辞研究業績
序論
1
第
1
章 序論1. 1 研究背景
現在,我々は「化石燃料の枯渇」,「地球温暖化」,「環境破壊」という深刻なエネルギ ー問題,環境問題に直面している.石油は約40年,天然ガスは適切な価格で購入でき る条件の下では,約60年で枯渇するといわれており,また2011年に起きた東日本大震 災後の原発問題により,原子力発電に対する信頼も大きく揺らいでいる.主要先進国で は,ドイツが2022 年までに国内の全ての原子力発電所の稼働を停止すると発表し,脱 原発に舵を切った.2005 年2 月には,先進国に対して二酸化炭素を含む温室効果ガス の排出量の削減が義務付けられている京都議定書1)が発行され,2008年6月の洞爺湖サ ミットでは「2050 年までに温暖化ガスの排出を半減する」との長期目標が掲げられた
2).このような状況の中,二酸化炭素を排出せず,クリーンで環境にやさしいといった 利点をもつ自然エネルギーへの期待が益々高まっている.特に,太陽光発電は風力発電 のような大規模な装置が必要ではないために,2100 年頃には世界の一次エネルギー供 給の過半を太陽エネルギーの利用(発電)で賄うとの予測もある.Fig. 1-1にNEDOが 発表した 2030 年に向けた太陽電池のロードマップ(PV2030)における,各国の太陽電池 の年間生産量および導入量の推移を示す3).図より,太陽電池の生産量は近年急激に増 加していることがわかる.また2013年の世界の太陽電池需要は,前年の29GWから7%
成長の31GWに達する見通しであり4),今後も更なる需要拡大が見込まれている.
Fig. 1-2に太陽電池の使用例を示す.太陽光発電は,身近なものとしては住宅用太陽
光発電システムや電卓,時計,ソーラーカーなどとして利用され,大規模なものとして は太陽光発電所や各種衛星発電装置として利用されるなど,幅広い分野で活用されてい る.太陽光発電はまだ経済性や利便性に多くの課題があるが,エネルギー問題,環境問 題に対して国際的に貢献できうるものであり,また将来の日本の産業としても重要であ るため,今後も更なる技術開発の推進が必要である.
序論
2 1.
Fig. 1-1 Production of solar cells3).
Kyushu National Museum Kyushu Electric Power Co., Inc.
Fig. 1-2 Photographs of Solar Cell (@Kyocera).
序論
3
1. 2 太陽電池の種類と特徴
太陽電池は,材料となる半導体のバンド・ギャップよりもエネルギーが高い(波長の 短い)光子を吸収し,電子と正孔の対を生成し,分離することで電流を取り出す装置で ある.従って,太陽光スペクトルに合致したバンド・ギャップを持つ材料を利用するこ とが前提となる.Fig. 1-3に現在の主な太陽電池材料による分類を示す5-8).太陽電池と いっても,低コストなものから高性能なもの,フレキシブルなものやカラフルなものな ど,性能も形態も様々である.また,現在既に広く用いられているものから開発中のも のまで,様々な材料や構造を用いたものが存在する.太陽電池は,用いられている材料 で分類が可能である.細かく分類すると数十種類になるが,おおまかには図に示すよう なシリコン系・化合物系・有機系の3つに分類できる.最も広く用いられているのがシ リコン系であり,世界の太陽電池総生産量の約80%をシリコン結晶系太陽電池が占めて いる.最近量産され始めたのが化合物系である.また,開発中だが将来を期待されてい るのが有機系である.しかし,化合物系・有機系といった新材料の多くが研究開発段階 であったり,生産性やコストの面でいまだ問題が残るため,シリコン結晶系に代わって 量産化されるのは未定である.また,太陽電池の急激な需要拡大に伴い,シリコン原料 の供給不足が太陽電池産業の深刻な問題となっている1, 3, 9).このため,シリコン結晶系 太陽電池の更なる高効率化と低コスト化が求められている.
シリコン結晶系太陽電池の中でも,変換効率の面では単結晶シリコン太陽電池の方が 多結晶シリコン太陽電池より優れている10).Fig. 1-4に各種太陽電池の変換効率の変遷 を示す.多結晶シリコンの変換効率は,単結晶シリコンの 25%に対し,試作レベルで は最高変換効率が20.0%,商品では16.5%である.単結晶シリコンは,石英坩堝中にシ リコン原料をチャージし,カーボンヒーターで加熱溶解した後,上方に種結晶を引き上 げながら結晶を育成するCZ(Czochralski)法を用いて製造されている.CZ法を用いて作 製した単結晶は製造コストが高いため,単結晶シリコンを採用した太陽電池は,2007 年に全生産量の4割を下回った.一方,多結晶シリコンは,石英坩堝内にシリコン原料 を入れ,カーボンヒーターによって加熱溶解し,その後シリコン融液を冷却して結晶を 坩堝下部から上部に育成していく一方向性凝固法を用いて製造されている.一方向性凝 固法は,CZ 法と比較して原料コストも低く大量生産が比較的容易であるため,製造コ ストを低く抑えることができる.このため,変換効率と製造コストのバランスが良い多
序論
4
結晶シリコンが広く用いられており,全体のシェアの50%以上を占めている.近年では,
コスト面,変換効率面双方の要求に応えるべく,シリコン単結晶を種結晶として用いた 一方向性凝固法に関する研究開発も進んできている11, 12).このように,シリコン結晶系 太陽電池の課題である「高効率化」と「低コスト化」に対する要求は益々高まっている.
