九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
凍結含浸法を用いた介護食品の開発に関する研究
中曽, 沙弥香
https://doi.org/10.15017/1441309
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(農学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
氏 名 :中曽 沙弥香
論文題目 :凍結含浸法を用いた介護食品の開発に関する研究
区 分 :甲
論 文 内 容 の 要 旨
広島県立食品工業技術センターで発明された「凍結含浸法」は、様々な食品素材に対して高い含 浸効率を示す物質導入法である。本法を用いて食品素材に軟化酵素を含浸すると、その形状を維持 したまま素材全体を軟化できることから、新しい介護食品の製造技術としての発展を期待されてき た。本研究では、「凍結含浸法」を介護食品の製造技術として高度化させることを目的として、製造 技術に関する基盤的研究と軟化素材の品質特性の解明に関する研究に取り組んだ。
先ず、製造技術に関する基盤的研究を行った。含浸に用いる酵素溶液に含まれる調味料の種類に よって、酵素反応後の植物素材の硬さが著しく異なることが問題となっていた。様々な塩類との組 み合わせで酵素反応による軟化現象を解析した結果、クエン酸との併用によって軟化が促進される ことを明らかにした。この作用機序として、酵素によってペクチン質が加水分解されることで、ペ クチン鎖を架橋するカルシウムとクエン酸のキレート形成が容易になることが示唆された。このこ とは、細胞間結着物質であるペクチン質の低分子化と可溶化を促し、結果的に軟化現象を促進する と考えられた。よって酵素とクエン酸の併用による軟化促進効果は、ペクチン含有量の多い素材で 顕著に認められた。本研究成果は、凍結含浸専用調味料「とろん」の商品開発に活用された。さら に真空包装機の利用に着目した実用的な製造技術の確立においては、素材の解凍から酵素失活に至 るまでの全工程を軟質フィルムパウチ内で完結させる凍結含浸法を確立した。また、含水率の高い 軟化素材は離水し易いことから、歩留まり向上および摂食時の誤嚥防止を目的として、酵素と供に 増粘剤を含浸する方法を検討した。酵素溶液の粘稠性が高くなると含浸効率が低下したため、未糊 化状態のデンプンを酵素溶液に分散させることで溶液粘度の上昇を抑制した。未糊化デンプン懸濁 酵素溶液を用いてタケノコに凍結含浸処理した結果、素材内部にデンプン粒子を導入することがで きた。導入されたデンプン粒子は失活時の加熱によって糊化し、素材に含まれる水分が保持されて 離水を抑制できた。この方法は硬さ制御には影響を及ぼさなかった。本法による離水抑制は、素材 への粘稠性付与にもなることから、食塊形成の改善や嚥下流速の抑制にも役立つと思われる。
次いで、凍結含浸法により作製された食品素材の力学特性や栄養成分などの品質特性について検 討した。本法により何段階かの硬さに制御したレンコンは、食物繊維量に違いが認められなかった ことから、酵素反応による植物組織構造を形成する高分子物質の分解は、食物繊維量を減少させる には至らないことが明らかとなった。また、パンクレアチン溶液を用いて人工消化試験を行ったと ころ、酵素含浸した軟化レンコンは、対照の凍結-解凍レンコンに比べて消化処理後の残渣物重量を 最大限減少させるまでに必要な消化時間が約1/3であり、その重量は約2/3であった。さらにラット への胃内投与試験を行い、投与1時間後の胃内容物の粒子径を測定したところ、軟化レンコンは対照 の約1/3であった。凍結含浸法による植物素材の軟化は、口腔内で潰れ易いだけでなく、消化過程に おいても分解可能な素材組織の部位を増加させ、その消化性の向上に寄与することが示唆された。
力学特性の研究では、5種類(タケノコ、ゴボウ、レンコン、マダラ、シイタケ)の軟化素材を用い て、機器測定と人が摂食したときの筋電位測定の結果を併せて解析した。これまで、凍結含浸法に よる軟化素材の作製条件は、日本介護食品協議会のカテゴリーⅡの硬さ基準である5.0×104 N/m2以
下を満たすように設定しており、今回の5素材も全てこの基準を満たす硬さの値であった。2バイト テクスチャー試験の結果、荷重-歪曲線はそれぞれに異なり、付着性や凝集性の値にも有意な差が認 められた。また、機器測定では評価できない繊維感については、目開き1 mmのナイロンメッシュの 上に試料を置き、水で洗い流した後の残渣物により評価した。タケノコ以外の素材では残渣物が認 められ、乾燥残渣物重量が少ない素材は、食塊形成や嚥下に要する処理時間が短いことが示唆され た。乾燥残渣物重量は、筋電位の2つの変数(口腔処理時間、口筋の全活動時間)との間に正の相関 が認められたことから、凍結含浸法による軟化素材の物性を知るための新たなパラメータになると 考えられた。本研究から、凍結含浸法による軟化素材はいずれも軟らかいが、その食べ易さは一様 ではないことを、物性値によって説明することができた。食べ易さについて、潰し易さ、食塊形成 のし易さ、嚥下のし易さといった観点から詳細に解析することは、物性改善や品質管理に不可欠で あると考える。