Fig. 1-3 Category of solar cell materials (@産総研 太陽光発電研究センター)8).
Fig. 1-4 Conversion efficiency of different type of solar cells (@NREL)13).
序論
5
1. 3 太陽電池の変換効率と結晶欠陥,および不純物との関係
1. 3. 1 多結晶シリコン太陽電池の変換効率低下の要因
電気的な要因による太陽電池の変換効率低下の原因は,主に基板となるシリコンイン ゴット中に生じる欠陥により生じることが報告されている14, 15).すなわち,シリコン原 料の融解プロセス,融解したシリコン融液から結晶育成を行う凝固プロセス,凝固後か ら室温までの冷却プロセスなどの結晶育成の各段階を改善することによって,シリコン インゴットの高品質化と太陽電池の変換効率向上が可能であると考えられる.シリコン インゴット中における太陽電池の変換効率を低下させる主な要因として,転位等の欠陥,
不純物の存在,結晶粒径の大小などが挙げられる.しかし,結晶粒径は1 cm程度あれ ば,少数キャリアの拡散長より十分大きいため,太陽電池の変換効率に大きな影響を与 えることは少ないということが報告されている16, 17).すなわち,転位等の欠陥,および 不純物が,太陽光によって発生する少数キャリアの再結合中心となり,太陽電池の変換 効率を低下させる原因であると考えられる.
本論文では,転位密度および不純物濃度の精密な制御を目的に,数値計算を用いた定 量的な解析を行った.
1. 3. 2 転位密度と残留応力
シリコンインゴットの結晶育成時,もしくは室温までの冷却過程において,転位の挙 動や増加の過程を実験で直接測定することは不可能である.これは,高温領域でのイン ゴット内部の転位の直接測定は困難であること,また,これを測定するためには,イン ゴットをスライスした後に X 線回折法や顕微鏡観察法を用いた観察・測定が必要なた めである.そこで,現在では転位の挙動,および増加のメカニズムを解明するために,
計算機を用いた数値解析が主流となっている.
Fig. 1-5に示すように,Möllerらは応力と転位との関係について報告している18).ま
た,ChenらやM. M’Hamdiらの数値計算によって,熱応力によって転位が生じること
が報告されている19-21).Fig. 1-6に転位密度の指標となるエッチピット密度と少数キャ リアライフタイムとの関係を示す16).転位密度が増加するに従って,少数キャリアライ フタイムが低下している.これは,転位が少数キャリアの再結合中心となることを示し ている.また,転位と結晶の塑性変形,および残留応力は密接に関係している22, 23).結
序論
6
晶内部の残留応力が増加すると,結晶育成中や切断時の破砕の原因となり,歩留まり低 下の要因となる.さらに残留応力の増加は,不純物の蓄積を促進させるという報告もあ る24).
現在,多くの研究者が数値計算による転位の解析を報告している.Fig. 1-7(a), (b)に
Frankeら25) による転位密度解析結果を示す.図より,転位密度がPhase 1,Phase 2で
増加し,温度が800℃以下のPhase 3で転位密度が一定になるということが報告されて いる.また,Fig. 1-8に示すように,実験においても低温領域では転位速度が低減する ことが報告されている26).M. M’Hamdiらも,Fig. 1-9に示すような転位密度解析結果を 得ている21) .図より,凝固終了後の冷却過程初期において,転位密度が急激に増加し,
その後一定になることがわかる.これは冷却過程初期における結晶の冷却速度の急激な 増加が原因であると考えられる.しかし,これらの研究では,結晶内部の転位密度と残 留応力との関係の詳細についてはいまだ解析が行われていない.
本研究は,,,当研究室で開発された総合伝熱解析数値計算コード, 27-29)を用いて,得られ た結晶温度分布をHaasen-Alexander-Sumino(HAS)モデルに適用して,結晶育成および冷 却過程における転位密度,および残留応力に関する解析を行っている.Chen らは,3 次元総合伝熱解析,および坩堝に離型剤を塗布し,結晶と坩堝が固着しないという境界 条件を用いて,坩堝と結晶の固着防止に対する離型剤の影響について確認した 30).
Nakanoらは,結晶凝固終了後の冷却速度を変化させ,異なる冷却速度においても900 K
以下で転位の増殖が停止することを確認した31).Gaoらは,大口径の結晶の凝固過程に おける転位密度と残留応力の変化32),およびすべり系と冷却速度,そして転位の増殖と の関係を明らかにした33).さらにInoueらは,結晶育成および冷却過程における転位密 度と残留応力の関係について,数値解析を用いて明らかにした34).
このように,結晶育成および冷却過程における転位密度と残留応力の関係について,
多くの研究が行われており,その挙動が明らかになってきている.今後も転位の挙動と 残留応力との関係を理解するためには,より定量的な解析が重要と考えられる.
序論
7
Fig. 1-5 Topogram of the internal stresses (left) and the corresponding optical image of the etched surface of the same area (right) showing dislocation etch pits and twin Lamellas for a EFG wafer. (stress scale in0.1 MPa units)18).
Fig. 1-6 Relationship between EPD and minority carrier lifetime16).
序論
8
(a)
(b)
Fig. 1-7 (a) Simulated dislocation density distribution in a cross-section of a silicon ingot for reference solidification conditions. (b) Time history of raising dislocation density at a reference point in the ingot25).
序論
9
Fig. 1-8 Dependence of 60°dislocation velocity on impurity concentration at various temperatures26).
Fig. 1-9 Computed temperatures and dislocation densities for three locations (bottom, middle and top) in the ingot21).
序論
10 1. 3. 3 不純物の混入経路
太陽電池の変換効率を低下させる不純物として,軽元素では主に酸素,炭素,窒素が,
重金属では鉄,クロム,ニッケルなどが挙げられる.Fig. 1-10に不純物の混入経路を示 す.図に示すように,酸素は石英坩堝とシリコン融液との界面から石英が溶解してシリ コン融液内に混入する35).混入した酸素は融液対流によって融液表面に輸送され,SiO として蒸発し,結晶育成炉内の気相中をアルゴンガスの対流によって移動する.移動し たSiO は,炉内構造物である炭素製断熱材や炭素製ヒーターの高温部分と反応し,CO ガスが生成される.COガスも,結晶育成炉内の気相中をアルゴンガスの対流によって シリコン融液表面まで移動し,融液中に炭素として溶解する.代表的な軽元素不純物で ある炭素と酸素のこの移動プロセスは,BrownやGaoらによって報告されている36, 37). また,一般的に石英坩堝と育成後のシリコン結晶との固着を防ぐために,石英坩堝に 離型剤(Si3N4)を塗布する.離型剤には鉄などの重金属も含まれている.離型剤のシリコ ン融液内への溶解により,窒素および鉄が混入すると考えられる38, 39).
また,石英坩堝も重金属を多く含んでおり,坩堝の高純度化も非常に重要である.... 一方,近年の多結晶シリコン太陽電池の急速な需要拡大は,シリコン原料の供給不足 を引き起こし,シリコンの原料価格を高騰させており,太陽電池産業にとって深刻な問 題となっている.このため,低純度の原料の使用が増加している.Table. 1-1 に示すよ うに,低品質なシリコン原料には多くの不純物が含まれているため40),結晶中不純物の 増加という問題を引き起こすと考えられる.図中に記載されている MG-Si,UMG-Si,
SoG-Si とは,それぞれ,金属級シリコン,高金属級シリコン,太陽電池級シリコンの
ことである.
序論
11
離型剤
(Si
3N
4)
石英坩堝(SiO
2) O
N Fe
CO SiO
ヒーター ヒーター ヒーター
ヒーター・ ・・ ・断熱材 断熱材 断熱材 断熱材 (C)
Si融液
Fe
Fig. 1-10 Schematic of impurity transfer in a furnace.
Table. 1-1 Impurities in feedstock silicon. MG-Si, UMG-Si and SoG-Si are silicon of metallurgical grade, upgraded metallurgical grade, solar grade, respectively40).
Impurities MG-Si UMG-Si SoG-Si
B 40 <30 <1
P 20 <15 <5
O 3000 <2000 <10
C 600 <250 <10
Fe 2000 <150 <10
Al 100-200 <50 <2
Ca 500-600 <500 <2
Ti 200 <5 <1
Cr 50 <15 <1
All values in ppmw
序論
12
1. 3. 4 軽元素不純物と太陽電池の変換効率
多結晶シリコンに含まれる酸素は,太陽電池の変換効率を低下させる代表的な不純物 の1つであり,シリコン原料中にも1016cm-3程度含まれる元素である40).シリコンイン ゴット中の酸素は,基板強度を強化するという特徴を持っているが,積層欠陥 41)(Fig.
1-11参照)や転位18) (Fig. 1-12 参照)を発生させる源となることが報告されている.Fig.
1-13に少数キャリアライフタイムと酸素析出物濃度42-44)の指標となるFTIR測定結果の 関係を示す.図より,酸素析出物の増加にしたがって,少数キャリアライフタイムが急 激に低下していることがわかる.このような複合欠陥が,キャリアの再結合中心となり,
太陽電池の変換効率低下を引き起こす要因の一つとなっている.シリコン単結晶の代表 的な育成方法の一つであるチョクラルスキー法では,酸素が石英坩堝からシリコン融液 に溶出することで,シリコン融液内に混入することが報告されている45).同様に,多結 晶シリコンの代表的な育成方法である一方向性凝固法における酸素混入過程について
は,Matsuoらが化学熱力学を用いた酸素の混入機構について報告している35).これは,
離型剤として用いられているSi3N4が,石英坩堝(SiO2)と化学反応することで SiO を発 生させることが原因であると考えられている.また,チョクラルスキー法で Togawa, Liuらによって,酸素の蒸発機構が報告されている46, 47).このように酸素の混入経路を 解明し,いかにして結晶中の酸素濃度を低減するかが,太陽電池の変換効率にとって重 要である.
太陽電池用多結晶シリコンに含まれる炭素も,太陽電池の変換効率を左右する元素の 1 つである.すでに述べたように,シリコン結晶中の炭素は,CO ガスによってシリコ ン融液表面から融液中に原子状炭素として溶解する.炭素がシリコン融液中に固溶限以 上混入すると,SiCが析出することが報告されている48).Fig. 1-14に走査型電子顕微鏡
(SEM)によるSiC析出物の画像を示す38).SiC析出物がシリコンインゴット中に存在す
ると,セルのシャント抵抗49, 50)として働くためにリーク電流が生じ,発生する電流・電 圧を低下させることで,太陽電池の機能が低下する.また,SiCの強度はシリコンより 硬いため,Fig. 1-15に示すように,インゴットスライス時にワイヤーソーの破断の原因 となる51).
固溶限以上の窒素が太陽電池用多結晶シリコンインゴット中に混入した場合,Si3N4
が析出する52).Fig. 1-16に走査型電子顕微鏡(SEM)によるSi3N4析出物の画像を示す38). Si3N4は,SiCを析出させる核の役割を持つことが報告されている38).また,SiCやSi3N4
序論
13
などの析出物が微結晶領域中で多く観察されており,析出物の形成と微結晶領域の形成 には関連性があると考えられている53).一方向性凝固法によって育成した多結晶シリコ ンインゴット中に,結晶粒径が 1mm 以下の微結晶領域が観察されることがある.Fig.
1-17 に結晶粒径と少数キャリア拡散長との関係を示した実験結果を示す 54).図より,
結晶粒径が1mm以下では,少数キャリア拡散長が短くなっていることがわかる.すな わち,微結晶領域,および窒素析出物の低減は重要である.これまでにも,Fig. 1-18, 19 に示すようなSi(l)-N二元系相図,Si(l)-N-O三元系相図を用いた濃度計算が行われてお
り55, 56),不純物濃度分布や析出物の形成が定量的に検討されている.
1. 3. 5 重金属不純物と太陽電池の変換効率
重金属不純物としては,鉄や銅,ニッケルなどが挙げられる.Fig. 1-20に少数キャリ アライフタイム,少数キャリア拡散長と重金属不純物濃度との関係を示す57).図より,
重金属不純物濃度が増加するにしたがって,少数キャリアライフタイム,少数キャリア 拡散長が低下していることがわかる.重金属不純物の代表的な不純物である鉄について は,蛍光X線分析(XRF: X-ray Fluorescence Analysis)による濃度分布測定58),およびFig.
1-21(b)に示すような数値計算による濃度分布解析59)の報告がある.Fig. 1-21(a)は,少数
キャリアライフタイム分布図である.Fig. 1-21(a)より,結晶底部・側面部において,少 数キャリアライフタイムの寿命が短く,結晶上部にいくにしたがって少数キャリアライ フタイムの寿命が短い領域が減少していくことがわかる.このライフタイムマッピング の形状と,Fig. 1-21(b)に示す数値計算で求めた鉄の濃度分布図の形状は一致しており,
少数キャリアライフタイムの低下の原因は,鉄の拡散の影響が大きいということが考え
られる.1. 3. 3項で既述した通り,鉄は石英坩堝に塗布した離型剤がシリコン融液内に
溶解したり,石英中に存在する鉄が融液内に溶解することによって混入する.また,鉄 は凝固完了後の冷却過程においても拡散する.このため,鉄濃度分布は,結晶凝固中,
凝固終了後の冷却過程および拡散時間に依存すると考えられる.しかし,低濃度の鉄は 水素パッシベーション 60)やゲッタリング 58)によって改善するということが報告されて いる.このため,本研究室では主に軽元素不純物に着目し,研究を行っている.
序論
14
Fig. 1-11 Concentration of stacking faults and dislocation loops vs. oxygen contents in silicon41).
Fig. 1-12 Weak-beam TEM image of amorphous SiO2 precipitates at dislocation in multicrystalline silicon ingot18).
序論
15
Fig. 1-13 The carrier lifetime of mc-silicon as a function of the FTIR peak height of the 1224 cm-1 band42).
Fig. 1-14 β-SiC particle, sticking out on top β- Si3N4 particle38).
序論
16
Fig. 1-15 A top-view sketch showing the wire-sawing process of two multicrystalline silicon wafers with SiC and Si3N4 inclusions. The Si3N4 inclusions were readily sawed across while present in the sawing path. Three cases are shown: (a) the SiC cluster was not present in the sawing path, no wire-sawing defects were generated;
(b) a small portion of the SiC cluster was present in the sawing path, a sawing ditch and a sawing ridge were formed on wafer 1 and wafer 2, respectively; (c) a SiC cluster with a large dimension was present in the sawing path, the sawing wire was not able to climb over it, and the wire could be broken51).
序論
17
(a) (b)
Fig. 1-16 (a) β-SiC growth onβ- Si3N4 particle. (b) Clusters of β-SiC and β- Si3N4
particles38).
Fig. 1-17 Minority-carrier diffusion length vs grain size for the polycrystalline silicon crystal54).
序論
18
Fig. 1-18 a) IR-transmission-mapping of a longitudinal cut through the middle of the multicrystalline silicon ingot. Detected IR-contrast in the upper middle of the cut (above the yellow line). With FTIR detected and calculated N concentration: b) along a horizontal line (blue circle) perpendicular to the growth direction at a height of 5 mm c) along a horizontal line (red square) perpendicular to the growth direction at a height of 20 mm d) along a vertical line (green dashed) in the center of the sample55).
Fig. 1-19 Distribution of nitrogenconcentration in a silicon crystal and melt.Unit of concentration is 1015 atoms/cm3 56).
序論
19
Fig. 1-20 Impact of iron, copper, and nickel on minority carrier diffusion length in single-crystalline silicon. The shaded area represents a typical range of minority carrier diffusion lengths in multicrystalline silicon solar cells57).
(a) (b)
Fig. 1-21 (a) Distribution of lifetime in a crystal. (b) Distribution of iron concentration in a crystal after the solidification process59).
序論
20 1. 4 研究目的
太陽電池の急激な需要拡大に伴い,より変換効率が高く,より低コストの太陽電池が 求められている.このため,シリコン結晶系太陽電池の中でも生産性の高い多結晶シリ コンが太陽電池材料の主流となっている.しかし,結晶内に存在する不純物や格子欠陥 を低減させることが重要な課題であり,これらの混入・生成プロセスを理解し,制御す ることが必要不可欠である.
本研究では,多結晶シリコン太陽電池の製造過程における転位と残留応力の挙動,お よび軽元素不純物の中でも代表的な不純物である酸素の挙動を解明するために数値解 析を行い,転位密度と残留応力,および結晶中酸素濃度を低減させるための指標を提示 することを目的としている.
序論
21
1. 5 論文の構成
以下に各章における概要を示す.また,Fig. 1-22に本論文の構成を示す.
第一章 序論
本章では,研究の背景を述べる.また,多結晶シリコン太陽電池の変換効率低下の要 因,特に転位と不純物と変換効率との関係について説明し,本論文の構成を述べる.
第二章 計算方法
本章では,本研究で用いた熱流動解析,および融液・結晶内不純物である酸素濃度の 計算手法や境界条件,物性値などを述べる.
第三章 酸素濃度分布に対する加熱方法の影響
本章では,ヒーター位置,およびヒーターパワーが結晶中の酸素濃度に及ぼす影響に 着目し,数値計算による解析を行い,融液対流と融液表面からの酸素の蒸発流束,坩堝 壁面からの酸素の溶出流束との関係を確認する.
第四章 酸素濃度分布に対する坩堝回転の影響
本章では,結晶中の酸素濃度に与える坩堝回転の効果について,数値計算による解析 を行い,坩堝回転と結晶中の酸素濃度との関係を確認する.
第五章 転位密度解析
本章では,線欠陥の一種である転位と熱応力との関係について説明し,転位密度解析 の手法や境界条件などを述べる.
第六章 転位密度・残留応力に関する考察
本章では,転位密度,および残留応力に対する結晶からの熱流出量の影響について数 値解析を用いて検討し,転位の発生原因を明らかにする.
第七章 総括
本章では,本論文で得られた結果を総括する.
序論
22 第1章 序 論
第3章
酸素濃度分布に対する 加熱方法の影響
第4章
酸素濃度分布に対する 坩堝回転の影響
第6章
転位密度・残留応力に関する考察
第7章 総 括
第5章 転位密度解析 第2章
計算方法
Fig. 1-22 Constitution of the thesis.
序論
23 第1章 参考文献
1) Kyoto Protocol to the United Nations Framework Convention on Climate Change.
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty_020413.html
2) IEA WORK FOR THE G8 2008 MESSAGES REPORT TO THE G8 SUMMIT.
http://www.mofa.go.jp/policy/economy/summit/2008/doc/pdf/0708_06_en.pdf 3) NEDO, PV2030. http://www.nedo.go.jp/library/pv2030_index.html
4) NPD Solarbuzz Marketbuzz 2013.
5) 山田興一, 小宮山 宏, 太陽光発電光学 太陽電池の基礎からシステム評価まで,
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7) 小長井 誠, 薄膜太陽電池の基礎と応用-環境にやさしい太陽光発電の新しい展開-,
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8) 独立行政法人産業技術総合研究所 太陽光発電研究所センター 調べ.
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12) B. Gao, S. Nakano, H. Harada, Y. Miyamura, T. Sekiguchi, K. Kakimoto, Crystal Growth
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14) 田中 誠, NIKKEI MICRODEVICES, 5 (2008) 81.
15) 濱川圭弘, 桑野幸徳, 太陽エネルギー工学 太陽電池, 培風館, (1994).
16) K. Arafune, T. Sasaki, F. Wakabayashi, Y. Terada, Y. Ohshita, M. Yamaguchi, Physica B, 376 (2006) 236.
17) T. F. Ciszek and T. H. Wang: ECS Fall Conference, Phoenix, (2000) 22.
18) H. J. Möller, C. Funke, A. Lawerenz, S. Riedel, M. Werner, Solar Energy Materials & Solar Cells 72 (2002) 403.
序論
24
19) X. J. Chen, S. Nakano and K, Kakimoto, Proceedings of The 5th International Symposium on Advanced Science and Technology of Silicon Materials (2008) 120.
20) X. J. Chen, S. Nakano, L. J. Liu, K. Kakimoto, J. Crystal Growth. 310 (2008) 4330.
21) M. M’Hamdi, E. Meese, E. Øvrelid and H. Laux, Proceedings 20th European PVSEC (2005) 1236.
22) 加藤雅治 著, 入門 転位論, 裳華房, (1999).
23) M. Inoue, S. Nakano, H. Harada, Y. Miyamura, B. Gao,Y. Kangawa,and K. Kakimoto, International Journal of Photoenergy, 2013 (2013), Article ID 706923.
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25) D. Franke, T. Rettelbach, C. Häßler, W. Koch and A. Müller, Solar Energy Materials &
Solar Cells, 72(2002), 83.
26) V. Erofeev, V. I. Nikitenko and V. B. Osvenskii, Phys. stat. sol. 35 (1969) 79.
27) L. J. Liu, S. Nakano and K. Kakimoto, J. Cryst. Growth, 282 (2005) 49.
28) K. Kakimoto, L. J. Liu and S. Nakano, Mater. Sci. Eng., B134 (2006) 269.
29) L. J. Liu, S. Nakano and K. Kakimoto, J. Cryst. Growth, 292 (2006) 515.
30) X. J. Chen, S. Nakano and K. Kakimoto, J. Crystal Growth, 312(2010), 3261.
31) S. Nakano, X. J. Chen, B. Gao and K. Kakimoto, J. Crystal Growth, 318(2011), 280.
32) B. Gao, S. Nakano, H. Harada, Y. Miyamura, T. Sekiguchi and K.Kakimoto, Crystal Growth & Design, 12 (2012), 6144.
33) B. Gao, S. Nakano, H. Harada, Y. Miyamura and K.Kakimoto, Crystal Growth & Design, 13 (2013), 2661.
34) M. Inoue, S. Nakano, H. Harada, Y. Miyamura, B. Gao,Y. Kangawa,and K. Kakimoto, International Journal of Photoenergy, 2013 (2013), Article ID 706923.
35) Hitoshi Matsuo, R. Bairava Ganesh, Satoshi Nakano, Lijun Liu, Yoshihiro Kangawa, Koji Arafune,Yoshio Ohshita, MasafumiYamaguchi and Koichi Kakimoto, J. Crystal Growth, 310(2008), 4666.
36) David E. Bornside and Robert A. Brown, J. Electrochem. Soc., 142 (1995) 2790.
37) B. Gao, S. Nakano and K. Kakimoto, ECS Transactions, 27(1), 1015-1020, 2010.
38) A. K. Soiland, E. J. Øvrelid, T. A. Engh, O. Lohne, J. K. Tuset and Ø. Gjerstad, Mater. Sci.
序論
25 Semicond. Proc. 7 (2004) 39.
39) K. Kakimoto, L. J. Liu and S. Nakano, Mat. Sci. Eng., B, 134 (2006) 269.
40) D. Sarti and R. Einhaus, Sol. Energy Mater. Sol. Cells, 72 (2002) 27.
41) V. V. Bolotov, M. D. Efremov, I. Babanskaya, K. Schmalz, Mater. Sci. Eng., B21 (1993) 49.
42) H. J. Möller, L. Long, M. Werner and D. Yang, Phys. Stat. Sol., a 171 (1999) 175.
43) W. Bergholz, Semiconduct. Semimet. 42 (1994) 513.
44) A. Borghesi, B. Pivac, A. Sassella, A. Stella, J. Appl. Phys. 77(9) (1995) 4169.
45) K. Hoshikawa and X. Huang, Mater. Sci. Eng., B72 (2000) 73.
46) S. Togawa, X. Huang, K. Izunome, K. Terashima and S. Kimura, J. Crystal Growth, 148 (1995) 70.
47) L. J. Liu, S. Nakano and K. Kakimoto, J. Crystal Growth, 299 (2007) 48.
48) L. J. Liu, S. Nakano and K. Kakimoto, J. Crystal Growth, 310 (2008) 2192.
49) J. Bauer, O. Breitenstein and J. P. Rakotoniaina, Proceedings 21st EUPVSEC (2006) 1115.
50) O. Breitenstein, J. P. Rakotoniaina, M. H. Al Rifai and M. Werner, Prog. Photovolt Res.
Appl. 12 (2004) 529.
51) G. Du, N. Chen and P Rossetto, Sol. Energy Mater. Sol. Cells, 92 (2008) 1059.
52) Y. Yatsurugi, N. Akiyama, Y. Endo and T. Nozaki, J. Electrochem. Soc., 120 (1973) 975.
53) H. Matsuo, S. Hisamatsu, Y. Kangawa, and K. Kakimoto, J. Electrochem. Soc.156(2009) H711.
54) M.Imaizumi, T. Io, M. Yamaguchi and K. Kaneko, J. Appl. Phys. 81(1997) 7635.
55) C. Reimann, T. Jung, J. Friedrich and G. Muller, Proc. 33rd IEEE PVSC (2008).
56) S. Hisamatsu, H. Matsuo, S. Nakano, K. Kakimoto, J. Crystal Growth, 311 (2009) 2615.
57) A. Istratov, T. Buonassisi, M. Pickett, M. Heuer, E. R. Weber, Mat. Sci. Eng., B, 134 (2006)282.
58) K. Arafune, Y. Ohshita and M. Yamaguchi, Proceedings of THE FORUM ON THE SCIENCE AND TECHNOLOGY OF SILICON MATERIALS 2007, (2007) 346.
59) Lijun Liu, Satoshi Nakano, Koichi Kakimoto, J. Crystal Growth, 292 (2006) 515.
60) J. Chen, D. Yang, Z. Xi and T. Sekiguchi, Physica B 364 (2005) 162.
計算方法
26
第
2
章 計算方法2. 1 はじめに
Fig. 2-1は,本研究の数値計算に用いた一方向性凝固炉の炉内構成図である.一方向 性凝固法は坩堝にシリコン原料を充填し,坩堝の周囲からヒーターによって加熱するこ とで原料を融解し,その後ヒーターパワーの調節や坩堝の移動機構などを用いて融液を 冷却することによって結晶を育成する方法である.炉内を構成する各要素間の熱輸送は,
熱伝導,熱輻射,融液対流による熱伝達が主な役割を担っている.そこで,本研究では すべての炉内各構造物の熱伝導,熱輻射および融液対流を考慮した,2次元非定常総合 伝熱解析を行った.
Fig. 2-1 Configuration of the unidirectional solidification furnace.
計算方法
27
また,凝固の全過程,および凝固終了後の全冷却過程において非定常計算を行い,融 液・結晶内の不純物濃度分布の変化,および結晶内の転位密度・残留応力の変化を予測 した.計算に用いた主な仮定は以下の通りである.
1 非定常計算
2 炉の形状は2次元軸対称 3 坩堝内の融液は非圧縮,層流 4 炉内の輻射面は灰色面 5 炉内のガス流れは非考慮
2次元非定常総合伝熱解析のフローチャートをFig. 2-2 に示す.まずヒーター電力の減 少率や坩堝回転数などの計算条件を決定する.計算開始後,計算格子が読み込まれ,熱 輻射計算に必要な形態係数を算出する.次に炉内温度分布や融液対流の速度分布などの 初期条件を読み込む.初期条件の読み込み後,融液および結晶内部の熱流動計算が行わ れ,融液の速度場,温度場,結晶の温度場の残差が収束条件を満足した段階で,その他 の炉内各構造物の伝熱計算を行う.その後,炉内各構造物間の熱伝導面と炉内各構造物 表面の熱輻射面において,それぞれ熱伝導計算と熱輻射計算を行う.この繰り返し計算 を実行し,固液界面形状も繰り返し計算にて更新する.固液界面形状が収束した後,現
在のtime stepにおける計算結果が出力され,次のtime stepに進む.以上の計算を凝固過
程開始から冷却過程が終了するまで繰り返し実行する.
計算方法
28
Fig. 2-2 Flow chart of global simulation.
Yes
No
Yes
No
(time step = 1)
融液内部の流体-熱輸送計算
結晶内部の熱輸送計算
その他の構成要素内の熱輸送計算
構成要素間の熱輻射,伝熱計算
固液界面形状 収束 初期条件の設定 計算格子読み込み
形態係数計算
ヒーターパワーを減少
冷却過程終了 現time stepのデータを出力
time stepを更新(+1), START
END
融液-結晶の計算格子更新
t 15sec
∆ =
計算方法
29
2. 2 基礎方程式
2. 2. 1 熱輻射の支配方程式 熱輻射方程式
輻射による熱伝達は,炉内の熱伝達の主なものである.炉内の輻射に関する各構造物 間の熱伝達のモデル化が,総合伝熱解析で最も重要な要素の1つである.構成要素間で
は,Fig. 2-3に示すように,x,x*のような点からの熱輻射を全要素x∈∂Vで積分する.
今回,輻射面は灰色面とし,Dupret らの手法1)を適用した.
Fig. 2-3 Radiation between radiative surface.
Fig. 2-4 Heat model at the surface.
q
eq
i放射
入射 反射 吸収
q
aq
r黒体からの放射
q
b計算方法
30
Fig. 2-4に要素表面における熱の出入りをモデル化した図を示す.qa,qb,qe,qi,qr
は,それぞれ吸収される熱放射エネルギー,黒体から放射される熱放射エネルギー,実 際の物体表面からの熱放射エネルギー,照射された熱放射エネルギー,反射された熱放 射エネルギーとする.入射する全ての熱放射線を吸収する物体を黒体と呼ぶ.黒体から の熱放射は,以下のように表される.
(
21)
5 1
λ,b λ,b C λT
E πi C .
λ e
= =
− (2.1)
ここで,
( )
4[ ]
2 8 2 4
1 2 3 742 10 2 hc 1 439 10
C πhc . W µm m ,C . µm K .
k
= = × = = × ⋅
黒体から放射される熱放射エネルギーqb(T(x))は,次のように表される2).
( ( ) )
4b 0 λ,b
q T x E dλ σT .
=
∫
∞ = (2.2)ただし,
4
8 2 4
1 4 2
5 667 10 15
C
σ π . W m K .
C
−
= = ×
実際の物体表面からの熱放射エネルギーqe(T(x))は,黒体からの熱放射エネルギー
qb(T(x))よりも小さくなる.よってε
( )
x を放射率とすると,以下の式が得られる.( ) ( ) ( ( ) )
e b
q x =ε x q T x . (2.3)
次に,物体表面における外部からの熱放射エネルギーを考える.qi(x)を物体表面の単 位面積,単位時間当たりに照射された熱放射エネルギーフラックスとすると,物体表面 において,吸収される熱放射エネルギーフラックス(qa(x))と,反射される熱放射エネ ルギーフラックス(qr(x))が存在する.ここで,同一の温度では単色射出率と単色吸収 率が等しいというキルヒホフの法則を用いると,以下の式が得られる.
( ) ( ) ( )
a i
q x =ε x q x , (2.4)
( ) (
1( ) ) ( )
r i
q x = −ε x q x . (2.5)
物体表面から放射される熱放射エネルギーをqo(x)とすると,以下の式が得られる.
計算方法
31
( ) ( ) ( ) ( )
4( ) (
1( ) ) ( )
o e r i
q x =q x +q x =ε x σT x + −ε x q x . (2.6)
qi(x)は,閉空間内の他の場所からのqo(x)の合計である.よって,Fig. 2-5のようにdSと
dS*をそれぞれxとx*における微小面積とすると,
( ) ( )
*( )
*i o
dq x =K x,x q x dS . (2.7)
dS*面から出てdS面に入射するエネルギーをdQとすると,
(
*)
*
*
x x n
dQ IdS dω.
x x
− ⋅
= − − (2.8)
ここで,I は放射強度で,dωは立体角であり以下のように表せる.
( )
2
*
* *
x x n
dω dS .
x x x x
− ⋅
= − − (2.9)
これより,
( ) ( )
( ) ( )
2* *
* *
x x n x x n
dQ E ,
π x x x x
− ⋅ − ⋅
= − − ⋅ −
(2.10)
となる.ここでEは射出能である.これより形態係数K(x, x*)は,
Fig. 2-5. Surface view factors between infinitesimal areas.
x x
*n O
n
*dS
dS
*計算方法
32
( )
* *K x, x dQ ,
dSdS E
= (2.11)
と定義され,以下のように表すことができる.
( ) ( ) ( )
( ) ( )
2* *
*
* *
x x n x x n
K x, x .
π x x x x n
− ⋅ − ⋅
= −
− ⋅ − ⋅
(2.12)
dSとdS′の間に障害物がある場合,形態係数K(x, x*)は0になる.
式(2.7)を積分すると,
( ) *
( )
( )* *
i o
x V
q x K x, x q x dS .
=
∫
∈∂ (2.13)q(x)を正味の熱放射エネルギーとし,エネルギーが入射してくる向きを正にとると,次 のように表される.
( )
0( )
i( )
q x =q x −q x . (2.14)
式(2.6)~式(2.14)より,qi(x)とqo(x)を計算すると以下のようになる.
( ) 4( ) ( )1 ( )
qi x σT x q x ,
= −ε x (2.15)
( ) ( ) ( )
( ) ( )
4 1
o
q x σT x ε x q x .
ε x
= − − (2.16)
これらの式を,式(2.13)に代入すると,表面温度T(x)と正味の熱放射エネルギーq(x)の関 係式を次のように示すことができる.
( )
( )
*( ) ( )
1( ) ( )
4( )
*( ) ( )
4*
* * * * * *
x V * x V
q x ε x
K x,x q x dS σT x K x,x σT x dS .
ε x ∈∂ ε x ∈∂
−
∫
− = −∫
(2.17)形態係数計算
熱輻射の計算において,式(2.17)に示す形態係数K(x, x*)は,一般に3次元立体形状に適 用されるものであるが,多くの計算時間を要することが考えられる.しかし,軸対称形 状炉の2次元解析を行う場合は,3次元形状を2次元形状に射影して形態係数の計算を行
うDupretらの手法1)を用いることにより,計算時間を大幅に短縮することが可能となる.